表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能力者達の夜明け  作者: ゆーろ
冒険者達の午後
5/28

冒険者達の午後 破×1

破1

0:冒険者達の午後 破×1


0:ーーー「脱稿エクスポーション」ーーー



0:登場キャラ


ガロ:男。ガロンドール・ウォンバット。冒険家。準ギルド「アホレンジャー」リーダー


ジャイロ:男。ジャイロ・バニングス。賞金稼ぎ。準ギルド「アホレンジャー」


ノエル:女。ノエル・ベルメット。A級ギルド所属。元探偵。準ギルド「アホレンジャー」兼「グランシャリノ」


カラス:男。カラス。姓なし。侍。準ギルド「アホレンジャー」。「中央職員」を兼ね役


アシギ:女。アシギ・ロムシュート。小説家。


ギルバート:男。ギルバート・ハインツ。編集者。「犬」を兼ね役


アガット:女。アガット・スロンファー。準ギルド「アガメムノン」構成員。「受付」を兼ね役


0:

0:フランス。リベール市

0:ハックシン通り。とあるマンション

0:


アシギ:(M)創作者は。常に表現の奴隷である。


アシギ:(M)誰に強制されているわけでもなく。ただただ、脳内に広がる光景を書き起す。その連続が、何れ物語を紡ぐ。


アシギ:(M)その繰り返しが、いつの日か自分の生活を、人生を作っていた。期待。評価。ブランド。名声。私が立っているこの足場は、様々なものの上に成り立っている。


アシギ:(M)初めは楽しかったのかもしれない。自分の表現が、認められた様な気がしていた。


アシギ:(M)次第に、それは現実という名の怪物が飲み込んで行った。


アシギ:(M)無作為に散りばめられた表現は、型取りをされて綺麗な形となり。その原型も、今となっては、もう分からない。


アシギ:(M)私が立っているこの足場には、数多の表現の死体が散乱している。


アシギ:(M)創作者は。常に表現の奴隷だ。


アシギ:(M)1986年。アシギ・ロムシュート。自叙伝より。


0:回想

0:5年前


ギルバート:「やあ。アシギくん。」


アシギ:「…。誰ですか」


ギルバート:「僕は、ギルバート・ハインツ。今日から君の担当編集につくことになった」


アシギ:「…。そーですか。原稿ならそこにあるので。さっさと帰ってください」


ギルバート:「冷たいね。」


アシギ:「どうせ。貴方も他の担当編集みたいに、すぐにお手上げって言って降りるんだ。」


ギルバート:「君の塞ぎ込み気味な態度に、かい?」


アシギ:「ええ。そうですよ。」


ギルバート:「…。大丈夫。安心してくれ。そして信頼してくれ。」


アシギ:「なにをですか…?」


ギルバート:「僕は、君の大ファンだ。」


アシギ:「…」


ギルバート:「絶対に。君を見捨てたりはしない」


0:場面転換

0:5年後

0:フランス。リベール市。キャリオン街


アガット:(M)西暦。1991年。2月19日。


ノエル:「はあ…っ!はあ…っ!おい!そっち行ったぞ!」


ジャイロ:「はぁ!?こっちになんて居ねぇじゃねえか!ふざけんな!」


ノエル:「え!?いや、そっち行ったって!」


ジャイロ:「ホントなんだろーなっ。」


アガット:(M)フランス。リベール市


犬:「わん。わん。」


ガロ:「ったく〜。この犬っころめ…。いい加減観念しやがれ…っ。」


カラス:「逃げ足だけ一丁前な…。手足切っちまうか?」


アガット:(M)準ギルド「アホレンジャー」。現在、任務中。


ガロ:「いや。そりゃさすがに不味い。依頼主に怒られちまったら報酬金がねえ。」


カラス:「つまり今日の晩飯にありつけないわけか。」


ガロ:「そうだ。やべーだろ。もう二日もろくな飯食えてねえ。今日こそ肉を食おう。肉を」


カラス:「賛同する。」


0:二人はそろりそろりと犬に近付く


犬:「ふっ。ふっ。」


ガロ:「良い子だからよォ〜。動くんじゃねえぞォ。」


カラス:「怖くねえからな。焼いて食おうだなんて思っちゃいねえよ。お前の肉より上質な肉を食う為に、動くなよ…」


犬:「ふっ。ふっ。」


ガロ:「そーだそーだ。この調子だ。あと一歩踏み出せ。未来は明るいぞ」


カラス:「いい毛並みしてんじゃねえかわん公。な。あんまり俺をイラつかせるなよ。な。」


ノエル:「あれ。ジャイロ、あの二人。」


ジャイロ:「お。あ!こんな所にいやがったのかおまえら!」


犬:「ふがっ。」


カラス:「バカお前!」


ガロ:「大きい声出すな!!」


犬:「わんわんきゅーんっ。」


ノエル:「やっば…!」


ジャイロ:「あ!わんコロてめぇ!こんなところに!」


犬:「わんぶふぶっ。」


0:犬は逃げ出した


ガロ:「あーーー!」


ノエル:「おーいばかジャイロっ。なんでそんなにがっつくんだっ。」


ジャイロ:「だって2日ぶりの飯だろぉ!?」


カラス:「てめぇアロハ、足引っ張ってんじゃねえよ」


ジャイロ:「お前がさっさと捕まえねえから逃げられてんだろうがナマクラこら」


カラス:「はぁぁぁ?」


ジャイロ:「んンンン?」


ガロ:「ちくしょお。腹減ったぁ…。支援活動ってのも楽じゃねえなおい…」


カラス:「まったくだ。アロハの身柄でも売っぱらって今日の晩飯代にするか」


ジャイロ:「人肉って食えんのかぁおい。てめぇのは不味そうだなぁこらこらおい」


カラス:「あ?」


ジャイロ:「は?」


ノエル:「はぁ…。もういいよ、無駄な体力使うなって。また腹が減る」


ガロ:「はぁーー。腹減ったぁぁ。」


0:場面転換

0:ハックシン通り。とあるマンション


アシギ:「…。これも。これも。違う。」


0:女は原稿を破り捨てた


アシギ:「これも。これも。これもこれもこれも。違う。違う。違う違う違う。…。」


アシギ:「もっと。追求しないと。もっと。面白い物を…。面白い文章を。面白い、物語を…。」


0:リベール ギルド支部


受付:「あはは、またダメでしたか」


ノエル:「ああ。また。ダメだった。」


ジャイロ:「まさか他のギルドの野郎に横取りされるとは」


カラス:「てめえがチンたらしてっからだろ」


ジャイロ:「あ?」


カラス:「そもそも、賞金稼ぎの時みてぇにその辺の手配書の連中引っ張ってこりゃあいいだろうよ」


ジャイロ:「どうやら正規ギルドしか手配金を配らねえんだと。な?」


受付:「あはは…はい。」


ガロ:「てゆーかぁ。ノエル。お前はグラタンノッポの方で稼ぎがあるんだろ。なんでお前まで絶食生活してんだよ」


ジャイロ:「確かに。」


ノエル:「色々あるんだよ。余計な詮索するな。」


ジャイロ:「なんだそれ。」


カラス:「本人が言いたくないならいいだろ。別に」


ガロ:「ま。そうなー。」


ノエル:「そうだそうだ。貯金切り崩すのもそろそろ限界だしなぁ。何より腹が減った。」


受付:「次の依頼はどうされますか…?」


ガロ:「もちろん受ける」


ジャイロ:「おう。こうなったら一攫千金。どデカい報酬の依頼を頼む」


ノエル:「破産するやつの言い分だな」


カラス:「背に腹はかえられんだろ」


受付:「一番と言いますと…。これまた薦めづらい依頼ですが…」


ガロ:「犬の捜索より薦めづらい依頼なんてあるかよ」


ノエル:「おお。珍しくまともなことを言っている」


ジャイロ:「で。なんなんだよ、そりゃあ」


受付:「少々お待ち下さい」


ガロ:「なーんか面白い依頼だといいなぁー。ここ最近は店の手伝いとかお使いとかばっかりだったしなあー。」


ジャイロ:「あと犬な」


カラス:「次は手足切ろう。生きて差し出せば文句ねえだろ」


ノエル:「あるだろ。」


0:書類を差し出した


受付:「お待たせしました。こちらの依頼です。」


ガロ:「お。きたきた」


ジャイロ:「どぉれどれどれ。まず額の方は…。あびゃあ!?」


ノエル:「ご!?」


カラス:「ほぉ。」


ガロ:「なんだよ。俺にも見せろよ」


ジャイロ:「お、おう…。」


ガロ:「えーと。ゼロが…。いち、にぃ、さん、よん、ごー、ろく……」


ノエル:「ごごご…」


ガロ:「500万!?なんだそりゃあ!?」


ジャイロ:「賞金稼ぎ時代でも滅多にお目にかからん金額だぞ…っ。」


カラス:「大金なのはありがてぇが。なにやら裏がありそうだが。」


受付:「ええ…まあ…。」


ノエル:「ま、まぁ…。こんな優良な依頼、放置されるはずがないしな…。それに、正規ギルドから準ギルドまで依頼対象ってのもなにやら胡散臭い…」


ガロ:「そ、そうなのか…?」


ノエル:「正規ギルドの方が経験を積んだギルドメンバーがいるのは当然だろ。その分、依頼料も高い。だから、犬の捜索とか、皿洗いとか、そういうしょぼーい依頼は準ギルドに安価で依頼が来ることが多い。」


ガロ:「ふむ…」


カラス:「確か、準ギルドのギルド名は公にゃあ公開されないんだろう」


受付:「はい。おっしゃる通りです」


カラス:「なるほどな。そりゃあ、どこぞの誰ともしれない奴でもいいから依頼したい。それも、大金ひっさげてるってんじゃあ臭くて当然だ。」


受付:「そうですねぇ、はっきりと申し上げますと…。こちらの依頼は元々、正規ギルド限定の依頼でした。が、その難易度の高さから、準ギルドでもなんでもいいから、と依頼主が…」


ジャイロ:「ばぁか野郎ども。今はそんなことどうでもいいってんだよォ。」


ガロ:「ま。そうだな。どんな依頼なんだ?」


受付:「はい。まずこちらの依頼主ですが、「アシギ・ロムシュート」様という女性です。」


ノエル:「ん。どっかで聞いたな」


ジャイロ:「ああ。俺も聞いたことある気がする」


ガロ:「俺知らねえ。知ってるか?」


カラス:「俺も知らんな。有名人か?」


ノエル:「んーーー…。知り合いとかじゃないと思うんだけど…」


受付:「聞いたことがあるのは普通ですよ。フランスじゃあ、殆どの人が知っています。」


0:受付は本を取り出した


受付:「この小説をご存じですか?」


ガロ:「んー。知らねえ」


カラス:「うぇ…。うぇ…?」


ジャイロ:「知ってる知ってる。ヴェンダースデイ。な」


ノエル:「あー!アシギ!あのアシギか!」


ジャイロ:「ん…?」


ノエル:「超有名な小説家だよ!これ書いてる!」


ジャイロ:「ん。んー!あー!これ!これだ!なんだよ、女だったのか。アシギ」


ガロ:「なんだよなんだよ。有名な小説家なのかっ。面白そーっ。」


カラス:「小説家か。ギルドとは無縁そうな奴だが」


ノエル:「たしかに。それに、あんな有名な人の依頼なら、それこそ直ぐに依頼請け負うギルドが溢れかえりそうなものだけど」


受付:「実際に溢れかえりましたよ。溢れかえった上で、全て失敗に終わっています」


ガロ:「なんだよなんだよっ。やっぱワクワクすんなぁ〜っ。」


受付:「如何なさいますか?」


ガロ:「もちろんやるさっ。依頼、受けぴ!」


ジャイロ:「まあ、どんな内容であれクリアしちまえば500万だからな。」


ノエル:「うーん。嫌な予感はするけど…」


受付:「では、内容をご説明しますね。」


0:場面転換

0:ハックシン通り。とあるマンション


アシギ:「…。」


0:女は黙々とペンを走らせている


ギルバート:「アシギくん。」


アシギ:「…。」


ギルバート:「アシギくん。聞こえてるかい」


アシギ:「あ。ギルバートさんっ。来てたんですか」


ギルバート:「うん。12分前に。相変わらず切羽詰まった顔ばかりしているね」


アシギ:「…。はい。やっぱりどうにも、ペンが進みません。あ、お茶入れますね」


ギルバート:「そんな馬鹿な。担当編集の僕がもてなされてどうする。僕が入れるよ。それに、今日来たのは別の理由があるんだ。」


アシギ:「…?別の理由、ですか?」


ギルバート:「ギルドに出していた依頼に、担当が付いたそうだ。」


アシギ:「…。そうですか。」


ギルバート:「実に二日ぶりだ。」


アシギ:「ええ。最近やけに多いですね」


ギルバート:「まあ、ギルド試験が終わったばかりですから。新規メンバーはこぞってチャレンジしに来るだろうね。それも、依頼主の責任だよ。」


アシギ:「そうですか。どうせすぐリタイアするんでしょうけど。ギルドの名前はなんですか。」


ギルバート:「アホレンジャー、だそうだ。」


アシギ:「…。ふざけてるのか。追い返してくださいよ、ギルバートさん」


ギルバート:「そういう訳にもいかないだろう。全ギルドを依頼対象にした僕達の責任じゃないか」


アシギ:「…。はぁ。分かりましたよ。いつ来るんですか。」


ギルバート:「今日中、との事だが。時間の詳細は伝えられていないね」


アシギ:「勘弁してくださいよ、ギルドは私が暇だと思ってるんですか。」


0:場面転換

0:ハックシン通り。大路地


ガロ:「ここがハックシン通り。変な名前だなぁ」


ジャイロ:「だろ。ハックションみたいだろ。」


ガロ:「おう。」


カラス:「人っ子一人いねぇが。」


ノエル:「ここいらはベッドタウンだからね。日中は静まり返ってる。」


ガロ:「いやー。楽しみだなぁ。小説家も。依頼内容も」


ジャイロ:「古代遺跡跡地までの護衛…。ねえ。」


カラス:「なんでこんなのに苦戦したんだよ。他のギルドは」


ガロ:「そんな事よりっ。古代遺跡だろーっ。いやぁーこういうの待ってたんだよ〜っ。あの受付嬢もいけずだよなぁ〜。こんな面白いのがあるならさっさと教えてくれりゃいいのに」


ジャイロ:「あ〜。ギョルディア遺跡だったか。」


ノエル:「マルセイユっていう、リベールから二駅の市にある古代遺跡だ。なんでも世界最古の遺跡として有名だとか」


ガロ:「おぉ〜っ。ワクワクするぅ〜っ!」


カラス:「日本じゃあ古城だの神社だの、昔のもんはそれほど大層なもんでもねえぞ。」


ガロ:「まじかよ。行ってみてぇなぁ〜。日本も。」


ジャイロ:「お。ここじゃねぇか。依頼主の住んでるマンション」


ノエル:「えーと、うん。マンション名も一致してる。ここだね」


ガロ:「たっけーなぁ…。何メートルあるんだ、このマンション。もうこれが遺跡じゃん」


ジャイロ:「どこがだよ」


カラス:「地震でも来たら倒壊不可避じゃねえか」


ガロ:「よーしっ。そんじゃあ…!俺はガロンドールーーーー」


ノエル:「ばかばかっ。叫ぶな叫ぶな。ベル押せ。ベル。」


ガロ:「ああ。これか。」


ジャイロ:「田舎っぺが」


0:場面転換

0:マンション内


ギルバート:「おや。」


アシギ:「…。」


ギルバート:「来たね。僕が出るよ」


アシギ:「お願いします。」


0:玄関まで足を運んだ


ガロ:「あ!どうも!」


ノエル:「お邪魔します〜」


カラス:「引き戸じゃないのか」


ギルバート:「これはこれは、遠路遥々ありがとう。アホレンジャーの一行だね?」


ジャイロ:「違う!!」


ガロ:「違わねえだろ」


ノエル:「もう諦めろお前」


ジャイロ:「くそ…っ。」


ノエル:「はい、そのギルドメンバーで間違いありません。」


ギルバート:「そうか。この度は、我々の依頼を受けて貰ってありがとう。僕はギルバートという。」


ガロ:「お。あんたが小説家じゃないのか。誰だ」


ノエル:「敬語使え」


ギルバート:「構わないよ。僕はアシギくんの担当編集をしている。さあ、取り敢えず入ってくれ」


ガロ:「おう!お邪魔しマース」


ノエル:「お邪魔します」


ジャイロ:「邪魔するぜ」


カラス:「中まで広いな。」


ガロ:「な。」


ギルバート:「アシギくん。アホレンジャーの一行が来てくれたよ。」


アシギ:「入ってください」


ガロ:「お!おー!すげーっ!部屋中紙だらけ!」


ジャイロ:「随分散らかってんな」


カラス:「ほぉ。綺麗な字書くもんだ」


ノエル:「おーいお前らっ!人様の家を物色すんなっ!」


ガロ:「あんたが小説家か!」


アシギ:「そうだよ。君は誰だ」


ガロ:「俺はガロンドール!ガロでいいよ」


ジャイロ:「おいおい、案外イケてる姉ちゃんじゃねえか」


カラス:「色恋アロハ」


ジャイロ:「ああ!?」


ノエル:「馬鹿すぎるこいつらっ。礼儀は何処に置いてきたんだ!?」


アシギ:「なるほど。つまり君がアホレンジャーのリーダーか。私はアシギだ。」


ガロ:「おう!よろしくな、アシギ!」


ノエル:「なんで別に上手くやり取り出来てるんだよ…」


ジャイロ:「あのぉ〜っ!俺、ジャイロ・バニングスってんですけどォ〜!サインっつぅ〜のぉ?貰っちまってもいいかなぁ〜!?」


アシギ:「構わないよ。カキコカキコ」


ジャイロ:「ひょ〜っ!貰っちまったァ〜!アシギ先生の直筆サイン貰っちまったァー!」


カラス:「ただのインクだろ」


ジャイロ:「お前みてぇな野蛮野郎には理解出来ねえよ、サインを貰うっていう喜びってのがよォ〜。てめぇは一生刀の錆でも愛してろよナマクラ」


カラス:「表出ろてめぇ」


ジャイロ:「出てどうすんだこら」


ノエル:「人様の家で喧嘩すんな!!」


ギルバート:「いやはや、賑やかで結構。しかし、アシギくんはこう見えて多忙の身でね。要件に移らせてもらってもいいかな。」


ガロ:「おう、いいぜ」


ジャイロ:「しょうがねぇなぁ〜。」


カラス:「早く話せ」


ノエル:「お願いします、だろうがっ」


0:叩


ガロ:「お願いします」


ジャイロ:「お願いします」


カラス:「お願いします」


ノエル:「すみません、ウチの馬鹿どもが」


アシギ:「いいや。私は私の要件さえ満たせればそれでいい」


ギルバート:「依頼内容は聞いているかと思うが。改めて。君達にはギョルディア遺跡探索の護衛について貰う」


ガロ:「来たーーっ!遺跡!!」


ノエル:「それは了承済みですが…。小説家であるアシギさんと、遺跡…。なんというか、接点が見当たらないと言いますか…」


ジャイロ:「たしかにな。」


アシギ:「何がおかしい。私が遺跡に足を踏み入れるのは。私が小説家だからだ。これ以上の理由はない」


ノエル:「えっと…。」


ギルバート:「その辺は僕が説明しよう。そもそも遺跡探索は、僕がアシギくんに提案したんだよ。小説のネタ集めに、とね。面白い物語を書くのが小説家の仕事だ。その為にはアシギくんの知見をもっと広げたい。彼女自身もそれわ望んでいる。そうだろう?」


