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異能力者達の夜明け  作者: ゆーろ
監視者達の午後
PR
29/29

監視者達の午後 承×1「信天翁も夢を見る」

0:登場人物(配役)


アルル:女。監察課。三等監察官。

シーカー:男。監察課。準一等監察官。

バタップ:男。監察課。ステージ5異常体。

カーズ:男。南エリアヘッド「バンカー」副リーダー。異常体。

ドルムンク:男。南エリアヘッド「バンカー」幹部。異常体。

ヨハン:女。南エリアヘッド「バンカー」幹部。異常体。

ロザリオ:女。北エリアヘッド「アルデンヌ」投手。

ティダスタ:女。北エリアヘッド「アルデンヌ」幹部。

エンネア:女。北エリアヘッド「アルデンヌ」幹部。


0:兼役

バイオレット:女。監察課。管理官。※ロザリオ役が兼役。

ルーベン:男。※バタップ役が兼役。

アーモンド:女。喫茶コクリコ店主※ヨハン役が兼役。

マオ:女。※ティダスタ役が兼役。


:


ロザリオ:(M)1992年1月13日


0:ヨハンは重症のままで地面に転がっている。


ヨハン:……こちら、ヨハン。聞こえ、ますか。


0:壊れた通信機に向かって話しかけている


ヨハン:…聞こえてると思って、話しますね。


ロザリオ:(M)南エリアヘッド「バンカー」を守る外壁、通称ショーケースの破壊を受け、北エリアヘッド「アルデンヌ」は南エリアへ侵攻を開始し、第二南北抗争が勃発。


ヨハン:アルデンヌの特攻部隊は、撤退。虫が毒を入れているので、明日の侵攻は、小規模作戦になると思います。


ロザリオ:(M)幾度に渡るアルデンヌの侵攻に、防戦一方のバンカーは、日に日に力を落としていく。


ヨハン:第8分隊は、私以外、皆、死にました。ですが、前線を第2コロニーまで押し戻しました。皆、よく頑張ってくれました。


0:言葉が溢れる


ヨハン:……私も。頑張りました。


ヨハン:皆は、今、どうしてますか。……ご飯、食べましたか。もう、寝てますか。……寝れてると、いいな。


0:目が閉じていく


ヨハン:……皆に、会いたいなぁ…


ロザリオ:(M)第二南北抗争の開戦から凡そ半月が経過し、両陣営合わせ、死傷者は820名を超え、消耗戦へと突入していた。


0:場面転換

0:バグテリア-ブルーストリート「特務監察課」


ヨハン:(M)死ねば、死んだ仲間に会える。そう信じて、それを頼りに、地獄の日々を生きてきた。次に目を覚ましたら、あの世とやらで、死んだ彼らと酒を飲むのだ、と。そう思ってきた……しかし、目を覚ますと。ただの、現実だった。


バタップ:よお。


ヨハン:……お前は…


バタップ:中央政府バグテリア支部所の執行官だ。


ヨハン:…そうか。ならここはあの世、では無さそうだな。


バタップ:ああ、違う。ここはブルーストリート。監察課の独房だ。


0:ヨハンは独房の中で拘束されている。バタップはパイプ椅子を反対に向けて座っている


バタップ:散歩してたら、死にかけのお前を見つけた。こっちも色々あって、上から続報が期待されてるんだが、肝心の働き者が傷心休暇中でな。何でもいいから報告になる成果を上げろ、とうちの管理官が……


ヨハン:お前達の事情などどうでもいい。


バタップ:…まあ、そりゃそうか。


ヨハン:拷問でもする気か?断っておくが、バンカーの事は何一つ口を割る気はない。


バタップ:わかってる。バンカー幹部を一人拘束し、現在尋問中っていうサボりの建前が欲しいだけさ。変に手を出して、洛南の番犬共を刺激したくもねえからな。


ヨハン:……賢明だな。


0:ヨハンはぐったりと項垂れた。


ヨハン:また、死にぞこなったか。


バタップ:死にたがりばっかりだな、どいつもこいつも。


ヨハン:なに?


バタップ:お前らバンカーに散々迷惑かけたうちの阿呆も今、絶賛死にたがってるところだ。


ヨハン:……


0:ヨハンが目を開いた


ヨハン:アルル・クロフォードか?


バタップ:おお、バンカー幹部に名前覚えてもらってるんだアイツ。


ヨハン:なぜ死にたがっている。舐めてるのか。


バタップ:なんで怒ってんの?


ヨハン:あいつは…仲間を、死に追いやった張本人だからだ。何があった。


バタップ:ああ、ジャッカルだったか?そうそう、その妹が、自害したんだよ。ちょうどここの、真上の部屋で。


0:バタップは上を指さした


バタップ:首括って、死んだ。


ヨハン:……マオが……?


バタップ:そう。そいつ。


0:ヨハンは拳を強く握った。


ヨハン:……アルル・クロフォード…。お前は、何をしているんだ。ジャッカルを殺して、マオまで…。


バタップ:本人も絶賛、それで苦しんでる最中さ。


0:夢


マオ:……ねえ、アルル。


アルル:はい?


マオ:……なんでもない。


アルル:(M)あの時、ちゃんと聞いてれば、何か変わったのかな。


マオ:なんで、兄さんを殺したの。


アルル:(M)なんで、なんだろう。なんでこんなに、駄目なんだろう、私って。


マオ:なんで、助けたの。


アルル:(M)中途半端に手を差し出して、肝心なことは何も出来なかったな。


マオ:なんで、助けてくれたなかったの。


0:バグテリア

0:特務監察課

0:目が覚める。


アルル:____夢か。


0:アルルは椅子に縛りつけられている


アルル:なんで、まだ生きてんの。私。


:


ロザリオ:『信天翁も夢を見る』


:


アルル:何日、経ったんだろ。


シーカー:12日だ。目ぇ覚めたみたいだな、新人。


アルル:その声は、シーカーさんですか。


0:アルルは身動きを取ろうとする、取れない


アルル:なんですか、これ。


シーカー:見た通りだ、拘束してる。


アルル:何故ですか。


シーカー:目を離すと自害しようとするからだ。


アルル:目隠しまでする必要、ありますか


シーカー:ガラス、鏡、水面、何かに反射してテメェの顔が見える度に、テメェが発狂して自害を試みるからだ。


アルル:そうですか。もう問題ありません。拘束も、目隠しも取ってください。


シーカー:問題ないようには見えねえな。


アルル:拘束を解いてください。


シーカー:断る。


アルル:お願いします


シーカー:断る。


アルル:……何なんですか。何で私なんかに構うんですか。シーカーさん、私の事嫌いだったじゃないですか。


シーカー:配属先の部下が自害して始末書書かされんのは俺達なんだよ。嫌いなことと面倒事は別だ。


アルル:……。お願いします。


0:アルルは動ける範囲で頭を下げた


アルル:お願いします、殺してください。


シーカー:何でそうなるかね……。


アルル:もう、生きていたくないんです。生きてたらまた私、余計なことするじゃないですか。誰かに迷惑ばっかりかけて、人死なせて、恨まれて、嫌われて。


シーカー:じゃあ退職してから死ね。


アルル:じゃあ退職届を書くので拘束を外してください。


シーカー:外したら発狂して自害するだろうが。


アルル:しません。


シーカー:その信用がお前にあると思ってんのか。


アルル:じゃあどうすればいいんですか!!自分の顔みて発狂するから駄目って言うなら、目隠ししたまま退職届書きます!!それもダメなら口で書きます!!


シーカー:……。


アルル:……何か、言ってくださいよ。


シーカー:お前がした事は、そんなに重いことか?


アルル:……はい……?


シーカー:お前がした事は、そんなに重いことなのか?


アルル:聞こえなかったわけじゃないです。


シーカー:じゃあ答えろよ。


アルル:耳を疑ってるんです。何を聞いてるか、分かってるんですか?


シーカー:分かってるよ。


アルル:人を死なせてしまいました。マオさんとの約束を破って、ジャッカルさんを死なせて、ショーケースを破壊して、何百人って人が死ぬきっかけを作って


シーカー:それはお前がやろうとしてしたことなのかよ。


アルル:違いますよ。……違いますよ、誰が、誰がしたくて、あんなこと。


シーカー:じゃあいいじゃねえか。失敗じゃねえか、ただの失敗だ。ジャッカルはバンカー構成員だから執行対象、その妹は自害、ショーケースの破壊はガロンドールとやらがやったことだ。酒飲んで忘れちまえよ。


アルル:そんな軽く考えられないんです…っ!貴方みたいな無神経で無責任な人ならそれでいいかもしれませんね!でも私は違うんです!


シーカー:お前は責任感があって繊細だから無理だってか?


アルル:違いますよ!何も出来ないくせに、一丁前に責任ばっかり背負おうとして、そのせいでもっと多くの人に迷惑ばっかりかけて、馬鹿で、間抜けな、何も出来ない、クズなんです……っ。


シーカー:それの何が悪いの?


アルル:話、聞いてましたか?


シーカー:聞いてた。でもお前、誰かに迷惑かけたか?


アルル:……は???


0:アルルはついに暴れ出す


アルル:迷惑かけたじゃないですか!!それ全部話しましたよね!?その上でその質問ですか!?いじめてるんですか!?それとも、また馬鹿だって言うんですか!誰も彼も、私に甘いとか、本質わかってないとか、この街に向いてる向いてないとか、そういうことばっかり言って、誰も私の話なんて聞いてくれないじゃないですか!


0:その場にはアルルの息だけが残る


シーカー:聞いてんじゃん。


アルル:聞いてないです。もう帰ってください。


シーカー:……。


0:シーカーは溜息をついて、煙草に火をつける


シーカー:お前が迷惑かけたっていう「誰か」は、誰だ?ダウンポット兄妹か?バンカーか?アルデンヌか?


アルル:全部です!!


シーカー:お前は、どこの誰だ。


0:シーカーはアルルの髪を掴んだ


シーカー:中央政府監察局。バグテリア監察課の、アルル・クロフォードだよな。


アルル:……


シーカー:お前が、中央政府の人間としてやるべき事は、バグテリアの、犯罪者共に、笑って仲良く平和に過ごしてもらうことなのか?


アルル:………


シーカー:どうなんだよ。お前の話聞いた上で返してんだぞ。


アルル:……違います。


シーカー:じゃあ切り分けろ。お前ができなかったことと、お前がやるべきことは、別だった。


アルル:……そんなの、わかって…


シーカー:分かってない。


アルル:でも、監察課でもお荷物、みんなに嫌われて、報告書とか始末書ばっかり増やして、何の役にも立ててないです。


シーカー:お前はバンカー構成員の大規模な執行に貢献した。例えそれがバグテリア内での抗争だったとしても、成果は成果だ。お前の報告を受けた本庁は、監察課への追加予算を決定した。俺らが泡吹いてひっくり返るような額を、お前が引っ張り出したんだ。


0:シーカーは乱暴にアルルの頭を撫でる


シーカー:お前がやったんだろうが。何もしてねえわけじゃねえだろうが。お前が俺の酒代、引っ張り出したんだろうが。全部が全部余計じゃねえ。


0:アルルは泣いた


アルル:……シーカーさんのお酒の為にっ、頑張ったんじゃないです…っ


シーカー:知ってる。でも使う。他人は自分の思った通りには動かないんだ。


アルル:意味わかんない屁理屈ですっ。正論ぶらないでくださいっ。


シーカー:正論だろうが。お前が人を変えようとして、ここの住民は、変わったか?


アルル:変わりませんでしたっ、変わってくれませんでしたっ、私の話なんて何も聞いてくれませんでしたっ。


シーカー:ほらな


アルル:じゃあどうしたらっ、私の話を聞いてくれるんですかっ。なんて言えば、皆戦うのを止めてくれたんですかっ。なんて言えば、ジャッカルさんはあの時、一緒に帰ってきてくれたんですかっ。なんて…っ、なんて言ったら、マオさんは、死ななかったんでか……っ。


シーカー:分からん。


0:シーカーはアルルの目隠しを外した


シーカー:そんな都合のいいもん、誰も分からん。


アルル:(M)目隠し、とられちゃった。明るい、眩しい、シーカーさんの顔が見える、嫌だ、怖い、見るの怖い、見られるの怖い……。あ、シーカーさんの目、私映って……


0:アルルは、シーカーの瞳に映る自分を見て、吐きそうになる。


アルル:……っ…。


シーカー:見るな。俺を見ろ。


0:シーカーはアルルの肩に強く手を置いた


シーカー:他人を変えるには、自分が変わるしかねえんだよ。この街で意見を通したいなら、どうするって言われた?


アルル:…淘汰、するしか


シーカー:それが嫌なんだろ


アルル:嫌です


シーカー:じゃあ、もっと圧倒的な人間が、もっと強い方法で、全く別の理屈を示すしかねえじゃねえか。


アルル:でも私、弱いじゃないですか


シーカー:それでいいなら退職届出して死ね。それも嫌だって言うなら、お前は、何がしたいんだよ。お人好しのお前は、今、何がしたいんだ。


アルル:……わかんないです。


0:アルルは俯いた


アルル:分かんないです…っ。お父さんならどうするか、とか。考えた時もありました、でも、私、お父さんみたいに強くないし、頭も良くないし、気配りもできないっ。


シーカー:…。


アルル:…父の代わりになりたいとも思いました。父がここで、何をしようとして、何がしたかったのか、知りたかったんです。


シーカー:俺も知りたいよ。


アルル:…ぇ…


シーカー:俺も、ガウディさんが、どうしてここに来たのか、知りたかった。俺やバイオレットみたいに左遷されたわけでもねえ、望んでこの地獄に来たあの人が、何を思ってたのか。知りたい。でも分からん。俺は、あの人みたいに強くもねえし、正義感もないしだらしない。


アルル:はい


シーカー:即答すんな。…まぁだから、お前にもわからなくて当然じゃないのか。ガウディさんのようにやれなくていいから、その時々の自分の手が届く、ギリギリをやってくしかねえんだよ。そういうもんなんだよ。


アルル:……


シーカー:なんだよその顔。


アルル:先生みたいなこと言うな、と思って


シーカー:……。まぁ、昔は…教官職についてたしな。


アルル:シーカーさんが!?


シーカー:お前本当に失礼だな。


アルル:まだ何も言ってません!


シーカー:言ったような顔しただろうが!


アルル:でも言ってません!


