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undecided  作者: らきむぼん(raki) &竜司
王里神会篇 破
40/73

ミドルゲーム

サブタイトルはチェス用語で、中盤戦の意です。

-1-


 高木は帰宅するとすぐに昼食を作り始めた。海上コックというのは嘘でも、料理の腕は確かである。高木の家には食材は二週間分あり、保存食を加えれば三週間分はある。豪華に振る舞っても十分な量だった。

 トニーは窓から高木の車が戻ってくるのを見ていた。その後十分程、尾行がなかったか観察し、安全だと判断して部屋に向かった。

 神屋は二つの暗号を解き、小休止中だった。高木が戻り、昼食にするというので、そのまま休憩を延長して昼食を摂ることにした。神屋は今の調子ならば、あと数時間程で全て解読出来るだろうと考えていた。

 暁と亜美は神屋が休憩をしているうちに第三の暗号の点検をしていた。何も変わった点は発見出来なかったが、高木が帰宅したので切り上げることになった。神屋が想像以上のスピードで暗号を解読していたことから、本格的に検証するのは神屋が参加してからということで合意したのだった。



 食事休憩が終わると、五人はそれぞれの持ち場に就いた。

 高木は図書館から借りてきた『キリストの哲学』に何か細工がないか、全てのページをチェックする作業を行う。

 トニーは再び部屋の外へ出て行った。見張りをするのだろう。

 神屋は第三の暗号の解読を進める。

 そして暁と亜美は第一の暗号と第二の暗号の点検をしながら意見交換をしていた。

「やっぱり第一と第二には何もないと思うんだが」

 暁は二枚の暗号を交互に見ながら言った。

「どうして?」

 亜美は不思議そうな顔を暁に向ける。

「いや、だって、さすがに暗号自体が短いし」

「……そうだね。でも、例えば数列の並び方に他のパターンがあるとか、日本十進分類法をアメリカ版で出してみるだとか、やってみなきゃ判らないじゃん」

 亜美は諦めるなと言わんばかりに威勢よく言った。どうやら亜美は、まだまだ元気なようだ。

「いや、俺も理由もなく半分の暗号文を切り捨てようとした訳じゃないんだ。大体判るんだよ、論理的に考えていけばな。数列が別のパターンだったとしても、十字架と方向と数っていうワードは変わんないんだし、そうなると、条件が厳しくないか? 日本十進分類法を他の分類法に置換しても、やっぱり無理がある。さすがに棚の整理とか掃除とかやってると思うんだ」

「うーん…そっかぁ」

 亜美は少し考えて、納得した。暁の話す通り、論理的に先の展開を読むと、ほとんどの可能性は潰えてしまう。

「いずれにせよ可能性は低いんだが、第四の暗号のテキストデータが入ってたCDの本物を取り寄せてみたらどうだ?」

 暁は少し前から考えていた案を呈した。

「本物? すり替える前のCDってこと?」

「ああ。俺にはどうも暗号文に別の解釈を与えるってのが引っかかってて、別の解釈っていうよりもむしろ全くの別物なんじゃないかって気がすんだよな」

「そうなると、答は音楽の中にあるって話になるよね。もしくは、収録された曲の作曲者、演奏家、指揮者、歴史、演奏されたスタジオ……。確かに隠せる場所は増えるけど……」

「……ああ、やっぱり何か釈然としないよなぁ。こういうのは得てして、身近にあるごく単純なものだったりするもんな……」

 灯台下暗し、近くて見えぬは睫という諺があるように、難解な問題の答は思いの外近くにあることが多い。話が広がるに従って、そのようなミスをしたときに時間切れになりやすかった。それを踏まえると、虱潰しをするために無闇に外を出るわけにはいかないのである。