アシギ:「はい。小説家ですから」


ジャイロ:「…。なるほど、そういう事なら、一先ず納得だ。」


カラス:「で。問題は、どうして遺跡探索なんざに護衛が必要なんだ。遺跡案内の人間でも事足りるだろうよ」


ギルバート:「普通の遺跡ならそれでいいかもしれないけどね。ギョルディア遺跡だけは他とは異なる性質を持つ遺跡なんだ。」


ガロ:「他とは異なる…?」


ギルバート:「ギョルディアは現存する、最古の遺跡であり、絶対不可侵の遺跡としても有名なんだよ。」


ノエル:「なるほど。やっぱりそれですか」


ガロ:「なんだよ、知ってんのか」


ノエル:「有名だよ。ちょっとした都市伝説だからね」


アシギ:「問題はギョルディア遺跡の、入口と最奥。古代の王が眠る墓があるとされる建造物。そして遺跡の入口、その二つが硬く閉ざされたままなんだ。」


ガロ:「ほぇーっ!ロマンだなっ。」


ジャイロ:「探索チームがぶっ壊したりするもんじゃねえのか」


ノエル:「ばかばか。遺跡だぞ。そう簡単に壊していいわけないだろ。」


ギルバート:「いいや。「壊れない」んだよ。最も、遺跡の入口に当たっては開く手筈も済んであるが」


カラス:「へえ。興味あるな。」


ガロ:「おうおう!興味ある!」


ノエル:「カラスは斬れるかどうかが興味あるだけだろ」


ギルバート:「更には、遺跡周辺には常に悪質な野盗がウロウロしていると聞く。実際に、その妨害があり、遺跡まで辿り着けなかった過去もある。」


ノエル:「よく分かりました。つまり、私たちの任務は、あなた方の護衛、並びに遺跡の最奥に辿り着くこと。と言った具合でしょうか」


ギルバート:「いいや。流石にそこまでは求めないさ。ただ、ギルドメンバーは知見の広い人間も多いと聞く。つまり、君達への依頼は。僕達の護衛。並びに、ギョルディア遺跡の謎解き。だ。」


ジャイロ:「謎、ねぇ。」


アシギ:「ギョルディア遺跡は様々な謎が残されている遺跡で有名だ。その考察、だね」


ガロ:「おぉぉぉっ。楽しそーーっ。」


ギルバート:「さて。改めて、受けてくれるだろうか?」


ガロ:「もちろん!うけるうける!」


ギルバート:「ありがとう。それじゃあ、早速移動しようか。アシギくんも。いいね?」


アシギ:「はい。」


0:場面転換

0:ギョルディア周辺


アガット:「おー。どうしたんだよ、数日ぶりだなぁオジキ。」


0:誰かと通話している


アガット:「そうか。わかった。いつも通りでいいんだろう。…。そうか。そりゃあ、随分と変わり種だな」


アガット:「おいおい。誰に向かって口効いてんだ。わっしらグランシャリノ商会に喧嘩売ろうって話じゃねえだろう」


アガット:「もちろん、やる事はやる。わっしはあくまでギルド。必要以上の詮索もしねえよ。だから、あんたもわっしらの詮索はしねえ事だ。…。ああ。まあ、料金はいつもの口座に振り込んでおいてくれや。おう。そんじゃあ、毎度。」


0:場面転換

0:マルセイユ 道中

0:汽車の中


ガロ:「あむあむあむあむ」


ジャイロ:「あむあむあむ」


カラス:「あむあむあむあむ」


ノエル:「あむあむあむ」


アシギ:「よく食べるな…」


ガロ:「ひあいういのめいなんあお!」(久しぶりの飯なんだよ!)


カラス:「かたじけねえ…」


ジャイロ:「うめえ…」


アシギ:「うわ。泣いてる」


ノエル:「すおいな、あいきんのきひゃはめひもくえんのか」(凄いな、最近の汽車は飯も食えんのか)


ガロ:「わりぃなー。奢ってもらっちまって」


ギルバート:「まあ、必要経費だと思う事にするよ。存分に食べてくれ」


カラス:「かたじけねえ…!」


ジャイロ:「うめえ…!」


ノエル:「泣くなお前ら!」


アシギ:「…食べるのはいいけど、次の駅でマルセイユに着くよ。」


ガロ:「まじかよ!はえぇーなぁー。汽車」


ジャイロ:「このご時世に汽車も乗ったことねぇんだもんな。とことん田舎っぺだ」


ガロ:「乗ってみたかったけどよォ。見知らぬ土地はまず自分の足で歩きたい派なんだよ」


カラス:「ああ、分かる」


ジャイロ:「てめぇはただの間抜けだろうが…。なんで一緒に乗り込んだ筈なのにてめぇだけ違う線の汽車乗ってたんだおい」


ノエル:「余計な道草食っちまったな」


カラス:「お前らが別の列車に乗ったんだ」


ジャイロ:「ちげぇだろうが」


アシギ:「それにしても本当に世間知らずだ。そっちの君は見ない服装してるし。」


ギルバート:「東方の「侍」と呼ばれる剣士のような身なりだね」


ガロ:「のようなもなにも。こいつはマジモンの侍だっ。」


アシギ:「えっ。コスプレとかじゃなくてか?」


カラス:「なんだそれ」


ノエル:「正真正銘、本物の侍ですよ。この剣も、「刀」と呼ばれる東方特有の装備です。触ってみます?」


カラス:「やだよ、何勝手なこと言ってんだ。」


アシギ:「東方ものは受けが良くないんだけどな…。いや、取り入れるには全然ありか。」


ギルバート:「いいと思うよ。異国の歴史というものは、否が応でも皆が心惹かれる」


アシギ:「刀、見せてくれ」


カラス:「やだっつってんだよ」


ガロ:「いいじゃねえかー。俺にももっかい見せてくれよ、あの、ちゃきんっ。ずばばってやつ」


アシギ:「なんだそれは!?」


ガロ:「凄いんだぜ、刀をこう、こうやって構えて、そんで、こう!」


アシギ:「おぉ!」


カラス:「違ぇよばか、こうして…。こうだ!」


アシギ:「おおぉぉ!」


ジャイロ:「ちげぇちげぇ、こうして…。こうだ!こう!こんなん!」


カラス:「そんなだせぇわけねぇだろふざけんなお前」


ジャイロ:「はーっ。他所から見えてる自分なんて大概そんなもんだぜぇー?」


ガロ:「でもほら、ジャイロのあれもかっけーよな。こうして…こう!」


アシギ:「おお!」


ジャイロ:「ちげぇんだなぁ、こうして…。こうよ!」


アシギ:「おおお!」


カラス:「だっさ。」


ジャイロ:「てめぇ次の駅で降りろ」


カラス:「降りるんだろうがなんだてめぇ」


ノエル:「盛り上がってんなぁ…」


ギルバート:「…。」


ノエル:「…?ギルバートさん、どうかされましたか?」


ギルバート:「いいや。あんなに楽しそうなアシギくんを見るのは、久しぶりだと思ってね。最近思い詰めていたようだから。やっぱり、刺激が必要だね。人生というものは」


ノエル:「まあ…。バラエティさで言えば、かなり富んでますからね。ウチは…」


ギルバート:「今回なら、行けるかもしれない。」


ノエル:「?」


ギルバート:「僕はね。期待しているんだ。君たちに。」


ノエル:「それは、依頼達成を。という意味ですか?」


ギルバート:「いいや。僕はアシギくんの担当編集者だ。アシギくんは最高の小説家だ。僕はね。彼女のファンなんだよ。だから、こういう経験を積んでもらうことで、より面白い物語を紡げる。だから、依頼達成だなんて言うものは事のついでに過ぎないんだよ。」


ノエル:「随分、ご執心ですね」


ギルバート:「そう言われるのも仕方がない。僕は彼女の担当編集であり、そんな最高の小説家に相応しい、最高のパートナーでありたいと思ってある。その為ならなんだってするよ。」


アシギ:「ギルバートさん?何の話をしてるんですか?」


ギルバート:「いいや。アシギくんが最高の小説家だって話をしてるだけだ」


アシギ:「やめてくださいよ…恥ずかしい」


ギルバート:「はは。事実じゃないか」


ノエル:(M)これは…あれか。親バカってやつか?


アシギ:「あ。見えてきましたね」


ギルバート:「ああ。ようやくだ」


ガロ:「お…?」


ジャイロ:「ほお。」


0:窓の向こうに遺跡が広がっている


ガロ:「おおおおお!遺跡だ!ノエル!見ろ!遺跡だぞ!」


ノエル:「はいはい遺跡遺跡」


ガロ:「ジャイロ!見ろよ!」


ジャイロ:「見てる見てる。」


ガロ:「カラス!」


カラス:「ふごっ…。」


アシギ:「寝てる!?今!?さっきまであんなに騒いでたのにっ。」


ジャイロ:「しかし、随分と高ぇ壁に囲まれてんな」


ノエル:「さながら、要塞都市とでも言いたげだ。」


ガロ:「あの遺跡の奥に見えるバカ高ぇ柱はなんだぁ!?」


ジャイロ:「さあな…。いくらなんでも、想像より遥かにハチャメチャな遺跡だぁ。こりゃ。」


ギルバート:「…。ああ。今回はどうだろう。」


0:ギルバートは足を組みなおした


ギルバート:「アシギくん。君はもっと。素晴らしい物語を紡げる。」


0:場面転換


ガロ:(M)ガロンドール冒険譚、6章。


ガロ:(M)場所。フランス、マルセイユ。


ガロ:(M)目標!「ギョルディア古代遺跡」!


ガロ:(M)人類史上最古の遺跡として名を知られるその遺跡の前に!潜入!いやー!これこれ!


0:ギョルディア遺跡

0:入口付近


ジャイロ:「ほお。これが…。」


カラス:「でかいな。」


ガロ:「おぉ…っ。」


ノエル:「はーい、耳塞いで」


アシギ:「?」


ガロ:「おおおおおおおおおおお!!!!」


アシギ:「うるさっ。」


ジャイロ:「もう慣れたよ、こいつのうるささには」


カラス:「まったくだ。」


ガロ:「たけーっ!何だこの壁!」


アシギ:「恐らく、防護癖や、国と国の境界を示す為の壁だろう。と考察されているけど。詳細は不明」


ガロ:「つまり、このクソ高ぇ壁の向こうに、あるんだな!昔の人間が生活してた街とか!」


アシギ:「そうだよ。」


ガロ:「おおお…!」


ノエル:(M)ギョルディア古代遺跡。半径250mにも及ぶ超巨大規模の遺跡。


ノエル:(M)一通りの多い繁華街を抜け、森林を掻い潜った先に広がるのは、異質な風景。辺り一面は、砂に覆われ、さながらアフリカ大陸にでも世帯をかまえていそうな光景に佇む。巨大な、何かがあった跡地。そして、ただただそこにある。圧倒的な圧迫感を持つ壁の前に。私達は今立っている


ガロ:「ずけーな!でけぇし広い!」


ジャイロ:「おう。これがただの入口だと思うと、圧巻だ。」


ノエル:「それで。野盗は運良く遭遇せず。無事私達はギョルディアまでたどり着いた訳ですが。」


カラス:「ああ。依頼内容の、謎ってのだな。」


ガロ:「なんだよー。まずは探索だろー。」


0:ガロの頬を掴んだ


ノエル:「これは。依頼。遠足では。ない。金が。かかってる。わかる?」


ガロ:「わかる…。」


ジャイロ:「でたー。こわ。」


カラス:「鬼だな、ありゃ。」


ギルバート:「君たちの言うことはもっともだ。早速、この遺跡の謎を紹介しよう。」


アシギ:「まずは遺跡に入ってから、話すよ」


ガロ:「おー!開くのか!?…どこが?」


ジャイロ:「見渡す限りじゃあ壁しかねえし。どこも開きそうな感じはしねえが。」


カラス:「引き戸でもねえしな。」


ノエル:「確かにね。扉の端目も見当たらない。どこで開閉する仕組みになってるんだ。」


アシギ:「まあ、気になる気持ちはわかるよ。これが、そのトリガーだ。」


0:アシギの前には巨大な風車が聳えたっている


ガロ:「おー?なんだそりゃ。風車?」


ノエル:「その風車だけやけに状態がいいな。」


ジャイロ:「言われて見りゃあそうさな。この遺跡の高壁。あちこちが砂で覆われてる。そもそも、材質はなんだ。石にしちゃあ硬すぎるような気もするが」


ノエル:「うん。しかも、どこにも「繋ぎ目」がない。大昔の技術じゃあ石を並べて接着するしかないんだから、必ず接着面があるはずなのに見当たらない。随分と砂が被っているし、隠れているだけなのかもしれないけど。それに比べて、あの風車には殆ど砂が乗っていない。まるで、最近まで使われていたようだ」


ギルバート:「素晴らしいな、君達は。その考察は概ね正しい。ギョルディアは世界最古の遺跡であり、世界最大の謎を孕んだ遺跡だ。勿論、世界各国の学者もよく足を運ぶ。最新の研究では、その高壁の材質は、石ではなく、しかし銅よりも強度の高い。鉄では無い何か。と判明したそうだ」