シーカー:……は。調子戻ったじゃねえか。


アルル:…あ…。いや、これは…その


シーカー:無理に自分をいじめんな。12日間自罰したなら、そろそろ選ぶために生きていい。俺が許す。


アルル:…いらないです、シーカーさんの許可


シーカー:俺でも何でも許可がねえと、苦しい顔しなくちゃって思うだろうがお前


アルル:……なんなんですか。普段あんなに、興味無さそうに、意地悪なこと言うのに……


シーカー:……。俺よりまともな奴が、俺より苦しい顔すしてると、その度に俺が余計クズに見えるんだよ。


アルル:……


0:アルルはようやく普通に笑った


アルル:なんですかそれ。自分勝手


シーカー:生き抜く術だ。


アルル:…生き抜く、術


0:シーカーはアルルの顔を見て、息を吐き、拘束具を解く


アルル:え。いいんですか……


シーカー:ああ、俺の独断で外した、とバイオレットにはそう伝える。


アルル:……シーカーさん


シーカー:感謝するなら酒買ってこい。


アルル:……もう。わかりました


0:アルルは自分の腕を見た。


アルル:(M)酷い腕だな…。掻きむしった傷とか、縄を解こうとした擦過傷(さっかしょう)とか。噛んだ跡まである。


0:アルルは唇を噛んだ


アルル:(M)何も、何一つ自分のことが、許せないままだけど、それでも……


シーカー:とりあえずお前、まずは風呂に……


アルル:シーカーさんっ。


シーカー:うおっ、なんだよ。


アルル:私に、戦い方を、教えくれませんかっ。戦い方だけじゃなくて、考え方とか、交渉の仕方とか、図太さとか。


シーカー:最後なんか失礼だな


アルル:私、全部足りないんです。何にもないんです。だから、お願いします。


0:アルルは頭を下げた。


アルル:助けてください。


シーカー:……いや…あ〜〜…。


アルル:私は、この街の人に、正しく罰を受けて欲しいです。


シーカー:その為に、力が必要だって?


アルル:奪ったり殺したり、それだけの連鎖を止めます。もっと違うやり方があるんだよって、今度こそ、言いたいんです。


シーカー:お前はそれに失敗して、今こうなってるんだろ。


アルル:失敗しました。でも諦め、つきませんでした。考えてみました、寄り添ってもみました、それでもやっぱり、この街の掟ってやつが、私には、馬鹿馬鹿しくて、耐えられないくらい、悲しいことだと思ってしまうんです。


シーカー:……。


アルル:だって、死ぬまで地獄で、死んでも地獄なんて、あんまりじゃないですか。この街の冷たい掟が、嫌いです。壊したいです。そうすれば、監察課の為にも、なりますよね


シーカー:……まぁ…。方法によってはだが…


0:頭をかいた


シーカー:まずは風呂入れお前。くせぇ。


アルル:……え


0:12日間風呂キャンに気付く


アルル:す、すすす、すみません…っ!!


シーカー:俺もちょっと考える。


アルル:____っ!考えてくれるんですか!


シーカー:考えるだけだ


アルル:じゅ、十分です!お風呂入ってきます!


0:アルルは扉に走るが、すぐに顔だけ出す


アルル:先生って呼んでいいですか!?


シーカー:考えるっつってんだろテメーが話聞けや!!風呂入れ!!


アルル:はい!


0:アルルは去った。


シーカー:……どの口が、だな。


0:ヌッとバタップが現れる。


バタップ:その口だろ。


シーカー:うぉあ!?いつから隠れてやがったてめぇ!


バタップ:「お前がした事は、そんなに重いことなのか」ってところから


シーカー:ほぼ全部だな、死んでいい?


バタップ:就任1分で先生死んだら生徒泣くぜ??


シーカー:まだ就任してねえんだよ


バタップ:はいはい。


0:バタップはアルルが座っていた椅子に座る


バタップ:で?やんの?先生


シーカー:そこに戻んの?


バタップ:いやまじな話よ。俺もお前が教官してたなんて知らなかったし。一般教師?バイオレットは知ってんの?


シーカー:アーヘン教師だった。バイオレットは、多分知ってんじゃねえか。


バタップ:アーヘンか。なら異常体の俺には無関係な話だわな。で?どうすんの?クロフォード生徒にすんの?


シーカー:……しない。


バタップ:本当にぃ???


シーカー:うるっせぇなお前本当に!


バタップ:いいじゃん別に、酒飲んで寝るだけ、お前暇じゃんかよ


シーカー:お前も大差ねえだろうが。じゃあお前がやれよ。


バタップ:俺、執行術使えねえもん。異常体が人間に教えることなに???異常体になってからの身の振り方??


シーカー:お前本当に口減らねえな


バタップ:減らしたら気まづい癖に


シーカー:……。(立ち上がる)


バタップ:え?どこ行くの?逃げんの?


シーカー:黙れ。


0:シーカーは1階に降りた。

0:バイオレットがパソコンを叩いている。


シーカー:(M)階段を降りる。一段降りる度に、何かが胸元を締め付けるような気がする。なんか、なんというか……何かが、止めてた何かが、動き出しちまうような感覚。


バイオレット:……。


シーカー:…よお、バイオレット。


バイオレット:ようやく復活したのか、アルル・クロフォードは。


シーカー:…あ、ああ。まぁ、今すぐ死のうとするような馬鹿はやらねえと思う。


バイオレット:そうか。


シーカー:……。


バイオレット:何の用だ。突っ立ってジロジロと。


シーカー:……ガウディさんって、なんでここ来たと思う?


バイオレット:……は?


シーカー:いや、その。なんだ。ガウディさんって、ほら。強かっただろ。優秀だったし、評議にも気に入られてた。


バイオレット:……


シーカー:そんな人が、どうしてこんな所に来たんだろうなって思って。


バイオレット:私が知るか。


シーカー:そりゃあ、うん。そうだろうけどよ。……うん。


バイオレット:何なんだお前は。今日のお前はいつにも増して気色が悪い。気色の悪い顔で、私の顔色を伺って、言葉を選んで、ストレスだ。ストレスで胃に穴が開きそうだ。私が健康を害して倒れる前に話すか、出ていくか、選べ。


シーカー:厳し過ぎんだろ。


バイオレット:妥当なコミュニケーションだと思うが?


シーカー:……はいはい、そうだな。そうだよ。妥当だな、こんな飲んだくれの腐れ監察官には、妥当だよな


バイオレット:ああ、全くもってその通りだ。分かっているなら早く退職か殉職するといい。


シーカー:……


0:シーカーの額に青筋が浮かぶ


シーカー:あー、はいはい。そうかい。そうだな!たしかにな!でもタダで死んでやるのも、安い退職金ぶら下げて辞職すんのも御免こうむるからよ?情報局長のお姉様と比肩され続ける哀れなバイオレットちゃんの為にも、ちょっと仕事することにしたんだわ。


0:バイオレットの額に青筋が浮かぶ


バイオレット:お前が?今更働いたところで何が出来るんだ??薄情、怠惰、浅慮、優柔不断、極めつけはアルコール依存性のお前に仕事??笑わせるな、経費精算ひとつ任せられん。


シーカー:はぁぁ〜〜???出来るわそんくらい、寝ててもできるわ


バイオレット:急性アルコール中毒による昏睡の間違いだろう


シーカー:はいもう決めた、泣かす。絶対泣かす。新人が!


バイオレット:なんだそれは。お前じゃないのか


シーカー:俺があいつを育てるからだよ!!


バイオレット:は??


0:一時間後


バタップ:(M)一時間後。面白いからと着いて行ってみれば、風呂上がりに呼び出されるクロフォードと、顔を真っ赤にしたままのシーカーが中庭に居た。


シーカー:遅いぞ新人。


アルル:え、あ、すみませんっ


シーカー:やるぞ、訓練。


アルル:えっ


シーカー:2回言わせんな!気が変わらねえうちにやるっつってんだよ!


バタップ:ちょろ。


シーカー:死ね。


アルル:〜〜っ…!あ、ありがとうございます…!やります、やります…!私、ちゃんとやります!よろしくお願いします、先生!


バタップ:よっ!先生!


シーカー:先生はやめろ、マジでやめろ。名前のままでいい。


アルル:わかりました、ではよろしくお願いします、シーカーさん…!


シーカー:で、訓練つけてやる上で条件がある。


アルル:はい!


シーカー:俺がいいと言うまで、南北抗争に首突っ込むな。


アルル:……


シーカー:それが守れねえなら、訓練はしない。


アルル:…理由、を。


シーカー:今首を突っ込んでも二の轍だからだ。次は生きて帰れる保証もない。犬死されて時間の無駄になるのはゴメンだ。


アルル:……。


0:顔が嫌だと言っている


シーカー:頑固もんが…。おいバタップ、例のあいつ、まだ独房に居るよな


バタップ:いるぜ。


アルル:例のあいつ?


バタップ:監察課の独房にヨハン・シャオロンが居るんだよ。あのほら、バンカー幹部の、虫を使う異常体。


アルル:え…、え?な、なんで教えてくれなかったんですか!


バタップ:お前が傷心休暇してたからだろうが。抗争中、死に損なったヨハン・シャオロンを、尋問する形で身柄を拘束した。今も居るよ、すぐそこに。


アルル:…。あの、シーカーさん。


シーカー:ヨハンに会うのは構わねえよ。それで一旦気が晴れるなら好きにしろ。


アルル:……


シーカー:なに?ビビってんの?


アルル:……はい。怖いです。謝っても、自分がスッキリするだけだって、この前、カーズに指摘されましたから。今も、きっと、自分が少しでも楽になりたくて、話したいと思ってます。最低です、私。


0:込み上げる吐き気を抑えながら


アルル:でも、話します。


0:場面転換

0:南エリア-バンカー第2コロニー


カーズ:(M)死体。死体。死体。死体。瓦礫なのか、骨なのか、布なのか、皮膚なのか、血液なのか、ガソリンなのか、最早分からない。自分が託され、自分が守れなかったものを、ありありと見せ付けられている。


ドルムンク:カーズさん。


カーズ:あったか。


ドルムンク:はい、ヨハンの通信機です。血痕もある、もう乾いちまってるが。


カーズ:……第8分隊は、全滅か。


0:壊れた通信機を拾った。


カーズ:ヨハンの死体は、アルデンヌに持っていかれたか。


ドルムンク:分かりませんが、あの変態共ならやりかねない。ヨハンの異常性は希少ですから。


カーズ:……そうか。


0:遠方から人影


ドルムンク:カーズさん、アルデンヌが来てます。


カーズ:数は。


ドルムンク:50人前後でしょうか。ヨハンの虫による毒で前線に復帰できない戦闘員が多くいるんでしょう。


カーズ:そうか。


0:カーズは壊れた通信機を懐に入れた。


カーズ:ヨハンが押し戻した前線だ。死守するぞ。


ドルムンク:勿論。


0:カーズは手袋を嵌めた


カーズ:Access(アクセス)


0:つま先で何回か地面を叩く


カーズ:ROCK(ロック)


ドルムンク:お前らァァァ!第二コロニーから後ろには一歩も敵を通すな!死ぬ気で守れ!


ティダスタ:壊せ『アポルカ』


0:キューブをカーズが蹴りあげる


カーズ:随分なご挨拶じゃねえか


ティダスタ:こんにちは。


カーズ:順番間違ってるぜ、アバズレ。


ティダスタ:傷付いたから殺すね。


カーズ:嘘つけ。ドルムンク!変態姉妹が来てる!三女の方は任せた!


ドルムンク:はい!


0:ドルムンクは両の拳を合わせる


ドルムンク:BORN・KNUCKLE(ボーン・ナックル)


0:ドルムンクはアルデンヌの部隊に特攻する


ドルムンク:退け、アルデンヌゥゥゥウウ!


0:ドルムンクがタックルする度に何人もの身体がぐちゃぐちゃになる


ティダスタ:凄い、列車が通ってるみたい


カーズ:余所見できるほど色気がねえか、俺は!


0:蹴りあげるが、ティダスタは避ける


ティダスタ:ない。お姉様と結婚するから、浮気はしないの。


カーズ:相変わらず気色悪い女だ


ティダスタ:(M)黒壁にあのまま走らせたら、あっという間にネアと接敵しちゃうな。ほかの子じゃアレ止められないだろうし。


ドルムンク:(M)やはり数が少ない。ヨハンの毒の影響と考えていい。変態姉妹が来てるってことは、アルデンヌの戦闘員も消耗してるはずだ。今日、エンネアかティダスタのどちらかを殺したい。


エンネア:ドルムンクくんだ!久しぶり!今日も素敵な筋肉だね!


ドルムンク:大将首……!


エンネア:素敵だけど死んでね!


0:ドルムンクは大きく振りかぶる


ドルムンク:お前が死ね、エンネア……ッ!


エンネア:絡めとって『オクターちゃん』


0:触手が平たく伸び、盾のように展開する


ドルムンク:んんん…ッッ!


0:ドルムンクの拳が触手をちぎる


ドルムンク:(M)柔らかい、このまま引きちぎれる…!


エンネア:(M)あ!とまらない!すごい!怒ってる!怒ってるんだきっと!怒ってるからとまらないんだ!


0:触手がドルムンクの身体を包む


エンネア:そのまま食べて!オクターちゃん!ごめんねドルムンクくん!優しくするからね!


ドルムンク:昔から、不思議だったんだ。


エンネア:なにが?


ドルムンク:パーがチョキに負けるのは、分かる。紙はハサミで切れるからな。


エンネア:うんうん。


ドルムンク:しかし、パーがグーに勝つ道理が無い。石は、紙を、貫くだろう。


0:ドルムンクはそのまま突っ込む


エンネア:あ、ホントにとまらない!オクターちゃんが破けちゃう!可哀想だよ!


0:ドルムンクは触手を破りそのままエンネアに向かって拳を振り上げる


ドルムンク:んんんッ!


エンネア:きゃああ!酷い酷い怖い怖い!


0:エンネアは身を翻し躱すついでに蹴った


エンネア:危ないよ!当たってたら死んじゃうとこだったよ!


ドルムンク:クソッ……!


0:ドルムンクはすぐに立ち上がる


ドルムンク:(M)身体が重い……!


カーズ:(M)末端の戦闘員は驚異でも何でもねえ。問題はこいつらだ。


ティダスタ:斬って『アポリア』


0:キューブが剣になる


カーズ:(M)連日の戦闘で俺もドルムンクも万全とは言い難い。対してコイツらは今日が初動員、ヨハンの毒が回ってる雰囲気も無い。


0:蹴って凌ぐ


カーズ:チッ…!ドルムンク!!


ドルムンク:はい!


0:二人は背中合わせになる


カーズ:幹部、2人きりになっちまったな。


ドルムンク:カーズさんは副リーダーだ。


カーズ:……ああ、そうだな。


0:つま先で地面を叩く


カーズ:そうだったな。


0:エンネアとティダスタも合流した


ティダスタ:あの二人を落とせば、バンカーは事実上の壊滅。今日で決着を付けたら、お姉様に褒めて貰えるかな。結婚してくれるかな。結婚は無理でもキスくらいしてくらるかな。頬っぺでもいいし最悪ハグでも嬉しいんだけど。


エンネア:無理だと思うよ!近親婚だもん!


ティダスタ:バグテリアは法外特区なのに。犯罪者しかいないのに。


エンネア:お姉ちゃんにだって相手を選ぶ権利があるよね!でもティディは可愛いからきっと良い人と出会えるよ!諦めよう!


0:カーズは周囲を見た


カーズ:(M)ハンス。ガガ。ライアン。リリアン。ルーシー。ヨハン。ヘルフォードさんから預かった幹部達。それだけじゃねえ、どいつもこいつも、こんなイカレた頭のおかしい連中のせいで死んだ。


0:つま先で地面を叩く


カーズ:(M)…ジャッカルは、違ぇか。


0:カーズが強く踏み抜く、地面が割れる


ティダスタ:……!


