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異能力者達の夜明け  作者: ゆーろ
監視者達の午後
27/28

監視者達の午後 起×Ⅲ「洛南の番犬達」

監視者達の午後 起×Ⅲ

0:ーーー「洛南の番犬達」ーーー



0:登場人物


アルル:アルル・クロフォード。女。特務国際監察課所属。3等監察官。※「アルル?」を兼役


マオ:マオ・ダウンポッド。女。ジャッカルの妹。


カーズ:カーズ・ジョーン。男。異常体。南エリアヘッド「バンカー」の副リーダー。※「男」を兼役


ドルムンク:ドルムンク・ラクシウル。男。異常体。南エリアヘッド「バンカー」構成員。異名は「黒壁」。※「老人」を兼役。「バタップを兼役」


ジャッカル:ジャッカル・ダウンポッド。男。南エリアヘッド「バンカー」構成員。※「坊主」を兼役


ヨハン:ヨハン・シャオロン。女。南エリアヘッド「バンカー」構成員。※「ホームレス」を兼役。※「バイオレットを兼役」


リットン:リットン・アンクス。女。考察屋。


東郷:東郷とうごう 嘉車かしゃ男。東エリアヘッド「怒愚羅魔愚等」総長。※「構成員」を兼役。


牧野:牧野まきの 佳苗かなえ女。東エリアヘッド「怒愚羅魔愚等」構成員おっかけ。※「女」を兼役。


ガラートラム:ガラートラム・アズリエル。性別不問。北エリアヘッド「アルデンヌ」構成員。


0:兼役


シーカー:ガラートラムが男の場合兼役。女の場合は東郷が兼役


バイオレット:ガラートラムが女の場合兼役。男の場合は牧野が兼役



0:バグテリア


リットン:(M)1991年。12月30日。


0:南エリア バンカー通り


カーズ:「…」


ドルムンク:「若。またアルデンヌから進撃だ。第3コロニーはしてやられた」


カーズ:「…やってくれるじゃねえか。何処ぞの冒険家に。アルル・クロフォード。」


リットン:(M)その日。バグテリア南の王。「バンカー」の根城は崩壊した。


ドルムンク:「いいな、迎え撃って」


カーズ:「ああ。殺せ。」


ドルムンク:「勿論。」


リットン:(M)バグテリア崩壊のきっかけとなる大事件、オーシャンズ・ハイ。「バンカー」を守る巨大な壁、ショーケースの破壊により東西南北各エリアのヘッド達は、その領地争いに拍車をかけることになった。


構成員:「逃げろ逃げろっ。ショーケース内まで戻れ!」


女:「戻るってたって…!」


構成員:「いいから走るんだよぉ!」


ガラートラム:「いやぁ〜逃げる逃げる。こうしてわざわざ本体まで案内してくれるってんだから、楽な仕事だ」


女:「あんな怪物からどうやって逃げんだよぉ!」


構成員:「さっさと走れ!!逃げろ!!」


ガラートラム:「おっきくなれーっ。クラウ・ソラスっ。」


0:ガラートラムの持つ剣は大きくなる


女:「おいおいおいおい…!」


構成員:「何メートルあんだよ…!あの剣…っ。やっぱ異常器か…っ。」


ガラートラム:「おっとっと、重い重い…っ。」


女:「ああああっ。くそ!くそ!あんまりだ!」


構成員:「畜生…!カーズさん!!」


ガラートラム:「そぉ〜れ、ぶっ潰れろ!!」


0:剣を振り下ろした


リットン:(M)そして現在。バグテリア南エリアのヘッドである「バンカー」は、真っ先に北エリアヘッド「アルデンヌ」による進撃を受ける。


ヨハン:「おい、イカレピーナッツ。そこで止まれ」


ガラートラム:「およよ」


ヨハン:「北エリアヘッド。アルデンヌ構成員だな。」


ガラートラム:「出てきたにゃー。バンカー幹部クラスっ」


ヨハン:「噂通り頭の沸いた奴しか居ないんだな、アルデンヌには」


ガラートラム:「お前らには言われたくないっての。犬死に野郎ども」


ヨハン:「ほざくな。殺すぞ」


リットン:(M)2日間に渡るアルデンヌの猛攻の耐久戦を強いられる。


カーズ:「仕事だ、ジャッカル」


ジャッカル:「はい。」


カーズ:「約束通り。死ぬまで戦え」


ジャッカル:「勿論。俺の命は、既にアンタのもんだ。」


リットン:(M)しかし当然、バンカーも一筋縄では行かない。アルデンヌ先遣隊もバンカーの猛迎撃に攻めあぐねているそうな。さてもさてもその戦闘被害は甚大であり、一種の地域恐慌が起きている。これを巷では、第三南北抗争と呼んでいる。


0:場面転換

0:ブルーストリート


リットン:「と、まあ。ここまでが30ドルで教えてやれる情報だね」


アルル:「えぇっ。そんなぁ!新聞に載ってる事しか教えてもらってないですよ…っ。」


リットン:「新聞に載ってる事を聞く気味が悪いだろう。」


マオ:「…」


リットン:「…で。さっきから黙り決め込んでる彼女が、先日話してた違法薬物売りの少女かい?」


マオ:「兄さんは」


リットン:「ん…」


マオ:「ジャッカル・ダウンポッドの目撃情報は、ありますか。」


アルル:「…」


リットン:「…うぅ〜ん。ある、と言えばあるし。無い、と言えば無い。なんせそれを言う理由が無い。だって君に金が無い」


マオ:「…」


アルル:「リットンさん…っ。お願いします…っ。どうか、それだけでも教えてください…っ。」


リットン:「…えー。」


アルル:「お願いします…っ。」


リットン:「えええ〜。」


アルル:「リットンさん。」


0:アルルはリットンの肩を掴んだ


アルル:「お願い、します」


リットン:「…天下の中央政府らしからぬ顔だね。それは公人がしていい眼じゃないよ。アルル・クロフォード。」


アルル:「リットンさん。」


リットン:「…はは。いいよ。わかったから、離して。」


アルル:「あ…すみません」


リットン:(M)バッッッカ痛ぇ〜〜〜。目も怖ぇ〜〜〜〜。…まあ。アルルちゃんの性格を考えれば、自分自身が第三南北抗争の引き金を引いたと後ろめたさもあるんだろう。まっったく、尽く損な性分だ事


0:リットンは座り直した


リットン:「それじゃあ、結論から。」


マオ:「…」


リットン:「ジャッカル・ダウンポッドは。生きては、いる。」


マオ:「…!本当ですか…っ。」


リットン:「情報の信憑性については考察屋の名に誓うよ。」


マオ:「〜〜っ。よかった…っ。」


リットン:「ただ。私の考察によれば、ジャッカル・ダウンポッドは。この第三南北抗争で死ぬよ。」


マオ:「え…」


アルル:「…」


リットン:「まあ。確率としては70%くらいだけどね。それでも生き残る確率の方が低い。なんせ彼は異常体でもなんでもない。ただの人間だ」


マオ:「…そう、ですけど…っ。」


リットン:「北エリアと南エリアの因縁は深いからねえ。先代リーダー達の戦いの決着もつかないまま現在の第2世代にうつり変わったわけで。この戦いは長期化する。間違いなく。その間に西、東エリアが横槍を刺してくるかもしれない。だからこそ死ぬさ。」


