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17 覗きは禁止です

「心配を掛けたーーーー済まない、ムスリ。いらぬ苦労もさせた」


 以外にもシャーク殿下は、しっかりとした声音でムスリを労う。

 泣くかと思ったけど、無理して堪えている訳じゃないのが、フードを外したその表情からは伺えた。


 以外だったのはムスリ宰相もだったようで、ハッと目を瞠っている。

 そんなムスリ宰相に、シャーク殿下は困った感じで淡く微笑むと、手を取って立たせ、もう一度「すまなかった」と揺らがない瞳が、切れ者と噂の宰相を見詰めた。


「久しぶりの説教をせねばと、身構えておりましたがーーーーどうやら御不用になってしまったようで」


「うん。僕は今でもビクビクしているよ。貴方のお説教が怖くて。すべてが終わったら、ちゃんと聞くよ。だから、ここで待っていてくれないか?僕は、行かなくてはならないから」


「それではご期待に応えて、記録更新を目指してみましょうか。さて、何時間堪えて頂けましょうや」


 まさかの説教回避ーーーーからのお説教リターン!?

 シャーク殿下ってばエムな人なのかしら。

 まぁ、ムスリ宰相のは半分冗談で言っているのはわかるけど、私だったら、ロウのお説教を回避出来るなら、全力出すけどな。


 ーーーーあ、寒気が。


 片眼鏡が光ったのは見なかった事にしよう。



 それから私達は、簡単な挨拶は馬車で済ませていたから、これからの予定を話し合う。


一応、私達は神殿関係者で、冒険者です。

ディオンストムと愉快な仲間たちです。


って言い張りました。シャークさん、引き攣ってますが、頑張れ!

ムスリ宰相は気が付いていそうな感じだけど、空気を読んでくれたようだ。



 聞けば、シャーク殿下の犯行、容疑を執拗に訴えているのが三番目の王弟、カシアン殿下だそうで。


「毒物は発見されておらず、また御遺体からも検出はされておりません。シャーク殿下が毒殺したと言う証拠は、何一つ無いのですが•••••」


 でも状況が状況で、シャーク殿下が居ないこのままだと、王位の継承権の剥奪や、王家からの追放もあり得ると、もう一人のお兄さんが心配して、秘密裏に追手を掛けたそうだ。


 シャーク殿下は末の四番目で、追手を掛けた、二番目のお兄さんーーーールモンド殿下は軍務を預かる将軍だそうで、王位には興味が無いとか。別名脳筋殿下と呼ばれているらしいとは、ムスリ宰相情報。


 なんだろう、お兄様って付くポジションには脳筋が必須なのかしら。


 それぞれ母親は全員違うけど、ラウゼン二世が生きていた頃は、仲が良かったらしい。


「カシアン殿下は確かにお調子者ですが、証拠も無く騒ぎ立てる方では無かった筈。それが一体、何があったのか」


 カシアン殿下は財務関係に強くて、そっち方面に引っ張りだこだったらしい。

 でも、これと言った役職は持っておらず、ラウゼン二世の片腕として、その時々でコロコロ代わっていたとか。


「大変仕事の出来る方だったのです」


 いるよね、そういうオールラウンダーって言う人。


 そこにモリヤが、本体の酒盃を魔法陣の上に置いて、お留守番役の準備を整えると、いつもの執事姿でお茶を配る。


「姫様、お熱いのでお気を付け下さいませ。何やら難しいお話をなさっておいでですがーーーー」


 ーーーー怪異の使う『惑わし』に良く似ている気配がします。


「ああ、それで。馴染みが無いようで、覚えがあるような、奇妙な感覚はそれでしたか」


 後半は、ロウに向けて言ったモリヤの言葉に、本人はどうやら思い当たる節があったようだ。


「確かにな。洗脳、とでも言うか。心の弱く柔らかい所を突いて抉る。そして毒を流し込み、染まった穢れた魂を喰らう隙を狙う怪異に似ている」


ラインハルトの淡々とした低い声が、重みを持って落ちる。

途端にゾワゾワとした黒い影が這いずる感覚が私の背中を駆け上がった。


ほら、シャーク殿下だってプルプルしてるし!


「そのカシアン殿下って、もしかしてシャーク殿下が王位を継ぐのに反対して無かった?ああ、反対って言うとアレか」


何だか名探偵みたいな雰囲気出してますが、フロースさん、これはカシアン殿下洗脳の確率が高いと言う事ですかね?


