声に誘われて
ここは眠れぬ人が訪れる店、「漣の砦」。この店には、来店する人にぴったりの商品が存在する店だ。
店内にはベッドと数個のオブジェが並び、商品らしきものは何もない。そんな店だが、評判はいいようだ。
そして、今日もまた、眠れぬお客様が訪れるのだった……
チリンチリンとベルを鳴らしながら扉を開いて入ってきたのは、少しくたびれた様子の女性。その綺麗な洋服とは裏腹に、目にはクマがあり、いかにも眠れていない様子だった。
女性はレジカウンターに向かい、店主に話しかける。
「こんばんは……」
「いらっしゃいませ。今日はどうなさいましたか?」
店主はまるで病院のように話を聞き始める。
「実はですね、ここ一週間、熟睡ができていなくて、寝ても2時間ほどで目が覚めてしまうんです」
「そうですか……それは大変でしたね……。お客さん、お名前は?」
「三島リンです」
「リンさんですね。それでは、あなたにちょうどいい商品を持ってきて差し上げますね」
店主はおもむろにバックヤードに向かうと、数分後、何かの箱を持ってリンの待つレジカウンターに置いた。
「これは魔法のヘッドホンと言ってね、その時に一番聞きたい声が聞けるんです。どうですか? 試してみますか?」
その驚くべき機能を聞いたリンは、少し興奮気味に言った。
「ぜひ!」
「それではこちらのベッドへどうぞ」
店主にそう促され、リンはベッドに横になりながら、ヘッドホンをつける。
そうして数秒後、聞こえてきたのは、リンの小さい頃に母親に飽きるまで読み聞かせてもらった、あの物語。『ミッドナイトブルーの空の下で』だった。それも、大好きな母の声で。
聞き始めてから数分で徐々に眠気がやってくる。
夢か現実かわからない中で、店主が言った。
「このままお休みになられてもいいですよ」
店主の言葉でリミッターが外れたのか、眠気が波のように押し寄せる。
物語も終盤に差し掛かり、ついにラストシーンが訪れる。
その時、ヘッドホンのスピーカーから聞こえてきたのは……
「さぁ、おやすみ」
透き通った母の声だった。
その言葉と共に、リンは眠りについた。
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