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6 天秤の女神アストレア

お疲れでしょうからと、ロウがシャーク殿下を休ませる為に、ラインハルトに割当てられた部屋に案内する。

どうせ使わないでしょう?って、決定してるの?!

メルガルドが呼んでいたお花組と宝石組の精霊メイドから二人、シャーク殿下のお世話と監視で付いていく。


閉じかけた扉の隙間から伺えば、疲れきっているのだろう、シャーク殿下の後ろ姿はヨロヨロと今にも倒れそうだった。

大丈夫かな。体力なさそうな感じの人だし、ゆっくりと睡眠が取れればいいのだけれど。


パタン、と扉が閉まる。

すると、私がほぅ、と溜息を付く暇も無く、素晴らしく地を這う様な低い声が、隣から発せられた。


「サッサと姿を現せ」


脚を組んで、不機嫌に言い放つラインハルトの声に、ゆらりとフロースと技芸が現れる。

だけど、二人の視線はラインハルトじゃ無くて、姫林檎に注がれている。

ラインハルトの視線も、二人には向かず、林檎を睥睨している。


妙な間が部屋を満たしていて、私の視線が泳ぐ。ラインハルトからフロースと技芸へ、そして姫林檎。

そこへ、果物を剥いてくれたメルガルドが、綺麗に盛り付けられた皿をテーブルに置いてくれたんだけど•••••


ーーーー可愛いうさぎリンゴだ。うん。


でもなんでフォークが上から無遠慮にぶっ刺さっているんだろう?


フロースはロウのいた席に座り、、技芸は立ったまま林檎を睨んで?いる。


姿を表したタイミング的にラインハルトの不機嫌の理由がフロースと技芸に向いたのかと一瞬思ったけど、なんか違う。


まぁ、怒る理由が無いしね。

じゃぁどうしてだろう?と考えてたら、今度は先程よりも数段冷ややかな声が姫林檎に向かって放たれた。


「ーーーー観念しろ」


その瞬間、姫林檎がズリッとラインハルトから下がった気がして、思わず凝視してしまう。

え、小さな姫林檎が汗をかいている。

コトコトと、震えているようにも見えるんだけど••••音がするし。

汗かいて動く姫林檎はちょっとしたホラーだ。


「やれやれ、と言うべきでしょうか?」


それまで黙っていたディオンストムが、そっと姫林檎をあやすように袖で拭く。


すると摩擦で煙が出た訳では無いと思うけど、最初は白く、段々と銀色をした煙が林檎からモクモクと湧き出てきた。


銀色の煙が天井へ立ち昇ったと思ったら、どこかで見た事がある様な気がする、新緑色の緩い卷き毛を腰の下まで伸ばした、妙齢の美女がそこにいた。



アラジンの魔法のランプならぬ、魔法の林檎ですか!?


「久しいな、天秤の女神、アストレア」


絶対零度の刺々しさ満載の声が氷柱になってないかなラインハルトさん。

目の前に現れた美女に刺さってるし、久しいな、なんて言うくらいなんだから、お知り合い以上なんですよね?態度が厳しすぎません?

アストレアと呼ばれた美女の冷や汗が、私の位置からもバッチリ見える。


「は、ハァイ、オヒサシブリ、デゴザイマス」


何故か片言のカタカナで挨拶を返すアストレアは、軽く『ヤッ!』的に手を振ると、華麗に後ろへ飛んだかと思ったら、いきなり土下座をかました。

コレが噂のジャンピング•ザ•ドゲザってやつでしょうか。

私、お初にお目に掛かりました。


そうしてアストレアが言った事は。


「姫様、すいませんでしたーーーー!!」


私に対する渾身の謝罪だった。


ーーーーんん?

え、ナニ!?私?ーーーーどうして私に謝っているの!?

訳がわからないけど、とりあえず顔を上げてもらわないと。

それに、怒っているのはラインハルトだから、謝るなら私にじゃないよね。


しきりに首を傾げる私に、ラインハルトからの説明が入る。


「フィアの気分が悪くなったのは【コレ】の所為だぞ。フィアから力を随分と吸い取ったようだ」


「そうだね••••アストレア、久しぶり。君からフィーの神力が漏れ出てるよ?」


一体どれだけ貪ったのさ、とフロースの目がニンマリしてる奥でキラリと光る。

ふふふって、なんか怖い。


「そうだな、アストレア。姫様のお力はさぞかし美味だったのだろうな?そのように馨しきをーーーー我の方にまで届くぞ」


パキって鳴ったのは指でしょうか技芸さん。

舞踏の神様じゃなくて、裏の武闘の神様降臨ですか!?

一歩踏み出して、ゆらり、と闘気が立ち昇るその姿が、とてもどこかの主人公みたいでカッコ良いけどね、ティティが此処にいたら、内心で一緒に騒いでたと思うけど!


「ならば、覚悟は出来ているだろう?」


ラインハルトの手に、顕現した愛刀が見えるのはーーーーああ、目が霞む。疲れ目かな、ねぇ、チュウ吉先生。


シャクシャクと小気味良い音をさせて、林檎を齧っている、そこの育った大福め!


「うむ。甘すぎず、酸味も程よい」


カリンと、ポポも一緒になってすっかり観戦モードだ。


「さようでしょうとも。姫様の宮の林檎を今朝収穫したものですし」


メルガルドまでシャクシャクしてるし。

しかも真顔で、ジッとアストレアさんを見ながら。


「ヒィィィ!?だ、だって仕方がなくて!シャークを守るのに精一杯だったし、力も底を尽きかけて、ヒィィィ!!そしたら、姫様の気配がしたんだもの。天の助けって思うでしょ!?ま、まぁ?ちょっと止まらなくなちゃったのは、ヒィィィ!?ごめんなさいすみません!」


気を強く言い返している割に、目と鼻から大量の水分が流れ落ちている。

折角の美貌が台無しだ。


それに、「ヒィィィ!!」ってとってもデジャヴ。


「皆、少し落ち着こう?話が先に進まないから」


ピリつく空気の中で、私はそう言うしかなかった。








読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)


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