アルル:「させませんよ。」


リットン:「…」


アルル:「そうなってしまう前に。私が。なんとしても。ジャッカルさんを連れ戻します。」


マオ:「クロフォード…」


アルル:「ありがとうございます。リットンさん。お陰様で、ちゃんと腹くくれます。」


リットン:「…2日前とは少し変わったね?」


アルル:「そうですね。私も、負けてられないなと思ったので」


リットン:「ガロンドール・ウォンバットに、かい」


アルル:「この街の人達にもです。…勝てなくてもいい。ただ、私は負けちゃいけないんだ。」


リットン:「そっか。まあ良い機会だ、一度ヘッドの戦いに揉まれて現実を知るのもいいだろう。」


マオ:「リットンさん」


リットン:「はい?」


マオ:「クロフォードが、この抗争で生き残れる確率は、どれほどでしょう」


アルル:「マオさん…?」


リットン:「またタダで考えさせようとするのか」


マオ:「…」


リットン:(M)ただまあぶっちゃけ。中央政府特務監察課に恩を売っておくのも悪くは無い。何より南エリアはブルーストリートのすぐそば。戦火がいつこっちに飛び火してくるかも分からない。面倒事はごめんだ。であればこそ、こりゃ一旦は渡りに船、かな。


マオ:「お金は、ありません。ですので!体で!!」


アルル:「マオさん!!それはいけません!!」


マオ:「仕方が無いだろ!!金が無いんだ!!」


アルル:「駄目です!!貴方は未成年だ!!」


マオ:「未成年の方がいいだろ!!」


リットン:「あーあーあー。いいよそれもう。女の私に何を買わせる気だ」


マオ:「タイプでは無かったですか…」


リットン:「そういう問題ではなく。まあ、いいよ。構わない。アルルちゃんがこの抗争に首突っ込んで生き残る確率なんてね、頭捻らなくても分かる。だからタダでいい」


マオ:「ごくり」


アルル:「…」


リットン:「アルル・クロフォード。君がヘッド達の戦いに巻き込まれて生き残れる確率は。」


0:リットンは手で示す


リットン:「0%だ。」


マオ:「…っ」


アルル:「…。です、よね。」


リットン:「うん。2日前の試合見てる限り、身体だけは異様に頑丈らしいけど。弱いしね」


アルル:「…」


リットン:「だからここは。一人、訪ねてみるといい。バンカー突撃に協力してくれるかもしれない。」


アルル:「協力…?」


リットン:「ああ。東エリアのヘッド。怒愚羅魔愚等どぐらまぐらのリーダー。東郷とうごうという古臭い不良だ」


0:時間経過

0:場面転換

0:東エリア ロッキー広場


リットン:(M)なんでも彼、東郷はバンカーリーダーのカーズと因縁があるんだ。組織としてでは無く、個人的なね


マオ:「ここが東エリアか。始めてきたな…」


アルル:「そうなんですか?」


マオ:「このバグテリアで住処を転々と出来るのは強いやつだけ。基本は自分が産まれたエリアで死ぬまで怯えながらひっそり暮らすんだよ」


アルル:「窮屈ですね…」


リットン:(M)怒愚羅魔愚等リーダー東郷がバグテリア入りしたのは3年前。その間、実に6回に渡ってカーズと東郷は決闘を繰り返したらしいが、そのどれも決着は着いていない。


アルル:「それにしても…怒愚羅魔愚等…名前からしてもう怖いですもん…ああ…怖い…」


マオ:「まあ。バグテリアだしね。怖くない人の方が少ないよ」


アルル:「うぇ〜ん。マオさぁ〜ん」


マオ:「ひっつくな!」


リットン:(M)何はともあれ、一度会ってみるといい。思いの外、面白い男だよ。


ホームレス:「いやぁ〜!ありがとうなぁ!総長!」


老人:「あぁあ〜染みる…染みるのう…染み染み!」


マオ:「…?なんだあの人集り」


アルル:「ホントですね。クンクン。いい匂いだ」


マオ:「クロフォードってちょっと犬っぽいよね。」


アルル:「へへ、そうですかね」


マオ:「可愛くないけど」


アルル:「なんでぇ!可愛いでしょ犬ぅ!」


ホームレス:「おぉ〜アンタら、整列はこっちだぞ!」


アルル:「はっ。整列…っ。」


マオ:「なに警戒してんの」


アルル:「整列する場所に着いていくと金を取られると学びました…っ。」


ホームレス:(舌打ち)


