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別に珈琲なんて誰が入れても一緒だろうに。なんならここの喫茶店は全自動だ。つまり機械だ。
無理やり珈琲を飲むようになって早1年。
いまではブラックでもギリギリ飲めるくらいで、特段美味しいと思ったことは無い。
まずいとも思わなくなったけれど。
だから、機械でも別にいいと思った。
「……友達に淹れるから」
おじいちゃんにぶっきらぼうに言い、勝手に使い始める。
コーヒーミルが豆を粉にする。
一時の騒音が過ぎればいい香りがひろがる。
「へぇ、ちゃんと寧々さんがいれてくれるんですね」
委員長がいつの間にかカウンター席に着いていた。
元いたテーブル席をチラリと見ると、ノート類が綺麗に片付けられていた。
もう、ここで作業する気は無いように思えた。
委員長の嫌に優しい声音に、気持ち悪さを感じゾクゾクした。
何がそんなに興味を引くのだろうか。
友達……かどうかは置いておいて、知り合いが珈琲を入れるところを見るのがそんなに珍しかっただろうか。
「機械が良かったしら」
「いえいえ、とんでもない。嘘つかれるかと思いました」
ツンっと委員長のことも見ずに言えば、慌てたように、そう、あの委員長が慌てたように首をぶんぶん降って否定した。
冷静沈着な人で隙なんてありませんって人だと思っていたから驚い。
私は結局の所、委員長のことなんて知らないのだ。
知ってしまえば楽に対応できることもあるだろう。
踏み込みすぎた時、その時、私と委員長の考えの相違が大きすぎた時、その時はもう一生喋る機会は無くなるんじゃないか、そう思ってしまった。
「……………そんな事しない」
酷く間が空いてしまったのは図星だったから、では決してない。
この空白の間に色々と考えてたのだ。そう、考えてたのだ。
委員長とは犬猿になりたくないのだと思った。
自分でも意外だ。
誰か特定の人を慎重に接するなんて。




