みてみて
画面越しに目が合った。帽子を目深く乗せたその男からは私など見えていない。眼中にないはずだ。だが、私は観られているような錯覚を抱いたのだ。その視線は溝落ちに突き刺さり、決して抜けない楔になった。私は風穴の空いているはずがない胸部に拳を当てて、深呼吸した。息だけでなく咳も吐いてしまった。ゲロだけは吐かずに済んだため、私はリビングへと足を向けた。重たい鉄の扉がより重く鈍いものに見えた。扉と枠が擦れる摩擦音は、爪で黒板を掻き鳴らすのと同じで、胸と頭に引っ掻き痕を残した。赤錆が右手に付着し、到底ペンを持てる状態ではなかった。それでも私は男のお気に召すまま我が名を記し、契約を交わした。男から小包を受け取った私は私の部屋に戻り、荷物を机に置こうとした。その時だった。誰かが笑った。私ではない。誰かだ。この部屋には私しかいない。だから、不審に思いあたりを見渡すと、男がいた。男は何をするわけでもなく、私の荷物を再び持ち去ってしまった。呆気に取られていた私は男の背中を追うも、男はどこかがおかしい。なんと男は足を動かしていないのだ。摩擦なく、平常心を保ったままペンギンのように水平に並行移動している。音もたてない男の肩をとろうとするも、私には届かなかった。扉を開けると男はいなかった。荷物もなくなった。私は宅配業者にすかさずクレームを入れる。だか帰ってきたのは異常なものだった。私は向こうにいて、男に荷物を届けて帰ってきたという。クレームを受けた私は、男の家に向かった。男は荷物をお前が持ち去ったとヒステリックに当たり散らすも、荷物は置き配されていた。確かに持ってきたことを話し、おかしな人もいるもんだと職場に戻った。