アルル:「ほらぁ!」


老人:「おぉぉ…見たところワシらみたいなホームレスじゃ無さそうじゃしのう…」


ホームレス:「確かに、随分綺麗な身なりだ」


アルル:「あの、この人だかりは?」


老人:「あぁ…この辺りに来るのは初めてかい…。」


ホームレス:「今日は炊き出しの日なんだ。」


マオ:「炊き出し…?」


アルル:「無償で食べ物を配る慈善活動の事ですね。主にホームレスの方や、貧困層の方々に向けてのサービスですが…。」


0:アルルは苦い顔をする


アルル:「バグテリアで…炊き出し…?」


マオ:「うーん。にわかには信じられない」


ホームレス:「これが本当なんだ、私らも初めは詐欺だろって疑ってたけどね。」


老人:「このトムジィルが美味いんじゃ…体に染みる…」


マオ:「トムジィル…。聞いた事のない食べ物だ…」


アルル:「でもいい匂いなのは確かです」


牧野:「はい次!皿持ってきてくれーっ。」


アルル:(M)東洋人か?男勝りだけど可愛い子だな


マオ:「あれが炊き出しって言うのをしてる人?」


ホームレス:「ああそうさ。東エリアヘッド「怒愚羅魔愚等」の人達が炊き出ししてくれてるのさ」


アルル:「い!?」


マオ:「ヘッドが…炊き出し…!?」


アルル:「まさか、毒入り…!?」


老人:「なんじゃ。ジロジロ見て。言っとくがこれはワシのトムジィルじゃ。おまんらにはやらんぞ。おまんらも並べ」


アルル:「そりゃそうですけど…っ。いやいやいや、マオさん…!」


マオ:「う、うん…いくらなんでも怪し過ぎるでしょって…。トムジィルなんて名前の食べ物も聞いた事ないし」


アルル:「ぬぬぬ〜っ。こんな御老人を騙すだなんて…!」


マオ:「あ、ちょっと待て!クロフォード!」


0:ずかずか


アルル:「こらーーー!きみー!!」


牧野:「あ?なんだい姉ちゃん。見て分からねえのか、列がそこにあるだろ。並べよ」


アルル:「分かってます!!そうではなく!!その、トムジィル?と言うのは!本当に安全なものなんですか!」


牧野:「な!なんだ急に!とんでもねえこと言いやがって!いいか、これは総長が丹精込めた豚汁だぞ!!」


アルル:「響きの違いが分かりません!!」


牧野:「なんだってんだ、ずかずか来やがって…!喧嘩売ってんのか!あぁ!?」


アルル:「女の子がそんな言葉使ってはいけません!!」


牧野:「女だからって舐めてんじゃねえぞこっラァ!あんあんあんあんこら!あーん!」


マオ:「ちょっとちょっと!クロフォード!やめろっねいきなりっ。」


アルル:「でも!聞いたでしょ今の言葉遣い!確実に輩ですよ!」


牧野:「ん。そうか。そう見えるか。ふふん。そうかそうか。そうだろ。ふふん。」


マオ:「…」


牧野:「まあなー!俺は輩だからなー!あんまり舐めてっとマジばっこん行っちまうぞー!ふふん!」


マオ:「クロフォード。本当にこれが輩に見えるのか。なんか可愛いぞ」


アルル:「いいえ!輩です!ばっこん行っちまうと言いました!」


マオ:「馬鹿しか居ない…」


男:「おーい!いつまでそこにいんだよ!引っ込め!腹減ってんだこっちは!」


アルル:「え?いや、違います!私は…」


坊主:「そーだそーだ!うっといしいんだよガキども!」


ホームレス:「き!え!ろ!」


老人:「き!え!ろ!」


男:「き!え!ろ!」


坊主:「き!え!ろ!」


アルル:「あわわわわ」


マオ:「ほらぁ〜〜…もう、こうなるに決まってんじゃんか…」


リットン:(M)その場に巻き起こったのは、まさかの消えろコール。完全アウェイな空間の中、未だ鳴り止まない消えろコール。


ホームレス:「き!え!ろ!」


老人:「き!え!ろ!」


男:「き!え!ろ!」


坊主:「き!え!ろ!」


リットン:(M)その声は東エリア全体にまで響き渡るほど大きくなった。


ホームレス:「き!え!ろ!」


老人:「き!え!ろ!」


男:「き!え!ろ!」


坊主:「き!え!ろ!」


リットン:(M)しかし、その声を打ち消す。もうひとつの怒号。


東郷:「静かにしやがれッッッ!!!」


ホームレス:「もにょもにょ…」


老人:「んん…」


男:「おーん…」


坊主:「んにぃ…」


リットン:(M)さっきまでライブ会場のように騒がしかった一帯が、その男のたった一言で静かになった。


東郷:「聞こえねえだろうが。食材の声が。」


アルル:「びっ、くりしたぁ…誰だあの人…」


牧野:「すません!東郷さん!」


0:一斉に


ホームレス:「すんません!東郷さん!」


老人:「すまん!東郷さん!」


男:「すまねえ!東郷さん!」


坊主:「ごめんよ東郷さん!」


アルル:「……東郷…?」


マオ:「まさか、あの人が…?」


アルル:(M)東洋人の顔つき、鋭い細い目、指に包帯、そして何より…あのリーゼント!!あれが…怒愚羅魔愚等ヘッド、東郷とうごう 嘉車かしゃ…!?


東郷:「分かりゃいいんだ。いいか。人参さんってのは一歩間違えりゃクルリと回転して指が切れちまうんだ。怖いだろ、人参さんは」


牧野:「はい!怖いっす!」


ホームレス:「怖い!」


老人:「まじ怖い!」


男:「怖いよぉー!」


坊主:「んひー!」


東郷:「だからな。俺は人参さんの声を聞くんだ。ゆっくり待って、待って、待って待って待って。するとふと聞こえてくるんだ。人参さんの「もういいぞ」って声が。その時、包丁を振り下ろすんだ…。」


0:静寂


牧野:「ごくり…」


東郷:「…」


アルル:「ごくり…」


東郷:「今だッッ!」


リットン:(M)東郷の振り下ろした包丁は人参を捉えることは出来ず、「ぐさっ」と言う音がし、東郷の指に包丁が突き刺さる。


東郷:「…なん…だと…!」


アルル:「うぎゃあー!あいたた!」


牧野:「なんてこった!!指に包丁が!!大丈夫ですか東郷さん!」


東郷:「そんなはずがねぇ…!こいつとは上手くやってきたんだ…!何だってこんなことに…ッ!」


牧野:「やべえ…!東郷さんのリーゼントが萎えちまってる…!」


アルル:「あんなに凛々しく立ってたのに…!」


マオ:「馬鹿が増えた…」


牧野:「東郷さん!これは!あれだ!俺達が騒いじまったから!人参が怒っちまったんだ!」


東郷:「牧野…」


牧野:「だから東郷さんは悪かねえ!俺らが悪ぃんだ!人参の機嫌を損ねちまった俺らが!」


ホームレス:「そ、そうだよ東郷さん!」


老人:「あんたぁ何も悪くねえ!」


牧野:「だから東郷さん!もっかい人参を…」


東郷:「牧野。」


牧野:「はいっ」


東郷:「"さん"を付けろ!!」(殴った)


牧野:「ごぶべっ!!」


アルル:「えええええ!?」


マオ:「えええええ!?」


東郷:「お前はいつから人参さんを呼び捨てできる立場になったんだ!感謝しろ食事に!豚さんに!牛さんに!野菜さんに!感謝しろ!!」


牧野:「ずびばぜん…!」


アルル:「ちょっとちょっと!女の子に何手ぇ上げでるんですか!」


東郷:「黙ってろどさんぴんッッ!」


アルル:「ど…!?」


東郷:「いいか、俺らの血は、肉は、食べ物から出来てる!自分を作り上げるもの全てに感謝してこそ!漢だ!!これは心の話だぞ!そこに男も女も関係なんかねえ筈だ!ちげえか!」


アルル:「ぐっ。正しいっ。」


マオ:(M)正しいか?


牧野:「そうです!俺が甘かった!人参さん、失礼なこと言ってすみません!」


東郷:「…。ちょっと待て。人参さんが何かを喋ってる」


0:東郷は人参を耳に付けた


東郷:「…。次から気を付けてくれればいいってよ。良かったな、牧野」


牧野:「ありがとうございますッッ!」


マオ:(M)なんだこれ…。兄さんは今この瞬間も死ぬかもしれないって言う抗争の渦中にいるのに…東エリアはこんなに呆けてるのか…???


