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undecided  作者: らきむぼん(raki) &竜司
王里神会篇 序
34/73

dark night

今回はなかなか迫力がありますよ。

相方の担当なので、僕も読者として楽しませてもらいましたw

-1-


「久しぶり……」

「ああ」

 とある高級レストラン。月明かりが眩しいこの夜、平沼凛と上條誠也は会う約束をしていた。

 高級レストランということもあり、二人は服装をわきまえた。上條はスーツ姿、凛はあまり派手ではないが、地味でもないドレス姿だ。二人とも静かだった。

「…………」

 初めは無言だった二人も、料理が運ばれてくるにつれて次第に口を開き始めた。

「最近どうだ?」

「……どうも」

「……」

 二人は酷く落ち着いた表情で料理を口に運んだ。噛む動作もとりわけゆっくりとしている。

「旨いな」

「うん……」

 他愛のない会話だった。

 二人とも、まだあまり目を合わせていない。

 ……――――二人が付き合い始めたのは、去年の春のことだ。バイト仲間として知り合った二人は、互いの外見的魅力に惹かれ合い、まさに川の水が上流から下流に向かって流れるが如く当然のようにして付き合い始めた。二人は強く愛し合った。

 狼のような静寂を醸し出す、鋭い上條の目を凜は愛した。

 ……素敵な目。

 凜は上條の両目を見つめ、よくそう呟いていた。

「そういえば……」

「ん?」

「あんたが入ってる宗教団体はいつ革命を起こすわけ?」

「もうそろそろだ」

「何するの?」

「…………テロだ」

「!?」

「……このことは口外するな」

「嘘でしょ」

「いつどこで行われるかは後でメールする。決して行くなよ」

「…………」

「巻き込みたくはない」

「何をする気?」

「何をするかまでは教えられない」

 凜は言葉を失った。

 上條に対して軽蔑の感情を抱いたのは、これが初めてである。

「嘘でしょ……やめてよ」

「俺は教祖の考えに同意した。このテロは起こすべきだと悟った」

「嘘でしょ? …………人が死ぬんじゃないんでしょ? ねぇ……」

 上條は目を伏せたまま、何も言わない。

「そんなことやめて」

「最初は俺だって反対した。だがあの御方の、教祖の言葉を聞けば、お前だって納得すると思うぜ」

「…………本気じゃないんでしょ。犯罪に手を染めるようなことは絶対にしちゃいけない。わかってるの?」

「…………」

「……あたし、怖いよ。誠也がそんな風になってしまっただなんて思いたくない。あたしたちは別れたけど、これは人として当然の意見……変なことはしないで」

「落ち着けよ」

「とにかく、テレビに出るようなことはしないでよ。そんな人と付き合ってただなんて思われたくないし……」

「大丈夫だって…………そんなに心配するな」

「心配してるわけじゃないけど」

「……」

「やめてよ……犯罪を犯すのは」

「誰も犯罪を犯すとは言ってないだろう」

「もう少し小さい声で喋ってよ。周りの人に不審がられるからさぁ」

「わかったよ……」

「……前々から言おうと思ってたけど、その変な宗教から脱会したら? あんたが王里神会に入ってさえいなければ、今頃あたしたちは別れてなんかいなかったんだし」

「…………かもな」

「かもなって何? 絶対そうでしょ? その右目の傷だって……失明することは無かったんじゃないの」

「フッ……」

「笑って誤魔化すの?」

「お前と口喧嘩するために高い金を払っているわけではない」

「別にワリカンでも構わないけど」

「口数の絶えないところは昔のまんまだな…………」

「うるさいな」

 凜は小さく笑った。

 上條も微かに微笑んだ。

「あのときのことは今でも忘れられないよ……忘れたくてもね」

「酒飲むか? 中学の頃、たまに飲んでたんだろ?」

「…………要らない。あと、やっぱあんたが全部払って」

「飲めって。一緒に酔おうぜ」

「そうゆうところは変わらないね」

「……」

「あたしまだ高校生だから遠慮しとくよ。お酒はさ……」

「中学の頃は飲んでたくせにか」

「あんたの前じゃあ、一回も飲んだことないんだよ」

「そうだっけか。つうか、あのときのことって……もしかしてあれか?」

「そう。あれ」

「…………」

「あれは一体誰だったの?」

 凜は聞きながら上條の左目を覗き込んだ。

「……あれは」

「友達には見えなかった」

「あれはな、要するに」

「要するに?」

「要するに敵だ」

「はぁ」

「信じてないな?」

「わかんない」

「奴はな、王里神会の敵だった。昔のイザコザ相手」

「ふうん」

「奴のせいで俺は右目を失った……」

「そんときのあんたのセリフ、未だに一字一句覚えてる」

