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56話 踊る者踊らされる者

夕闇の王宮に人を探して忙しく歩き回る足音が、目的の人物を見付けて駆け足のそれになる。


「父上、お待ち下さい!」


だが、父上と呼ばれた男ーーーアルディア王国の現国王、エドアルドはそのピンと伸びた背筋を見せるだけで、振り返りもせずに呼んだ声を拒絶する。


が、アルディア王国第一王子ーーーハルナイトはそれを受け入れずに足を早め、国王の前を塞ぐ。


「ーーー父上!」


息切れを整えようとしているのか、肩で呼吸をしているハルナイトをエドアルドは一瞥した後、黙ったまま目を閉じた。



ここは王宮ーーー政務を司る公の場。プライベートな場とは対局にある。

如何に血の繋がりがあろうとも、この場でエドアルドは国王であり、ハルナイトは王子の身分に過ぎない。



ーーーーいつからここまで愚かな者になったのか。決して出来の良いとは言えぬ息子ではあったが、まだ諫言を聞く耳は持っていた。



エドアルドは静かに息を吐くと、鋭い眼光を持ってハルナイトを見る。

それに一瞬怯んだ様子を見せたハルナイトだが、国王を呼び止めた非礼を詫もせずに、喚き出した。


「父上、これは一体どういう事ですか!?何故、これに第一王子と記載されているのですか?それに、王太子領のーーーー」


エドアルドは聞くに耐えず、手でハルナイトを制する。

王妃サイドがハルナイトを王太子扱いしているのは知っている。権勢を誇る王妃の実家であるブルモント公爵家を筆頭に。



ーーーーだが。


「それがどうした。其方は第一王子で間違いあるまい。レイティティアとの婚約破棄も許した。フィリアナとかいう子爵令嬢との婚約も許した。これ以上何を望むのだ」


王妃やブルモント公爵達に何を吹き込まれているのか、この息子にはその先にあるものは見えていないらしい。

傀儡としてよく踊るを見るは、さぞかし笑いが止まらないだろう。


「王妃に何を言われたかは知らぬ。が、王位継承権を持つのはお前だけでは無い。今のお前は現国王の第一王子。それ以上でも以下でも無い」


「なっ!?アレクストは死んだと!ならば私が王太子である筈です!そうでしょう?父上!」


ーーーーアレクストは死んだ。


と、ハルナイトは言ったが、己が何を言ってしまったのかもわからないらしい。

傀儡も満足に出来ぬとは、ブルモント公爵も計算外だろう。


「継承権を持っているのはアレクストだけではない。それにお前はいつから王太子になったのか。立太子の義を承諾した覚えも、行った覚えも無いが」


「ですが、父上、父上は好きにしろと仰ったではありませんか!」


「レイティティアとの婚約破棄とあの娘との婚約の事だろう」


「フィリアナは花冠の乙女ですよ!?私の妃となるのですよ?王太子妃に相応しく!」


「いつ、決まったのだ?その乙女とやらが。大神殿ではまだ儀式はおろか、舞姫も揃っておらぬと言うに」


フィリアナがなるに決まっていると、尚も食い下がるハルナイトに、エドアルドは言葉に出来ぬ陰りを抱く。

諦念、絶望、そして罪悪感。渦巻くそれらを飲み込み、エドアルドは胸中で一つの決断を下した。


「ーーーーもういい、下がれ」


有無を言わせずに冷たく言い放つ。

しぶしぶと引き下がるハルナイトの足は、後宮へと向かうのだろう。


花冠の乙女だから王太子の妃として相応しいのか、花冠の乙女を妃とするから、自らが王太子に相応しいと言うのか。


「ーーーーそれがどうしたと言うのだ。王太子に相応しき資質とは関係あるまい」


忘れてしまったのか、わからなくなってしまったのか。エドアルドは悲しみを堪える様に一度キツく目を閉じると、再び歩き出した。










####






ガヤガヤと中庭が五月蝿い。はしゃいだ声と、それに合わせて笑う男の声が、ここまで響く。

フィリアナが反省室へと入れられて四日、大神殿に近い国々からの舞姫達が次々と到着し、それぞれ親睦を深めているのか、何れも大層見目の良い護衛の聖騎士を連れて庭の散策をしている。


(ーーーー気に入らないわ。あたしにはクズを充てがったクセに)


フィリアナの担当となった聖騎士は、決して醜い訳では無い。むしろ、世間一般的には格好いいがいい、イケメンと呼ばれるだろう容姿の持ち主だ。ただ、体格の良さ、精悍さと生真面目さが全面に出ていて、人形の様な麗しい美形とはタイプが異なる。


頭の硬い尼僧達さえ居なければ、フィリアナは今頃、美形の騎士達に傅かれていたに違いないのに、と胸内で毒づく。


(反省するフリでも何でもして、さっさとこんな所から出ないとね。しなきゃならない反省なんてないけど、あたしが若くて綺麗だから嫉妬してるんでしょ、酷い嫌がらせだわ)


反省室とは言っても、貴族が使う事を想定されているので室内は広く、調度品も年頃の娘が使う華やかさは無くても皆高級品だ。

呼べば世話役の巫女が来るし、バスルームも時間は決められているが、使える。

ここに来た当初に案内された部屋と余り変わりはない。外側からしか鍵が掛からない事を除けば。


忌々しいが今は大人しくするしか無い。


誰が降臨するのかを確認する為に、神域をウロウロしてようやく時空神に会えたというのに、あの尼僧長の所為で台無しになっってしまったのだ。

せっかくだし、今から寵愛を受けるのも悪くないと、腕の中に飛び込み、態々感動の再開を演出したのに。

嫌がらせが常に付きまとうのは、ヒロインの宿命だけれど、腹が立つ事に変わりは無い。


(でも、時空神様のルートに入っているのは間違い無いわ。あたしをこっそり見に来てたんだもの)


自分を見に来たのだから、またきっと来る。その時に会いに行けばいいのだ。

時空神にはフィリアナが何者であるかがわかっただろう。


(今度は邪魔させないんだから)





時空神がこっそりフィリアナを【視に】来たのは間違い無い。が、ロウの専属女官に扮したメイフィアをアーチまで迎えに行ったのが9割九部で、その残りだった事を知らぬは本人のみである事を、フィリアナは知らない。




フィリアナは窓辺で微笑む。その様はまるで夢見る乙女だ。


当日が楽しみならない。全てはフィリアナの思う通りに。そうでなければ、時空神は今時分、大神殿に降りたりしないだろう。



「待っていて、もう直ぐだから」


女神の身体ーーーー私の身体を取り戻すの。



この時、廊下側の鏡が妖しく光った事に、フィリアナは全く気が付かなかった。







フィリアナはハルナイトの事など既に忘れていそうな•••自分の本当の身体だと思い込んでいるフィアの身体を乗っ取る気満々です



読んでいただきありがとうございました!


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