アルル:「くそっ。かっこいい…っ。」


マオ:「クロフォードっ。それどころじゃないってっ。」


アルル:「ハッ!そうでした、えっと、東郷さんっ。」


東郷:「なんだ。誰だお前は」


アルル:「申し遅れました、私は特務国際監察課の…」


東郷:「腹から声出せ!!」


アルル:「ぉお押忍?!わ、私はアルル・クロフォードですっ!!」


東郷:「何処から来やがった!!」


アルル:「中央政府バグテリア支部所!特務国際監察課から来ました!」


東郷:「そうか!中央の犬か!何の用だ!」


アルル:「押忍!!」


0:アルルは手を後ろに回した


アルル:「不躾ながら!東郷さんのお力を借りたく思い!馳せ参じましたッッ!押忍!!」


マオ:(M)なんでお前まで雰囲気に呑まれてんだよお…


東郷:「そうか!話なら豚汁作り終わってからだ!分かったか!」


アルル:「分かりました!ありがとうございます!!」


0:時間経過

0:昼

0:ガレージ


マオ:(M)それから暫くして、大量の豚汁を作り終えたこのリーゼントに、私達は事の経緯を話した。


東郷:「ーーそうか。話はだいたい分かった。お前の兄貴がバンカーに捕らえられてるって事だな。」


マオ:「…はい。」


アルル:「バンカーと北エリアの戦いは今でも続いていますっ。なので、それが激化してしまう前に、ジャッカルさんを助けたいんですっ。」


東郷:「断る」


アルル:「…っ。やっぱりまあ、一筋縄では行きませんか…。」


東郷:「そもそも俺は他の連中と違って領地争いには興味がねえんだ。」


アルル:「興味が無い…?じゃあ何故ヘッドを…」


東郷:「知るかよ。豚汁配りながら喧嘩売ってくる奴を殴ってる内にヘッドになってたんだ。だからそういう小競り合いには興味ねえんだ」


リットン:(M)東郷 嘉車。東西南北各エリアを束ねるヘッドの中で、彼は少し異質な存在である。他のエリアではバグテリアの絶対王者であるバラエティに対し上納金を収めることで、権力争いをしている。それは地域愛であったり、誰かの為、自分の為と理由は様々だが…


東郷:「だが。最後にこの街を取るのは俺だ。」


リットン:(M)しかし東郷は違う。彼はただ、自分の思うロマンの為だけに生きている。


東郷:「金の奴隷にもならねえ。暴力にも、権力にも俺は屈しない。バンカーを守るショーケースが壊されたってのは聞いてたが、ここぞとばかりに攻め入る卑怯者とは違う。漢ならタイマンだ。タイマン」


アルル:「…」


東郷:「だからよォ。気に食わねえなァ。あァ、俺ァ嫌いだ。自分のロマンを誰かに丸投げする奴は。」


0:東郷はリーゼントをかきあげた


東郷:「ロマンってのは。自分で勝ち取らなきゃあ意味がねえよ。」


アルル:「…」


東郷:「なんだ、その顔は」


アルル:「あぁいや…。なんと言うか、今まであった人たちとは少し違う正論を言われたなって…」


東郷:「馬鹿野郎ッ!」


アルル:「はい!?」


東郷:「何が正しいかは、テメェが決めやがれ!シャバ僧だなお前は!」


アルル:「…そう、ですよね。…はい。すみません、分かっていたつもりでしたが。改めて言われると。」


東郷:「まあつまり。そういう事で、俺はお前らに手を貸さん」


リットン:(回想)とまあ。東郷とはそんな人間だ。だから君らが東郷を尋ねても十中八九断られるだろう。だからね、だからこそね。この情報は彼に効く


アルル:「いいんですか。東郷さん」


東郷:「あ?」


リットン:(回想)最初言った通り。東郷はカーズと因縁がある


アルル:「北エリアに、カーズを先取りされるかも知れませんよ」


東郷:「…」


リットン:(回想)東郷はバニーのような野生獣とは違う。そういう意味ではある種、バニーは人の域を出ている。それに対し東郷はやっぱり人間だ。なんせ彼は


アルル:「私の目的はあくまでジャッカルさんの救助です。なので、カーズを取るのは今じゃなくていい。でも、今を逃せば確実に北エリアは増援を増やす。」


リットン:(回想)ドが着くほどの負けず嫌いだ


アルル:「このままでは、南エリアヘッド「バンカー」は貴方と決着をつける所では無くなる」


リットン:(回想)大丈夫。極めつけは私の名前を出せばいい。


アルル:「これは、考察屋リットンの情報です。」


リットン:(回想)自分で言うのもなんだが、私の名前はこの街では身分証にも近い程信頼たるものだと自負している


東郷:「…そうか。リットンが…」


0:リーゼントが逆立ち始める


東郷:「そうと来りゃあ、話は別だ。」


マオ:(M)マジで行けるんだ…!本当に脳筋だ…!


牧野:「東郷さん!豚汁配り終えました!」


東郷:「牧野」


牧野:「…はい?」


東郷:「今からバンカーにカチコミかけに行く。準備しろ」


牧野:「…!分かりましたッ!いつでも出れます!今からでも!」


アルル:「その子も行くんですか…?」


牧野:「なんだ!なんか悪ぃか!」


東郷:「コイツはダチで仲間だ。戦場には常に連れていくと決めてるし、言わなくても着いてくるのがこいつだ。」


牧野:「勿論です!どこまで着いていきます!」


アルル:「よく分からないけど!やった!」


マオ:「本当に上手く行くとは…」


東郷:「だが。念を押しておくぜ。俺はお前らと手を組んだ訳じゃあない。あくまで俺がするのはカーズを執る事だけだ。分かったか」


アルル:「…っ。分かりました。私もカーズ・ジョーンに因縁はありますが、今は貴方に譲りますっ。ジャッカルさんを助けるのが先決なので」


マオ:「…でもさ。」


東郷:「ん。なんだ」


マオ:「東エリアを空けてもいいんですか。他のヘッド構成員は…」


東郷:「いいやいない。怒愚羅魔愚等は俺と牧野だけのチームだ」


牧野:「ふふんっ。」


マオ:「は?」


アルル:「え?じゃあ尚更東郷さんが居なくなったら危ないんじゃ…」


東郷:「何を心配する必要がある。」


アルル:「えっ。話が通じないっ。」


牧野:「黙って見とけよ、中央のワンコ共」


マオ:「私は違います」


アルル:「なんで私を見捨てるんですかマオさんっ」


牧野:「あーもう静かにしやがれっ。」


アルル:「?なんでですか?」


牧野:「いいから見てろってば。東郷さん、どうぞ」


東郷:「おう。」


0:東郷は扉を開ける


東郷:「…。」


アルル:(M)東郷さんは、ガレージを出てすぐにある高台へ登り


東郷:「すぅぅぅぅぅぅぅ。」


アルル:(M)大きく息を吸った


東郷:「集ーーーーー合ォォォオオオオッッ!!」


アルル:「!?」


マオ:「!?」


アルル:(M)鼓膜が破れるほどの大声。その声は東エリア一帯へ響き渡った後、暫くの残響を残した。そしてその数秒後。


ホームレス:「…!」


老人:「…!」


アルル:(M)東エリアの居住モーテルからわんさか人がでてきた…!