エンネア:びっくりしたぁ!踏んだだけで地面が割れるって、素敵だね!かっこいいね、カーズくん!


カーズ:テメェら全員。


0:カーズは睨んだ


カーズ:噛み殺す。


0:場面転換

0:ブルーストリート-特務監察課-独房


ヨハン:__ジャッカルを殺して、マオすら死なせた愚図が。


0:ヨハンは顔をあげる


ヨハン:よく顔を出せたものだな、アルル・クロフォード。


アルル:……。


0:アルルは頭を下げた。


アルル:お久しぶりです。ヨハンさん。


ヨハン:何をしに来た。


アルル:……謝りに。


ヨハン:不要だ。


アルル:……


ヨハン:ジャッカルは、私の後輩だった。蒸発したジャッカルの親父の借金の取り立て先になったのがあの兄妹だった。付き合いは長かった。私なりに可愛がったつもりだ。


アルル:はい


ヨハン:お前は、その二人を死なせた。あの二人だけじゃない、お前のせいで、何百人という仲間が死んだ。お前の身勝手で未熟な正義感のせいで、だ。


0:アルルは吐きそうになるのを必死に堪えている


ヨハン:そのお前から、謝罪を受け取るだと?顔を見るだけで殺してやりたいほどだと言うのに、許しをこわれなければならないのか?


アルル:……。


ヨハン:不愉快だ、消えろ。


アルル:……っ……わた、し。


0:アルルは拳を握り直した


アルル:…それでもやっぱり、身勝手で、未熟な正義感を、捨てられませんでした。


ヨハン:……


アルル:ごめんなさい。


ヨハン:……その謝罪に来たのか?よほど身勝手だな。


アルル:はい。…はい。


0:込み上げる何かを必死に堪えながら


アルル:貴方達と、同じです。


ヨハン:……なに?


アルル:私も、私の都合を、押し付けることにします。私、敵なんです。ジャッカルさんとも、マオさんとも、悲しいけど、本当は、敵なんです。なので、配慮、できません。


0:アルルは頭を下げた


アルル:ごめんなさい。


0:涙が出た


アルル:ごめんなさい、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。


ヨハン:……


アルル:皆さんの帰る場所を壊して、ごめんなさい。余計なことして、ごめんなさい。皆さんの、仲間を、家族を死なせて……殺して、ごめんなさい。


ヨハン:…っ…撤回しろ……!


アルル:……え?


ヨハン:お前が殺したのは、ジャッカルだけだ。それ以外のヤツらまで同じ罪に数えるな。お前なんかが、殺したなど、思い上がるのも大概にしろ。お前の自罰の為に、私の仲間と家族を利用するな。


アルル:(M)嗚呼、やっぱり


ヨハン:不愉快だと言っただろう。消えろ、二度と顔を見せるな。


アルル:(M)ちゃんと、大事なんじゃんか。


0:アルルは立って、扉に手をかけた


アルル:失礼しました。


0:扉の外。


アルル:……うぅぅ…


0:アルルは声を上げて泣いた


アルル:ぁぁあ、ぁあぁっ……。


0:独房の中

0:ヨハンは扉の先から漏れ聞こえるアルルの泣き声を聞いている。


ヨハン:……泣きたいのはこっちの方だってんだよ。ボケが。


0:時間経過

0:監察課-中庭


バタップ:ひっでぇ顔だな。


シーカー:殴られた?


アルル:泣きました。


バタップ:泣かされたんだ。やっぱいかなきゃ良かったのに。


アルル:……いえ。行って、よかったです。


0:吐き気を抑えるように胸元に手を当てる


アルル:もう誰も、怒ってくれないと思ってたから。


シーカー:……。


アルル:シーカーさん、約束、守ります。シーカーさんの許可が出るまで、抗争に首突っ込みません。


バタップ:何人死んでもか?


シーカー:おい。


バタップ:重要だろ。


アルル:きっと、迷います。罪悪感で、死にたくなったり、泣きたくなったり、焦ったりする時ばっかりだと思います。それでも、約束します。


シーカー:……そうかい。


0:シーカーは立ち上がった


シーカー:なら。始めるか。


アルル:…はい……!


0:時間経過

0:バイオレットの私室。


バイオレット:(M)夜中の2時。いつもならストレッチを終え、眠りにつく時間。だと言うのに……


シーカー:だから!!なんでそこで右に行きたがるんだよ!腕は、こうきて、こうだって言ってんだろ!?


アルル:こうとかそうとか意味がわかりません!


バイオレット:(M)中庭がうるさい。私の部屋は中庭のすぐ上だから本当にうるさい。ただでさえバグテリアは騒音に包まれて睡眠の質が落ちるというのに、監察課内ですらこの騒音。


シーカー:いいか!?お前はいっつもそうやって突進しか……


バイオレット:おい、お前達。


アルル:バイオレットさん?お疲れ様です!


バイオレット:もう寝ろ。何時だと思っているんだ。


アルル:嫌です!まだ初日です!


シーカー:ああ、これからまだやらなきゃならねえことが


バイオレット:なぜそこだけは意見が合う。


アルル:だって、だって今、抗争が続いてる、私早くシーカーさんの許可が欲しいんです


バイオレット:知るか。私は私の睡眠の方が大事だ。


アルル:じゃあ、黙ってやります。


シーカー:ああ、静かにやる。


バイオレット:信用ならん。いいから、寝ろ。次騒いだら撃つ。


シーカー:はい、騒ぎません。


バイオレット:それでいい。


0:ピシャッとテラスの窓が閉まる。


シーカー:……怖いね。


アルル:怖いです。


シーカー:まぁ。しょうがねえか。これ以上バイオレットの機嫌悪くすりゃあ、いよいよ風穴空けられる。今日は終わりだ。


アルル:……はい。


0:アルルはとぼとぼと歩く


アルル:(M)寝るの、嫌だなぁ。凄く嫌だ。寝てていのかな。時間、もったいないな。


0:ドアを開く


アルル:(M)この、隣の部屋で、マオさん死んだのに。首括って、死んだのに。


0:吐きそうになる


アルル:(M)…。寝たら、自分でも嫌になるくらい呑気なんだろうな。涎垂らして、寝返りうって、起きるのを嫌がって、朝日を見て、勝手に目が覚めて。せめて、雨だったらいいのにな。一人に、なりたくないな。


0:ベッドに無理矢理あがる


アルル:(M)どの口が言ってんだろ。本当に、嫌な奴だなぁ、私。


0:場面転換

0:トロッコ峠


ティダスタ:殺せなかった。


エンネア:殺せなかったね!硬くて強かったなぁ〜ドルムンクくん!あとでかいし!こーんなにでかい!こんくらい!カーズくんも強かったぁ、足が長いよね!こんくらい!こんくらい!


ティダスタ:婚期が遠のいたよ。どうしよう。


エンネア:大丈夫だよ!殺せてても結婚はして貰えなかっただろうから!


ティダスタ:じゃあ私は今から死ぬから、遺骨はお姉様のお部屋に巻いてね


エンネア:駄目だよ!お姉ちゃんの部屋が汚れちゃうよ!


ティダスタ:じゃあ、どうすれば私はお姉様と一緒になれるの?


エンネア:今も一緒だよ!私達はお姉ちゃんと同じ血が通ってるよ!それじゃダメなの?


ティダスタ:血を流している時しか同じなんだなって感じれないからヤダ。体も心も場所も時間も苗字も全部同じがいいの。


エンネア:重くて素敵だね!私が一緒にいてあげるよ!


ティダスタ:お姉様がいい


エンネア:酷い酷い!じゃあ手を繋いで帰ろーよ!


ティダスタ:なんで?いいけど。


0:エンネアは喜んでティダスタの方へ駆け寄る。


エンネア:やった!


0:途中に転がる、死にかけの男の頭を蹴飛ばしながら、蹴飛ばした自覚もなく走った


エンネア:えいっ!(手を繋ぐ)


0:二人の触手が絡み合う


エンネア:死なないでね、ティディ


ティダスタ:死なないよ、お姉様と結婚するまでは。


エンネア:一人にしないでね


ティダスタ:しないよ。結婚したらネアの部屋も作ってあげる。


エンネア:へへへ。ティディは優しくて素敵だね。


0:二人は手を繋ぎながら、死体の山を踏みつけにしながら帰った。

0:場面転換

0:監察課-中庭の縁側にて


バタップ:酒〜酒酒酒〜深夜はお酒と煙草と女〜


シーカー:……。


バタップ:お。まだ起きてんだ。聞いたぜ、バイオレットから怒られたんだってな。寝ねぇの?


シーカー:もう騒いでねえんだからいいんだろ。


バタップ:はいはい。酒飲む?


シーカー:いや、いい。


0:シーカーは真剣にメニュー表や、戦闘資料に目を通している


バタップ:…らしくないねぇ。


0:バタップはロックグラスにウィスキーを注いだ


バタップ:どうよ、クロフォードの調子は


シーカー:弱過ぎ。終わってる。身体はある程度出来上がってんのに、センスが無い。戦闘IQってやつが皆無だ。


バタップ:まあ、無さそうだしな。花屋でもやってた方が幸せだったんじゃねーの。頭もお花畑だし。


アルル:酷いです。


シーカー:うお!?え!?クロフォード、今日はもう寝ろってまじで!


アルル:……寝ようと、思ったんですけど。


0:アルルの腕には枕


アルル:一人だと、余計なことばっかり考えちゃって。


バタップ:女児じゃん。ここは保育園じゃないでちゅよ〜


アルル:分かってますよ!私だってこんなこと恥ずかしいからお願いしたくないです!でも、約束、守ってます。頑張ってます。協力してほしいです。


シーカー:……はぁ〜〜…一人でいると突っ走っちまいそうってか?


アルル:……はい


シーカー:くそめんどくせぇな。


バタップ:いいじゃん。膝枕でもしてあげれば?


シーカー:あいつ枕持参してるよね?見えない?


アルル:その辺でいいので!雑魚寝でいいので、ここで寝ていいですか


シーカー:……勝手にしろよもう…


アルル:……!


バタップ:優しい先生。泣けるぜ


シーカー:泣かすぞ


0:アルルはいそいそとその辺に寝床を作る。


バタップ:鳥の巣作りみたいだな。


アルル:いじらないでください。


0:横になった


アルル:おやすなさい。


シーカー:おう。


バタップ:………


シーカー:なんだよ、ジロジロ見やがって


バタップ:いや、お前が教職ついてたのって嘘じゃなかったんだなと思って。


シーカー:なんか馬鹿にされたのは分かったぞ。


0:時間経過

0:朝


バイオレット:(M)朝、目が覚める。時間は決まって朝の5時45分。ベッドから上がり、顔を洗い、歯を磨き、制服に袖を通して、鏡を見て、自分の顔に嫌気が差す。姉とよく似た、この顔に。日課を終え、いつも通り、オフィスへ行く。いつも通り。いつも通り。


0:制服を着て、1階へ降りる


バイオレット:おはようございます。


0:オフィスへ入る


シーカー:……おはようございます…?


バタップ:ぷ。おはようございま〜す。


アルル:おはようございます!


バイオレット:…。


バタップ:何お前。誰も居ないオフィスに毎朝それ言ってんの?病んでる??


バイオレット:貴様ら、言い残したことはあるか


0:バイオレットは拳銃を構えた。バタップだけ爆笑してる。


アルル:ええええ!?


シーカー:待て待て待て!!落ち着け!ステイ、ステイ。聞かなかった!何も聞いてない!


バイオレット:そうだ、それでいい。


バタップ:朝から血の気が多い女だな。


バイオレット:鉄分をよく取っているからな。


シーカー:なんか微妙にズレてんだよな


バイオレット:なんだ、結局寝れなかったのか。


シーカー:寝たぜ、ちょっと。


バタップ:クロフォードは独りじゃ寝れないでちゅ〜ってシーカーの膝で寝たぜ


バイオレット:正気か?


アルル:違います!!ちゃんと枕を持参しました!


バイオレット:まあ、どうでもいいが。……おい。この紙束はなんだ。邪魔だ。


シーカー:ん、ああ、すまんすまん。クロフォードの体に合った執行術を練り直してたんだが、どうにもな。すぐ片付けるよ。


バイオレット:……。


0:シーカーはまた手元の紙に夢中になった。シーカーの目元にはうっすらとクマがある。


バイオレット:ふん、行き詰まっているんじゃないか。


シーカー:まだ二日目だって、今に見てろ


バイオレット:……


0:バイオレットは椅子に座りながら


バイオレット:アルル・クロフォード。お前の追加の報告を改めて確認するが。第二南北抗争においてお前は、無意識下で戦闘を行ったそうだな。


シーカー:へ?そうなの??


アルル:…ぁ…、はい。


バタップ:そいつは面白いな。夢遊病的な?


バイオレット:症状としては二重人格のほうが近いかもしれんな。当時のアルル・クロフォードは、カーズ・ジョーンや東郷嘉車をはじめとした、バンカー構成員の主戦力達を一方的に暴行したとある。


シーカー:待て待て待て、聞いてない、なにそれ


バイオレット:言っていないからな。私も昨日聞いたが、真実かを疑っている。本庁へ報告するかも悩ましい。これで下手にアルル・クロフォードの精神疾患が疑われれば、今回の報告にも監査の手が伸びる可能性もある。


シーカー:そりゃあそうだろうよ。こいつが、ヘッドのリーダー格をボコボコにしたってことだろ?


バイオレット:品の無い言い方をするとそうなる。


シーカー:お前それまじ?


アルル:……はい。


0:アルルの辛そうな顔を見て、ただの虚言ではないと分かる。


シーカー:…そっすか。しかし、何がきっかけでそうなったかも分からんのじゃあな……


バタップ:居るだろ。


バイオレット:誰がだ


バタップ:その場に居合わせた可能性のあるやつ、この監察課の独房に、居るだろ。


アルル:…ヨハンさん…!


シーカー:なるほどな……!


0:指パッチン


シーカー:冴えてるぜバタッピ!


バタップ:つまみっぽいな。


シーカー:ちょっと聞き込み行ってくる。あ、クロフォードは来んなよ、なんかややこしくなりそうで面倒だし。


アルル:…ぁ、ではその間私は何を…?


シーカー:好きに過ごしてなさいよ。抗争に首突っ込むなって言っただけで、別に全部の行動を制限したわけじゃないでしょーが


アルル:……はい、それも、そうですね。


シーカー:じゃ。バイオレット、独房室の鍵ちょーだい。


バイオレット:自分で探せ。


アルル:(M)好きに、過ごせ…と言われても、やりたいことなんて。…ダメだダメだ、約束したから、それだけはダメだ!やることないなら自主練をしよう。


バタップ:……はは。


アルル:…なんです?


バタップ:いんやぁ、何でも。


アルル:また何か馬鹿にされてますか?


バタップ:してないしてない。自主練するんだろ、早く行けば?


アルル:心を読まれました!すごいです、それ教えてください!


バタップ:お前みたいな馬鹿と会話することがコツだ


アルル:やっぱり馬鹿にしている!


0:場面転換

0:独房


ヨハン:……それで、私に話を聞きに来た、と。


シーカー:そうだ。何か思い当たることはねえか。なんでもいい。


ヨハン:……私と、お前達は敵なのだろう?


