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31話

◆◇◆◇◆


 マージ達は町からの脱出を終え『狼の里』に向けて移動をしていた。周囲の景色が草原から背の低い木立ち並ぶ林へと変わりだす中、シズクは親から教わった歴史をマージに聞かせていた


 それは今から向かう〈狼の里〉の堅牢さを語るに相応しい内容と思ってのことだった



 遥か遠い昔、狼は森の守護者として、木々生い茂るキヌイの地にて栄えていた。ところが魔物の発生や戦争、戦力確保によって森が減っていくと森の恵みも減っていき、それを中心とした繁栄も衰退していった


 狼は守護者として数多の生物を束ね、長年勇敢に戦い、多くの犠牲を払った。ある程度の森を守ることはできたものの敗走は免れなかった


 戦いに不向きな齢や種族たちは遠くに逃げるものもいれば狼と共に森に残るものもいた


「これがボク達、狼人の祖先ソウテン

 そう言われてる」


 シズクは同行者の何人かに目配せをした。周囲を警戒し始めた。魔物、追手、生物はいついかなる時でも襲い掛かるもので、マージを守らんと気を張っていた



 戦火増す一方。それに対抗するべくか狼の内にも変化が訪れた。魔力への適合。体格を増すもの、より強靭な肉体を持つもの、感覚が研ぎ澄まされたものが生まれ始めた───その中でも知恵をつけたものが後に狼人の原点と呼ばれる進化元となった


 土地より受けた魔力によって戦う力を分け与えられた狼にとって、この大地を生まれ故郷以上の意味を持つものになった


「それでも魔物は強かった

 森がどんどんなくなっていって

 それにつれて狼人の力も弱まっていった」


「…」


 勇猛果敢であった同胞も劣勢とあって、一種また一種と前線を離れ、森を手放すことを然とした。それでも命続く限り戦うことを選んだ狼の一族は同族の屍の上に立ち、森を守り続けた


 戦争によって追いやられた後、屍に巣食う魔の気によって生まれた谷の中の森に隠れ住む今日に至る


「…」


 人間が入ってこられない険しい谷に少しだけ残った森にひっそりと住み着いて、今も暮らしてる


「ソウテンガロウ

 青い空の下、飢える狼ここにあり

 皮肉だよね、森を守り続けた結果が

 この有様だ、人の世に縋り

 助けを求めてるなんて」


 シズクたちの〈狼の里〉───否〈狼の隠れ里〉は言わば人の手を受けていない最後の森でもあった



 低木がやがては人の背丈を追い越す木々の集まりとなる頃にマージやシズク達は目指していた森と谷の入り口を眺める形で到着を果たした


 そこは脆い岩肌、水はけがよいために砂っぽく乾いた土、寒暖の差が激しい気候は不作と同時に大軍の侵攻を阻む砦となり得ていた


「これは…人の足跡?」


 同行者の1人がひとつの異変に気がついた


「おい!あれを見ろ!」


 同行者の2人目がひとつの異変に気がついた



「煙?」


「確かに腹の空く時間だが」


 遥か遠方の木々の隙間から無数に上がる黒煙の数々、炊事にしては明らかに煙の種類が合っておらず、更に言うなれば〈隠れ里〉にしてはそれはあまりに不用心な行為だった


「そんなはずない。里では煙をまっすぐ

 上げることは禁じられてるんだ」


 シズクのこぼした言の葉に同行者を含むマージは岩肌に迷うことなく飛び乗り、最短の距離を最速で進む判断を下した


 煙の上がっている地点───崖から見渡す景色の先には黒煙を上げて燃え盛る家屋の数々が見えていた。その間を禍々しい魔力を放ちながら這い回る魔物の姿が見えた


「総員殲滅体制、魔物の掃討に当たる」


「はい」


「なんで、あそこには…」


「シズクさん?」


 シズクの指差した先には、おそらく最初に襲撃を受けたのだろう。他よりもわずかばかり大きな家がひときわ太い煙柱を上げていた


「父様と母様が…」


「皆さんすいません、先行します!」


「気をつけていけ」


「後で追いつく」


 マージはシズクの手を取った


「マージ?」


「シズクさん、お願いできますか?」


「え?」


「ソウテンガロウで僕と一緒に」


「…うん」


「【タイギ】さん」


【仲介処理を開始

『効果範囲拡大』を貸与】


 マージの手を握り返したシズクの内から黄金の魔力が全身を包み、マージにもそれが伝播していく、夜へと移り変わる空を背景にシズクの跳躍が空を両断した



 村を這う昆虫型の魔物が僅かな空気の揺れを感じ、その方向へと向き直った瞬間、戦鎚の一撃により本来強靭であるはずの外骨格が粉砕される結果を残し、次々に粉砕されていった


【ソウテンガロウ】により強化された殲滅力の前に数だけ寄り集まった魔物の群れは薙ぎ払われるだけの木端に等しい存在だった


「マージごめん」


「いいえ、外は任せて下さい」


 シズクが今にも泣きそうな声と顔をしていた。両親の安否が不明なために、一刻でも速くそれを確認したい気持ちで一杯と言った様子だった


 マージはその気持ちを察して、手を離すと同時に戦鎚を叩きつけ地面を砕く程の一撃を放った。周囲を旋回する魔物はその振動に集まり始める


 それと同時にマージの身体から【ソウテンガロウ】の残り香が霧散していくと〈鋲鎚朱雀〉を引き抜き、槍術の構えをとった


「揺動成功」


 マージは槍先を撫で、迫り来る魔物に向けて放った



「父様!!母様!!」


 勝手知ったる我が家の間取り、シズクが進む先で床に倒れ伏し、微動だにしない両親を見つけるに至る

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