#3
「明卿」
(キ、キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ !!!!!)
「リリーナ・フォーミュラ殿下、とてもキレイだ」
もじもじと身体をくねらせながら、カーテンの陰に隠れようとする姫に明は近づいた。
手を引くと、まるで体重のない精霊の手を引いているように身が軽い。
カーテンから離れて、月明かりが差し込む窓辺にそのシルエットを照らす。絹のネグリジェに包まれた白い肌が宝石のように神々しい輝きを放っている。
「姫、手を下ろして」
明に命じられるまま、ふるふると下着に隠されていない胸元から手をどける。
お椀ほどもない、砂丘のようななだらかなふくらみだったが、初体験の明には、むしろ似つかわしいだろう。なんとか不安のないように姫をリードしてさしあげたい。
明の目線の方が高いので、こうして向き合っていると捕虜を検分しているような気まずさがただよってしまう。
「リリーナ、こちらへ」
ほっそりとした肩を抱いてベッドに導くと彼女は、するりとシーツの中に身を隠した。
「明かりを、もそっと暗く……」
明はカーテンを閉めた。電灯もないから、部屋は月明かりが数条差し込むだけで青暗の闇に包まれた。
明は目がいい方なので、すぐに闇のなかでも視野がもどる。
「姫、隣へ入りますよ」
「……参れ」
明は吹き出しそうになる。王女からすれば、男女の和合も武人にとっての初戦のようなものなのかもしれない。
(おっと)
声が漏れないように唇を閉じ、彼女の隣に侵入する。
「不思議な……気持ちです」
彼女の言いたいことはなんとなくわかる。
「いままで人目を忍んでお逢いしていましたが、とうとう一線を越えることになりましたね」
異界の迷い人だった明の水先案内役を引き受けてくれたリリーナ。貴族でもない、どこの馬の骨ともわからぬ明と親しく接してくれた。
「あなたとは良き友人になりたいと思っていました。なのに、逢うたびにそれ以上の感情がわたしのなかで育っていくのです」
「おれは友だちでありつづけたいと思ったことは一度もありません」
「え?」
悲しそうな顔で姫が振り返る。
「ずっと友だちなんて嫌です。姫が時おり陣中見舞いに来てくれたときも常にわたしは、どうやったらあなたの心を自分のものにできるか考えていました」
明は姫の身体に体重をかけぬよう手とひざをついて、彼女にまたがった。シーツは上等なものなので、つるっとした感触で明の背中を滑り落ちていく。
「夜着を脱がさせていただきます」
ビリッ。(あっ、いっけね)彼女のネグリジェを破いてしまった。
(ええい、かまうもんか)明は自分の肌着を脱ぎ捨てベッドの外に放る。
こうして一糸まとわぬ男女の裸身だけが闇のなかに現れた。
姫は唇を噛んで恥ずかしさに耐えているようだ。右の腕で胸元を隠しているが、左手は観念したように投げ出されている。
その手が明の頬に触れ、それから首筋を這い胸元に触れる。
「意外と柔らかな肌なのね。もっとささくれた感触かと思っていました」
現代人の生活に慣れた俺の肌は、この地方の人間ほど荒れていない。それでも辺境での戦を繰り返して陽光と乾燥に焼かれたが。
「そばで肌を見るのは二度目」
城内で明が半裸で稽古しているところへ、姫がやって来たことがある。
彼女は俺の身体を見て驚いていた。
「傷を受けたあとがまったく無いな。そなたのような強者は、不覚をとったことがまるで無いのか?」
明は、傷が治りやすい体質なのだと答えた。常人なら医師に縫合を頼むような負傷でも、一晩も経たずに跡形もなく治ってしまうのだ。
明の下で仰向けになっている身体はもとから小柄なので、重力の方向が変わっても形の変わることがない。
もう無言で、ゆっくりとだが遠慮もなくそのふくらみに手をかけた。
「あっ!……あっ」
リリーナ姫の声もか細くなっていく。
こういうときどんな順番で女性を喜ばせたらいいのか、明にはわからないが、今夜この瞬間はリリーナ皇女が明へと与えた褒賞なのだとその想いに甘えることにした。
彼女の首筋に唇を這わせる。
「ふゅぅっ、あ」
くすぐったいのだろう。身体が硬直し、顔が左上部に振られる。
明は視線を真ん前に向ける。明の掌の中、指の間、ささやかな曲線の頂上にはさくらんぼうのような赤みがちょこんとかわいらしく息づいている。
彼女の両手が、右手で明の頭を抱き、左手で明の口を敏感な部分から引き離そうと力を加えていた。
ウォーリアーの鋼鉄の身体を押しのけるのは女性の力ではまず無理だ。明はおかまいなしに、このときばかりはまるでこの子どものように葡萄のふさを舌で転がすのであった。
なにぶん童貞なので全身の隅々まで攻めるような連鎖的愛撫も思いつかず、そのとき彼の手は皇女の胸とお尻を往復するばかりの単調な動きしかしない。
人間の肉体は強い刺激にもやがて慣れる。羞恥心にも免疫ができてきたのか、姫の身体からも緊張がほぐれてきたようだ。
「はぁっ、はぁっ……」
リリーナ姫の熱い吐息が耳にかかる。相当な熱量がこもっている。顔だけでなく、まるで風邪でもひいているかのように、全身が温かくなっている。
明の目線は、姫の首筋を見つめる位置にあった。
不意に彼女は上半身を起こした。
(どうした?)
皇女は、明の首に手を回して顔を近づけた。潤んだ瞳、せつなげな吐息。その口元が一瞬、きゅっと結ばれる。
カツンという硬い音がしたのは、明と彼女の歯がぶつかったときだ。今度は姫の方からの熱い口づけ。
「んんっつ、むぐぅ」
姫もなかなか情熱的なところがあるようで。
彼女に舌を搦めるようなテクニックはないと思うが、強く口と口が接すると少し呼吸をしただけでも舌が触れる。
「……!」