「…………言ってみろ」

「俺といると危険が及ぶ。別れよう」

 そう言って、凜は笑った。

「ああ言うしかなかった」

「映画かっつうの」

 凜はわざとらしく言ってみせた。上條はグラスの水を飲み干して、大きくあくびをした。

「言っとくけどね……」

「ああ?」

 凜は何食わぬ顔をして、言葉を止めた。言うのを躊躇っているかのようでもある。

「なんだよ」

「……泣いたんだから」

「?」

「あんたがそう言ってどっか行ったあと、あたし一人で泣いたんだよ」

「…………」

 上條は不器用に頭を掻いた。

「なんか言葉はないの?」

「…………すまない」

「……」

「…………すまなかった」

「謝ってほしくなんか……ない。でも……いいや、もう。あんたには何も求めてないからね……あたし」

「…………そうだな」

「馬鹿みたい」

「ほんとだ」

「ほんと」

「………………」

 その後、しばらくして二人はレストランを後にした。それぞれの帰路についた……。二人とも、幸せだった過去をぼんやりと思い返していたのだった。



-2-


 ホテル「Renaissance」十四号室。夜九時。

 そこには暁のイビキを無理やり聞かされる神屋、亜美、トニーの姿があった。

「さて、篠原さん。どう見ても眠そうなんだが……寝るなら十五号室で寝てくれよ」

「……なんで?」

 亜美はテーブルに顔を突っ伏して眠たげな声を発した。

「なんでって……あの部屋は君の為に用意した。ちなみに言っておくが同居人はトニーさんだからね」

「……ええ?」

 何やら小さな黒い精密機械のような物を持って部屋中をうろつくトニーの方を亜美は向いた。何をしているのか聞いたが、教えてはくれなかった。

「女性というのもある……。暁は僕がなんとかするさ」

「神屋君てそんな強かったっけ?」

「暁を逃がす足止めくらいなら……」

「ふうん」

「まぁ、とにかく君はトニーさんと一緒に十五号室だよ」

「うん、わかった」

 そう言って、亜美は立ち上がった。

「じゃあ行こう。トニーさん」

 亜美はトニーに呼びかけた。

 トニーは立ち上がり、大きな荷物を肩で背負うと、抑揚のない平坦とした声で言った。

「亜美サンノ安全ハ、ワタシガ保証シマス」

 二人は部屋から出て行き、神屋は眠っている暁と二人きりになった。

 次第に暁のイビキも治まり、部屋には漠然とした静寂が流れ始めた。

 神屋は立ち上がり、冷蔵庫からコーラを取り出した。並々とグラスに注ぐ。

 氷を入れると、ピキピキという特徴的な音が響いた。そして、一際強く氷が音を鳴らしたとき、神屋の携帯が着信音を響かせた。

 ――――プルルルルル

「はい。もしもし」

「神屋の旦那ですかい」

 電話をかけてきた主は、今日の朝、世話になった死体処理屋の男であった。

「そうです」

「報告しとかなきゃならないことがあります」

 神屋は一瞬、その声に内心身構えた。嫌な予感がしたのだ。

「今朝の仏二つについてなんですがね……、旦那、悪いことは言わねえ。早く逃げなぃ」

「……どういうことですか?」

 男は数秒の間を開けてから、弱くため息をついた。

 電話越しであったが、相手に同情するかのような念さえ感じ取れるため息だった。

「ありゃあ、ロン・クーリンと長老ですわ」

「……ろ……ロン・クーリン? ……まさか……」

 神屋はその名を聞いたことがあった。嵐の如く暴を振りかざすその男は、裏世界でも「生きる伝説」と評されるほどの腕前を持つ、屈指の殺し屋だった。

「そんな大物が……」

 神屋の額にはじんわりとした汗がにじみ出てきていた。

「ロン・クーリンの方は聞いたことがあるみたいですねぇ。奴が死んだとなれば、殺し屋界は動きますぜえ……」

「長老も知っています。裏世界では割と有名な御方ですよね。顔は実際に見たことは無かったのですが……。あれが長老だったとは」

 神屋は驚きを隠せないでいた。

「昔は悪さばかりしてましたからねぇ。あのオヤジは。十五年程前から静かになったかと思いきや、近年になって行動が活発になったと聞きましたが……。今回の件には何か心当たりはありますかい?」

「……いや、こちらが聞きたいくらいですよ。一体どうなっているのか」

「殺し屋界の長老、板垣権三郎……。奴を慕ってる部下は多いですよ。殺されたことが知れたら、旦那もただじゃあおかれないかも知れませんぜ?」

「…………」

「権三郎が殺し屋界で名が通ったのにはちゃんとわけがあります。奴はいわば、仲介者ですわ。殺害を依頼する者と殺し屋を繋ぐ、重要なパイプの役割をしてましたからねぇ。しかも親子二代に渡ってですよ。殺し屋たちとの絆は深い。『殺しを決めたら権三郎』とまで言われたほど。権三郎は一般人との交流も幅広かった。恐らく、奴の部下が殺し屋を雇い、復讐を始めるはずですよ」

