#3
「うわー!」
今度こそ、宵子は楓の手を振り切って、通りへと飛び出した。彼女ももはや止めず、彼女に続く。そこには魔獣もクラスメイトの姿も既に無かった。
「き、消えた?」
驚天動地の出来事。神隠しを目撃した。
「ち、ちょっと、二人、じゃない、明とあの怪獣はどこへ行ったの」
答えなど誰も知りようはずが無い。宵子は放心したようにその場に座りこんだ。
やがて散り散りに逃げ去っていた町の人たちがもどってきた。事情を知らない警察官も何事が起きたのかと捜査を開始した。
一番目立つところにいたものだから、宵子たち二人は真っ先に声をかけられた。楓が見たままのことを話し、宵子は横でうなずいている。
警察官は首を傾げるばかりで、半信半疑で聞いている。居合わせた市民が同様の証言をしていなければ、彼女たち二人だけの目撃談では到底信じては貰えなかっただろう。
意外なことに、放心状態だった宵子はしばらくすると普段の冷静さを取り戻したことだ。もっと半狂乱になるかと思ったのに。
「捜索願とかなくてよかったの?」
楓は宵子に尋ねた。
「どこを捜せば、警察に捜せると思う」
楓は首を横に振った。その落ち着き方が不気味なくらいだった。
やがて秋年家のマンションにもどり、彼女しばらく考え事をしていたがやがて楓に言った。
「あなたは学校に行きなさい。先生にはわたしがしばらく休むと伝えて」
「だいじょうぶなの、一緒にいるわよ」
「考え事をしたい。ねえ、あなたはさっき見たことを信じられる?」
「この目で見たものは信じるわ」
そう言ったものの、正直自信がない。時間の経過とともに、自分の記憶さえも信用できなくなるのではないか。そんな不安を起こさせるような不可思議な出来事だ。
「わたしが、彼がどこに行ったか心当たりがあると言ったら信じる?」
「え? それってどういうこと」
彼女の目は真剣だった。
「わたしも少し時間が必要なの、心配しないで。冷静にこれからすべきことを考えるから、あなたは学校へ行ってちょうだい。いかに、あなたにもわかるようにうまく話せるよう頭を整理しておくわ。学校が終わったらまたここへ寄ってちょうだい」
宵子は何か知っているようだった。その言葉を親友として信じないわけにはいかない。楓はとりあえず学校へ向かうことにした。
学校へ向かっても、もう午前の授業は全て終わってしまった。




