Re:裏切り者達の午前
【監視者達の午後 承×継】
Re:裏切り者達の午前
登場人物:
アインズ:男。19歳。アインズ・ブローカー。アーヘン高等学院生徒。
カルビス:男。18歳。カルビス・ラングナー。アーヘン高等学院生徒。
アズール:女。16歳。アズール・パロ。アーヘン高等学院生徒。
ヘンゼル:女。17歳。ヘンゼル・オズボーン。アーヘン高等学院生徒。※アルルを兼役
シーカー:男。24歳シーカー・グレイスマン。準一等監察官。アーヘン高等学院教官。
エリーシャ:女。23歳エリーシャ・パロ。四等監察官。アーヘン高等学院教官。※グランシオラを兼役
レオン:男。33歳。男。レオン・ハルト。準一等等監察官。
アインズ:(M)俺の人生の始まりは、マミーの腹から零れ出て、おぎゃあと産声をあげた日だ。…逆を返して。俺の人生の終わりは、出会った日だ。
カルビス:「お前を、本当の意味で相棒にする為にだ」
アインズ:(M)くどい様だが、俺の人生の終わりは
カルビス:「アインズ。俺と取引をしろ」
アインズ:(M)こいつと、出会っちまった日だ。
0:8年前
0:1983年。4月
0:アーヘン高等学院。入学式当日
ヘンゼル:(M)春。アーヘンは大規模な感覚誤認が巡らされた異常性領域の中にあり、決まったルート、手順でないと足を踏み入れる事は出来ないようになっている。7時間程、アーヘン専用列車に揺られて到着したそこには…
エリーシャ:(アナウンス)次は終点アーヘン。アーヘンに到着します。忘れ物のないよう、ご注意下さい
ヘンゼル:やっと到着か…。長かった…
アインズ:おい、俺に絡むなって何回言ったら分かる。
カルビス:別にいいだろぅ〜?暇なんだよ、他の奴らピリピリしてるしよぉ〜
アインズ:俺だってピリついてるだろうが見て分かれや
カルビス:いけずぅ〜名前くらい教えてくれよ
アインズ:断る。
ヘンゼル:(M)この列車には、私以外にも今期アーヘンに入学する面々も当然乗っていた。新生活に浮き足立ってる奴らもいれば、何かを心に決めた奴もいる
アズール:…。あの
ヘンゼル:へ?
アズール:通るから、どいて
ヘンゼル:あ、ああ…ごめん…
アズール:…(歩く)
ヘンゼル:(M)…あんな感じで何を考えてるか分からない奴も居る…。まあ、命を賭ける仕事を目指してる奴らの考える事なんか、私にわかるはずも無い。列車の扉が音を立てて開くと…
0:ヘンゼルは足を踏み出した
ヘンゼル:…おお…!
エリーシャ:新入生の皆さん、ようこそ!アーヘン高等学院へ!学院までは一本道ですが、私が案内しますっ。どうぞこちらに並んでください
ヘンゼル:あ、あの…!あの綺麗な花は…?
エリーシャ:ああ、あれは桜、ですね。
ヘンゼル:桜…。もしかして、日本の?
エリーシャ:はい。新入生のホームシック対策に、様々な国の植物を植えたり、文化的建造物を建てているんです。
ヘンゼル:はぁ〜…通りで、見慣れた建物も花もあるわけだ…
エリーシャ:ええ。色んな綺麗な花がありますけど、中でも桜はとびきり綺麗ですよね。この季節にしか咲かない花なので、私とても好きなんです。っと、話してる場合じゃない、シーカーさんに怒られる…。皆さん!こちらへ並んでください!
ヘンゼル:(M)私には夢がある。ある程度の成績を残して中央政府情報局に入り、ある程度の出会いがあって、ある程度の旦那を捕まえて、ある程度の幸せを享受すること。異能の力を操る異常体が年々増え続ける現代は、とにかく不安定だ。だからこそ私は決めたのだ!中央政府に入り、ある程度の幸せを安定して享受し続けると!そのための第一歩が、アーヘン高等学院を卒業することっ。ふふん、私の計画に狂いは…無い!
ヘンゼル:『裏切り者達の午前!』
0:場面転換
0:アーヘン高等学院。職員室
シーカー:…さて、そろそろか。
レオン:ふむ…今年は多いな。
シーカー:ああ、面倒な事が無ければいいがな。
レオン:お前の出世コースに傷がつくってか?
シーカー:そうだ。アーヘンで教鞭を取るのが昇格への早道だからな、お前もそうだろうが?娘の〜あー、名前また忘れた。なんて言ったっけ
レオン:ジュリアンな。本当に他人に興味が無い。名前覚えろ
シーカー:うるさい。そのージュリアンちゃんにもかっこいい所見せるだのなんだの息巻いてたじゃないか
レオン:ああ、そうだな。さっさと一等監察官に昇格してやるさ。この前の昇格祝いにはペンダントを買ってやったからなあ。ジュリアンの名前入りでなあ。次は何を買ってやろうかなあ?「また」お前よりも早く昇格した暁にはなあ?
シーカー:殺す。しかし、まさかお前と二年も一緒に教鞭を取る羽目になるとは思いもしなかったがな。とんだ地獄だ。
レオン:はは、相変わらず牙が鋭いな、まあだが、概ね同意だ。面倒見る生徒だけでもお利口さんであることを祈るよ
シーカー:いいかレオン、準一等の昇格はお前の方が先だったが、今回は俺が先に本庁に帰り一等監察官に昇格する。指くわえて見ておけよ
レオン:お前こそ、また同期の俺に置いていかれる覚悟しておけ。啜り泣く覚悟をだぞ
シーカー:殺す
レオン:やってみろ
0:二人は職員室を出た
シーカー:それじゃあな、レオン
レオン:ああ。お前の受け持つクラスがてんやわんやになる事を期待してるぞ、シーカー
シーカー:殺す
ヘンゼル:(M)簡単な入学式を終えた後、私たちはそれぞれの担当クラスへと配属された。集会所から教室に行くだけでも歩いて30分かかる。アーヘンとかいう場所は広過ぎる。一体いくら金かかってんだ…。
エリーシャ:はーい、皆さんの教室はここです。入ってください。
ヘンゼル:おお…教室も広い…
シーカー:教室に入ったら早く座れ。席は適当に決めろ
ヘンゼル:えっ、あ、はいっ。
シーカー:さっさとしろ。そこ、喧嘩するな
ヘンゼル:(M)プライドの高そうな男。そいつに浮き足立つ気持ちを一瞬で地に落とされた。ムカつく
シーカー:今日から学徒の華に咲く生徒諸君。まずは中央立アーヘン高等学院への入学おめでとう。今日からお前達の教官を務めるシーカー・グレイスマン準一等監察官だ。これから二年間、お前達には異常体を殺す術を骨の髄まで叩き込む。つまりだ、地獄へようこそ
カルビス:地獄ねえ…
アインズ:…。
アズール:ふぁぁ…眠。
ヘンゼル:(M)私のクラスは全員で24人。その中でも、三人。列車の中でも少し見た気がするが、明らかに佇まいが他とは一線を画す奴らが居た。一目見て分かる。アイツらは私とは違う、特別な人間達だと
エリーシャ:あ、えっと。えっと、私はエリーシャ・パロと言います。シーカー教官の副担任として皆さんの学生生活をサポートします。どうぞ、よろしくお願いします。
ヘンゼル:(M)さっきの男とは違い、私達の案内をしてくれた物腰の柔らかい女性教師も居た。取り入るならまずはあの女からだな
シーカー:まずは施設の案内…の前に、お前達がなぜアーヘンに来たのか。今一度ここで宣言してもらう。これから先の2年間は地獄。卒業後も地獄は続く。その一歩を踏み出すと言う意味でだ。
エリーシャ:それでは、出席番号順からお願いします。まず最初に…マイク・ポッセくん
生徒:はい!オラマイクっていいますダ!オラは故郷の村のみんなを楽させる為に来ましたダ!お願いしますダ!
ヘンゼル:(M)点呼され、一人一人アーヘンに来た目的、中央に入ってやりたい事を順々に述べる。何奴も此奴も似たようなものだ。家族が異常体に殺された復讐とか、正義感とか、世のためだとか、耳触りの良い言葉を並べている。
エリーシャ:次、アインズ・ブローカーくん、お願いします
アインズ:……俺がアーヘンに来た目的については言うつもりはありません。これは俺の中に秘めたものです。わざわざ声に出さなくても、俺の中にこれはしっかりとある。以上です。
ヘンゼル:(M)逆張りと言うかなんと言うか、教師陣は苦い顔を隠せず、案の定教室は静まり返った。
カルビス:…へえ。いいじゃなァい
ヘンゼル:(M)その一人を除いて
カルビス:じゃあ次、誰も喋らないようなんで俺から。俺はカルビス・ラングナーって言うんだ、皆よろしく。俺が中央に行きたいのは金の為だ。そんだけだ。それ以上は無い
エリーシャ:…あ、え…えっと…
ヘンゼル:(M)再び教室の空気が終わる。
シーカー:…はあ。勝手に話し始めるな。…面倒事の匂いしかしねえぞクソが…。もういい、次。アズール・パロ
ヘンゼル:(M)私の隣の席の女。年齢は…15~6歳くらいか?アーヘンには色んな年齢の人が居るけど、この子は特段若いな…
アズール:はい。私がアーヘンに来たのは……世の中を知る為です。
ヘンゼル:(M)ガクっとした。机に置いた肘がガクッとした。やっぱり特別な人間って言うのは、どこかがおかしいらしい。
シーカー:…アズール・パロ…。エリーシャ、お前と同じ苗字だな?
エリーシャ:は、はい。その…アズールは私の娘でして…
シーカー:は?
アインズ:あ?
ヘンゼル:えっ
カルビス:ひょお
シーカー:おまま、おま、既婚者だったのか…??
エリーシャ:あ、えっと、育ての親…と言う奴なので養子、ですね
シーカー:はあ…えぇっと…?
アズール:私は捨て子です。エリーシャ教官に長年保護してもらってました
シーカー:ああ…そうなの…
エリーシャ:ただ、父親も居なくて、家では一人にさせてしまう機会が多かったので…。でもこの子は凄いんですよっ。私なんかよりもずっと凄いんですよ。皆さん、なにぶん世間知らずで失礼な部分もある娘でしょうけど、仲良くしてあげてくださいっ。
ヘンゼル:(M)あーーあーーもうやめましょうよ。入学早々気まづいって本当に。
シーカー:ああ…あ〜。もういい。もういいわなんか…。じゃあ出席番号次。
ヘンゼル:(M)シーカー教官も頭が痛い、といった表情で点呼が続く。それ以降の自己紹介は多少の気まずさはあれど平和だった。
シーカー:はい、次。ヘンゼル・オズボーン。
ヘンゼル:はい。
0:ヘンゼルは席を立つ
ヘンゼル:初めまして、ヘンゼルと言います。私が中央に来たのは……その、皆さんのように立派な目的は無いですけど、私なんかでも世の中の役に立つ事があるなら…と思いまして…
シーカー:…そうか。
ヘンゼル:はい
エリーシャ:立派ですねえ
ヘンゼル:(M)嘘です。さっきのカルビスなんたらと大差無いです。絶対職に困らないのが中央政府だからです。それ以上ないです。
シーカー:アーヘンを卒業した後は?
ヘンゼル:へ
シーカー:みんな言ってるだろう。何がしたい?
ヘンゼル:あ、あー…えっと。…情報局に入りたいです
エリーシャ:あら…情報局にですか
シーカー:専門資格や知識が無い場合、監察局である程度の実績を積まないと情報局への異動は認められない。分かってるな?
ヘンゼル:は、はい…!私身体を使うのはあまり得意では無いので…!学問の方で頑張ろうと思います…!
シーカー:そうか。あまり賢そうには見えないが、まあ頑張るといい
ヘンゼル:はい(#^ω^)頑張ります(#^ω^)
シーカー:では次。
ヘンゼル:(M)出だしは最低、こうして私の青く華々しい学院生活が始まった。その日は午前中に校内案内を済ませ、午後に異常性検査を受けた。人は、いつ、誰が異常体になるか分からない。異常体である事を自覚しないまま生活していた、というケースもある為、私達は週に一度この異常性検査を受けるのだ。私達が人である事の証明、とでも言えばいいだろうか。
シーカー:ヘンゼル・オズボーン。問題無し。
ヘンゼル:痛ぁぁ…頭が割れるように痛い…異常性検査ってこんな痛いんだ…。
生徒:オラ…オラもう嫁さいけねえだ…
ヘンゼル:マイク、きみ男だろ、なあマイク。泣くなよマイク
生徒:うう…
シーカー:次、アズール・パロ。検査台に寝転べ。
アズール:はい。
ヘンゼル:(M)あ、隣の席の…。ひひひ、あの仏頂面が崩れる瞬間が楽しみだ……
アズール:…。
シーカー:問題なし…だが、痛くないのか?
アズール:?いえ、特に
シーカー:そっすか…
ヘンゼル:(M)うわ。きも。やっぱり私達とは違うんだ。
シーカー:次。アインズ・ブローカー。
アインズ:…はい。
カルビス:…。
ヘンゼル:(M)出たな人外二号。もういいよ、どうせお前も人間らしくない反応するんだほ
シーカー:ぽちっとな
アインズ:あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ヘンゼル:(M)マーモットか
カルビス:おいおい、大袈裟だな。そんな痛いのかよあれ
ヘンゼル:君は…カルビスって言ったっけ
カルビス:はいそうです。情けないねえ、男があんな喚き散らして…
ヘンゼル:自信満々だ。
カルビス:そりゃあそうさ。なんたって俺はカルビスだぞ
ヘンゼル:へえ…
シーカー:次、カルビス・ラングナー。
カルビス:はいはい待ってましたよぉ
ヘンゼル:(M)まあ、正直あの3人の中で一番人間らしくないのはあのカルビスという男だ。なんと言うか、人とは思えないほど薄っぺらい。全てにおいて。
シーカー:ぽちっとな
ヘンゼル:(M)こうして、異常性検査が終わった。当然だが、誰一人問題は無かった。
エリーシャ:皆さん、お疲れ様でした。
カルビス:えうっ…えうっ…酷いや…こんなの…こんなの人間の所業じゃない…えうっ…
ヘンゼル:泣くなよ
アインズ:こんなのが週に一回もあるのか…
アズール:…あ。雨、降る。
ヘンゼル:え?こんないい天気なのに…
エリーシャ:あら、シーカーさん。雨が
シーカー:ん。ああ、マジだな。この後は校庭走らせようと思ってたが…予定が狂っちまう。
ヘンゼル:はええ…
シーカー:まあいい。今日はこの辺りで終わりにしよう。渡しておいた資料に寮の案内が書いてある。これから2年間はそこがお前らの家だ。
ヘンゼル:(M)こうして入学一日目が終わった。明日からはいよいよ情報局への道が始まる。さあ〜さ、私はせこく先生達に媚び売って出世街道を歩みますかね!
