#4
「姫、どうぞお座りください」
周囲の仲間たちが、テーブルと椅子を元の場所に戻して席を勧めてきた。
「お邪魔ではないかしら」
「いえいえ、こんなむさ苦しいところへようこそいらっしゃいました」
「リーダー、服を着たら?」
「これは失礼」
女性メンバーに言われて、男たちが部屋の隅で汗を拭く。服を着た姿に戻ってきて姫を囲うように全員が着席する。
「このチームはみなさんとても、仲が良さそうですね」
楓には、明がここでは元いた世界より、いきいきしているように見えた。仲間たちとも和気あいあいとした雰囲気に包まれている。
「便宜上リーダーとは呼ばれているけど、みんな対等な関係なので」
明の言葉に異論があった。
「うふふふ。謙遜してるけれど、みんなリーダーを信じてついてきているから」
髪の長い少女、ムチのようなヒモ状の武器を腰に巻いていた。女性が二人。帽子をかぶった女性がもう一人。楓が気になったのは、どちらも楓やリリーナのような人間に比べて耳が長い。
「明、この人たちとどうやって知り合ったの? それにあなたがいなくなってから一ヶ月、今までどうやって暮らしていたのよ」
辺境伯爵の屋敷で救われて以来、一通り騎士団や明の仲間にも挨拶はしていた。だが、まだ楓には明以外の面々には他人行儀にならざるを得ない。
リリーナ姫は、彼らの雇用主的な立場であり、初対面の者にかしずかれることにも慣れているようだ。
「話すと長くなる」
「あなたのこと、お聞きしたいわ」
リリーナがテーブルの上に組んだ手に、小さな顔をのせて微笑む。
「昨晩の宿では聞く時間が無かったけど、わたしも一応あなたの友人として心配していたのよ」
「すまない。君までこっちへ来てしまうなんてな」
「明どの、それはわたしの行った召喚術の結果で」
気をつかったつもりが、またもあらぬ方向に話が向いてしまった。
「あ、いえ、そのようなつもりでは」
「エイプリルさんってさ」
場を和ませるつもりか、女戦士が話を振ってきた。
「はい」
「明リーダーと親しかったの?」
「ええ、まあ。彼の妹を介して知らぬ仲ではないです」
「もしかして、リーダーの恋人さんだとか」
彼女はいかにも面白そうに、探るような意地の悪いまなざしで問うた。
「「「なっ!?」」」
楓と明、リリーナが同時に感嘆の声を上げた。
「そうなのですか! エイプリル?」
リリーナの言葉には動揺の響きがあった。
「申し訳ありません。そのような可能性はまったく考えておりませんでした」
召喚戦士二名がたまたま知り合いだったことを、リリーナは奇縁だと考えていた。




