再始動
今回、大方の謎は解けてきます。
ホテルに戻った暁と亜美は、各部屋でシャワーを浴びて、用意していた服に着替え、再び神屋のもとへ集結した。
「さて……と。じゃあこれから、僕の元にメールが届いた後、どういう経緯で現在に至ったか、話そうと思う」
神屋はそう言うと、コーヒーを一口飲んで、軽く深呼吸をした。
「ああ、頼む。このメールの終盤での、俺の名前の登場の仕方に、違和感があったんだ」
暁はテーブルのプリントを指差した。今から数分後には神屋の情報と自分達の情報とが共有される、そう思うといよいよスタートラインに立った心地がする。
「僕は二十一日の晩、あのメールを受け取った。そしてすぐに二十二日、この街にやって来た。そして君たちの通う高校、私立月代学園高等学校に向かった。しかし、タイミング悪く、その日から夏休みになってしまっていたんだ。まぁ、それもありえるとは思ってはいたけれどね」
神屋はメールを受け取ってからの経緯を、説明し始めた。
すると暁がすぐに疑問を投げかけた。
「だが神屋、お前はその後、一度俺を追って田舎に帰って来たよな?」
「ああ。僕は二十二日から、君たちの情報を集めていた。都合悪く新型インフルエンザなんかが流行して、部活動も活動的ではなかったし、なんせあの巨大な学園の生徒から君たちの情報をピンポイントで聞き出すのは困難を極めた。二十五日には、ついに王里神会も君たちの名前が書かれたリストを発表した。だから僕は調査員に立候補して、王里神会の調査をなるべく防ごうとした。そんなことをしている間に、七月も終わりかけていて、僕は焦りを感じだした。そして、一か八かある賭けにでたんだ」
「賭け? そもそも何でお前は、同級生の俺をすぐに見つけられなかったんだ?」
「そこが賭だったんだよ、暁。僕は篠原さんの協力者が『トザキアキラ』だとは、メールで知っていたけど、その『トザキアキラ』が、僕の小学校の同級生の『外崎暁』だとは知らなかったんだ。前にも言っただろう? 鬼頭火山に巻き込まれた君がたまたま僕の同級生だったに過ぎないって。漢字表記が判っていれば気付きえたかもしれないけれど、音だけでは同姓同名の人間はいくらでも居る」
それは、改めて暁と亜美を驚かせる話だった。そんな偶然が実際に起こるとは、到底想像できない。
「えっ、神屋くん。つ、つまり、賭けっていうのは、メールに書いてあった人物が神屋くんの同級生の暁と同一人物だという可能性に賭けて田舎に帰ってみよう……っていうことだったの?」
亜美は身を乗り出して訊いた。神屋は再びコーヒーを口にすると、穏やかに微笑した。
「そういうこと。僕は暁がこの街に引っ越したなんて知らなかったから、まさに一か八かの賭けだった。だけど、いざ田舎に帰ったら、暁がこの街で一人暮らししてるっていうから、僕は驚いたよ。せっかく田舎に帰ったけど、とんぼ返り。街に帰ったら、今度は暁と篠原さんの関係を探った。王里神会も、君たちの自宅を見つけるのに手間取っているようだったし、君たちに会う前に、情報を収集しておきたかった。そして、八月八日、暁に会った。だが、僕は暁の状態が予想と違うことに気が付いた。メールには『虚構を伝える』とあったし、てっきり暁と篠原さんは既にある程度の情報を知っているものだと思っていたが、暁は驚くほどに何も知らなかった。そこで、僕は作戦を変え、取りあえず暁に仲間として助けてもらおうと考えた。しかし案の定、拒否されてしまった。そこで僕は、暁から鬼頭火山の居場所を聞くのを諦め、篠原さんとの自力での接触を試みた。丁度、その日、別件で訪れた学校で佐藤静枝と会うことが出来て、篠原さんの自宅も分かった。しかし、その日の晩、ある問題が浮上した」
「問題…………鮎川の暗殺か?」
暁は神屋を先回りして答えを出した。
「そうだね。発端はそこにある。鮎川の暗殺が会議で決定したこと。それが僕を焦らせた。しかし、さらに大きな問題が昨日の夕方に起きたんだ。メールにもあった王里神会幹部、藤原が僕にこんなことを言ってきたんだ。『鮎川暗殺が済めば、部下の手が空く。そうなれば重要関係者二人を捕らえることも出来る』と。藤原はいつの間にか暁の自宅の場所を知っていた。つまり、祭りが終わり、暁が自宅アパートに戻れば、藤原の部下によって拉致される心配が生じたというわけだ。それによって、僕は暁を探しに祭りの会場に赴き、無事君たちをホテルに移送することに成功した……」
神屋は「これで全てを話したことになるよ」と言って、コーヒーを一気に飲み干した。
「俺たちがのんきに遊んでたときに、そんな攻防が展開されていたとはな……」
暁は真面目な表情で呟いた。
「何かウソみたいよね~」
対照的に、亜美は他人ごとのような反応を示した。
「僕としては、篠原さんまで何も知らない状態だったもんだから、何を何処で間違えたのか……と真剣に悩んでたんだけどね……」
「ウチら、二人とも何にも知らないけど、大丈夫なのかしら?」
亜美は急に不安になったように、神屋に尋ねた。
「要は、君たちが捕まったとき、安全を確保するための予防策なんだと思う。何も知らなければ、何も話せないわけだからね。だから、鬼頭火山の隠れ場所は必ず君たちが解いた暗号の中に、密かに隠されているはずなんだ。二人に何か思い当たる節は……?」
「皆目見当もつかないな……」
暁は暗号の内容を軽く思い返してみたが、場所を示す何かが隠されているとは思えなかった。
亜美もまた、暁と同じ結論に至り、頭を抱えた。
数分考え込んだが、暁も亜美も、それらしい情報を得ることは叶わなかった。
「……取りあえず、亜美のアパートに行って、暗号をこっちに持って来た方が良さそうだな」
暁は、記憶から何も得られないことを確信し、進言した。
「そうしよう。そうと決まれば、善は急げ、だ。すぐに出発しよう」
神屋もすぐに賛成した。
そうやって、鬼頭火山の最後の暗号を解くべく、三人はホテルを出た。
残された希望を手にするために。
いやあ、センター試験ですねー。
今回以降は予約投稿なんでまだ、去年末なんですけど、未来の僕はどうなってるんでしょうか。
センターは捨てているんですけどね笑