エリーシャ:『裏切り者達の午前』
0:翌日
シーカー:今日は走り込みだ!我々人類が、超常の力を扱う異常体と戦う為に必要な物はたった二つ、フィジカルと判断力だ。体力が無くては戦えない!息が切れては冷静な判断は出来ない。
生徒:はい。
アインズ:はい。
アズール:はい
カルビス:脳筋が…
ヘンゼル:はい!分かりました!おっしゃる通りだと思います!
エリーシャ:ヘンゼルちゃんは元気がいいですねえ、素敵だと思います!
ヘンゼル:へへ、そりゃもう!尊敬する未来の先輩達のお言葉ですから!有難く頂戴しますとも!
シーカー:ああ、いいなお前は。見込みがある。利口な生徒は好きだ
ヘンゼル:へへ、へへへ…へへへへへへへ
ヘンゼル:(M)へへへ馬鹿が!誰が真面目に走り込みなんかやるかってんでい!それなり〜にこなして終いにしてやる!
0:30分後
ヘンゼル:はあっ…はあッ…おえっ…おええっ…!
生徒:はあ、はぁっ。すまん、ヘンゼル、オラは、もう、無理…
ヘンゼル:マイク!なんでそんなこと言うんだマイク!
生徒:オラぁ…腹いっぱい…食いたかったんだ…
ヘンゼル:おい…!しっかりしろマイク!裏切るなマイク!置いていくな私を!マイク!
生徒:オフクロ…(倒れた)
ヘンゼル:マイクーーー!
エリーシャ:マイク・ポッセくん脱落!
0:2人は走っている
アインズ:マイク…良い奴だったな…
アズール:死んだみたいに
アインズ:にしてもお前、若いのに凄いな。着いていくのがやっとだぞ。
アズール:まだペース上げられるけど。
アインズ:そりゃあきついな。勘弁してくれ
ヘンゼル:(M)くそ、私も、私ももう脱落したい…!したいのに…!
シーカー:おい、どうしたお前!さっきのー名前なんて言ったっけ!忘れたけど!さっきまでの意気込みはどうした!走れ!
ヘンゼル:(M)くそぉ〜気に入られすぎてコイツずっと着いてくるよぉ〜。嫌だァ〜サボれないぃ〜。ああ、くそ…雨降れ!雨降れ!降らないか。…あれ?あの木陰にいるの…
カルビス:( ˇωˇ )zZZ…
ヘンゼル:(M)カルビス・rrrングナーァァ〜っ!寝とるやんけぇ〜!サボっとるやんけ〜!殺すぞーーー!
シーカー:お前!どこを見ている!
ヘンゼル:いやあの、あそこに、あのっ……酸欠で、言葉が出ない…っ。
シーカー:そうか!泣き言は走り終わったら聞く!あと少しだ、頑張れ!
ヘンゼル:(M)あ、死ぬ。私はそう思った。畜生ぉ…見込みが甘かったか…アーヘン高等学院は…思っていたよりも…遥かに……キビチィ…
0:ヘンゼル、気絶
シーカー:立て!お前!名前忘れたけど、なんか意気込みのいい生徒!立て!
ヘンゼル:(M)じゃあ忘れんなよ名前
エリーシャ:シーカーさんっ。ヘンゼルちゃん気を失ってます!
シーカー:なんでだ!
エリーシャ:酸欠です!
ヘンゼル:(M)薄目に見えたのは…
アズール:…あれ。また誰か寝てる…。ねえ、あそこで倒れてるの(走っている)
アインズ:ああ、ヘンゼル・オズボーンだったか。死んでんな(走っている)
ヘンゼル:(M)集団の2周先に走る人外達二人が、何食わぬ顔で私の横を走り過ぎて行く光景。そして…
カルビス:ふわぁ〜( ³ω³).。o…あ。ヘンゼル!駄目だろう授業中に寝てちゃ〜!こら〜!
ヘンゼル:(M)殺すぞ
エリーシャ:カルビスくん、ヘンゼルちゃんはその、酸欠で倒れてしまって…
カルビス:なに!それは大変だ!教官殿!自分は彼女を医務室に連れていくであります!
ヘンゼル:(M)サボる気じゃねえか
0:カルビスはヘンゼルを背負った
カルビス:よっこらせ。あ、結構重い。
ヘンゼル:(M)殺すぞ
アズール:『裏切り者達の午前』
0:場面転換
0:アーヘン高等学院医務室
ヘンゼル:(M)…目が覚めた。…見知らぬ天井…
カルビス:よお、目ェ覚めたか。
0:ヘンゼルはベッドで寝ている
ヘンゼル:…カルビス…ラングナー…
カルビス:随分気持ちよさそうに寝てたじゃねえか
ヘンゼル:あんたが人のこと言えるかっての…
カルビス:お?やっぱりお前だな、俺のサボりに気付いたのは。
ヘンゼル:は?気付いてたのか?寝てたろ
カルビス:サボりに余念は欠かさねえのよ。まあ、お前と…あとアズール・オズボーン。あいつにはバレちまったみたいだが
ヘンゼル:結構ガバガバじゃないか
カルビス:こんな筈じゃあなかったんですがねえ。まあ、アズールにバレてるってことは…
0:扉が開く
アズール:お疲れ、大丈夫?
アインズ:…
ヘンゼル:人外共…
アズール:じんがい?
カルビス:ようよう、お二人さん。学友が心配で来たのか?
アインズ:授業終わったから呼んで来いってシーカー教官に使い走りされたんだ。そろそろ意識が戻る頃だろってな
カルビス:どんなエスパーだよ、本職監察官はちげぇなあ
アズール:体調が優れないなら今日は休んでていいって言ってたけど。どう?
ヘンゼル:ん、ああ。…うぅ〜ん…大丈夫!
ヘンゼル:(M)面倒臭いけど初日から休みなんて心象悪いしな!
アインズ:…それより、カルビス・ラングナー
カルビス:はいぃ?
アインズ:アズールから聞いたぞ。お前、この走り込みの時間ずっと寝てたんだってな
ヘンゼル:そうだそうだ!卑怯だぞお前だけ!
カルビス:ああそうさ?俺は非力なもんで、お前らみたいに走り込みしてたら、それこそヘンゼルみたいにぶっ倒れちまうよ
ヘンゼル:開き直りやがった…
カルビス:うるせえやい、お前ら脳筋とは体の出来が違うんだよ。悪い意味で
アインズ:そうか。だったらお前は退学する事を勧める
ヘンゼル:おお
カルビス:ほお
アズール:…
アインズ:中央政府に入ろうとする奴らは皆、それなりの覚悟や信念を持ってる。見たとこお前は職務を放棄するクソ野郎だ。
カルビス:言い過ぎ。傷ついちゃうよ
アインズ:中央職員は誰かを傷つける責任のある仕事だ。「やる振り」すら出来ねえなら帰れ。お前みたいなのが悪戯に異常体を蔑ろにして、虐げるんだ
カルビス:バグ野郎の肩持ってるヤバ変人みっけ〜
アインズ:あ?
カルビス:おお?怒った?怒っちゃった?
アインズ:いい度胸だテメェ、表出ろ。
ヘンゼル:ちょちょちょっと待った!喧嘩はよくない!
アズール:でも今のはカルビスが悪いと思う。私でもわかる
カルビス:ヘンゼルぅ、俺の味方してくれよお、こんな屈強な悪漢に敵うはずがないよぉ、一方的にボコボコにされちまうよぉ
ヘンゼル:入学してすぐわかった、こいつは、カルビスは屑だ
カルビス:!
ヘンゼル:ドが付く超ド級のド屑だ。それでも…同じ生徒だ…!
カルビス:!
ヘンゼル:だから生徒同士で喧嘩なんて、罰則を受ける!私は面倒事の無い平穏な学院生活を望んでるんだ!やるなら私の関係ない場所でやってくれ!
カルビス:!?
アインズ:そうか。じゃあカルビス・ラングナー。今日の放課後、校舎裏で待ってる。
カルビス:そんなベタな…
アインズ:今の言葉、すぐに泣いて撤回させてやるからな
カルビス:うーーーん。
アインズ:なんだ?逃げるのか?
カルビス:俺、お前みたいな奴苦手なんだよ。脳みそが筋肉で出来てる奴
アインズ:ほう?
ヘンゼル:だーかーら、なんで余計な刺激するんだよっ。
カルビス:ただ、列車の中で見た時にだな。一目見りゃ分かったよ。お前は嘘つきだ。
アインズ:…
カルビス:お前の化けの皮の下が何色なのか、見てみたい。
ヘンゼル:(M)私が今後見る中でこの瞬間が一番、不気味に、そして楽しそうに笑っていた。私がカルビス・ラングナーの腹の底を見たのは、これが最初で最後だった
シーカー:『裏切り者達の午前』
0:アーヘン高等学院。職員室
エリーシャ:シーカーさん、今日も一日、お疲れ様でした!
シーカー:ああ、お疲れ様。どうだエリィ、やっていけそうか
エリーシャ:はい!折角ガウディさんに無理言ってシーカーさんと一緒にアーヘン入りしたんですから、無理とは言いませんよ!頑張りますっ。
レオン:相変わらずガウディさんも甘いな。ええ?
シーカー:レオン…
エリーシャ:お疲れ様です、レオンさんっ。
レオン:ああお疲れ様。どうだシーカー?そっちのクラスは
シーカー:問題児は居るが、まあ予想の範疇で済んだ。お前の方こそどうだ
レオン:こっちは全員優秀だ。それなりの監察官の卵が揃ってるよ。
シーカー:ふん、所詮はくじ運だ。
エリーシャ:お二人は本当に喧嘩ばかりですね…本庁に居た頃からですが…
レオン:なんだ?お前らは同じ特務班に居たんだろう?聞いてないのか?
ヘンゼル:(N)説明しよう!特務班とは!中央政府最強の男、特等監察官ホトバシ・カンラが認めた、僅か四人の監察官、執行官で編成される超優秀な次世代エース達が集う班なのだ!因みに今期の特務班メンバーは、ホトバシ・カンラを筆頭に、一等監察官ガウディ・クロフォードが副班長として大活躍している。そして…
エリーシャ:そうなんです、勿論何度か気になって聞いたんですけど答えてくれなくて…
ヘンゼル:(N)エリーシャ・パロっ。現階級は三等監察官と、まだまだ新人ではあるものの、そのやる気を変われ、一等監察官ガウディ・クロフォードから推薦され特務班入りを果たしたのだ!
シーカー:何でわざわざ答える必要がある。俺はな、レオンの顔を思い浮かべただけで腸が煮えくり返りそうになるんだ。
ヘンゼル:(N)シーカー・グレイスマン。現階級は準一等監察官。その若さながら、怒涛の勢いで昇格を繰り返している正真正銘の次世代エース、その筆頭株なのだ!
シーカー:そもそもお前は特務班に招集の声すら掛かってないんだ。こっちの事情に口を出すな
レオン:俺だって招集を受けた。エリーシャ立っての希望だ、という事で辞退したいんだよ
シーカー:はぁ!?そんなのか!?
エリーシャ:あ、はは、実はそうなんです。その節はありがとうございます
レオン:もういいと何回も言っただろう。
シーカー:何故だ、自ら出世街道を外れるなんて、お前らしくもない
レオン:言っておくが、俺はお前と違って出世の為だけに生き急いでいる訳じゃない。後の世代に託す事だって必要な事だ。
シーカー:ぐぬぬ
エリーシャ:まあまあ、そう喧嘩せず…。因みにお二人の仲が悪いのはまだ内緒ですか?
レオン:別に隠すような事でもないだろう。俺とシーカーは同期なんだ。
エリーシャ:あ、そうなんですか!年齢も開いてらっしゃるのでてっきり…
シーカー:あ〜もう。アーヘンの年齢層のバラつきを見ても分かるだろ。年齢は関係ない
エリーシャ:確かに
レオン:こいつ、いやに昔から俺に突っかかってきてな
シーカー:おい、言うな
レオン:ほう、惚れた女の前では格好付けたいか?
シーカー:おまっ、お前さあ!!ほんとさぁ!!
エリーシャ:?
レオン:はは、まあ。シーカーは昔からプライドが高かったからな。自分より歳上のジジイが、自分と同じスピードで昇格するのが許せなかったんだろう。何より俺はお前より常に一歩先に昇格していたからな
シーカー:はい殺す。絶対に殺す
エリーシャ:はぁ〜そうなんですねぇ
レオン:まさしく目の上のタンコブだったんだろう。最も、何かと因縁があるのも事実だ。シーカーが特務班入りしてからは数ヶ月顔すら見なかったが
シーカー:出来れば一生見たくねえよはげ。ただ、アーヘン入りする監察官のリストを見れば…またこいつが居やがった。
エリーシャ:ああ…私のアーヘン入りに散々反対したのはそういう事ですか…
シーカー:黙れ
レオン:まあ、可愛らしいじゃないか
シーカー:お前のそういうところが嫌いなんだよっ。余裕ぶりやがって…!
レオン:ほうほう、相変わらず牙が鋭い。ピリッとくるねえ。
エリーシャ:何はともあれ、ですよっ。ここに居る間は同じ教官なんですからっ。喧嘩は駄目です!
シーカー:うるせえなあ…オカンかお前は
エリーシャ:今までは先輩でしたけど、今は私よりも若い子達が見てるんですっ。このまま言われっぱなしだと思わないでくださいね。私も本庁に帰る頃には、ホトバシさんとガウディさん、オリバーちゃんに迷惑かけないよう見違えないといけないんですから!
レオン:ほぉーう、言われてやんの
シーカー:この…。
エリーシャ:あ!いいこと思いつきました!無事カリキュラム一日目を終えたので、飲みに行きましょう!明日から更に気合い入れるぞってことで!
レオン:ほお、飲みにか。
シーカー:待て待て待て待て、駄目だ。明日もカリキュラムがある。
エリーシャ:えっ。何でですか!
シーカー:何でもクソもあるか!お前は自覚が無いのか!?
エリーシャ:あります!私はお酒が好きです!
シーカー:知ってるよ!だからやめろっつってんだよ!
レオン:何をそんな拒むことがある、いいじゃないか。俺も程々に酒は好きだ。
シーカー:レオン、お前は知らないだろうがこいつは…。
エリーシャ:じゃあ決まりですね!行きましょー!
