第1話 この世界の君と 中編
「…ここは!?大会はどうなったんだ…!」
驚く隼樹の近くには4人の若い男女が立っていた。
4人とも辺りを見回しなが驚愕と困惑の表情を浮かべている。
「え…なんなんですか!?どこなんですかここ!?」
「お前ら誰だよ…さっきからどうなってんだよ!」
「花屋さんでもないしコンビニでも無くなってる…どういう事なの…?」
「これは…。一体、何が起きてるんですか」
4人はそれぞれ中学生くらいでショートヘアな褐色肌の少女、金髪ショートヘアで鋭い目付きの青年、ウェーブのかかったロングヘアの若い女性、眼鏡を掛け左目を髪で隠した青年だった。
どうやら4人とも隼樹と同じく何が起きたのか理解できていないようだ。慌てふためく5人の目の前に突然1人の男性が現れた。それも扉から出てきたのではなく、何も無いところからいきなり現れたのだ。
「落ち着きたまえ。君たち5人は私が集めた。」
「…………」
その男性の登場とその言葉に5人は息を呑み言葉を失う。
彼は年齢は30代~40代くらいで髪と耳が長く、瞳は閉じており、額には宝石のようなものが埋め込まれていた。服装は不思議なローブのようなものを身にまとっておりどこか神秘的な雰囲気だ。
「私の名前はスアテム。突然だが、私は人間ではない。この世界の現実から離れ、人智を越えた力を持つ存在…君たちの言うところのいわゆる超存在…「ガーディス」の1人だ。ここは我らの秘密基地の作戦会議室。我々の技術で君たちをここに空間転移させて連れて来たのだ。」
長髪の男性…スアテムの発言は突拍子も無さすぎて耳を疑うようなものだった。5人の表情は更に困惑に染まっていく。
「は、はぁ…?超存在???空間転移???」
隼樹の頭にはハテナマークが浮かんだ。その横で金髪の青年が乱暴な言葉使いでスアテムに反抗的な態度をとる。
「集めた?人を拉致…誘拐しておいて何言ってんだよ…挙げ句は自分は人間ではない?狂ってんのか、このオッサン」
「あの、あんまり刺激しない方が…私たち何もわからないうちにここに連れてこられたみたいですし…何をされるかわかりませんよ…(小声)」
「そうですよ。だってこの人、いきなりここに現れましたよ。本当に人間じゃなかったりして…(小声)」
「それだけでは人間では無い証拠になりません。おそらくは何か仕掛けがあるのではないかと(小声)」
そのまた横でロングヘアの女性とショートヘアの少女と眼鏡を掛けた青年がこそこそと話す。その表情からはスアテムへの不信感が表れていた。
「ふむ。見せた方が早いか…」
5人が警戒する様子を見ながらスアテムは顎に手を当てながらそう呟く。瞬間、彼の背中から大きな純白の羽が現れる。その姿はまさに天使のようで現実離れした美しさだった。隼樹は驚き大きく口を開ける。
「翼が…生えた…!?それ本物なのか!?」
「本物だとも。更にこう」
次にスアテムの姿がみるみる縮み、翼が生えた猫の姿になり机にぴょこりと飛び乗った。
「猫ちゃんになっちゃった!?」
「さ、触れます!ホログラム映像とかじゃないですよこれ。ちょっとかわいいかも」
ショートヘアの少女が猫になったスアテムの背中を指でつんつんと触る。それに対し金髪の青年が引いた顔でツッコむ。
「お前よくそんな得体の知れない猫オッサンを触れるな!?」
「猫オッサンでは無いのだが…超存在なのだが。ちなみに空も飛べるぞ」
「喋りながら羽でパタパタ浮いています…。一体どういう原理なんですか…」
空を飛ぶ猫の姿をしたスアテムを見て眼鏡を掛けた青年がふるふるとその眼鏡を押さえるリアクションをとる。猫スアテムは華麗に宙返りすると元の姿に戻った。
「元々この人間の姿も君たちに合わせたものだが。どうだ、信じてもらえたかね?」
「…………」
