こうして私は勇者になった
「はあぁぁぁ!?…っていや、ちょっと待て」
驚いたはいいものの、すぐに私は冷静さを取り戻した。
「えーと…そもそも白狼ってなんだ…?」
そう言いながら3人を見ると、カズが腕を組みながら誇らしげにしている。
「いいだろう。このカズさんが白狼について説明してやろうじゃあないか」
「おう…なんでお前が誇らしげなのかは謎だが頼むよ」
「白狼っつうのは30年前の厄災を終結に導き、颯爽と消えたま・さ・に!英雄というのにふさわしい…えー…人?獣?のことだ!」
「最後あやふやすぎんだろ!!」
あれぇ…おっかしいなぁ…と説明が上手くいかないことに困惑しているカズに呆れる表情をしていると蒼空と椿がアハハと笑った。
「ふふっ…w朱乃ちゃん、そんなに怒んないであげて…w」
「しょうがないんすよ…カズさんの説明がそうなっちゃうのもw」
「どういうことだ?」
「白狼って姿も存在もよくわかってないんすよ」
「そもそも大戦は白狼の力で終わったことを知っているのも円卓の騎士だけだしね」
組織の中だけ…だから、普通に暮らしてたら知らなかったのか。
「あれ、でも何で隠す必要があるん…」
言いかけると、私は突然背後から頭にぽんと誰かの手を乗せられた。
「それは、白狼がえげつない力を持ち主だからだよ。それこそ、世界をまるまる1つ消せるぐらいのな」
後ろを振り向くとそこには、翼がいた。
「翼!?」
「「「隊長!!!」」」
3人は大きな声をあげると、正座をして頭を下げる…がすぐに翼は頭を上げろとジェスチャーをした。
「かしこまらなくていいよ、むしろもっと気楽にいてくれ」
そう言うと今度は私の髪の毛をくしゃくしゃとしながら、撫で始める。
「半日ぶりくらいだな~朱乃。どうだ?元気か?見ないうちに随分変わっちまって~」
「色々起こったよ!今隕石が降ってきても動揺しないくらい色々起こったわ…てか、どさくさに紛れて耳触るな!」
「つ、翼隊長!朱乃さんの耳の触り心地って…」
「お?君も触るかい?椿。ふわふわだぞ~これは至高のふわふわだな」
翼がそう言うと、椿はすぐにこちらに駆け寄ってきて、「いいすか?」と目を輝かせながら言ってきた。
こんな顔をされては私も断りにくい。
仕方が無いかといいぞと目で合図すると嬉しそうに撫で始めた。
「ふわふわ…!ふわふわっす!」
そんな椿を尻目に私は先程の質問の答えの続きを聞く。
「で、さっきの話の続きなんだが何でその白狼の力がバレちゃまずいんだ?」
「もし、こんなものが世の中にいるなんてわかったたら、それこそ戦争の元だ。人間やら国同士のな」
「だれが白狼を所有するからでな」
「なるほど…」
「まあ、でもウォンデッドがまた増えてきてる今、我が組織はまた白狼を見つけ出して手伝ってもらおうと思ってるわけだな」
「まあそれが、俺たち各部隊のもう1つの任務ってわけだな。わかったか?」
こくりと頷く。
それを確認すると、カズはニコッと笑ってからすぐに真面目な表情に変わった。
蒼空も椿も同様にだ。
「さて、ここからが本題だ朱乃。俺たちはこの世界を救うために戦う勇者だ。そんな俺たちから頼みがある。」
「俺らと一緒に戦ってくれないか?」
「お前の力はすごいんだ。覚えてないだろうが、昨日力が覚醒したお前は無意識下であの場にいたウォンデッドをすべて倒した」
「そんな力を…人を助ける力として使ってみないか?」
そう言ってカズは私に手を伸ばした。
「ちなみに」
と翼は口を開く。
「ならない、という選択肢もある。私がここに連れてくるまでは普通の一般人として過ごしてたんだ。そちらの方が少なくともまともな生活は手に入るだろう」
「ここまでの記憶も消してやるし、白狼の力が2度と出ないように封印もしてあげよう」
「ただ…君はそれで満足かな?」
まるで煽ってくるかのようにニヤケながらその提案をする翼。
とても意地悪だなと感じた。
だが、私の答えは決まっている。
あの戦いを見てから。
「なる…なるよ。勇者。世界を救う勇者に」
「私の力は…私はそうあるべきだ」
そう言って私はカズの手を取り、ギュッと握手をした。
それを見て、嬉しそうにする蒼空と椿が目に映る。
パチパチと拍手をする翼。
翼は拍手をしながら、どのようにやったのか謎だが初めて出会った時と同じ軍服の姿になる。
「これで、私はお前に隊を預けられるよ」
そう言いながら、また制帽を被せてきた。
そして、息を数と全員に聞こえるような大きな声でこう言う。
「私は白狼隊、隊長を辞退する!その代わり、今日からは如月朱乃が白狼隊隊長だ!これは白狼隊隊長としての最後の隊長命令権として行使させてもらう!」
全員が強く頷く。
「んじゃな…頑張れよ。朱乃」
そう言って、また去っていた。
しばらく、場が静かになる。
(そうか…これでみんなと戦えるのか。"白狼隊の隊長"として…)
(うん…?)
「…ちょっと待て、あの人今私をこの部隊の隊長にするって言ったか?」
「そうっすね」
「そうだったね~」
2人の答えに表情が固まった。
「まあ、頑張れ!新隊長!」
そう言いながらカズは私にグッドの手を前に差し出してくる。
「まじ…かよ」
こうして私の勇者として生活は始まったのだった。