シーカー:おい、待て!やめろ!離せ!お前本当に馬鹿力だなエリィ!!あ待って本当に痛い!やめて!!ついて行くから!やめて!
レオン:『裏切り者達の午前』
エリーシャ:かんぱーーーい!
レオン:乾杯
シーカー:頼む…もってくれよ俺の肝臓…
0:翌日
ヘンゼル:(M)再び朝が来た。昨日、アインズとカルビスの二人の行く末が気になって校舎裏で隠れてたけど、結局二人とも姿を現さなかった。
アズール:ヘンゼル、おはよう
ヘンゼル:アズール、おはよ〜
0:二人は廊下を歩いている
アズール:アズでいいよ、言いづらいでしょ。エリーシャからもそう呼ばれてる。
ヘンゼル:お、じゃあアズで。って言うか本当にエリーシャ教官の娘さんなんだねえ。一応養子なんだっけ?
アズール:そう、アズールって名前を付けてくれたのもエリーシャ
ヘンゼル:そっか、好きなんだね。エリーシャ教官のこと
アズール:うん。好きだよ。女手一人で育ててくれたから、感謝してる。
ヘンゼル:そっかぁー、いいお母さんだ。私もね、お母さん大好き。お母さんの作るシチューがこの世で一番美味いんだ。アズはそういうの無い?
アズール:エリーシャは…料理が下手だから
ヘンゼル:はは、そっか。確かに、ちょっと抜けてる所あるもんね。
アズール:そう、特にお酒飲みすぎた日は酷い。月に一回は全裸で帰ってくるんだ
ヘンゼル:ゼッ…ああ見えてお酒好きなんだね…
アズール:酔った時のエリーシャは面倒臭いんだ。沢山吐くし暴れるし泣くし、掃除も大変
ヘンゼル:そっかー。そっか。
0:ヘンゼルは笑った
アズール:?どうしたの?
ヘンゼル:ううん、こうして話してみると、アズって普通なんだなーっと思って
アズール:…そう?それは…喜んでいいの?
ヘンゼル:勿論、最大の褒め言葉だよ
アズール:そっか、なら良かった。
0:二人は扉を開けた
ヘンゼル:おはようございまーす
アズール:おはようございます
エリーシャ:おはようございます、ヘンゼルちゃん、アズ。
ヘンゼル:あ、お、おはようございます、エリーシャさん
アズール:おはよう
エリーシャ:こらアズ、ここでは先生なんだから、敬語使わないと駄目って言ったじゃないですか
アズール:エリーシャだって私の事アズって呼んでる
エリーシャ:私はいいのっ。
アズール:理不尽
ヘンゼル:(M)さっきの話聞いた後だとちょっと気まづいな…。
0:ヘンゼルは教室を見渡した
ヘンゼル:…カルビスとアインズは…まだ来てないか
アズール:ああ、そう言えば…あの後どうなったの?
ヘンゼル:それが私にも分からないんだよね…
アズール:…心配?
ヘンゼル:う、うーん。なんと言うか…怖い、かな。
アズール:怖い…?
生徒:おー、ヘンゼル、アズール、おはようっ。今日もいい天気だべ〜。お天道様に感謝だべ
ヘンゼル:おはようマイク
アズール:おはよ
ヘンゼル:マイク、アインズとカルビス知らない?
生徒:んん?知らねえべな。あ、でも昨日のはなんだったんだべかな…
ヘンゼル:昨日?何かあったの?
生徒:いやね、オラ知っての通りすげえ便秘でよ?二時間くらいトイレで踏ん張っててだナ、そんでトイレ済ませて帰ろうと思ったら、屋上の方でぶぉ〜〜んって音がしたんだぁ
ヘンゼル:ぶぉーーん?アズは聞いた?
アズール:授業終わってすぐ寮戻ったから分からない。エリーシャ、知ってる?
エリーシャ:昨日は先生達も飲みに行って出かけてたから分からないですね…
ヘンゼル:飲みに…?
アズール:飲みに…?
エリーシャ:あ。いや、あはは。嗜む程度にですよ?
生徒:まあ、もしかしたら気のせいかもしれねえけんどナ!がはは
エリーシャ:二人が休むとは連絡受けてないですし…少し心配ですね
ヘンゼル:入学早々なにやってんだアイツらは…
アズール:忘れてた、今日日直だ。準備してくる
ヘンゼル:あ、手伝うよ
アズール:ありがと
生徒:オラも手伝うダよ〜
ヘンゼル:(M)結局、始業のチャイムが鳴っても二人は現れなかった。そして…
エリーシャ:えー、それでは今日のカリキュラムを始めますっ。よろしくお願いしますっ。
ヘンゼル:あれ?シーカー教官はお休みですか?
生徒:レオン先生も来てないって隣のクラスの奴らが言ってべよ〜
エリーシャ:ああ…えっと…あはは…
アズール:…
ヘンゼル:もしかして、先生達も、アインズとカルビスと一緒になにかあったんじゃ…!
生徒:そりゃあ大変だべ!やべえやべえ!
エリーシャ:いや、その…えっと…それは関係ないんじゃないですかね…?
ヘンゼル:じゃあ何でシーカー教官は来ないんですか?
エリーシャ:もにょもにょ
0:アズールは何かを感じた
アズール:エリーシャ。
エリーシャ:…
アズール:昨日、飲みに行ったんだったよね
エリーシャ:……
アズール:エリーシャ
エリーシャ:……はい…。シーカー教官とレオン教官は……二日酔いでお休みです…私が連れ回したせいです…すみません…
アズール:エリーシャ。反省して
エリーシャ:はい。すみません。
ヘンゼル:(M)本当に大丈夫かこの学校…。私はそう思った。
レオン:おろろろろろろろろろ
シーカー:おろろろろろろろろろ
ヘンゼル:(M)因みにレオン教官とシーカー教官は、その翌日も頭を痛そうにしていた。
エリーシャ:『裏切り者達の午前』
0:2ヶ月後。
0:1983年。6月
ヘンゼル:(M)地獄の学院生活が始まって2ヶ月が経過した。相変わらず毎日が地獄だけど、慣れれば案外どうにかなるものだ。クラスの皆とも徐々に打ち解けてきた、ある程度住み慣れた寮、迷わなくなった通学路、扉を開くと見知った顔の面々が居る。今日も地獄が始まる。
シーカー:…「異常性」それは一切のプロセスも過程もなしに超常的な力を引き出す能力である。
エリーシャ:えっと、えっと。異常性は…全人類がその種を持っているとされ、これが重症化すると先程話した力を意図的に引き起こす事のできる危険人物…となる。
シーカー:はい。それを、なんと呼ぶか。あー、そうだな。えーっと、名前なんて言ったっけか。お前
エリーシャ:アズールですよ
シーカー:そうだ。アズール、答えを
アズール:…あ、はい。重症化異常性保有体。我々が呼ぶところの、「異常体」となります。
シーカー:はい、よろしい。
エリーシャ:重症化した異常性は極めて危険、とされています。各異常体が保有する能力は様々だけど、その危険性は警戒ステージによって大きく分類されます。ヘンゼル、ステージ分類の説明は出来る?
ヘンゼル:はいっ。異常性警戒ステージは1から5まで。
ヘンゼル:ステージ1、危険性は極めて低い。被害予想は死傷者1〜3人程度。
ヘンゼル:ステージ2、被害予想は死傷者5〜10人程度
ヘンゼル:えっと…ステージ3、ここから警戒態勢が変わるものとし、被害予想はひとつの市町村を再起不能にする程度
ヘンゼル:ステージ4、被害予想は巨大都市、洲など、大規模な経済崩壊程度
ヘンゼル:ステージ5、超警戒態勢の発令。被害予想は1国家の経済崩壊、軍力を再起不能にする程度。…以上です
アズール:付け加えて言うとすれば、一般的には公開されないものですが、ステージ6。大陸全土に及ぶ、戦争規模の被害が想定される程度。これで全部だ
ヘンゼル:お、覚えてるしっ。覚えてるしそんくらいっ。
エリーシャ:凄いですねアズール。私でも暗唱できるか怪しいのに…
シーカー:お前は出来ないと不味いだろ。一応教師だろうが
エリーシャ:あはは…すみません…
シーカー:まあいい。で、異常体を監察し、情報局へ報告をするのが。我々、中央政府監察局員の義務だ。
アズール:はい。承知しております
シーカー:うん。基礎知識はもう大丈夫だな。体術、射術、学術。全て置いて完璧と言える。
エリーシャ:えへへ
シーカー:なんでお前が照れる。
エリーシャ:だってだって…アズール、流石ですよ、本当に凄いです。私と違って、アズールはきっと良い監察官になれます
アズール:ありがとうございます。
シーカー:まあ実際にアズールは優秀だが…それに比べて……あの馬鹿共はどうした?
アズール:アインズとカルビスですか?
シーカー:そうだ。あのサボり魔共は?なぜ教室に居ない。
ヘンゼル:そりゃやっぱりサボりですよ
シーカー:まあ、サボり魔だしな…。本当アイツら、今度まじでシバく。ちょっとマジ本気殴りするぞ
エリーシャ:体罰は良くないですよ
シーカー:うるさい、痛みが最良の躾だ。
ヘンゼル:(M)ここはアーヘン高等学院。世界最大規模の公的機関。中央政府、その職員育成の為の学校
エリーシャ:うぅん…真面目にやってれば凄く優秀な二人なんですけどねえ…
シーカー:真面目にやってれば、な。
ヘンゼル:(M)厳格で有名なアーヘンは無事卒業出来ればある程度の成功された人生が確約される。命の危機が伴う仕事だが、絶対に無くならない仕事であり、社会的信頼はどの職業よりも高く、ローン組み放題、公共交通機関の無料化等、様々な優遇措置が施されている。
シーカー:あー、もういい。取り敢えず今日の授業を終える。あの二人を見つけたらすぐに突き出すように。
エリーシャ:シーカーさん、あの、まあ、程々に…
ヘンゼル:(M)普通なら、皆が固い決意や、揺るがない意思の元この学院に足を運ぶ。普通なら。…ただ、やっぱり普通じゃない奴っていうのも中には居る
0:場面転換
0:どこかの道路
アインズ:ひゃっほぉーーーぅ!!
カルビス:いぇーーーーーい!
アインズ:おいおいカルビスゥ!いつの間にバイクの免許なんかとったんだよ!最高だなおい!
カルビス:馬鹿野郎、俺が免許なんかとってるわけねえだろ。冗談きついぜ
アインズ:そりゃあそうだァ〜!じゃあこのバイクはどうしたんだ?
カルビス:それこそ盗ってきた
アインズ:かぁ〜お前は最低最悪のクソ野郎だぜ〜っ。最高だ
ヘンゼル:(M)入学早々、三日間の無断欠席が明けてから、険悪に見えたカルビス・ラングナーとアインズ・ブローカーの二人は、何故か急に意気投合しだした。
アインズ:ところでこれスピード出しすぎじゃあねえかぁ!?なんのジェットコースターだこりゃあ!
カルビス:折角のドライブだろうがぁ?ええ?このくらいのスピード出さないでどうするよぉ
ヘンゼル:(M)そして二人は、シーカー教官が毎日頭を抱えるほどの問題児となった。かつてコソコソとサボっていた姿は見る影も無くなり、堂々と授業をサボり、何度も問題行動を起こす。
アインズ:おいカルビス
カルビス:あ?
アインズ:おい前見ろ前!トラック!
カルビス:あ、死ぬ
ヘンゼル:(M)私の日常は、朝起きて学校に通い、授業を受けて飯を食べる。そして、二人の問題行動を耳に挟んでは爆笑する。この繰り返しになった。
0:アーヘン高等学院職員室
0:電話が鳴っている。
エリーシャ:は、はいはい!もしもし、こちらアーヘン高等学院です。どうされましたか?…え…?は、はい。確かに私達の生徒です…
シーカー:…はあ……。
レオン:また頭を抱えているな、シーカー。
シーカー:レオン…。俺には嫌いな事が二つある。ひとつは、お前が口角をあげて嫌味たらしく話しかけてくること。ふたつ、お前に話しかけられる事だ。なんでお前は俺が嫌がる事を同時に二つもしてくる。
レオン:おいおいおい、俺が来期で先に昇格するからって機嫌悪いな??お前より先に一等監察官になるからって。なあ??
シーカー:ああ?俺はまだ24歳だ。将来性の塊なんだよ
レオン:年齢の話しだしたら負け惜しみも遠吠えにしかならねえなあ
シーカー:最終的に特等監察官になるのは俺だ。
レオン:まずは一等昇格の話を貰ってから強がれよシーカー
シーカー:強がりじゃねえよ殺すぞ
レオン:やってみろ
エリーシャ:た、大変ですっ。喧嘩してる場合じゃないですよおふたりとも!
シーカー:あぁ!?
エリーシャ:こわ…。何でいっつもそんなにピリついてるんですか……そんな事よりっ。カルビスくんとアインズくんが大変なんですよ!
シーカー:はぁ?
レオン:あの問題児共がどうした。
エリーシャ:その、無免許運転で事故にあったらしいです…
シーカー:な…
レオン:かはは!お前のクラスは問題だらけだなシーカー!
シーカー:〜〜っ…あの馬鹿野郎ども…!
0:場面転換
0:中央病院
カルビス:…
アインズ:…
0:二人は頭を抱えている
アインズ:お前のせいだぞクソ野郎。
カルビス:なんでこうなっちまったんでしょうか
アインズ:前見ねえからだろうが。どうすんだこの足。
カルビス:捻っただけだろうが
アインズ:もう無理だって。厳しいって。痛いって
カルビス:ああ〜俺はムチ打ちがぁよぉ〜
アインズ:捻っただけだろうが
カルビス:もう無理だって。厳しいって。痛いって
アインズ:畜生…
カルビス:どう言い訳したもんかなぁ…
アインズ:シーカーの阿呆、怒るよな…
0:電話が鳴る
カルビス:…ヘンゼルからだ
アインズ:出ろよ
ヘンゼル:「あ、もしもし〜?く、ぷぶぶ。またやらかしたんだって?」
カルビス:嬉しそうだなおい
ヘンゼル:「そりゃだって、毎度毎度面白過ぎるんだもん。」
アインズ:おいヘンゼル、シーカーの野郎、怒ってたか?
ヘンゼル:「んー?んーふふ。今から向かうって行ってたから分かるんじゃないかな」
カルビス:は?
アインズ:は?
ヘンゼル:「そんじゃ頑張ってねー問題児共!」
0:通話が終わる
アインズ:おい待て!ヘンゼル!