5人はスアテムを見つめながら言葉を失う。その顔は目の前で起きた事を素直に信じましたというものではなかった。彼、彼女らは現実離れした現象を受け入れられず余計に身構えてしまう。
「……いや、これにも何か仕掛けがあるのかも…俺たちは知らないうちに眠らされていて、その間に幻覚剤を飲まされ、現在、幻覚が見えているという可能性もあり得るのでは?」
「幻覚!?なんだか怖いなぁ…」
眼鏡を掛けた青年の話す可能性にロングヘアーの女性が身体を震わせる。その可能性を聞き、隼樹は少し疑問に思い意見を言う。
「でも皆が同じ内容の幻覚を見るかな…?」
「それに猫触った時ふわふわでしたよ」
「それはお前がスアテムとグルで真実みを持たせるために嘘をついてるのかもしれないだろ」
ショートヘアの少女の言葉を信じられないのか金髪の青年はを疑いの目で見つめる。その眼差しに少女はムッとした顔つきになるのだった。
「そんな卑怯な事、私はしませんよ!」
「どうだか…。僕達はお互いの事を何も知らないんだ。信用なんてできないだろ。しかもこんな意味不明な状況なら尚更だ」
金髪の青年がそう言うと皆黙り込む。彼の言葉の通り全員初対面で素性を知らないまま不可解な現象に巻き込まれている。そんな状況で懐疑心を抱かない方が難しいのかもしれない。
「…………」
「幻覚剤など使って無いのだが。まあ信じられなくても無理はないか…。だが一刻を争う事態なのだ。唐突ではあるが迅速に話を進めさせてもらう。
遥井隼樹、澪瀬瑠花、颯真輝晃、彩愛結柰、対輪零士…君たち5人に頼みがある。そのためにここに集めた。」
難しい顔で5人が静まる中、 スアテムはそれぞれの名前を呼びながら、手でその人物を示した。
集められた隼樹以外の4人は中学生くらいでショートヘアな褐色肌の少女が澪瀬 瑠花、跳ねた金髪ショートヘアで鋭い目付きの青年が颯真 輝晃、ウェーブのかかったロングヘアの若い女性が彩愛 結柰、眼鏡を掛け左目を髪で隠した青年が対輪 零士という名前だった。
「当然のように僕達の名前を知ってんのかよ…怖…」
「頼み…?俺もこの人達もあんたに面識無いみたいだけど…何の頼みがあるっていうんだ?」
「長い話になる。そこに座るといい」
スアテムに勧められ5人はしぶしぶ適当な椅子に座る。
「はじめに…今日、君たちの身の回りで何かおかしな事は起こらなかったか?」
スアテムが尋ねると5人は少し戸惑いながらもそれぞれ遭遇した出来事を簡単に説明しはじめるのだった。
「ああ、起こったよ。俺はインラインスケートの大会に行ったら会場が無くなって大会も今日じゃ無くなってた…」
と隼樹。
「私、柔道やってるんですけど柔道場がピッカピカに新しくなっていました!」
と瑠花。
「…親父の会社が消えてた」
と輝晃。
「お気に入りの花屋さんがコンビニになってたの…」
と結柰。
「借りた本を返そうと近所の図書館に行ったら無くなっていて…本も別の図書館で借りた事になっていました」
と零士。
「それらは全て時間軸に「傷」が付けられ、「エラースクロー」と呼ばれる時間軸を歪ませる怪物が発生している事が原因なのだ。」
スアテムの口から再び理解に苦しむ発言が放たれると5人は再びざわめきだす。
「か、怪物?」
「なんかまた訳のわからない事言い出したぞコイツ」
「まあ今の時点で言われても分からないだろう。1から説明する。これを見てくれ」
スアテムが機械を操作すると、部屋にある一番大きなモニターに小型の獣のような怪物が写し出される。その姿は闇に染まったような色合いでおどろおどろしく、手には鋭い爪、口には尖った牙があり、狂暴そうな見た目をしていた。
「何ですかこれ…CGのバケモノ?」
「これがエラースクローだ。CGではなく本物だ。エラースクローには実物が存在している。」
「は…?こんなのが現実にいるわけないだろ!」