「…………復……讐」

「気をつけてくだせぇ、旦那」

「はい……。気をつけます。ところで、あっちの方はどうですか?」

 神屋は死体を処理してもらうのと一緒に、肩に付いていた盗聴器のようなものも預けていた。

「あれもなんだかわかりましたよ。あれは小型盗聴器でありながら、発信器でもある優れものですわな」

「発信器……」

「物騒な世の中になりましたわ。まぁ、あっしらの言うセリフじゃあありませんがね」

 神屋は礼を言って電話を切った。



-3-


 夜の十時を回っても神屋は眠りに就こうとしなかった。整理しなければいけないことがいくつかあったからだ。

 神屋はソファーに腰掛け、鬼頭が書いたと思われる「フロム・ヘブン」を手に取った。気になっていた箇所に目を通していく。


 ……しれないが、Kの他に、機密データを狙うものがいるのだろうか……


 ……私たちをあえて泳がせ、機会を見て、アンチマターと王里神会をまとめて消してしまおうなどという考えを持ったものが存在するのか……


 ……第三勢力」の成長に、三島が死んだ時に感づいた……


 ……得体の知れない何者かが、この勝負に介入しようとしている……


「………………」

 文を読む限り、「フロム・ヘブン」の書き手は「第三者の存在」をV事件の登場人物として推理しているようだった。

 神屋は呟いた。

「得体の知れない何か……」

 現時点で、神屋にはわからないことが二つあった。世界屈指の殺し屋ロン・クーリンと殺し屋界のパイプ役、長老、板垣権三郎がこの部屋を訪れた理由。そして、肩に付いていた盗聴発信器の出どころとその目的だ。

 ……冷静に考えればわかるはずだ。

 神屋は自分自身にそう言い聞かせた。盗聴器のことをよく思い出してみる。あれが付いていたのはいつからだったろうか?

 気づいたのは八月十日の朝、つまり今朝だ。上條に言われて、神屋は自分の肩に盗聴発信器が付いていることに初めて気がついた。上條がこう言っていたことを思い出す。

「気になってたんだがよ。会議中ずっと」

 …………つまり、付けられたのは会議が始まる前か。

 神屋はさらに推理を押し進める。

 会議から遡っていくと神屋のいた場所は、本部ビルに向かうタクシー、この部屋、ホテルに向かうタクシー、夏祭りの開催地となる。

 ……夏祭りの会場に行く前は暁のアパートで藤原と会話をした。

 神屋は一瞬、自分の肩に盗聴発信器を付けた犯人は藤原ではないかと考えたが、すぐに違うということに気がついた。藤原が神屋の肩辺りに接触するような場面はどこにも無かった。

 …………やはり、有り得るのはあそこか。

 神屋は、ロン・クーリンと板垣権三郎の訪問から答えを導き出した。あの二人は一体どのようにしてこの場所を知ることができたのか。答えは簡単だ。

 ……盗聴器の情報をたよりにしてここに来たに違いない。

 神屋は夏祭りから帰る途中、暁に行く場所を声に出して告げていた。

 それを盗聴してホテル「Renaissance」に来たのだろう。だが、二人は先に来ていたトニーに殺された。これが事件の真相だ。発信器の機能も持ち合わせていたのは、恐らく保険をかけるためであろう。

 神屋は大体の考えをまとめていった。

 しかし、引っかかる。

 ……二人の目的はなんだ?

「………………」

 盗聴発信器を付けられた場所は、まず間違いなく夏祭りの会場だ。人ゴミの中、何度も人とぶつかったのを神屋は覚えていた。肩に何かが付けられたとしても、気付くことは困難な状況であった。それに神屋は焦っていた。藤原よりも先に暁を見つけなければならなかったからだ。これらの事実から、裏で糸を引いているのは藤原である予感はするものの、神屋はまだ確信できなかった。そもそも、仮に藤原が盗聴発信器を付ける手引きをしたと考えても、おかしな点は幾つかあった。

 そうだとしたら、ロン・クーリンや板垣権三郎がやってくる筈はないのである。

 藤原が盗聴発信器を神屋に付けさせたのだとしたら、その理由は恐らく納得できるものだろう。藤原は神屋が王里神会に対して反対派であることを少なからず知っている。今回のV事件に至っては、神屋は重要関係者の外崎暁と過去に繋がりのある同級生でもあった。外崎暁をかくまっているのでないかと疑われるのは、藤原の洞察力からして仕方のないことである。それ故に、盗聴発信器を神屋に仕掛けるのは納得できる。暁との関係を探るためだ。

 しかし、問題はその後だ。

 神屋は自身に盗聴器が仕掛けられているなどとは全く思わず、暁と様々な会話をしてしまう。その内容を王里神会側に聞かれた時点で、神屋は裏切り者だとバレるわけである。神屋に付けられた盗聴器には発信器の機能も備わっているので、神屋を見つけて抹殺するのは簡単なことである。

 だが、神屋は未だに抹殺されていない。一人で夜中に王里神会本部にまで行ったが、殺されたり、拘束されることもなかった。本部で会議にまで参加していたのだから、拘束するチャンスは余るほどあったはず。

 …………つまり、僕は王里神会に裏切り者だとバレているのに、泳がされているというのか?