カルビス:見捨てるな!弁護士を呼べ!
アインズ:マイク!助けてくれマイク!
0:病室の扉が開く
シーカー:はあ、はぁっ…!お前ら…!お前らぁぁ…っ。
アインズ:はいー怒ってるー
カルビス:よおシーカー。今日はいい天気だな?
アインズ:こんないい天気の日に声を荒らげるのはやめておいた方がいい、お天道様もびっくりしちまうからな
シーカー:黙れ。
カルビス:めっちゃキレてるぅ〜
アインズ:何がぁ駄目だったんでしょうか
シーカー:お前らのせいでまた始末書だ。この腐れ問題児ども
カルビス:そんな怒んなよシーカー
シーカー:シーカー・グレイスマン教官だ。殺すぞ
カルビス:こわ
シーカー:俺はお前らが憎い。何故ならお前達が問題を起こす度に俺の業務時間が増えるからだ。本当に殺してしまいそうだ
アインズ:こわ
シーカー:なんでお前達は真面目に授業を受ける事が出来ないんだ?なあ?お前、名前なんつったっけ?
アインズ:アインズ・ブローカーです。いい加減覚えてください
シーカー:そうだアインズ、お前は入学当初もう少し真面目だったよな??
アインズ:全部カルビスが悪いんだ
カルビス:え
アインズ:俺ァ唆されたんだ…!俺は中央の為、世のため人のために学び舎に来たって言うのに、こいつが!カルビス・ラングナーが!
カルビス:はぁぁぁ?
シーカー:ラングナー…。
カルビス:え?信じんのぉ??
シーカー:もういい。どの道、ラングナーは二週間の謹慎処分だ。
カルビス:俺だけ????
アインズ:どんまい
カルビス:恨むぜアインズ
アインズ:なんか奢るって
シーカー:とにかく、頼むからもう面倒ごとは起こさないでくれよ…。俺の昇進の傷になる
カルビス:はいはい
0:場面転換
0:アーヘン高等学院。教室
アズール:…
0:アズールは荷物を整理している
ヘンゼル:アズ!いっしょに帰ろ〜っ
アズール:うん。ちょっと待ってて
ヘンゼル:てか聞いた?カルビスとアインズのこと
アズール:?何も聞いてないよ
0:ヘンゼルはアズールの耳元で話す
ヘンゼル:…無免で事故って入院中らしいよ
アズール:本当にアホだねあいつら
ヘンゼル:ねー。二人とも成績だけはいいのに。勿体なーい
アズール:真面目に中央入りするつもりは無いって事じゃない?ヘンゼルだってそうでしょ
ヘンゼル:え?私?
アズール:入学式で言ってたじゃん。ほら、情報局に入るのが目的だって
ヘンゼル:あーーー……そう言えばあったねえ、そんな事。って言うかよくそんなこと覚えてるね
アズール:わたし記憶力良いから
ヘンゼル:アズって無意識に人をイラつかせるタイプだよね
アズール:そうなのかな。
ヘンゼル:まあまあ、私は心が広いからいいけど。
アズール:怒ってるよ
ヘンゼル:怒ってないです
アズール:怒ってるよ。そういう匂いだから
ヘンゼル:…。はいそうですちょっと怒ってますーー。ふん。
アズール:よく嘘つくもんね、ヘンゼルは
ヘンゼル:妙に鋭いのがまたムカつく。確かにわたしは嘘つきだけど、カルビスよりマシでしょーよ
アズール:カルビスは…嘘が服着て歩いてるようなものだから。それに比べたらヘンゼルは人間らしくて好きだよ
ヘンゼル:私からすればあんた達三人が人間らしくなさ過ぎて嫌になるよ、これは成績の話しね?
アズール:そうかな。
ヘンゼル:そうだよ。アンタらみたいなのは人間らしいコミュニケーションが出来ないくせに、人間より遥かに優れてる。多分、アンタら三人が今後世界が変わる時に名前を残すような奴らなんだなって思うね。ホント、ムカつくな〜
アズール:だからヘンゼルは情報局に行きたいの?
ヘンゼル:そうだよ。私はアンタらみたいに特別な人間じゃない。だから平々凡々に。自分の手が届く、身の丈にあった幸福で満足なんです〜
アズール:買い被りだよ。私も、アインズも、カルビスも、同じだよ
ヘンゼル:嫌味か。ったく。
レオン:お。シーカーのクラスの
ヘンゼル:あ、レオン教官〜!
アズール:お疲れ様です。
レオン:お疲れ様、今帰りか
ヘンゼル:はい。あ。ぷぷ。ちょっと聞いてくださいよレオン教官!
レオン:なんだ?
ヘンゼル:ぷぷ、カルビスとアインズがまた問題起こしたんですよ。 先週は教官殴り飛ばして謹慎処分、先月は桜の木燃やして処分!今度は無免で事故ったんですよっ。ぷぷっ。
レオン:はは。ああ、聞いている。問題ばかりだな、シーカーのクラスは。これじゃあ来週の中期評価査定までに退院は間に合わないかもな。
ヘンゼル:ヴぉえ…そう言えば…。評価査定嫌いなんですよね…疲れるし…
レオン:疲れるで済むといいな。クラスの合計評価点が基準値に達しなかったら追試だぞ
ヘンゼル:つ、追試…!?誰が!?
レオン:そのクラス全体がだ。
ヘンゼル:ああ〜連帯責任ってやつだぁぁ、やだやだ…。って言うか…!?アインズとカルビスが欠席したらまずいんじゃあ!?
レオン:だから言っているんだ
アズール:追試……
ヘンゼル:アズ、何としてでもあの馬鹿どもを連れ戻そう
アズール:ええー
ヘンゼル:露骨に面倒くさそう。
レオン:まあ、生徒が欠けたとなったらただでさえ厳しいだろうに、更には成績上位のあの二人が居ないとなれば追試は免れないだろうな。
ヘンゼル:ほらーっ。レオン教官もこう言ってるしさーーっ。
アズール:ええーー。分かった。
ヘンゼル:ヨッシャ!そうと決まればすぐに行こう!すぐに!
アズール:あ、待ってよヘンゼル
ヘンゼル:お疲れ様です!レオン教官!
レオン:廊下は走るなよー。
0:二人は走り去った
レオン:ったく、聞こえてないな。
0:レオンは窓の外を見た
レオン:…俺が教官、か。存外、馴れれば悪くないもんだな。
0:レオンは電話をかける
レオン:…シーカー、俺だ。すまんなあ機嫌の悪いところ。今日飲みに行かないか?…ああいや、安心しろ、エリーシャは抜きだ。そうだ、サシだ。嫌か?……ああ、ああ。分かった。ありがとう、それじゃあ今日の放課後に
0:場面転換
0:中央病院
ヘンゼル:おいこら問題児こら!お邪魔します!
カルビス:びっくりした。
アインズ:なんだよヘンゼル。いや、裏切り者
アズール:お疲れ、二人とも
アインズ:アズールも来たのか。なんだ?普通にお見舞いか?
カルビス:やだ、嬉しい
ヘンゼル:軽口叩いてる場合かって。
カルビス:うわ、なんか怒ってる
ヘンゼル:来週。中期評価査定があるの。
アインズ:あ〜、なんか言ってたな
カルビス:あいたたたた…でもこの怪我じゃ…あいたたた…
アインズ:厳しいかもなあ…あいたたた…
アズール:わざとらし。
ヘンゼル:アンタらが居なかったらウチのクラスの合計評価点が基準値に達しないの。今すぐ帰ってきて
カルビス:あいたたたたた
アインズ:あいたたたたた
ヘンゼル:アズ、こいつら殴ってもいいかな
アズール:いいんじゃないかな
カルビス:いやねー、奥さん。俺達を見捨てた分際でそんな言い分あんまりじゃないですかねー
アインズ:そうだそうだー。我々を解放せよー
ヘンゼル:何からだよ。そもそも全部自業自得でしょうが。何であんたらの問題行動にこっちまで痛い目見ないといけないんだっての
アズール:そうだそうだー。お前達は包囲されているー
アインズ:何にだよ。ほならね?俺達のサボりに手を貸す必要があるって話だぜ。俺たちは俺達の人生を生きてる。そこでお前らがどんな迷惑を被ろうが知ったことじゃない
カルビス:そうだそうだー。1000万用意しろー
アズール:無いよ、1000万無いよ。それじゃあ、勝負しよう。
カルビス:勝負ねぇ
アインズ:勝負だぁ?
ヘンゼル:勝負って?
アズール:二人はこのまま仮病で中期評価査定をやり過ごそうと思ってる。しかもその追試すらやり過ごそうとしてる。
カルビス:はい
アインズ:さいです
アズール:これは揺るがないんだよね?
カルビス:ンマー俺に関しては退院しても二週間の謹慎を命令されてるからな。これはしようがない
アインズ:うわ。ずる。ずるいわーおまえ
カルビス:あんさんのお陰どすー
アズール:分かった。じゃあその謹慎期間さえ何とかすればいいんだね。
ヘンゼル:何か策があるんですかい!?
アズール:シーカーは昇進に拘ってるから、それを出汁に中期評価査定だけはやらせろって交渉する。
ヘンゼル:ああ、確かに。評価結果は本庁に報告するんだもんね。それなら…
アズール:これで解決。じゃあ勝負しようよ。勝負に私たちが勝ったら評価査定に出て。
カルビス:ほお。俺達が勝てばこのままばっくれていいんだな?
アズール:いいよ。
ヘンゼル:へっ、か、勝てるんですか…アズールさん…勝てるんですか…
アズール:大丈夫。任せて
アインズ:おいおい因みに言っておくが、ステゴロだの競争だのは無しだぜ。こちとら一応ちゃんと捻挫してんだ。痛い痛いだよ
アズール:分かってるよ。フェアじゃない勝負はしない。
アインズ:いいねえ、じゃあ何で勝負するんだ?
ヘンゼル:つまり、乗るんだね?
アインズ:ああ、乗るさ。なあカルビス
カルビス:勿論だ、賭け事は嫌いじゃねえからな
ヘンゼル:そ、そうか…じゃあアズの姉貴、勝負は何するんでっかTV
アズール:じゃんけん。
アインズ:じゃん
ヘンゼル:けん
カルビス:ははは、こりゃいい、確かにフェアだな
アインズ:まあいいか。勝ち抜き戦でいいよな?
アズール:いいよ。
アインズ:それじゃあ、先手は俺から行かせてもらうぜ。
アズール:じゃあ、私から
ヘンゼル:私じゃんけん弱いからね、頼むよアズ
アズール:うん。
カルビス:カマしてやれアインズ、格が違うってところをな
アインズ:任せろよ、行くぞこらクソガキ。
アズール:負けても恨まないでね
エリーシャ:(N)こうして突如始まった賭けじゃんけん!アインズ・ブローカーVSアズール・パロ!果たして勝つのは…っ!
ヘンゼル:それでは…。
エリーシャ:(N)ヘンゼルが手を挙げる!アズールは息を飲んだ…!
アインズ:最初はグーー!
アズール:最初はグーー!
アインズ:じゃん!
エリーシャ:(N)号令が出る!その間、緊張が病室を包む!アインズもまた息を飲んだ…!
アズール:けん!
エリーシャ:(N)瞬間!時が止まったようにアズールが呟いたのだ
アズール:おっぱい揉む?
アインズ:揉みます
エリーシャ:(N)そこでなされたのは僅か0.9秒の間に行われた余りにも早すぎる性交渉ッ!
アズール:ぽん!
エリーシャ:(N)そして…
アズール:ちょき。
アインズ:…あ…
エリーシャ:(N)アズールはチョキを出した。対するアインズは、手を開いている。本能は思考を置き去りにし、アインズの手へと早すぎる電気信号を伝えたのだ!
0:アインズの手は開いている
ヘンゼル:きっっしょ…
エリーシャ:(N)きしょいね
ヘンゼル:けど、これパーだよね?
アインズ:あ…いや…
ヘンゼル:ねえ?
アインズ:…はい。
ヘンゼル:アズの勝ち〜!
アズール:ぶい
カルビス:おおぉおおおいアインズぅぅぅうう、なんでそんなに行動が早いんだぁああぁぁ…
アインズ:いやだって…だって!お前なら分かるだろカルビス!?
カルビス:分かります
アインズ:だろうが…俺はしくじっちまったが…お前はこの辺りの心理戦が強いだろうと勝手に信じてる。頼むぞ
カルビス:まかせろ。俺の前にもしかしたらは無いんだ。
ヘンゼル:アズ…カルビスは多分本当にじゃんけん強いよ。頼むよ…
アズール:うん。
エリーシャ:(N)二回戦!アズール・パロVSカルビス・ラングナー!
カルビス:アズール、俺は…パーを出すぜ
アズール:…!
エリーシャ:(N)相手の思考に淀みを与える一手!この手のヤツが言ってくると尚ウザイ!
ヘンゼル:き、汚いぞ!
アインズ:お前らが言うな
エリーシャ:(N)アズールは考えた!カルビスがパーを出すという事はチョキを出せば勝てる!しかしそんな簡単な筈もない。カルビスは必ずそれを読んでグーを出してくるはずだ!
カルビス:最初はグー!
アズール:…っ。
エリーシャ:(N)ならばパーを出せば勝ちか…!?いやいや、カルビスの汚さを舐めてはいけない!ここまで読まれることを見越してカルビスはチョキを出してくるはずだ!
カルビス:じゃん!
エリーシャ:(N)きっとそうだ!カルビスは汚いから!考えるのだアズール・パロ!
アズール:けん…!
エリーシャ:(N)しかし号令は残酷だ!時は止まってくれない!時間は迫っている!
カルビス:ぽん!
エリーシャ:(N)出すしかないのだ!!
カルビス:ぱー
アズール:……ぐー…
ヘンゼル:ぐぐぐぐ…!
アインズ:はいナイスゥーー!
カルビス:正直者は馬鹿を見るー
アインズ:豚のケツー
アズール:ごめんヘンゼル…
ヘンゼル:わ、私カルビスなんか相手に勝てないよ!何も策がない!
アズール:大丈夫。ヘンゼルは、自分と、カルビスを信じればいい。
ヘンゼル:え…?
カルビス:さあー最後だ。行くぜヘンゼル
ヘンゼル:…っ。分かった…。
エリーシャ:(N)ラストバトル!カルビス・ラングナーVSヘンゼル・オズボーン!
カルビス:俺は、今回もパーを出すからな
ヘンゼル:…!
エリーシャ:(N)先手を打つのはやはりカルビス!先程と同じ手法!実に嫌らしい!
カルビス:さぁ〜行くぞ!
