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13 花より団子の子です

サジルが消えた後、箱詰めされていた店主を助けた私達は、すぐさま離宮へと戻って来た。


「フィーは、本当に変なモノを拾うよねー」

「え?拾うって一体何を?」

「根性が捻くれて、色々拗らせていそうな生産性皆無の元王子」


フロースの呆れた視線と含みある言葉に、むぅと口が尖る。


ええと、元王子っていうと、サジルの事かな。

拾ってませんよ?人聞きの悪い。

大体あそこまで育ってしまうと、性格の矯正は無理そうだし、私の手にも余るし、面倒をみきれないわ。

拾ったとしても、元の場所に戻して来なさいって言われる案件だ。


ほら、拾う理由が無いもの。

ーーーーナイナイ。



「姫様が歩けば何とやらに当たる、って言うのは本当だったか。我は、冗談だと思っていたのだが•••••シャークといい、サジルといい」


「その前は、カリンに神獣、妖精に公爵令嬢。あ、モリヤもだね」


拾った覚えは無いんだけど、そうやってジト目で見られると、反論し辛いです!


「ええ、拾って頂いて嬉しゅうございます」


音も無くススっと現れた、お留守番のモリヤがお茶を用意してくれる。

ふうわりとジャスミンが薫る。

お茶を飲むと、拗ね始めた気持ちが落ち着くから不思議。


フロースは長椅子に座ると、丸打ちの細い組紐を数本づつ並べて何やら吟味していて、やがて一つ頷くと、器用に結び始めた。


「わぁ、可愛い、梅結びだ。フロースって器用よね」


五枚の丸い花弁は、白と薄紅、薄紫に濃い紫、小豆に紅の組紐が象っていて、ゴージャスに見えて品がある。

あわじ結びした玉が揺れてるのも可愛い。


「これはフィーにね」


今度はシャンパンゴールドの組紐でピンに吉兆結びをしていて、房飾りが華やかだ。


「これは伎芸に」


最後の組紐は玉房結びで、山吹色の中に深い緑が混じる。

落ち着いた大人の女性に似合いそうな優雅さだ。


「一応、アストレアにもね。髪紐とか、組紐とか見てたら髪留めも欲しくなっちゃうよね。俺はフィーと色違いにしようかな」


だから作ってみたんだって、はにかむフロースが可愛い。美しいのに可愛いって、お得。

アストレアの分も忘れないのが、フロースの良いところなんだよね。

だからフロースは大好きだ。


私と伎芸はそれぞれにお礼を言うと、早速髪に飾る。


女同士のキャッキャッウフフは楽しい。

サジルと会ってしまった事で、引き攣って斜めになってしまった心のバランスが立ち直る。

約1名は男の子だけど、女装しているから良いのです。


そうして戻った平常心で思い返してみると、サジルは奇妙な人、だと思う。


間近で見て、会って、話をした。

空気の様な人だと思った。そこに存在しているのに、輪郭が見えない。

ふと、脳裏に蜃気楼が思い浮かんだ。


場に溶け込むのも上手なのかーーーーそこにあるのが一見自然に見える。

その自然さとーーーー背景と人物が別の、良く出来た合成写真を見るような違和感が、同時に存在するのだ。


常に余裕のある話し方。

サジルの言葉に嘘は無いのだろう。

だがそこに、その【感情】はあるのだろうか。


まるでアリを踏みつぶす無邪気な子供だ。

踏み潰す行為を残酷な事だと、死んでしまうのは可哀想な事なのだと、知識として知っているから、『可哀想だね』とも言える。嘘を言っているつもりは無くて、ただ、可哀想と言う感情を知らないだけの。


その胡散臭さに気が付いても、悠然と大きく見える懐の所為で、異常が正常に、錯覚させられてしまう危うさがあった。


懐が大きいのではなく、ポッカリ穴が空いているだけなんだろうけど。


ーーーーあ、でも。



「フィー、どうしたの?」


ボンヤリとしてしまったようで、気が付けばフロースと伎芸が心配そうに、私の顔ををのぞき込んでいた。


「んー。最後、サジルは笑っていたなぁって」


そう、消える前のサジルは、嬉しそうに笑っていたのだ。

きちんと感情の伴った笑顔だった。

上滑りする言葉では無く、あの最後の言葉は間違いなく【サジルの気持ち】なんだろう。


「だから言ったじゃないか。フィーは、拾っちゃったって」


「そんな事言われても!?ああ、ラインハルト達になんて言えばいいと思う?」


私が言い訳を考えながら、立ち上がってウロウロしていると、ゆらッと空気が歪んだ。

転移の前触れだ。


どうしよう、まだ言い訳を考えていないのに!


アタフタする私をよそに、迷宮組が姿を表した。


「おや、フィア様。お早いお戻りだったのですね」


私を認めるなりロウが差し出してくれたのは、淡いグリーンの輝きを持つ葡萄だ。


「お帰りなさい!それは葡萄?」


こ、これは、絶対に美味しいヤツだ!匂いが既に美味しそだもん。

パイナップルとマスカットの香りが合わさった感じで、堪らずにロウの元へ行けば、ひと粒を口に放り込まれる。


その瑞々しい爽やかな甘さに、私はすっかり言い訳ミッションを忘れてしまい、この後しっかりとお説教を貰う羽目になった。





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