 だとしても理由がわからない。王里神会のV事件に関しての目的は、機密データを鬼頭から奪回し、彼を殺害することである。しかし、肝心の彼の居場所が分からないから、その居場所を知っているとされる外崎暁と篠原亜美を拘束しようと動いているわけである。

 しかし、ここでもさらに疑問が浮上する。外崎暁と篠原亜美は鬼頭火山の居場所を知っていると、どうして王里神会側はつかんでいるのだろうか。

 神屋はもう一度「フロム・ヘブン」に目を通した。


 ……私はその存在に、「第三勢力」の成長に、三島が死んだ時に感づいた……


 第三勢力……。

 神屋は直感した。全ての答えは、この第三勢力が握っていると……。

 つまり、第三勢力は方法は定かではないが、外崎暁と篠原亜美は鬼頭火山の居場所を知っているということに気づいたのである。

 しかし――――。

 神屋は顔をしかめた。

 …………本来、そのことを知っているのは、メールを受け取った僕と送り主の鬼頭、その二人だけであるハズだぞ……!? 情報が漏洩する余地はなかった筈である。ここで神屋は、気になっていた箇所をもう一度見た。


 ……れだけのことを、あれだけスムースに実行するには、予知能力でもなければ不可能だ。

 敵は私たちの行動を、正確に読んでいた。いや、知っていた……


 神屋の中で何かがはじけた。この文章の中で、絶大な影響力を持つ言葉が神屋の中で揺らめいている……。

 それはまさしく、インスピレーションでもあった。

「…………予知能力」

 もしも、もし仮に、第三勢力が予知能力を携えていたとしたら?

 全ての答えに明確な理論が発生するだろう。

 外崎暁と篠原亜美は、後に鬼頭火山の居場所を知ることになる……。そうわかったとしたら、王里神会は暁たちを捕まえようとするだろう。

 ……いや、しかし、何故なんだ? 何故僕は殺されない? まさか、盗聴発信器を僕に仕掛ける手引きをしたのが……。

 藤原ではなく、第三勢力だとしたら……。

「その可能性は高い」

 ……いや、待てよ。もしそうだとしても、第三勢力の目的は何なんだ?

 神屋は頭を抱えた。

 ……ロン・クーリン。板垣権三郎。

 ま――――まさか!!

「そうか……!! あの二人は第三勢力か」

 二人は王里神会と接点も交流もないことを、神屋は知っていた。

 だが、それにしても、何故二人がこの部屋に来たのかはわからない。誰かに会いにきたのであろうが、それが何のためなのかわからない。

 神屋は顔を両手で覆った。

「……ふぅ」

 ……明日、暗号を解くために体力を残しておかなきゃな。それにしても、フフ、予知能力か……そんなものがでてきたら、太刀打ちできるはずがないなぁ……。

 神屋は電気を消して静かにベッドルームに向かった。

 ……またあとで考えよう。

 神屋は暁の眠る隣のベッドに崩れた。神屋は目を閉じた。次第に世界がまどろみ始めたのを楽しんでいた。

 ……神よ。いるならば、いるならば……。

 神屋は眠りに落ちてしまった。

 真っ暗な十四号室に静かな寝息がたった。



-4-


 神屋が眠りについた頃、ホテル「Renaissance」の周辺では、夜の暗闇に潜む醜悪な男たちが不気味に笑みをこぼしていた。十四号室を外から監視していた彼らは、部屋の電気が消えてターゲットが眠りについたと判断した。

 男の一人が携帯電話で話し始めた。

「セシル様……。ターゲットのいる部屋の電気が消えました。恐らくは眠りについたと考えられます」

 電話の向こうでは、セシルが何食わぬ顔をしていた。

 ……主とロンを拘束しているとしたら、部屋の電気は消さないはずだ。わざわざ暗闇を作る必要はない。

「まだ突入するな。罠かもしれない」

「ではいつ行きますか?」

「まだだ……。もう少し様子を見よう」

「はい」

「……一応聞いておくが、今、全員で囲んでいるのか?」

「はい。司令官の私を含めた十一人がホテルを囲んでいます。二人一組で……」

「よし。その中に手練れは何人いる?」

「……一人は、以前軍人だった武田という男。あと、特殊部隊上がりの今川という男。その二人ですね」

「相手は少なくともロンを上回る相当のやり手だ。心してかかるよう命じろ。失敗は許されん」

「はい。必ず二人を救出します」



-5-


 王里神会本部ビル――――セシルは藤原に電話をかけた。

「すいません。藤原様ですか」

「そうだ。何か用か? セシル」

 藤原は重々しい声で応えた。

「ホテル『Renaissance』を包囲し、ロンと主が向かった十四号室を監視しているのですが、部屋の電気が消えてしまいました……」

「中には外崎暁と神屋聖孝……そして篠原亜美がいるはずだ」

 神屋の肩に付けられた盗聴発信器から神屋や暁の会話を盗聴していたのは藤原本人であった。夏祭りで神屋に盗聴発信器を仕掛けたのはセシルだった。指示したのは藤原である。夏祭りからホテルに向かう途中での会話で、暁と神屋の宿泊する場所や亜美を連れてくることなど、様々な会話を藤原は聞き取っていた。

「いかがいたしますか」

「ううむ。中にはあの三人だけではなく、ロンをどうにかするだけの力を持った者もいる。今回の捜索は王里神会には極秘だからな……。使える駒が少ないのは仕方ない。まぁいい。突入しろ」