ヘンゼル:…っ。
カルビス:最初は…
カルビス:ぱーーー!
ヘンゼル:ちょき!!!
カルビス:( ' ' )
アズール:ナイス、ヘンゼル
アインズ:カァァルビぃぃす、カルビスーーっ。
ヘンゼル:お、おお…まさか勝てるとは…
アズール:やっぱり凄いよヘンゼル、計算尽くなんでしょ?
ヘンゼル:…へ、へへ!まあね!
カルビス:馬鹿な…俺が…負けた…?
ヘンゼル:貴様の敗因はただ一つだ!カルビス・ラングナー!
カルビス:な、なにぃ…!
ヘンゼル:ふふふ、お前は自分が信用されている事を計算に入れてなかった…!私は信じている!お前の醜さを!
カルビス:がはっ…!
アインズ:カルビィーーース!
ヘンゼル:はい、じゃあ二人とも中期査定出てね
アズール:約束だもんね
カルビス:はいはい、出ます出ます。
アインズ:出りゃいいんでしょ。けっ
カルビス:アインズ、タバコ吸いに行こうぜ
アインズ:おー行くべ行くべ
ヘンゼル:来週には学校来ようねーー
カルビス:わかってますぅ!
アインズ:わかってますぅ!
ヘンゼル:(M)こうして無事、二人を引きずり出す事に成功した。
アズール:『裏切り者達の午前』
0:場面転換
0:飲み屋
エリーシャ:(店員)いらっしゃいませー!
シーカー:…。
レオン:おおシーカー、こっちだ!
シーカー:なんだ、呼び出したくせに先に飲んでるのか
レオン:いいだろ別に。
エリーシャ:(店員)ご注文どうしましょうか
シーカー:コーヒーくれ。ブラックだ
エリーシャ:(店員)かしこまりましたー!
レオン:おいおい、飲みに来たってのにコーヒーかよ
シーカー:元々酒は余り好きじゃねえんだ。
レオン:そうかい。最近はどうだ?随分、厳しく指導していると聞いているが
シーカー:問題児二人を除けばロクな奴が一人しか残ってないんだ。最近の奴らは根性が無さすぎる。
レオン:またお前はそういう事を言う
シーカー:折角中央政府に入るんだぞ。上を目指さないでどうする。
レオン:…そうだなあ…。
0:レオンは煙草を吸った
シーカー:…で、なんだよ。お前から呼び出しなんて珍しい
レオン:…ああ。そうだな…。なんと言おうか…
シーカー:なんだ?出し惜しみか?
レオン:むむ…
シーカー:もう一等監察官昇格の話は聞いたんだ。今更何を聞いたところで驚かないぞ
レオン:…そうか?
シーカー:そうだ。
レオン:…まだ誰にも話して無いんだが、カルラコット局長から直々に、情報局への異動の話を頂いた。
シーカー:…これは…驚いた。
レオン:…だろうな。
シーカー:…んん。その、なんだ…
レオン:…
エリーシャ:(店員)お待たせしましたー、コーヒーです
シーカー:…まあ、美味しい話ではあるだろうな。面白くは無いが(コーヒーを飲む)
レオン:そう思うか?
シーカー:まあな、情報局って言ったら業務量は多いが、本庁から出ることは殆ど無い。命の危険に晒される事も滅多にない。
レオン:…ああ
シーカー:お前には嫁も娘もいるんだろう。
レオン:…そうだなあ…
シーカー:それにお前、元々情報局入りしたくて昇格を急いでたんだろうが
レオン:それもそうだ。
シーカー:…それとも何だ?引き止めて欲しくてわざわざ呼んだのか?
レオン:…半分は、そうだ。
シーカー:…
レオン:俺は正直、この仕事が生き甲斐だ。前までは執行官に死んでもらうのも、ましてや自分の命が危うくなるのも心底嫌だった。けどな、こうして後続の彼らを育てていると、不思議と…こう。誇りを感じるようになった
シーカー:…まあ、分からんでも無い。生徒共は生意気だし好き勝手するが、俺達も当時の教官方にきっとそうして来た。それを今、自分が教壇に立つ側になると…今までとは少し違う視点で、中央政府という組織全体を見れるようになった
レオン:そう、そう。そこなんだよ。情報局は監察局の運営権を持つ、言わば上層本部だ。そんな責任ある立場を、我が身可愛さだけで引き受けてもいいものか。と、悩んでいるんだ
シーカー:…そうかあ…変わっちまったなあ…お前
レオン:そうか?
シーカー:あれだ、あのー。なんて言ったか…ヒットマンみたいな名前の…
レオン:ビットマン・ワイス準特等等監察官か?何でそこまで出てきてるのに思い出せない
シーカー:そうだそれだ、ビットマンさんに似てきたな。
レオン:お前本当に人に興味無いんだな。治せよ、名前覚えられない悪癖。
シーカー:黙れ、資料を作る時は調べる。仕事に支障は無い。
レオン:日常会話に支障があるんだよ。それで?ワイスさんがどうした?
シーカー:ん、ああ、あの人って不気味なほど聖人だろ。お前はあの人に似てきた。変に生真面目に生きようとしている。…いや?生きようとするようになった、だな。
レオン:…
シーカー:俺が初めて見たお前は、自分の保身しか考えなくて、周りに興味がなく、仕事を全うする事だけを考えてた。
レオン:…ああ。そうだな
シーカー:だって言うのに、2等監察官に昇格したあたりか?部下を持ち始めて、徐々に変わっていきやがった。
レオン:…
シーカー:そんで今度は生徒を持つことでまた丸くなった。…俺が競いたかったのは、そんな腑抜けたお前じゃない。今のお前には、野心を感じない。
レオン:悪いことだろうか。
シーカー:俺にとってはな。
レオン:お前はどうして出世にしがみつこうとするんだ。
シーカー:あ?なんで俺の話なんだよ
レオン:聞いた事はなかっただろう。
シーカー:…俺は、両親を異常体に殺された。何処にでもある、よくある理由だよ。この世にいる異常体の全員を、殺す。その為には力がいる。より強い担当執行官をつけてもらえるように、昇格する必要もある。それだけだ。
レオン:…前にも言った事があるが、お前は…まるで俺の若い頃を見てるようだ。
シーカー:…っ
レオン:お前の野心は見上げたものだ。正直な話俺は、入局当初は周りを見下していた。お前も含めてな。だが、今になって違うとわかる。…最も、俺も人の事を言えた立場では無いが、なあシーカーよ。そう生き急ぐな。
シーカー:なんだ?喧嘩売ってんのか
レオン:お前は上に昇って、身を削って、すり減らして、昇って昇って、どうなりたいんだ?
シーカー:…
レオン:お前の階級がどれ程上がった所で、エリーシャはお前に振り向きはしないぞ。
シーカー:黙れよ。やめろ、その顔で俺を見るのをやめろ。
レオン:…
シーカー:いつもそうだ。俺の事を、半歩後ろを歩くような奴に見やがって。年齢は違っても同期だ。成績だって大差は着いてない。
レオン:…ああ。そうだな
シーカー:だからその顔をやめろって言ってんだよ!上を目指すことがそんなにガキか?俺は、俺は自分の事を正直天才だと思ってる。エリートだと思ってる。準一等監察官にまでなった。残す階級は一等、準特等、特等。たったこの三つだ。やっと天井が見えてきたって言うのに、上に昇っても、昇っても昇っても常に目の前にお前がいやがる。そんなお前が、丸くなって、大人ぶって、組織の為にとか抜かしやがる…っ。
レオン:…
シーカー:……何も面白くねえ。競い合ってると思ってたのは、俺だけか
レオン:…。すまない
シーカー:なんの謝罪だよ。馬鹿にしてんのか
レオン:…
シーカー:俺にこの相談を持ち掛けた理由が分かったよ。俺をコケにする為だな?情報局に行ったらもう監察階級は関係ないしな?勝ち逃げするぞっていう嫌味だろ
レオン:そんなつもりは無い。…俺は…
シーカー:…もういい、馬鹿らしいわ。
レオン:おい、待てシーカー
シーカー:情報局に行くも行かないも好きにしやがれ。俺は、お前が異動になる前に…必ず、一等監察官になる。そうでなくても、だ。
レオン:なあシーカー、お前は…!
0:レオンは立ち上がった
レオン:お前は、何になりたいんだ
シーカー:____…。
0:シーカーは目を見開き、扉を強く閉めた
レオン:…あ…。
エリーシャ:(店員)あ、ありがとうございました〜…その、えっと、大丈夫です…?
レオン:…ああ。騒がしくしてすまない。ビールもう一杯頂けるか
エリーシャ:(店員)かしこまりました〜っ。
レオン:…。
0:レオンはタバコを吸った
レオン:大人になるってのは、寂しいもんだな
0:場面転換
0:7日後
0:中期評価査定
シーカー:以上で、第104期、アーヘン高等学院生徒の中期評価査定結果を概要報告を終わります。以降は当クラス首席となった生徒の報告ですが…異例ながら首席同点の生徒が三名。こちら共々、報告させていただきます
0:場面転換
0:市街地
シーカー:『本査定にて試験運用したものはステージ1の異常体計12体の拘束任務です。』
アインズ:はいはーい、こっちは通せんぼだぜ
シーカー:『アインズ・ブローカー。体術90点、射術91点、学術81点と総合的に優れたバランスを持っています。』
アインズ:よっ…とぉ!おいおい、こちとら病み上がりだぜ?撃ち殺すぞコラ
シーカー:『判断能力が鈍る部分もありますが、結果的に12体の内、3体の異常体拘束に成功しました。』
カルビス:おお?おぉー?お前かぁ〜報告に会った異常体は!ええ?逃げてきたんだろ?なあ?おいおい、動くなよ。
シーカー:『次に、カルビス・ラングナー。体術75点。射術96点。学術91点』
カルビス:ああ〜動くなって言ったのに。お前が悪いんだぜ?なあ?お前がなあ?
シーカー:『本期で一番の判断能力を有していますが、素行に問題があります。12体の内、2体の拘束。1体の執行に成功しました』
アズール:…あ。来た。顔も、うん。一緒だ。
シーカー:『最後、アズール・パロ。体術100点。射術72点。学術90点。年齢は16歳ながら、圧倒的な執行術適正を持ちます』
アズール:……あれ、もう死んでる
シーカー:『教師陣では特等監察官ホトバシ・カンラの再来とまで呼ばれている程の逸材。金の卵です。12体の内、6体の執行に成功しました。』
0:場面転換
0:通信室
シーカー:以上三名、当クラスの首席として報告致します。
レオン:『裏切り者達の午前』
:
0:何処ともしれない場所
アインズ:「確かあれは…そう、9月だった。まだ残暑が鬱陶しい季節。空は灰色に染まっていて、辺りは硝煙と血の匂いで溢れている。そこで俺は…」
0:アインズは歩いている
アインズ:「俺は、そうだ。…俺と妹だけが、むざむざと生き残っちまった。」
0:全ての台詞を同時に
エリーシャ:(ペンスタン)邪魔しないで!!私は、執行部として!こいつを殺さなきゃ行けないの!!最低!最っっ低!!私を、可愛がってくれた裏で、そんなことやってたっ!最低最低最低最低!!なんで呑気に煙草吸ってんの!!誰のせいでこんな事になってると思ってんの!?分かってんならなんでそんなに平然としてられるのっ!何人死んでると思ってるの!この、人殺し!!
カルビス:俺は中央政府情報局、特務監査。カルビス・ラングナーでもあり、監察局局長ビットマン・ワイスでもある。つまりこの姿は偽装、嘘、フェイクだ。本当の意味でお前を相棒にする必要があった。いいか?俺の前に「もしかしたら」は無いんだ。だから相棒、俺と一緒に全部ぶっ壊そう。俺が全部決めてやる。重要な決断は全部俺がする。その後で俺と一緒に、地獄に落ちてくれ。
レオン:(ヴルカーン)なあ…人には。役割があると思うんだ、きっと。それぞれ、何かしらの役割があって。それを全うするために。俺達は生きている俺の役割は。きっとここで。あいつらをまんまと逃がす事だったんだ。そう思わないと。やってられないだろう?お前らの役割は。なんなんだろうな…。…地獄に堕ちろ。くそったれども。
ヘンゼル:(グローザ)どうしようも無い。仕方が無い。私の根底にあるのは、いつもこれだ。誰かに利用され続ける人生だった。それも仕方がないと、諦める事のできる。傍から見れば楽な性格だろう。こういう時、なにかが変わる時、決定する時、決まって思い出すのは、嫌な事だ。なあ?アインズ。私は今から何を選ぶと思う
シーカー:(ビットマン)中央政府監察局長、ビットマン・ワイス。最終階級は準特等監察官。ホトバシ・カンラに並ぶ実力者だ。君は、全盛期の私を知っている。イメージとはそういうものだ。君がイメージする私が、強く、優秀であればあるほど、偽証の信憑性は高まる。虚偽と真実の境がなくなる。分かるか?お前の前にいるのは。私、中央政府監察局長。ビットマン・ワイスだ。…じゃあ、取引の続きと行こうぜ。
アインズ:「やめろ。やめろ、やめろやめろやめろ…!!やめやがれ、くそ…ッ。何だこのクソッタレな夢は…!覚めろ!早く覚めろ!おい!誰か、誰かいないのか…!カルビス…!カルビス!!相棒!!…グローザ…!ペンスタン!!ネロ!!誰でもいい!誰か、誰か助けろ!!誰も助けないなら、あの声を黙らせろ!!何なんだ!!頭が割れる、気分が悪い、吐きそうだ…!この夢の身心地は、最低最悪だ!!臓腑が腐れ落ちる程最悪な気分なんだ!!おい、誰でもいい…!この夢を、終わらせろ…!」
0:言葉が途切れた頃
0:目が覚める
アインズ:――ッ…!
0:アーヘン高等学院生徒寮。
0:アインズは息を切らしている
アインズ:…なんだ…なんだ今のは…?夢…にしちゃあ…後味が…。
カルビス:アインズー、まだ寝てんのか?
アインズ:…っ。びっくりした…って言うか急に入ってくんじゃねえよ
カルビス:はぁ?冬休み明け起きれる自信ねえから起こせって行ったのお前だろうが
アインズ:…あ、ああ。そうか。そうだったか、悪い、ありがとな相棒
カルビス:…相棒?
アインズ:…あ…?
カルビス:なんだ急に。粋な呼び方しやがって。
アインズ:…あれ?そういう風に呼んでなかったか?