男:「…っ!」


坊主:「…!」


アルル:(M)それはゾロゾロと広場に集まり…


マオ:「…すご…何人いるんだこれ…1声掛けただけでこんなに…」


牧野:「ふん。ビビったか。これが東郷さんのカリスマだ」


アルル:(M)それは、私の中のヘッドの印象を覆すものだった。


東郷:「お前ら!!今からちょっとバンカーにカチコミかけてくるからよォ!!!」


牧野:「かけてくっからよぉ!」


ホームレス:「押忍!」


老人:「押忍!」


男:「押忍!」


坊主:「押忍!」


アルル:(M)人の物を奪い、虐げるだけじゃない。


東郷:「その間!!東エリアはお前らに任せた!!!自分の身は自分で守れ!!明日も俺の豚汁が食いてぇなら何が来ても何されても死ぬんじゃねえぞ!!」


牧野:「死ぬんじゃねえぞ!」


ホームレス:「押忍!!」


老人:「押忍!!」


男:「押忍!!」


坊主:「押忍!!」


アルル:(M)地域ひとつが一丸となって、地域そのものがこの東郷嘉車という人物の仲間なんだ


東郷:「声がちぃさい!!!腹から声出せッッ!」


牧野:「出せ!!」


ホームレス:「押忍!!!!」


老人:「押忍!!!!」


男:「押忍!!!!」


坊主:「押忍!!!!」


アルル:(M)東郷嘉車。圧倒的な求心力だ。


東郷:「ヨシッ!ちょっくら行ってくるわッ!!」


牧野:「行ってくるわ!」


ホームレス:「行ってらっしゃいませ!東郷さん!」


老人:「行ってらっしゃい!東郷さん!」


男:「お気を付けて!東郷さん!」


坊主:「行ってらっしゃい!東郷さん!」


アルル:(M)物理的な強さじゃない何かが、東郷さんにはある。きっとそれを折ることは誰にも出来ないんだろうな、と。そう思ったし。敵じゃなくて良かったとも、心から思った。


東郷:「行くぞ!牧野!」


牧野:「押忍!!」


0:二人は単車に乗った


アルル:「あ…バイクですか…!」


マオ:「凄い改造されてる…。バグテリアでも珍しいくらいにコテッコテだ…」


東郷:「ああ。お前らは歩きか?」


アルル:「はい」


東郷:「そうか。じゃあ俺らは先に行ってるからな。」


牧野:「チンたらしてっと東郷さんが全部かっさらっちまうぞ!」


東郷:「ぶるるんぶるるんっ。ぶるるんっ。」


牧野:「ぶるるるるっ。ぶるるふんっ。」


0:二人は走り去った


アルル:「お…あ…」


マオ:「クロフォード。」


アルル:「あっ。すみません、なんかちょっと圧倒されちゃいました…」


マオ:「…まあ。一味違ったね。さすがヘッド。癖が強い」


アルル:「なんだか。負けた気になるなぁ…。って言ってる場合じゃないっ。マオさん、私達も行きましょう」


マオ:「…うん。」


0:二人は歩き出した


マオ:「クロフォードってさ。」


アルル:「はい?」


マオ:「なんで私には敬語だしさん付けなの」


アルル:「あ。そう言えばなんででしょう。」


マオ:「デラやべーなんとかで出会ったガロンドールとはタメ口だったじゃん」


アルル:「そう言えばそうですね。なんででしょう。ガロは不思議な人だったので…なんと言うか、気付けば心が緩むような、暖かい人でした」


マオ:「ふーん。私はそうじゃないと」


アルル:「あ、違うくて。初対面が敬語で、色々バタバタしてるうちにこれで慣れちゃったというか…。と言うか、なんでそんなこと知ってるんですか」


マオ:「中継見てたから」


アルル:「心配してくれてたんですかっ。」


マオ:「いつ負けるかヒヤヒヤしてた。」


アルル:「あ…ぅ…」


マオ:「…」


アルル:「でもでもっ。それを言うならマオさんだってそうじゃないですかっ。」


マオ:「私?なにが。」


アルル:「私の事クロフォードって。シーカーさんとか、バイオレットさんとか、バタップさんとかは皆名前なのに。私だけ苗字ですし」


マオ:「……。あ。そう言えばそうだね」


アルル:「普通に傷つきますよ。私だけって。なんでですか」


マオ:「だって私クロフォードのこと嫌いだし」


アルル:「普通に傷つきますって」


マオ:「…だってクロフォードは。私と違って強いひとだから」


アルル:「…?弱いですよ、私は」


マオ:「心の話ね。誰彼構わずそうやって手を差し伸べられるのは、クロフォードが強いからだよ。私は母さんが死んでからは折れたっきりだったしね」


アルル:「マオさんのお母さん、ですか…」


マオ:「そ。兄さんが殺したの」


アルル:「え」


マオ:「言っとくけど兄さんは悪くないから。母さんは私達を殺そうとするくらい、精神的に来ちゃってたから。」


アルル:「…そう、ですか…。」


マオ:「だからさ。そんな私に比べて。クロフォードは強いなって」


アルル:「…全然、そんな事ないですよ。バグテリアに来てからもう何回も折れそうになってますし。それに、今南エリアと北エリアが抗争してるのは。…私のせいみたいなものですし…。はい、正直かなりメンタルには来てます。」


マオ:「…ほんと、損な性分」


アルル:「それでも私は折れちゃダメなんです。ガロも、頑張ってるから…っ。」


マオ:「そんな走りっぱなしだといつか疲れちゃうよ」


アルル:「へへ」


マオ:「なんで笑ってんの」


アルル:「マオさんに心配して貰えるのが嬉しくて」


マオ:「…自意識過剰。」


アルル:「あれれ」


マオ:「…」


アルル:「マオさん。」


マオ:「なに?」


アルル:「私は。マオさんが生きててくれてとっても嬉しいですよ。」


マオ:「…」


アルル:「勿論、ジャッカルさんも。なので、約束。覚えてますよね」


マオ:「…兄さんと、私と。クロフォードで。パフェ食べに行くってやつ?」


アルル:「はいっ。マオさんにも、ジャッカルさんにも、生きてて良かったって心から思って貰えるように、私頑張りますから…!」


マオ:「はあ…なんでそこまで私たちを気にかけるのさ」


アルル:「…。ちょっと性格悪いんですけど。私が手を差し伸べた人達が、私の手を取ってくれた人達が。幸せそうしてると。ああ、私のした事は間違いじゃなかったんだなあって。そう思うからです」


マオ:「…」


アルル:「バグテリアは、思ってたよりずっと。ずっとずっと厳しい街でした。なので、私が今折れてないのも。マオさんが居てくれているお陰です」


マオ:「…あっそ」


アルル:「へへ、だから。私全然強くないです。弱いし、卑怯なんです」


マオ:「うざいよ。」


アルル:「なんで!?なにが!?」


マオ:「一応は…私達の恩人なんだからさ。もっと図々しく来なよ。というかそれが普通じゃん。なのにそれをしない。私はクロフォードのそういう所が、理解出来なくて。気持ち悪くて嫌い」