「しかし、罠ではないでしょうか」

「わからん。だが……相手が警戒もせず眠りこけているとは思えん。注意はさせろ」

「承知の上でしょう。しかし……どうでしょうか。突入は朝まで待ってみては」

「何故だ」

 藤原が回していたペンを止めた。

「いえ……特に理由は」

「………………フン」

 藤原の目つきが鋭くなった。

 …………私のカンよりは冴えているだろう。なんせお前は……。

 藤原はゆっくりと口を開く。

「お前がそう言うのならそうしよう。だが、今まで以上に監視は厳しくしろ」

「分かりました」

 セシルは電話を切った。

「………………」



 全ての企みを見透かしていたのは、十五号室の窓辺に佇むトニーただ一人だった。

 ホテルの周辺をうろつく怪しい影を彼は視認していた。別の建物の屋上からこちらを監視する者、車の中から監視する者、それら全てをトニーは見切っていた。トニーは携帯を取り出し長々と文を打つと、それを誰かに送信した。

「…………」

 トニーは無言で笑みをこぼすと、大きな荷物のチャックを開けた。

 そこから取り出された物は――バラバラに分解された、いくつもの銃のパーツだった。黒光りするそれらは、月明かりに反射して美しい。

 手際良く組み上げられた銃は、アサルトライフル『SCAR‐H』だ。7.62ミリNATO弾を使用するこの銃は各種のアクセサリーが取り付けられ、折りたたみも可能な伸縮式ストックや調整可能なチークパッドを備えている。イラク戦争でも特殊部隊に使用されたSCARは、接近戦にも狙撃にも使える万能ライフルである。

 トニーはSCAR‐Hにサイレンサー、スコープを取り付け、窓に向かってライフルを構えた。

 トニーは真っ暗な部屋から、敵を射程圏に捉えた。敵を静かに見据えるその目は、闇の中、最も暗く冷たかった。

 指に力が入る。微塵に躊躇う様子もなく、トニーは狙いを定めていた。狙いは、最も離れている、一人で佇む男。

 その男は無線のような物で度々仲間と連絡を取り合っていた。トニーはその男が司令官だと踏んだ。

 夜風の迷い込む網戸越しに、男の脳天を撃ち抜くべく、指が一際強く引き金を引こうとしたそのとき――――

「トニーさん?」

「…………」

 震える声を発したのは、たった今目を覚ました亜美であった。ライフルを構えて窓際に立つトニーを見て、無意識的に恐怖を感じたのか、状況を掴めていない理性とは裏腹に声は震えていた。月明かりに照らされたトニーの表情は、無を表現していた。無表情……。眉ひとつ動かさず、ゆっくりと首をひねる。

「…………亜美サン」

「……何……してるの?」

 トニーはニッコリと笑い、小さな声で亜美に告げた。

「電気ハ点ケナイデ下サイ。静カニ部屋ヲ出テ下サイ。神屋サント暁サンノ所ニ行ッテ下サイ」

 亜美は携帯電話と暁に貰った宝石をポケットにしまうと、玄関の前まで行き、後ろを振り返った。トニーは亜美に背を向けたまま、ライフルを構えている。月明かりがトニーを青く照らす…………。

「行ッテ下サイ」

「……トニーさん……!!」

「ワタシハ平気デス。亜美サン……コレカラココヲ移動スル事ニナリマス。ワタシガ手筈ヲ整エテオキマシタ。詳シイコトハ神屋サンニメールデ伝エマシタ……。マタ会イマショウ」

