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エルフ嫁語り  作者: Mac G
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chapter7/冬の都

 卯月楓うづきかえでは学校へ到着するまでに幾人かの友人と合流した。みんな、駅前の騒動で登校を遅らせるよう家族に言われたようだ。まさかクラスメイトが現世から消失した同じ日に自分まで異世界へ召喚されるとは。


 まったく前触れもなく気づく暇もないほどに瞬間的に次元転移が行われたようだ。


 秋年明あきとしあきらのことを考えていて、注意力が不足していたのかもしれない。


(いえ、気づいていても同じことだったのかもしれない)


 自身の感覚では学校の正門に入ってすぐアスファルトが石畳に変わる靴底の感触が消えたかと思うと、ほんの数センチ体が落下するような感覚があった。目眩と言うほどのものでもなく、本人は錯覚と思い隣にいた友人に振り返った。


 そこに友人の姿はなく、見知らぬ城壁の内部だった。


「え?」


 通っていた高校のキャンパスは古い建物で壁はレンガが積まれているあたり、その雰囲気に少し似てもいた。


「学校の中に入ったわけじゃないよね……」


 わたしは壁を見ていたが、視線を変えると、人ではない人の気配がある。それも多数だった。


「え、誰……?」


 ごく平凡な女子高生だった楓には、エリスタリアの騎士団の威容は圧倒されるものがあった。揃いの鎧の上にこれまた揃いの灰色のマントをかぶった兵士の一団。


 背筋に寒いものが走ったのは恐れのためだっただろうか。気持ちの問題だけではない。ここは楓が住んでいる秋の吉祥寺と比べて気候が寒いのだ。


「Überwintre Land, ruinierten Stadt beautifulness drin,」


 一団の先頭に立つ人物が言葉を発した。ただしそれをを日本人のかえでは理解できなかった。


「英語……じゃないよね」


「ヴェルファフタング」


 筆頭騎士の名はヨルンと言う。彼は楓に言葉が通じないことを知っていた。だから彼女に話しかけるような素振りも見せない。


「ちょっと、触らないでよ!」


 顔を隠した修道士のような男たちが、楓の身柄を拘束しようとする。


 突如として拉致監禁されようとしているのだから、彼女も必死だ。手足をばたつかせ抵抗する。


 多勢に無勢、無駄なあがきではある。往来で痴漢に遭ったら大声を出して助けを呼ぶのがいいだろう。しかし、叫んでも誰かが助けてくれるとは限らない。


 楓は周囲に自分の友人知人がいないことに気付いた。それも不思議だ。


 アメリカでは「help!」と叫んでも助けが来ないことが多いので、「fire!(火事だ!)」と叫ぶのが良いとされる。


 そうは言っても、いざ痴漢・暴漢に遭遇したとなると怖くて声が出ない人も多いのではないか。そう言う意味でも、楓は勝ち気な女の子だとよく言われる。


挿絵(By みてみん)


「くるなーくるなー!」


(英語だったら「ドントタッチミー!」と叫ぶべき? いえ、彼らはアメリカ人じゃないわ)


挿絵(By みてみん)


 逃れようとするが、服を掴まれてしまっては逃げ出すことも出来ない。それでもあきらめなかった。ふりまわす腕と指の先が男の一人のフードにかかった。


 布地がめくれて男の顔があらわになった。その顔を見て驚愕する。


「なっ? あんたたち、それコスプレ……?」


 褐色の肌、尖った耳、ブロンドの髪。細面の男。


 ここはエリスタリア~緑深き妖精たちの国~。その住人はエルフ、フェアリー、樹人が主な種族となっている。


「な、なんなのあんたたち?」


 コスプレなどではない。彼らが人間でないのは一目瞭然。でなければ、相当な特殊メイキャップを施したのだろう。いずれにせよ、


 楓の体に悪寒が走った。寒風が髪を巻き上げる。


 エリスタリア国内は季節の移り変わりが無く、一年を通して同じ季節が続いているが、各四つの地域によって春夏秋冬の季節が分かれている。


 そして今彼女が立っているのは、春夏秋冬を分ける四つの国の一つ、冬の国~廃都シャンドリン。


 ダークエルフ種であるワイルドエルフたちが住む高地。いま露にした騎士の容貌も、寒々しい荒野を放浪する影の戦士たちのものだった。


 シャンドリンのワイルドエルフたちは、戦士としてエリスタリアの防衛を担っている。


 楓が激しく抵抗するものだから、ワイルドエルフたちも一時手を止めた。


 彼らにも楓に対して敵意があるわけではなかった。何も取って食おうと言うわけでは無い。


 ワイルドエルフたちにもある目的があり、彼女を自分たちの勢力の中に取り込もうとしている。できることならば、友好的に事を運べればそれに越した事は無いのだ。


 ただし、それは楓が彼らの意に沿う行動をとる場合に限る。さもなくば、何らかの条件づけを行い、最終的には強制的に自分たちへ協力させる腹づもりなのだ。


「ラブ エイネン コーパー フレイ(いったん放してやれ)」


 筆頭騎士ヨルンの声で、ワイルドエルフたちは楓の衣服をつかむ手を離した。


 友好的な姿勢を見せれば大人しくなるかもしれない。そう考えたのだ。


 騎士たちに一歩引かせ、ヨルンは楓を迎え入れようと手を広げた。


「今だ! ランナッウェイ!!」


 ヨルンの紳士的な態度には一切見向きもしない。壁沿いに騎士たちが遮る者のいない方向へ、楓はダッシュした。


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