 しばらくの間、意見交換も止まり、沈黙が続いた。同室の少し離れた位置に神屋と高木も居るが、二人とも言葉を発さずにいるため、部屋は水を打ったように静かになった。

 時刻は既に午後を回っていたが、午前中からずっとこの調子だった。暁と亜美は意見を交わし合い、一通り議論すると沈黙が訪れる。どちらかが新たな案を呈するか、直前に出た案とその反対論の折衷案が出るまで沈黙は続く。しかし、沈黙を破って出された多くの案も、議論百出して結局は仕切り直しになっていた。

「そういえばさ、暁。全然関係ない話をしても構わない?」

 にわかに亜美がしじまを破った。

「別に構わないけど、何?」

 暁は反射的に了承してしまったが、その関係のない話とやらは確実に神屋や高木にも聞こえてしまうはずである。二人の承諾なしに勝手に容認して良かったのか。特に神屋は集中出来なくなってしまわないか、暁は横目で二人の姿を視認した。二人は何の反応もせずにただひたすら作業をこなしている。問題はなさそうだった。

「こないださ、竜司君からメールがあったんさ」

「竜司? へー、それで……何だって?」

「いやさ、食事でもどうですかって」

「何だそりゃ。なんでそんな堅いんだ? ていうか何で食事? しかもなんで亜美?」

「うーん、いや、わかんない。突然メールが来てさ。あたし、その日から暁とか神屋君と合流する予定だったから断っちゃったけど、何か用事があったのかな」

「他に何か言ってた?」

「本格的に暑い季節になりましたねとか、学校の課題の方は順調ですかとか、時間を取れる日で構わないのでとか」

「……用事があるって感じじゃないな。暑さでトチ狂っただけじゃねぇの? 俺が言うのもなんだが、アイツも相当ヤバい人間だからな」

「あーあ……。何かそれ可哀想。この一件が終わったらお見舞いに行こうね」

「そーだな」

 二人は竜司が居ないこといいことに、本人が聞いたら発狂しかねないような会話をしていた。

 少し離れた場所で密かにそれを聴いていた高木は、見知らない高山竜司の目論見を理解し、彼を憐れんでニヤリと微笑した。

「そういやあ、前から気になってたんだが、何で竜司はこの事件の登場人物に選ばれなかったんだ?」

「……どういうこと?」

「王里神会は俺のことを亜美の協力者として知ったんだよな。だが、実際は途中参加した静枝は除くとして、竜司も協力者だろ? 同じ協力者の一人なのに何で俺の情報だけ掴んで、竜司の情報は掴めなかったんだろう」

「確かに……。竜司君があたしたちに協力してくれたのは、かなり初期の頃だから、例えば学園の生徒から情報を得たのなら、竜司君の情報を得ていても不思議じゃないよね。むしろその方が自然な気もする」