シーカー:…え?


ヨハン:お前達は中央政府。私たちは異常体と、犯罪者。なぜ敵に塩を送らねばならん?


シーカー:……。


0:シーカーは座った


シーカー:よし。じゃあ、尋問だ。


ヨハン:……そういうことなら、仕方が無いな。


シーカー:(M)めんどくせぇなぁ。なんでバンカーの連中ってこう、筋ばっかり気にすんだろ。これで通るならほぼ形骸化してるだろそれ。


ヨハン:…まず、頑丈だった。体だけが頑丈過ぎた。鍛えられてるようには見えず、殴った感触は間違いなく薄い筋肉層。にも関わらず、堅い。私の虫による毒が回るまでも異様に時間がかかっていた。


シーカー:タフ、と捉えるには、あまりにも異常か


ヨハン:ああ。少なくとも私はそう感じた。


シーカー:それで、肝心の二重人格の方は?


ヨハン:何がきっかけでそうなったのかは、分からん。私が前線に戻った頃には、既にあいつが暴れている最中だった。ただ、強かった。執行術の練度も、判断力も、まるで別人のように磨きあげられていた。


シーカー:そんなにか?


ヨハン:ああ。私はアルル・クロフォードと二度戦った。一度目に戦った時は弱く、何もかもが稚拙だった。余りある力を持て余したような、例えるなら、振り抜いたバットの遠心力に引っ張られる子供のようだった。


シーカー:なんか具体的だな。


ヨハン:それほどの不自然を感じたんだ。一言で言えば、不気味、これに尽きる。


シーカー:……そうか。


ヨハン:私から話せることは以上だ。


シーカー:分かった。ありがとう。


ヨハン:なんの礼だ?尋問なんだろう。


シーカー:あー、はいはい。そうでした。そんじゃ、失礼しますわ


ヨハン:待て。


シーカー:なに?


ヨハン:二重人格の方が喋っていた単語で、気になる言葉があった。


シーカー:おいおい、大事じゃん。


ヨハン:「豚」


シーカー:(M)…あれ。


ヨハン:何度も連呼していたからな、印象的だった。


シーカー:(M)なんか。その言葉聞くだけで、めちゃくちゃ胸が冷える感じすんだけど。


ヨハン:二重人格の方の記憶なのか、ただ口が悪いだけなのかは分からんがな。


シーカー:(M)なんだっけ。どこで、誰に言われたんだっけ。


ヨハン:今度こそ、私から話せることは以上だ。


シーカー:(M)……忘れた。ほんと、忘れっぽいなぁ、俺。


0:場面転換

0:監察課-オフィス


バタップ:(放屁)


バイオレット:今すぐ窓を開けろ、バタップ。


バタップ:窓の位置わからなくなっちゃった?


バイオレット:お前の異臭はお前が責任を取って処理しろ。


シーカー:ただいまぁ〜くさ!臭すぎるだろ!


バタップ:今日のは中々熟成されてたみたいだな。


シーカー:蕁麻疹出そう。


0:シーカーは窓を開ける


バタップ:で、話は聞けたのか?


シーカー:ああ。何がきっかけで、ってのは分からなかった。ただ、身体が頑丈ならそれを特性として、いくつか考えられる戦い方がある。初動をもっと大胆にしてインファイトに……


0:シーカーは再びペンをもった。


バイオレット:(M)そう言ってシーカーは、すぐに訓練カリキュラムの草案を叩き直す。真剣そうに、どこか楽しそうに。


シーカー:おい、お前用に執行術基盤を見直してやった。大変感謝しろ


アルル:え、えっ、え!大変感謝します!!


バイオレット:(M)初めは、三日坊主に終わるだろうと思った。どうせ口だけ、最初だけ。そう思っていた。


シーカー:あまぁぁぁい!!!(すぱぁぁん!)


アルル:っ…!もう一回、お願いします…!


バタップ:顔面の腫れ引いてからにすれば?顔の大きさ2倍くらいになってんぞ


アルル:それで成長できるなら、10倍顔をでかくします!


バタップ:比例はしないだろ


アルル:させます!


バイオレット:(M)しかし、三日を過ぎても、1週間だ経っても、2週間が経過しても、奴らはやめなかった。


アルル:対・異常体執行術。


バイオレット:(M)何が楽しい。何が面白い。


アルル:轆轤蚊鉤(ろくろかばり)ッッ…!!


0:アルルのトンファーはシーカーの目の前


シーカー:ぉ……。


アルル:……届いた


0:アルルは自分の手を見た


アルル:届き、ました…!!


シーカー:いや、今のはちょっと俺が油断してただけで


アルル:でも届きました!!


0:自分の手を見た


アルル:ちょっとだけでも、届き、ました…!


バイオレット:(M)何が面白い。誰の目も届かない場所で、誰にも期待されていない人間が、誰にも評価もされない仕事をして、一体何が楽しい。


0:バイオレットは、パソコン内のとあるフォルダを見た


バイオレット:……気色の悪い。


アルル:(M)1992年。1月28日。その週は、毎日雪が降っていた。


0:場面転換

0:北エリア-アルデンヌ邸


ロザリオ:(M)嗚呼。なんて、可哀想な人達。


0:ロザリオはワイングラスに血に塗れた髪の毛を入れた


ロザリオ:(M)毛髪から、血の一滴に至るまで、どうしようもないほど馬鹿馬鹿しい。産まれてきたのが可哀想。意味無き命で可哀想。価値なき血筋が可哀想。産まれの卑しい、子豚達。


0:ワイングラスを落とし、踏みつけた


ロザリオ:(M)あまりに哀れで可哀想。


0:ロザリオは向き直った


ロザリオ:おかえりなさい、ティディ、ネア。


ティダスタ:ただいま、お姉様


エンネア:ただいまお姉ちゃん!


ロザリオ:想像より大変みたいね、バンカー攻略は。


ティダスタ:ごめんなさい。


ロザリオ:謝らなくていいの。敵が強ければ強いほど、それに打ち勝つ貴方達が、どれほど秀でた血筋なのかが証明されるでしょ?


0:ロザリオはティダスタを抱いた


ティダスタ:……!


ロザリオ:いいのよ、最後は、私達が勝つもの。


エンネア:いいな、いいな!お姉ちゃん、私も!


ロザリオ:勿論、おいでなさい


エンネア:やった!あのね、凄かったんだよ!ドルムンクくんね、力だけでオクターちゃんの触手ちぎったんだ!オクターちゃんは可哀想だけどね、でも凄かったんだよ!素敵だね!


ロザリオ:……大変?苦労する?手こずる?苦戦する?やりづらい?押されてる?勝てない?負けそう?


0:顔を掴んだ


ロザリオ:ねえ、負けそう?


0:平然と


エンネア:ううん!勝つよ!ティディもいるし!


ロザリオ:そう、素敵ね。


0:手を離す


ロザリオ:とっても素敵。


エンネア:へへへ


ロザリオ:あの子には、会えた?


ティダスタ:監察課の?


エンネア:ショーケース壊した子!


ティダスタ:壊すきっかけを作った子、だよ。


エンネア:そうだった!会えてないよ!いいないいな、ガラートラムは会えたんでしょ?私も早く前線行けばよかった!


ロザリオ:ここまで番犬達が粘ると思わなかったもの。何より、ガラートラムがあんなに使えない木偶だとは思わなかった。でも、当然よね。あの子が帰ってきたんだものね。だったらガラートラムが死ぬのも納得だよね。


ティダスタ:じゃあ、本当に、帰ってきたの?


ロザリオ:うん。帰ってきた。今日、考察屋から情報を買ったの。


エンネア:リットンと会ったの!いいな!何が分かったの!


ロザリオ:やっぱり、あの子だった。


0:ロザリオは二人を撫でながら


ロザリオ:アズールが、帰ってくるよ。


0:エンネアの顔が明るくなる


エンネア:ほんと!?本当に!?アズが帰ってくるの?


ロザリオ:ほんと


エンネア:じゃあ、このお屋敷に皆で住めるの?


ロザリオ:住めるよ


エンネア:……!やった!やった、やった!!ティダスタ、聞いた!?アズが帰ってくるって!


ティダスタ:うん。聞いてるよ。


エンネア:嬉しくないの?


ティダスタ:お姉様が手元に置くって言うなら、賛成する。置かないなら興味無いよ。でも、お姉様はアズールに帰ってきて欲しいんでしょ?


ロザリオ:もちろん。


ティダスタ:じゃあ、私も、アズールに帰ってきて欲しい。


エンネア:アズールが居たら、バンカーなんて簡単に攻略できるね!嬉しいね!アズは何処にいるの?いつ迎えに行くの?


ロザリオ:監察課にいるみたいだから、明日、行こうと思ってるよ。


エンネア:私も行きたい!


ティダスタ:バンカー攻略はどうするの?


エンネア:確かに!どうしよう!


ティダスタ:でも、お姉様を一人では行かせられないよ。せめて私かネアのどっちかを護衛につけてほしい。


ロザリオ:そうね、残存戦力に余裕がある訳では無いし…そこまで言うなら、ネアに来てもらおうかな。


エンネア:やったーー!


ティダスタ:殺していい?


エンネア:なんで!


ティダスタ:お姉様の隣を取られたから


ロザリオ:喧嘩しないの、ティディ。明日は一人になるけど、よろしくね。


ティダスタ:うん


ロザリオ:負けないでね


ティダスタ:うん


ロザリオ:素敵ね。それじゃあ、明日に備えて休みましょうか。


0:ロザリオは椅子から立ち上がり、窓の外を眺めた


ロザリオ:(M)アズール。私の愛しい妹。劣等種に囲まれて生きていると知った時は、臓腑が焦げてしまうかと思ったけれど、何か事情があるのよね。ああ、なんて可哀想。すぐに助けてあげるからね。すぐに迎えに行ってあげるからね。


0:時間経過

0:場面転換

0:ブルーストリート-監察課


シーカー:ふぁぁ(欠伸)


0:オフィスにて


アルル:おはようございます、シーカーさん!


シーカー:おー。あれ、バイオレットは?


アルル:定期報告に本庁へ戻っているみたいです。管理官会議があるそうで!


シーカー:そ。バタップは〜まあ、散歩か賭博か


0:座り、煙草に火をつけ、戦闘記録に目を通している


シーカー:新人、今日から巡回に出ていいぞ。


アルル:……え。


シーカー:抗争に首突っ込むのはまだ待て。ただの巡回、ステージ2くらいなら交戦してもいい。


アルル:……


0:接近


アルル:本当ですか!


シーカー:近いな


アルル:本当ですか、シーカーさん…!まだひと月も経ってないのに!


シーカー:俺がいいって言ってんだからいいんだよ。


アルル:じゃあ、じゃあ私、少しは強くなれましたか!


シーカー:調子乗んな焦んな近い


アルル:シーカーさん!私、ちょっとでも、強くなれましたか…!


シーカー:……


0:煙草の灰を落とす


シーカー:なってなかったら俺が泣けるね。らしくもねえ仕事してんだからよ。


アルル:……分かりづらいです。普通に褒めてください


シーカー:なんなんお前???あー強くなったよ!多少マシになったんじゃねえか!!


アルル:……!


0:頭を下げる


アルル:ありがとうございます!!


シーカー:やめろやめろ、そんな大層なことか


アルル:大層なことなんです!嬉しいです。…本当に、嬉しいです


シーカー:……ならよかったな。


アルル:っ。はい!よかったです!


シーカー:新聞取ってくる。


アルル:はい!お気をつけて!


シーカー:何に気をつけるんだよ


0:シーカーは玄関へ向かった。


アルル:……強く、なった


0:アルルは自分の手を見た


アルル:強く、なれた。


0:握って開いて握って開いて


アルル:……悔しいなぁ、もっと、早く、こうしてればよかったなぁ。結構、真面目にやってきたつもりだったんだけどなぁ。


0:握る


アルル:ちょっとでも、成長出来てると、いいな。


0:場面転換

0:ブルーストリート-監察課前


シーカー:おいおい……。こいつぁ一体……


0:シーカーの背中には、エンネアの触手が伸びている


エンネア:ごめんねえ、動かないでね。


シーカー:なんの冗談だァ……?


エンネア:動いたら殺すからね


シーカー:(M)いつも通りの朝だったはずだ、いや、ようやく慣れてきた朝だった、らしくもなく朝方に目を覚まして、書類に目通して、新聞取りに来て……だってのに、こいつは一体……


エンネア:私達異常体だから、中央政府の人とは仲良くできないって聞いてるから、ごめんね!


シーカー:(M)どういう風の吹き回しだよ……!なんで、北エリアのヘッドが、こんな所にいやがる……っ!?


ロザリオ:臭い場所。


シーカー:アルデンヌの面々だな?あ、面々でございすね?


ロザリオ:部を弁えているね。そうだよ、私がアルデンヌ当主だ。


0:ロザリオはハンカチで鼻を抑えている


シーカー:普通こういう時って名乗るもんじゃありませんくて?


ロザリオ:劣等種に名乗るほど安い名前ではないから。


シーカー:ほぉぉ…そのハンカチは?


ロザリオ:劣等種の近くにいると、貴方が吐いた息まで私に中に入ってくる気がして。自衛なのだから、構わないでしょ?


シーカー:(M)噂通りだな、ロザリオ・リスタリオ……。超絶血統主義。どこぞの血筋かは知らんが、その血統に固執するイカレた差別主義者。くそ、バタップの野郎、こういう時に限って出払いやがって……。


0:シーカーは咳払いをした


シーカー:それで、目的はなんなんだよ。殺しや襲撃は目的じゃなさそうだな。


ロザリオ:へえ、よく分かったね


シーカー:そうならわざわざ脅すような真似する必要ねえだろ。


エンネア:へへへ、ごめんねぇ。でも洞察力があるんだね、素敵だね


シーカー:そりゃどうも。で、目的は何だ?情報か?金か?


ロザリオ:人だよ。アルル・クロフォード、そう名乗っているんだったかな。その子を出して。


シーカー:あぁ?新人をぉ?何の因縁があって……


ロザリオ:君には関係の無いことだよ。


エンネア:関係ないってことは口挟まないでってことだからね!次同じようなこと聞いたら殺すね!


シーカー:(M)物騒すぎるだろ。愛想いいのか悪いのか分かんねぇなこいつマジで。しかし、新人一人差し出せば終わる話か、こいつは助かった。


ロザリオ:ふふ


シーカー:何笑ってやが…。らっしゃるんですか?


ロザリオ:いいや、現役の監察官なら、普通こういう時、真っ先に戦う為の観察を始めると思うんだけれどね。


エンネア:刃向かうの!?


シーカー:刃向かってないよね?!


ロザリオ:でも、君は違うね。君は、自分が助かる方法を洞察している。今、この瞬間も。情けない監察官も居たものだ。


シーカー:…生き汚ねぇのだけが取り柄なもんでな


ロザリオ:詭弁だね。卑下の中でしか保てない自尊心など、捨ててしまえばいいのに。


0:ロザリオはハンカチを手に当てたまま


ロザリオ:おや、呼ぼうと思っていたのに。


エンネア:わ……!


アルル:シーカーさん?いつまで外に……


シーカー:ばか、新人……!