カルビス:…
アインズ:…あれ。いや、こりゃ夢の話か…。すまん、忘れてくれ
カルビス:いやぁ、いいよ。ほら、さっさと行こうぜ、相棒
アインズ:おい、弄ってんだろ
カルビス:弄ってねえよいいじゃん相棒
アインズ:(M)背中から嫌な汗が滲む。目を覚ましたそこは、怖い程いつも通りの朝で…握った心臓をパッと離したように、血と酸素と安堵感が体中に巡った。そうだ、そうだったそうだった。ここが、俺の現実だ。
:
アインズ:『裏切り者達の午前』
:
0:場面転換
0:1985年1月
カルビス:ふわぁ〜クソ寝みぃ
アインズ:眠いなぁ
ヘンゼル:お。今日は真面目に来てんじゃん?おはよー。
アズール:おはよう。
カルビス:よおー
アズール:ほらね?二人とも来た。私の勝ち
ヘンゼル:くっそー
アインズ:あ?何の話だ
ヘンゼル:冬休み明けに二人が真面目に来るはずないって賭けしてたの。絶対来ないと思ったのになぁ
アインズ:単位やばいんだよ
カルビス:そーだそーだ。こんな地獄留年とかありえん。
アズール:ぶい
ヘンゼル:ていうか二人ともそんな薄着で寒くないの?
カルビス:さみぃよ。クソさみぃ
アズール:上着貸そうか?
カルビス:サイズが合わねえよチビ
アズール:もう優しくしない
カルビス:あーあーごめんねえ
0:三人を後ろから見ているアインズ
アインズ:(M)遅ればせながら、自己紹介をしよう。俺の名前はアインズ・ブローカー。中央立アーヘン高等学院の二年生だ。あと2ヶ月もしたら晴れてこのアーヘンを卒業し、本庁勤務へと駒を進めることができるのだ。
ヘンゼル:アインズ?何してんの、行くよ
アインズ:ああ。今行く
カルビス:相棒、毛皮貸してくれ
アインズ:ねえよ。
アズール:剥ぐの?
カルビス:剥ぐ剥ぐ
ヘンゼル:物騒だなあお前らは
アインズ:(M)ここの生活は最低最悪だったが、それらしい学生生活をしてきた。ここに通うのも残り僅かだと思うと、流石の俺もノスタルジーになったりもする。そうか、もう一年半も、ここで過ごしたのか。
0:場面転換
0:アーヘン高等学院職員室
シーカー:…。
エリーシャ:おはようございます!お久しぶりです、シーカーさんっ。今日から残り数ヶ月ですが、改めてよろしくお願いします!という訳で今晩、頑張ろうの会で呑みに行きませんか!
シーカー:…。おはよう、エリィ。
エリーシャ:…おはようございます…。ど、どうかしたんですか…イヤに空気が……。そう言えば、レオンさんは何処に…?
シーカー:…。レオンの事だがな…
0:場面転換
0:廊下
アインズ:俺トイレ行ってくら
カルビス:俺も俺もー
ヘンゼル:出た連れション。そのまま授業バックレとかやめろよ〜
アインズ:はいはい
カルビス:へいー
アズール:本当、ぜんぜん変わらないね。2人とも
ヘンゼル:だねー。アインズはまあ、入学当初に比べたら砕けたけど。砕け過ぎだ
アズール:そうだね、砕け過ぎ
レオン:…
ヘンゼル:あ!レオン教官、おはようございまーす
アズール:おはようございます
レオン:…ん。ああ、シーカーのところの。おはよう。
ヘンゼル:今日も寒いですねー。あ、聴いてくださいよ。冬休み明けだって言うのにあの問題児共、ちゃんと出席してるんですよ。ヤバくないですか?
レオン:そうか。
ヘンゼル:そうかーって。反応薄いですねー。こりゃ明日はいよいよ雪ですよ。もしかしたら夏が来るかも
アズール:…レオン教官
レオン:…なんだ?
アズール:大丈夫ですか?
ヘンゼル:?
レオン:…な、何がだ?
アズール:いえ、何だか。悲しそうに見えたので
ヘンゼル:??
レオン:…ああ。ありがとう、大丈夫だ。
アズール:そうですか。それでは。行こ、ヘンゼル
ヘンゼル:ええ〜…ちょっと待ってよアズールっ。あ、レオン先生、失礼します!
レオン:…。
0:場面転換
0:職員室
エリーシャ:そうですか…レオンさんの奥さんが…
シーカー:ああ。元々体の弱い人ではあったが、この冬で急死との事だ
エリーシャ:…レオンさん、奥さんの死に目にも立ち会えなかった、って事ですよね
シーカー:…だろうな。最も、俺達は中央政府職員だ、それを覚悟の上で、アイツも、アイツの奥さんも籍入れたんだろうよ
エリーシャ:だからと言って…悲しまない理由にはなりませんよ。
シーカー:…。
エリーシャ:なんだか最近、あまりいいニュースがありませんね。
シーカー:そうだな。年末に行われたギルドとの中枢議会でもまた揉めたそうだ。
エリーシャ:異常体の権利関係でですよね。一応、ガウディさんから報告を受けました。ギルド方面はビットマンさんとガウディさんが暫く担当する、との事で…
シーカー:そうか、ガウディさんから聞いたか。
0:シーカーは資料を見ながら話す
シーカー:…どうにもキナ臭いな。特にA級ギルド「グランシャリノ」だが。ここ数年で力を付け始めて来たらしい、しかもその総帥はあのグランシオラさんと聞く
エリーシャ:グランシオラさんって…研究部の…!?
シーカー:そうだ。何かが動き始めている。嫌な音を立てて。
エリーシャ:…ガウディさん、大丈夫ですかね…
シーカー:あの人はタフさが売りだからな、きっと大丈夫だ
エリーシャ:だと良いんですけど…
0:扉が開く
レオン:…。
エリーシャ:あ、レオンさん…っ。お疲れ様です
レオン:おはよう。
エリーシャ:えっと…その…あ、あの…
シーカー:余計な事は言うなよ。(小声)
エリーシャ:え…あ…。そ、それでは私はっ。授業の準備があるので、先に失礼します…っ。
0:エリーシャはそそくさと教室を後にした
レオン:…後輩に余計な気を遣わせるな。
シーカー:だったらそんな顔で来るんじゃねえよ
レオン:…
シーカー:俺からお前にかける言葉は無い。自分でこの道を選んだ。いつか、きっと後悔する事もあるって、自分で決めて中央に入ったんだ。そうだろ
レオン:…なあ、シーカー
シーカー:なんだ
レオン:お前は、後悔するなよ。
シーカー:…は…?
レオン:伝えられる内に、伝えておけ。
シーカー:…どういう意味だ。それは
レオン:…去年の暮れ、妻と喧嘩してな。なに、大した事じゃない。いつ帰ってくるのか、と小言を言われて。俺も疲れてたからついキツく言い返した。「暫く声も聞きたくない」ってな。たったそれだけの喧嘩だった
シーカー:…まさか…
レオン:ああ、それがアイツと話した最後になっちまった。
0:レオンは準備をしながら話し続ける
レオン:…何で、自分の周りの奴と明日も会える、だなんて傲慢な勘違いしちまったんだろうなあ。
シーカー:…
レオン:だから、シーカー。伝えられる内に伝えておけ。エリーシャは良い女だからな。誰かに盗られる前に、行動しておけ
シーカー:……。気にはしておく。
レオン:ああ。
0:シーカーは扉の前に立った
シーカー:レオン。……腐るなよ
レオン:…。ありがとうな、シーカー。
0:シーカーは職員室を出た
シーカー:(M)少しずつ、少しずつ、大きな歯車が音を立てて軋むような感覚がある。今まで当然のように享受してきた日常が、少しずつその色を変えて行く。
エリーシャ:あ、シーカーさん。もう来られたんですか。…その、レオンさんは大丈夫でしたか…?…そうですか、なら良かったです。
シーカー:(M)変わっていく日常を受け入れられずに、まだあの時のまま、まだあの時のまま、と…。
エリーシャ:え?今日の夜ですか…?空いてますけど…。呑みに?珍しいですね、シーカーさんから誘って下さるなんて!折角ならレオンさんも……
シーカー:(M)あの頃の日常にしがみついて…しがみついて……。
エリーシャ:二人でですか?勿論大丈夫ですけど、何か大事な話でも…?…あ!なら丁度良かった、私もシーカーさんに報告があるんですっ。
シーカー:(M)気付けば、歯車の流れに逆らうだけの。懐古するだけの、傀儡になっていた。歯車の軋みは、止まらない。
0:その夜
0:飲み屋
エリーシャ:私、その…。こほん!ガウディ・クロフォード一等監察官と、えっと…結婚することになりました…!
シーカー:…
エリーシャ:その、はは、そうですよね、そりゃそんな顔になりますよ…こんな私がって…へへ…すみません…
シーカー:…そうか。そうか、そうか。いや何、めでたい事じゃないか。なあ?
エリーシャ:そ、そうですか…!?祝ってくれますか…!?
シーカー:ああ、勿論だ、同じ特務班としてめでたい限りだよ
エリーシャ:えっと、その事でも…
シーカー:…まだ何か?
エリーシャ:私、今期のアーヘン勤務が終わったら、ガウディさんと一緒にギルド方面と、バグテリア方面の任務に就くことになったんです
シーカー:…そうか。…ホトバシさんはその事走ってるのか
エリーシャ:はい、もうガウディさんから聞いていたみたいで。なので、私から伝えるのは、シーカーさんが一番最初がいいなと思って…!
シーカー:…そうか…俺に…いちばん最初に…
エリーシャ:はい!
シーカー:(M)駄目だ、聞くな。聞くなシーカー・グレイスマン。絶対に聞くな。聞くな聞くな
0:シーカーは一杯酒を飲んだ
シーカー:…なんでだ…?
エリーシャ:何でって…今までシーカーさんには沢山お世話になってきたので…アーヘンでも沢山お世話になった、私が尊敬する先輩ですから!
シーカー:(M)あーーーーあ。だから聞くなって言ったのに……俺って奴はホント、どうしてここまで馬鹿なのかね……
エリーシャ:あ、ああっ。すみません私ばっかり話して…シーカーさんの方の話も聞かせて下さいよっ。
シーカー:…いや、俺のは大した話じゃない。
エリーシャ:ええっ。何でですか!私だけ話して!ずるいですよ!
シーカー:いや、ほんと……
エリーシャ:いいじゃないですか!
シーカー:…犬。飼おうと思って……
エリーシャ:…アーヘン勤務中なのにですか…?
シーカー:(M)出世街道を歩いて来た。一人で歩いて来たと思っていた。でも、今ふと思い返せばかつての俺の日常には、俺の一歩前には常にレオンが居て、横にはエリーシャやガウディさんが居た。……気付けば、俺の周りには何も無かった。ビックリした。失った事に気付くなんて思わなかった。俺が何かに恵まれているだなんて思った試しも無かった。…途端に道筋を失ったような気持ちになる。俺は、なんの為にここまで生き急いで来たんだ
0:深夜
0:職員寮
シーカー:…もしもし、シーカーです。夜分遅くにすみません、局長。……その…昇格の話ですが…。早めて頂くことは出来ませんでしょうか。…やれる事は何でもします。死に物狂いでやります。やり遂げてみせます。なのでお願いします。俺に、チャンスを下さい。
0:通話を終わる
シーカー:(M)決まっている。俺に残されたものは、初めから変わらない。出世だ。地位も名誉も、中央の上層に入れば全てが手に入る。結果を、もっと結果を残さねえと。俺は……俺は、何者でも無くなっちまう。
0:場面転換
0:1985年1月18日
ヘンゼル:え!?エリーシャ教官が結婚!?
アインズ:ひゅー
カルビス:ひゅー
アズール:声でかいって
ヘンゼル:ごめん
カルビス:他所の結婚だのなんだのにはミソッカス程も興味がねえが、お前は一応エリーシャの娘なんだろう?一緒に引き取られることになんのか?
アズール:うん。アーヘン卒業したら、ガウディさんとエリーシャの部隊に加わる事になった。
アインズ:はぇ〜入局早々一等監察官の下で働くだなんて、エリートコースじゃ〜んうぇ〜い
ヘンゼル:うぇーい
カルビス:うぇーい
アズール:…私は。卒業しても皆と一緒に働きたかったよ
ヘンゼル:うぇ……
アズール:多分、ギルドとバグテリアの方面を行ったり来たりだから、あんまり本庁で会う事も無いだろうし。皆は皆でそれぞれの任務があるだろうから…
ヘンゼル:なになに、ちょっとやめてよ、何でそんな急に泣けること言い出すの、大きくなったねえアズール
アインズ:まあ、同じ中央政府で働いてりゃあ顔を合わす機会が全くねえわけじゃねえだろ?
カルビス:しかもまだ卒業もしてねえのに。
アインズ:風情がないねえお前は本当に
ヘンゼル:やっぱり人の心がない
アズール:かす
ヘンゼル:ごみ
カルビス:あのね
ヘンゼル:じゃあこうしよう!何があっても、卒業して、離れ離れになっても、4人全員でいつか!絶対に会おう!
アインズ:まーたベタな
カルビス:苦手なんだよそういうの。俺約束守れねえし
アズール:そんなとこばっかり素直でどうすんの
カルビス:うっせえよ
ヘンゼル:ほーら、約束ね!
アインズ:(M)年を越してからの数ヶ月は、本当にあっという間に過ぎて行った。まだ何ヶ月、まだ何週間、まだ何日と言っている内に日常は過ぎ去っていく。地獄も慣れちまうと、こんなもんだ。
0:時間経過
アインズ:(M)1985年。2月25日。曇り。いつもの朝。いつもの通学路。いつもの廊下。いつもの教室を開けると、見知った奴らが居る。いつもと違うのは、ヤケに朝が早すぎるという事だ
シーカー:おはよう。朝早くからすまないが、お前達には卒業任務を受けてもらう。
カルビス:ふぁああ、卒業任務ぅ?
ヘンゼル:異議あり!他のクラスはそんなことやってないです!
シーカー:黙れ。やれ。
ヘンゼル:そんな横暴なぁ…
アズール:…。シーカー教官、何か怒ってますか?
シーカー:…。別に、俺だって早起きで苛立ってるだけだ。これは確かにウチのクラス限定での任務だが、どの道卒業試験は何処のクラスも執り行う。ウチは少し早めと言うだけだ。
カルビス:そりゃあいいがよお、何すんの?
シーカー:アーヘン特急列車に侵入し、ウォールバックで失踪した異常体の拘束、もしくは執行任務だ。
アインズ:アーヘン特急列車にぃ?
ヘンゼル:そりゃまた、命知らずな異常体だこと…
アインズ:ステージは?
