村へと別れ、そして新たな出会い
うーん、やっぱり小説って難しいですね。
一夜を越すほど歩き続けた後、俺はひとつの街に着いた。
ダイオン「やっと街か…村人から聞いておいて正解だったな。」
疲労した体を引きずるように俺は街へと入っていった。
そこはかなり治安の悪い街だった。
ホームレスのような男が酒を飲んでそこら辺に寝ていたり、子供がボロボロの服で必死に新聞を売っていたり、怒号や泣き声なども聞こえてくる。
ダイオン「凄い街だな…」
ダイオン「さて、情報収集ついでに少し飲むか」
人混みを掻き分けて、俺は大きな酒場に目を付けた。
ダイオン「ここが良いな。俺の事を知ってる奴が入れば良いが」
そんな期待を胸に込め、ドアノブを捻った。
チリンチリンとベルが鳴り、ドアが開いた。
中はお世辞にも綺麗とは言えないが、良くある大衆酒場のようだった。
すると盗賊のような男たちがこちらをジロジロと見てくる。
ダイオン(あまり見られるのは気分が良くないな。こちらを伺っているのか?)
舐めるような視線を尻目にカウンター席へと腰掛けた。
すると奥からバーテンダーのような男が出てきた。
大きなグラスを拭きながらこっちに話しかけてくる。
バーテンダーのような男「いらっしゃい、二日連続とは暇なこった。」
バーテンダーのような男「あの女の子が連続で来ていないって事は別れてヤケ酒か?最高だな。」
皮肉をシカトし、持ち物を置きながら話し始める。
ダイオン「悪いが記憶喪失なんだ、俺を知っているのか?」
バーテンダーのような男は少しジロッとこちらを見た後に、またグラスを拭きながら続ける。
バーテンダーのような男「飲み過ぎたな。ダイオン」
あしらうように笑い、更に続ける。
トンドー「俺はトンドーだ。お前は酒を少し控えた方が良いな、記憶無くしすぎなんだよ、俺が名前言うのこれで3回目だぜ?」
自分の酒癖に多少疑問を持ちながら話す。
ダイオン「そうだったのか、悪いな。」
ダイオン「それはそうとエールをくれないか?」
トンドーはグラスを拭いた手を止め、呆れたような顔で樽からエールをすくい始めた。
トンドー「聞いてなかったか、まぁいい。久しぶりの再会だからな。」
ダイオン「ところでさっき聞いた女ってのは誰だ?」
トンドーはエールを2杯持ってきて俺の席の隣へと座る。
トンドー「お前はつくづく面白いやつだな。」
トンドー「お前の幼馴染に決まってんだろ、ダイオン」
ダイオン「幼馴染だったのか、どうりで遊んだ記憶が少しばかりあったのも頷ける。」
トンドーはエール飲む手を止め、目を開いてこっちを見つめる。
トンドー「は?」
トンドー「お前本当に記憶が無いのか?」
俺は自分のグラスをトンドーのグラスに少し当て、1口飲んだ後に続けた。
ダイオン「最初からそう言ってるだろう。」
俺は今自分が覚えていること、魔王に負け敗走したこと、自分の記憶探しをしていることをトンドーに伝えた。
その間トンドーは軽く相槌を打つだけで、特にこちらに質問はしてこなかった。
全て話終えた後、エールを空にしたグラスを眺めながら口を開いた。
トンドー「なるほどな、それじゃあいつの事も覚えていないのか。」
トンドー「少し前にその女の子一人で酒場に来たんだ。エールを1杯も飲まないで話だけ聞いて帰ったが。」
ダイオン「誰だ?」
トンドーはやれやれといった顔で続ける。
トンドー「さっき俺が言った女の子だよ、お前の幼馴染の…」
??「ふざけんじゃねぇ!俺の体返せ!」
ちょうど隣にいた少女が声を上げ、トンドーの言葉を遮る。
トンドー「なんだ?面倒事か…楽しそうだな。」
よく見てみると、少女は何倍も身長差のある男に向かって言葉を放っていた。
??「このかわい子ちゃんの体は返すからよ、頼むからあの魔道具を持ってきてくれ!」
少女は目に涙を浮かべながら話す。
大男「やだ。」
大男は耳に残る太い声で続ける。
大男「この体強いし、かっこいいし、しかもいっぱいお金もってるんだもん!」
大男には似つかない言葉がどんどん出てくる。
??「なんでだよ!大体あの変な商人が」
そこでトンドーが大男と少女に割って入る。
トンドー「まぁまぁ、親子喧嘩なら外でしてくれないか?客に迷惑だからな。目立ちすぎだよお前ら」