アルル:……え


0:アルルは、シーカーに向けられた鋭利な触手を見た


アルル:(M)女の人。二人。片方の子は腕がおかしい。触手みたいに蠢いて鋭利に伸びてる。……シーカーさんの背中に、当たりそう。そこ、筋肉が薄いよ。血管が沢山あるんだよ。


ロザリオ:ふふ、あれが監察官のあるべき姿だよね。


アルル:それ、離してください。


エンネア:私?


アルル:シーカーさんから、離れてください。


0:アルルの瞳孔が揺れている


アルル:それ、刺さったら、血が出ますよね。


シーカー:おい新人、落ち着け


アルル:落ち着けません。それ、やめてください。


0:エンネアの触手を指さす


アルル:それ。今すぐ離して


エンネア:(M)あ。怒ってる。本当に怒ってる。


ロザリオ:ネア、下ろしてあげて。


エンネア:いいの?


ロザリオ:いいよ、私だって彼女に嫌われたいわけじゃない。


エンネア:わかった!その人と仲が良いんだね、知らなかったよ、ごめんね、アズ!


アルル:……アズ?


ロザリオ:迎えに来たの。どういう経緯で監察課に居るのかは、今は聞かないよ。君にも君の事情があるだろうから。とにかく今はただ、帰ってきてくれて嬉しい。


0:ロザリオはアルルに近付いた


ロザリオ:おかえりなさい、アズール。


0:場面転換

0:ブルーストリート-喫茶コクリコ


アーモンド:ルーベンくん、マンデリンってまだ在庫ありましたっけ。


ルーベン:はい、まだありますが、買い足してもいいかもしれませんね。


アーモンド:分かりました。


ルーベン:……。


0:ルーベンは食器を洗いながら窓際の席を見ている。


ルーベン:最近、来てますか、アルルちゃん。


アーモンド:来てませんね。ルーベンくん、久しぶりの出勤なのに、常連さんのこと気遣ってくれるんですね。


ルーベン:まあ、印象深い子でしたから。


アーモンド:第二南北抗争にも顔を出していたみたいですね。ルーベンくんには関係ない話かもですけど。


ルーベン:聞きました。東郷やカーズの因縁に首を突っ込んだ、と。


アーモンド:大暴れだったそうですね


ルーベン:の、ようですね。


アーモンド:今度の抗争は、いつまで続きますかね。南北横断の物流を止められると大変で大変で。


ルーベン:既に消耗戦に突入していますから、決着は近いと思いますよ。ただ、どちらも決め手に欠ける印象だ。


0:ルーベンは窓の外を見た


ルーベン:2世代に渡るアルデンヌとバンカーの因縁は、ともすれば共倒れに終わるかもしれませんね。


アーモンド:そうなんですねぇ。


ルーベン:興味が無さそうですね。アーモンドさんから聞いてきたのに。


アーモンド:私は勢力図には興味がありませんから。物流が止まると困るな、と言っただけですし。


ルーベン:まあ、そうでないと僕を雇ってくれたりはしませんか。


アーモンド:ルーベンくんは汚くないので採用しました。


ルーベン:徹底してますね、アーモンドさんは


0:食器を片付ける


ルーベン:お陰様で、僕がいれた珈琲、家族に好評なんですよ。


アーモンド:それはよかったです。修行の甲斐が有りましたね。私も、こんなに良い従業員が臨時で残念です。


ルーベン:煽てますね


アーモンド:事実ですよ。南北抗争が終わったら、ルーベンくんもいよいよ動くんでしょう?


ルーベン:動かざるを得ないでしょうね。南か北、どちらかが崩れれば、新たなヘッドの座を奪いに来る連中で、次の嵐が来るでしょうから。


アーモンド:独裁だろうが支配だろうが、お山の大将が去れば、秩序が崩壊するのは道理ですか。嫌ですね。


ルーベン:…まぁ、バグテリアの住民は、ヘッドの席が空く時を待ち望んでいるわけですから。止まりようもありませんよ。


アーモンド:アルルさんは、止めようとしたみたいですよ。


ルーベン:……アルルちゃんが?


アーモンド:はい。抗争に首突っ込んで、戦うのをやめてくださいって、ふふ。アルルさんらしいですね。


ルーベン:……


アーモンド:あ。空席になったヘッドの争奪戦が始まるなら、また物流止まっちゃいますかね。買い溜めしておきましょうか。ルーベンくん、付き合ってくださいますか?


ルーベン:本当に、徹底してますね。はい、もちろん。


アーモンド:あ、ドルムンクさんも死んでしまうなら、もうピーベリーを仕入れる必要はありませんね。


0:場面転換

0:南エリア-バンカー第2コロニー


ドルムンク:カーズさん。アルデンヌがお見えだ。出撃準備を。


カーズ:…ああ。


ドルムンク:お疲れですか。


カーズ:お前の方こそ、傷の具合はどうだ。


ドルムンク:……。


0:サラシを巻いて内臓が溢れるのを抑えている


ドルムンク:大丈夫です。頑丈さだけが取り柄なのは、カーズさんがいちばんご存知でしょう。


カーズ:……。ああ、そうだな。


0:二人は拠点から出る。


カーズ:……戦闘員、こんなに減ったのか。


ドルムンク:戦える人間から先に死んでいく、それが戦争ってもんですから。


0:ドルムンクは自分の傷口を異常性で固めた


ドルムンク:さあ、行きましょう。カーズさん。


カーズ:ああ。


0:戦線に立つ

0:北側


ティダスタ:第2コロニーさえ落とせれば決着がつく。それが無理なら、カーズだけでも。それも無理ならドルムンクを。それすら無理なら戦闘員を一人でも減らして。


0:ティダスタは遠くを見ている


ティダスタ:それも出来ないなら、火薬体に巻き付けて特攻でもしてきて。


0:南側


カーズ:…三女の方が居ねえな。


ドルムンク:…奇襲か、伏兵か。なんにせよ、この戦況でティダスタだけが来るのは不自然だ。


カーズ:……。


ドルムンク:どうしますか。こっちも遊撃しますか。


カーズ:その体で、一人で何ができるってんだ。


ドルムンク:……


カーズ:犬死なら、バンカー通りの為に死ね。誇りだの、矜恃だの、腹も膨れんもののの為に死ぬな。


0:つま先で地面を叩く


カーズ:構わねえ。毒も食らわば皿まで、罠も策略も、まとめて食いちぎるぞ。


ドルムンク:はい。


0:場面転換

0:ブルーストリート-監察課


アルル:私はアルル・クロフォードです。アズールではありません。


ロザリオ:……


エンネア:何言ってるの!アズはアズだよ!


シーカー:おい、待て待て。お前ら今、なんて言った。こいつのこと、なんて?


エンネア:アズ!アズールだよ!


シーカー:(M)アズール……。


0:シーカーは頭を抱えた


シーカー:(M)アズール、アズール、アズール。


0:頭の中の記憶を探している


シーカー:(M)あれ。


0:頭痛、膝を着く


シーカー:ッッ……。頭、いってぇ…!


アルル:シーカーさん!大丈夫ですか、シーカーさん!痛みますか?何かされましたか…!


エンネア:私はまだ何も____


アルル:近付かないでください!!


エンネア:なんで!私たちはアズを迎えに来たのに!


アルル:私はアズールじゃありません!どこの誰か知りませんが、私の帰る場所は、貴方達のところじゃないです!帰ってください!


ロザリオ:アズール、私達はね


アルル:帰ってください!!


ロザリオ:……。


エンネア:じゃあ、私達は、アズと帰れないの?そんなに嫌?


アルル:嫌です。初対面ですけど、もうあなた達が嫌いです。


エンネア:……なんでそんな意地悪を言うの?


0:近づく


エンネア:私、アズと帰れるの、楽しみにしてたのに。アズも私達のこと好きって言ってくれたのに。


アルル:人違いです。それ以上近づかないでください。


エンネア:家族だよ。同じ家で育ったよ。


アルル:違います。私に姉妹はいません


エンネア:違うよ。一緒に苦しくて泣いて、一緒に同じご飯食べて、一緒に生きようねって約束したのに。


アルル:覚えがありません。人違いです。


ロザリオ:ネア。もういいよ。


エンネア:でも、お姉ちゃん


ロザリオ:アルル・クロフォード、君には記憶が無いんだね。


アルル:……。


ロザリオ:気付けば監察官であった。目が覚めたら中央政府の医療施設だった。そんなところかな。


アルル:………。


ロザリオ:ビンゴ、みたいだね。


アルル:なんなんですか、貴方達。


ロザリオ:……ああ、そう言えば、まだしっかり名乗っていなかったね。失礼したよ。


0:丁寧にお辞儀をした


ロザリオ:私は「アルデンヌ」当主。ロザリオ・リスタリオ。


アルル:____


ロザリオ:初めまして、アルル・クロフォード。


0:ロザリオは泣いている


ロザリオ:会えてよかった。


0:場面転換

0:南エリア-第2コロニー


ドルムンク:『BORN・KNUCKLE』(ボーン・ナックル)


カーズ:合わせろ、ドルムンク!!


ドルムンク:はい!!


ティダスタ:守って『アポリア』!


0:二人の攻撃を触手が守る


カーズ:……ッッ!くそが…ッ!


ドルムンク:(M)カーズさんの足が上がりきってない。連日の戦闘で疲労骨折している。このまま続けてもカーズさんの足が持たねえ。


0:ドルムンクは指先を硬化した


ドルムンク:(M)嗚呼、コクリコ、行っておくんだったな。


0:触手を破っていく


ドルムンク:うおおおおおおおッッ!


ティダスタ:……!


ドルムンク:カーズさんの道は、俺が作る……!


ティダスタ:(M)なんで、なんでなんでなんで。何回も斬ってるのに、なんで動けるの。内臓だって傷ついているはずなのに。無理矢理固めたって傷が治るわけじゃないのに。


ドルムンク:カーズさん…ッ!


0:ドルムンクのサラシが赤く染っていく


ドルムンク:お願いしますッッ!


カーズ:……ああ……!


ティダスタ:振り払って『アポリア』!


カーズ:余裕がねえなぁティダスタ!


0:触手の上を走りながら接近


ティダスタ:守ってアポリ____


カーズ:ぉおおおらッッ!(蹴る)


ティダスタ:(M)あ。胸骨折れた。肺には刺さってない。動いたら刺さる。負けたら、お姉様に怒られる。失望される。見捨てられる。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ


0:ティダスタは触手を乱暴に振った


ティダスタ:いやぁぁぁぁぁぁあ!!!


カーズ:ヒステリックが…!!


ティダスタ:近付かないで!お姉様に怒られるの!嫌われるの!!死んで死んで死んで!


カーズ:俺の仲間散々殺しておいて出る言葉がそれかよ、浮かばれねぇな…!


ティダスタ:壊して!!アポリア!!


ドルムンク:『2000・HV』(ツーサウザンド・ビッカース!!)


ティダスタ:離して、離して!!


ドルムンク:死んでも離すか!!


ティダスタ:じゃあ死んで!


ドルムンク:カーズさァん!!


カーズ:分かってる…ッ!


ティダスタ:嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だぁぁぁ!


0:場面転換

0:ブルーストリート-監察課前


アルル:(M)アルデンヌ。北エリアヘッド。バンカーに侵攻を開始した組織。何百人も殺した組織。


0:瞳孔が開いていく


アルル:(M)カーズさんに不意打ちして、ジャッカルさんにも不意打ちして、マオさんを人質にとって、私も騙した。


0:ガラートラムの顔を思い出す


アルル:(M)あいつの、親玉。


0:走り出そうとするところを、必死に堪える


シーカー:よく止まった


アルル:約束、なので。本当に、本当に、嫌ですけど、約束破りたくないです。


ロザリオ:嫌われているのかな


アルル:…!嫌い、なんて、そう簡単に思えたら、どれほどいいか…!


0:目が血走っている


アルル:お前が、お前さえ居なかったら……!


アルル:(M)八つ当たりだよ。私が悪いんだよ。


アルル:お前達が、バンカーに侵攻を開始しなかったら!


アルル:(M)でも、コイツらも悪いじゃんか。何百人も殺したじゃん。


アルル:無抵抗の民間人まで巻き込んで、戦えない人、傷ついた人を、執拗に追って、殺して……!


アルル:(M)だって、やっと怒りの矛先を向けられる人が目の前に居るんだもん。無理だよ、止められないよ。


アルル:返せよ、抗争で失った人達の手も、足も、命も、心も、返せよ!!返せないなら、もうやめてよ!やめてもくれないらっ。


エンネア:酷い。


アルル:…どの、口が


エンネア:壊して「オクターちゃん」


ロザリオ:やめなさいネア!


エンネア:私達のことが嫌いなアズなんか、大嫌い!!


シーカー:クロフォード!!


ルーベン:『Skew・bend』(スキュー・ベンド)


0:エンネアの攻撃が大きく逸れる


エンネア:…ッ…!


エンネア:(M)軌道を曲げられた。当たってない、誰……!


アルル:…ぇ……


ルーベン:すまない、通り道に埃を散らされると、店長が怒るんだ。


ロザリオ:ルーベン・スペンサー……


ルーベン:ああ、久しぶりだね、ロザリオ。南北抗争の重役が、随分暇そうだ。


アルル:なんで、なんでルーベンさんが、ここに。


ルーベン:アーモンドさんの買い出しに付き添っていたら、こんな場面に出くわしたものでね。


エンネア:壊して!オクターちゃん!


アーモンド:『無かったことにする』


エンネア:……!オクターちゃん、オクターちゃん!動いて!


ロザリオ:(M)アーモンド・コクリコの異常性か。


ルーベン:本当に、ぶっ壊れてるなぁ。


アーモンド:もう、早いですよルーベンさん!…ん?あ!お久しぶりです、アルルさん。


アルル:…アーモンド、さん


アーモンド:もう、最近お店に来てくれなかったので、寂しかったですよ。


アルル:……


アーモンド:元気そうでなによりです。


アルル:(M)あれ。なんだろ。なんで泣きそうなんだろう。意味わかんない。


ルーベン:元気と言っていいんですかね。


アーモンド:息ができていますから


ルーベン:あまりに広義ですよ。


0:ルーベンはアルルに手を差し出した


ルーベン:久しぶりだね、アルルちゃん。


アルル:……は、い。お久しぶり、です。


0:手を取った


アルル:(M)まだ、私なんかに、久しぶりって、元気でよかったって、言ってくれる人、居るんだ。


アルル:…おふたりも、お元気そうで、よかったです。


ロザリオ:(M)嗚呼。臭い。劣等の腐臭が満ちていく。


0:死んだ目で空を見ている


ロザリオ:(M)反吐が出る。


エンネア:お姉ちゃん、どうする?


ロザリオ:…私は……


0:通信機が鳴る。


ロザリオ:…どうしたの、ティディ


ティダスタ:『ごめんなさい、お姉様!』


ロザリオ:ティディ…?


ティダスタ:『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!怒らないで、嫌わないで!』


ロザリオ:ティディ、落ち着いて。


ティダスタ:『黒壁がずっと動くの!カーズがずっと蹴ってくるの!とっくに戦える体じゃないはずなのに!ズルいよこんなの!』


ロザリオ:ティディ。


ティダスタ:『お姉様、お姉様!』


0:通信が切れる


ロザリオ:ティディ!