「別のクラスだからか? ……となると、王里神会の情報源は俺たちのクラスメートだったってことか」

「どうだろうね。複数人から情報を仕入れたなら、竜司君の存在を知っててもおかしくないと思うけど」

「訳分からないな。ただ単にアイツが運が良かったに過ぎないんじゃないか? 俺はそう思う」

 暁はそう結論を出すと、再び暗号文に目を落とした。

「……ふーん。しかし、何やっても分かんないよねー。ちょっと気分転換でもしない?」

 亜美は突然そんなことを言う。しかし暁には彼女が予め考えていたことを言ったようにも見えた。

「気分転換?」

「そう」

 応えると亜美はスッと立ち上がった。

「高木さん、ちょっと家の中散歩してきていい?」

 『キリストの哲学』を調査中の高木は亜美の呼び掛けにフッと顔を上げた。

「散歩? ああ、いいよ。外には出ちゃダメだぞ」

「はーい」

 亜美は返事を返しながら扉の方へ歩いていった。その後を追って、暁もソファから腰を上げる。

 部屋から出ると、亜美は階段を登って行った。

「どこに行くんだ?」

「あたしの部屋」

 ……あの、書斎みたいな部屋か。

 暁は前日に少しだけ亜美にあてがわれた部屋を見ていた。壁一面に大きな本棚が並べてあったのを覚えている。

 亜美の部屋の前に到着すると、彼女はドアノブに手を掛けながら微笑んだ。

「名探偵暁君の活躍を期待してるわ」

「……は? 何だよ名探偵って」

「これよ、これ」

 部屋に入ると、亜美は本棚を指差した。

「本棚……」

「この本棚、変なの」

 亜美は何処からかエアコンのスイッチを入れた。真夏の暑さで暖められた室内の空気が、暁の金色の髪を微かに揺らした。

「変? どこが?」

「当ててみて」

「……ちょっと、考えさせてくれ」

 暁は当惑した様子で本棚を見上げる。

「…………あ」

 暁の脳内で、歯車の噛み合うような音が確かに聞こえた。



-2-


「分かった……けど、一体どういうことだ? これは」

 暁は数歩後退して壁一面の本棚を広く見渡した。本はきちんと本棚に納められている。しかし、奇妙なことに目の前の本棚には一切の隙間がない。更に妙なのは、本のジャンルや内容がカテゴライズされておらず、並べられている順番に規則がない。シリーズものや上下巻の作品すら別の位置に差し込まれている。

 亜美は暁の質問に困った表情を返した。この本棚が変であることには気付いたが、それが何を意味しているかは亜美にも分からなかったのだ。

「分からないのか?」

「うん。でも、なんの理由もなしにこんな風にすることはないと思う」

「確かに」

「だから、金庫かなんかを兼ねてるとか……あるいは、鬼頭火山の『地底湖』にあったような隠し階段隠し扉の類だとか……」

 亜美は他の可能性を考えたが、思い浮かんだのはその二つだった。事実、鬼頭火山の邸宅には地下シェルターが存在し、その入口は小さな部屋に隠されていた。

「後者はあまり考えられないと思うぜ。そりゃ、高木さんも王里神会の関係者だし、鬼頭が用意してたような地下シェルターを持っててもおかしくはないが、せめてその程度の規模だ。二階から直接地下に繋がるようなものは造れないだろう。小説なんかに出てくるような大規模な地下みたいなのは、現実にはあり得ない。大昔から在る城とかなら分からないが、現代建築じゃ建築法みたいなのに引っかかるからな……」

「じゃあ、金庫かな。もしくは、金庫室の扉とかね」

「……ああ。だがだとしたら扉を開く術があるはずだ……開けてみよう」

 暁はそう言うと本棚をコンコンと軽く叩きながら調査を始めた。

「えっ? 開けるの?」

 亜美は目を丸くする。その様子に暁は逆に拍子抜けしてしまった。

「何だぁ? そのつもりで来たんじゃないのかよ」

「……あー、それもそうだね。高木さんなら開けても怒らないか。じゃ、開けるとして、どうやって?」

 暁は口元に手を当て、本棚を見た。本棚自体にはおかしな点はない。妙なのは本の並びと、一切の隙間がないことだ。

「なあ、本の並びが変なんだから、それがキーってことだよな」

「そうだと思うよ。多分バラバラに本を配置してるのが鍵だよ。指定の位置に指定の本を配置するには、棚の隙間はあっちゃマズいもんね」

「こういうのは、普通どんな仕組みが施されてるんだ?」

「……さぁ。決められた本を押すとか……じゃない?」

 亜美は記憶を遡り、参考になりそうな情報を確かめる。亜美が読んだ小説や観たテレビ番組で本棚に仕掛けがある話はそう多くはなかった。鬼頭火山の『地底湖』を含めても三作品程度だ。そのいずれも、決められた一つないしは複数の本を本棚の奥に押し込むことで仕掛けが働く仕組みだった。

「参ったな。もし亜美の言うとおりとして、一個だけがスイッチだったら全部押しちまえばいいが、複数なら順番も考えなきゃ……だし」

「逆に言えば、わざわざ本棚に仕掛けを用意してまで隠しているものをたった一個のスイッチで見れるはずがないよね。……となると、複数のスイッチだろうし、多分あたしらじゃ解らないような順番だと思う。それに、そんなに重要なものだとしたら、こっそり覗いちゃおうっていうのも、俄然悪い気がしてきた」

