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日向に入れは蒸し暑く、体の水分が全て蒸発してしまうのではないかという暑さ。
これでも夏本番ではないというのが恐ろしい。
何をしているだろうという気がある。
いつまでここに居るのか。馴染むという事は正義なのか。もう考えたくもない。
ペタ〜っと床と恋仲になっていると、ガラガラガラと縦付きの悪い音を立てて見知ってしまった顔の人が入ってくる。
やたら荷物を持っていた。教科書、ノート、筆記具。
両手で持っていたそれらを教卓へポンと置き近付いてくる。
目線だけで委員長を追う。
しゃがみ、視線を近付けようとして、スカートの下が見えた。故意じゃない、悪いのは委員長。
(あ、パンツ見えた。って、ドエロいやつだなぁ!!)
「あら、また会いましたね」
「え、いま授業中……」
「えへっ」
「えぇぇ……」
もう怖い。何考えてるか分からない。
百歩譲って放課後とか休み時間に教師に頼まれてとかならまだ分かるけど、授業中に優等生が追っかけてきてるのが訳分からない。
私が委員長の立場なら間違いなく無視する。
「それっぽい理由をつけて抜けてきました。怪しまれちゃうのであと10分くらいで戻りますけどね」
ちゃっかりしてた。
どういう理由や言い訳を使ったか分からないが、自由を許されているのは人望とかいわゆる日頃の行いだろうか。
けれど、そんなものは人を探します程度にしか使えないならやっぱり意味は無い。
「なんの用」
突き放すように言ったが、本当になんの用って意味もあった。我ながら不機嫌そうでぶっきらぼうだ。
「不思議なことを言いますね」
「?」
「お友達と会うのに、喋るのに、いちいち理由を求めるんですか?」
なんで分からないの言わんばかりで、委員長は友達だとでも思っているらしい。
だとしたら勘違いもいい所だと思うけど。
だって、何からが友達?
そんな曖昧なものは不必要だと思うし、どうせすぐ他人に戻る。
寂しいから、それを誤魔化すように。
弱いから、それを誤魔化すように。
人との関係を友達とか言ってるんだろう。
「友達だったっけ?」
「1度話したら友達です」
スマホを見ながら興味もないゴシップや、ちょっと綺麗なイラストを流みしをする。
委員長は友達100人できそうだ。
こんにちはと挨拶して帰ってきたら友達になるのだからそれはもういっぱい友達が居るんだろう。
「ねぇ、そのお節介は誰にでもやってるの?」
「ええ。でも、寧々さんには特別対応なんですよ?」
「要らないよ、そんな特別対応」
問題児を特に目をやる大人の対応見たいで、ちょっと嫌い。なんなら喋りたくない。
面倒だし、気分も下がる。
委員長はお構い無しに私の腕をとって無理やり立ち上がらせる。前も思ったけど力強いな。
「まぁ、まあ。今の授業は現代社会なので特別に図書館へ行ってるんです。行きましょ?」
「いいよ、まだサボれるし」
腕を後ろで組んでタイルに視線を落としす。
別に授業なんて出る必要ない。
もう、人生終わりってなっても良いし。
それに誘われたから行くってなんだよ。かっこ悪い。
委員長はめげずに無理やり私の腕を絡め取るようにして組んで歩き出す。
振りほどくのは簡単だったろうけど、委員長と触れ合った時は、よく分からないけどそこまで嫌と言う気持ちが湧いてこず、なすがまま。
「でしたら、お昼休みにここに来ましょう?」
「どうして?」
今日は普通に廊下を歩き、先生とすれ違っても「授業始まってるぞ」位のことを言われるだけ。
教科書効果かもしれない。
委員長は世話のやける妹を扱うように、全てを強引に進める。
何となく委員長は私を理解したのかもしれない。
主体性がなく、自主性もない。誰かが、動かさないと動かない人力車みたいな出来損ないだと。
「もう、質問が多いですね。一緒にご飯を食べましょうって言ってるんです」
「いや、だからなんで私?友達他にいるでしょ」
それにしても構う理由にはならない。
委員長と話してるのは苦ではないかもしれないけど、やっぱりよく分からない人だし、疲れる。
それに、哀れみからそう言っているのだとしたら、本当にお門違いだからやめて欲しい。
「なんで、か。嘘を言ってもバレそうなので言いますけど、嫌なんですよね」
委員長は歩くと急に止める。すぐ後ろを歩いてたから私より少し大きい背中にぶつかった。
顔面を思いっきりぶつけたから痛い。
委員長は向き直った。その表情は今日、教室や旧校舎での表情はなんだったのかと言う程の別人の顔だった。
人には二面性がある。感情というものが備わってしまっているから仕方ない。裏表ない人なんて居ないし、委員長も例外では無かったということだ。
「委員長?」
目付きが変わった。どちらかと言えばパッチリお目目寄りだったのに、人を睨んでいるようなつり目気味だ。
姿勢もお嬢様みたいな、女性らしくって感じは崩れ、片脚重心、猫背で、声も低くなった。
急な様変わりに二重人格何じゃないかと疑ったが、この位の裏がないと嘘だよなとストンと腑に落ちた。
違和感もなく受け入れた。それどころかこっちの委員長の方が好きだな。
平気で人を殴りそう。
「八方美人。疲れる。フフッ、幻滅した?本当の私はこっち。敬語なんて使いたくないし、だらけてたいし、人付き合いはなるべくしたくない」
「なら、私に構う意味がわからないじゃない。矛盾してる」
「似てると思ったから」
「……そう。……いいよ」
 