ジャイロ:「なんだそりゃあ。何もわからんことしか分かってねえじゃねえか」


ノエル:「それだけでも重要だ。人類史上には存在しない材質が、大昔に存在した。って言うことだからね」


カラス:「難しい話はよく分からんが。結局その風車はなんなんだ。」


ガロ:「そーだよ!さっさと教えてくれ!」


アシギ:「この中で異常性を使えるのは?」


ガロ:「おう!」


ジャイロ:「ああ。」


アシギ:「じゃあ、折角だ。ガロ」


ジャイロ:「あー!ちょっと待った。異常性関連のことなら俺がやるよ。」


ガロ:「えー!なんでだよ!俺にやらせろよ!」


ジャイロ:「てめえの異常性は世界一信用ならん。ダメだ」


ガロ:「ぶーぶー」


アシギ:「よく分からないけど、それじゃあ。ジャイロ。ここに手を置いてくれ」


ジャイロ:「んあ?なんだこりゃあ。石版?」


ガロ:「おー!すげえ!それっぽい!」


アシギ:「ここに手を置いて。異常性を使ってくれ」


ジャイロ:「はあ?なんでだよ。俺の異常性はドア開けるみたいなのじゃねえぞ」


アシギ:「いいから。」


ギルバート:「やってみるといい。面白いものが見れるよ」


ガロ:「なんだよなんだよ、ワクワクしちまうじゃねぇか!はよ!ジャイロ!はよ!」


ジャイロ:「ったく。わぁーったよ。人の異常性を無駄使いさせやがって」


0:石版に手を置いた


ジャイロ:「Adsorptionアドソープション


ギルバート:「…。」


ガロ:「…?」


ノエル:「何も起こらないぞ?」


カラス:「お前の異常性がショボイからだろ」


ジャイロ:「よし分かった、お前1回殺す」


カラス:「やれるもんならやってみろ」


ガロ:「おい!お前ら!!」


ジャイロ:「あ?」


カラス:「あ?」


ノエル:「…おぉ…?!」


0:風車が回り出した


ガロ:「風車が…!回ってる!すげえ速度で!!」


ジャイロ:「はぁ…?風なんて吹いてな…って、おい…!マジじゃねえか!?」


ノエル:「なんだこれ…!どーなってる!」


カラス:「何が変なんだよ。」


ノエル:「いいかっ。風車ってのは名のごとく、風で回る車だ!でも、一切風なんて吹いてない!」


カラス:「ほお。」


ジャイロ:「つまり一切の動力源を持たずに回転してんだよ、ありゃあ」


ガロ:「すげーーー!」


ギルバート:「初めて見た時は僕も同じ感想だったよ。」


アシギ:「さあ、重要なのはここからだ。この辺りだろう」


ガロ:「おー?なんだよ、また壁じゃん。」


ノエル:「いいやをまた妙にここだけ綺麗だな。」


0:等々に地面が揺れた


カラス:「おい。なんだこの地鳴りは」


ガロ:「おおお、なんだなんだ。」


ジャイロ:「地震かぁ〜?」


ノエル:「…!おい、見ろ…あれ…っ。」


ジャイロ:「次はなんだ…よ!?」


0:壁が落ちていく


ガロ:「おお!?」


カラス:「おお。」


ノエル:「壁が…!?」


ジャイロ:「地面に潜っていきやがる…!?」


アシギ:「凄いだろ。私も初めて見た時は興奮した」


ガロ:「凄いなんてもんじゃねーって!どーなってんだこりゃあ!」


ギルバート:「恐らく。異常性を発動する。という行為が、この遺跡に入る為のトリガーになっているんだろう。詳しい事は何も分かっちゃいないが。」


ノエル:「いやいやいや、何もわからん…!どんな技術だよそれ…!」


ジャイロ:「現代でもまぁ見ねえしな…」


カラス:「そんなに凄いことなのか?こりゃあ」


ガロ:「わからん!けどまあ、かっけじゃん」


アシギ:「さ。まずは入ろう。」


ガロ:「おー!」


カラス:「埃っぽいな」


ジャイロ:「受け入れはえぇな…」


ノエル:「〜〜っ。落ちてたった壁の行方とか、原理とか、風車の意味とか、気になることだらけだけど…!しゃあない!」


アシギ:「入口を抜けてすぐ。ここが、昔城下町だと考察されているエリアだ」


ガロ:「すげーーなぁ!やっぱほとんどボロボロだけど、すげーーっ。」


ノエル:「いやぁ〜。普通の遺跡と比べたら全然綺麗な方だよ…。やっぱり材質から何か違うんだろうな」


ジャイロ:「ここ。絶対風俗だったじゃん。立地的に」


ノエル:「どんな考察してんだよ」


カラス:「この遺跡は何年前のものなんだ」


ギルバート:「1万4000年前のものだろうと言われている。」


ガロ:「一万四千!?!?」


ノエル:「凄いな…。世界最古ってことしか知らなかったけど…。まさかここまでとは…」


ジャイロ:「1万4000年前の風俗か…。あついな…」


カラス:「値が大きすぎてよく分からん。どんくらい昔だ。」


ノエル:「日本だと縄文、と呼ばれる。やっと旧石器時代が明けるか明けないかくらいの年代だ。マンモス狩ってるような時代だね」


カラス:「んー。そうか。そりゃすごい昔だが…。ん?なんでそんな時代にこんな建物があるんだよ。」


ガロ:「あ。確かに」


アシギ:「そう。この遺跡は世界の考古学を全否定するようなものなんだ。」


ジャイロ:「そうか…!1万4000年前には風俗だなんて概念はないのか…!」


ノエル:「お前ちょっと黙れ」


ギルバート:「ギョルディア遺跡にあたる建設物には幾何学的な知識を用いて建設された跡が多く残っている。」


ノエル:「幾何学的知識…?まだ石削ってウキウキしている様な時代に計画的な建設をしたって事ですか」


ギルバート:「そう。あの高壁もそうだが。あれは全長10.5メートルを超える。つまり、ギョルディアが建設された時代にはーーー」


ノエル:「既に正確な図形を設計できる、幾何学と、建設に関する知識を持った人間…。もしくは、文明があった。という事ですね」


ギルバート:「素晴らしい」


カラス:「でも狩猟時代だろう。そんな文明あるはずなくねぇか」


ガロ:「だからおかしいんじゃねえのか?」


アシギ:「ああ。今言った通り、今までの考古学を全否定する証明そのものが、この遺跡だ。…。うん。やっぱり、そういう場所はインスピレーションがよく沸く」


ノエル:「…。ここまで来てなんですが。そんなの、ギルドよりも相応しそうな人間が居そうな気もしますけど」


ギルバート:「だからこそ。だよ。先入観を持つ考古学者は皆手をあげた。有り体なこじつけの理由を並べるだけ並べて、学会を盛り下げる。アシギくんの言う通り、従来の考古学では到達し得ない懐疑的な証明こそが、このギョルディア遺跡だ。何より、アシギくんが今抱えている課題が、この遺跡の理由に紐づく。」


アシギ:「…」


ガロ:「んぉ?ギルドの件はいいけどよ、アシギのはどういう事だ?」


アシギ:「最近。ペンが持てないんだ。」


ノエル:「え?アシギと言えば、速筆で有名じゃないか」


カラス:「そうなのか」


ジャイロ:「スランプってやつか?」


アシギ:「…。何を書けばいいか。分からないんだ」


ガロ:「お?」


ギルバート:「彼女は、国内外問わず、小説界の第一線を行く人間だ。そういう彼女には、彼女なりの悩みがあるんだよ」


ガロ:「だからなんなんだよそりゃ」


アシギ:「…。面白いものが。書けない」


ノエル:「えっと。そりゃあ、小説家には常に着いて回る課題だろうけど…」


アシギ:「人の描写が出来なくなった。文字の羅列で、その人の所作を、感情を、全て伝えなきゃいけない。のに、それが出来なくなった。これじゃあ、小説家なんてな乗れない」


ギルバート:「ここからは僕が話そう。小説は創作物なんだよ。自分の手で、表現で、架空の世界に物語を作る。その世界にはその世界の「現実」がある。それが、描けなくなったんだ」


0:ギルバートは歩みを進めながら話した


ギルバート:「より良い表現が求められる。その言葉のひとつひとつに、書き手のセンスが問われる。残酷なものだよ。その苦悩は無限だ。終わる事の無い「現実」の表現に。彼女は振り回されてしまった」


アシギ:「…」


ギルバート:「だから。一度リセットするんだ。世界最大の謎を孕むと呼ばれるこの遺跡の謎が解けた時。即ち、「王の墓」の扉が開かれた時。きっとアシギくんは得られるんだよ。常識に囚われない。新たな「現実」の表現を」


ノエル:「…」


ジャイロ:「…。あー…」


ガロ:「よく分からん!」


カラス:「まったくだ。」


ノエル:「お前らな…」


ガロ:「ようは、何すりゃあいいか分からなくなったんだろ!」


カラス:「剣士としての道でも同じような事はある。周りには壁、足元は沼。そんながんじ絡めの状態なんて、誰にだってある」


ガロ:「おう!つまり、散策しようぜ!」


ノエル:「したいだけだろっ。」


ガロ:「ほれ、アシギ!」


アシギ:「え、あ…」


ガロ:「そんな小難しいことばっか考えててもしょうがねえって!なっ。」


0:ガロはアシギの手を強引に引っ張った


アシギ:「えっ。ちょっと」


ガロ:「行くぞー!ギョルディア遺跡!探検!!」


カラス:「考察だなんて俺の性にあわねえ。お前らに任せた」


アシギ:「え、ちょっ。待って!痛い痛い痛い!」


0:三人は走り去った


ノエル:「ぇぇぇ…。」


ジャイロ:「まあ。あの馬鹿どもが居ても話の邪魔になるだけだ。別にいいだろ」


ノエル:「まあ。それもそっか。すみません、その考察は私とこいつで引き受けます」


ギルバート:「…。ああ、構わないとも。」


0:場面転換

0:ギョルディア遺跡 中下部


ガロ:「すげー!なんだここ!」


カラス:「高い建物ばっかだな」


アシギ:「ここは確か、何かを祀るための場所だった気がする」


ガロ:「なにかってなんだよ」


アシギ:「分からない。ただ、ギルバートさんが言うには、宗教があったらしい。農耕が広く知られるようになってから流行したのが宗教だと言われてるみたいだし。」


ガロ:「へぇーっ。すげーなぁ」


カラス:「俺は神は信じない派だ。」


ガロ:「俺もー」


アシギ:「…。本当に王の墓探す気あるのか…」


ガロ:「よしゃ!次行こーぜ!次!」


0:場面転換

0:ギョルディア遺跡 中右部


ガロ:「おー!ここは、絶対飯屋だ!」


カラス:「いいや。道場だな」


アシギ:「あるわけないだろ。まだ武器の概念すらないのに」


ガロ:「なんでだよ、あったかも知んねえだろ」


アシギ:「有り得ないんだって…」


カラス:「でもこれ。剣じゃね?さびてるけど」


0:カラスは地面を掘っている


アシギ:「おーーい!なにやってんだよ!遺跡だぞ!勝手に荒らすな!」


ガロ:「剣じゃん!やっぱあるじゃん!」


カラス:「いや。違うな。剣じゃねえ。こりゃあ。…。わからねえ。少なくとも、俺の知ってる武器じゃねえ」


ガロ:「へーっ。つまり新しい剣ってことだ!剣!剣!」


アシギ:「だから、それ自体がおかしいんだって、私もずっと頭を悩ましてる…!」


ガロ:「え?なんで?面白いじゃん」


アシギ:「理解できないからだ…!」


カラス:「おお、結構いい武具だな。職人の手が伺える。錆びてるけど。もってみるか?」


ガロ:「おう!うおっ。結構重い…!アシギ、もってみるか?」


アシギ:「いや。いい。旧石器時代に、「武器」の概念に剣は無かったはずだし、そもそも鉄も銅も採掘する力のない時代に、そういうのがあるっていうのをギルバートさんが言うには…」


ガロ:「あー!!もう!!いいってそーゆーのっ。」


アシギ:「はぁ?」


カラス:「分からんことは分からん。俺たちは学者でもなんでもないしな。お前もただの小説界だろ?」


アシギ:「ただの…?」


ガロ:「そーそー。わかんねえ事を楽しむんだよっ。何が本当の事だったか、なんて。」


0:ガロは広場の真ん中にたった


ガロ:「そん時、ここに生きてた奴らにしか分かんねえよ」


アシギ:「…」


ガロ:「いやーっ。いいなぁ、きっと楽しかったんだろーなーっ。」


カラス:「見ろよ、ガロ」


ガロ:「おー?ぷっ。だっはは!何だこの石像!変な形してんなぁ!」


アシギ:「…。君達は。なんなんだ、いったい」


ガロ:「お?」


アシギ:「今までの連中は、報酬目当てに嫌って言うほど仮説を立てて、無理やり私たちを納得させようとしたぞっ。君らだって!金が欲しくて私に付き合ってんだろ!だったら遊んでないで、早く私を納得させろよ!」


ガロ:「…」


カラス:「金は欲しいが」


ガロ:「んー。まあなあ。あ、言い忘れてたけどさ。」


アシギ:「なんだよ」


ガロ:「俺、冒険家なんだ」


アシギ:「ぼ、冒険家ぁ…?ギルドメンバーがか…?」


ガロ:「そうだよ、なんか悪ぃか」


アシギ:「いや悪くはないけど…。」


ガロ:「この世に生まれたからには、この世の全てを知りたい!俺はそう思う」


アシギ:「じゃ、じゃあそれこそ、この遺跡なんてもってこいじゃないかっ。」


ガロ:「いやー。でも昔の事なんて知らねえし。知ってるやついねし。」


カラス:「ああ。今しかねえからな。俺たちの情報は」


ガロ:「だから、分かんねえからわかんねえなりに楽しむよ。」


アシギ:「…。そうか。そうかそうか。」


ガロ:「おう。そうだ」


アシギ:「じゃあこうしよう。君たちが、この依頼を達成してくれたら、私が多額の寄付をギルドにするさっ。君たちのギルドを正規ギルドにするように仕向けてやる」


ガロ:「え」


カラス:「お」


アシギ:「どーだ!これなら考察したくなっただろ!何がなんでも達成したくなったろっ。」


ガロ:「いや別に」


カラス:「いや別に」


アシギ:「ががーっ!なんでだよ!」


ガロ:「何をそんなにムキになってんだよ」


アシギ:「私は!ギルバートさんに言われてるんだ!この遺跡の全てを知ったら、小説家としてまた一歩前に進めるって!」


ガロ:「だはは!そんなのわかんねーじゃん!ケラケラ」


カラス:「なんだぁ?お前まさか、あの胡散臭いひょろ長がそう言うから必死こいてこの遺跡を探索してんのか?」


アシギ:「…!そ、そうだよっ。何が悪いんだっ。私は表現者として、面白い物語を書く責任があるっ。皆わたしが書く面白い作品を待ってるんだよっ。だから、こんなスランプさっさと抜け出したい!その為ならなんだってする!」


ガロ:「だっははは!カラスーっ!こいつばかだ!ばか!」


カラス:「こりゃあ中々重症だな」


アシギ:「何笑ってんねん!」


ガロ:「なんでそんなしんどそうにしてまで小説書いてんだよ、やめりゃあいいじゃん」


アシギ:「…っ。君には分からないだろうなっ。私には、もうペンを折る事は許されないんだよ…っ。」


カラス:「許されるだろ」


アシギ:「許されないの!!!うっさいなーもう!なんなんだこいつら!調子狂うな!私は!私は…小説家だから!面白い物を書かなきゃ行けない!ただそれだけだ…っ。」


ガロ:「そっか。超有名な小説家って言うから期待してたけど。あんまり面白くないな」


アシギ:「…。なんだそれ」


ガロ:「お前、小説書くの好きなの?」


アシギ:「…。好きだよ。」


カラス:「…ふわぁ」


アシギ:「たぶん」


ガロ:「なんなんだよそれ。」


アシギ:「でも!私の書いた作品は面白い!…筈だっ。」


ガロ:「いやー。おもんねえよ。だって書いてるお前が面白くなさそうじゃん」


アシギ:「はぁー!?超面白いんですけど!!(#・∀・)」


ガロ:「嘘だー。カラス、お前こいつの小説読んでみたいか?」


カラス:「あ、わり。寝てた」


アシギ:「どんだけ興味無いんじゃ!」


ガロ:「わかったよ、じゃあ読ませてくれ。なんか一冊くらい持ってんじゃねえの?」


アシギ:「持ってるけど…」


カラス:「へっ。自信ねえのか」


アシギ:「あるわーっ!読めこら!ぼけ!」


0:小説を投げ渡した


ガロ:「よしゃ!じゃあ早速…。字ちっさ」


0:場面転換

0:ギョルディア遺跡 中央部


ノエル:「やっぱり、妙だな。」


ジャイロ:「何がだ」


ノエル:「この遺跡。状態はかなりいい。どういう生活水準かも見て取れるほどに。」


ジャイロ:「そうだな。入口の時もそうだったが。少なくとも現代じゃあ再現不可能な技術を持った文明ってことはよく分かる。」


ノエル:「ただね。この遺跡には。階段と思わしきものが一切ないんだ。」


ギルバート:「ほお。」


ジャイロ:「…。言われて見りゃあ。そうだな。構造的にゃあ中心部に行くに連れて標高が少しずつ高くなってるが、滑らかな斜度を保ってる。建物にも階段はなかったが」


ギルバート:「お目が高い。そういう所に気付けるのは、いい目を持っている」


ノエル:「…。それに、生活水準の高いこの遺跡には、肝心の生活感が見られない。」


ギルバート:「ああ。その通りだよ。この遺跡からは、食器などのカトラリーも一切発見されていない。」


ノエル:「これだけの技術力を持っているのに、食器の文化が無いのはおかしい。どう考えても。」


ジャイロ:「そんじゃそこらにある石像もそうだな。こんだけの文明にゃあ見合わねえ代物だ。」


ノエル:「ああ。そもそも石像なんてのは何かを祀るためのものだ。宗教が存在したにしても、宗教や宗主ってのは技術力と共に普及されづらくなるものなのに。その割には、技術力と文明発展のバランスが悪い。」


ジャイロ:「あと、一番気がかりなのは…」


0:ジャイロは何かを手に取った


ジャイロ:「石像の数だけばら撒かれてる、このチューブみてえなのだ。どれも原型は留めてねえが。」


ノエル:「…。学会ではどういう見解なんですか」


ギルバート:「一説では、その石像は全て生贄であったとされてある。そのチューブから何かしらの「儀式」に必要なものだったのではないか、という説だね。」


ノエル:「…。」


ジャイロ:「学会では出てねえのか。」


ギルバート:「何が、ですか?」


ジャイロ:「この文明と、異常性の関連性は」


ギルバート:「…。出ていないね。全くと言っていいほど」


ジャイロ:「不自然な話だぜ。これだけ高い技術力、現代では再現不可能とも取れる、異常性によって作動する風車。重さ数トンの壁の動力といい。ヒントが並べられすぎている。」