 亜美は自分の発見した仕掛けが想像以上の代物を隠しているように思えてきていた。

「……そう……だな」

 亜美の言葉を聞き、暁もまた後ろめたさを感じた。

 ――カチャ。

 その時、部屋のドアが開く音が聞こえた。

「大した高校生だな、君らは」

 声の方向に二人が振り返ると、高木が後ろ手に扉を閉めたところだった。

「あっ、高木さん」

 亜美が声を上げる。

「見つけたのは亜美ちゃんか。しかし、さすがの君もコレは開けられないだろう」

「はい……っていうか、高木さん! 勝手に開けようとしてごめんなさい!」

「いや、別にいいよ。この家は自由にしていいって言っただろ?」

「……やっぱりこの本棚、何かあるんですか?」

 亜美は訊いていいものか悩みながらも、高木に尋ねた。

「察しのとおり隠し部屋だ。そして、そこにあるものは……」

 高木はそこまで言うと、本棚の目の前まで歩み寄り、バラバラな位置にある十数冊の本を次々と棚の奧部に押し込んで言った。本来なら入らない位置にまで本が押し込まれていくことをみると、どうやら棚に指定された本が入るような窪みが外見には判らないように用意されていたようだ。

 高木が必要な分全ての本を押すと、中央の棚がガタンと音を立て奥にスライドし始める。すると本棚の両脇に人一人が入れる隙間を作り、動きは止まった。

「中を見てみな。王里神会を、これで一網打尽にする手筈だ」

「王里神会を……一網打尽だって……?」

 暁は驚嘆の声を洩らしながら、本棚の奥の部屋へ入った。亜美はその後に続き、高木は最後に隠し部屋に入り、部屋の照明を点けた。

「これは……」

 部屋が明るくなると暁は周りを見渡した。そこは真っ白な壁に四方を囲まれた六畳程の小さな部屋だった。天井は低く、そのせいか照明は部屋の隅々を照らし、全体的に白が際立って清潔感がある。奧の壁には長方形のデスクが隣接していて、その上には一台のノートパソコンとブックスタンドに支えられた十冊のファイルが置かれていた。その全ては白一色に揃えられていた。

「高木さん、一体この部屋には何があるんですか? 王里神会を一網打尽にするって……」

 暁は高木を振り返り、口早に尋ねた。

「パソコンには王里神会の犯罪を裏付ける資料がある。俺が抜けるまでのもののみだが、王里神会はその頃には既に目立たない幾つかの被害を出していた。殺人なんてやり出したのは今年に入ってだが、免罪符みてえなのを法外な金額で信者に売りつける詐欺なんかで自殺者を出したことだってあったようだ。ファイルは王里神会幹部会に配布される資料だ。これも大分前の物だが、いくつか法に触れる記述がある。この部屋のものは全て幹部会を退会したときに抹消させられたんだが、削除する前日に暗記して、ヤツらが俺を気に留めなくなった頃に記憶を元に復元した」

「ふ、復元って、そんな膨大な量の資料を……ですか!?」

「まあな。言ったろ、戦闘以外はオールマイティーだって」

「す、すげー……」

 暁は目の前の男が凄まじく優秀な人間であると初めて認識した。考えてみれば至極当然なことではあった。神屋聖孝は十代半ばでテロを起こすような組織のトップにいる人物だ。そして、この高木海という人物もまた十代で、しかも神屋よりも若い齢で幹部になった人物なのである。

「ねぇ高木さん、どうしてこれを警察に出さなかったの? あたしならすぐに警察に駆け込むな。だって、高木さんも王里神会が悪いことをしてるって気付いたから退会したんでしょ?」