 トニーは一度も振り返ることなくそう言った。亜美は応えず、部屋を出るしかなかった。

「ハァ……ハアッ」

 部屋を出てゆっくりドアを閉めると、亜美はすぐに隣の十四号室をノックした。

「早く出て……!!」

 すぐにドアは開かれた。開けたのは神屋だった。そのすぐ後ろには、金髪頭の暁が不機嫌そうな顔で立っている。

「入ってくれ」

 神屋に施され、亜美は急いで十四号室に足を踏み入れた。

「どうなってるの!?」

 亜美は小さな声で、しかし強く尋ねた。

 神屋の表情が焦っていた。少し呼吸も乱れている。

「さっきトニーさんからメールがあった。どうやらここは包囲されて監視されてるようだ。…………トニーさんが隙を作るからその隙に僕たちは逃げる」

 神屋の目がせわしなく動いていた。神屋はドアの隙間から廊下を覗き見た。

「……さっさと逃げよう」

 壁に手をつき、下を向いたまま額を押さえて動かない暁がそう言った。

「ああ、そうしよう。よし、付いて来てくれ。離れるな」

 神屋は音もなく部屋を出た。その後ろに亜美、最後尾に暁。

「ふぅ……ふぅ……」

 神屋のただならぬ剣幕に、亜美は緊張を覚えた。

「……トニーは残るのか?」

 暁が呟いた。

 亜美は後ろを気にしながら神屋について行く。

 神屋が曲がり角で止まった。ばったり敵と出会ってしまうかもしれない。暁と亜美も止まった。

 ……仕方ない。

 神屋が上着の内ポケットから取り出したのは……

「え」

 亜美は思わず声に出して驚いてしまった。まさか神屋が銃を所持していたなどとは思っても見なかったからだ。

「こんなモノは使いたくなかったが……今は緊急事態。最終手段だ」

 神屋は驚愕する暁と亜美に向かって微笑んで見せた。額には汗が流れた跡がくっきりとしていた。

「このハンドガンはベレッタM92F。スタイリッシュだろ? イタリアが誇る信憑性の高い有名なハンドガンなんだ」

「Dだな……その説明は」

 暁は目に隈を浮かべながらそう言った。持っている荷物が重そうだ。神屋は一瞬だけ笑った。

「早く行った方がよくない?」

 亜美が心配そうに言った。

「そうだね。さて、万が一敵に出くわしたら……わかってるよね。僕がなんとかするから……二人は逃げるんだぞ」

 神屋の表情は今までにないくらい真剣だった。

「……ホテルの裏にあるんだ」

「??」

「トニーさんが手配してくれたらしい。もう一人の僕たちの協力者……高木さんの車が」

「車? それに乗って逃げるのか?」

「ああ……高木さんが待ってる。早く行こう」

 神屋はまるで映画のワンシーンを連想させる銃の構えをとって見せた。

 神屋が走った。

「走れ!!」

 暁と亜美は神屋の後ろに恐る恐るついて行った。どこから敵が現れるか分からない。

「やっぱあれか!?」

「なに?」

「今回の敵は、あの二人の仲間か!?」

 暁が言うあの二人とは、クローゼットに入っていた死体のことである。

「そうだろうね。多分、王里神会ではないね……多分」

「はっ! わけわかんねぇなぁ!! くそ」

「静かに!」

 神屋が銃を内ポケットに戻した。受付の人間に怪しまれない為だ。

「大丈夫か!?」

 暁が誰にともなく聞く。

 亜美は不安げに辺りを見回すだけだ。

 三人はホテルを出た。

「こっちだ! 走れ!」

 神屋が走る。暁は夜の駅前を駆けた。夜風が頬を撫でた。

「ハァ……ハァ……ハァ……――――」

 ……そういえば、あのときもこうして走ったのを覚えている。鳴海……。

 暁は止まった時間の中、思い出したくない過去を思い出していた。胸の辺りが締め付けられる感覚が、あのときと酷似していたのだ。

「……ハァッッハァ」

 一台の黒い車が見えた。神屋はそれに向かって走っている。

「乗れ!」

 神屋はドアを開けながら叫んだ。助手席に乗り込む。

「ハァハァハァ!!」

 暁はやっとの思いで車にたどり着き、後部座席に乗り込んだ。亜美も暁の反対側から車に搭乗した。

「出してくれ!」

 神屋が息を切らしながら、隣に座るドライバーに言った。

 高木は車を発進させた。



 暁たちを乗せた高木の車が発進したとき、トニーの放つ弾丸は既に四人の敵を葬っていた。

「くっそ! こちらA地点の桑島だ! 阿部がやられた!」

「こちら上田! 既に司令官はやられた模様だ! どうする!?」

「こちら近藤! 既に宮寺とホテル内に侵入した! ……現時点で外にいる者は死体を回収して引け! うかつに姿を現すな! 敵はどうやら十四号室の隣から撃っている模様だ! 今から突入する!」

 ――――……トニーはホテル外の敵への射撃を中止し、ライフルを放り投げた。

 トニーはハンドガンを腰から取り出した。H&K Mk23……日本では「ソコムピストル」として知られる。合衆国特殊作戦軍の要望を全て叶えた、ドイツH&K社製造のパーフェクト拳銃だ。砂漠や寒冷地、水中でも正常に作動する、30000発撃っても壊れない装弾数多めという完璧な拳銃だが、大柄で重くなってしまったソコムピストルは、肝心の特殊部隊では不評とも言われている。

 サイレンサーを付けたその全長は245ミリ。トニーは2キロ近くあるH&K Mk23を手に、壁の影に身を隠した。

 十四号室と十五号室の前では、四人の男たちが息を切らしていた。

「受付に見つかってないだろうな」

「大丈夫だ。全員裏口から入ったんだろ?」

「ああ……」

 元軍人の武田が声を殺して言い放った。

「俺が指揮をとる」

 残りの三人はそれに同意した。武田の目は血走っていた。

「……いいか。敵はロンという伝説の殺し屋を上回る相当な実力者だ。もしかしたら単独ではなく複数かもしれん。今回、事を大げさにしないため銃を持ってこなかったのが裏目に出たが……仕方がない。敵は銃を所持しているが、こちらは素手で敵を殲滅しなくてはならない」

 武田を含めた四人は息を呑んだ。夜の殺し合いが始まろうとしていた。



-6-


 ホテルに侵入したのは四人。元軍人の武田。柔道経験者の近藤。現役のキックボクシング選手である宮寺。そして、特殊部隊に所属していた経験を持つ今川だ。四人とも武器は所持していない。