ノエル:「ああ。ここまで、大体半分遺跡を歩いて見たわけだけど。大方の見当は付いてきた」


ジャイロ:「同じく」


ノエル:「まずここは「国」や「集落」と言った、人間の生活基盤を築く為の場所ではなく。「施設」の様な構造であるって感じかなあ。ギョルディア遺跡周辺に水辺は無いし、農耕を開くには適していない。」


ジャイロ:「つまりここは「誰か」が「何か」の「目的」を達成する為に集うための施設だって話だな。筋が通ってら。」


ノエル:「これだけ広範囲の施設なら、ある程度の人間が居住できるようにはなっているんだろう。マルセイユの中心街からもさほど離れていない。立地自体は悪くないしな」


ジャイロ:「その場合だと、ここに住んでいる人間には、現代の知識や生活するにあたって必要なものが全く別物だった。食器を使わずとも食事が出来る技術。階段がなくても、上層部に登る技術。人間、必要のないもんは作らねえからな。」


ノエル:「つまり、この遺跡で暮らした人々が最も必要としたのが。異常性だ、と。」


ギルバート:「…」


ノエル:「これだけの材料があって、なぜ学会は異常性と遺跡の関連性を否定するような見解をするんですか」


ギルバート:「…。流石、だよ。考古学では。異常性の発症は850年前とされている。だが、1万4000年前から異常性の発症が前提で作られた建造物がある。だからね。困るんだよ。いいや。怖いんだよ。これまでの全ての人類が築いてきた、「知識」が壊されるのが」


ノエル:「つまり。学会は異常性の歴史を保持する為に、この遺跡の調査を諦めた。という事ですか」


ギルバート:「…。正式には。違う」


ジャイロ:「…なるほど。中央か」


ノエル:「…。異常性研究は、中央の学者のみ情報共有し、そのほんの一部を世間に公表している。という事だが。恐らくは、世に出ても問題ない情報のみ。世間に公表している、という事になるね」


ジャイロ:「なんだぁよ。ただの考察のつもりが。随分とズブズブなラインまで引き込んでくれるじゃねえの」


ギルバート:「だから言ってるんだ。僕は、学会の言うことを信じない。王の眠る墓。即ち、ギョルディア遺跡最奥には、異常性の招待が眠っている。そう確信している」


ノエル:「…。この質問が失礼に当たれば、大変申し訳ないのですが。」


ギルバート:「なんだろうか」


ノエル:「貴方の「アシギの担当編集者」である。という経歴。これは真実ですか」


ギルバート:「ああ。真実だよ。そこに嘘はない。誓おう」


ノエル:「…。」


0:ノエルは自分の携帯端末を見た


ノエル:「そうですか。」


ジャイロ:「じゃあつまり。あんたは、学会から追放された「元考古学者」ってところか。じゃなきゃあ、なんのツテもない一般人が、こんなタブーだらけの遺跡に入れるわけがねえもんなあ。」


ギルバート:「…。僕の経歴を考察しろだなんて言った覚えはないが」


ノエル:「すみません。私も「元探偵」なもので。癖ですかね」


ギルバート:「…。まあ。隠すような事でもないからいいさ。ああ、そうだよ。僕は元考古学者だ。それも、異能狩りの君が言った通り、学会から追放された身の。ね」


ジャイロ:「あぁ〜はん。俺の素性もバレてる。有名人の自覚はあるが。おめさん。そもそも、何が目的だ」


ギルバート:「さっき話した通りだよ。僕の目的は、アシギくんにもっともっと面白い「現実」を表現して欲しいだけだ」


ノエル:「…。」


ギルバート:「さあ。早く最奥に向かおう。本題は「そこ」にある」


0:場面転換

0:ギョルディア遺跡 中右部

0:小説を読むガロと、不安そうに眺めるアシギ。眠そうなカラス


ガロ:「…」


アシギ:「…」


カラス:「…」


ガロ:「うん。読み終わった」


アシギ:「…ど、どーだ…っ。面白いだろーがっ」


ガロ:「うん。面白かった」


アシギ:「そ、そーだろ!ほら見ろ!土下座しろ土下座!」


カラス:「土下座は剣士の恥だからしねえ。そんじゃ遺跡探索に戻るか?」


ガロ:「おう!」


アシギ:「…は?ちょ、ちょっと待てよっ。それだけか?」


ガロ:「えぇ、なんだよ」


アシギ:「私の小説、そんだけかって…!」


ガロ:「んー。いや、面白かったぞ、まじで」


アシギ:「面白いだけって…事か…?」


ガロ:「なんなんだよ。面白けりゃいいんだろ。小説って」


アシギ:「そうだけど…っ。なんか、もーちょいあるだろ…っ!」


ガロ:「なんかって言われても…。なあ?」


カラス:「あー。まあ、物語としちゃあとんでもなく良く出来てんじゃねぇのか。言葉選び、展開、謎解き。全部が「綺麗に作られている」。俺には無理だ」


アシギ:「…」


ガロ:「そーなんだよ。すげー面白かったんだけど。そうそう、作られてる感がすげーんだよなぁ。この主人公の考えてる事とか、行動とか、すげー分かるんだけど。なんつーかな。」


カラス:「辻褄は合うし、納得も行くし、見せ方も上手い…けど…。なんだぁ?」


ガロ:「うーん。」


0:ガロは溢れるように呟いた


ガロ:「生きてない」


アシギ:「…っ。」


ガロ:「いや、すまん。なんか偉そうに言っちまって。ほんとに面白かった」


カラス:「よし。じゃあ、探索に戻るか」


ガロ:「おう。次どこ行く?」


カラス:「このまま奥に進みてえな。昔の剣士が居た場所とか」


ガロ:「それロマンだなー。古代騎士」


カラス:「手合わせしてみたいもんだ」


アシギ:「…。」


ガロ:「んあ?アシギー?来ねえのか?置いてくぞ」


アシギ:「行かない」


ガロ:「はあ?」


アシギ:「もう行かないっ。」


カラス:「おいおい、めんどくせえな」


ガロ:「なんでだよっ。古代遺跡だぞっ。探検しなくてなにすんだよっ。」


アシギ:「うるさい!ばかあほぼけ!」


ガロ:「えぇ…」


アシギ:「やる気なくなったーっ。もうやだ!何もしたくない!」


ガロ:「なんでだよ!」


アシギ:「いいか!私は!依頼主で!君たちは!請負人だ!私の機嫌をとれ!っつーか!とるだろ普通!」


カラス:「はぁぁ?」


アシギ:「こう言う時はお世辞でも相手が喜ぶ事言うんだよっ。ふつうは!」


ガロ:「えぇーやだよ。俺嫌いだもんそういうの」


カラス:「同じく」


アシギ:「〜〜っ!」


ガロ:「そんな事よりさっさと探検行こーぜっ。時間持ったいねえよ」


アシギ:「いや、だから…!」


カラス:「諦めろよ、文筆家。」


アシギ:「はあ?」


カラス:「見りゃわかんだろ。うちのリーダーはワガママなんだ。」


アシギ:「…!なんなんだよっ…!お前ら!ただの準ギルドだろっ。」


ガロ:「そーだ!」


アシギ:「じゃあ依頼内容を遵守しろよっ。」


ガロ:「断る」


アシギ:「意味わからんっっ!」


ガロ:「俺は冒険家だからだ!こんな遺跡を前にただただ小難しいこと考えてられるほど暇じゃねえんだよ」


アシギ:「何が冒険家だよ!ギルドメンバーなんだから、依頼主に従っとけよ!!」


ガロ:「断る!!!」


カラス:「ふわぁ。ねみぃ」


アシギ:「…っ。冒険家か探検家知らないけどなっ。夢だなんだと言って、結局は目の前の評価に溺れるんだよっ。そーゆーもんだ!」


ガロ:「なんだそれ。意味わからん」


アシギ:「だってそうだろ。私の依頼を受けたってことは、金が欲しいんだろ。評価が欲しいんだろ」


ガロ:「そりゃあ金はあった方がいいけど。とりあえず今日の晩飯にありつけりゃあ一先ずはいいよ。それに、今回は遺跡探索だぜ?こんなお得な依頼ねえや」


アシギ:「いいや。嘘だね。いつか絶対に、夢が腐る時がくる。そもそもなんだよ、冒険家って。ばっかじゃねえの」


ガロ:「バカの何がわりぃんだよ。楽しいぞーバカ。てゆーかなんで急に怒ってんだ」


アシギ:「私がこんなに自分の夢に苦しんでんのに、目の前で何も知らなさそうなヘラヘラした奴に、私の文学をっ。表現を足蹴にされたんだっ。腹が立って何が悪いっ。」


ガロ:「なんだよっ。お前が見ろって言ったんだろっ。」


アシギ:「そーだけど違う!」


ガロ:「なんなんだよめんどくせーなぁ!」


アシギ:「この…!」


ガロ:「いいかっっ!ギルドに所属してようがなんだろうが、俺は冒険がしたいからここにいる。俺が誰かは、俺が決める。俺が何するかも俺が決める!」


アシギ:「…!」


ガロ:「だからさっさと行こーぜっ!なっ。なっ。はよっ。はよっ。」


アシギ:「…」


ガロ:「ほれ。行かねえのかよ。マジで置いてくぞ」


アシギ:「…あ〜っ。もう!お前ら!絶対ギルド本部にクレーム入れてやるからなっ。」


ガロ:「だっはは!好きにしろっ。起きろー、カラスっ。行くぞ」


カラス:「うお。なんだ、終わったか」


ガロ:「おう、一旦な。」


アシギ:「終わってないっ。覚えとけよガロおまえ…っ!」


ガロ:「だははっ。やだ。」


0:場面転換

0:ギョルディア遺跡 中奥部

0:大きな広場の向こうに広がる景色を眺めている三人


ジャイロ:「さて。なんやかんやと着いた訳だが」


ノエル:「随分と、風景が様変わりしたな。殺風景だ」


ジャイロ:「ああ。さっきまでの遺跡に比べて。随分と伽藍堂としてやがる。その癖…。あの建物」


ギルバート:「うん。さながら。現代社会だろう」


0:三人は「王の眠る墓」を見上げた


ノエル:「まるで高層ビルだ。これがこの遺跡の最大の謎。王の眠る墓、か?」


ジャイロ:「さあな。もはや幾何学もクソもねえよ。ここまで来たら。」


ノエル:「でもやっぱり。アンバランスな地形だな」


ジャイロ:「ああ。」


0:ジャイロは建造物の周りを見渡した


ジャイロ:(M)このバカ高ぇ建物の周りを囲むように生え揃ってる、用途不明の支柱が十二本。その長さは、目測でも80m以上。って具合か


ノエル:「でかい。とてつもなくでかい。汽車から見えてた柱はこれだったのか。」


ギルバート:「恐ろしいだろう。現代科学では不可能な建築技術だ。ロストテクノロジー、というやつだよ」


ノエル:「柱も建物も、苔だらけで、頂上は既に倒壊しかけている。にしても、1万4000年も経っている割に状態がよすぎる。やっぱりこの遺跡はどこかがおかしい。もっと根本的な何かが、異質だ」


ジャイロ:「ああ。異質だよ。本当に。」


ノエル:「…。恐らく、この墓の入口も。異常性による使用で開く。そう過程します。」


ギルバート:「そうか。それでは早速試してみよう。」


ノエル:「ジャイロ。」


ジャイロ:「おう。」


ギルバート:「さて。それじゃあ、早速入ろう」


ジャイロ:「あぁ〜ん。ちょっと待ちな。」


ギルバート:「…。次はなにかな」


ノエル:「私はここまで幾通りかの考察、というか。推理をした。現状証拠がこんなにあるなら、パズルゲームみたいなものだ。」


ジャイロ:「お嬢にゃあ及ばねえだろうが。大方の見当は付いた。王の墓とやらは、まずこの疑問が片付いてからだ。」


ギルバート:「探偵ごっこかい。準ギルドの分際で」


ノエル:「この遺跡は。1万4000年前に「現存」した物。そうですね。」


ギルバート:「僕が喋ったら、それは推理と呼べるのかい?」


ジャイロ:「答えねえなら、勝手に喋るだけだが。」


ギルバート:「…。ああ。そうだよ。放射線炭素年代測定で導き出された結果は、この遺跡は1万4000年前に現存した、超古代文明である。という事だ。」


ノエル:「それにしては、状態が良過ぎる。いくら建造物の材質が違うと言えど、1万年も経っているというのに、これだけ高層に構える遺跡が原型を留めているはずがない。」


ギルバート:「この建造物の全ては、現代科学知識では説明できないものだ。普通なら、という理屈は通用しない筈だが。」


ジャイロ:「一番気になったのはよぉ。この遺跡の周辺だ。マルセイユって言えば、緑と水源に富んでいる街、の筈だが。どうもこの周辺だけ様子がおかしい。」


ノエル:「遺跡周辺だけ砂漠状態だ。っていうのは、妙だとは思いませんかね」


ギルバート:「ああ。妙だとも。僕の目測では、強烈な磁場による植物の衰退を予測する。」


ノエル:「たしかに。さっきからヤケに電波障害が酷い。通信用のインカムもやけに雑音だらけで。ガロとの連絡が取れません。」


ギルバート:「それがなんだっていうんだ。」


ジャイロ:「まあ聞けよ。この磁場っていうのは。この遺跡から生じてるもの。って考えんのが「普通」なんだろうが。そりゃ違う。あんたも、そう思ってんじゃねえか」


ギルバート:「…」


ノエル:「恐らく、放射線炭素年代測定に嘘偽りはないんでしょう。ただ。私が最も気になるのは、異常性学と、考古学の乖離にある。異常性の起源は800年前である。しかし、この遺跡には、確かに異常性を使う事で生活を成立させる要素が余りにも多い。」


ジャイロ:「…。ああ、俺ァここまでだ。あとは頼んだぜ、お嬢」


ギルバート:「…。興味深い。続きを、聞かせてくれ」


ノエル:「恐らく。私の考察は貴方と同じ結論に辿り着くはずです。」


ギルバート:「試してみようか。この遺跡での文明は、異常性を使うことが大前提の文明であるが。我々の生きる現代において、異常性を生活の基盤に使う技術は存在しない。それは何故だろうか」


ノエル:「この文明が。この世のものではないからです。」


ギルバート:「…。それは。またぶっ飛び理論だ。宇宙人でもやってきたと?」


ノエル:「いいや。これは間違いなく、人が作った、異常性を動力として動く都市だ。そこに一切の疑いはない」


ギルバート:「では、なぜこの世のものでないと断言出来る?」


ノエル:「この遺跡には。一切の「文化」が存在しないからです。」


ギルバート:「文化、か」


ノエル:「順当な進化を遂げれば、人は必ずフォークやスプーンで飯を食べる。例え完全に不要になった世界でも、文化っていうのは必ず生活のどこかに残り続ける。でも、この遺跡にはまるで生活感が無かっただろう。ここが何かしらの施設の遺跡だって言うこともあるだろうけど。まずまず、この遺跡に住んでいた人類は。私たちの知る一切の文化を必要としなかった」


ギルバート:「ほお。それはつまり、ここに住んでいたのは人類ではない、と。」


ノエル:「正確には。異常体です。」


ギルバート:「…。仮に、この遺跡が異常体が住む施設だったと仮定して。我々の文化が根付かない理由にはなるまい」


ノエル:「大前提が、彼らには異常性があった。きっと、スプーンを使ってスープを飲むことよりも、もっと便利な文化があったんです。もしくは、食事を取らなくてもいいような、そういう新解釈の文化がここにはある。そうでないと、これはおかしい。」


ギルバート:「では、その話が、この遺跡はこの世のものではない、というのにどう繋がる?」


ノエル:「多次元空間からの、転移だと考えます。」


ジャイロ:「い!?」


ギルバート:「…。」


ノエル:「別に超常現象でもなんでもない。ただの異常性ですよ。きっと。誰かが何かをして、ここに唐突に現れた。それが、ギョルディア遺跡だと私は仮定します」


ギルバート:「…。」


ノエル:「もしそうなら、唐突に砂漠化したマルセイユにも納得がいく。そして恐らく、かつてこの文明の異常体は。」


ギルバート:「…。異常体は?」


ノエル:「…。人類を。滅亡させた。」


ギルバート:「なぜそうなる」


ノエル:「単純です。私が使っているインカムはさっき言った通り作動しません。なんの影響によるものかは一切不明ですが。この文明は「電動機関」のみを排除する、新たな動力革命を起こした。そう捉えると、異常性が動力として文明が成り立っているのも、人類の文化が何一つ残っていないのも、全てしっくりくる。遺跡の中に無数にあった石像は、恐らくは同胞の墓だ。唯一、見つかった文化だよ。」


ギルバート:「…。」


ノエル:「この遺跡は。異常体が、人類を駆逐する為の施設、或いは拠点だった。というのが、私の推理です。」


ジャイロ:「…。」


ギルバート:「素晴らしい!!!」


ノエル:「…正解、ですか。」


ギルバート:「正解だとも!!まさかこんな所で理解者に会えるとは!!僕は、僕はねっっ!感動を、感激をっ、感じざるを得ない!!!」


ノエル:「そりゃあ、どうも。」


ギルバート:「それで!!この王の眠る墓!この建造物には!何があると思う!!」


ノエル:「さあ。異常体の王の根城か、強制的に人類を異常体にさせる装置でもあるのか。少なくとも、新解釈の何かがあるのは間違いないでしょう」


ギルバート:「…。」


ノエル:「少なくとも、ここは異常性を使えることが前提の文明だった。そう考えると、後者の方が私の中では合点が行きますが。どうでしょうね。そんな事が、現実に起こり得るのでしょうか。」