エンネア:……お姉ちゃん?ティディの声だったよ、どうしたの?何があったの?勝った?それとも怪我した?


ロザリオ:……


エンネア:……負けた…?


ロザリオ:ネア、南部戦線に合流して。


エンネア:……


ロザリオ:今すぐ。私も向かう。ここに居ても、アズールを強奪できない。だって、あなた達がさせてくれないでしょう?


ルーベン:ああ。今の僕は喫茶コクリコの店員だからね。常連を守るのは当然だよ。ねえ、店長。


アーモンド:本当はどちらでもいいんですが……まぁ、ルーベンくんがそこまで言うなら…。


0:ルーベンとアーモンドはアルルの前に立った


アーモンド:今は、アルルさんを守ります。


アルル:…っ…!


ロザリオ:(舌打ち)


エンネア:お姉ちゃん、早く行こう?ティディが一人だよ、可哀想だよ、酷いよ


ロザリオ:うん。行こうね。


アルル:……。


ロザリオ:またね、アズール。


エンネア:運んで、オクターちゃん。


0:触手が伸び、四肢が生えるようにして走り去っていく


アルル:……。っ!シーカーさん、シーカーさん!


0:アルルはシーカーのもとへ駆け寄る


アルル:頭痛、大丈夫ですかっ


シーカー:それより、何でお前がこんな所にいやがる。


ルーベン:…僕のことかな


シーカー:お前以外に誰がいるんだよ。西エリアヘッドのリーダーが、なんでこんな所にいやがる。


アルル:……へ…?


ルーベン:…ああ、アルルちゃんとは、ただの店員とお客さんでいたかったのになぁ


シーカー:知ったことかよ。なんなんだ今日は、クロフォード、てめぇはなんでこうもヘッドに好かれてやがる。


アルル:ヘッド、ヘッドって、あのヘッド、ですか?


アーモンド:バクテリアでヘッドと言えば、東西南北の四強のことですよ。


アルル:アーモンドさんは、知ってて…?


アーモンド:はい。もちろん。有名人ですから、ルーベンくんは。


ルーベン:やめてください。


アルル:……ルーベンさん…


ルーベン:…ああ、そうだよ。僕は西エリアヘッド「バックホーム」のリーダー。


0:ルーベンは腕を捲り、刺青に刻まれるバックホームの名を見せた


ルーベン:ルーベン・スペンサーだ。


アルル:…ヘッド…。


0:アルルは身を乗り出した


アルル:じゃ、じゃあ……っ!


0:「力を貸してください」が言えなかった


アルル:……っ……


マオ:(回想)「アンタらが下手に動けば動くほど私達は不幸になるんだ…!」


アルル:……


マオ:(回想)「調子乗んなよ、アンタ一人がどうこうして、この世は良くならない。図々しいんだよ…!善人面しやがって…っ。」


アルル:(M)言え、ない。また、巻き込んじゃう。また、余計なことをしちゃう。もっと状況、悪くしちゃう。


ヨハン:(回想)「あの二人だけじゃない、お前のせいで、何百人という仲間が死んだ。お前の身勝手で未熟な正義感のせいで、だ。」


バイオレット:(回想)「余計な事ばかりするな、面倒事ばかり、お前のせいで仕事が増える。」


アルル:(M)私がやることなすこと、全部ダメで、迷惑ばっかりかけて、嫌われて、恨まれて、疎まれて。


0:マオの首吊り姿を思い出す


アルル:(M)…マオさんも、いなくなっちゃった。マオさんは優しいから、責めてもくれなかった。誰も残ってない。


カーズ:(回想)「口だけ達者。見栄だけ。やらない善よりやる偽善とは言うが、中途半端な救済は見捨てる事と同じさ」


アルル:(M)頑張ったんだけどな。私なりに。


0:ルーベンとアーモンドを見る


アルル:(M)…ルーベンさん、なんで守ってくれたんだろう。アーモンドさん、なんで助けてくれたんだろう。なんで、私なんかの前に立ってくれたんだろう。


シーカー:(回想)お前がやったんだろうが。何もしてねえわけじゃねえだろうが。お前が俺の酒代、引っ張り出したんだろうが。全部が全部余計じゃねえ。


0:アルルはシーカーの方へ振り返った


シーカー:…あ?なんだよ。


アルル:……。約束、守りました。


シーカー:…ああ。


アルル:まだ、駄目ですか


シーカー:……。


0:頭をかいた


シーカー:勝手にしろ。


アルル:……っ…。


シーカー:(回想)じゃあ切り分けろ。お前ができなかったことと、お前がやるべきことは、別だった。


アルル:(M)別だったら、もう1回、やってみていいですか。私、やっぱりまだ諦められないんです。やっぱり、人が死ぬのは、止めたいんです。それって、やるべきことで、いいですか。


シーカー:(回想)その時々の自分の手が届く、ギリギリをやってくしかねえんだよ。そういうもんなんだよ。


アルル:(M)……そんなの。


0:唇を結んだ


アルル:(M)勝手にしろって話ですよね。


ルーベン:アルルちゃん?大丈夫かい?


アルル:……っ…、ぁ、あの。


ルーベン:うん。


0:アルルは吐きそうになるのを必死に耐える


アルル:…ゎたし、あの。抗争……っ。


0:シーカーのコートの端を掴んだ


アルル:私、抗争、止めたいんです…っ。どっちかが、全員死んで、殺して、居なくなるまで続くような戦争、嫌なんです……っ。目の前で起きてることなのに、止められなくて、私、弱いから…っ。1人じゃ、何も出来ないんです……っ。


0:頭を下げた


アルル:だから、助け……っ、力を、貸してください、ルーベンさん。お願いします。


ルーベン:……。


0:ルーベンは座り、視線を合わせた


ルーベン:君には今、力も手段も人脈も無い。それでも、目の前で起きている惨劇に、別の終わらせ方を示したい。そうだね?


アルル:……は、い


ルーベン:だったら。


0:ルーベンはアルルの手を握った


ルーベン:手を貸そう。僕にも僕の事情があるからね。その方法を君が示すというのなら、僕が君に、力を貸す。


アルル:………


ルーベン:君を一方的に助けるんじゃない。君も、僕に力を貸してくれ。


アルル:……はぃ…っ、はい、はいっ。


0:頭を下げた


アルル:…ありがとうございます……っ!


0:場面転換

0:南エリア-第2コロニー


ドルムンク:(喀血)


0:ドルムンクが膝を着く


カーズ:……っ…!


0:カーズは振り向かず、ティダスタへ向かう


ティダスタ:来ないでって言ってるのに!!


カーズ:止まれねえんだよ、てめぇらが好き放題しやがったからな…!!


ドルムンク:(M)そうだ、それでいいんだ、カーズ。


カーズ:(M)まだ止まんな、足。最後だ、最後にこいつの首を持っていく、ドルムンクがここまで繋いだ、骨が折れてるくらいなんだ……!


ドルムンク:(M)ヘルフォードさん、あの若造が、あんなに立派になりやがった。


カーズ:(M)動け動け、動け…!!


ドルムンク:(M)止まるな、振り返るな。俺たちは、皆等しく


カーズ:ぉおおおおおおッ!


ドルムンク:(M)洛南の番犬だ。


0:蹴る。首からゴキっと音がする


ティダスタ:(M)あ……。首、折れちゃった。首が軽い。頭が重い。目が痛い。頭が熱い。


0:ティダスタは倒れる


ティダスタ:(M)負けちゃった。


0:その場にはカーズの荒い息だけが残っている


カーズ:……っ。ドルムンク。


ドルムンク:……流石です、カーズさん。


カーズ:傷口を硬化しろ。


ドルムンク:やってます。


カーズ:もっとだ、血が止まってねえ。


ドルムンク:……。


カーズ:敵将はとったが、まだ三女が居る。ロザリオも残ってる。まだ何も終わっちゃいねえ


0:カーズはドルムンクの手を握った


カーズ:悪いがまだ死なせてやれねえ。


ドルムンク:……。


カーズ:あの世であいつらと酒を飲むのは、まだちぃと待て。


ドルムンク:____はい。


0:轟音


エンネア:ティディーーー!!


カーズ:……ッ!


0:振り向く


ロザリオ:……ティディ…。


エンネア:…うそ……。


ロザリオ:負けたのね、ティディ。


カーズ:(M)嘘だろ……ちぃとくらい休憩させろや……!


ドルムンク:クソが……!


エンネア:嘘だよ、嘘、嘘だよ。


0:エンネアはティダスタの体を抱き上げた


エンネア:負けたなんて、嘘だよ。ね?ティディ。


ドルムンク:(M)なんだ、首を……


エンネア:お姉ちゃんと、結婚するんでしょ?せっかくの綺麗な顔が台無しだよ、だから。ほら。元に、戻って。


0:エンネアは無理矢理ティダスタの首を元の位置に戻した


ドルムンク:(M)無理矢理戻しやがった


カーズ:……!趣味が悪いどころの騒ぎじゃねえな…!


ドルムンク:死体まで弄ぶか。


エンネア:死体…?何言ってるの?


0:ティダスタの体が痙攣している


エンネア:死んでないよ。負けただけ。


ティダスタ:……ッ!ネア?


エンネア:ティディ、おはよう。


カーズ:…おいおい、まじか。


ドルムンク:カーズさん、確かにあいつの首、折ったよな


カーズ:ああ。確実に折った。


ドルムンク:人でなしだとは思ってたが、いよいよ、人ですらねえってか…


ロザリオ:ティディ。


ティダスタ:お姉様…。…!ご、ごめんなさい、負けちゃった、ごめんなさい、私、頑張ったんだけど、あの二人が、しつこくて、ごめんなさい、ごめんなさい…!


0:ティダスタはロザリオに抱きついた


ティダスタ:き、嫌いにならないで…!次は上手くやるから!もう負けないから!だから、失望しないで!


ロザリオ:ううん。失望はしているよ。私は家族に嘘をつかないから、正直に言っておくね。


ティダスタ:……


ロザリオ:それよりも、まずはそのお顔をどうにかしましょう。装備も、アポリアも、こんなに傷付いてる。


ティダスタ:心配してくれるの?


ロザリオ:勿論。失望しても、悲しくても、家族だもの。


0:ロザリオは立ち上がった


ロザリオ:今日は退くよ。そろそろ、後続の応援部隊が到着するんでしょう?


カーズ:相変わらず頭だけは良いんだな。


ロザリオ:ほら。だから今日は退くよ。私は前線で戦うような男臭い趣味はないから。


カーズ:そういう所が気に食わねえ。部下にだけ戦わせて、てめぇは涼しい快適なところで酒でも煽ってんだろうが。


ロザリオ:それで勝てるのだから、問題ないじゃない。


カーズ:逃げ帰るやつの台詞か、それが。


ロザリオ:持って帰るだけ。ネア、帰ろう。


エンネア:…うん。


ロザリオ:あら、怒っているの?


エンネア:あの二人、殺したいよ。とってもとっても殺したい。ドルムンクくんなんか、今にも死にそうなのに。でも、お姉ちゃんを危ないところに置いておきたくないから、帰るよ。


ロザリオ:いい子だね。


エンネア:ティディ、帰ろ。


ティダスタ:…うん…、


0:再び触手が運搬形態に変形する。


ロザリオ:お互い、随分消耗してしまったね。


カーズ:誰のせいだよ。


ロザリオ:次で、最後にしよっか。


カーズ:……なに?


ロザリオ:次の一手で、終わらせるよ。バンカーも、君も、ドルムンクも、ヘルフォードが遺した全部、終わらせるよ。


0:カーズの額に青筋が浮かぶ


カーズ:次、てめぇの臭ぇ口でその名前呼んでみろ。


0:つま先で地面を叩く


カーズ:てめぇの首だけでもとる。


エンネア:させないよ。


ロザリオ:言わせておきなさい、どうせしないもの。所詮番犬、敵が帰ると言うなら追わないの。第一世代の頃から何も変わらない、泥臭い田舎者の集まりだからね。


カーズ:ロザリオ。二度は言わねえぞ。


ロザリオ:ふふ、番犬が怒っているから、私達も帰りましょう。


エンネア:…うん。ティディ、しっかり捕まっててね。運んで、オクターちゃん。


0:三人はその場を去った。


ドルムンク:……次が、最後、ですかい。


カーズ:虚栄だ。向こうも損耗してる。次がねえのは、アルデンヌも同じだ。


0:カーズはドルムンクの肩をもった


カーズ:でけぇんだよお前


ドルムンク:すみません。


カーズ:帰るぞ。


ドルムンク:はい。


0:場面転換

0:ブルーストリート-監察課

0:中庭。テラスにて


アルル:次で最後、ですか…?


ルーベン:うん。うちのメンバーに、諜報員がいてね。アルデンヌもバンカーも、残存勢力に余裕は無いそうだよ。これ以上削れれば、今度はヘッド以外の連中に襲撃される。だから、次の侵攻が、最後になるだろう、と踏んでいる。


アルル:…そっか。ヘッドの敵って、ヘッド以外もいるんですもんね。バグテリアの人達は、皆ヘッドになりたいんだ。アーモンドさんも?


アーモンド:私は違いますよ。でも、殆どのバグテリア人は、ヘッドを目指してるんじゃないですかね。ヘッドになる恩恵は、この街の一部支配権に留まりませんから。


アルル:と、言うと


ルーベン:東西南北のエリアを統一すると、バラエティの傘下に加わることが出来るんだよ。


アルル:(M)またバラエティ。バグテリア発祥の大型マフィアグループとは聞いてたけど、そこまで権益が及んでいるのか。


アルル:じゃあ、ルーベンさんはマフィアになりたいってことですか?


ルーベン:少し違うかな。バラエティは、バグテリアのあらゆる物流をはじめ、国外との違法交易も、バラエティが執り行っている。


アルル:だから、バラエティの傘下に加わることのメリットは計り知れない、と。


ルーベン:そうだね。このモーテルだって、バラエティの子会社である建設業者が建てたんじゃないかな。


アルル:本当に、全部の親玉なんですね。


アーモンド:しかしバラエティによる政治支配が無ければ、無法地帯であるバグテリアは、とっくの昔に経済崩壊を迎えています。


ルーベン:だからこそ、支配構造を守る為に、ヘッドや、それに連なるバグテリア人に争いを促している。反発は全て、支配権の一個下に集中させる。実際に僕も、それを承知でヘッドの統一争いに参戦している。


アルル:分かっているのに、ですか


ルーベン:それを押しても、あまりある恩恵なんだよ。バラエティの傘下に加われるっていうのは。


アルル:……段々、わかってきました。私、本当に何も知らずにここで生きてたんだなぁ…


0:拳を握った


アルル:バラエティが、作ってるんですね。意図的に。この、物も、場所も、命も、奪っては奪い返す街を、作ってるんだ。全部、全部。


0:握った拳が緩くなる


アルル:……途方も無いなぁ


アーモンド:何がですか?


アルル:私が、本当にどうにかしたかった根本原因です。誰かを説得したり、倒せば終わりじゃないんですね。


アーモンド:ん???


