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27 悪役ですか

足場の悪い道を走れば、木立の合間から覗く屋敷が見えた。

こんな山奥によく建てたなぁ、と感心しかけて、直ぐにサジルが影を使ってまるごと持ち込んだのだろうと思い直す。


取り戻した記憶が整理出来ずに目眩がする。

例えるなら、満天の星が一気に身に降り掛かって来た感じで、そこから必要なモノを引っ張り出すのは至難を極めた。

こういう時に限って、余計な思い出を掴んでしまう。と言うか、黒い歴史が多くないですかね、私。


プルプルと身震いをした時に、求めた影が窓ガラス越しに見える。

黒く長い髪を靡かせて走るフィリアナが、そこにいた。


天秤を使われても面倒だけど、まずはギフトを剥奪しようと神力を練る。

それを細く、鋭く、フィリアナに向けて飛ばす。

ロウに散々鍛えられたからね、上手くいったと思う。

ここの村は既に『場』が乱れていて、危うい。

ホンの少しのバランスを崩すだけで、何が起こるか分からないのだ。

慎重に、でも素早く抜き出す。感覚的には、一瞬のだるま落としに似ている。


私は、手元に届いたフィリアナのギフトを握る。

それは赤黒く染まっていてーーーー本来ならば明るく、星の様に輝いている筈だった物。

握る手に少し力を込めれば、砂のように崩れ落ちた。

頬を撫でる風が、指の隙間から溢れた、キラキラと光るギフトの残滓を天へと運ぶ。


ーーーーこれでもう、フィリアナはギフトの力は使えない。


陽光を反射する窓ガラスに、目を細める。透過させた意識を辿れば、屋敷の中のフィリアナが、天秤を手に取っていた。


「それを使って何をするつもりなの?」


一瞬で部屋の中に現れた私に、ヒッと、小さく悲鳴を上げたフィリアナが天秤を後ろ手に隠す。

人間って、どうして後ろに隠すのかな。バレバレなのに、ついやってしまうのは私も経験あるけど。あるある不思議。


フィリアナは驚きで言葉が出ないのか、パクぱくと口を動かしてるだけだ。


「うーん、どうしてココが?とか、なんでここに?とか言いたいのかな」


私を恐ろしいモノのように見て、ジリジリと後退りするフィリアナは、テラスへと続く扉に背をぶつけた。


硬い、金属が擦れた耳障りな音がして、眉を顰めると、一層の怯えが伝わってくる。

怯えるなんて、なんか失礼じゃない?


フィリアナが震えながら、ガチャガチャと回すのはドアノブだろう。

逃げられる前に、サッサと天秤を回収したいのだけど、アストレアが近くにいる所為で天秤が反応して、力を弾かれてしまった。


「お願い、開いて!」


フィリアナの願いに応えた天秤が、テラスの扉を開く。

尻もちを付いてテラスに転げたフィリアナはそれでも天秤を離さない。

妙な所で根性を出すな、とも思うけど、先程のフィリアナの台詞と言い、このシュチュエーションってば、ヒロインを追い詰める悪役っぽくて、笑ってしまった。


「もう此処で、天秤の力を使わない方がいいよ?【場】が乱れて危ないから。アストレアの天秤返してくれる?」


出来るだけ優しく、ダメ元で言ってみる。

その間も、天秤に再アタックをしてみるけど、やっぱり弾かれてしまった。

その際、バチっと静電気が起こり、フィリアナの悲鳴が響く。

これで手を天秤から離してくれればいいのに、フィリアナも頑張るなぁ。


制限している力だと、アストレアの天秤の力を出し抜くのは根気がいる。

いっそ、神力を消して、直接取りに行く方が、早いかもしれない。

指が白くなるまで天秤を握り締めている、そこから奪うには、相当力が要りそうだ。


「来ないでよ!」


ちょっとゲンナリしつつ、コツン、と靴音を鳴らして一歩近づくと、また来ないで!って叫ばれる。

ホント、私が虐めているみたいじゃない?泣きたいのはこっちなんですけど!?