ギルバート:「ノエル・ベルメット」


0:ギルバートはノエルに近付いた


ギルバート:「君は、とても賢いんだね」


ノエル:「…。」


ギルバート:「僕も。概ね同じ推察をした。この文明には、出土品はなく、文字の概念も発見されていない。恐らく、物理的な方法でない生活文化がこの文明では繰り広げられていた事だろう。1万4000年前に稼働していたであろうこの遺跡は、多次元空間から飛来したものだとも思った。何故なら、初めてこの遺跡が発見されたのは45年前だ。これほど目立つ遺跡が、1万3900年もの間、誰の目にもとまらない事などあるだろうか。僕がこう発表すると、思考の放棄と揶揄する学者もいた。神への冒涜だと石を投げる宗教患者もいた。この遺跡には、僕の。いいや。人類の知らない要素が隠されている。その大いなる要素のひとつが、この墓にあると。僕はそう確信している。」


ノエル:「そうですか。そうですね。きっと、そうでしょう。」


ギルバート:「さあ。それじゃあ、行こうか。王の眠る墓へ…!」


ノエル:「ジャイロ。」


ジャイロ:「おう。わりぃなおっさん。ここは随分と臭う。」


0:ジャイロはギルバートを拘束した


ギルバート:「っ…!なにを…!」


ジャイロ:「ひでぇ悪臭だ。悪巧みの、な。鼻が曲がっちまう。」


ギルバート:「離した方がいい。異常体が、一般市民に手を挙げていい通りなどない」


ジャイロ:「そいつぁ、お前さんの「目的」次第だろうがよ。」


ギルバート:「…。」


ノエル:「初めから、おかしいとは思っていた。経歴の詐称もそうだが。そもそも、小説家であるアシギの為に遺跡探索っていうのが、どうにも私の中で「何かが」ズレている気がしてならない。貴方は、この遺跡で、王の眠る墓と呼ばれる場所の、何が目的だ。アシギはそこにどう関わる。」


ギルバート:「…。いいや。本当だよ。これが、アシギくんの為なのは本当だ。それと同時に、僕の為でもある。だからーー」


ジャイロ:「動くんじゃねえよ。綺麗な顔を泥水に押し込むことになる。」


ノエル:「私の推察があっていると言ったな。この墓には、人間を異常性にすることが出来る何かがあるかもしれないと。そう言ったな。」


ギルバート:「勘弁してくれよ、それじゃあまるで、僕がアシギくんを陥れたいかのような物言いじゃないか。」


ノエル:「そう言ってるんだよ。貴方が学会を追われたのは、きっとそういう、この世のタブーを知ってしまったからだ。私の兄は、同じようにして消された。不可解な失踪は、その奥に必ず何か種がある。この依頼が、なぜ大半のギルドが失敗に終わったか」


ジャイロ:「つまるところ、消されたんだろうよ。誰かに」


ノエル:「では何故貴方は消されていないのか」


ジャイロ:「単純な話ィ。」


ノエル:「真実を知ろうとする人間を消す側と。貴方は繋がっている。そうでないと、納得のいかない依頼難度だ」


ギルバート:「ーーああ。まったく。」


0:ギルバートは何かを手に取った


ギルバート:「尽く、賢いね。」


ジャイロ:「動くなって言ったぜェ〜俺はァ!」


ギルバート:「ごほっ…!」


ノエル:「最後だ。内容によっては、マルセイユの憲兵に身柄を引き渡すぞ。」


ギルバート:「は、はは…!凄いな、いいや、少し、興奮して喋りすぎた僕が悪いな…。これは」


ノエル:「…」


ギルバート:「本当だよ。アシギくんを思って、という事になんら嘘はない。ただね。あれは僕の人生に与えられ光だ。僕は、彼女のファンなんだ。だから、王の眠る墓で、彼女に異常性が発症すれば、それはそれは新しい極地へ行くことが出来ると思った。人の表現は、その生に与えられた「試練」の質によって定められる。僕は、彼女を最高の小説家にしたい。それだけだ。」


ノエル:「うっわぁ…」


ジャイロ:「はっ。とんだ変態野郎だ。」


ノエル:「…!おい、ジャイロ!上見ろ!」


ジャイロ:「あぁ?」


アガット:「伸びろォ、ゲイ・ボルグ!」


0:何かがジャイロの頬を掠める


ジャイロ:「うおぉ!?あっっぶねえ!」


ノエル:「ジャイロっ。」


ジャイロ:「こっち来んなァ〜っ!敵だぜ、敵ぃ!」


アガット:「わっしはここいらで番張ってる野党だ。わりぃが、ここで死んでくれや」


ノエル:「嘘つけ!無理あるだろ!ギルバートとグルだな!」


アガット:「なんだ、今回はバレててもいいのか。おじき」


ギルバート:「仕方が無いよ。僕が何を目的としてるか、恐らく二人は想像がついている。それも、最初の方から僕を疑ってかかっていたらしい。だから白状した。だから殺すよ」


アガット:「まあ、おじきがいいなら。わっしはどっちでもいいんだけどよ」


ノエル:「…!ちょっと待て、お前、アガットか…!」


アガット:「あぁ〜?そうだが、おめぇ誰だ」


ノエル:「ジャイロ、こりゃあちょっとゴタゴタしてきた。」


ジャイロ:「誰だよ」


ノエル:「グランシャリノ商会に加盟してる準ギルドの奴だ。これだけ高額の依頼なら、大型ギルドの取り合いになるだろうに、未だに未達成のまま残ってるのは…」


ジャイロ:「はあぁ〜ん。グランシャリノの裏回しがあったから。か」


アガット:「そりゃそうだが。わっしとおじきの関係は複雑でな。わっしの目的は、この遺跡の侵入者を殺すこと。そんで、おじきはそんなわっしを始末したい。その為のお前らだ」


ノエル:「は?じゃあなんでギルバートと協力関係にあるんだよ!」


アガット:「わっしがおじきの用心棒だからだ。」


ノエル:「…。は?」


アガット:「おじきはあくまで、わっしを始末した上でここにある人間を異常体にする技術が欲しい。だが、その一連の流れで、ギルドに目をつけられる事もおじきは想定していた。つまり、わっしはおじきの敵であり、おじきの味方だ。」


ジャイロ:「そりゃ理屈が通らねえだろ…!何が目的だ、てめえ」


アガット:「おじきの用心棒としての報酬もあるからな。分かりやすく言えば小遣い稼ぎだ。」


ノエル:「シンプル〜っ。だからこそ、厄介…!」


ジャイロ:「ていうか、そんな事言っちまってのか。グランシャリノがこの遺跡と何か繋がりがあるって自白したようなもんだぜ」


アガット:「…。やべ」


ノエル:「なんなんだこいつ!!」


ギルバート:「口上は結構。はやく事を済ましてくれ。アガット」


アガット:「料金分の働きはしてやる。さぁ〜。やっちまうか。」


ギルバート:「どちらが勝っても良し。ただ、グランシャリノに目をつけられるのは困る。存分に潰しあってくれ。アホレンジャーの一行」


ジャイロ:「お嬢。今すぐガロを探してこい」


ノエル:「え、お前は…!?」


ジャイロ:「俺ァいいよ。こいつぶっ殺…。ぶっ飛ばすのが先だ。アシギも付いてんだろ。ガロが付いてりゃ大丈夫だろうが。もし俺らが殺されて、あいつらがギルバートに唆されちゃあ、騙されるぞ。馬鹿だから」


ノエル:「…っ。」


アガット:「伸びろ!ゲイ・ボルグ!」


ジャイロ:「Adsorptionアドソープション!」


アガット:「おお…?刺さらねえ。どういう異常性だぁ、ありゃ。」


ジャイロ:(M)槍…!?槍が伸びてんのか…!?どういう理屈だァありゃあ…!


アガット:「ああ。どっかで見たことあると思えば、お前あれか。異能狩りか。」


ジャイロ:「お嬢!さっさと行けぇ!」


ノエル:「くっそ!わかった!」


0:ノエルは逃げ出した


ギルバート:「アガット!!逃がすな、絶対にアシギくんに真相を知られてはいけない!その女を殺せ!」


アガット:「了解。」


0:アガットはノエルを追った


ジャイロ:「おいおいおい!逃がさねえだろ普通!さっさと行けとか言っちまってんだよこっちは!」


ギルバート:「対・異常体執行術」


ジャイロ:「ーーー!」


ギルバート:「人・発勁じん・はっけい…!」


ジャイロ:「ごぼぉあ…!」


0:ギルバートの掌がジャイロの横腹を抉る


ジャイロ:(M)いてぇ…!こりゃあ…!ハンサムと同じ…!


ギルバート:「意外そうな顔だね。戦えないと思ったかい。こんな研究をしている身だ、最低限は弁えているつもりだよ」


ジャイロ:「こんにゃろ…!そりゃあ、中央政府職員の戦闘技法だろうが…!何もんだてめぇは!」


ギルバート:「中央政府監察官だ。元、だがな」


ジャイロ:「なるほどぉ、なぁんで学会追われたかもわかった気がしてきたぁ。経歴バグってんじゃねえのかてめえはァ!」


ギルバート:「対・異常体執行術」


ジャイロ:「Adsorptionアドソープション!」


ギルバート:「寸勁すんけい!」


0:場面転換

0:時間は少し遡る

0:ギョルディア遺跡


ガロ:「だっははは!見ろ、アシギ!」


アシギ:「ぷぷ」


カラス:「笑ってんじゃねえよ…」


0:カラスは何かの罠にひっかかっている


ガロ:「だははは!だってよーっ!なぁんか分からんけど、ちょっとはぐれてる間に罠っぽいのにひっかかってもんだもんよーっ!」


アシギ:「ぷぷ」


カラス:「殺す。絶対に殺す。」


ガロ:「よしゃ!次行こうぜ!次!」


アシギ:「行こっか」


カラス:「助けろよ!!」


0:場面転換


ガロ:「すげーーっ!階段がねえ!リフトかぁ、こりゃあ!」


アシギ:「なんだろう。ギルバートさんはなんて言ってたっけな…」


ガロ:「ちげーだろーが、アシギはなんだと思うよ、これ」


アシギ:「んんん…?そんな事言われてもな…。私専門知識ないし」


カラス:「井戸みたいなもんだろ。何かを引張りゃあ大体こういうのは上に昇っていくもんだ」


ガロ:「えー。紐とかねえけど」


カラス:「そりゃあほら。1万4000年だからどっか行っちまったんだよ」


ガロ:「俺は断然、乗れば勝手に上に登る素敵装置だ!っていう推理を推す」


カラス:「そんな馬鹿な」


ガロ:「汽車と同じやつ。蒸気機関ってやつならどうだ」


カラス:「最近だと電車機関もかなり進化してきてるって言うしな。そうなるとガロの言ってた素敵装置ってのも再現可能なんじゃねえか?」


ガロ:「まじでぇ!?」


カラス:「でも1万4000年前だしな」


ガロ:「確かにな。おもしれー。」


アシギ:「これは、仮にだけど」


ガロ:「お?」


アシギ:「この遺跡の入口が異常性で開いたように、このリフトも異常性を動力として動くもの…。だったりしたら面白いかな…。なんて」


ガロ:「…」


カラス:「…」


アシギ:「い、いや!仮の話だから!そうだったらなんかロマンあるなーって!」


ガロ:「それ!!やべぇぇぇえなぁ!?」


アシギ:「…!」


カラス:「接合部もクソもねえリフトだからな、たしかに。そっちの方が合点が行く。」


ガロ:「ちょ、ちょっと試してみていいか!?」


アシギ:「いや、でも、あってるかどーか分かんないし…」


ガロ:「いーんだよ!違ったら違ったで別のすげー技術があんだろ!それはそれで面白い!」


カラス:「罠であれ。」


ガロ:「よっと。」


0:リフトに乗った


ガロ:「GRID・BORROWグリッド・ボロウ


カラス:「ふむ。」


アシギ:「ごくり」


0:リフトが登り始めた


ガロ:「うおおぉお!?」


アシギ:「動いた!?」


カラス:「まじか」


ガロ:「ええええ!?動いてる!動いてる動いてる!」


0:しかし、リフトは中腹部で動作を止めた


ガロ:「あれ。止まっちった」


カラス:「まあ。昔のもんだしな。イタチの最後っ屁ってとこじゃねえのか」


ガロ:「おお…!おおお…!!おおおおお!!すげえええなぁあああ!古代文明!」


アシギ:「私も!私も乗せろ!」


ガロ:「お前異常性使えねえじゃん。止まっちまったし」


アシギ:「この…!次のリフト探しに行くぞ!」


カラス:「なんだよ。あんだけぶーぶー言ってたのに。探索に乗り気か」


アシギ:「うるさい!乗り気じゃない!」


ガロ:「だはは!なんでもいいよ!行くぞ!次ぃ!」


0:場面転換


ガロ:(M)ガロンドール冒険譚。7章っ。


ガロ:(M)ギョルディア遺跡の文明は、異常性を使う事で技術進化を成したとんでもねえ文明だった!


ガロ:(M)高さ40mを超える石像とか、変な形した武器とか、用途不明の色んな物で溢れかえっていて、それはそれはロマンの塊だった!


アシギ:「ふう…。」


カラス:「結構見て回ったな」


ガロ:「おう!冒険譚が潤う!」


アシギ:「でた。冒険家」


ガロ:「いいだろ。お前の小説より面白くしてやるからな」


アシギ:「はあ?私より面白く文字書けるやつなんていてたまるかっ。」


カラス:「そうか。お前らどっちも文筆家になんのか。一応」


ガロ:「こいつと一緒にすんな!」


アシギ:「こいつと一緒にすんな!」


カラス:「…。」


ガロ:「ぐー。あ、腹減った」


カラス:「俺は眠い。」


アシギ:「結構歩いたしなぁ」


ガロ:「楽しいな、遺跡探索」


アシギ:「…おう」


ガロ:「次はどこ行こうかなぁー。」


アシギ:「…。なあ。」


ガロ:「お?」


アシギ:「ちょっと独り言聞けよ」


ガロ:「独り言って聞くものなのか」


アシギ:「いいから付き合え。」


ガロ:「まあ、休憩がてらだし。聞かせてくれよ。フランス1の小説家の話」


アシギ:「…。フランス1、ねえ。」


ガロ:「なんだよ。かっけーじゃん。」


アシギ:「うーん。そりゃあ、評価されるのは嬉しいんだけど。なんていうのかな。段々と、自分の書きたいものを書けなくなってきた」


ガロ:「え。なんで?」


アシギ:「書きたいものが売れるとは限らないだろ。私は小説を書いて、表現を売って、金を稼いでるんだし」


ガロ:「うーん?そうかぁ?折角なら好きなことしねえと勿体ねえじゃんよ」


アシギ:「そう思うよなぁ。でもさ。私が好きなことしてられるのって、私を応援してくれるファンのおかげなんだよ。これは間違いないんだ」


ガロ:「あー。そっか。そこが冒険家と小説家の違いか。俺、ファンいないもんな。でもよお、お前のやりたい事を応援してくれない奴はファンって言わねえんじゃねえのか?」


アシギ:「皆が好きなのは、「小説家としてのアシギ」であって、「私」じゃないからね。そりゃそうだよ。私はコンテンツを売ってるんだから」


ガロ:「んー。難しい話はよく分かんねえな。好きなことしたくて小説書いてんのに、それが出来てねえなら元も子もねえだろ」


アシギ:「うわー。バカの癖に正論。」


ガロ:「は?」


アシギ:「でもほんと。その通りだよなあ。グゥの音も出ない」


ガロ:「うーん。小説書くのは好きなのか?」


アシギ:「好きだよ。これより好きな物は、きっと私の人生で出てこない」


ガロ:「そっか。いいな。そういうの。俺は好きだ」


アシギ:「そうかなぁ。好きな物に苦しめられるのは、結構苦しいもんだよ」


ガロ:「そんなもんか。俺にはねえからな。そういうの。わからん。でも、好きな事があるってのはいい事だ」


アシギ:「…。この遺跡はさ。何回も足を運んだんだ。最近筆の進まない私に、ギルバートさんが薦めてくれた、新しいインスピレーションを得る為の場所だって。でも、そんなの全然湧かなくて。とりあえずやってはみてるけど。何をすればいいのか分かんない」


ガロ:「さっきから。ギルバートギルバートって。そんなにそいつが偉いのか」


アシギ:「私を、何も書けなくなった私を助けてくれた人なんだ。恩がある」


ガロ:「恩、ねえ。」


0:アシギは拳を握った


アシギ:「それでも最近、作品の評価も落ち始めた。初めのうちはよかったよ。書きたいものも、表現もあった。でもそのうち、評価が求められるようになって、色んな技術を学んだ。理論的には売れる作品なのに、売れない。何を表現すればいいか、分からなくなってきた」