アルル:え??


アーモンド:アルルさんは、この街そのものを変えたいってことですか?


アルル:はい。変えたいです。


アーモンド:…どのように?


アルル:……人が死ねば、ちゃんと悲しめる街に。人が死ぬことを、仕方ないで済ませられない街に、したいです。


アーモンド:はははは、荒唐無稽ですねっ。絵本の中の話みたいっ。


0:アーモンド爆笑。ルーベンは笑っていない


アルル:わ、わかってますっ、自分でも、具体的じゃないな、とは思ってます。そんなに笑わないでください…


ルーベン:つまりアルルちゃんは、この街の常識を変えたいってこと?


アルル:……笑わないで聞いてくれるんですか


ルーベン:うん。笑わないよ


アルル:……そうです。常識を変えたいです。


ルーベン:それは、大変なことだね。バグテリアの歴史は長い、そこに住み着く人も、文化も、そう簡単には変わらないよ。


アルル:はい、とっても。だから、途方も無いなぁって。


ルーベン:……。


アルル:それでも、地道にやります。私、諦めの悪さだけが取り柄なので。それでバグテリアの治安がよくなれば、本庁からも認めてもらえるはずです。


0:拳を握り直した


アルル:でも!それに拘りません!私が今やるべきなのは、南北抗争を、どちらかの全滅以外で終わらせることです!


ルーベン:…。


アルル:できることを、できる範囲で、ちょっとずつ頑張ります…!


ルーベン:うん。いいね、賛成だ。


アーモンド:では、ルーベンくんは、今日は退勤した、ということにしておきましょうか。お店を留守にしてしまっているので、私はこれで。


ルーベン:すみません


アルル:あ、ご、ごめんなさい!


アーモンド:いいですよ。その代わり、また来てくださいね。待ってますから。


アルル:…っ、はい!


0:アーモンドはその場を去った。


ルーベン:…さて。じゃあ、具体的な手段を考えようか。


アルル:はい!その前に、先生を呼んできてもいいですか!


ルーベン:先生?


アルル:シーカーさんです!私がいちばん辛い時に励ましてくれたので、あと!私より強くて頭がいいので!


ルーベン:べた褒めだね


アルル:はい、でも働かないのは嫌いです!では!呼んできます!


ルーベン:(M)……本当に、眩しい子だなぁ。


0:ルーベンはロケットペンダントを開いた


ルーベン:(M)皆に会わせてあげたいなぁ。少なくとも、ペトラとヨシュアとは、仲良くなれると思うなぁ。


0:ロケットペンダントを閉じる


ルーベン:(M)……アルルちゃんと敵じゃない内に、会ってほしいなぁ。


0:場面転換

0:北エリア-アルデンヌ邸


ティダスタ:……じゃあ、アズールは帰ってこないんだ。


エンネア:うん。私達のこと嫌いだって。酷いよ。


ティダスタ:記憶が無いなら、しょうがないんじゃない


エンネア:私、お姉ちゃんのことも、ティディのことも忘れないよ。


ロザリオ:仕方がないよ。


ティダスタ:お姉様…。


ロザリオ:ティダィ、フラガラッハは無事?


ティダスタ:…うん、今自己修復中。大破はしてないけど。


0:ティダスタは自分の触手を見た


ティダスタ:5日はかかるかも。ごめんなさい。


ロザリオ:そう。長いね。


ティダスタ:ごめんなさい。


ロザリオ:謝罪は不要だよ。起きてしまったことは仕方ない


ティダスタ:でも……


ロザリオ:謝って早く治るならそれでいいけれど。


ティダスタ:……


ロザリオ:最終侵攻は5日後に行おう。ティディのフラガラッハが治ってから。ネアのブリューナクは?


エンネア:『オクターちゃん』は無事!いつでも戦えるよ!


ロザリオ:そう。ならよかった。


エンネア:5日後かぁ。どうしようかなぁ。それまで何しようかなぁ。


ティダスタ:5日の間に、バンカーが攻め入る可能性は?


ロザリオ:ないよ。本邸に辿り着く前に息切れする。ただでさえ、残存の主戦力であるカーズと黒壁はまともに戦える状態でない。今攻め入る勝率が読めないほど阿呆ではないよ。腐っても、相手は南のヘッドだからね。


ティダスタ:わかった。じゃあ私、少しでも『アポリア』が早く治るよう頑張る。


ロザリオ:貴方が頑張っても意味ないじゃない。貴方が気合いを入れればフラガラッハの修復能力が上がるの?


ティダスタ:…それは、ならない。


エンネア:フラガラッハじゃないよ。アポリアだよ、お姉ちゃん。


ロザリオ:……ごめんね。悔しいの。劣等種に負けた事実が。ディディもさぞかし屈辱でしょう、死んでしまいたいほど


0:ロザリオはティダスタを抱いた


ロザリオ:だから次は、頑張ってね。信頼してるよ、君たちを。


ティダスタ:うん、うん…!


エンネア:はい!


0:場面転換

0:ブルーストリート-監察課


ヨハン:(M)あれから、何週間が経ったのだろう。


0:独房


ヨハン:(M)抗争は、どうなった。カーズさんは、ドルムンクさんは生きているのか。


0:まだ全快しない自分の体を一瞥する


ヨハン:(M)生きてて、ください。


0:扉が開く


シーカー:よし。まだ居るな。


ヨハン:……この状態で、どうやって逃げろと言うのか。


シーカー:お前ら何しでかすか分かんねぇんだよ。おい、入れ


アルル:…失礼します。


ヨハン:……二度と顔を見せるなと言ったはずだが。


ルーベン:やあ、久しぶり。ヨハン。


ヨハン:……ルーベン…!?


ルーベン:少し痩せたかな


ヨハン:…窶れたの間違いだろう。どういう風の吹き回しだ、バックホームのリーダーと、中央政府が、揃って私に、何の用だ。


アルル:……ヨハンさん。


ヨハン:なんだ。


アルル:……っ。力を、貸してください。


0:時間経過

0:南エリア-第1コロニー

0:『バンカー通り』


カーズ:……。


0:旧商店街


カーズ:……。


ドルムンク:散歩ですか、カーズさん。


カーズ:…怪我はもういいのか。


ドルムンク:あれから三日だ、それだけ寝れば十分ですよ。


カーズ:本当に頑丈だな、お前は。


ドルムンク:ええ、それだけが取り柄ですから。


カーズ:…。来ないな、アルデンヌ。


ドルムンク:そうですね。嵐の前の静けさ、と言うやつでしょうか。


カーズ:そうだな。


0:カーズは座り、煙草に火をつけた


カーズ:……。


ドルムンク:(M)本当は、声をかけてやりたい。ちゃんとやれている、と。ヘルフォードさんが遺したものを、少なくとも大切にできている、と。そう言ってやりたい。


0:ドルムンクは旧商店街を眺めた


ドルムンク:(M)でも、守れてはいねえ。沢山の人間が死んだ。あまりにも多くの人間が死んだ。大切にすることなんか、カーズさんにとっちゃあ、何の慰めにもなりゃしない。それが分かるから、俺も何も言えねえ。それでいい。仲良しごっこがやりたいわけじゃねえ。


0:カーズの背中を見る


ドルムンク:(M)それでも、アンタが、何かに押し潰されちまうんじゃないかと。そう思っちまう。腹心失格だ。こんなものは信頼してねえのと同じだ。一度この人について行くと決めたなら、虚勢でもその背中信じて支えんのが、俺の役割だってのに。


カーズ:…なんだ、ジロジロと見て。


ドルムンク:…いいえ。髪、伸びましたね。


カーズ:…まぁ、整えてられるほど暇じゃなかったからな。


ドルムンク:今は、暇ですがね、


カーズ:死んだだろ、ジョナス。


ドルムンク:……。


カーズ:あいつのカットじゃないと、決まんねぇんだよ。


ドルムンク:…意外と、そういうの気にするんですね


カーズ:まぁな。


ドルムンク:(M)気にしちゃいねぇ。分かってる。ジョナスにハサミ持たせて、ここで床屋やらせたのはカーズさん自身だ。今、戦いも終わってねえのに、他の奴に髪を切らせるのが、ジョナスを裏切ったような気持ちになんだろ。分かってんだよ。それが甘ったれた考えだって思っちまってることも。


0:拳を握る


ドルムンク:(M)あんたは、自分に厳し過ぎる…。


カーズ:……


0:カーズは煙草の箱を見て


カーズ:ドルムンク。煙草、あるか。


ドルムンク:…はい。どうぞ。


0:煙草を差し出す


カーズ:悪いな。


ドルムンク:……いえ。


0:火をつける


カーズ:寝てなくていいのか。


ドルムンク:さっき起きたばかりですので。


カーズ:…そうか。


ドルムンク:……なあ、カーズさ…


ティダスタ:(女)カーズさん!カーズさん!!


カーズ:なんだ。…アルデンヌが来たか


ティダスタ:(女)ち、違います!えっとその…!けほっ、けほっ。


ドルムンク:落ち着かねぇか、若の前だぞ。


ティダスタ:(女)すみません、あの…っ。帰ってきました…!


0:カーズの目が開く


ドルムンク:誰がだ


ティダスタ:(女)ヨハンさんです……!生きて、ました…!ヨハンさん、帰ってきました……!


カーズ:どこにいる。


ティダスタ:(女)医療所で休んでもらってます、酷い怪我で…!


カーズ:案内しろ


ティダスタ:(女)お呼びしなくていいんですか


カーズ:ヨハンは動かさなくていい。重症患者動かして死なれたら道塞がって迷惑だ。


ティダスタ:(女)は、はい!では案内します!


ドルムンク:(M)いつだってそうだ。仲間が死ねば、誰より悼む。仲間が生きてりゃあ、誰より喜ぶ。全部全部、誰にも見えねぇように。


カーズ:ドルムンク、何してんだ。行くぞ。


ドルムンク:……はい。


0:移動


ヨハン:……。


0:ヨハンはバンカー通りを眺めている


ヨハン:(M)帰って、きたんだな。まさか、帰ってこれるとは思わなかったな。


0:自分の腕を見る


ヨハン:(M)あの夜、死を覚悟したんだけどな。ようやく、死んだ仲間のもとへ行けると、嬉しくも思ったんだけどな……。


ティダスタ:(女)し、失礼します!


カーズ:……ヨハン。


ヨハン:(M)…でも、やっぱり生きて、また会えるの、嬉しいなぁ


0:ヨハンは頭を下げた


ヨハン:すみません。戻るのが遅くなりました。


カーズ:……っ…。


0:カーズは拳を強く握った


カーズ:死に損なったな。


ヨハン:はい、お陰様で。ご無事で、本当に、ご無事で何よりです。


ドルムンク:…よく戻った、ヨハン。


ヨハン:はい。不在の間、ご迷惑おかけしまた。


0:ヨハンはドルムンクの怪我を見た


ヨハン:それは、助かる怪我ですか。


ドルムンク:今生きている。それ以上のことは知らん。お前も、人のことは言えんように見えるがな


ヨハン:はい、情けない限りです。


ドルムンク:だがお互い、まだ死ぬ訳にはいかん。アルデンヌの最終攻撃が控えている。死ぬなら、そこで死ぬぞ。


ヨハン:……その件で、少しお話が。


カーズ:話せ。


ヨハン:……特務国際監察課、アルル・クロフォードが、この抗争を止める、とのことです。


ドルムンク:……なに…?


カーズ:またあいつか。止めるとは、なんの根拠を持ってして言ってんだ。


ヨハン:西エリアヘッド「バックホーム」リーダー。ルーベンが協力します。


カーズ:…は…?ルーベンが?


ヨハン:はい。この目と耳で確認しました、間違いありません。バックホームが総力を上げて、この抗争を終わらせます。


ドルムンク:俺達は介入しなくていいということか


ヨハン:はい。これ以上、余計な死を増やさなくてよくなる。


カーズ:言い方気ぃつけろや。バンカー通りを守るための命だ、余計なわけがあるか。


ヨハン:これ以上の死は、余計です。


ドルムンク:おい、ヨハン


ヨハン:ですので、我々はもう、この抗争から、手を引きましょう。そしてこれで、もう。手打ちに、しましょう。


0:静寂


カーズ:てめぇ、今。なんて言った。


ヨハン:手打ちにしましょう。


ドルムンク:…なるほど、お前、アルデンヌに拉致されてたわけじゃねえのか。


ヨハン:監察課です。


カーズ:そうか。つまり伝書鳩ってことだな。それがお前が解放された理由なんだな。


ヨハン:はい。


カーズ:少しでもお前が戻ってきて良かったと思った自分が馬鹿らしくなってくるな。


ヨハン:……


カーズ:この惨状の中で、昨日同じ飯食った奴の死体の前で。怒りに震えてる生き残った連中の前で。


0:ヨハンの髪を掴む


カーズ:手打ちだぁ?よく言えたもんだな。


ヨハン:……はい。


カーズ:手打ちの意味分かってんのか。こんだけやられちゃあ、もう落とし所なんかねえんだよ。


ヨハン:じゃあ作ってください。


カーズ:舐めてんのかお前。


ドルムンク:カーズさん


カーズ:すっこんでろ。今はヨハンと話してる。


ヨハン:最後まで交戦したら、もう余力がない。次に狙われるのは、我々です。東郷が来るでしょう。ヘッドの座を狙う烏合の衆も、黙ってはいない。これでは勝てど負けども、賊軍です。


カーズ:この先の事と、この惨状への落とし前は別だ。


ヨハン:では同じにして滅びれば満足ですか!


カーズ:その根拠がどこにある。あの監察官の言う事に耳を傾けろってのか?何も出来ねえ、ジャッカルを殺した、口だけの女に!俺達の何を賭けろって言ってんだてめぇ!


ヨハン:…っ、バンカー通りの存続を、です…!ルーベンは、抗争後の、ヘッド争奪における恐慌を危惧している……っ。戦い続ければ、敵は増え、驚異も増える!私達が完全に倒れて、それに応戦できるだけの余力が、今のバンカーのどこにあるって言うんですか!私達の敵は、アルデンヌだけなんですか!?


カーズ:こんだけ死んで、防衛線壊されたお返しが手打ちじゃあ、安すぎるっつってんだよ!それも、俺らの関係ねえところで抗争が終わるだとか抜かしやがる、てめぇはあいつらの命を、手切れ金にするってのか!


ヨハン:そうです!!


ドルムンク:……


ヨハン:現状維持、勢力図は何も変わらない、ただ互いに消耗しただけ、決着は私達の外でつく、全部その通りです…!それでも、誰も彼も、このバンカー通りを守る為に、散った命です、結果としてどんな名前がつこうが、あいつらの死にそれ以上も以下もない……!カーズさんがさっき、自分で言ったことじゃないですか……っ。


カーズ:ッ……


ヨハン:私だって、私だって悔しい…!私も最初これを聞いた時は、血管が裂けるかと思うほど腹が立った、でも図星だった…!


0:ヨハンはカーズの肩を掴んだ


ヨハン:心のどこかで分かってました…っ。これに勝っても、その後の戦いに勝てないって、分かってたから、分かってても納得できないから、腹が立ちました……!


カーズ:だったら……!