トンドーはヘラヘラと口を開き続ける。
トンドー「何の練習だが知らないが、ここは演劇会のステージじゃないんだ。」
大男は少し考えた素振りを見せた後、唾を飲むように頷いてトンドーの方を見た。
大男「ごめんなさい、私行くね。」
スタスタと出入口に向かう大男に続いて少女が走り出す。
少女「待て!クソガキ!」
酒場はクソガキはお前だろと言わんばかりに笑いに包まれ、客達は2人を椅子から見送っていた。
トンドー「やれやれ、この街では珍しくもないがどうも不思議な奴らだったな。知り合いか?」
トンドーは椅子に腰掛け、エールをもう一杯カウンターから持ってきて話し出す。
ダイオン「見たことはないな。それに俺の知り合いをなんだと思っているんだ。」
トンドーはクスッと笑いながらエールを飲んだ。
その後は世間話やこれからどうするかを話し、エールのおかわりを飲み干したところで酒場を後にした。
ダイオン「結局何も分からなかったな。装備を整えたら次の町に行くか。」
酒のフワフワとする感覚に身を任せながら道具屋に行こうとすると、路地裏に血を流し倒れている先程の少女がいた。
ダイオン「さっきのやつか?」
小走りで路地裏に向かい、顔から流れている血を村人から貰ったガーゼで拭いていく。
ダイオン「ひでぇ殴られようだな。可愛い顔が傷だらけだ。」
瞼の下の血を拭くと傷に染みたのか、体をピクリとさせ、目を開けた。
少女「ん…?」
少女「痛て、痛てて!」
少女「クッソ…痛ぇよ。」
少女はこちらを睨みつけるや否や、急に周りを素早く見渡し、話し出す。
少女「おい!あいつはもう居ねぇのか?!」
ダイオン「あの大男のことか?怖かったな。もうここら辺には居ないぞ。」
少女は安心するかのように思えたが、逆に汗を浮かべ焦り始めた。
少女「やべぇよ…やべぇよ…」
俺は気がつくと周囲の的になっていた。
路地裏に泣きそうな傷だらけの少女と、俺がいる。
ダイオン「とりあえずここじゃ何だ、場所を変えよう。」
少女「あぁ…助けて貰ったお礼もしないとだな…」
違和感のある言動に少し疑問を持ちつつ、俺は広場のような場所に向かって歩き出した。
広場のベンチに腰を掛け、少女から詳しい話を聞く。
ダイオン「さて、あの男とはどういう関係なんだ?」
少女は落ち着いた顔で話し出す。
少女「あれは……俺だ。」
少女「信じられないかもしれないが、あれは元々俺だったんだ。」
俺は予想とは遥かに違う言葉が飛びかかり、混乱している所にもう1つの矢が飛んできた。
少女「事の経緯は俺が酔っ払ってる時だった。」
少女「俺はその日さっき居た酒場で仲間たちと酒を浴びるほど飲んでいた。それは本当に酒場の酒を切らすように。」
俺は混乱する脳を1つ1つ整理していき、ようやく相槌を打てるようになってきた。
少女「だが、その帰り道だ。」
少女「俺は何を思ったのか、はたまた客引きされたのか分からないが、妙な魔道具を買ってしまった。」
少女「それを片手に持ちながら歌って家に帰っていたんだが、誤ってその魔道具に付いているボタンを押してしまった。」
少女は深刻な顔になり、前の噴水を見つめて語る。
少女「そこで気づけば良かったんだ。俺が少女の体になっていたことに。」
少女「その後は散々だったね、家のベットで寝てたら警備兵がやって来て家の侵入だ何だって大騒ぎになった。」
ダイオン「子供だから許されるとかは無いのか?慈悲が微塵も感じられんが。」
少女「普通の国ならな。ここは見ての通り荒れ果てている。ほら、そこにも子供が倒れているだろう。ああいう子供が家に盗みに入るなんてこの街ではザラにあるんだよ。」
少女が指を刺した先には路地裏のゴミを漁っている小さな男の子と地に仰向けになっている女の子らしい人物が居た。
少女「それで今日酒場なら何か分かるかも知れねえと思って行ったんだが、そこには俺がいた。」
少女「俺の仲間と一緒にな…」
少女の深刻そうな顔にダイオンは何かを考える。
ダイオン「そんなにすぐ魔道具やら酒やら買えるってことはこの街では裕福な方なのか?」
少女「あぁ、だからなんだろうな。」
少女「恐らくあの魔道具はボタンを押すと周りにいる1番近い人と中身だけ入れ替える道具だ。多分だがこの元の体はあまり裕福では無かったんだろう。」