ガロ:「…」


アシギ:「奇しくも同じ文筆家の意見を聞かせてくれよ。どうすれば。私はこの地獄から抜け出せると思う?」


ガロ:「…。」


0:ガロは立ち上がった


ガロ:「知らねえ。自分で考えろよ」


アシギ:「…」


ガロ:「それに、まるで奴隷じゃねえか。何かの言いなりになるだなんて。俺には向かねえな」


アシギ:「お前、モテないだろ」


ガロ:「あ!いいこと思いついた!」


アシギ:「は…?」


0:ガロは冒険誌から1ページちぎった


アシギ:「え!?ちょ、なにやってんだよ!」


ガロ:「ほれ、この1ページやるよ」


アシギ:「いやいやいや、わけわからん!大事な手稿なんだろ!?」


ガロ:「いいよ別に。沢山あるんだから。俺がそうしたいからしただけだ」


アシギ:「…っ。おまえ…」


ガロ:「で!この紙に、やりたい事!思いつくだけ書こう!」


アシギ:「…は?」


ガロ:「じゃあまず俺から!」


アシギ:「ちょちょちょ、なに?どゆこと!?」


ガロ:「カキコカキコ…。ほい!まず俺の一個目!」


0:紙を見せた


アシギ:「…。日本でカツ丼を食べる…?」


ガロ:「そうだ!本場のやつ!」


アシギ:「こんなの書いてどーすんだよ…」


ガロ:「えー。いくら小説が好きでもよ、その事ばっか考えてても頭詰まるだけだろ。だからさ、人生のうちにやっときたいこと、書き上げておこーぜっ。いつ死ぬか分かんねえしな」


アシギ:「それになんの意味があんだよ」


ガロ:「ねーよ。意味なんて」


アシギ:「寄り道してられるほど暇じゃないし、余裕が無いんだ」


ガロ:「だはは!一回きりの人生だぞ、寄り道楽しもうや」


アシギ:「…!」


カラス:「ふごっ。朝か?」


ガロ:「昼だよ。カラス、お前なんかやりたい事ねえの?」


カラス:「んあ。何だ急に」


ガロ:「いま人生でこれだけは絶対やる!ってこと書き上げてんだよ。」


カラス:「ああ〜。…。世界一強い剣士に会ってみたいな」


ガロ:「おお〜!そりゃすげえ!俺も会ってみたい!書こうっと」


アシギ:「…」


ガロ:「あとは〜。そうだなぁ。バーベキューがしたい!」


カラス:「素朴だなぁ」


ガロ:「いいだろ、なんでもいいんだ。」


アシギ:「…。に、なりたい」


ガロ:「あ?」


アシギ:「…っ。かせ!」


ガロ:「あ」


カラス:「おお、字ぃ綺麗だな」


アシギ:「これだ…!」


ガロ:「お…?」


カラス:「…。美脚になりたい…?」


ガロ:「ぷっ…!だっははははは!」


アシギ:「笑うな!いーんだろ!こーゆーので!」


ガロ:「ああ!こういう事!」


カラス:「新しい刀が欲しい」


ガロ:「溺れるほどの肉が食いてえ!」


アシギ:「一日三時間しか働きたくない!」


カラス:「新しい下駄がほしい」


ガロ:「キャンピングカーが欲しい!」


アシギ:「歯を真っ白にしたい!ぴっかぴかに!」


カラス:「新しいハカマがほしい」


アシギ:「そればっかだな!?」


ガロ:「だっはは!じゃあ俺は新しいカバンがほしい!なんでも入るやつ!」


アシギ:「えーと、個人展を開きたい!」


ガロ:「____月に行きたい!!」


0:時間経過

0:間


カラス:「ほぉ…。」


ガロ:「結構埋まったな!だははっ。」


アシギ:「…」


ガロ:「俺、お前の小説あんま好きじゃねえけどよ」


アシギ:「うっさい」


ガロ:「お前が好き勝手書いてみた小説は読んでみてえ。」


アシギ:「…」


ガロ:「これ、やるよ。」


0:やりたいことリストを渡した


アシギ:「…。おう」


ガロ:「お互い短い人生だっ。楽しもーな!」


アシギ:「…。おう」


カラス:「さて。いい加減あいつらと合流するか?」


ガロ:「おう、そうだなー。」


アシギ:「なあ、ガロ」


ガロ:「なんだ?」


アシギ:「お前はなんで、冒険家になろうと思ったんだ」


ガロ:「ん?何でそんなこと聞くんだよ」


アシギ:「いいだろ。気になったんだ」


ガロ:「…う〜ん。さっき言ったけど。この世の全部が知りたいからだな?」


アシギ:「そうじゃなくて!あるだろ、きっかけって言うか、そう思った出来事が…!」


ガロ:「ん。ああ、そういう事か!」


0:ガロは荷物を背負った


ガロ:「俺が冒険家を目指したのはーーー」


ノエル:「おおぉおおおおい!!」


ガロ:「お?」


アシギ:「えぇぇえ!?間悪!!!」


カラス:「ノエルじゃねえか。」


ノエル:「お前らーー!こんな所にいやがったか!」


ガロ:「おーっ。楽しいぞ。どうしたんだよ、慌てて」


ノエル:「今すぐ遺跡から出るぞ!!」


ガロ:「え。なんで?」


ノエル:「ギルバートが!クソみたいなこと企んでる!」


ガロ:「え?」


アシギ:「は?」


アガット:「言っちまったなぁ。伸びろっ!ゲイ・ボルグ!!」


0:槍がノエルの足を貫いた


ノエル:「ぐぁ…っ!いったぁああ!」


ガロ:「ノエル!?」


アシギ:「えぇええ!?」


カラス:「…っ。」


アガット:「逃げ足の早い女だな、おい。わざわざお仲間のところまで案内してくれたのは感謝してるが。」


ノエル:「くそ…!なんなんだよあの武器は…!」


ガロ:「てめぇ!!ノエルになにしてんだ!!」


アシギ:「…!あいつ、噂の野党だっ。何回か遭遇してる!」


アガット:「ちゃあんと嬢ちゃんもいやがるな。これで問題なく依頼達成だ。」


ノエル:「気をつけろ…っ、あいつの槍!伸びるぞ!」


ガロ:「えええ!?伸びるの!?かっけくねぇか!?」


アシギ:「それどころじゃないだろ!」


ガロ:「そーだ!それどころじゃない!」


アガット:「元気なこったァ…!」


0:アガットは槍を構えた


カラス:「謳歌流。中断。」


アガット:「伸びろ、ゲイ・ボルグ!!」


カラス:「花弁はなびらァ!!」


0:槍を弾いた


アガット:「ぉお…!?ゲイ・ボルグを弾きやがった…!なんつー動体視力してやがるっ。」


カラス:「異形の武器を使う人間か。異常体じゃ無さそうだが。」


ガロ:「さんきゅーカラスっ。ノエル、手ぇかせ」


ノエル:「く、っそ、いたい…!」


アシギ:「逃げろっ。あいつ、とんでもなく強いし、容赦がない!ギルドメンバーだけを狙って狩りをする野盗だっ。」


ガロ:「そうもいかねえだろ。ノエル、ジャイロは」


ノエル:「ギルバートと、戦ってる、と思う。あいつ…!私を逃がしたつもりでいやがって…!」


ガロ:「そうか。ジャイロなら大丈夫だろうけど。心配だな」


アシギ:「…。それで、ギルバートさんが企んでるって、一体何を…」


ノエル:「ああ…そうか。えっと、うん。しょうがない…!」


アシギ:「?」


ノエル:「ギルバートは!君を異常体にする気だ!」


ガロ:「えええええ!?」


アシギ:「ええええええ!?」


アガット:「えええええ!?」


カラス:「なんでお前まで驚いてんだよ!」


アガット:「わっしはおじきの詳しい事情は知らん」


ノエル:「いや、正確には人間を異常体に出来る事が可能なのかは分からないけど、少なくとも、それが可能だったら、ギルバートは君を異常体にする、そういうつもりだ!」


アシギ:「な、なんで私を異常体なんかにする必要があるんだ…!ギルバートさんは私の担当編集者だぞっ。」


ノエル:「なんかよく分からんがっ。君に悲劇があった方が、小説家として輝けるんだそうだっ。」


アシギ:「そんな話、信じられるかっ。」


ノエル:「今あの槍使いがギルバートと関係がある事を言ったようなもんだろっ。」


アガット:「やべ。」


カラス:「バカなのかてめぇは!」


アシギ:「…は…?意味が、わからない…!」


ガロ:「…」


アシギ:「…。君たちを疑うわけじゃないけど、納得ができない…!」


ノエル:「ったく、そりゃそうだ…!」


ギルバート:「はぁ…っ。はぁ…!それについては。僕から説明しようと思う。まったく、結局バレてるじゃないか…!アガット…!」


アガット:「いやぁ、すまんの」


ノエル:「な…!?」


ガロ:「ヒョロ男…!!」


ノエル:「なんでお前がここにいる!ジャイロはどうした…!?」


ギルバート:「彼なら、今頃出血多量で意識が飛ぶ頃なんじゃないかな。」


カラス:「そいつも随分とボロボロみてぇだが。まじでやられたのか。アロハ」


ガロ:「嘘つくな!ジャイロがお前みたいなヒョロ男にやられるわけねぇだろっ。」


ギルバート:「嘘だと思うなら、中央広場まで行ってみるといい、無惨にも横たわっているさ。この遺跡の床はひんやりとしていて気持ちいいから、涼んでいるのかもしれないね。」


ガロ:「てんめぇ…!」


アシギ:「ギルバートさん…!」


ギルバート:「…」


アシギ:「今のは、どういう事ですか…!」


ギルバート:「…。僕達は、随分と長い間。一緒に仕事をしてきたね」


アシギ:「…え?」


ギルバート:「僕が22の頃、中央政府を辞めて、考古学を履修し始めた。そして29になり、博士号を所得した。そこからは考古学者として自分の知的欲求を満たした。32の頃、この遺跡をみつけ、とある論文で僕は学会を追われた。全てに絶望した時に、君の作品に初めて手を触れた。」


アシギ:「何の話を、してるんですか」


ギルバート:「ああ、アシギくん。どうか悪く思わないで欲しい。僕はね。君の書いた作品に救われた。そんな君の、悩みを解決したい。ただそれだけなんだよ」


アシギ:「…は…?」


ギルバート:「君はね。僕の光と言っていい。絶望の中、暗闇に伏していた時、僕の世界に色をくれたのが、君の小説なんだよっ。僕は君に、恩返しがしたいっ。押し付けがましいと思われても構わない、よけいなお世話は上等だっ。君が路頭に迷うのなら、僕は何を犠牲にしてでも君を導く。導いてみせる。僕ならそれが出来る。僕にしかできない。例え君自身を犠牲にしてでも、僕は君を救いたい」


アシギ:「ギルバートさん…。貴方は、私に何を望んでいるんですか…?」


ギルバート:「…。「試練」だよ。君は、今。そんな挫折如きで折れていいい様な存在じゃない。僕ならっ。もっと君を素晴らしい表現者にすることが出来るっ。異常性を宿した小説家、どうだろう、余りにもロマンティックじゃないか。全ての表現に必要なのは、「試練の数と、質」なんだよ。きっといつか、僕に感謝する日が来る…!僕に感謝して欲しいだなんて願ってはいない、だが、これは君の為だ…!紛うことなき、愛だよ!」


アシギ:「…」


ギルバート:「今は僕の考えが理解できない気持ちも分かる。だから僕はあくまで、偶発的を装って「試練」を君に与えようとした。でも、そうならないなら、それはそれで構わない。」


アシギ:「…っ。」


ギルバート:「大丈夫だ。彼らはこの場で、アガットが処分する。全て無かったことにする。君の苦悩を解決に導く。だからこっちにおいで、アシギくん」


アシギ:「言っている意味がわかりませんっっ!」


ギルバート:「分からなくていいんだよ。右も左も分からない君を、今まで通り僕に導かせてくれよ。もっと、もっと素晴らしい表現の数々を、僕に見せておくれ。大丈夫。僕だけは、君を見捨てたりはしない。」


アガット:「ったく。盛りあがってんなぁ。伸びろ。ゲイ・ボルグ!」


0:槍を弾いた


カラス:「おっと…!盛り上がってんなら、邪魔してやんなよ」


アガット:「この…っ。」


ギルバート:「悪いようにはしない。約束する。君を想う気持ちに嘘偽りはない。君の望む通りの結果を、望む以上の形で僕が与えてみせる。信じてくれ。今まで通り。僕の手を取ってくれ。だから、こっちに来なさい」


0:アシギはやりたいことリストを握りしめた


アシギ:「…っ。ギルバートさんは。私を玩具か何かだと思ってるんですか…!」


ギルバート:「…。」


0:表情が変わる


ギルバート:「は?」


アシギ:「私は、貴方を信用していたっ。今までずっと、私の苦悩を聞く素振りをして、私の理解者であるかのような顔をして、その癖、腹の底では私を玩具の様に見てたんですか!」


ギルバート:「人聞きが悪い。悪過ぎる。僕は君のファンなだけだ。君の為を思ってやっている。君は素晴らしい小説家だ。その手助けがしたい」


アシギ:「そんなこと、いつ私が望んだんだ!」


ギルバート:「実際に君は絶望していただろう…?僕に光をくれた、そんな人を助けたいと思うこの感情の何が悪いんだい?」


アシギ:「だから、そんなこと頼んでないっつってんですよっ。」


ギルバート:「どうしてそんなに僕を拒絶するんだ。今まで誰が君を支えてきた?僕が居なければ達成できなかった課題も、解決しなかった問題も、山ほどあっただろう。違うか?」


アシギ:「…っ。なんですか、それ…っ。」


ギルバート:「連載枠を勝ち取ったのは誰だ?僕だ。筆の乗らない君の休載期限を編集部に掛け合って可能な限り伸ばしたのは誰だ。毎日コーヒーを煎れに行ったのは誰だ。自分に絶望する君のそばにずっと居たのは誰だ。君の悩みを、苦しみを、親身に。我が事のように聞いたのは誰だ。全部、全部僕だ。僕が居なければ君はとっくに潰れていた。どれもこれも、僕が居たからどうにかなった。僕が居なければもっと酷いことになっていた。アシギくんは僕に、返しきれないほどの恩があるはずだ」


アシギ:「…」


ギルバート:「消費者が君の作品を今か今かと待ち望んでいる。分かるだろう。君は、小説家なんだ。その責任を、重圧を。全部僕が解決する。だから。こっちに来なさい」


アシギ:「ーー…っ。」


ガロ:「こいつは小説書く機械じゃねえぞ。」


アシギ:「…ガロ」


ギルバート:「…。なんだ。なんなんだ。お前は。アシギくんに何を吹き込んだ。」


ガロ:「何も。お前が今までアシギに何をしてきたかなんて知らねえけどな。こいつは、やりたいこといっぱいあんだ。」


ギルバート:「それがなんだ。やりたい事とできる事は別だ。彼女には彼女の悩みがある。彼女は自分自身に悩まされている。そして、きっとアシギくんは。自分に勝てない」


ガロ:「だから、そんな事てめぇが決めてんじゃねえよ。」


ギルバート:「…」


0:回想


アシギ:(M)新しい担当編集が着いた。どうやら私のファンらしい。


職員:「ギル、聞いたぞ。アシギ先生の担当編集になったそうじゃないか」


ギルバート:「はい。この為に入社したので。僕も嬉しいです。」


職員:「アシギ先生って言えば偏屈、我儘で有名だ。苦労するぜぇ、お前」


ギルバート:「構わないですよ。僕だけは、彼女の味方だ。」


アシギ:(M)ギルバートさんは、事ある事にウチに来た。


ギルバート:「アシギくん。コーヒーを淹れたよ。」


アシギ:「いりません。」


ギルバート:「まあまあそう言わず。肩肘張って机に向かってばかりじゃ腰を痛めるよ。」


アシギ:「余計なお世話です」


ギルバート:「嫌味じゃないよ、君には長く文字を書いてい欲しいだけさ」


アシギ:「それこそ余計なお世話ですよ。言われなくたって、私は筆を置かない。」


ギルバート:「そうかい、安心したよ。さあ、飲んで」


アシギ:(M)編集者なのか介護者なのか分からない程、手厚く私に付き添った。


職員:「どうだ、アシギ先生の編集は。やってけそうか」


ギルバート:「楽しいですよ。アシギくんの傍で、少しでもアシギくんの力になれていると思うと」


職員:「よくやるよホント。そういや最近将来有望な作家がウチの出版社に来たんだが、見たか?」


ギルバート:「見ましたよ。稚拙ながら綺麗な文字を書く人でしたね」


職員:「そうそう、まだ16らしい。若いってのは良いねえ」


ギルバート:「でも。アレでは無い。」


職員:「?なんか言ったか?」


ギルバート:「いえ。それでは、行ってきます」


職員:「またアシギ先生のお守りか、はいはい行ってらっしゃい」


アシギ:(M)日々。筆を握る手が。重くなっていくのを感じる。文学が重い。無理矢理引きずり出した表現は、酷く軽い。


ギルバート:「…。うん。今日もいい原稿だ」


アシギ:「…本当に言ってますか?」


ギルバート:「うん。本当だよ。僕が君に嘘をつくわけが無いだろう」


アシギ:「そう、ですか。」


ギルバート:「頑張ったね。」


アシギ:「…」


ギルバート:「じゃあ、新春賞はこれで出すよ」


アシギ:「…はい。」


ギルバート:「コーヒー。飲むかい?」


アシギ:「…。お願いします」


ギルバート:「任せてよ。」


アシギ:(M)ギルバートさんは。私がどれだけ薄っぺらい文章を紡いでも。その裏にある私の苦悩を汲み取っているかのようだった。


職員:「…。おい、ギルバート」


ギルバート:「…。」


0:ギルバートは退室した


職員:「待てよ、どこ行くんだ。」


ギルバート:「アシギくんの所に決まってるじゃないですか。」


0:ギルバートは乱暴に扉を閉めた


職員:「はあ〜あ。」


0:職員は記事を見ている


職員:「ついに落としたかあ。アシギ先生、荒れるぞこりゃ」


アシギ:(M)筆が。重い。


ギルバート:「アシギくん。大丈夫かい」


アシギ:「大丈夫なわけがないでしょう!!もうほっといて下さい!!」


ギルバート:「そうもいかない、僕は君の担当編集だ。」


アシギ:「あんだって、編集部だって、結局私から出る利益しか見てないんだろ…っ。もう私に構わないでくださいよっ。私は小説を書く才能なんてないんです…!」


ギルバート:「今回の新春賞を逃したのは君の力不足なんかじゃあない。」


アシギ:「じゃあなんなんですかっ。私はやれることをやりましたっ。沢山本を読みました、胡散臭いセミナーにも顔を出しましたっ。その為にお金も、時間も、プライドも、全部捧げた!でも、評価されない…っ。」


