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エンディングA「運命」

 再び、吐き気をおぼえた。


 地下へ来る途中で死体を見てからというもの、何度か胃からせり上がるような感覚がある。

 なにも今、殺されるかもしれないっていう時に……。

 あたしは目をつむって、吐き気をこらえながら苦笑した。銃口を向けられた状態で、意外と冷静だ。体は震えるし涙は出るし呼吸も早い。けど混乱してない。変なの。あたしは諦めちゃったのかな。


 またせり上がってきた。飲み込む。


「なんだ、殺されるっていうのに随分と大人しいね」

 鈴木さん……、鈴木がやけに楽しそうに囁いた。驚くことに銃口の冷たい感触が離れてゆく。なんの気まぐれだろうか。

「大人しい子は嫌いじゃないよ」

 鈴木の気配が背後から消える。彼はあたしの顔をのぞき込むようにヌッと視界に現れた。

 吐き気を飲み込むあたしに銃をつきつけながら、鈴木はモゴモゴと唇を動かす。なにを言っているか分からない。

 だた人形のように立ち尽くしていると、ふいに鈴木があたしの腹を蹴りあげた。


 吹き飛ばされるように、あたしは机の上に背中をぶつける。

 さほど痛みはないが、喉まで吐き気の固まりがせり上がった。飲み込んで胃に押し込む。唾液が滝のようにでてくる。

 ……ああやっぱりあたし、殺される。


 拳銃をつきつけられているのに、いつの間にかヒドく冷静なあたしがいる。冷静というか、感慨がわかないのだ。


 達観してるの? 悟っているの? わかんない。だけど、すごく。


 体中の毛穴という毛穴から汗をだし、口の中も妙に潤んでる。涙も止まらない。なのに感情は酸性の湖のように静か。


 あたしは小さな咳払いも唇で封じて、ニタニタと笑う鈴木を見上げる。あの目だ。車を運転していたときの、死体を観たときの、とり憑かれたような瞳。

 あたしは糸の切れた操り人形か麻酔を打たれた研究動物のよう。だらりと机の上にしなだれるだけ。鈴木はそれを、ハンドルか死体でも見てるように、立ってるだけ。


 ばかみたい。こんなに逃げ回って、結局こんなんかよ。


「何を笑ってるんだ?」

「知らない」

 無意識に唇をあげてたみたいだ。そう思うと、吐き気と笑みと、それが結合して湧いてきた。

 ふははは、ふははは……。

 なんだぁ、あたしも、こわれてたかぁ。


 もう、吐いちゃえ。


 あたしは勢いに任せて床に胃の中のものを全てぶちまけた。全て楽になるんだと、思いっきり吐き出した。目蓋を閉じて、力を入れて、胃からせりあがる何かを、ありとあらゆるものを、一気に吐き出す。

 吐き出したかったものは恐ろしく大量に胃から咽喉へ、そして外へ床へと放たれていく。

 留め止めがない。


 とまらない吐き気に疑問がわいて、あたしは吐きながらゆっくりと瞳をあけた。


 あれ?


 何故だか、この部屋にいるはずのないアリが、大量に床の上に這っていた。目を凝らさなければありだと解らないくらいに小さなアリだ。

 あたしが吐き出したものから散らばるように、機械的な動きで、アリたちが広がっていく。

 何が起こっているのだろう。そう、疑問を頭に展開しようとした瞬間、爆裂音が鼓膜を叩きつけた。同時に衝撃が走り、あたしは床の上に転んだ。

 鈴木が発砲した。何に? あたしに?

 くらくらと意識の不安定な頭。ゆり動いて、あたしは腹を見る。あたしは血をながしてる。

 うたれました。


「近づくな」


 あたしに銃をむけている鈴木、真っ青な顔で、おかしいったらない。近づくなと言われたけれど、あたしは近づく。

 再びの発砲。また吹き飛ぶ、今度は腕をやられたらしい。でも痛くないです。あいかわらずの吐き気。両手に吐き出す。なんて、黒いんだろ。


 黒、黒。


「あたし、ありを、吐いてるの?」

 うたれました。

 また転がる。あたしは吹き飛ぶ。横たわる。

 狭いったらありゃしない、あたしの視界。その視界の手前で、床にのびる腕。骨を失ったようにしなだれる手。指先の傷口。アリに噛まれた傷口。


 そういえば、アリはなんで桜の根を食べてたの? 肉食だったんでしょう。

 桜の根の下に大地があったからよ。おうちがあったからよ。

「ぽかぽか春風で脳みその感受性も衰えてんのかねぇ」


 黒、黒、黒。


 そういえば、どうして直感を信じて鈴木についてきたの? 市民プールは安全なんでしょう。

 人間にとっては安全でしょう。あたしにとっては違うのよ。

「危険かもしれないんだ。それでもついてくるのか?」


 黒、黒、黒、黒、黒。


「でも、アリって道しるべフェロモンっていうのがあるんですよね」

 だから、餌まで一直せんなんでしょう。どうしてあたしはくわれなかったの?

 そうよ、だから地下に行くのよ。あの人も地下へ向かってたでしょ。


「そう、大丈夫だ、先に進もう」

 守ってくれたすず木を不信におもったけれど。おもったのはあたしじゃないのね?

 そうね。だったら、どうなの。


 黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒。


 あたしは痛みもなくやってくるやみをうけとめながら

 すずきの背中をみる。

 あたし、さいしょから殺されてた


 さいごに一つだけききたいわ。

 なぁに。


 黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒 黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒 黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒

黒黒黒黒黒 黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒  黒

黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒 黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒 黒黒黒黒黒  黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒 黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒


 あたし、


 黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒 黒黒黒黒黒 黒黒 黒 黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒


 黒黒黒 黒


  黒



 おいしかった?


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