シーカー:ステージは…観測室からの予測だと…3だ。
カルビス:はあ?
ヘンゼル:はぁ!?
アインズ:んおお!?
アズール:ええっ…
シーカー:当然、任務何度は高いだろう。俺も全面的にバックアップはする。
カルビス:まぁた無茶な任務だなあ、執行官も無しでステージ3を殺せって?
シーカー:…拘束でも構わない
カルビス:殺すより生け捕りの方が難しいって知らねえのかよ準一等監察官さんよお
アインズ:まさかまさか現役の監察官がそんな事を知らねえはずもなし。ヘンゼルぅ?ステージ3ってなあに?
ヘンゼル:ステージ3からは警戒態勢が変わるものとし、被害予想はひとつの市町村を再起不能にする程度…。だね
アインズ:だよなぁ?教科書に書いてあるもんなぁ?おいシーカー、最悪の場合、俺ら全員死ぬぞ
シーカー:だから、俺も全面的にバックアップすると言っている。お前達に被害が及ばないように全力を尽くす
カルビス:それにしたって不可解だ。アーヘン生徒が担当するのはステージ2までの異常体だって入学時の契約書にも書いてあったろうが
シーカー:時と場合による。今回はアーヘン領の一歩手前まで侵入されたレアケースだ、急を要する。
アインズ:契約書の意味知らねえのかよ?そんな文言一言も書いてねえぞ。
ヘンゼル:そもそもそんなガバガバで大丈夫なんですか…?アーヘン自体が危ういなら、それこそ全生徒職員で向かう方が…
シーカー:ダメだ。今回の対象は感覚意識に干渉するタイプの異常体だ、と観測室からは通達されている。どの道、アーヘン領本体には幾重にも複雑な異常性結界が張られているんだ。途中下車したと言うことはバレて逃げ出したんだろう、特急列車以外でアーヘン領への侵入は叶わない。即ち本校に危険が及ぶことは無い。
カルビス:だからわざわざ出向いて殺すってか?それこそ教官方でケリつけろよ、もしくは本庁の執行官呼べって
シーカー:到着を待っている間に何人もの民間人が死んでしまうかもしれない。
アインズ:ハハァ、そりゃあ俺達なら死んでもいいみたいな言い方じゃねえか。ええ?
カルビス:俺は反対だ、負ける賭けはしない主義でね。
ヘンゼル:私も反対です、今回の任務は私達の対応範囲を超えています。ほかのクラスと協力しましょう、シーカー教官
シーカー:うるせえなあ…!黙ってやれって言ってんだよ…!!
0:静寂
シーカー:…作戦に変更はない。三十分後には出発する。来なかった物は卒業試験の辞退と見なす。以上
0:シーカーは部屋を出た
ヘンゼル:なん…だあれ…!ムカつく!なんだと思ってんだ私達のこと!
カルビス:…アズール、お前どう思う?
アズール:え…?私?
カルビス:お前の目に、この世界はどう映る?何が敵に見える
アズール:…私には…。分からない。
カルビス:…そうかい。相棒、行こうぜ
アインズ:あ?何処にだよ
カルビス:一服
アインズ:ああ、分かった。
ヘンゼル:ちょっと2人とも待ってよ、行くかどうかだけでも皆で決めようよ…!
カルビス:駄目だ。自分で決めろ。
ヘンゼル:…え…?
カルビス:お前らは、自分が死ねるかどうかは自分で決めろ。俺はその責任を負わない。俺がお前らを選択する事は無い。
ヘンゼル:…ちょ、ちょっと、カルビス!
アインズ:ああーそういう事だ。またな
ヘンゼル:アインズも…!もう、あいつら…!
アズール:…カルビスの言うことは、正しいよ。
ヘンゼル:アズまで…!
アズール:だって、本当に死ぬかもしれないんだよ。行かなきゃ留年確定。これは学生の身分に甘えていい決断じゃないように私は思える。
ヘンゼル:(M)ああ…忘れてた。二年も一緒にいたせいで、勘違いしてしまった
アズール:私は行くけどね、卒業しないとエリーシャに置いていかれるし
ヘンゼル:(M)カルビスも、アインズも、アズールも。「特別な人間」だって言う事を。私は…私は、違うんだ。コイツらとは、根本から違う人間なんだ。
:
レオン:(M)妻が死んで、1ヶ月。今まで以上に仕事に明け暮れた。死ぬほど働いて、帰ったら浴びる程酒を飲んで寝た。何かをしてないと、全部が揺らいでしまいそうだったから。…だが、嫌な事ってのは続くもんだ。きっと本当に、神も仏もこの世には居ない。
0:職員室
エリーシャ:おはようございます!
レオン:…おはよう。
エリーシャ:…おはよう、ございます。
0:エリーシャは気まづそうに座った
エリーシャ:……。あ…。えっと…。あ…。
レオン:今日は非番だと聞いたぞ
エリーシャ:あ…!はいっ。シーカーさんから今日は休めと言われたんですけど…どうも落ち着かなくて、私に出来る仕事があれば手伝おうと思いまして…
レオン:そうか。殊勝な事だな
エリーシャ:ありがとうございます
レオン:…
エリーシャ:(M)気を…使わせてしまった。先輩に…情けない。…それにしてもレオンさん、今日は一弾と顔が暗いな…。また何かあったのかな…。
0:エリーシャは恐る恐るレオンに近づいた
エリーシャ:そ、その。良かったらこれ…。栄養ドリンクです…
レオン:ああ。ありがとう
エリーシャ:…その…元気が無いように見えますが…。
レオン:…
0:レオンはタバコを吸った
レオン:俺の娘が、異常体になった。
エリーシャ:…え、え…は…?娘さんが、異常体に…?
レオン:昨晩観測室から連絡があってな。
エリーシャ:(M)どうしよう。なんて声をかければいいか分からない。奥さんが亡くなって、次は娘さんが異常体に…。どうして、どうしてレオンさんがこんなに苦しまなきゃいけないんだろう。真面目に働いて、生徒を大切にして、家族の事だって…気付けば、涙が溢れていた。私には、何も出来ない。この人を救う事が出来ない。目の前にいるのに、手を差し伸べたって、更に傷を抉るだけかもしれない。何してるんだ、何してんだよ、エリーシャ・パロ。何の為に私は……この制服を着てるんだ…っ。
レオン:…すまない、気を遣わせたな。まさか泣かせてしまうとは…。先輩失格だ。
エリーシャ:そんなこと、言わないでください…っ。私、私に、何か手伝える事は無いですか…っ。なんでもします、私なんかで出来ることなら…っ。
レオン:……きっとアイツらは、お前のそういうところに惹かれたんだろうな。
エリーシャ:え…?
レオン:お前に出来ることは無い。
エリーシャ:…
レオン:俺に出来ることも無い。
エリーシャ:…そう、ですか…。
レオン:お前が気負うことじゃない、エリーシャ。話してすまなかった
エリーシャ:(M)なんで謝るんですか。どうして謝るんですか。何も悪くないのに。私が何も出来ないのが悪いのに。何か、何でもいい、何か出来ること……
0:エリーシャは手元の資料を全て確認した
エリーシャ:(M)無い、無い、何も無い。何も無い…っ。そうだ、シーカーさんなら何か…!すみません、勝手にデスク探ります…っ。
0:エリーシャはシーカーのデスクを漁る
エリーシャ:……なんだ…これ?
レオン:…?
エリーシャ:…あの、レオンさん。卒業試験って、まだ先ですよね
レオン:…ん。ああ、そうだな。全クラス同時期に行う予定だ。
エリーシャ:…その…ウチのクラス、今日卒業試験を行ってるようで…
レオン:…は…?
エリーシャ:その任務内容が、アーヘン領近郊を徘徊しているステージ3の執行、もしくは拘束なのですが…
レオン:……アーヘン領近郊を…徘徊………?待て。待て待て、その異常体、名前は分かるか…!?
エリーシャ:苗字は定かではありませんが、身に付けていたペンダントに名前らしきものが刻まれていて…
レオン:…な、なんだ、なんて書いてあった…!!
エリーシャ:ジュリアン、と。
レオン:____…。
0:場面転換
0:ウォールバック地区 市街地
カルビス:はぁ〜…結局来る羽目になるとはなぁ…
アインズ:お前が決めたことだろうが
カルビス:いいや、優柔不断なお前に変わって俺が決めてやったんだ。
アインズ:同じじゃねえか。
カルビス:…これで終わりかあ。
アインズ:あ?
カルビス:いいや。何にも。ほれ、多分これが学生生活最後の任務だ。行こうぜ、相棒
アインズ:…おう、相棒
シーカー:(M)始まりは、一本の通信だった。
ヘンゼル:教官…!シーカー教官!!聞こえますか…!!
シーカー:(M)俺の端末に、複数箇所からの同時通信が殺到した。そのどれもが…
ヘンゼル:マイクが…!マイクが、死にました…っ。
シーカー:(M)そういう報告。24人のクラスだった筈が、気付けば……
0:シーカーは空を見ている
シーカー:(M)8人になっていた。
0:場面転換
0:ウォールバック商店街
ヘンゼル:くそ!くそ、くそ!なんで出ないんだ、早く応答しろよ、シーカーのやつ……!!
0:ヘンゼルは通信機を絶えず打ち込み続けている
ヘンゼル:(M)何で、何で何も応答しないんだ…!まさか、シーカー教官も殺されたのか…!?冗談じゃない、冗談じゃ…ない…!
0:足音
ヘンゼル:(M)足音が聞こえた。ステージ3の異常体、私達の敵は、裸足だった。ペタペタと、血が足の裏にこびり付いては地面から離れる音を立てて、近付いてくる。
0:ヘンゼルはただ立ち尽くしている
ヘンゼル:(M)ああ…。死ぬ。私は、そう思った。何人も死んだ。レイズも、ジェームズも、ハナも、ユミも、マイクに至っては、私を庇って死んだ。これが、異常体か。こんなのを相手に、本庁の奴らは戦っているのか。ははは…これじゃあどっちが化け物か、分からないな…。勝てるわけない。相手にもならない。私みたいな、何者かになる資格すらない凡人は、立ち向かう事すら許されない。怖い。怖い。死ぬ。あと少しで死ぬ。カルビスも、アインズも、アズールも居ない。こういう時に限って居ない。そうだよね、ヒーローって遅れて来るもんだし。私はヒーローが到着するまでに惨殺されるただの生徒Aだ。そうだよ、初めから分かってたのに。なんで、なんで勘違いしちゃったかなあ。なんでこんな所に来ちゃったのかなあ…。私なんかに何かが出来るとか、思ったんだろう……
0:ヘンゼルは座り込んだ
ヘンゼル:(M)なんで、私もあいつらと、肩を並べたいとか、思い上がっちゃったかなあ…
アズール:はぁ、はあっ…ヘンゼル…!
ヘンゼル:(M)…アズール。アズール・パロ。私とは違う、特別な人間。ヒーローが来た。私は助かる。アズールが来たなら、助かる。だってあいつらは…
アズール:ヘンゼル!何してんの!立って!!
ヘンゼル:(M)私とは違う、特別な…
アズール:一緒に逃げよう!!
ヘンゼル:…
0:少しの静寂
ヘンゼル:(M)やめろ。やめろやめろやめろ、言うな。言うな、ヘンゼル・オズボーン、そんなの性にあわない。やめろ、やめろ…!
0:ヘンゼルは震える手を止めた
ヘンゼル:――――逃げて、アズ…っ!!
アズール:…っ…!?
ヘンゼル:(M)ああ、言っちゃった。今逃げてたら助かったかもしれないのに。もう駄目だ。この一秒を、自分の為に使えなかった。死ぬ。死ぬのは怖いよ、私、ただの人間だもん。…けど。けどさぁ…っ。
0:学院生活を想起した
ヘンゼル:(M)アズだって…。ただの女の子だったよ…っ。
アズール:ヘンゼル!!!
:
アズール:(M)ヘンゼルの首が、飛んで行った。ボールの様に跳ねて、私の足元まで転がってきた。殺された。私の友達が、殺された。
アインズ:ヘンゼル…!…くそっ。遅かったか…っ。
カルビス:…。アズール、逃げるぞ。作戦は失敗た。
アズール:(M)私の世界には何も無かった。友達もいなかったし、家には常に1人だったから。何も知らなかった。友人を傷付けられると、こんなに腹が立つだなんて…。思いも、しなかった…っ。
カルビス:おい、アズール…?
アインズ:おいおい、あいつこっち来てるぞ!やべえって、使うか!?相棒!
カルビス:馬鹿言ってんじゃねえ…!こんな所で使えるか…!
アズール:(M)初めてだ。こんなに、冷たい気持ちになったのは。
アインズ:おい、アズール!!
アズール:逃げてていいよ、二人とも
アインズ:…は…?
アズール:あいつは。私が、殺す。
アインズ:おい、待てアズール…!ばかお前…!
カルビス:は…!?ちょ、まっずい、アインズまで頭に血が上ってやがる…!
0:カルビスがアインズを羽交い締めする
カルビス:追うな相棒!巻き添えくらうぞ!それにお前、使う気だろ!?
アインズ:じゃああのまま行かせるってか!?冗談じゃねえ、ただでさえヘンゼルが死んでんだ…!
カルビス:目を伏せろ!お前はそんな大層な奴じゃねえ…!あいつが死んでもお前は関係無い!俺達は関与しなかった!アイツを止められなかったんじゃない、俺たちが着いた頃には全員死んでた!
アインズ:ふざ、けんな…!そんもん飲めるか…!
カルビス:飲み込めドアホ…!お前は卑怯者なんだから、身の程弁えやがれ…!
アインズ:どういう意味だてめえ…!
カルビス:お前は友達の死だとか、誰かの死に拘りやしねえ…!お前は自分が関係ある死が嫌なだけだ…!!それともなんだ…!?ここで使っちまって、全部バレていいのか!アズールの為に、お前の生涯全部賭られんのか…!
アインズ:…な…!
カルビス:いいか、お前は何も考えなくていい、お前は何も見なくていい、重要な事は俺が全部決める。
アインズ:…
カルビス:お前は何も見なかった。俺がそうお前に強要した。そうだろう、相棒
アインズ:…。
カルビス:そうだろ…!
アインズ:そう、だ。そうだ。お前が、お前がそう言った。俺は、関係無い。
カルビス:そうだ、目を伏せろ。逃げろ。
アインズ:くそ、くそ…くそが…っ。畜生がぁぁっ…!