ギルバート:「君は、評価の為に小説を書いているわけじゃないだろう。」


アシギ:「評価されなきゃ価値がない!!」


ギルバート:「そんなことは無い。表現の価値は評価だけじゃない。」


アシギ:「ーーっ!うっさいなぁ!!ほっとけっつってんですよ!!」


0:アシギはギルバートを突き飛ばした


ギルバート:「…」


アシギ:「あ…。」


ギルバート:「…。アシギくん。」


アシギ:「…。もう、いいでしょう。疲れました。求められる事にも、求める事にも。そもそも、向いてなかったんだ」


ギルバート:「アシギくん!!」


アシギ:「…」


ギルバート:「たしかに。評価の中で生きる表現者は。過酷だろう。とてつもない葛藤と絶望があるんだろう。僕が全てを理解してやれることはできない。僕は、君じゃないから。それでも、僕は、君が悲しそうに筆を持つのが。悲しいよ」


アシギ:「…っ」


ギルバート:「安心してくれ。そして、信頼してくれ。僕だけは、君を見捨てたりはしない。例え、君の表現が、世界の全てから否定されたとしても。僕だけは見捨てない。君の中にあるその文学は、表現は。たしかに僕の心を奪った。」


アシギ:「ギルバートさん…」


ギルバート:「僕は君の、最高のパートナーでありたい。君の書く作品が、表現が大好きだ。愛している。僕にはそれを守る義務がある。そう、思っている。その為なら一度筆を折ることだって、いいじゃないか。」


アシギ:「…」


ギルバート:「大丈夫。全部僕に任せなさい。」


アシギ:(M)私は。酷く。卑怯者だ。だってそうだろ。ひとり遊びの世界で、私を好いてくれた物が、私に牙を向いていると。


ギルバート:「…」


職員:「アシギ先生、暫く休載措置だってな」


ギルバート:「…はい。」


職員:「一応はウチの稼ぎ頭の筆頭だ。その休載のケツ、全部お前で持つ気かよ」


ギルバート:「それが何か」


職員:「…。体は資本だ。あんま気張りすぎんなよ。」


ギルバート:「…。」


アシギ:(M)きっと。必ずしもそんなことは無いのに、そう感じざるを得ない。感謝すべきものに、憎しみにも近い感情を覚えている


ギルバート:「アシギくん。コーヒー、いれておいたよ。」


アシギ:「…。ありがとうございます」


ギルバート:「今日は天気がいいね。散歩でもしに行かないか」


アシギ:「やめておきます。」


ギルバート:「そうか。構わないよ。」


アシギ:(M)ギルバートさんは、日に日に目の下のクマが酷くなっていた。この現状を打破しようと、きっと何か、沢山動いてくれていたんだろう。思えばその時から、ギルバートさんは少しずつ変わっていったような、そうな気もする。


職員:「おい、ギル。」


ギルバート:「…」


職員:「ギルバート。」


ギルバート:「…あ。ああ、なんですか。」


職員:「お前、顔やばいぞ。痩せすぎ」


ギルバート:「…。栄養不足、ですかね。今は、我慢の時ですよ。」


0:ギルバートは大量の書類を持って編集部を出た


職員:「あぁ、もう…」


アシギ:(M)きっかけは。何気無いものだった。いつもの様にギルバートさんがウチに来た。ギルバートさんの鞄から覗いていたのは、古ぼけた書籍。異常性学についての文献。その中身は____


ギルバート:「アシギくん。」


アシギ:「…!」


ギルバート:「何をしてるんだ」


アシギ:「あっ…。すみません、久しぶりに原稿が出来たので、ギルバートさん、外出てたから…。こっそり、カバンに入れておこうと思って…」


0:アシギが本を手にしていることに気づく


ギルバート:「…。」


アシギ:「すみません…っ。本当に、別に漁ろうとしてたわけじゃないんですけど…」


ギルバート:「アシギくんっっ」


アシギ:「え…っ?」


ギルバート:「久しぶりの原稿じゃないか!読んでもいいかい!?」


アシギ:「え、はい、いいですけど…。あの…」


ギルバート:「いいんだよ、アシギくんが僕の所有物を漁ろうだなんて考えるはずもないっ。分かってる、そんな事より、原稿だ」


アシギ:「は、はい…。では…」


ギルバート:「嬉しいなぁ、僕はね、この瞬間が本当に好きなんだ」


アシギ:(M)きっと。ギルバートさんは。私じゃなくて。私の表現を、誰よりも愛してくれた。薄々気付いていた。だがこれは、脳死にも近かったかもしれない。この人の言うことを聞いていれば、私は悩まなくて済む。


0:とある夏の日


アシギ:「遺跡…ですか?」


ギルバート:「そうだ。近辺で確認されている、ギョルディア遺跡って知っているかい」


アシギ:「知ってはいますが…。」


ギルバート:「また最近、筆を置きがちだからね。僕なりに、君のインスピレーションが沸けばと思って。」


アシギ:「…」


ギルバート:「息抜きだと思ってくれ。大丈夫、もちろん危険がないようにはする。必ず。僕が君を導いてみせる。さあ、こっちにおいで」


アシギ:(M)その人の手をとる事で、色んな問題が解決した。悩みの根幹を、忘れるように。死んでいくように。緩やかに、時間を消化した。


0:回想終了


ギルバート:「アシギくん。こっちに来なさい。」


ガロ:「こいつはお前の奴隷じゃねえ。」


ギルバート:「君に何がわかる。彼女には助けが必要だ。だから、僕がいるんだ。君だってそう思ってるだろ。アシギくん」


アシギ:「離してください…っ!」


ギルバート:「…。アシギくん…?」


アシギ:「…。」


0:静寂


ギルバート:「…。なぜ。死んだ目をしていない。つい今朝方まで、何にも希望を見い出せない。無様な子羊だったろうが。」


アシギ:「…。」


ギルバート:「お前か?ガロンドール。お前がなにか唆したか?」


アシギ:「違います。」


ギルバート:「…」


アシギ:「やりたい事が、出来たんです。」


ギルバート:「……。」


アシギ:「貴方には、感謝してもしきれません。弱い私を今まで支えてくれた。正直、そんなギルバートさんが、心うちではそんな変態じみたことを考えてるだなんて。まだ実感が湧かない。これがただの創作物なら、随分と気が楽だ。」


ギルバート:「…。」


アシギ:「私の1ファンであると言ってくれて。ありがとうございます。私を思ってくれて、ありがとうございます。支えてくれて、ありがとうございます。」


0:アシギは頭を下げた


ギルバート:「無理だよ。君じゃあ、一人では歩けない」


アシギ:「ギルバートさんは。私じゃなくて。私の表現にしか興味が無い。そうなんですよね。」


ギルバート:「…」


アシギ:「ずっと、気になってました。私よりも、自分のことよりも、何よりも。私の作品ばかりを気にかけてくれましたから」


ギルバート:「…。」


0:ギルバートは暗い瞳でアシギを見つめた


ギルバート:「ーーああ。そうだよ。」


アシギ:「…っ。」


ギルバート:「僕が好きなのは。小説家のアシギだ。君が、もっと。もっともっと面白い文学を紡ぐ事にしか興味が無い。君は、もっと素晴らしい小説家になれる。君もそれを望んでいるだろう。だから、僕と一緒に来なさい。」


アシギ:「…。ギルバートさん」


ギルバート:「うん。なんだい」


アシギ:「一緒には。行けません。」


ギルバート:「…。はぁ。そうか。」


ガロ:「…」


ギルバート:「アガットォォオオ!!!こいつらを殺せ!!アシギも逃がすな!!利き腕だけ残してればいい!それ以外の四肢は切り刻んで構わない!!いいじゃないか!!彼女がそれを望むなら!僕自身が!君の試練になってみせる!!」


アガット:「了解だぁ、おじき。」


ノエル:「本性丸出しじゃないか…!変態野郎め…!」


アガット:「『貫け』ゲイ・ボルグ…ッ!」


カラス:「うおおぉおおっ!」


0:槍を刀で受ける


カラス:(M)何だ…!?さっきのとは質感が違う…!?


アガット:「うおおおおおっ!」


0:カラスの腹を貫いた


カラス:「がはぁっ…!」


ノエル:「カラス!!」


アガット:「多少腕は上がるらしいが。残念だな。「異常器」の特質は掴めんだろうよ」


ノエル:(M)異常器…!?なんだそれ…!


ギルバート:「対・異常体執行術」


ノエル:「しまっーーー」


ギルバート:「発勁ッッ!」


ノエル:「ごぽぉっ…!」


ギルバート:「どけ…!アシギ…!こっに来い…!」


アシギ:「…。ガロ」


ガロ:「おう。」


アシギ:「やりたいこと、追加でいいか」


ガロ:「おう。」


アシギ:「自由に生きたい。」


ガロ:「はっ。だから?」


アシギ:「あいつ、ぶっ飛ばしてくれ」


ガロ:「…。」


0:ガロは荷物を捨てた


ガロ:「お前らーーーーーっ!」


ノエル:「…っ!」


カラス:「…」


ガロ:「今から!!全力で!!こいつらを!ぶっ飛ばす!!!いいなぁーーっ!」


ノエル:「…へっ。了解…!」


アガット:「ったく。元気もりもりだなぁおい。貫け、ゲイ・ボルグ!」


カラス:「春夏冬一しゅんかとういつッッ!」


アガット:「うお…!?よく捌きやがる…!」


カラス:「これくらい捌けなきゃあ、剣士は名乗れねよ。こっちも了解だ。ガロ。」


ギルバート:「さっきから、主人公気取りか、お前らは…っ!」


ノエル:「な、なんだよ!やんのかお前…!」


ギルバート:「対・異常体執行術ーーー」


ノエル:「…!」


ギルバート:「発勁ッッ!」


ジャイロ:「Adsorptionアドソープション


ギルバート:「…な…ッ!?」


ジャイロ:「持ってきたな。最高の1発。」


ギルバート:「てめぇ…っ!なんでここにいやがる…!」


0:ギルバートの顔を掴んだ


ジャイロ:「Refundリファンドッッ!!」


ギルバート:「がばぉあっっ…!!」


ノエル:「ジャイロ…!」


カラス:「は。しぶといなぁ、アロハ」


ジャイロ:「やられっぱなしってんじゃあ、傷ついちまうからな。名誉が。こっちも。異論ねえよ。相棒」


ガロ:「だっははは!よし!覚悟しろよ、ヒョロ男。槍野郎っ。」


ギルバート:「がはっ…!こほっ…。この、このこのこのこの…っ!」


ジャイロ:「こいつは俺が引き受ける。」


ノエル:「私もこっちに。ガロはアシギを逃がして!いざとなれば、遺跡ごとぶっ飛ばしていいから!」


ガロ:「おう!」


ギルバート:「ドブネズミがぁ!!」


ジャイロ:「2ラウンドだなぁ、9000発期待してるぜえクソ野郎ぉおっ!」


カラス:「巻柄まきがらっっ!」


ギルバート:「ごぽっ…!」


カラス:「そんなボロボロじゃあ、どうしようもねえだろ。手ぇ貸してやるよアロハ」


ジャイロ:「黙れ。足引っ張んじゃねえぞ。ナマクラ」


ギルバート:「くそ、くそがぁああっ!アガット!アシギを逃がすな!絶対にだ!」


アガット:「はいはい、分かってる」


ガロ:「行くぞ!アシギ!」


アシギ:「分かった!」


ガロ:「追ってきてみろよー!槍野郎!」


アシギ:「べ、べろべろばー!」


アガット:「あんだとこんにゃろ!!」


0:三人は遺跡出口へ駆け出した


ジャイロ:「さぁて。こっちはこっちの仕事をするかね」


ノエル:「三対一で負けちゃあ、話にならんからね」


カラス:「俺一人で十分だ。よく負けれるな。こんなのに」


ジャイロ:「ちょっと寝てただけだ。」


ギルバート:「調子に乗るなよ、準ギルド…!」


ノエル:「く、くるぞ…!いけーお前ら!」


カラス:「謳歌流。下段」


ギルバート:「対・異常体執行術」


カラス:「上流・花弁ッッ!」


ギルバート:「人・発勁じん・はっけいッ!」


ジャイロ:「Adsorptionアドソープション


0:場面転換

0:ギョルディア遺跡 近郊


ガロ:「よっ、と。確か、このあたりか…!」


アシギ:「はっやいなお前…!」


ガロ:「おぶってやってんだろ!」


アシギ:「分かってるけど、おえ。よいそうだ…っ。」


ガロ:「なんでどいつもこいつも人の背中で吐こうとするんだ!」


アガット:「伸びろ、ゲイ・ボルグ!!」


ガロ:「うおおっ!?あっぶねぇ!?」


アシギ:「急に止まるなっ!」


ガロ:「来やがったか。ちょうどいいや。辺りは砂漠だもんな」


アシギ:「はぁ…?」


アガット:「運動神経なら並の監察官クラスはあるな。それで準ギルドか。何者だてめぇ」


ガロ:「ガロンドール・ウォンバット。冒険家だ」


アシギ:「名前を聞いたわけじゃないと思うぞ」


アガット:「わっきはアガット・スロンファー。準ギルド。アガメムノンのリーダーだ」


アシギ:「名乗るんだ…」


ガロ:「なんだ。お前もギルドのやつか」


アガット:「ああ。ギルバートのおじきの依頼を直接受けてるが、本来はグランシャリノの依頼請負人として活動してる」


ガロ:「まーた出やがったな。グラタンノッポ」


アガット:「やべ。これ言っていいんだっけ」


アシギ:「ダメだろ多分、なんなんだこいつ…。調子狂うわ…」


アガット:「何はともあれ。お前らにはなんの恨みもねえが。依頼主がそう言ってる以上、お前を殺さなきゃならん。すまんな、ガロンドール」


ガロ:「おう。俺の依頼人もお前らぶっ飛ばすように言ってんだ。なにより、俺もお前らが気に食わねえから。文字通りぶっ飛ばすよ。わりぃな。槍野郎」


アシギ:「おいおい、行けんのか…!?お前、異常体だって言ってたけど、そんな強いのか」


ガロ:「分からん。」


アシギ:「そうだよなー。こいつってそういうやつだったなー。」


ガロ:「なんだよ、不安か」


アシギ:「不安だよ。でも、私が選んだ事だ。なんにも憂いはない」


ガロ:「だははっ。ならいいや」


アガット:「雑談なんざ、舐めてくれやがる!伸びろ!ゲイ・ボルグ!」


ガロ:「うお…!?」


0:間一髪避ける


ガロ:「なんで槍が伸びるんだぁ!?お前異常体か!?」


アガット:「わっしはただの人間だ。ただ、異常性を持っているのはこの武器。ゲイ・ボルグだよ」


ガロ:「武器…。武器に異常性があんのか!?」


アガット:「ああそうだ。秘密裏に行われている研究で、異常性は物にも宿るとされている。わっしが持っているのこの武器には、伸縮変動の異常性がある。言わば試作品だな」


ガロ:「えええっ!すげえええ!」


アシギ:「それ、言ってもいいのか…」


アガット:「やべ。」


ガロ:「くっそかっけえけど。しょうがねえよな。」


アガット:「おっと、使う気かよ。異常性」


ガロ:「ああ!そうだ…!」


アガット:「じゃあ止める!伸びろ!ゲイ・ボルグ!」


ガロ:「うわっとと!あぶねえ…!」


アガット:「曲がれ!ゲイ・ボルグ!」


ガロ:「えーーー」


0:槍はガロの足を貫いた


ガロ:「いって…っっ!」


アシギ:「ガロ!!」


ガロ:「いってぇぇえっ!なんだ、途中で、曲がりやがった…!」


アガット:「わっしも一応、戦闘のエキスパートだ。そう簡単にやられちゃあ、グランシャリノ用心棒はな乗れねえよ」


ガロ:「こんにゃろ…!」


アシギ:「ガロっ。大丈夫かっ。」


ガロ:「あー、大丈夫だっ。ああそうだ、言い忘れてたけど。俺が異常性を使ったら、絶対に伏せとけよ。あと、俺の後ろにいろ」


アシギ:「え?なんで?」


アガット:「貫け!ゲイ・ボルグ!」


ガロ:「うおっ…!っとと、マジであぶねえ!」


アガット:「曲がれ、ゲイ・ボルグ!」


ガロ:(M)くそ…!避けながらじゃあ、異常性なんていつまでも使えねえ…!