「でもこの人、さっき猫になってしゃべって空飛んだぞ?もう俺達の常識なんて通用しないんじゃないか…」
「だけど、さっきのだって何か仕掛けがあるかも知れないよね…この人、実は凄腕マジシャンなんじゃないかな?」
「凄腕マジシャンでは無いのだが…超存在なのだが。ところで君たち、平行世界…パラレルワールドというものは知っているだろうか?」
結柰にマジシャンと言われて納得できなそうにすぐ否定したスアテムは何か意図があるのか話題を変える。パラレルワールドを認識しているか…その問いに対して頷く者も首を傾げる者もいた。
「よくアニメとかにでてくるやつですよね。別の私達が存在しているっていう…」
と瑠花が言う。パラレルワールドは現在、様々なフィクション作品で題材にされている。彼女もフィクション作品を通じて知っていたのだろう。
「ある世界から分岐してそれに並行して存在する別の世界の事を平行世界…パラレルワールドといいます。」
「えーと…なんとなくはわかるんだけど…分岐…?なんで分かれちゃうんですか?」
疑問が浮かぶ結柰に零士がたとえ話を使って説明を始める。
「そうですね…たとえば俺が眼鏡を新しくするか、コンタクトにするか迷っている世界があったとします。選択の結果、眼鏡を新しくした世界、コンタクトをつける事にした世界、結局眼鏡を変えなかった世界、ノリで鼻眼鏡をつけてしまった世界など…様々な「もしも」の別世界が枝分かれして平行線状に存在しているのではないか?というものですね。」
なるほど~!と零士の説明に結柰が納得しているとスアテムが神妙な面持ちで一言述べる。
「この宇宙にパラレルワールドは存在する」
「!?」
その発言にひっかかったのか零士は静かだが勘ぐるように質問をする。
「俺もパラレルワールドが存在していたら…と想像することはありますけど…。パラレルワールドの存在は科学的には証明されていません。どうしてはっきり存在すると言いきれるのですか?」
「我々が観測しているからである。我々ガーディスは、古から神の命により地球の時間軸の秩序やパラレルワールドを監視し守護する存在だからだ。まあ、私を含んだ我々のほとんどが神に直接会った事は無いがね」
「………理解し難いです。あなた達はパラレルワールドを観測できるというのですか!?」
「う、うさんくせぇ…証拠もないのに信じられるかよ…」
スアテムのとてもじゃないが根拠にはならないデタラメな説明に零士と輝晃は顔をしかめる。
「残念ながら証拠を見せている時間は無い。信じられなくともパラレルワールドは存在するものとして頭に入れておいてくれ。さて本題に入ろう。少し長くなるぞ」
そう言うとパラレルワールドが存在してるかの話は半ば無理矢理終わらせられた。そしてスアテムの長く非現実的な「本題」の説明が始まるのだった。
「現在、この世界を含む無数のパラレルワールドが危機に瀕している。先程も述べたが時間軸の「傷」とこの怪物「エラースクロー」が現れ、歴史や現実そのものを歪めているためだ。
まず、原因は不明だがある時この世界の時間軸に「傷」が付けられた。時間軸には目には見えないが歴史を紡ぐ時間エネルギーというものがあり、脈動の糸のように絡み合って時間軸が形成されているのだ。それを不安定にし、乱すものが「時間軸の傷」だ。
そして「時間軸の傷」から異次元空間が作り出されてエラースクローが発生する。我々はその異次元空間をエラー空間と呼んでいる。
エラースクローはエラー空間でしか活動できず、エラー空間外に出て直接人々を襲う事はない。
だが「時間軸の傷」とエラースクローの存在は時間エネルギーを乱し時間軸の「歴史の矛盾」を作り出す…。」
「時間軸に傷がつき、その傷によってエラー空間が作られエラースクローという怪物が発生する…」
