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「ほら、埃っぽいでしょ」
澄まし顔で端的に言う。端的すぎて意味があるのか分からない言葉だった。
教室の角を見ながら憂いた顔を作り、作り……この先を考えていなかった。
ただ、黙って犬とかがたまにやる何も無いところを凝視するという野性味に帰っただけ。
犬では無いから可愛がってはくれない。
くぅ〜ん。とわざとらしく甘ったるい声を出してみたが、委員長にはちょうど3歩後ろに下がられてしまった。
うん。冗談や馴れ合いをするにはまだまだ距離が遠すぎたようだ。1つ学んだね。
なるべく委員長の顔を見ないでうんうんと納得する。
きっと委員長の顔を見たら立ち直れない、そんな気がした。
「うん。寧々さんはその中に居るから気付いてないみたいだけど、ほとんど真っ白だよ」
「うそウソ嘘!!」
委員長が私の何かに対して肯定した後に、教室をぐるぐると無造作に指さしながら言う。
という事は、埃まみれ、ハウスダストまみれ。
別に潔癖とかそういう訳では無いが、汚いと印象付いた場所に好き好んで居たくは無い。
慌てて委員長に駆け寄って、委員長を盾にするように背中に隠れて、背中越しに今居た教室をミル。
「わぁお。本当だ。そりゃ喉も痛くなるし、目も痒くなるわ」
「ふ、不衛生よ」
「おっしゃる通りで」
委員長が震えた声でそれまた身体まで震わせて絞り出すように言った。
委員長は潔癖なのかもしれない。これは悪い事をした。
教室の埃が背中一面に張り付いたと感じてしまったに違いない。
そーっと離れて、軽く背中をポンポン叩く。
埃を払うように。
委員長はなすがまま。
私が廊下の窓際まで移動して、委員長は綺麗な回れ右をする。
正面で向かい合うと、なんだかムズ痒い。
多分埃のせいじゃないと思う。じゃあ何かと言われても不真面目な生徒Aに過ぎない私には答えは出ないし、出すほど真面目でもなかった。
「で、何してたの」
何も何も、何もしておりませんがな。
ただ授業を受けず、無意味に熱い思いをしていた。
無意味なことなのに、別段虚しさとかは湧いてこない。
息が詰まる教室よりも、誰もいなかった孤独なこの教室の方が息が合う。
まァ、咽たし、乙女な涙も献上してしまったが。
はて、私はまだ乙女であろうか。