アルル:「褒められているのか…貶されているのか…」


マオ:「そのせいで今の私は。クロフォードなんかと対等で居られないのがムカつく。」


アルル:「…」


マオ:「だから。何か一つ、なんでも言うこと聞くよ。それでチャラにしよう。」


アルル:「いやいやいやいや。本当にいいですって。それにまだジャッカルさん助けられてないですし…」


マオ:「いいから。兄さん助けてくれた時はまた何か言うこと聞くから」


アルル:「ええ〜…」


マオ:「それとも。クロフォードは私をこのままずっと。「アルル・クロフォードが助けた可哀想な子供」で居させる気?」


アルル:「あ…」


マオ:「…」


アルル:「…すみません。なんだか、惨めな気持ちにさせてましたか」


マオ:「一々言うなって。ほんとデリカシーないね」


アルル:「うあああ、すみませんん…」


マオ:「で。どうなの」


アルル:「…では。私を、名前で呼んでください」


マオ:「…そんだけ?」


アルル:「私にとって大きな事です。」


マオ:「そういう奴だよなぁ…。でも私がクロフォードを名前で呼んでもそっちは敬語のままでしょ?」


アルル:「あ…。えっと。」


マオ:「ちょっと敬語外してみてよ」


アルル:「う、うんっ。これからも、よろしく!……お願いします」


マオ:「はあ〜〜…」


アルル:「しょうがないじゃないですかァ!慣れちゃったんですから!」


マオ:「うざ」


アルル:「ンなっ!じゃ、じゃあそれこそ、マオさんが私に恩を着せてくださいよっ。その時敬語外しますからっ。」


マオ:「なにそれ」


アルル:「ウザって言われたので!!傷つきました!傷つきました!!」


マオ:「うるさい。早く行くよ。「アルル」。」


アルル:「…!」


マオ:「…なに。」


アルル:「…へへへへ…」


マオ:「うざいって」


アルル:「すみません、嬉しくて」


マオ:(M)…私はこの時。こいつを置いて行こうと思ってた。巻き込みたくなかったんだ。アルルにはもう十分世話になった。だから、もうこれ以上苦しむ必要なんか無いって思った


アルル:「って浮かれてる場合じゃない。そろそろ東エリアを出ますね。走りましょうか!」


マオ:(M)でも、コイツは何を言っても着いてくるって分かってるし。何より、兄さんと、私と、アルルで。3人でパフェを食べる約束が頭からチラついて離れなかった


アルル:「…マオさん?」


マオ:(M)端的に言えば、アルルと縁が切れるのが嫌になった。だから、拒絶しきれなかった


アルル:「大丈夫ですか?具合が悪いですか?」


マオ:「ううん。大丈夫」


アルル:「よかった、しんどくなったすぐ言ってくださいね、まだもう少し歩く事になるので」


マオ:(M)それは今後。私の最大の罪になる。


アルル:「さ、行きましょうか、マオさんっ。」


マオ:「うん、行こう、アルル」


0:場面転換

0:南エリアヘッド「バンカー」本拠地

0:第4コロニー


リットン:「ほぉ〜っ。折角だから実際の様子見に来たけど。バンカーの諸君。結構耐えてるじゃんかっ。」


0:高台から戦況を見下ろすリットン


リットン:「今回北エリアヘッドのアルデンヌから派遣されたのは150名程度。アルデンヌの構成員数を考えると…大体5分の1か。結構な人数動員してるなぁ。ガチで潰す気じゃん。」


0:リットンはメモ著を開きながら独り言をつぶやく


リットン:「うん。うんうん。戦場には大きな傷跡。明らかに異常器が絡んでるな。まるで高層ビルでも叩きつけたような痕跡…痕跡…。あった。これか」


0:メモ著を捲る手を止めた


リットン:「…異常器。クラウ・ソラス」


0:場面転換

0:戦場


ガラートラム:「はぁ〜いもしもし。あ!ロザリオ様!お疲れ様でっす!」


リットン:(M)所有者。ガラートラム・アズリエル。北エリアヘッド「アルデンヌ」第三編成隊長。


ガラートラム:「そうなんですよ。やっぱりヨハンのチームが結構しぶとくて…。あと新しい顔で、ジャッカルって言う奴がこれまた面倒なんですよ。え?いや、異常体じゃないっす。ただの人間っす。いや、異常器も持ってないっす」


リットン:(M)やっぱりアルデンヌは異常器絡みの人間が多いな…。


ガラートラム:「はっはは〜っ。大丈夫ですよ、あと三日以内には本体落とすんで。カーズも引きずり出して見せます」


リットン:(M)そして。私の予想が正しければ…。


0:リットンは腕時計を見た


リットン:「…そろそろ来るかな。東の王」


0:場面転換

0:南エリア本体「バンカー通り」

0:誰かと通信している


ドルムンク:「…。そうか。分かった。ああ。」


カーズ:「ジャッカルからか。」


ドルムンク:「…ああ、若。バッドニュースだ」


カーズ:「なんだ。」


ドルムンク:「東エリアヘッド「怒愚羅魔愚等」リーダー。東郷 嘉車が。前線に現れた。」


カーズ:「…!まあ。そりゃ来るか。あの馬鹿、ここぞと言う時に邪魔ばっかりしてきやがる。」


ドルムンク:「…」


カーズ:「ドルムンク。前線に出ろ。」


ドルムンク:「了解。」


カーズ:「今は嘉車に構ってる暇がない。アルデンヌのカス殺して前線押し戻せ」


ドルムンク:「勿論だ」


0:ドルムンクは手袋を嵌める


ドルムンク:「バンカー通りは。落とさせねえよ」


0:場面転換

0:南エリア第5コロニー


リットン:(M)南エリア第5コロニーより


0:誰かと通信している


ヨハン:「はい。分かりました。待ってます。ええ、それまでは通しませんよ。はい。それでは、また。」


東郷:「ぶるるるるるん!ぶるるるん!」


牧野:「どけどけどけーい!ぶるるん!ぶるるん!」


ヨハン:「来たな、暴走族」


牧野:「うげ!!ヨハン!!」


ヨハン:「そこで止まれ」(蹴る)