「歴史の矛盾……?って何ですか?」
瑠花の質問にスアテムが答える。
「君たちがいるこの世界の時間軸とパラレルワールドの時間軸の境界が崩れ、この世界とパラレルワールドの場所や存在、歴史や記憶や事実が入れ替わったり混ざり合ってしまい世界の理と矛盾し辻褄が合わなくなってしまうのだ。」
「……!!」
それまで5人はスアテムの説明の意図が掴めなかったがそれを聞いてハッとする。言い回しは小難しかったが、「辻褄が合わなくなる」というワードと隼樹の頭の中で今日の大会の事と先程スアテムが言った「エラースクローが原因」が結び付く。
「もしかして…そのせいで大会会場や大会自体が存在しない事になったって事か!?」
「図書館が無くなっていたのも…」
「花屋さんがコンビニになっていたのも…!?」
「そう。今起きてるおかしな事態はこの現象により、様々な場所や場所についての人々の記憶や歴史が部分的にパラレルワールドのものと入れ替わってしまったためだ。例えば隼樹が言っている本来ならば大会会場がある場所にあったビル郡はとあるパラレルワールドではその場所に存在するビル郡なのだ。それと記憶も入れかわってる者と変わって無い者がいる。」
「じゃあ、花屋さんがあった場所に別の世界ではあのコンビニがあるって事なの?」
「ああ。他の場所も同様だ」
「記憶が入れ替わってる人といない人がいるから大会会場が消えてるのに動揺していない人としている人がいたのか…」
スアテムの説明と体験した出来事がつながり、隼樹は少し納得していた。
「「時間軸の傷」は何故か君たちの生きているこの世界の時間軸に付けられているが、同時にパラレルワールドにも影響を与え同じような事が起こっている。仕組みは不明だがな…。パラレルワールドの住人達も君たちと同じように混乱してるはずだ。
そしてこれらは全て何者かによって仕組まれた事ではないかと我々は疑っている…。」
「誰かがこれを仕組んだ…と。何故そう判断したのですか?」
零士がそう聞くとスアテムは少し難しい顔になり、長い言葉で答えるのだった。
「実は今回の時間軸の傷の発生に我々が対応できたのは何者かからのメッセージがあったからなのだ…。
ある日ガーディス本部に我々ガーディスにしか解けない暗号文が送られて来た。暗号を解くとそこには「私は神だ。ガーディスに命じる。近いうちに時間軸に強い傷が付けられエラースクローが発生する。世界を守る準備をしてくれ」と書いてあった。
時間軸の「傷」は今まで何らかのイレギュラーな事態で自然発生する事はあったがエラースクローを生み出すまでの強い「傷」が自然発生する事は一度もなかった。エラースクローの存在も古くからの言い伝えで知られていただけで本物を見た者はおらず、伝説上の存在だと思われていたからな。
我々はその神を名乗る暗号文を怪しんでいたが、近頃、時間軸に少しの不安定さが観測されていたのと何か起きてからでは遅いため、暗号文の指示に従う形にはなったが全ての世界を守る準備をしていたというわけだ。そして今日「傷」が発生した。暗号文には「傷が付き」や「傷が発生する」ではなく「傷が「付けられ」」という表現だったのでそこから傷に何者かの関与があったのでは?と我々は推測した。暗号文にどこまで信憑性があるかわからない為、確証はないが」
「神を名乗る暗号文ですか…未来予知?それとも事前に情報を知っていた?謎ですね」
「我々ガーディスは、通常時はこの星の出来事に干渉しない。だが、今回のこれはおそらく自然的な現象ではない。かつ、この星の命運に関わる緊急事態だ。直ちに対策を取る必要があると我々は考えた。
だが、我々がエラー空間に直接介入すれば時間軸にさらなる歪みが生じかえって悪影響をもたらしてしまう。そこで君たちが選ばれた。君たちにはこの変身端末を使い変身し異能力を駆使して我々の代わりにエラースクローと戦ってもらいたい。」