 亜美は不思議そうに言った。

「これはごく小さな証拠だ。警察もマスコミも、上層部に王里神会の手の者が居る。俺が退会した頃や、今でさえも、簡単に証拠は握り潰されてしまうさ。……つまり、これは本攻撃ではないんだよ。俺たちはまず、政治界や警察界に強力な影響力を持つ藤原を押さえないといけない。その上でいろんな攻撃を仕掛けて敵の防御策を破り、アンチマターの持つ機密データをぶつける。それでも、ヤツらはおそらくあらゆる不利なデータをデリートするだろう。そこで、こういう小さな証拠を出して敵を逃がさないようにするって訳さ」

 高木は亜美に説明をすると、ニヤリと笑った。

「なるほど…………あの、高木さんはこういうチャンスが来るって分かってたの? それとも、信じていた……の? アンチマターや神屋君が動かなかったら、高木さんは独りで王里神会と戦うつもりだったの?」

 亜美の問いを受け、高木は動揺した。痛い所を衝かれた心地がしたのだ。

「……どうだろうな。実は、俺はただ怖かっただけなのかもしれない。怖いから退会して、怖いから証拠をいつまでも手元に抱えてた。アンチマターと神屋がいなきゃ、俺はずっと怖がっていただけだったかもしれない。君たちのように戦いを決意することなんて、あの頃の俺なんかには出来なかったんだな、きっと」

 高木は壁に寄りかかって悲しげに言った。過去を悔やむように、高木は虚空を見つめていた。

 暁はそんな高木を見て、自らの姿を僅かに重ねた。高木は、自分と同じ種類の障害を抱えているのかも知れない、そう感じていた。

「……いいじゃないっすか」

 暁は高木を見て言った。高木は茫然と暁に視線を合わせた。

「……え?」

「今、戦えるなら、高木さんは何も間違ってはいないんじゃないですかね? 亜美はどうか分かんないけど、俺は高木さんと同じで怖かった。でも、俺も今はなんとか戦おうとしてます。転ぶことは、前に進もうとしていた者にしか出来ない……俺の友達がそんな話をしてましたよ」

 暁は静かに話した。まるで自分自身に語りかけるように。

「あたしだって、怖かったよ。それに、あたしはいろんな人を巻き込んじゃったから、重い責任を背負ってるような……そんな感じがする。でも、あたしの親友はもっと責任を感じてるんだと思う。だから、あたしばかりが弱いままじゃいけない。暁だって、あたしが巻き込んだ。でも、命懸けの戦いに協力してくれているし、暁が居なきゃあたしはきっと精神的に参ってた。たった独りで前に進める人なんていないとあたしは思う。高木さんだって、暁だって、あたしだって、みんなそう。……チェスは一つの駒だけでは勝てないでしょ」

 亜美はそう話すと、口角を上げる。

 暁は恥ずかしくなって顔を逸らした。

 高木は茫然と数秒間二人を見て、次第に笑顔を取り戻した。

「はははッ、なるほど。俺の選択は正しかった。君たちの話を聞いたら、そう思えてきたよ。ただ、転びっぱなしじゃ何にもならないよな。この勝負、絶対に勝とうぜ、みんなで……な。さて、そろそろ戻るぞ」

「はい! 頑張りましょう!」

 亜美は快活な声で応じた。

「しかし亜美……お前な……」

 亜美が振り返ると、暁が笑いをこらえている姿が目に映った。

「……えっ? 何!? 何か可笑しいことした?」

「くくく……いや、亜美さぁ。チェスは一つの駒だけでは勝てない……とか……お前の場合、駒がいくつあっても誰にも勝てないだろ~が……」

「なっ……」

「俺なら必要な駒二つあればお前に勝てる自信があるぜ」

「もぉ~! だからぁ! あたしは凄く強いんだってば! シズが言うんだから確かでしょ! 神屋君が強過ぎるからあたしが弱く見えるの!」

「はい、はい」

「信じてないでしょ」

「……あーあ、イタすぎるな」

「ああ! もういいもん! 暁なんかキライ!」

 部屋に暁の哄笑する声が響く。



 そしてこの頃、神屋聖孝は第三の暗号の解読を完了しようとしていた。





次話は6月11日を予定しています。

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