ヨハン:それでも、死んだ奴らの命を、滅びる為に使うよりは、少しはマシだと思いませんか……!


カーズ:……。


0:カーズの手が上がる。それをドルムンクが止めた


ドルムンク:カーズさん。


カーズ:…っ…。10分寄越せ。頭ァ冷やしてくる。


0:カーズは医療所を後にした。


ヨハン:……。


ドルムンク:久しぶりに見たな、カーズさんが声を荒らげるところ。


ヨハン:私は初めて見ました。怖かったです。


ドルムンク:ああ、怖くなったな。


ヨハン:……昔は違ったと?


ドルムンク:本人に聞け。今度こそ殺されるだろうがな。


0:ドルムンクはベッドに腰掛け、煙草に火をつけた


ヨハン:…ドルムンクさんは、反対しないんですね。


ドルムンク:…反対だ。気持ちでは、な。


ヨハン:……


ドルムンク:カーズさんの気持ちは痛いほどわかる。これじゃあ示しがつかねえ。死んだ連中には勿論、生き残った連中にも、これだけの犠牲を払って何も得られなかった、と説明しなきゃならねえ。組織士気に関わる問題だ。


0:煙を吐く


ドルムンク:だが今、目の前のモンに欲かけば、後が無くなるなんてのは、カーズさんだって分かってる。だから、カーズさんの判断に従う。


ヨハン:その結果、バンカーが滅びても、ですか。


ドルムンク:そうだ。


ヨハン:……。


ドルムンク:滅びるなら、俺はあの人の判断のもとで、あの人と共に滅びる。


ヨハン:……そうですよね。


ドルムンク:お前の方がらしくねえように思うがな。カーズさんに楯突くのは何度かあったが、率先して報復戦に乗り出すのがお前だと思っていたが。


ヨハン:……。アルル・クロフォードに、言われました。


0:回想

0:ブルーストリート-監察課-独房


アルル:私は、やっぱり、こんな終わらせ方、嫌なんです……!


ヨハン:(M)幼稚な発想は変わらず、身の丈を知らぬ大言壮語ばかり。


アルル:貴方達は、勝って、滅びれば、満足なんですか…っ。そんな事のために、ジャッカルさんはマオさんを捨てて、本人の前で拒絶までさせて、カーズを庇って死んだんですか…!!


ヨハン:(M)今思い返しても腹が立ちますよ。


アルル:そんな事のためにジャッカルさんが死んだなら、死んだマオさんは、どうなるんですか…っ。それで死ぬほど苦しくて、辛かった私まで、馬鹿みたいじゃないですか…!


ヨハン:(M)自分勝手で、意味不明で、稚拙で。


アルル:今生きてる人の為に、生きてくださいよ……っ。


ヨハン:(M)それでいて、一切の濁りがない本音だった。私達が、口を裂けても言えないような言葉を、簡単に吐き出しやがる。それがまたムカつく。そんなこと分かってる。わかってる上で、黙って死ぬのが、この街の掟だ。


アルル:嫌です。その掟は、あなたの大切な人が守ってくれるんですか……?…全部変えろなんえて言ってません、それを叶えられるくらいの何かを、私は、持ってないから。


0:悔しそうに拳を握る


アルル:でも今は、力になれる。なります。今度こそ、なります。だから今だけ、今だけでいいんです。力を、貸してください。


0:頭を下げた


アルル:この戦いから、身を引いてください。あとは、私達に、任せてください。


0:回想終了

0:南エリア-バンカー通り-医療所

0:ドルムンクは黙って話を聞いていた。


ドルムンク:……。そうか。死んだのか、マオは。


ヨハン:…はい。首を括って、監察課モーテルで死んだそうです。


ドルムンク:……そうか。それでも折れねえか、アルル・クロフォード。


ヨハン:それどころか、また一層図太くなりやがりましたよ。図々しくなった。


ドルムンク:なんの影響かねぇ


ヨハン:「良い先生を持ったから、先生に似た」らしいです。


ドルムンク:そうか。そいつは、余計なことをしてくれやがったな。


ヨハン:まっくですね…。ありがとうございます、聞いてくれて。


ドルムンク:構わねえ。俺やカーズさんが話さなすぎるだけだ。お前らまで無理して一緒になることはねえ。


ヨハン:……では、さっきのが、カーズさんの本心、ってことなんでしょうか。


ドルムンク:本人に聞けっつってんだろ。


ヨハン:殺されます。


ドルムンク:……死んでもいいから、一度くらい吐かせてやりたいもんだがな。


ヨハン:カーズさんの本心をですか?


ドルムンク:弱音だよ。


ヨハン:……。


ドルムンク:……さて、そろそろ戻ってくる。今のは聞かなかったことにしてくれ。


ヨハン:それは難しいですが、他言はしません。


ドルムンク:充分だ。


0:医療所の外

0:タバコを吸おうとするが、タバコがない


カーズ:……。


0:座り込み、頭を抱える


カーズ:(M)ヘルフォードさん。


0:バンカー通りを眺める


カーズ:(M)なあ、ヘルフォードさん。


0:返答はない


カーズ:(M)こんなのって、ありかよ。ショーケース壊されて、いの一番に攻め込んだアルデンヌと、手打ちだってよ。床屋も、モールも、基地も、何もかも壊されたんだぜ。何百人と死んだんだ。パッチも、ジョナスもガガも死んだんだよ。そのツケが、手打ちだなんて、ありかよ。


0:雪が降っている


カーズ:(M)ヘルフォードさん。アンタなら、どうしてた。受け入れられたか。バンカー通りを守る為に、あいつらの死を、手切れ金にできたか。


0:返答はない


カーズ:(M)死人に、口はねえか。


0:返答はない


カーズ:(M)……会いてぇなぁ。ちくしょう。


0:医療所

0:扉が開く


ヨハン:…!


ドルムンク:おかえりなさい、カーズさん。


ヨハン:おかえりなさい。


カーズ:ああ。


0:カーズは座った


カーズ:ドルムンク、煙草くれ


ドルムンク:はい。


0:火をつけ、煙を吐く

0:ドルムンクもヨハンも、カーズの返答を急かさない


カーズ:………。


0:天井を眺めた。


カーズ:バンカーは。この戦いから手を引く。


ヨハン:……!それって…っ。


ドルムンク:バックホームと監察課のガキがアルデンヌを止めりゃあ、もう介入しないってことですか


カーズ:そうだ。


ドルムンク:報復戦も、追撃も、強襲もなしですかい。


カーズ:なしだ。


0:煙を深く吐き、拳を握った


カーズ:____手打ちにする。


ヨハン:…〜〜っ……


ドルムンク:……。


0:ドルムンクは頭を下げた


ドルムンク:分かりました。


0:場面転換

0:ブルーストリート-監察課


アルル:……。


シーカー:ソワソワしまくってんな、新人。


アルル:はい。手、引いてくれるでしょうか。


ルーベン:カーズの性格から考えるに、引かないだろうね。


アルル:うっ


シーカー:だがもう賭けちまったんだろ?じゃあ祈るしかねえだろ。ギャンブルの決め手は、どれだけ都合よく神を信じれるかだ。


ルーベン:説得力が違いますね、先生


シーカー:世界一保存状態の良い反面教師だからな。


ルーベン:自分で言いますか


シーカー:他人に言われる前に自分で言うほうが一回分得だろ。


0:通信機がなる


アルル:…!つ、通信…!ヨハンさんからですか!?


ルーベン:…うん。出るよ。


アルル:は、はい…っ


0:ルーベンは通信機を開いた


ルーベン:もしもし、ヨハンかい。


ヨハン:そうだ。待たせたな、話がついた。


ルーベン:……聞かせてくれ


ヨハン:……バンカーは、この抗争から手を引く。後処理は、バックホームに任せる。それが、カーズさんの判断だ。


アルル:……!


ルーベン:……そうか。…ありがとう。


ヨハン:だがお前達がしくじれば、どの道私たちが出ることになるんだ。せいぜい潰しあえ


ルーベン:ああ、善処するよ。


ヨハン:本当に分かっているのか。


アルル:あ、あのっ…!アルルです!


ヨハン:声を聞けばわかる。


アルル:ヨハンさん、ありがとうございます!!


ヨハン:……


アルル:絶対、絶対絶対、アルデンヌ止めます!この抗争、終わらせますっ。絶対に……!


ヨハン:……。カーズさんに変わるぞ


アルル:えっ


カーズ:…よお。アルル・クロフォード。


アルル:……お久しぶりです。カーズ・ジョーン


カーズ:あれから半月で、また随分と大口叩いてくれるじゃねえか。


アルル:口だけにはしません。


カーズ:お前の言葉には信用がない。今回手を引くのは、バンカー通りの最善を思って、だ。ヨハンも言ったが、てめぇらが下手こけば、俺達はまたアルデンヌと全面交戦する。


アルル:…させませんよ。絶対に。


カーズ:……お前がきっかけでショーケースが壊れたからか?


アルル:何がですか


カーズ:ジャッカルは死んだ。マオも首括って死んだんだろ。お前がこの抗争に肩入れする理由は、もうないってのに、まだこうして介入しやがる。それは、てめぇがきっかけで何百人と死んだからか。


アルル:……。


0:まっすぐ


アルル:きっかけは、そうです。


カーズ:何したって死んだ命は戻らねえぞ。てめぇが綺麗な人間に戻るわけでもねえ。


アルル:それでも、やります。五年後、笑い話にしなきゃいけないので。


カーズ:手前勝手な話だな


アルル:承知の上です。貴方達の言う掟とやらに従う気にはなれませんでした。だから私も、私なりのやり方で、この街と、戦います。


カーズ:……その「戦う」が、この抗争を手打ちにすることだってか?


アルル:そうです。今は、それが戦いです。


カーズ:その先があるみてぇじゃねえか。


アルル:……はい。あります。この街、変えます。


カーズ:……


アルル:なんででしょうね、私、この街に散々酷い目にあわされてきたのに。不思議と、嫌いになれません。だって皆、話せば良い人ばっかりだったから。私にはどうしても、貴方達が、根っからの悪人には思えませんでした。


カーズ:幼稚な妄想だな


アルル:分かるんです。本当にもうダメなやつと、そうじゃないヤツ。分かったんです。半月前に。


カーズ:……。


アルル:貴方達が、ちゃんと悲しめるようにしてやりますから、覚悟してください


カーズ:悲しむことが罰のように言いやがる。


アルル:罰ですよ、きっと死にたくなります。だから、それまで死なないでください。


0:カーズは笑った


カーズ:そりゃあ、楽しみだ。


アルル:はい。楽しみにしててください。


0:通信が切れた。


アルル:……。


ルーベン:はは、宣戦布告に終わるとはね。


シーカー:ヒヤヒヤしたぁ〜〜…


アルル:シーカーさん。


シーカー:うおっ、なに。


アルル:シーカーさんは、着いてきてくれますか


シーカー:嫌だよ、怖いもん。


アルル:……


0:思わず笑った


アルル:やっぱりシーカーさんは、シーカーさんですね


シーカー:馬鹿にされた?


ルーベン:されて然るべきかと


シーカー:お前本当に


アルル:いいんです!私もう、シーカーさんに沢山貰いましたっ。ルーベンさんに力を貸してもらったのも、力を貸したのも、私ですしっ。


ルーベン:うん。そうだね。


アルル:それに、そうやって自分勝手を押し付けるなら、そういうのがいいです。殺すとかより、戦いたくないとか、死にたくないとか、そういうのが好きです。みっともなくても、ずっとずっとそっちの方がカッコイイと思います


シーカー:……なんだそりゃ


アルル:私が好きだから賛成しましたっ。この抗争は嫌いなので止めます!


ルーベン:結局は君も、君の自分勝手の為に生きるということだ。


アルル:はい。でも、この街のルールからは脱線しまくりますっ、私ルールですっ。


シーカー:元からだったが、また図太さに拍車がかかったなぁ…


アルル:先生に似ました!


シーカー:しょうもねえとこ似るんじゃねえよ


アルル:ルーベンさん。改めて、よろしくお願いします。


ルーベン:うん、よろしく。


0:ルーベンは立ち上がった


ルーベン:じゃあ、行こうか。西エリア。バックホームの拠点に


アルル:……!ルーベンさんのご実家!え、えっと、それって、バックホームの皆さんも協力してくださるってことですか?


ルーベン:うん。バックホームも総力を上げて、この抗争を終わらせるよ。今は、余計な混乱を作りたくない。


シーカー:今じゃなけりゃあ、北も南も共倒れでよかった、ってことか。


ルーベン:うん。そうだよ。


アルル:……


ルーベン:だけど、今はダメなんだ。


アルル:それはその、どうしてですか?


ルーベン:……


0:ルーベンはロケットペンダントを握った


ルーベン:僕は、家族を守るべきだから。


シーカー:(M)なあ、エリーシャ。何かが動き出しちまう気がする。大昔にしまったもんが、今になって蓋を開けようとしてやがるんだ。


0:シーカーは煙草に火をつけた


シーカー:(M)今更やり直しが出来るわけでもねえのに。また先生と呼ばれている。思えば、新人の馬鹿みてぇな正義感は、どこかお前に似てる。


0:シーカーはアルルの顔を見た


シーカー:(M)未練がましいなぁ。


0:場面転換

0:アルデンヌ本邸


ロザリオ:さて、私も準備をしましょうか。


ティダスタ:うん、何でもするよ。


エンネア:なにすればいい?


ロザリオ:パレードの準備をしましょう。


エンネア:え!え!


ティダスタ:パレード…もうやるの?


ロザリオ:うん。ここが勝負時だからね。出し惜しみはしないことにしたんだ


エンネア:じゃあ!『エリーシャ』に会えるんだね!久しぶりに!


ロザリオ:そうだよ。ティディ、第六倉庫を開いておいてくれる?


ティダスタ:勿論。


ロザリオ:(M)出来ればエリーシャは、統一戦まで温存しておきたかったのだけど。


0:ロザリオは指を舐めた


ロザリオ:(M)でも、バンカーさえ潰せれば、あとは猿と引きこもりのままごと連中だけ。今回減った分の人形はまた増やせる。アズさえ回収出来れば十分お釣りが来る。


ティダスタ:お姉様、こちらに。


ロザリオ:うん。


エンネア:わぁ〜!エリーシャ、久しぶりだね!ずいぶん埃かぶっちゃって……可哀想に……。


ティダスタ:これだけ大きいと、掃除も大変だから


エンネア:なんだっけ、確か、インド象モチーフなんだっけ。


ティダスタ:ファラリスの雄牛だよ。


エンネア:あぁそう!それそれ!それの、雌牛バージョン!


ティダスタ:そう、ファラリスの雌牛


エンネア:大きくなっても可愛いね、素敵だね!びーぶー!


ロザリオ:……起きてちょうだい、エリーシャ。パレードの時間だよ。


0:第六倉庫には、縦尺12Mはある巨大な雌牛の異常器


ロザリオ:アズも、この街に戻っていたの。この戦いが終わったら、いいえ待たずとも、近い内に、アズを迎えに行きましょう。


0:ファラリスの雌牛を指で撫でる


ロザリオ:愛娘が帰ってきてくれたら、エリーシャも嬉しいでしょ?

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