#6
「おれ以外の召喚戦士たちは、ワードワームという昆虫を口から入れられている。サイズはこれくらい……」
明が指で囲った昆虫の本体はカブトムシ程の大きさで、 八本の長い足を持っているという。
「うえっ」
楓の顔も歪む。
「人間の顔の内部ってどんな構造になってるか知っているか?」
明は自分の鼻を指差した。
「のどの上の方、鼻腔の奥は空洞になっていて、軟骨と肉がひだのように重なっている。よく顔の中心の怪我は気をつけろと言うだろう」
「おばあちゃんがそんなこと言ってた気がするわ」
「武術の鍛錬でも正中線と言って急所とされている。だから鼻や眉間に腫れ物ができたときは、放ってくと危険なんだ。この部位の神経は頭にまでつながっているから、化膿が脳に回れば命を落とすことや障害を残すこともあるくらいだ。もちろん、こっちの世界にはレントゲン写真なんて無いから、おれも日本に行ってからこのことが納得のいくように理解できた」
「で、そのワードワームって虫は身体にどう働きかけるの? 知りたくない気もするけど」
明は指を口に入れた。
「ワームワードは寄生虫だ。喉から鼻腔に入り込んで住処にする。寄生虫だから宿主から栄養を摂取するとともに追い出されないよう宿主と一体化する。細い針のような管は人間の脳の下部、脳幹まで届いて宿主の自我の抵抗を支配する……らしい」
明は医師ではないから断定を避けた。
「この抵抗を奪うという作用が洗脳につながるのではないかと思う。そして副作用として、言語能力を司る大脳皮質が刺激を受けて、異なる種族の言語を解するに至るのではないだろうか」
「回り巡って」とは直接、大脳まで針が届いていたら、脳を串刺しにすることになり、宿主は生命活動を維持できないだろうから。
「召喚戦士らは自我を保ちながらも、大延国に忠誠を誓っているんだ」
「そんなことを無理強いされてよく従えるわ」
楓は、リリーナに召喚された自分が心底幸運だったと思えた。
「状況を理解していなければ、なんとなく身体検査でもしようとしているように見える官吏のいいようにされていただろう」
ところが、明は元からこの世界の言葉を理解していた。高をくくっていた大延国人に反撃したというわけだ。
「『ファッキン・ジャップ』ぐらいわかるよ、この野郎!」と洗脳官と衛兵を倒し、敵の武器を奪って脱走した。
(いや、それは言ってないんじゃないかな?)
楓は心の中でツッコミを入れるのだった。