5人「!?!?!?」
ようやく自分達がこの場に連れて来られた理由が明かされたがあまりにとんでもない大事が身に振りかかってきたため5人は再び慌てふためく。それはまさに無茶振りであった。
「そこでそう繋がるのかよ!?」
「な、成る程…俺達はあなた達の代行者として戦うために集められたという事だったんですね…!?」
「え?え!?私達があの怪物と戦うの!?」
「まさに変身ヒーロー、変身ヒロインじゃないですか!?」
「待ってくれ!なんで俺たちなんだ…?俺、ただの一般人だぞ!?」
輝晃、零士、結柰、瑠花、隼樹は次々と思った事を口にしていた。何故この5人が選ばれたのか?隼樹の当然の疑問にスアテムは説明をするのだった。
「君達が何故選ばれたかだが…。ガーディスは異能力を使用者に発現させる変身端末「ガーディクルデバイス」を開発した。それぞれの端末には異なる異能力が眠っているが誰でも使える訳ではない。時間エネルギーの波動に適応できる素質が非常に高く、それぞれの端末の特性に合致する者のみ異能力を発現させる事ができる。
我々は異能力を発現できる可能性が高い者を探し、君達を見つけだした。まあ該当者が中々見つからず、なんとか5人まで見つかったところで時間軸の傷とエラースクローが発生したと言うわけだ」
「つまり俺達は時間エネルギーの波動に適応できる人物というわけですね…何故そんな性質が俺達にあるのでしょうか?」
続いて零士の疑問にスアテムは申し訳なさそうに答える。
「それは我々にもわからぬのだ。通常、適応者が生まれるのはごく稀なはずなのだが…。まあこんな未曾有の事態だ。もしかしたら君達が適応できる事と今起きているこの事態とは何らかのつながりがあるのかもしれない」
「あなた達にも理由はよくわからないけど、とにかく私達はその端末を使えば能力を使えるはずって事です?」
瑠花が聞くとスアテムは頷く。
「ああ「ガーディクルデバイス」を使えば、君たちに異能力が発現しエラースクローに対抗できる。」
スアテムが機械のボタンを押すと綺麗に並べられたガーディクルデバイスが机の上に現れる。それはスマートフォンのような見た目をしていた。
「これがガーディクルデバイスだ」
「………もしかしてそうやってぶっ飛んだストーリーを仕立ててその端末を高値で売り付けようって魂胆か?嘘を付くにももっとリアリティのあるものにしろよ…」
輝晃が懐疑心むきだしでスアテムに突っかかる。それに対しスアテムは表情を乱さず冷静に対応する。そして、その後に続く言葉を聞いて5人はまた驚く事になるのだった。
「全く人聞きが悪いな。金銭の要求などしない。勿論嘘でもないぞ。
ただしこれは簡単な戦いではなく当然危険も伴うものだ。しかしこのまま何もしなければエラースクローは時間軸の傷を広げるだろう…。そうなれば、この世界はパラレルワールドと混ざりあい、混沌と化す…。君たちの大切な人々は危険にさらされ最悪の場合、この世界を含むすべてのパラレルワールドはバランスを崩し崩壊する…。全ての世界が滅びるのだ。」
「!?」
予想以上の事の重大さに5人の身体はわなわなと震える。
「全ての世界が滅びる…まさか俺たちに世界の命運がかかってるのか!?」
「そんな…!?あ、あの…今起きてる異変ってそのエラースクロー?を倒せば元に戻るの?」
「おそらくは戻る。エラースクローを倒せば傷は修復され今回のエラー空間は消える。世界の異変も元に戻るはずだ。だが制限時間がある。エラースクローは発生から24時間以内に倒さないと世界は元の状態に戻らなくなる…既に5時間36分経過しているのであと18時間24分しかない。」
「制限時間付きなんです!?明日には間に合わなくなっちゃうんですね!?」
