①
〜〜〜
勇者とその仲間の帰還。
それは本来、華やかなものになるはずべきもの。
誰にとっても。勿論、勇者とその仲間たちにとっても。
華やかで、素晴らしいものになるべきもの。
舞う、紙吹雪。
響く、歓声。
開かれた、荘厳な門扉。
その先に広がる、煌びやかな光景。
それを光無き瞳で見つめ、
「なぁ、クリス」
勇者は、側に立つ剣聖に声をかけた。
ひどく無機質な声音をもって。
「みんな嬉しそうだな」
「そのようです」
勇者の声。
クリスはそれに短く答える。
生気の宿らぬ笑み。それをその顔に張り付けて。
「きっと。みなさまは、勇者さまに感謝していることでしょう」
「そっか」
「アレン様。先に進みましょう」
アレンの先に進む、クリス。
そしてそれに続く、仲間たちの声。
「いこ、アレン」
「これも神のお導き。ふふふ。見てください、アレン様。世界はわたしたちの手により、救われたのです」
アレンの左右。
そこに立ち、小柄の賢者と聖女は感情の宿らない声を響かせた。
風に揺れる、黒と白のローブ。
呼応し、靡く二人の黒と白銀の髪。
しかし、二人の頬には未だ残っていた。
最後に浴びた、返り血。
その赤き血がくっきりと。
「あぁ、そうだな」
二人に答え、アレンは前に足を踏み出す。
しかしその一歩は震え、希望に満ちていた旅立ちの時の一歩とは、なにもかもが違っていた。
〜〜〜
進む、アレンたち。
その姿に人々は拍手を送る。
その姿に人々は羨望の眼差しを向けた。
アレンたちは手を振る。
仮面のような笑みを張り付けて、壊れた心を覆い隠すかのようにして。
そんな姿に、人々は更に熱狂した。
「勇者さま!!」
「あなたたちのおかげで世界は救われた!!」
「ありがとう!! ほんとに感謝している!!」
「世界を救ってくれてありがとう!!」
「これで闇に怯えることなく」
「光を謳歌することができる!!」
しかし、その声はアレンたちの耳には砂嵐にしか聞こえなかった。
手は振っている。
顔も笑っている。
足取りも軽い。
だが、アレンたちの目には一切の光も宿ってはいない。
通り過ぎていく、アレンたち。
その姿。それを、なにも知らない人々は熱狂と共に見送る。
だが、群衆の中の一人の少女は母に問いかけた。
「ねぇ、お母さん」
「なんだい?」
「勇者さまたちすぐにこの街に帰ってきたの? うーん…と。魔王を倒してから」
「そうみたいだね。だって、返り血がついてたじゃないか。魔王? 魔物の血? その"黒い血"の跡がね」
その母の声に少女は首を傾げる。
「黒い血?」
「あぁ、そうだよ。ほら勇者さまの姿が見えなくなった。帰るとしようかね」
少女の手を引く、母。
その母に少女は、呟く。
自分の胸の中で。
「黒い血? わたしの目には"赤い血"に」
「見えたけど」
そう不思議そうにつぶやいたのであった。




