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11 似てません

「あーあ、バレちゃったか。ちょっとだけお姫様の様子を見にね。でもあんまり驚いてくれなかったみたいで残念だな。せっかくお姫様の恋人にそっくりな顔立ちにしたのに、ときめいてもくれないなんて」


私の表情がスンと消える。

記憶にあるサジルとは、全く違う顔立ち。

色合いは何となく、ラインハルトに似ているけど、それだけだ。


「•••••充分驚いてますが。昨日食べたお夕飯が、思い出せなかった時の衝撃位には」


「お姫様は、面白い例えをするね。そんなに似ていないかい?自信あったんだけど」


私は首を傾げる。

そこまで自信を持って言う程似てるかな?

ラインハルトの絵姿って出回っていないって言ってたよね。

一体何を手本にしたのだろう。


「うーん。海老とシャコくらいには似ている、かなぁ?」


あ、サジルの片眉が下がった。意外と人間臭い表情をするなぁ。

怒ったかな。別にいいけど。


「えーと、胡瓜に蜂蜜をつけて食べるとメロンの味って言われて騙された感じ?」


「うん?胡瓜蜂蜜を付けるとメロンになるのかい?」


「ううん。アレはやっちゃいけない味だと思う」


首を横に振って否定したのに、サジルは「じゃぁ今度やってみよう」なんて言っている。

私はやらない方が良いって、忠告はしたからね。


「不味いくらい似てないのかぁーーーーそれは残念だな」


サジルは、肩を竦めて少しも残念に思って無さそうに言う。


「前人未踏の美貌を真似しようとしても無理じゃない?」


「フィー、言葉が変だよ。言いたい事は分かるけどなんか違う」


「じゃぁ、人外魔境の美貌?」


「ーーーーうん、もう。それで良いんじゃないかな?」


妙な間があった気がするけど、言いたい事は伝わったようなので良しとする。

あの圧倒的な美しさは人が再現出来るものじゃない。

それこそ、再現しようとした画家や彫刻家が、命掛けても出来ずに狂う位だ。


それにーーーー耳の形が明らかに違う。

そして決定的なのは、サジルのーーーー耳の直ぐ下にある黒子だ。三つ並んでいて、結構特徴的だ。

あの場所は、本人が鏡で見ても気が付かないだろうな。


気が付いていたとしても、そこまでは細かく考えて無いのか、忘れているのか。


例え、サジルの手配書が出回っても、顔面さえ変えてしまえば、そこまで気にする人はいないと、些事だと侮っている可能性もある。


どちらにしても、私がわざわざ教えてあげる必要なんてない。


「お姫様は、いつもそんな会話をしているのかい?楽しそうでいいね、貴女が側にいたら退屈しなさそうだ」


何気に自分中心で語るのは王族だったからかな。

あ、でも性格かも。絶対に気が合わなそう。


「「「おことわり!!」」」


「そうハッキリ言われると傷つくな。こう見えて、結構本気なんだけど。僕が振られるなんて初めてだよ。折角の逢瀬にも驚いてくれないし、攫っても良いかなって、チャンスを伺ってみたけど、無理そうだしさ」


だから驚いてるよ?

タクシーを拾おうとして、手を挙げて「ヘイ、タクシー!」ってやったらパトカーだった時の衝撃位には。


でも、このサジルって、人の反応見て楽しむタイプっぽいから、対応を平坦でお送りしております。


「あなたは退屈するか、しないかで、決めるの?」


私は気になった事を聞いてみる。


「何かに興味を持てないんだ、僕は。心惹かれるものに出会った試しがない。気になったものでも直ぐに飽きてしまうんだ。それなら自分で楽しく過ごせる様にするしかないだろう?そんな時にお姫様が登場したんだよ。僕の前にね」


そうサジルが遊戯を楽しむ無邪気な顔で言う。

彼にとっては、退屈を紛らわすお遊びなのだと。


「女神様がちっぽけな人間の所為で、頑張っちゃってる姿見たら面白くて。一緒に遊んだら楽しそうだなって。ねぇ、神様なのに、どうしてそんなに一所懸命になれるの?教えて欲しいな」


サジルはそこで一旦言葉を切ると、うっそりと微笑む。

誰もが認める美形には間違いないけど、どこか胡散臭い。


「だからさ、僕の所へおいで?お姫様の事が欲しくなちゃったんだ」


サジルが一歩前に出る。

伎芸を避けて、もう一歩。そして伸ばされる腕。


「そこまでにしたほうが良いとおもうぞ?その腕が切り落とされたく無くば、な。ああ、我は構わぬぞ。威力を知っておきたいしな」


ーーーーその瞬間。


「ッ!?ーーーー!」


サジルの指先で、青白い放電がおきた。

剥がされた中指の爪と共に、飛び散った赤。


「酷いな、こんな物騒な仕掛けがあるなんて。お姫様に触れる事が出来ないじゃないか。ねぇ、これって恋人さんの仕業?重たすぎる愛情だね。嫌にならない?それとも重くないと、お姫様が飛んで行ってしまうのかな」


「そこは爪の一つで済んだんだから、お礼を言うべきじゃないか?まぁ、俺的には腕が飛んでも良かったけど」


ーーーーこの程度で重いなんて、君の気持ちがタンポポの綿毛よりも軽いだけだろう?

なんて、フロースが煽る様に言う。

サジルの眉が不愉快そうに上がる。

今までの泰然とした表情が、初めて崩れた。


「どうせ、お姫様には見せたく無かった、とか、なんだろう?酷いな、ああ、折角の商人衣装が、血で汚れてしまったよ」


でも、表情が崩れたのは一瞬で、サジルは、フロースの煽りには付き合わずに首を傾げて呟く。

他人事みたいにまじまじと服に付いた血眺めて、確認している。


一体、何が起きたのかと思ったけど、伎芸やフロースが何かをした訳じゃ無いのなら、サジル曰くの恋人さんーーーーラインハルトの仕業だろうな。

耳飾りがちょっと熱いし。


それにしても腕が飛ぶ威力って、物騒なセ○ムですね。


だけど、それよりも。


「私の青い花はどうしたの?返して欲しいのだけど」


小馬鹿にしたサジルの態度に、心掛けていた平坦が家出してしまった私は、怒りを込めて言うが、サジルは嬉しそうに笑った。


「血を流している怪我人見て、言う事がそれかい?慈悲深い女神様なのに」


「慈悲深さは只今お出かけ中なの。残念ね」


優雅に微笑むサジルに、私はピシャンと言い返す。

何がそんなに嬉しいのか。


「ふふふ、やっぱり良いね。お姫様の、僕だけに向けられた感情は。ああ、心配しなくてもちゃんと持っているよ。今、ここには無いけど。ムーダンの南門、国境にある村に来ればいい。取りにおいでよ、お姫様。僕を追いかけてさ。そうしたらーーーー」


ーーーー返してあげちゃおうかな。


自らの影に潜っていくサジルは、そんな言葉を残して音も無く消えた。





読んでいただきましてありがとうございました(*´꒳`*)

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