アズール:(M)二人がなにか喋っていた。けど、何も覚えてない。何も耳に入らない。異常体もずっと何かを喋っているけど、何も脳に届かない。今はコイツを殺す事しか、興味が無い。どれくらい経っただろう。まだ息がある。異常体の方も、まだ生きてる。ああ、私はどうしてこんなに小さいんだろう。血が出れば直ぐに死んでしまう。もっと、もっと体が大きくて、頑丈だったら、あんな奴すぐに殺せるのに。悔しい。悔しい。
シーカー:お前、一人で戦ってたのか…!?
アズール:シーカー教官…。
シーカー:お前…腕…
アズール:遅いですよ
シーカー:…。すまん…。
アズール:戦います。
シーカー:待て、待つんだ
アズール:…なんですか
シーカー:……撤退だ
アズール:…はい?何人殺されたと思ってるんですか…?私と教官の二人なら勝てます。
シーカー:駄目だ。本庁からの指示だ。
アズール:…はい?
シーカー:…撤退命令だ。これ以上は…命令無視になる
アズール:……
シーカー:なあ、分かってくれ。頼むよ。おま、あー、その、お前だって、分かるだろ…?
アズール:シーカー教官。これ、誰の生首だと思いますか
シーカー:…え?
アズール:あそこに倒れているのは、誰だと思いますか
シーカー:…
アズール:全員貴方の生徒ですよ。名前、言えますよね。シーカー教官。
シーカー:……覚えてない…。
アズール:もういいです。
0:アズールは走り出した
シーカー:待て、待ってくれ…!頼む…!なあ、止まってくれ…!お前、なあ、お前…くそ、俺の…っ。
0:思わず口に出してしまう
シーカー:――俺の昇格が、掛かってるんだ…!!
アズール:……
0:アズールの糸が切れる
アズール:豚が。
シーカー:(M)行ってしまった。独断行動だ。罰せられる。昇格が、遠のく。何人、何人死んだ…。どれほどの処分が降る…?
エリーシャ:はぁっ、はぁっ、レオンさん!!こっちです!!
レオン:…っ…ジュリアン…っ…。
エリーシャ:あれ…アズ…!?あ、あああ…っ!大丈夫ですか、一人で、一人で戦ってたんですか…!?息はありますか、意識は!
アズール:…ごぷっ…。えりー、しゃ…
0:エリーシャはアズールをだき抱えた
エリーシャ:すみません、すみません、私達の到着が遅かったばっかりに、ごめんなさい。一人で、一人でよく頑張りましたね、アズ…っ。
アズール:…異常、体は……
エリーシャ:…向こうも、もう立ち上がれないようです。いえ、それよりも。本当に、本当に…生きててよかった…っ。
レオン:…ジュリアン。…ジュリアン…っ。
0:レオンもジュリアンを抱きかかえる
レオン:ああ…痛かったな…痛かったよな…。ごめんなあ、ごめんな。大丈夫だ、すぐにパパがなんとかしてやるからな、大丈夫だぞ…。ああ、あああクソ、血が止まらない…。なあ、なあジュリアン、何でこんな所に来ちまったんだ…。なんで…わざわざ……俺に、会いに来ちまったんだよお……
エリーシャ:レオンさん…
レオン:……ジュリアン…ああ、駄目だジュリアン、頼む、目を開いてくれ、ああ、神様。お願いします、どうか、どうか娘だけは…っ。
0:ジュリアンの息は止まった
レオン:…ああ…あぁ、そんなっ…ああぁあああっ…っ。
エリーシャ:……っ。
シーカー:……あ…
エリーシャ:……シーカーさん…。
シーカー:…その…なんだ…。これは…
エリーシャ:なに、してたんですか。貴方は
シーカー:…いや…俺は…
エリーシャ:貴方が与えた任務で!貴方の生徒が死んでいく中!何をしてたんですか!!
シーカー:……俺は、撤退指示を…出したんだ…
レオン:…シーカー…お前…どうしてこんな任務を無断で指示した…
シーカー:だって、だって俺は、やらなきゃいけなかったんだ…!
レオン:なんの為にだ
シーカー:……昇格の為に
レオン:……
エリーシャ:…最っ低…
シーカー:ちが、違うんだエリィ、俺は…俺はただ…!
レオン:シーカァァアア!!
0:レオンはシーカーを押し倒した
シーカー:がっ…!レオン、話を、聞いてくれ…!
レオン:誰がお前の話なんか聞くか…!お前だって、誰の話も聞かなかっただろう!誰にも興味を示さなかっただろう!?お前だけが、お前、だけが!
0:レオンなシーカーの首を絞める
レオン:お前だけが特別だと思い上がるなよ…!!
シーカー:レ、オン…っ…!
エリーシャ:レオンさん、辞めてください…っ。
レオン:…離してくれ、エリーシャ。こいつを殺して、俺も死ぬ
エリーシャ:お願いします、レオンさん。そんな悲しいこと言わないでください。シーカーさんは、確かに許されない事をしました、でも、でも…っ。貴方まで罪を被る必要なんて、ないじゃないですか…っ。だって貴方は、何も悪くないんです…っ。
レオン:……
0:手を離した
シーカー:かはっ…。げほっ。れ、レオン…
レオン:もう話しかけるな。失望した。
シーカー:レオン、なあ。話を聞いてくれよ、レオン
レオン:お前の顔は、もう二度と見たくない。
シーカー:……。
:
アインズ:(M)これが、俺達104期アーヘン生で起こった卒業試験の事件。シーカーに取り入っていた情報局員はこのアーカイブを削除し、本件の口外を禁じられた。以降は「多少問題のあった卒業試験」として噂程度に広まっていくことになった。
0:1ヶ月後
アインズ:(M)そして1ヶ月後。三度目の春。…また、桜が舞っている。
アズール:……
アインズ:卒業か。
カルビス:おう、卒業だ。
アズール:…まさか、このクラスの卒業生が私達三人だけになるなんてね。
アインズ:……ああ。あの卒業試験以降、俺ら以外の奴らは本庁入りを辞退して退学したからな。
カルビス:まあ、しょうがねえな。本物の異常体の脅威を知っちまったんだ。殆どの中央政府職員が、死の間際、辞表を出す間際に感じる恐怖を、この段階で知れたのは幸せなんじゃねえか?
アズール:…そうだね。二人はこれから本庁入りだよね
アインズ:ああ、お前さんは…そのままエリーシャ共と一緒に国外か
アズール:うん。まずはバグテリア方面の偵察に暫く就くんだ。
カルビス:バグテリアなあ〜、生きて帰って来れるか?
アインズ:お前本当にデリカシーが終わってる
アズール:多分、死ぬだろうね。怪我も完治してないし。遅かれ早かれ、私は死ぬ。でも、いいんだ。
カルビス:…敵は、見えるようになったか?
アズール:ううん。やっぱり敵は分からないまま。でも、多分私の手の届かない所にあるのが、敵だと思った。
アインズ:手の届かない所にある…ね
アズール:うん。今ならヘンゼルの言ってた事が分かる気がする。私は、こんな華奢な身体じゃあ、敵を殺すことしか出来ない。…でも、二人はきっと、何かを変えてしまう人達なんだと思うんだ
カルビス:……はっはぁ、本当に。大きくなりやがって
アズール:世界がどう変わるかは、変える事の出来た奴が決められる事だから、二人が今後世界をどうするのかは分からないけど。何も変えられない私が言える事は何も無いから
アインズ:おう。
アズール:…私は、私の手の届く範囲の敵を、皆殺す事にしたよ。
カルビス:…そうか。十分じゃねえか
アズール:うん。もうヘンゼルは居ないけど…。約束はそのままでいいよね。
アインズ:卒業してもいつか4人で会おうってやつか
アズール:そ。いつになるかは分かんないけど、絶対。
カルビス:はっはぁ、あの世でなら4人全員になるけどな
アズール:それでもいいよ。
カルビス:…
アズール:また皆で会えたらそれでいい。生きてる内に会えたら、もっと嬉しい。それだけ
アインズ:…ちょいと真面目な話をするが。お前さんは、生きがいを探してたのかもな。
アズール:…え?
アインズ:お前は強い。多分、俺と相棒が本気で殴りかかっても、ステゴロじゃあ勝てない。
カルビス:異議なし
アインズ:お前は、持って生まれた側の人間だ。力が物を言う世界で、力を持って生まれた、特別に強く産まれた人間だ。自覚があんだろ?
アズール:…まあ。特別強く産まれたって言う事くらいは…
アインズ:じゃあ、後はその力をどう使うか。使ったあとどうするか、お前は無意識的にそれが知りたかったんだよ、アズール
アズール:……
アインズ:それが結局、敵を殺すと学友と再開する、に落ち着くんだから、どうしようも無く人間だな、お前は
アズール:…私は……
アインズ:認めるよ、お前はちゃんと人間で、ちゃんと弱い。
カルビス:はは、そりゃいい。ああそうだ、お前はただの弱いクソガキだ。俺達みたいな、本物のイカレポンチから見りゃあただの脳筋小僧だからな
アインズ:だから、あんま気張るなよ。弱っちい人間
アズール:…あれ。なんでだろう…あれ…?
0:アズールは泣いている
アズール:…なんで…ヘンゼルが死んだ時は…涙なんて、出なかったのに…
カルビス:はいー泣かしたー
アインズ:俺のせいかねえ???こいつが泣き虫なだけじゃねえの?
アズール:違うし…っ。今まで1回も、泣いた事、ないし…っ。意味わかんない…っ。
カルビス:…まあ、泣けるうちに泣いとけや。お前はこれから腐るほどの死体の山をその手で築くんだ。そうなったら最後、泣く事すら許されねえ。何言ったって、お前はもう修羅の道を進むって決めたんだろ?
アズール:うん…っ。きめた…っ。
カルビス:じゃあ今泣け、人間
アズール:うるさいっ。お前らだって、人間のくせに…っ。
アインズ:ハハァ、カルビス。まさかお前にもそんな人情があるだなんてな
カルビス:はあ?嘘だよ嘘。ガキが泣いてるの面白いだろーが
アズール:はぁー!最低!
0:3人は少し笑った
カルビス:…さて、そろそろ行くか。
アインズ:ああ。行こう。アズールも、もう泣き止んだか?泣いてる女は本来苦手なんだ
アズール:うるさいなっ。泣き止んだよっ。
カルビス:もう十分か?
アズール:…。うん、もう人間、十分堪能した…!
カルビス:そうか、なら良かった。よろしくな人外
アズール:うん。またね、カルビス、アインズ
アインズ:またな、アズール
カルビス:またなぁ〜。
0:三人は二手に別れた
アインズ:(M)こうして、俺の二年間の学生生活が終わった。列車の窓から遠ざかるアーヘンを見て、なんとも言えない気持ちになった。こういうのは苦手だ。
カルビス:さらば!アーヘン!
アインズ:…なあ、相棒
カルビス:なに?
アインズ:俺は、きっとお前を苦しめ続けるよ。俺もその分苦しむわけだが。…結局、選ぶのはお前だ。多分、死ぬまで。
カルビス:…おう、任せとけよ
アインズ:それでも、相棒で居てくれるか
カルビス:…。はぁ〜、相棒よ。多分今後もそういう機会はあるんだろうが、俺からお前に言える事は変わらねえよ。これが一度目だ、よく聞け
0:カルビスは近付く
カルビス:俺と一緒に、地獄に堕ちよう。
アインズ:…ハハァ。最悪だな?
:
カルビス:『裏切り者達の午前』
:
シーカー:(M)あれから暫くの時が過ぎた。俺は卒業試験における不足を強く指摘され、一等監察官昇格の取り消し、10ヶ月の謹慎処分を受けた。約一年間、狭い部屋の中で。俺は……何も考える事が出来なかった。昇格昇格と、何をそんなに躍起になっていたのだろう。今となっては馬鹿らしい。
シーカー:(M)本庁に戻った時、レオンは中央から姿を消していた。エリィもまた、バグテリアにて失踪していた。……それから6年。
0:1991年。11月
0:バグテリア法外特区
アルル:し、しし失礼します!!
シーカー:(M)酒を飲んでいた。頭が割れそうなほど痛いのに、さらに頭痛を加速させる声が鼓膜を劈く
アルル:「あ、えっと。本日より、中央政府本庁から、ここ。特務国際監察課へ配属になりました、アルル・クロフォードと言いますっ。ふつつか者ですが、何卒よろしくお願いしますっ!」
シーカー:(M)その顔に、その声に、その表情に、その名前に、どこか見覚えがあった。アルコールと諦観で鈍った頭では、やはりどこで見たか、思い出せなかった。
0:場面転換
0:1991年11月
レオン:……。
グランシオラ:おや、おやおや。君がバラエティから派遣された…ポルジッコ・レオンだね?
レオン:ああ。そうだ。
グランシオラ:そうかいそうかい、予定ではもう一人来るんだろう?そっちの方も楽しみにしているよ。使えるコマであることを祈っているよ
レオン:勘違いするな。俺達はあくまで社長の命令の元動いている。お前の駒になった訳じゃあないからな、そこを履き違えるなよ。グランシオラ・ルルカブル。
0:中央政府本庁
0:1991年 10月。
アインズ:ひとつ聞かせろ
カルビス:おう。いいぜ、相棒
アインズ:お前にとって、人生が始まった瞬間と、終わった瞬間はいつだ
カルビス:まだ終わってねぇぞ
アインズ:いいや、お前は終わってる。そういう顔だ
カルビス:そうか。お前と同じだな
アインズ:その嘘にゃもう乗らねぇよ
カルビス:やるじゃなァい
アインズ:(M)中央政府情報局カルビス・ラングナー。こいつが吐く嘘は本当に気に食わねぇ
カルビス:俺にとって人生の始まりはぁ。そりゃあ
アインズ:(M)こいつは俺に嘘を吐き
カルビス:マミーの腹の中から溢れ出てオギャった瞬間だ
アインズ:(M)組織に嘘を吐き
カルビス:んで、俺にとって終わった瞬間はぁ。そうだな」
アインズ:(M)何より気に食わねぇのが
カルビス:ああ。煙草が切れてる。ってことは今だ。」
アインズ:(M)自分が嘘を吐いていると、俺にだけは、そう嘘をつきやがる事だ
カルビス:だから、お互いもう終わっちまってる身だ。なあ?元より世界が初めから終わってる。誰かのせいで繰り返しやらせている。
アインズ:…。そりゃあ、クソッタレな事だな。
カルビス:だからやっぱり、俺から言えることは、6年前から変わらねえよ、相棒。なあ
アインズ:(M)あの卒業式の日。あれはただの、序章でしか無かった。俺が全てを裏切るまでのプロローグ。そう、言うなれば
カルビス:俺と一緒に、地獄に堕ちろ
アインズ:(M)裏切り者達の午前。