少女「使い方を正せば戦闘とか潜入にも使えるようだがな…」
ダイオン「その魔道具は今どこにあるんだ?」
少女「分からない…予想だが俺が持っていると推測する。元の体の方がな。」
ダイオン「そうか…」
だがさっきの落ち込んだ態度とは裏腹に、少女はこっちを見つめ嬉しそうに話し出す。
少女「が!1つ成功したことがある!」
俺はその態度に驚きを見せながら、少女は続ける。
少女「それが…これだ!!」
少女はポケットから金色のカードを取り出した。それはもう反射で見えないほど金色のカードを。
ダイオン「なんだ?それ」
少女「聞いて驚くなよ…これはこの街でひとつのカードだ!」
少女「これを店に見せれば、買い物やVIP、飯や酒なども無料で買える!!」
少女はため息をつき、話し続ける。
少女「ま、この街だけだけどな。」
俺は少女にそれ以上の疑問を持ちかける。
ダイオン「お前の元の体から取ったのか?」
少女はニッコリしながら2回頷いた。
ダイオン「お前は何者なんだ?この街にひとつのカードとか…」
少女「これ以上の捜索は辞めといた方がいいな。やけどじゃすまねぇぞ。」
少女とは思えない威圧感に少し怯みながら、少女は先に口を開いた。
少女「それはそうと、お前の事を聞いてなかったな、名前はなんて言うんだ?」
かくかくしかじかと話した。
少女「おお…すっげぇ話だな、魔王はどんな感じだったんだ?」
ダイオン「覚えていない……が、とてつもなく強い、恐らく生物として最強だ。分かるのはそれだけだな。」
少女「そうか……」
少しの間沈黙が続き、ゆっくりと少女が口を開いた。
少女「よしダイオン、俺、お前について行くわ!」
俺は予想もしない言葉に少し困惑する。
ダイオン「正気か?」
少女「俺は魔道具の詳細、あの商人さえ見つければ色々分かるんだが…」
少女は手を顎に乗せ続ける。
少女「今の俺じゃ元の俺には勝てねぇ。それは俺だから知っている事だ。そして、お前も勝てない。」
ダイオン「良く言うもんだな、そんなに強いのか?」
少女「ああ、俺は酒を飲んでも毎日練習は欠かさなかった。二日酔いの日も、魔物に負けて傷だらけの日でも、恋人に振られた時でもな…」
俺も正直酒場で見た時には勝てる気がしなかった。はち切れそうな筋肉と圧倒的な存在感に体の武者震いが止まらなかった。
ダイオン「分かった。ただし目的地は無いに等しいぞ?ほとんど放浪しながら情報収集がメインだ。」
少女はニヤっとしてこちらを見る。
少女「あぁ、それでいい。格闘技も少しなら教えてやるよ。」
少女「それじゃダイオン。俺は魔道具の詳細を知るために。お前は自分の記憶を探すために。」
少女は手を差し出した。
ディオル「俺の名前はディオル。長い付き合いになりそうだ、よろしくな。」
俺は差し出された手をグッと握り、口を開いた。
ダイオン「あぁ、よろしくな。ディオル。」
俺とディオルは晴れた日の下で同盟を組んだ。
道具屋にて
ディオル「おいダイオン、お子様用リュックでも買ってくれよ。」
ダイオン「どんなのがいいんだ?」
ディオルは少し店内を見回した後、黒いドラゴンが書かれたリュックを手に取った。
ディオル「まともなもんがねぇな。ま、しょうがないか。これでいいな。」
俺はピンクの可愛らしいキャラクターが書かれたリュックを指さした。
ダイオン「これとかいいんじゃないか?今のお前にピッタリだな。」
ディオルはふつふつと込み上げる怒りを沈めるように俺に話しかけた。
ディオル「ダイオン、元の俺は名のある格闘家だったんだ。」
ディオル「……ちょっと可愛いと思ってしまった自分が嫌だ!適応してきているのか??」
ディオル「もういい!この黒いリュックでいい!」
俺は無視するように店内の薬草や替えのガーゼなどを取り、レジへと進んだ。
ディオル「おいおいひでぇよ…」
そしてディオルは俺の後を付いてきて得意げに金のカードをポケットから出した。
ディオル「よろしく。」
店員の目は瞬く間に代わり、大きな声で話し始めた。
店員「おおお!もしやディオート商会のお方ですか!?ありがとうございます!!」
ディオルは聞きなれたように流した。
ディオル「いいよいいよ、後これは袋に包んで……」
買い終わった後、店員に見送られながら俺たちは次の街へと向かった。
同上