「ああそうだ。…これで大体の説明はできたのだが…理解はできたかね?」
とスアテムの説明は終わりをつげようとしたていた…。が…当然…
「全然できてないよ…頭がこんがらがってきちゃった…。」
「はい…まだ飲み込めてないというか。一気に説明されたのでちょっと整理したいですね…」
「すごく大変な事が起きてるってのはわかったけど…実感無いよ」
「パラレルワールドがあるだの、怪物と戦えだの、世界が滅びるだの…あまりにもぶっ飛びすぎだ…荒唐無稽にも程があるぞ…」
怒涛の説明と現状に結柰、瑠花、隼樹、輝晃は戸惑っていた。しかし、一方で零士1人だけは少しだけ落ち着きを取り戻していた。
「成る程、大体はわかりました…」
「マジかよ…!?わかったのかこんな説明で!?」
「話を整理するため、要約します。
何者かの手によってこの世界の時間の流れに傷がつき、エラー空間という場所が作り出されエラースクローと呼ばれる怪物が生みだされた。そして現在「傷」によって俺達の世界と他のパラレルワールドとの場所や出来事などが入れ替えられ、おかしな世界になっている。
時間の流れやパラレルワールドを守る存在「ガーディス」が直接倒そうとすると世界が更に大変な事になってしまうので元の状態に戻すためには彼らに選ばれた俺たちが変身して時間内にエラースクローを倒さなければならない。でなければ「傷」が広がり状況は悪化。最悪、世界が滅びる…。
彼、スアテムさんの言っている事が事実ならば、スーパーハイパーウルトラどうするんだこれ級激ヤバ案件ってことです。スアテムさん、合っていますか?」
今までの長い説明を要約し、内容が間違っていないか零士はスアテムに確認をとる。
「ああ合っている、すまない激ヤバ案件だ」
激ヤバ案件という砕けた言いまわしをクールな真顔で言うスアテムがシュールな場面だったが誰も今の状況で笑う事はできなかった。
「すいません。なんとなくはわかったんですけど…もうちょっと考えさせてください」
と瑠花が言うと他の3人もそれに続く。
「私も…」
「ごめん俺も」
「僕もだ」
零士の要約で少し話の整理ができたのか4人と零士は黙り、考え込む。この現実離れした緊急事態にそれぞれ何か思う事があるのだろう。
「無理を言っているのは承知の上だ。しかし、もはや時間の猶予は無い…頼む。この世界を…全てのパラレルワールドを守るため我々に力を貸してくれないか」
スアテムが深々と5人に頭を下げるが沈黙は続いた。刻一刻と時間が過ぎるが彼らは答えを迷いうつむき続ける。
このまま答えが出ず静寂が続くかと思われたその時、沈黙を破る者が現れた。それは隼樹だった。
彼は意を決したように発言し、その瞳は真っ直ぐスアテムを見つめていた
「わかった。俺、戦うよ」
「……!」
4人は隼樹の言葉に驚き、それまでうつむいていた視線は彼に向けられるのだった。
「いいのか?私から頼んだ事だが、君は何故戦う決心がついたのだ?」
そうスアテムが隼樹に尋ねると隼樹ははっきりと自分の心の内を話し始めた。
「えっと…俺、インラインスピードスケートって競技をやってるんだけどさ、ずっと競いあってたライバルが3年前、事故でもう走れなくなっちゃってさ。でもパラレルワールドが存在するって事はもしかしたら事故が起きなくて俺とそいつが競い続けてる世界があるかもしれないって事だろ?」
「ああ。我々も無数にある全ての世界の内容を把握してるわけではないが君の言う世界が存在する可能性はある」
「だったら俺はその世界も守りたい。別世界の俺達の戦いを…日常を…理不尽に失わせたくない…。他の世界やこの世界も同じだ。それぞれの俺達や皆がそれぞれの環境で精一杯頑張ってるはずだから…。