もう二歩近付いて、天秤を回収しようと指先が触れたーーーーその時、幼い声と、硬い礫が私の周りで弾かれる音がした。


「フィリアナ様を虐めるな!」


「え、え!?」


視線をテラスの先、そうは広くない庭の中ほどに向けると、男の子が怒りながら、私に石を投げていた。


何度も投げられる小さな礫は、私に当たる前に、耳飾りの防御で弾かれる訳だけど、止める気配が無い。


「あっちいって!触らないでよ!」

「ーーーーッ!!?」


フィリアナはその隙を見逃がさず、腕を振り回すと庭に出てしまった。まだ幼い少年の後ろに庇われる。


至近距離で、天秤ごと振り回した腕に、大丈夫だとわかってはいても、思わず避けてしまったのだ。


「フィリアナ様を虐めるな!オレ、知ってるぞ!天秤をねらう悪い魔女だろう!お前!」


私がテラスから降りて、男の子に向かうと威嚇される。

これって、まごうことなき悪役ポジションですよね、私。


「どんな話しを聞いているのかは知らないけれど、その天秤はフィリアナの物じゃないわ。女神アストレアの物よ。私はそれを返して欲しいの。これ以上、ここでその力を使われる前に」


努めて穏やかに話し掛けてみたけど、少年の威嚇は止まない。


「だからなんなだよ!オレの母ちゃんの病を治してくれたのは、そのナントカって言う女神じゃない!フィリアナ様だ!祈っても願っても、何にもしてくれない女神なんてしらない!オレの女神はフィリアナ様だ!」


それは少年にとっての真実だ。

他方から見れば、嘘で固めたものだろうとしても、事実と異なっても。


「魔毒による病は、シャークにも説明を受けた筈。説得に応じて下山し、適切な治療を受ければ治るものだもの。神の出番はないわよ?」


「嘘だ!医術の心得がある村長が言ってたぞ!そんな治療できる訳ないって」


一体、何十年前の話ですか••••それ。


これだけ盲信されていれば、フィリアナもさぞかしーーーーと思いきや、目をかっぴらいて驚いて?いる。


少年の差し出されたーーーー寄せられた真っ直ぐな心。


フッとフィリアナの瞳が揺らいだ。


「フィリアナ様、また苦しんでいる奴らがいるんだ!助けてやって!」


「ちょ、もう天秤は使ってはダメよ!ここら辺一帯ーーーー」


「うるさい!アンタはそこから動かないで!」


私の話しを遮って、天秤の力が発動する。

ピキピキっと、私の動きを制限されたようだ。


ーーーーあ、ヤバイかも。


「わかったわ。治せば良いのね?」


パァーっと明るい表情でお礼を言う少年に、フィリアナは至極真面目な顔をみせた。

決意に漲っているというか、やる気が溢れていると言うか。


フィリアナが天秤を掲げる。


「天秤よ、願いをーーーー」


ーーーーちょっ!


「ちょっと待ったァァー!」


あれ、心の声が漏れたかしら、と思ったら、緩やかに波打つ髪を乱して走り来る美女がいて、アストレアの叫びだと知る。


「ちょっと、待って、下さいーーーーッ」


アストレアを追いかけて来たシャークもいたわ。


「誰よ!アンタ達!邪魔しないでくんない?」

「はぁ?その天秤の持ち主よ!勝手に私を使わないで頂戴!」

「ああ、役にたたない女神とやらね。そこで見てればいいじゃない、アタシがちゃんと役割を果たすのを!」

「あの、落ち着いて、ね、アストレアもーーーー」

「何でもかんでも叶えれば良いってもんじゃないでしょー!?馬鹿なの?ねぇ、馬鹿なの?」




現場は一気にカオスとなった。






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