14 キョロ助再び
「ああ!もぅ!!すっごい視界悪いし、気分悪くなるし、最悪な環境!」
「僕もフロース様に同感。人間も、失われた技術だか何だか知らないけどさ、調査失敗続くの当たり前!あんな所に行って生きて帰ろうなんて•••••あ、そうそう!ムリゲーってやつだね!」
そうです、私達は、忌み地を偵察して来たのですがーーーー。
フロースは臭気を浴びた所為で、ご機嫌が明後日に斜めだ。プリプリしながらサッサと湯殿へと行ってしまった。
カリンも不機嫌に言ってるけど、ムリゲーって、覚えたての言葉を使えたのでちょっと嬉しそうだ。
黒い霧が漂い、不死者となった骸骨の魔物やゾンビ型の魔物ーーーー過去は人間だったり、飼われていた動物達ーーーーが跋扈している、廃墟の街。
私も大きな虫型の魔物も多くて、それだけを見れば、腐った何処かの森かと思ったよ。
「本来ならば、私達が居るだけで瘴気は浄化をされるものですが•••••」
「濃すぎて、俺達がいる場所が浄化されるだけだったな。あの場所も直ぐに瘴気塗れになるだろう」
「聖霊王の私も聖霊達に、立ち入るを禁じましたから」
「いやはや••••聞きしに勝る、でした。わたくしは、辛うじて忌み地より戻って来た者の調書を読んだだけですが、その者が正気を失っていたものですから、話半分に思っておりました」
神に見捨てられた大地だ。
古より存在する神は勿論、エルフリンデのやらかしで、私やフロースの様な比較的若い神でも忌避していた場所だもんね。
大体、あそこはライディオス兄様の怒りの鉄槌が二度落ちてるし、三度目は無いと良いなぁ。
だから私だって、出来る事なら近寄りたくない所だけどーーーー。
「だが、姫様の言う所の『電波』とやらの反応が良いのであろう?」
電波って言うのは、サジルの手枷に細工した繋がりを例えたものだけど、言い得て妙だ。
当にそんな感じで、一番感度がいい場所から飛んだ方が良いので、心地悪くてもこればっかりは我慢してもらうしかない。
ティティのギフト『中和』が電波を誤魔化してくれているから、近場じゃないと電波が拾いづらいのですよ。
「裏口からお邪魔します、になるんだけどね。サジルからの情報だと、どうも罠を仕掛けられているっぽいし、チュウ吉先生ラインで追い掛けるのは止めたいんだ」
サジルからは情報を貰うって言うか、手枷を通して断片的に思念が送られて来る。
悟られないギリギリなので、伝達力は弱くて、途切れるのは仕方がない。
頼んだ訳じゃないし、これについて文句は無い。
寝返って罠の可能性も考えたけど、見たままありのままなら、チュウ吉先生とポポは囚われの身だ。
このラインでの追跡は、私まで囚われてしまう。
この手の罠って、入ったは良いけど出られないとかあるあるだし。
それは避けたいので、やっぱりサジル経由になるのだ。
「しかし、どうやって行くおつもりか?」
技芸の疑問はごもっともで、ライディオス兄様力作の牢獄だもの。早々破られないし、壊すなんて本人にしか出来ない。
だからこその裏口なのだ。
「大丈夫、門はキョロ助ーーーーアルディア王城の宝物庫を守っていた怪異なんだけどね、この子を使うの」
デデン!と召喚してみせたキョロ助に、皆の顔がスンとなった。
ーーーー解せぬ。
元々、古い魔導具だったキョロ助は、そこそこ瘴気に強い扉の怪異だ。
一から私が作るより手っ取り早いし、何よりも私達の気配を察知されずに牢獄へアクセス出来る。
ーーーー入った後は流石に悟られるだろうけど、初っ端からバレるよりは、進む為の時間を稼げると思う。
いきなり呼び出されたキョロ助は、大きな目に涙をぷっくりと浮かべて、神々の神威に怯えている。
私はキョロ助のまぶたを手の平で撫でながら、宥めて涙を引っ込ませた。
うん、怖かったね、いきなりで驚いたね。
「キョロ助私を覚えている?うん、そう、フィアよ。私が呼んだの」
瞬きを繰り返して、喜んでくれているのが分かるけど、まだ女官の『フィア』だった頃に名付けたので、メイフィアとしての私とは繋がりが薄い。
女神の力で契約していない中途半端な状態で、今回はそれが都合良く作用した。
上手く私の気配を隠してくれるだろう。
ーーーー鍵はサジルの血だ。
入った後は、サジルに付けた手枷•••••目印を導べに、向かえば良い。
今のうちに、やって欲しいことをキョロ助に説明しておく。瞬きだけでの返事をするので睫毛がバサバサ動いて、扇がれている様だ。
忌み地での護衛にはモリヤがいるし、知った仲なので安心も出来るかな。
「上手くいけば、翡翠に付与したフィア様の血がダミーの役割をしてくれそうですが••••さて、お相手様には、どの辺りで気が付かれるでしょうか」
到着地点まで気付かれないのが理想だけど、簡単にはいかない、と思う。
だけど、思案顔のロウは、何かを思いついたようだ。
「フィア様ーーーーいっその事、三組のグループに別れるのはどうでしょう?親石が同じ翡翠に、フィア様の血の気配は強力な目印になります。万が一の場合には、『外で待機』しているモリヤの場所まで戻る為の御守りなのでしょうがーーーー」
「誰かがサジルの元へ辿り付けたなら、他のグループを『呼べる』な」
サジルが牢獄にいるので、その血は扉を開く鍵にはなるけど、サジル自身を目印にするには、牢獄は深過ぎる。だからこその手枷の細工、道標なのだ。
で、その手枷の道標よりも、強く引き合う『御守り』があれば、移動がもっと簡単になる、と。
ふむ、なんと言っても、私の血が使われているのだし、そりゃぁ目立つよね。
「歪んでしまったあ奴の事だ。意地悪く、姫様を迎える『準備』をしているだろうよ。だがーーーー我らが別れる事で、なるべく長く時間を稼ぎ、何処かの組が、首尾よく辿り付けば良いのだな?」
ーーーーはい、と返事をしたロウの片眼鏡がキラリンと光った。