#2
「あら、にぎやかな声が聞こえますわ」
「そうですね。宴会でもしているんでしょうか」
秋年明の一行は、頭数で十人ほど。お固い任務から一時はなれて、慰労会を行っていても不思議ではない。
「せっかくくつろいでいるのに、わたしたちが顔を出したらお邪魔でしょうか?」
残念そうなリリーナの声。
「明は喜びそうな気がしますが、お伴の方たちが気を遣うかもしれません……うーん、でもあいさつぐらいならいいんじゃないでしょうか」
とにかく一言、声をかけよう。そしてすぐに引き上げればいい。
「あー、盛り上がってるところ、すいません……!?」
そっと壁から顔をのぞかせる楓。トーテムポールのようにその下からリリーナもひょっこりと顔を出す。
「ウー、アチャー、アッ、アタッ!!」
とどろく怪鳥音。ラウンジのテーブルは隅に移動され、広々とした空間は宴席などではなく、戦士たちの訓練道場となっていた。
「変わったかけ声ですね」
姫の知る騎士たちの訓練風景とも異なるようだ。
男たちは、全員上半身裸でいる。女性はさすがに肌を露にしていないが、上着を脱いだ動きやすい格好でいる。
(なんなの、これ? ファイトクラブか)
明が仲間の一人と組み手らしきことをしているのを、周囲で仲間たちが見守り、囃し立てている。
「アター! ホワタッタタッタァー!!」
(北斗の拳?)
手首をカマキリのように、五指を離さず指先を地面に向ける。背筋はやや後方へ反り、首筋は伸ばす。そして、眉毛を寄せ、口元は渋く。
(知ってる、これ「ドラゴンへの道」だー!)
明のかけ声は微妙に変化していく。
「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
(あれ、そういえば明って、某女性声優のファンだって言ってたな)
組み手の相手は、チームの中でも一番大きな男。丸太のような腕を大きく振るう。隙ができてもリーチの長さが圧倒的だ。
「アチャー、オチャー」
武闘家の男の両の拳を、手首から肘までの腕の外側である前腕で流すようにかわしていく。あの豪腕では、まともにガードしても明の腕が折れそうな勢いだ。
「ウーロンチャー!」
三度目の正拳突きをよけると、左前腕と右手首でそれぞれ対手の右腕を固定するとともに、その脇の下をくぐり男の背後に回る。そして、その腕を極めたまま、腰を落とす。
(背面からの背負い投げ? 相手が死ぬでしょ!!)
「うわっ、バカッ、明、やめ」
敵ならともかく相手は味方のはずだ。リリーナは正視できず顔を手で覆っている。




