#5
だから、楓と明が特別親しい男女の関係だなどということはリリーナの想像の範疇外だった。
「そういう事実はありません。わたしの親友が彼の妹なのです。歳が離れていなかったので同じ学び舎に通っています」
「本当かなー、怪しいなー」
明の仲間たちは、にやにやと楓の弁明を見守っている。
「みなさんこそ、どうして明と行動を共にするようになったのですか」
「シーブル国に危機を伝えたのと同じようにわたしたちの住む集落に警告をしにきてくれたのです」
ムチを操る女戦士は、ローズウィップと名乗った。
「おれたちはそれぞれ異なる村の出身だが、傭兵や冒険者の仕事をギルドから請け負っているんだが、リーダーがまったく無償で大延国の斥候や前線部隊から街を救うのを見て、どうせなら商売にした方がいいって勧めたんだよ」
今回の争乱の発端は大延国であることは既にシーブル王以下の執政たちに報告されたいた。
「みんなにはおれが大延国のサモンマスター(召喚術師)に現世からこちらの世界へ呼ばれたことを伝えてあります。召喚された人間は特異能力を持ち、忠誠心の厚い戦士として大延国に仕え命令に従っているのです」
大延国に召喚された戦士は高級将校として、他国への干渉の指揮を執っている。
「事情も分からぬ異世界人をどうやって服従させているの」
楓は言いながらも、いろいろ想像もできた。自分は人のいいサモンマスターに召喚されたものの、力ずくで他者を支配するような国であれば、右も左もわからぬ人間に逆らう方法はないだろう。逃げようとしてもどこへ逃げればいいのか。
「洗脳に近い方法があるんだ。異なる世界の言語を習得させるついでにね」
明の説明が終わらぬ間に、「ああ……」とため息をがもれる。何人かは思い当たるものがあるようだ。
「おれはそれに気づいてこのままだと同じように傀儡にされると察して、見張りの隙をついて逃げ出したんだ」
「洗脳ってどうするの?」
「楓、どうやってこちらの言葉を覚えた?」
「わたしは、不思議な本から妖精さんが飛び出してきて、こうふわーっと」
手を広げる素振りで、「言の葉の書」の効能を説明する楓だった。
「運が良かったな。人道的なサモンマスターで」
「他の人たちはどうしてるの?」
「エイリアンって映画覚えてる?」
明と楓にしか通じない比喩だ。
「こう、フェイスハガーみたいにがばっと……」
両手の指で顔を覆う仕草を見せた。
「oh……」
その光景を知っているのか傭兵たちは肩をすくめる。