「つべこべ言っている暇はない。すぐにでも突入するぞ」

 武田が鬼の形相で言った。

 すると、宮寺が悲願の表情を浮かべ、武田に迫った。

「……待ってくれ。ま、待ってくれないか?」

「何だ」

「俺には……妻も子供もいる。頼む……頼むから……降ろさせてくれ!」

 宮寺は自分よりも一回り体の大きい武田に、泣いてすがる思いだった。

 自分はまだ死にたくない。宮寺は武田に必死で訴えていた。武田の服を掴み、目に涙を浮かべてわめいた。

「……いい加減にしろ!!」

 武田の図太い声は、聞く者を震え上がらせる響きを持っていた。宮寺は大人気なく涙を流すばかりだ。

 武田は宮寺の襟元を両手で掴むと、彼の顔をグッと自分の顔のすぐ近くに引き寄せた。

「もう我々は引き返せない……!!」

「……ふ……う……う……」

「お前はそれでもKの信者か!? 結局、我々のしていることは全てKの為なんだ。突き詰めればな……。いいか、死など恐れるな。我々はKの配下、命令に従うだけだ」

「……は……はい」

 武田は宮寺を乱暴に突き放すと、他の二人に向かって言った。

「今川、お前は十四号室に行け。ロンと板垣権三郎を救出するんだ。近藤、お前は俺と宮寺の三人で今から十五号室に突入する。気を引き締めろ」

 今川の額には一筋の汗が流れた。

「罠があるかもしれない。お前ならなんとかなると思うがな……気を付けろよ」

 武田は今川の目を見て念を押すように言った。武田がこの中で一番信頼しているのは今川だった。だからこそ今川を一人で行かせることにしたのである。

「……フゥッ……フゥッ!!」

 宮寺は半ばパニック状態に陥りながらも、必死の剣幕で十五号室の扉を睨みつけている。その様子を見て、近藤は唾を呑み込んだ。

 ホテルは異様な静けさを醸し出している。特にその色が濃いのは、目の前にある十四号室と十五号室の周辺だ。未開の洞窟を思わせる不気味さが漂う…………。

「行くぞ」

 武田は十五号室のドアに手をかけた。

「鍵が掛かっている」

「鍵?」

「うぉえっえぇ」

 宮寺が嘔吐したのは、極度の緊張からだった。

 武田は一旦ドアから離れた。

「近藤、三つ数えたら、ドアを蹴破れ……いくぞ。一、二、三!!」

 近藤と武田は同時にドアを蹴った。思ったより大きな衝撃はなく、ドアは壊れた。外から中が伺える状況になった。

「…………!」

 部屋の中から、実体なき悪風が静かに吹いてきた。

 その冷たい空気が武田の肌を触れたとき、命を賭す覚悟をしていたはずの彼の心は一瞬怖じ気づいた。そのことに武田自身が最も驚いた。

 無意識に彼の手は震え、それを見た近藤の額にも大量の汗が噴き出していた……。

「……あ、悪魔がいる」

 宮寺は廊下でひざまずきながらそう言って笑った。

 真っ暗で、恐ろしい邪気の垂れ流れる十五号室を見つめ、武田は言った。

「近藤……行け」

「ヒヒヒヒヒヒ」

 宮寺が涎を垂らしながら金属音的な笑い声を漏らした。

 近藤は慎重に部屋に入っていく……。

 その近藤の後ろ姿を見ながら、絶望的な表情をする今川は、とうとう覚悟を決めたようにしてドアから離れた。

「……みんな死ぬ」

 宮寺は何かをブツブツと呟いている。その光景を傍目に、今川は十四号室のドアを蹴破った。

「立て」

 武田に命令された宮寺は、ゆっくりと立ち上がった。

「行け」

「ひ……ひ」

 宮寺はスゥーッと、音もなく十五号室に入っていった。

 その頃、近藤を包み込んでいたのは、全身が凍りつくほどの恐怖であった。だが、柔らの道を堅く信じる近藤は、歩を止めることなく部屋の奥へと進んでいった。

 張り詰めた空気。殺すか殺されるかの闘い……。勿論、近藤には初めての経験である。リビングにたどり着くと、近藤は電気を点けた。

「…………」

 まばゆい光が近藤の視界を一瞬遮った――――チュンッ!

