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着いてきてと言うからついて行くが、なんだか嫌な予感というか、私の家とは真反対なんだけど知ってる道を進んでる。
縁石の上をわざわざ選んで、それらしく両手を広げてバランスを取りながら委員長は歩いている。
いやに上機嫌だし、今すぐ歌でも歌いだしそうだった。
「え、ここ?」
嫌な予感とは当たるもので、私はこの場所をよーっく知っている。
学校帰りに寄れるし、社会人がランチにぎり足を運べる距離にあるカフェだ。
レトロな外観だが、古さは感じ無い。
「そうここ。ここのお爺様というかマスターと私のお爺様がお知り合いでしてね」
「待って、待って。ここのマスターというか店長は私のおじいちゃんなのだけど。バリバリ知ってる場所なんだけど」
「あら〜、知りませんでしたわ」
「なぜ私の目を見ない」
委員長がよくやる両手を後ろで組んで前かがみになって上目遣いをしながら白々しく言う。
くそっ、ちょっと可愛いと思っちゃったよ。
委員長との付き合いなんてせいぜい3日4日で、距離もあるし壁もある。
これらは意図的に出しているっていうのもあるけれど、無理して沈黙を埋めようとまでしたくないし、出来ないし、ここに来る道中も私から話しかけることは無かった。なのに言いたいことが一瞬で増えた。
いや、チャンスだな。
「ここにしようよ。ドリンクくらい出すよ?」
私は自転車を止めて鍵を抜いて、動く気はありませんと意思表示をする。
委員長には悪いと思うけどいい落とし所が見つかったんじゃないかなと思ったのだ。
「……はぁ、今日はここまでですね」
「ん?」
「いえ、なんでも。はい、ではお願いしますね」
「うん」
委員長はボソリと私に聞こえないことを言った。
聞き返したら、また、あの顔をして、不気味に感じた。だから私はそれ以上踏み込まなかった。
私にも近付かれて限界な距離があるのだから、委員長にもあるし、今はそのライン上だったのだろう。
触らぬ神に祟りなしだ。
「おじいちゃ〜ん」
カランカランとドアを開けるとベルがなり来店を知らせる。厨房からのそのそと出てきた老人こそが私の祖父であり、この喫茶店のマスターだ。
「いらっしゃ……寧々!ん?今日入れてたか?」
「んんー。えっと」
私とわかるや否や少し強面だった表情はふにゃふにゃと柔らかくなる。
小さい頃から何も変わらない。
おじいちゃんからみたらいつまで経っても5歳児くらいに見えてるのかもしれない。
バイトだったかと聞かれても、そうじゃないし、それ以外であまりここには来ない。
だから、余計に不思議に思われたかもしれない。
しかし、なんと理由を付ければいいかも判断しにくい。
「こんにちわ」
「おお、音無の嬢ちゃんか」
言い淀んでいると、後ろから礼儀正しくお嬢様や確やと言ったうやうやしい一礼でおじいちゃんに委員長が挨拶をする。
本当に知り合いだったみたい。
おじいちゃんが委員長へ向ける表情もまた、私へ向ける表情と同じに見えた。
なぜか、嫌な気持ちだった。




