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生き別れ

作者: 虹彩霊音



ある哲学者は言った、『〇〇とは何か』という質問に答えられるものは居ないと。例えば、『勇気とは何か』という質問に対してどう答えるだろうか。『敵に背中を見せないこと』だとか『暴れ馬を乗りこなす』だとか答えるんじゃないだろうか? でもそれらはあくまで『勇気である者の例』でしかない。『〇〇とは何か』と『何かとは〇〇だ』は全く違うものなのだ。そう、結局はみんな知ったかぶりだったのだ。それを知ることで傲慢から抜け出せるという。


ある哲学者は言った。疑えるものは全て不確実なものであると。例えば、『今自分は夢を見ているのかもしれない』だとか。夢を見ている時はそれが夢だと気づかないものだ。どんな体験をしたとて、目覚めた時にそれが夢だと初めて気がつくのだ。今こうして現実だと思っている世界も、実は夢なのかもしれない。きっぱりと証明された数学的真理も、それは正しいと神が欺いたのかもしれない。だが、そんな夢を見ている自分はどうか。少なくとも疑っている自分は存在する、疑っている自分を疑っても排除なんてできない。『我思う、故に我有り』。世界が存在するから自分が存在しているのではなくて、自分が存在しているから世界が存在しているんだとか。まぁ、自分が知覚していなければそこにそれが存在している証明なんて確かにできないんだけどさ。


そういえば、どうして自分達は『それがそれである』と確証が持てるのだろう。『砂糖』は『白くて甘くてざらざらしている』という性質があるけれど、『白い』『甘い』『ざらざら』は確かに知覚できるけど、『砂糖そのもの』は知覚できない。なのに、どうしてそれが『砂糖である』と確証が持てるのか。また、『火に触れたら火傷した』。どうしてそう言えるのか。火に触れた『だから』火傷した。この『だから』の部分は決して確かめることはできないのに。


例え夢だろうがなんだろうが、楽しんだ者勝ちなんだろう。それが夢だと気づかない、なら考えるだけ無駄ってことさ。全ては曖昧なもので、そして縛られる。何となく感じている、ルールや枠、絶対的な禁忌に。というか、全てが一つのものから始まったと考えるからこんがらがるんだ。全員が自分なりに観測し、互いに影響しあう。複雑なようで、意外と単純だったりする。


結局何が言いたいんだって? ちょっと試してみたいことがあるのさ。気になるなら見ていくといい、ことの結末を。




「……………どっから来た」


「窓から」


「グリフォンが言っていた客人ってぇのは」


「そうこの私、黄泉 叡智さ」


「客人なら客人らしく大人しくしてろ」


「無理」


「マグロかよ」


「いやぁ、急に遊びに来たくなってね」


「何もないぞ、ここには」


「話し相手になってくれるだけで良いんだ、妹達は居ないし」


「ああ、そういえばお前には妹が居たんだったな」


「貴方も居るでしょう」


「……………」


「まさか、『実の妹じゃない』からカウントしていないだとか抜かすんじゃないよね?」


………実の家族、か。


兄弟姉妹はただ煩わしいだけ、そうみんなは言っている。だけど、私のような、『造られた存在』からすれば、それは心底羨ましい。ましてや、『血の繋がった存在』だなんてものは。どう造ったって、手に入れることはできないんだから。


別に、妹達に不満があるわけではない。でも、やはりそこには差があって、羨望が生まれてしまうわけで。


「……ははっ、何を言っているんだ。ちゃんといるぜ、『血の繋がった存在』が」


「……何を言っているんだ? だって貴方は……」


「今は家に居ないだけなんだ、そんなに疑うなら連れてきてやるよ」




私は妹の力を借りて実験をした。さまざまな場所に向かっては、幻をばら撒いた。『私を求める者の存在が居るのかどうか』を調べた。もし、そのような存在が居たとすれば、たとえ幻という曖昧なものでも私のところへやってくるんじゃないかって。そうでなくとも結局は曖昧で不確かな幻、誰も気には留めない。


実験を始めてしばらくが経った。私は待ち続けた、『そのような存在』を。でも、一向に現れなかった。それもそうか、私は『造られた者』。私を求める存在なんて居るはずもない。だけど、造られる過程で、私から削られた不要な部分が、私からあぶれた存在が、居たとすれば………いや、こんなことを考えたって無意味だな。実験は失敗に終わった、それだけのことさ。自分の求めるものが、自分の設定した枠組みの外にあった、たったそれだけのことなんだ。


「…………つまんねぇなぁ―――」





「―――おねーたん」


「……………」


私の考えは、あまりにも子供染みた、想像頼りのもののはずだった。この世に存在するはずがないんだ、『共鳴』なんてものは。けれど、なぜかはわからない、私は、今―――


「おねーたん、こんな立派な場所に棲んでたんだね」


そもそも、この実験は本気でやったわけじゃなかった。面白半分で行ったものだった。


「おねーたん?」


ああ、もうどうだっていいや。


「……………」


「えっと、初めましてで良いのかな? おねーたんと直接会ったことはないもんね」


「………『初めまして』? どうしてそんなことを言うんだ、もっと言うべき言葉があるだろう」


「………ただいま、エニグマおねーたん!」


「………おかえり、ルナ」




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