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「委員長はさ、なんでここに居るの」
はぐらかされた事をはぐらかす為にもう一度聞いた。
頭の中でグルグルと思考する。
可愛いと思ったのは、そう。人の顔を久しぶりに見たからで、それがたまたまたいい顔の女だったからで……って、言い訳になってない。
頭から湯気が出そうになった。
「サボりたくなったから」
委員長はあぐらをかいてドスンと座って訳知り顔でそういった。
らしさとかは嫌いで、それを押し付ける社会も嫌いなんだけど、押し付けたくなる気持ちもわかってしまった。
委員長の様に可憐で女の子女の子してるモテる子はそんな座り方をしない。
「不良だ」
勝手に決め付けておいて、勝手に自己嫌悪。
笑う委員長と、拗ねたように言う私。
それが面白かったのか、委員長はケタケタ笑ってる。
「寧々はなんで?」
涙を脱ぐってそう聞かれるけど、理由ってなんだ。
笑い過ぎたのか少し頬に朱が差していて、なんだか直視出来なくなった。
取って付けたような理由に聞こえるし、嘘っぽいとも思うけど、とりあえず本当の事を言ってみる。
反応を見たい。
軽蔑的なのか、憐れむのか。
ちなみに保険の先生は軽蔑的だった。あの先生は嫌いだ。二度と信用はしない。
委員長の声が大きかったからか、廊下から足音が聞こえて、委員長とギョッとしたように顔を見合わせる。
隠れる場所、隠れる場所!
うーん、特になしっ!
万事休すかと思ったけど、委員長が手を引いた。
結構力入ってて、少し痛かったけど、その必死さにつられて着いていく。
教卓はそのまま残ってるから、その下に、その狭い空間にギュウギュウになって2人してはいる。
委員長の熱が、息遣いが、全てが手に取るようにわかる距離。
言わば、恋人のような距離感で、ドキドキした。
委員長はバレると面倒くさい事は明らかだからか、私より必死だった。
絡みつく体は、私の胸を鷲掴みにしてて、恥ずかしい。
けど、もう片方の手は、私の口を抑えてて、伝えることが出来ない。
まあ、どさくさに紛れて私も委員長の胸に手を押し当ててたりしてるけど。
おっきくて柔らかい。人のおっぱいはこんなにもなんというか、性的に来るものなのかと頭のネジが飛びそうだった。
ガラッと扉が開かれて、直ぐに扉がしまった。
歩き出した音がしないから、まだいると思う。
しばらく経った。それが1分か5分か10分か。判断はつかないけど、足音が遠ざかっていくのを感じ、恐る恐る教卓の脇から覗く。2人して。
もうそこには誰もいなかった。2人して大きく息を吐いて、クスクスと笑った。
委員長も言葉にしたいことがいっぱいの数分間だったろうに、何を言おうか迷った挙句に、言った言葉は、
「ドキドキしてたね」
だった。それが、何に対してか言わなかったけど、委員長のドキドキはスリルに対してだろう。
私もスリルと言えばスルリだけど、誰に対してか、教師では無く、委員長に対してだった。
委員長が立ち上がって、手を差し出した。
その手を取って立ち上がって、元の場所に座り直した。
私は手を離さなかった。
委員長は驚いたというか、面食らったというか、そういう感じの表情をしたけれど、振り払うことはしなかった。
2人して手を繋いで座り直した。
そして、さっきの委員長の問に対して、答える。
「生理が重くて。前からサボってたけど……旧校舎じゃなかった」
委員長は一瞬ポカンとした。なんのことか忘れてただろうし、まさか会話が戻るとも思ってなかったみたいだ。
その反応対して、そりゃそうだと思うも、何故か委員長の一問一答の全てを大切にしたがっている自分が居て、その自分を私は好きだと思った。
「へぇ、ねぇ、教えてよ」
コソッと耳元に囁やいた。
くすぐったくて、艶めかしくて、とても同じ高校生が発している言葉には思えないけど、深く目をつぶってやり過ごす。
この女は危険だ。えろ過ぎる。
悟られないように、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。
「何を」
「何をってそりゃ、サボりポイントだよ」
「委員長に有るまじきセリフ」
でも、委員長の立場や言動の矛盾とささやかなイケナイコトヘの憧れがかいま見えた。
ウインクをして、繋いだ手に力が籠った。
軽い感じだけど、変に熱量を感じた。