牧野:「ごぶっっ!」


東郷:「おーーー。おーおーおー。ヨハンじゃねえか。久しいな」


牧野:「いっってぇーー!痛い!痛い!」


東郷:「出会い頭俺のダチに蹴り入れるたァ、随分なご挨拶だぜ」


ヨハン:「状況見て分からないのか。今はお前に構ってる暇はない。帰れ」


東郷:「断るね。カーズ出せ」


ヨハン:「それこそ断る。これは領地争いで、立派な抗争だ。部を弁えろよ」


東郷:「あーーそうか。そうかそうか。ならいいぜ、俺もそうする。見せかけだけの名目はどうだっていいからよォ。」


0:東郷はリーゼントをかきあげた


東郷:「耳の穴かっぽじってよぉーーく聞きやがれ。」


リットン:(M)東エリアヘッド「怒愚羅魔愚等」リーダー


東郷:「俺は東郷嘉車。今からこのしょうもねえ領地争いに首突っ込む。」


牧野:「お、俺もだ俺もだ!牧野佳苗!参上!」


リットン:(M)第三南北抗争へ


東郷:「___沸き立つぜ。」


リットン:(M)堂々たる参戦。


0:場面転換

0:南エリア第4コロニー


ガラートラム:「…さぁて。皆〜!もう休憩終わりっ。次行こう」


リットン:(M)一方その頃、第4コロニー。


ジャッカル:「だァと思ったぜ。」


ガラートラム:「ははは!来たなジャッカルくゥん!」


ジャッカル:「お前ら!!死ぬ気で守れ!!第4コロニーだけは突破させんな!!」


ガラートラム:「うぉー!死ぬ為の特攻だ!きも!」


ジャッカル:「悪ぃが俺ァ。もうバンカー通りに首捧げちまってんだ。腐ってもここは退けねえ」


リットン:(M)ジャッカル率いる第3チームから第6チーム。決死の迎撃。勝率は…15%ってところかな


ガラートラム:「言ってる内に息切れするよぉ、洛南の番犬ン…!」


ジャッカル:「進めぇえっ!足止めんなぁ!」


ガラートラム:「元気いいなぁもう。そういうの大好き」


0:ガラートラムは剣をゆっくり振り下ろした


ガラートラム:「おっきくなぁれ。クラウ・ソラス」


リットン:(M)キタキタ、クラウ・ソラス。その質量とサイズを自在に増減することの出来る異常器。


ジャッカル:「ちっ…!またそれか…っ。」


リットン:(M)その最大サイズは、縦120m。横60mに及ぶ。文字通り、高層ビルを叩き付ける如き壊す為の剣。


ガラートラム:「そぉおおら!叩き潰れろ!!」


リットン:(M)その質量は当然、使用者であるガラートラムも耐えきれない。その為、クラウ・ソラスを振り降ろす瞬間にのみ巨大化を発動させる事でこれを克服か。上手い使い方するなあ。


ジャッカル:「ッッ…!何人逝ったァ…!?くっっそ…!くそくそ、くそが!行け行け行け!止まんな!!」


ガラートラム:「まっったく…特攻もいいとこだよ。命は大切にしようにゃ〜」


リットン:(M)しかし当然デメリットもある、か。クラウ・ソラスの巨大化は目標サイズに到達するまで、必ず13秒かかっている。元のサイズに戻るのも13秒。つまり、一振の隙が大きい。うんうん。やっぱり戦場は有益な情報が多く得られる。まさしく金の成る木だね。


0:大勢の抗争


ジャッカル:「ぉおおらッ!」


ガラートラム:「ほいほいほ〜い!みんなぁ、次クラウ・ソラス使うまで止まらんないで〜!死ね死ね〜!」


ジャッカル:「止まんなっつってんだろ!くっそ!足止めんなァ!」


ガラートラム:「そろそろかなぁ〜。大きくなれ」


ジャッカル:「くそが…ッ!また使うぞ!」


ガラートラム:「クラウ・ソラス」


ジャッカル:「遮蔽物だ!伏せろ!頭はあげんな!!」


リットン:(M)うーーーん。これは。正直見てられないな。はっきり言って一方的な虐殺だ。逆によく耐えた方だろうけどね。あのジャッカルって子。あれが統率取ってるからなんとかって所だろうけど。言ってる間に決着ついちゃうねこりゃ


ガラートラム:「叩き…ッ!」


リットン:(M)まあ。そりゃこのままじゃ、の話だけど


ガラートラム:「潰れろぉお!」


ドルムンク:「2000HVツーサウンドビッカーズッッ!!」


リットン:(M)この男が来たとなれば、話は全く別だ


ガラートラム:「…ああ…来たかぁね…?」


ジャッカル:「ドルムンクさん…!」


ドルムンク:「なにやってんだ。遊びじゃねえぞ」


ジャッカル:「すんません…っ。ありがとうございまさっ。」


ガラートラム:「あーあーあー。チンたらやってる内に…」


リットン:(M)ドルムンク・ラクシウル。バンカーの守護神と称される程の巨体。身長224cm。体重184kg。その図体から着いた異名は


ガラートラム:「来ちゃったなあ。黒壁ぇ。」


ドルムンク:「戦況がいよいよ遊んでる場合じゃなくなった。さっさとカタすぞ」


ジャッカル:「押忍…!」


リットン:(M)「黒壁」と呼ばれる所以、それは彼の異常性に起因する。


アガートラム:「厄介だなぁ。本当に。相性も最悪だし、さぁ…」


ドルムンク:「力を腹に入れろ。死ぬなら一人でも殺してから死ね。バンカーの名に恥じない死に方しろ。気合いれ直せよお前らぁ!」


リットン:(M)「硬質化」。単純。シンプルな能力だが、だからこそ強い。その圧倒的防御性能は超硬合金をも超える。まさしく壁という概念そのものだ。彼が戦場に投入されるだけでバンカーの士気が上がる。それ程の存在であるという事だ。


ジャッカル:「ドルムンクさんが足止めしてくれてんだァ!その間に一人でも多く殺せ!ぶっ殺せ!」


アガートラム:「さぁて。第2ラウンド」


ドルムンク:「ここから先は、マジで死ぬ気で来いよ。アルデンヌ」


リットン:(M)よもやよもや。その光景と死傷者数は抗争と呼ぶよりも、東南アジアにおける紛争に近い。…おや。おやおや、やっと来た。


0:場面転換

0:第8コロニー


アルル:「……」


マオ:(M)南エリアに着いた。バンカーの根城、ショーケースの外壁に最も近い通り。南エリア第8コロニー。


アルル:「……なんだ。これ」


マオ:(M)南エリア近郊で育った私はこの通りを知っている。寂れてはいるけれど、人が溢れていた。誰も彼もが毎日に絶望している、クソみたいな空気が漂うコロニー。


アルル:「…なん、なんですか…これは…っ」


マオ:(M)けど。今はそれよりも遥かに、クソみたいな光景に様変わりしてる。誰一人居ない。辺りの建物は壊され、至る所に血が付着し、死体が倒れている。酷い臭いだ。虫が集っている。それはこの抗争が数日にわたって行われている何よりの証拠。