「反対と言いますか••••このまま僕ではなくて、サジルへ継承させても良いのでは、と言うニュアンスでしたが••••」


気の弱いシャーク殿下を庇って言っていた、とも取れそうな感じだそうで、反対していたとは言い切れないそうだ。


だが、指摘されてしまえば無視できぬ、仄暗い感情。


「時間を掛けて、壊れていく様を見て、何が楽しいのか。俺には理解できんな」


「ラインハルトは、蟻の行列の道を塞いだ事ってある?じゃぁ、花の生垣で葉を毟った事は?咲いている花の花弁を順番に取ってしまうとか、青虫の前に蟷螂を置くとか」


ずっと首を振っているラインハルトは、私の意図がわからずに困った顔をしている。


フロース達も盛大にクエスチョンマークを頭上に掲げて、一斉にコテンと首を倒した。


ただ、ロウとディオンストムは途中で気がついたようで、納得している。

あ、そうか。生粋の神様精神だと分からないかも。

ほら、ムスリ宰相も、合点がいった顔をしたし。


「それはどれも、子供がやる遊びですね。面白いと思えば面白い。でもどこか冷めたつまらなさもある。単純な好奇心と、惰性の産物。大人に可哀想だと言われて、この行為が可哀想な事と知っても、未熟な精神は理解していないのですよ」


誰が付いた溜息なのか、今しがたのロウの言葉に、長い沈黙と一緒に流れていく。


「蟻や蟷螂が人間になっただけの事なんだね、サジルにとっては」


では、洗脳の方も調べるとしましょう。

と、ディオンストムが上手く纏めた感じで締めくくった時、東の一角のエントラスからの呼び鈴が鳴った。


ピクンとムスリ宰相の眉が跳ね上がる。

浅黒い肌に皺が寄って、不本意そうに柳眉を顰めた。


「失礼を。ここには近付くなと触れを出していましたがーーーー火急の件やもしれませぬ故」


早歩きで立ち去ったムスリ宰相は、出ていった時よりも急いで戻ってきた。

息が上がっている。

手に持っているのは小包だ。


見せて貰った宛名にはただお姫様へとしか書かれていない。

が、裏に紋章が書かれていて、その人物が問題だと言う。


ーーーーお姫様って。嫌だわ、何処かの誰かが私をそう呼んでたし。

ラインハルトの機嫌が超特急で下降する。

あっという間に、ギュムリと背後から逞しい腕が私を拘束した。


「あの男の気配だ。フィアは見るな。腐る」


「んむー!?」


私は、でも、と言いかけて、顎をクイッと上に持ち上げられ、覆い被さるラインハルトの顔が見えた途端、唇を塞がれた。


トサっと紙包みが床に落ちた音。

見なくてもわかります。ムスリ宰相が落としたんですね。

おそらくは埴輪になっているのではと推測致します。

次いでバリバリ紙を破く音がしますが、何方でしょうか。


「んー!ちょ、ラーー」


抗議の為に開いた唇は、角度を変えて深くなってしまう。探り絡まる舌に、腰が砕けそうだ。


「ん、フィア可愛い」


ゼロ距離で囁かれて私の心臓にダメージが!


更には焦げた臭いが部屋に充満してるし、何をしちゃってるのー!?


漸く離してもらえた時には、首は痛いし、息は絶え絶えで苦しいしで、大変だった。

ここはガツンと言わねばと奮起したけど、まだ濡れている唇を、親指でなぞられて、焦がれた眼差しに晒された私は、戦略的撤退を選びました。はい。




そして、焦げた臭いを辿った私の目に写ったのは、小包だったーーーーらしい、まる焦げのカスをモリヤが塵取りで集めて捨てている所で。


こっそりとシャーク殿下に聞けば、空色の髪紐が入っていたそうな。





この日の夜、私の元に一枚の薄紙入れた筒が届いた。

窓辺に止まっている梟が私達を伺っている。

差出人は言わずもがな、だ。

ラインハルトが受取って、ピラッと透けるほど薄い通信紙をヒラ付かせると、私を腕の中に囲う。


「懲りない奴だな。燃やされるのを知っているだろうに」


ラインハルトが、もう少し見せ付けてやればよかったか?なんて言う。

み、見られていたの?あれを!?


「え、今も覗かれていたりするの?」


え、何それ、怖いんですが。

腕の中でキョロキョロしても、何処にいるのか分からない。

まさか、そこの梟とか言わないよね。


「まだこの部屋には【何もしてない】からな。ーーーーそれで?俺に何の用だ。まさか、フィアに『似てない』と言われて傷付いたとでも?」


冷たく響くラインハルトの言葉に、梟がホーと一鳴きした。





####


読んでいただきありがとうございました(*´꒳`*)



↓お知らせです。


いつも訪れて頂きましてありがとうございます。

楽しみにして下さる方がいらっしゃったら大変申し訳無いのですが、お仕事の繁忙期がやってまいりますので、更新の頻度が不定期になります。

週に二回程度になりそうです。

出来れば三回としたいのですが•••••ちょっと厳しいかも知れません(´・ω・ `)


細々と続けて参りますので、これからも宜しくお願いします!






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