アガット:「ちょいとズレたが、貰った…!」


ガロ:「ごぽ…っ。」


0:槍はガロの腹を貫いた


ガロ:「…ってぇ…っ!」


アシギ:「ガロォ!?お腹!お腹刺さってる!」


ガロ:「ああ!クソいてぇ!」


アガット:「ちっ。一発で仕留めてぇところだが。ちょこまかしやがって」


ガロ:「でも、もうこれで槍は使えねえ…!」


アガット:「…!何歩いてきてやがる…!」


アシギ:「ちょちょちょ!槍が腹貫いてんだぞ!何動いてんだよっ。内臓に刺さってたら死ぬぞ!」


ガロ:「俺は、死なねえ…!」


アシギ:「いや死ぬから!!」


アガット:(M)ゲイ・ボルグが戻らねえ…!腹の筋肉で抑えてやがる…!


ガロ:「絶対に逃がさねえぞ、槍野郎…!!」


アガット:「離しやがれ…!」


ガロ:「GRID・BORROWグリッド・ボロウ…!」


アガット:「ちぃ…っっ!縮め!ゲイ・ボルグ!!」


アシギ:「えぇ!?そんなのアリかよ!!」


ガロ:「ごほっ、ちぇっ、槍、戻しちまった…!でもこの距離なら十分だ…!!」


アガット:「はっ。もう一度貫いて終わりだっ。この距離なら外さねえ。わっしに喧嘩を売った事、後悔させてやるからなぁ!ガロンドール!!」


ガロ:「うるせえよ。それは。俺が決めることだ…っ!」


アシギ:(N)その男が、拳を天に向かって振るった


ガロ:「FURUフル…ッッ!」


アガット:(M)なんだ。こりゃあ。なんかやべえ気がする


アシギ:(N)それは。天災と言うべきか。後に語られる、マルセイユ異常天候の発端となった、超常。


アガット:「緊急脱出だ!!伸びろ!!ゲイ・ボルグ!!」


ガロ:「BURSTバーストぉおおおっ!!」


アシギ:(M)その拳は、辺り一面の砂を巻き込み、超大規模の竜巻となって、天を割った。


アシギ:(M)第二次世界大戦から間もない近年では、恐らく、この現象を見た誰もが同じ事を思うだろう。「核爆発」でも見たかのようだ、と。


アシギ:(M)その爆風が止むまでに、体感にして、40秒。暫く経ったギョルディア遺跡周辺では、上空に巻き上げられた砂が、雨の様に地面に降り注いだと言う。


ガロ:「はぁ…っ。はぁ…。いってて…。」


アシギ:「…。すご…。」


ガロ:「依頼通り。ぶっ飛ばしたぞ。アシギ」


アシギ:「…。はは、なんか。悩んでた事、馬鹿らしく感じてきた」


ガロ:「え?何でだよ」


アシギ:「…。いいや、現実は小説よりなんちゃらってやつだ…。」


ガロ:「ほぉ?」


アシギ:「いや、何はともあれ…。依頼達成、確かに承った。ありがとうな。ガロ」


ガロ:「だっははは!おう!」


アシギ:「…あ。でも、さっきの人。死んだよな。これ。確実に」


ガロ:「いーや。依頼内容はぶっ飛ばすだったからな。殺さねえように調整した。筈だぞ」


アシギ:「え?」


0:数メートル先に倒れているアガットを見つける


アガット:「…。おお。なんつーか。とんでもねえな…。おまえ」


ガロ:「ほらな。」


アシギ:「えぇっ。やばいって、また戦うのか…!?」


アガット:「冗談じゃない。ゲイ・ボルグも大破損した。修復を待つ。」


ガロ:「なんだよ。勝手に治るのか。槍」


アガット:「異常性の特性だ。まるでの人体と同じように作用する。まあ、この破損が人体で言う死亡だった場合はもう修復されねえが。」


ガロ:「そっか。」


アシギ:「え。え。なんでそんなサッパリしてんのお前ら」


ガロ:「え?だって槍野郎の目的はヒョロ男の依頼を達成することだろ?」


アガット:「ああ…。こりゃあ。参ったな。確かにそうだ。わっしの目的はあくまでギルバートから金をふんだくるところが最終で、命が危ないとなりゃあ御免こうむる。手を引くさ」


ジャイロ:「お。やっぱりこっちも終わってんな。」


ガロ:「お。」


ノエル:「ガロっ!アシギさん、よかった、どっちも無事で」


カラス:「いや。重症だろ。これは」


ガロ:「よかったー。お前らも無事だったか」


ジャイロ:「まあな。槍の方も、ちゃんとぶっ倒れてんな。戦意はねぇんだろうな」


ガロ:「おう。ないってよ」


カラス:「しかし、相変わらず馬鹿げた異常性だな。」


アシギ:「あ、あの。ギルバートさんは…」


ノエル:「ん。ああ、ここにいるよ」


0:拘束されたギルバート


ギルバート:「がはっ…。ごぼ…。」


ガロ:「ひぇ〜。ぼこぼこじゃん。やり過ぎじゃね?」


ジャイロ:「俺、こいつに不意打ちで銃撃たれてっから。それに比べりゃ優しいだろ」


ガロ:「そっか。ならしょうがねえ。」


アシギ:「…。」


ギルバート:「く、そ…っ。アガット…!なに、してる…!さっ、さと、こいつらを…!殺せ…!!」


アガット:「あー。やめだ。おじき」


ギルバート:「はぁ…!?」


アガット:「わっしの異常器も破損した。依頼失敗だよ。こっからもう一戦やりあってもいいが。そん時ぁ、こっちも命懸けだ。国家予算級の支払いを要求するぜ」


ギルバート:「ふざっ…けるな…!今まで、どれだけの金をお前につぎ込んだと、おもってる…!」


アガット:「金の切れ目が縁の切れ目だな。わっしは退く。あとは好きにしな」


ギルバート:「アガット…!貴様…!」


アガット:「それじゃあ。捕まるのも嫌なんで。わっしはここいらで退散する」


ガロ:「おう。」


ノエル:「え。逃がすのか…!?」


ジャイロ:「こっちも割とボロボロだ。それに、争っても一円にもならねぇんじゃあ。骨折り損だろうよ」


カラス:「戦意のない人間に矛を向けるのは恥だしな。」


ノエル:「お前らのそういう所まじで…」


ガロ:「だははっ。そういうわけだ。お前とは、またどっかで合いそうな気がする」


アガット:「ああ。奇遇だな。わっしもだよ。そんじゃあな。ガロンドールとその一行。おじきも。」


ギルバート:「アガットォ…!!!」


0:アガットはその場から立ち去った


ガロ:「…。さて」


ジャイロ:「ああ、まずは、こいつだな」


カラス:「あー。眠い。」


ノエル:「どうする。アシギさん」


アシギ:「…。」


ギルバート:「アシギ、くん。僕は、本当に…。きみを…」


アシギ:「分かってます。ギルバートさんは、悪意を持って私に接してきたわけじゃないんだと。かれこれ数年、一緒に仕事をしてきましたから。…正直、未だに実感が湧きません。異常体も、それを取り巻く殺し合いというのも、私には縁遠い存在でした。日常の中にあって、すごく遠いところにある物のような気がしてました。ですので、ありがとうございます。あなたのおかげで、現実って面白いんだな、と。思いました。」


ギルバート:「…。異常性は、超常的な力を、なんの原因もなく引き起こせる。その力に頼れば、君は今のような悩みに捕らわれることはなくなる。それでも、君は現実を生きるのかい」


アシギ:「はい。その通りです。私の表現は、私が作りたい」


ギルバート:「評価と表現は、残酷なまでに乖離する。それはきっと異常性や天変地異よりも恐ろしい。現実という名の怪物に、君は立ち向かうと。そう言うのかい」


アシギ:「ギルバートさんは、私が。アシギが、その怪物に負けると。そう思いますか」


ギルバート:「負けていたじゃないか。」


アシギ:「ギルバートさんの目に映る私は、きっと。すごく。すごーーく弱かったんだと。そう思うんです。だから、ギルバートさんなりに、私を助けようとしてくれたんですよね。」


ギルバート:「…っ。」


アシギ:「見てください。私、やりたいこと。こんなにあるんです。どれも、小説書いてるだけじゃあ、出来ないことです。私の評価や世界は、表現の中だけじゃない。でも、やっぱり小説書くのが、一番好きなのは変わりません。だから、物書きとして、人生、やりたいこと色々やってみようと思います。」


ギルバート:「…そうか…。そうかい…。」


アシギ:「はい。そうです」


ギルバート:「それで君は、小説家として。もっと輝けるのかい…?」


アシギ:「…。どうでしょう。分かりません。でも、私がやりたいようにやって、書きたいように書いた小説。ギルバートさんは読みたくないですか」


ギルバート:「…。そんなまさか。僕は、君のファンだよ。どんな作品であれ。凄く。凄く読んでみたい。」


アシギ:「…。日常って。偶然の産物だと思うんです。」


ギルバート:(M)あの日、暗闇の中で。一筋の光を見出した。


アシギ:「ただ、人の縁だけは。必然だと。そう思います。」


ギルバート:(M)その光は、とても強く光沢を持っているかのように見えた。近付いてみると、それは余りにも細く、今にも折れそうな光だった。


アシギ:「貴方が担当編集になった事も。ここで今日、皆と知り合ったのも。私に与えられた必要な「試練」だったんだと。そう思えます」


ギルバート:(M)五年。たった、五年。君と仕事をした。僕の中では短かったけれど。きっと、ちゃんと、長い時を。一緒に過ごしたんだろうな。


アシギ:「私はもう。一人で歩けます」


ギルバート:(M)ああ。こんなに。大きくなってしまったのか。


0:場面転換


ガロ:(M)ガロンドール冒険譚。8章


ガロ:(M)無事、依頼達成!遺跡の事はまだまだ分からないことだらけだったけど、沢山面白いものが見れた!未知のことがあるっていうのは、やっぱりどうしようもなくワクワクする!


ガロ:(M)武器を異常性に宿した、面白い奴とも出会った。異常器と呼んでいたが、その詳細もまだまだ不明な事だらけである


0:フランス。リベール


ガロ:「おぉーっ。帰ってきたな、リベール!」


ジャイロ:「言ったって二駅分の旅行だったがな」


アシギ:「それじゃあ、私はここで」


ガロ:「おう!またなぁ!アシギ!」


アシギ:「うん。また」


ジャイロ:「次の作品、楽しみにしてるぜ」


アシギ:「はは。いいや、私の書きたい時、書きたいことを書くことにするよ。だから、期待には答えられないや」


ガロ:「だっはは!そりゃいいっ。」


ジャイロ:「おう。そうか。いい女だ」


ノエル:「でも、結局遺跡の事は分からないことばっかだったな」


ガロ:「だからロマンなんだろーっ。」


ジャイロ:「そんなもんかね」


アシギ:「そんなもんだよ。正解を知ってる人がいない以上、あとは私たちが想像を膨らませる場所でしかないんだから」


ガロ:「おっ。話がわかるようになってきたな」


アシギ:「うっさい。文筆家もどき」


ノエル:「まあ。人間を強制的に異常体にする、だなんて。良くよく考えれば御伽噺もいいとこだ。神話の世界観だよ」


ジャイロ:「案外あるかもしれねえから、面白いところだがよ」


ノエル:「そうかぁ?」


ガロ:「んだんだ。そんじゃ、俺らはギルド本部に戻るよ」


アシギ:「うん。報酬、たんまり貰いなよ」


ノエル:「そうする!まじで!!」


ジャイロ:「そんじゃあな、アシギ」


ノエル:「またねー!」


ガロ:「またなぁーっ!」


アシギ:「…。皆!」


ガロ:「お?」


アシギ:「ありがとう!」


ガロ:「…。だっはは!おう!」


0:やりたいことリストを握った


アシギ:「…。よし。」


ガロ:(M)フランス1の小説家、アシギとの出会いは!なんやかんやで楽しいものだった!小説家には小説家の悩みが沢山あったらしいが、正直どうでもいい!


ガロ:(M)今後は楽しく、自分が好きな物を、好きな時に書くようにするらしい!俺はそっちの方が好きだなっ。


ガロ:(M)そして、なんか色々企んでたギルバートは、中央政府に身柄を引渡すことになった


0:場面転換

0:中央政府駐屯地


中央職員:「ギルバート・ハインツ。確かに、身柄を引き取りました。」


アシギ:「…ここでお別れですね。ギルバートさん」


ギルバート:「ああ。そうだね。アシギくん」


アシギ:「…」


中央職員:「さあ、行くぞ」


ギルバート:「…。アシギくん。」


アシギ:「…はい」


ギルバート:「初めて僕が担当編集として君に会った時。言っていたね。どうせすぐに降りる、と。」


アシギ:「はい。」


ギルバート:「…。僕は。きっといい編集者ではなかったんだと思う。君の支えになる事から、何時しか君の意志を無視して、僕の理想を押し付るようになっていた。それが最上であると思っていた。いいや、それは今でも思っている。」


アシギ:「はい。」


ギルバート:「それでも僕は。君と仕事をするのが。君の書いた小説を誰より最初に読めるのが。本当に、本当に幸せだったよ」


アシギ:「…っ。」


中央職員:「定刻だ。レオール監獄へ移送する。いいか」


ギルバート:「ああ。構わない」


アシギ:「ギルバートさん!!」


ギルバート:「…。」


アシギ:「色々、迷惑かけましたっ。ワガママも言いましたっ。作品の出来が悪い時とか、何も文章が思いつかない時は、当たったりもしました…っ。私も、きっといい小説家じゃなかったんだと、思います…!」


ギルバート:「…」


アシギ:「でも、私も!!ギルバートさんと仕事するの!!嫌いじゃなかったですよっ。」


中央職員:「…。もういいか。時間が押している」


ギルバート:「…。ああ。もう、いい。これ以上ない。これ以上、ないよ。」


0:場面転換

0:ギルド本部


ジャイロ:「はぁあああ!?」


ノエル:「ちょちょちょ!ちょっとちょっと!どういう事ですか!?」


受付:「ああ、えっと。それがですね…。今回の依頼主が捕まってしまったので…。依頼は、未達成という扱いになります…。支払い主もいませんので…」


ノエル:「えぇ!?報酬って、ギルバート持ちだったのかよぉ!?」


ジャイロ:「そりゃあないぜ!?俺ら結構ボロボロなんだが!!」


ノエル:「まったくだ!!!ケチー!」


ジャイロ:「ばかー!」


ガロ:「だはははっ!まぁいいじゃねぇかっ。遺跡探索、楽しかったしなぁー」


ジャイロ:「じゃあてめぇは今日の晩飯どうすっか、責任取れんのかぁ!!」


ノエル:「贅沢出来ると思っていいホテル予約しちまってんだよこっちは!!」


ジャイロ:「まーた馬小屋で寝るのか!俺らは!」


ガロ:「いいじゃねぇかぁー。なあ?」


カラス:「あ?俺は別になんでもいい」


ジャイロ:「てめぇはそうだろうなぁ!!」


受付:「すみません…。あ、でも!しっかり支援点数は付けますので!」


ジャイロ:「支援点数じゃあ飯は食えねえんだよなぁー!」


ガロ:「別にいいじゃん。また別の依頼で適当に日銭稼ごうぜ」


ノエル:「くっそぉー!!結局こうなんのかよぉ…!!」


0:場面転換

0:とあるマンションの一室


アシギ:(M)創作者は。常に表現の奴隷である。


アシギ:(M)誰に強制されているわけでもなく。ただただ、脳内に広がる光景を書き起す。その連続が、何れ物語を紡ぐ。


アシギ:(M)次第に、それは現実という名の怪物が飲み込んで行った。


アシギ:(M)無作為に散りばめられた表現は、型取りをされて綺麗な形となり。その原型も、今となっては、もう分からない。


アシギ:(M)私が立っているこの足場には、数多の表現の死体が散乱している。


アシギ:(M)それでも。現実という名の怪物に、立ち向かうには。それも必要な事だ。あれらは死体ではなく、軌跡だ。私が辿ってきた、道なんだ。表現を足蹴にして、踏み台にして、犠牲にしてでも。


アシギ:(M)結局私は、表現に頭を抱える人生を送る。いいや、送りたいんだろう。


アシギ:(M)どうせ一回きりの人生だ。人が何かの奴隷であるというのなら。


0:アシギはやりたいことリストを引き出しにしまった


アシギ:「私は。表現の奴隷でありたい。」


アシギ:(M)1991年。アシギ・ロムシュート。自叙伝より。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