それとそのライバル…親友が言ってくれたんだよ。同じステージにはいないけどそばにいるから一緒に上を目指そうって。その言葉でやっと自分の目標が掴めた気がした。この世界の俺とこの世界のあいつとで「これから」を作りたいんだ。それを台無しにされるなんて絶対嫌だ!」
「他世界の自分たちのため…友との未来のため……そうか…。」
「なんか自分の為ばっかりだな…ヒーロー的な事をやるっていうのにさ」
「世界を守る理由が必ずしも皆の為でなければいけないというルールは無い。君なりの答えで良いのだ。隼樹、ありがとう」
隼樹は自分の正直な気持ちを包み隠さず皆に伝えた。スアテムはその言葉を受け取り、彼に礼を言う。皆も隼樹の想いを真剣に聞いているようだった。そんな中、輝晃が狼狽しながら隼樹に問いかける。
「お前はスアテムの言う事を信じるって事か?こんな訳のわからない非現実的な内容を!?」
輝晃は先程から特にスアテムを疑っていた。輝晃にとって常識を逸脱だつしているスアテムに協力するという隼樹の選択は信じがたいものだったのだろう。
「確かに信じきれないけど、世界がおかしくなったのは俺もこの目で見てる。スアテムさんの言ってることが本当だったら間に合わなくなってからじゃ遅いと思ってさ。嘘だとしても自分の目で見極めるつもりだよ」
「っ……そうかよ………」
「あの…!」
ばつが悪くなったのか輝晃が口をつぐむと今度は瑠花が椅子から立ち手を挙げ発言する
「私も戦います!皆の日常を守る正義のヒーロー…あこがれてたんです。戦うなんて柔道以外で初めてですけど出来る事があるのに何もしないでじっとなんてしてられません!」
すると続けて零士と結柰もゆっくりと手を挙げる。
「………俺もやります。人類の危機だというのに不謹慎かもしれませんがパラレルワールドや超存在が実在するかもしれないなんて信じきれませんがとても興味深くて…柄にもなくワクワクしてしまっています。まあ、怖い気持ちも強いですが…」
「わ、私も協力します!私、自然やレトロなものが好きだから…全ての世界の命と緑や文化を守りたい…!このままじゃ全部消えちゃうなんてそんなの恐ろしすぎるよ…」
「瑠花、零士、結柰も…感謝する。」
「マジか………」
「君はどうする?輝晃。」
「僕は………」
4人はじっと輝晃を見つめる。それは「一緒に戦いませんか?ダメですか?」の期待の眼差しをしていた。
「お前ら何だよその顔!?」
「えーと、できたら颯真さん…?にも一緒に戦ってほしいな~って」
「そうですね。戦力が多い方が勝率も上がります。今までの説明が本当か、一緒に確かめませんか?」
「輝晃さん、ひねくれてそ……用心深そうですし、注意深く物事を見てくれる人がいたら助かりそうだなと!私は基本直球前進しかできないので!」
「うん。無理にとは言わないけどさ、颯真さんがいたら心強いと思う」
「お前ら最初からこいつ(スアテム)とグルだったんじゃ……いや違うか……………はぁ…僕なんかに期待するなよ…」
答えを待つ結柰、零士、瑠花、隼樹に輝晃はため息を付きながら小さな声でポツリとそう呟く。その顔はどこか憂いを帯びていた。
隼樹「………?颯真さん?」
結柰「やっぱり…ダメかな?」
4人とスアテムは更にじーーーーーっと輝晃を見つめて答えを待つ。
「あーーーーー………わかったよ!怪物を倒さないと元に戻らないんだろ…僕もやってやる。けど信用した訳じゃない。スアテムが言った事が本当なのか、何か企んでるんじゃないか自分で確めたいだけだ…!」
4人「!!」
仕方なさそうにこめかみを掻きながら輝晃が協力を決めると4人の表情はぱっと明るくなる。スアテムの表情が少し和らぎ、輝晃に礼を言う。
「ああ好きなだけ確めてくれ。ありがとう…輝晃」
こうして5人の若者達は世界を守る選択を選び、この宇宙の命運をかけた戦いの幕が上がるのだった。




