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15 本人よりも

 ーーーーこんな感じで如何ですか?


 そう言った目の前にいるひとは、笑い方と口調はロウその物なのに、私にしか見えない。


「ーーーー•••••アハハ、ハ、ハ」


 辺りは暗く、視界も悪い忌み地の中心で乾いた笑い声が響く。

 見れば、ロウだけでなく、もれなく全員が私の姿を幻影に拠って写している。

 ーーーーつまり、私が複数いる光景を見せられいるのだけど、これは笑えないのに笑える、なんとも言い難い、気力を根こそぎ奪われそうな感覚だ。

 見てくれは私なのに、ディオンストムの穏やかな春の陽射し如くの笑顔には、涙が出そうだった。


「うん、もう良いんじゃないかな、何でも」


 投げやりに言った私は周りを見渡す。

 崩れ落ちた城の奥は、嘗ては絢爛さを誇ったのであろう、玉座の跡が栄華の果を物語っていた。

 そこには数体の骸骨な近衛騎士らしき姿ががあったのだが、神威に怯えていなくなってしまった。

 彼らが笑ったら、カタカタとさぞかし乾いた音を聞かせてくれるに違いないと思う。きっとこの状況に似合った効果音になっただろう。

 私は、ぶるりと身を震わせた。


 彼等は、還る事が出来ない魂達。


「哀れな者よーーーー自縛されているのを開放してやっても、繰り返してしまうのか」


 技芸が物哀しげに呟く。

 近寄ったら浄化されてしまうのに、魂が天へ昇れない。磁石に引き寄せられる様に、昇掛けた魂がこの地に戻ってくるのだ。

 それは、身を斬られても風が吹けば再生し、また繰り返される地獄さながらの在り方で、救いがない。


「ーーーー長い年月によって、牢獄の存在が、磁石の役割をしているな。いずれは片付けなければいけないと考えていたが••••時期が来たのだろう」


 神気や力を根こそぎ奪われても、堕ちても腐っても、神だ。質量が大きい。

 牢獄の中は、永劫にも近い時間に、アイツの気配で満ちてしまっているだろうと、ラインハルトは言うけど、磁石云々は、魔女エルフリンデの件も影響しているんじゃないかと思う。


 ラインハルトは厳しい、威厳ある表情で言っているけど、顔が私だと緊迫感がイマイチになる不思議。


「姫様、回廊へ繋ぐ準備が整いまして御座います」


 玉座の階を音もなく降りてくるモリヤが優雅に一礼する。

 ーーーー私が一礼して見えるけど。

 メルガルドが玉座の後ろからヒョイッと顔を覗かせた。

 豪奢だった筈の女王の座の後ろには、黒い霧が床を這う中で、白銀に光る魔法陣が陽炎の様に揺れている。


 それを確認すると、私は予め用意しておいた、人数分の木の棒を空間収納から取り出した。


「グループは籤の通りで!替えっ子無しだからね!?」


 木の先には色が塗ってあり、赤、青、黄の3色、3グループ分。

 皆が私の出した籤をつと、見据える。

 次々と引かれて、最後に残るのが私のだ。


「えーと、じゃぁ色ごとに分かれてーーーー」


 私はカリンとメルガルドと同じ、赤。ロウと技芸、フロースは青。黄色がラインハルトとディオンストム、モリヤだ。


 うーん、口調や仕草、気配で誰だがは判別出来るけど、見てくれが私の姿でワラワラと色毎に移動するのって、見てて気持ち悪いなぁ。


「じゃぁモリヤ、腕を出してくれる?」


 プチッと髪を引っこ抜いて、モリヤの腕に巻き付ける。淡く光るそれが、幾何学模様の入ったブレスレットに変わった。

 モリヤ自身が出口の目印になる。


「モリヤ、門番をお願いね。支持あるまでは魔法陣からは絶対に出ないで。キョロ助の扉は開けたままで行くから、悪いけど私のふりをしたままでね」


 モリヤには、身体半分を牢獄へ、半分は現世へ置いてもらうのだ。


「フィア様、扉をーーーー皆様、中に入ったら、なるべくフィア様のフリをお願いします」


「ロウよ、仕草や表情を真似ればよいのだな?」


「フフン、俺なんて伊達にフィーの幼馴染してないからね」


「僕だって、数年間ずっと一緒にいたしー」


 メルガルドとディオンストムは若干不安そうで、ラインハルトはきのこのお菓子を食べだした。

 えーーーー何で!?


「ーーーー(私ってあんな!?)」


 よく分からない私の真似らしきモノをしだした皆を放って、キョロ助を呼ぶ。

 魔法陣の真ん中に、デデンと存在を誇示するキョロ助の扉をゆっくりと開けると、小さな小瓶に入った赤い液体を垂らした。


 底の見えない真っ暗な空間に、赤い液体が意思を持って、瞬く間に細い糸の様に伸びる。

 糸は目指す最深淵に向かっている。サジルが上手くやっているようで、先ずは一安心だ。


「行くよ?みんなもいい?」


 各々、頷くのを確認すると私達は扉を潜った。



 最初に潜った私を皮切りに、グループ毎に潜る。最後はラインハルトだ。


 ーーーーあれ?さっきまで持っていたきのこのお菓子がたけのこになってる。


 兄様達はたけのこ好きだけど、私はきのこの方が好なんだけどーーーーと、どうでもいい事を思いつつ、全員が通ったのを確認してから、標の色を見失わないよう、慎重に飛ぶ。深く潜って行く感覚が、ゾワゾワと不快感を齎す。無重力ってこんな感じなのかも。

 落ちるーーーーあの恐怖の修行で味わった感覚に似ているし。


「これが一体どこまで続くやら」


「ーーーー時間の感覚もわかりませんし。ですが、糸の色が暗闇でもハッキリとして来ましたね」


「そろそろ気が付かれるかもね。ーーーーあっ」


 終わりの無い道が後どれ位続くのか、溜息を付きそうになる頃、ピリピリと肌を刺激する視線を感じた。


 見られているーーーー!?


 四方八方から覗かれている気分だ。

 耳に不快なノイズが入る。

 空間がが蠢く。

 これはまるで、赤い道標の周りを囲む、脈動するトンネル。



 キンーーーーと緊張感が走るその時。


「ーーーー来る!!」


 蔦の様な黒く細い影が、それぞれの組に数本づゝ襲いかかってきた。私は辛うじて避けるも、誰かが捕まってしまったらしい。


 直後に脳裏に響く、アステールの声。


『メイフィアは捕えた。ライディオスに伝えろ。メイフィアの身体は有難く使わせてもらう。俺にとっては邪魔な神核を壊されたくなくば、この牢獄から開放しろとな』


 ーーーーんんん?



「えええ!?フィー!!」


「姫様!?」


「フィア様ーーーー!」


 口々に皆叫ぶけどさ、私ここにいるんだけど。

 

「ーーーーはい、何でしょう」


 同時に、一斉に声のした方へと振り向かれる。皆様、目が点になってますよ?


「「「「じゃぁ誰が攫われた!?」」」」


 キョロキョロと私の姿で、お互いを確認し合う。シュールな光景だわ。


「あ、一番危険なーーーー」


「ええ、極大攻撃魔法よりも危険でしょうね」


「よりにも寄って、あの男を、か」


「俺じゃなく、ラインハルトの方がフィーの真似が上手いって•••••ちょっとショックだな」


それってさ。私よりも女神らしく見えたって事かな。それとも、私の真似が物凄く上手だったって事かな!?





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