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6 行方

 私がチュウ吉先生や、ポポの素性について思い至ったのは、つい最近の事だ。

 記憶を取り戻したのが数日前なのだから、当たり前なんだけど。

 パズルのピースが整う、と言うよりは、歯車が合わさって回り始めた感覚。


 メルガルドに淹れ直してもらったお茶を手に取って、薄い茶色の水面を覗く。

 揺れる液体が、在りし日の自分を思い起こさせた。



 ーーーー昔々、と前置きが入れられる位の時代。


 人の世の事は人がーーーーと、私に諭した人でも聖霊でもない存在がいた。

 それは、瘴気が渦巻く湖畔で。

 薄く今にも消えてしまいそうな儚い精神体。側に、白い龍が眠たそうに横たわるのは、今なら命の灯火が消えかけていたのだとわかる。

 事実、消える運命だと言っていた。


 色のないその精神体は、どこか月光の母様に似ていて、だけど背はスラリと高くて兄達くらいはあったと思う。


 女性的に見えて、脳裏に直接響く艶のあるアルトは、男性的で聞いているのが心地良かった気がする。

 私の頭を撫でながらゆっくりと諭すのは、父様にも通じものがあって、甘えたくなる雰囲気を持っていた。


 ーーーー人々を地上の星に擬えた、神。


 消えるなんて事を言うのが悲しくて、その微笑みが寂しそうで。

 力無く目を閉じた龍も、既に瞼を動かす事すら億劫な様子だった。


 大きな体が生きることに支障を来すならば、小さくなれば良いと、龍の力の欠片を変化させた。

 宿る体が無くて消えそうならばと、瘴気にも負けずに咲く蒲公英に、その存在を移した。


 一応の了解は取ったもののーーーーもう少し格好の付く対象は無かったのだろうか、幼き私よ。


 まぁとにかく、瀕死の二体を、妖精規模に存在を落ち着かせたのだ。


 後は【場】から魔素をーーーーと思った所で、瘴気が問題だった。

 もとより、地上の瘴気をどうにかしたくて降りてきたのだ。だが、私が直接解決する事は宜しく無いと、諭されたばかり。


 そんな時に、届いた切なる願い。

 シーツの端に胡桃を括り付けて舞う少女。

 それは、拙いながらも、美しい舞だった。


 気の合う友となった、人間を思い出す。

 ーーーー初代の乙女。

 直接が無理ならば、人間が浄化を出来るようにすれば良いと、私が祝福を授けた人間。

 かくして、湖は浄化された。




 あれから数百年。

 滅びへの時間を延ばした事で、今に帰結する。すべてが繋がっていく。


 私は想いを馳せながら、手の平を温めていたカップを暫し弄ぶ。に口を付けて一口飲めば、豊かな香りにほぅと溜息が出た。


 チュウ吉先生とポポの薄くなった繋がりを確かめる。

 それを少しだけ補強する様に、力を込めた。

 切れないように、慎重に、辿る。

 必ず迎えにいくと、願いを込めて。


「カリン、お使い頼める?ガレールまで」


 ティティの元へ、使いを頼む。

 ガレール領の公爵邸の離れを貸してほしいと言う事が一点と、ガレール産の琅かん翡翠を用意出来るかどうか、聞いて欲しいのが二点目。




 カリンが二つ返事で頷いた時に、部屋の扉がノックされた。

 足早に、甲冑の音も勇ましくあって、聖騎士の慌てようが目に見える。


 聖騎士が入室するなり跪く。

 堅苦しい口調が述べたのは、私とラインハルトには予想がついていた物だった。


「申し上げます。大牢獄より、囚人サジルが消えました」


 一瞬ピリっと空気が震えたが、皆の探る気配が私に集中したので、察したんだと思う。わたし、大牢獄に行ったし。

 ロウが、頭痛そうにこめかみを揉んでいる。

 ディオンストムがレガシアに指示を飛ばしているので、『何事も無かった』事になるのかな。

 内心では不本意だろうけど、少ない情報の中から神様事情があるのだと、汲み取ってくれた聖騎士さんには感謝しかない。


 室を下がった聖騎士の気配が遠退いた頃、しみじみとした溜息が部屋を満たした。


「ーーーーそれで、ご説明は頂けるのですよね?フィア様?」


 あ、片眼鏡が一段と鋭く光った。

 話す切っ掛けをどうするか、悩まずに済んだのは良かったけど、少しタイミングが悪かったよ。


 サジルが消えたのは確かに私が関わっているけどね、何というかーーーー実行に移すの早くない?サジルさん。

 せめてもう一服の間が欲しかった。

 やってくれるかは完全にお任せだったし。


「んー、サジルにね、封じられた神様のお誘いに乗って、あちら様の所へ行ってほしいって頼んだの」


 私の言葉に驚いたメルガルドが、持っていた茶壺をひっくり返した。



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