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エルフ嫁語り  作者: Mac G
13/43

#5

「貴様、どこの……」


 答えずに少年は駆け出した。その手には襲撃者の仲間を刺し通した槍が握られている。男の手にはロングソード。


 最初の男を倒した際には近接での刺殺のために短く槍を持っていた。次の敵が、自身のロングソードの間合いまで少年剣闘士と近づこうとしていることは考えるまでもない。少年は握りを変えて、リーチ最大の間合いで、男の首へ槍を突き刺す。


 さらに2ステップ前進し、身体は前へ、腕は後方に槍を引き抜く。これが十分な溜めとなって、三人目の兵士へすばやく槍が繰り出される。


 少年の外見は年齢こそ相応しくないが、傭兵の類に見えた。どう見てもエルフの眷属とは異なる。


 それゆえ、エルフの人質が効果あるかわからない。が、兵士の一人は試してみる価値はあるだろうと、手近にいたクレプスキュールの肩を掴んで引き寄せようとした。


「貴様、何者だ!? この子どもを……」


 言い終わる前に、男の喉元を槍が刺し貫いた。


 肩と首を掴まれ、宙に浮いたクレプスキュールの足が地に戻る。


 クレプスキュールは、傭兵たちを斬り倒しながら自分に近づいてくる少年の姿を凝視していた。


 三人の兵士を倒した少年は、手にしていた槍の握りを逆手にし、左手を前に右手を後ろへ、投擲の姿勢に入った。遠くへ石を投げるときには、大きく胸をのけぞらせるものだが、それほど距離は無い相手に、短く小さいフォームで振りかぶったのは、力よりも正確さを高める投げ方であるのだろうと幼いエルフにも想像できた。


 バネに弾かれたように、ボウガンが矢を放つように、瞬間的に槍がクレプスキュールの頭の上を通過した。


 よろめく男の身体に引かれ、クレプスキュールも後退する。宙に浮いていたクレプスキュールの足が地に着くと、背後で物音がした。振り返ると、彼女を拘束していた男が倒れ、槍が直立していた。


 もはや言葉は不要と判断した男たちが、刀を抜いて少年に挑みかかる。


 少年の動きの素早さに、クレプスキュールの目には相対的に男たちの動きがスローモーションの映像効果でも働いているかのように見えていた。


 槍を失った少年は、足下にあった敵の槍を、サッカーボールを拾うように足の甲で宙に留めた。何も無い空間までをも手足のように自在にコントロールしている。


 無重力状態にあった槍を掴み、左の敵の頬を斬りつけ、返す刃で右の敵の胸元を突く。刺された男が槍を掴むと、すぐに少年は手を離した。


 スラッと、腰から自身の刀を抜いた。傭兵たちのロングソードに対して短めの刀、長大なサイズのナイフと言った方がわかりやすい形状だろうか。


 傭兵のロングソードが少年の頭を狙うが、低い姿勢からねずみのように対手の懐に入ると、ヒラリと刃が軽やかに振られる。


 ドンと無人の大地に重い刀身がめり込んだ。男の腹がざっくりと裂かれていた。少年は上半身を起こし、次の敵に対峙している。


「うぉぉぉ!」


 威力はロングソードの方が上だが、至近距離ではナイフ、それも少年の肘から先の手の長さに相当するほどの刃渡りがあり、これが高速で振るわれるために、傭兵たちも思い切り刀を振りかぶることができずにいた。引け腰に短い転回で刃を振るっては、本来の武器の威力を引き出すことはできない。


 これでは棒切れを握っているのと同じことで、スピードに乗ることの出来ないロングソードをその握り手の手首から少年は切り落とす。


 手首の切断面をもう一方の手で覆い、地に膝をつき、男たちは天に向かって悲鳴を上げた。


 手首を切断されては、戦闘はおろか生命も危うい。男たちは間合いを取ろうとするが、俊敏な少年の動きはそれを許さない。背を向けて走って逃げることは、もちろん自殺行為だ。


(なぜ、短い間合いでこうもスピードに乗った斬撃を繰り出すことができるのか!)


  それがナイフの利点だが、混乱した男たちにはナイフの動きがより迫力に満ちたものに感じた。


 少年のナイフが長尺であることから、その手元より刃の先端はよりスピードが増す。


 本来、刀を扱う者は、スピードと威力は比例しないことを知っている。しかし、少年戦士の手にする剣は先端へ行くほど幅を増す。山刀のような形状は、草刈りに使われる刃のように手首の動きだけで振り子のように重心移動の勢いを得て攻撃力も増していくのだった。


 ぶんぶんと振り回すように剣を操ることで、草木のように敵の手足をもぎ取っていく剣。腕自体は大振りしなくていいので、身体の重心を安定したまま、大剣のように空振りしてバランスを崩すようなこともない。


 相手の動きをよく見て、身体を前後左右に動かすだけでなく、フットワークも軽やかだ。それだけでなく、地面すれすれに顔を下げる足腰のバネと背筋の力を発揮して、傭兵たちの刃をいとも簡単に避けていく。


 刀を避けた後には、確実に敵を仕留める。


 性懲りもなくエルフたちを人質に取ろうとする男には、その山刀を惜しげもなく投げつけ彼らをほふった。


(丸腰!)


 さすがの彼も丸腰では兵士たちと互角に戦うことは無理だ。クレプスキュールは救い主の敗北を察して顔を覆いそうになった、のだが……


次回、chapter5/エルフ嫁語り編


元々、わたしの自作絵ではリリーナ姫はここまでしか描けませんでした。

挿絵(By みてみん)

これを、イラストレーターさんが文章を読み込んでリデザインしてくれました。

挿絵(By みてみん)

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