 ……音がして、近藤は倒れた。彼が最後に感じ取ったのは、頭蓋骨への超局部的な衝撃だった。つまり、近藤は脳を撃たれれて死んだのだ。

「うッッ」

 その一部始終を宮寺は見ていた。

「武田さんッ!! いました!! ヒットマンです!!」

 宮寺は叫んだ。

 武田はその声を聞いて入室してきた。

「どこだ!? そいつは!! 俺がひねり殺してやる!!」

「近藤が撃たれました!」

「物陰に隠れろォ! 死ぬぞ!」

 宮寺は壁に貼りつくようにして息を殺した。

 武田は堂々とリビングに入り、倒れた近藤を見下ろしてから辺りを見回した。

「……ふぅ……ふぅ」

「武田さんッ」

「静かにしろッ」

 武田がベッドルームを凝視した。

「………………」

「武田さんッ……!」

「……ベッドルームだ」

「!!」

「……奴はそこだ」

「…………どうします?」

 宮寺は武田と離れた所で壁に身を預けていた。

 武田はしゃがんだまま、真っ暗なベッドルームをただただ見ている。

「武田さん……銃がないと無理です! 死にます!」

「……ふぅ……ふぅ……!!」

「…………ッッ……!」

「おい!! そこにいる男! 板垣とロンはどうした!?」

 武田に直接トニーの姿が見えたわけではなかった。武田はベッドルームからの気配を感じ取り、声をかけたのだ。

「……板垣とロンはどこだ!?」

 トニーはその質問に応えることにした。

「十四号室デス……」

「!!!!」

 無論、それは嘘だった。

 既に二人は死に、死体は処理された。

「……貴様は誰だ!」

「……ヒットマンデス」

「殺し屋か……! わかった! 取引しよう! こちらはお前に手を出さん……代わりに、板垣とロンを返せ」

「ワカリマシタ」

 武田は立ち上がり、早足で部屋を出た。宮寺を見ると、武田は強く言った。

「お前はここを見張っていろ」

「……はい」

 トニーは暗いベッドルームで拳銃を手に佇んでいた。彼のもう片方の手に握られているのは…………。

 武田は勢いよく十四号室に入ると、戸惑いを隠せない様子の今川に出くわした。

「あ……ぁ……」

「どうした!? 二人はいたか!?」

「い、いま……せん」

「バカな! いるハズだ!」

「探しましたがいません!」

「ちゃんと全部探したのか!?」

「全て確認しました。どこにもいません……ただ……」

「ただ? なんだ?」

「ただ……おかしな物が」

「何だ?」

 ――――チュンッッ

「!?」

 ……ドサッ

「何だ……?」

 武田が首だけで振り返った。今川の息遣いが荒い……。

「……宮寺」

「敵は……」

 ――――ドオォンッッ!!

「うっああ」

「オオオオ」

 爆発が起こった。

 十五号室だ。

 突然の事態に、今川と武田は慌てふためいた。

「な、なんだあ」

「隠れるんだ! 早く…………!!」

 二人はベッドルームまで退いた。

「何があった……」

「爆発……」

「宮寺は無事なのか!?」

「わかりません……」

「……ハァ……ハァハァ」

「…………!! まさかぁッッ」

 今川は飛び上がった。

「何だ? どうしたッ」

「……あれは小型の爆弾だったんだ!! 逃げろ!」

 ――――ドドドドオォンンッッッ

 ……トニーが片方の手に持っていたもの、それは超小型爆弾のスイッチであった。

 トニーは二部屋が炎に包まれるのを見ると、荷物を背負って早々にホテルから出て行った。



 ――爆発が起こったちょうどその頃、高木の車の中では簡単な自己紹介が行われていた。

「――――……名前は高木海。海って書いて『カイ』と読むんだ。まだ二十二歳。周りにはもう少し老けて見えるらしい」

 そう言って、夜の街を走るドライバー高木は笑ってみせた。

「俺は王里神会ではないけれど、神屋とトニーの仲間だよ。だが…………昔は王里神会の幹部だった。随分前に脱会した…………」

 暁も亜美も黙ったままだった。無理もない。二人は精神的にかなり疲労していた。

 助手席の神屋が口を開く。

「高木さんのことは言ってなかったからね……二人には。そろそろ気になってきたところだろうから教えておくが、僕たちの協力者はトニーさんと高木さんの二人だけ……二人以外にはもういない」

 暁は返事をしようとしたが、口が開かなかった。

「戦闘要員はトニーさんだけだが……何の暴力も持たなかった『アンチマター』に比べたらまだ良い方だ」

 ため息混じりに神屋は呟いた。

 亜美は疲労のせいか、既に眠ってしまった。

 ――――十分ほど経つと、暁が重々しく口を開いた。

「どこに向かってるんですか? 高木さん」

「俺の家だよ」

「え……これからそこが活動の拠点になる感じかぁ……」

「なかなか広いぜ? なぁ神屋、お前来たことあるよな?」

「ええ、まぁ、確かに普通の家よりかは豪華な感じで……広かった覚えがありますね」

 暁の肩に、亜美の頭が触れた。暁は亜美の頭を反対側に押しやると、腕を組んで目をつむった。そのまま質問を続けた。

「……家はどの辺りですか?」

「なに、さっきの駅から五キロ以上離れたとこだよ。もうちょっとかかるな」

 高木が口を閉じると、今度は神屋が口を開いた。

「暁」

「なんだ……」

「ひとつ聞いていいかい?」

「……なんなりと」

「カレー味のうんこと、うんこ味のカレー。どちらかを選び、食べなければならない運命ならば、君はどっちを選ぶ?」

「………………………………………………………………………………UDestだな」

「ゆうですと?」

「アルティメットどうでもよすぎるの略だ……Dの派生語。Dの最上級型」

「……僕だったら、カレー味のうんこを…………」

「……まさかな」

「えら…………」

「うん……」

「ぶ」

「………………」

 暁は頭をむしり掻いた。何本か毛が落ちた。

「……一見、Dだと思われがちなこの問いだが、案外Dではないと、最近になって思うようになった」

 神屋は真剣な表情で言った。

「…………」

 暁は無言だ。神屋は続ける。

「よく考えてみてくれ。暁。きっと君もカレー味のうんこを選ぶはずだ」

「……」

「そもそも、うんこ味のカレーなんて食えるわけないじゃないか」

「じゃあテメエはうんこが食えるのか」

「要するに調理だよ。味を変えたと考えればいい。如何にうんこだろうが、それがおいしいカレー味ならば、僕は食える」

「……勝手に食ってろよ」

 暁は力無く笑った。



最後何の話だよ!ww


まぁ、でも、どっちかといったら……w

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