0:辺りは死体だらけ


アルル:「この抗争で。一体何人。死んだんだ。」


マオ:「……」


アルル:「…マオさん」


マオ:「…なに」


アルル:「これ全部。私のせいですか」


マオ:「…違うよ」


アルル:「違いませんよ。私が余計なことをしたから、これだけの人が死んだんです」


マオ:「…」


アルル:「……うわ。」


0:アルルは瞬きをしていない


アルル:「うっわーーーー…。」


0:ただ立ち尽くす


アルル:「…やばい。今、凄く心折れそうだ」


マオ:「…アルル」


アルル:「……」


マオ:「…アルル…」


アルル:「……」


マオ:「アルル!!」


アルル:「…はい」


マオ:「兄さんのところに行くんだろ。こんな所で立ちっぱしてる場合じゃない」


アルル:「…そう、ですよね。分かってます」


マオ:「それに。こうなるって分かってたんじゃないのか」


アルル:「分かってる、つもりでした。私が手を差し伸べることで、何人もが痛い目を見るんだろうと」


マオ:「じゃあ何を今更…」


アルル:「でも。…でも。これ程とは、思ってませんでした。」


マオ:「…」


アルル:「これじゃあ、抗争じゃない。戦争だ。」


マオ:「バグテリアはそういう街だよ。人の物を奪う。人を殺す。そうして成り立ってるんだ」


アルル:「これが成り立ってるように見えるんですか、マオさんの目には」


マオ:「しょうがないだろっ。皆こうして生きてきたんだ!奪って壊して生きて来たんだ!」


アルル:「しょうがないで人を殺していいわけないじゃないですか!!殺されていいわけないじゃないですか!!」


マオ:「……」


アルル:「……あ。…すみません」


マオ:「…いいよ」


アルル:(M)馬鹿野郎…っ。なに八つ当たりしてんだ。マオさんは何も悪くない。私だ。悪いのは全部私だ。


0:アルルは周りを見ている


アルル:(M)こんなに人は、簡単に人を殺すのか。殺すしかないわけが無い。これは明らかに、虐殺だ。


0:拳を握る


アルル:(M)ほんっっとうに…なにやってんだよ…私はぁ…!


0:場面転換

0:第5コロニー


リットン:(M)打って変わって最前線。第5コロニー。


ヨハン:「Insectインセクト


東郷:「おぉ〜」


牧野:「きゃあああ!虫!虫!私これ苦手なんです!!」


東郷:「なに女みてぇなこと言ってんだお前」


牧野:「ハッ!」


リットン:(M)無数の昆虫が飛び交う戦場。


ヨハン:「刺し殺せ」


リットン:(M)ヨハン・シャオロン。自身に知見のある虫を生成する異常性。去年よりも練度上がってんじゃないか?1回で3000。いやあ、4500匹くらいは作ってんね。相変わらず気持ち悪い


東郷:「…あ?」


リットン:(M)勿論。生成される虫の中には、毒を持つキモイのもいるさ。代表例で言うと、蜘蛛。


東郷:「ちっ。相変わらずシャバい戦い方しかできねえ野郎だ。」


牧野:「まっ!まったくでい!」


東郷:「突っ切るぞ!!牧野!!」


牧野:「はいっ。」


0:2人はバイクに跨った


東郷:「ぶるるるん!ぶるるるるん!」


牧野:「うおおおお!あ!口に虫入った!きもい!きもい!」


ヨハン:(M)特攻しか脳の無い猿が。鬱陶しい。


東郷:「はぁ〜〜〜。」


0:東郷は右拳に息を吹きかけ


東郷:「ちゅ。」


0:右拳にキスをした


東郷:『お前に決めた』


リットン:(M)きも!相変わらずこっちもきも!しかしそう、今のキモイのが東郷嘉車の異常性。発動条件は、対象物へ接吻し、「お前に決めた」と唱えること。刹那!


東郷:「ぉおらおらおらおらっ!」


リットン:(M)殴る殴る殴る殴る!バイクに乗りながら右拳ひとつで多勢を薙ぎ倒す様は赤兎馬に乗る呂布を彷彿とさせる!


東郷:「前座が多い!」


リットン:(M)ひとり!


東郷:「ありがてえ!」


リットン:(M)またひとり!


東郷:「上がる!ボルテージが!」


リットン:(M)バッタバッタと殴り抜け!本丸へ辿り着く!


東郷:「沸き立つぜ」


牧野:「決まったぜっ。」


ヨハン:「…はぁ。」


牧野:「やいやいヨハンてめぇ!覚悟しやがれ!」


ヨハン:「お前は何もしてないだろ。ひっつき虫が」


牧野:「なんだとコノヤロウ!」


ヨハン:「なんだ。お前からやるか。威勢だけの小娘が」


牧野:「や、ややや、やったらぁおい!」(がくぶる)


東郷:「牧野ォ!」


0:東郷は前に出る


東郷:「漢なら!黙ってケツの穴引き締めて前に立て!」


牧野:「東郷さんっ」


ヨハン:「漢漢と。なんなんだお前は。沸いてるのか」


東郷:「ああ。沸き立つぜ」


ヨハン:「頭の話だ。」


0:ヨハンは腕を前に出す


ヨハン:「定義転換。昆装こんそう


リットン:(M)お。定義転換使えるようになったのか!凄いじゃんっ。いや、でも結局きもーー!なんだあれ。右腕に巻き付いてんのは。でっか。くそでかい…


ヨハン:「____百足。」


リットン:(M)きしょー!


牧野:「きしょー!」


ヨハン:「そぉら!」


東郷:「ッとぉ!」


0:2人の拳がぶつかる


東郷:(M)なんだ。硬ぇ。この虫か。


ヨハン:「驚いてるな。嬉しいよ、その反応が見れて。」


東郷:「言ってろタコスケぇ!泣き見るぜぇ!」


ヨハン:「お前がな!」


0:二人は戦いながら話している


東郷:「なんだなんだ!遠くからチクチク刺すことしかできねえと思ってたが、直接の殴り合いも行ける口になったかよ、ヨハンッ!」


ヨハン:「…っ!お前のお陰、だなっ!毎度毎度馬鹿みたいに特攻してくる馬鹿も居るんだなと学んだ、ぞッ!」


0:ヨハンの腕の百足が動き


東郷:(M)っとぉ…虫が体に巻き付いてきやがる。


牧野:「と、東郷さぁん!」


東郷:「おお!すげえ力じゃねえか!」


リットン:(M)昆虫があのサイズになるとどれ程強く恐ろしいかがよく分かる。けれどもそれより、東郷を抑える為には、それほどの手段が必要だと言う事。その方がげんなりする。


ヨハン:「ぉぉおおらっ!」(蹴る)


東郷:「ぶっ…!」


ヨハン:「いい加減に!」(殴る)


東郷:「ごぶっ」


ヨハン:「私達に!」(殴る)


東郷:「ブブッ!」


ヨハン:「ちょっかいをかけてくるな!」(蹴る)


東郷:「ぶごッゥ!」


牧野:「なにしやがる!やめろヨハンてめぇ!」


ヨハン:「じゃあお前が先に死ぬか」


0:ヨハンは牧野の方へ走る


ヨハン:「ひっつき虫」


牧野:「はっや…!」


東郷:「おいおいおい。どこ行きやがる」


ヨハン:「…!」


東郷:「てめぇ。散々殴りやがったな。」


リットン:(M)東郷は百足に右拳を振り下ろした


東郷:「いち。に。さん。よん。ご。」


リットン:(M)殴る!殴る殴る殴る!


東郷:「ろくっ!」


リットン:(M)六発目。百足は粉々になる。これぞ東郷 嘉車の真骨頂。異常性対象物に与えられた「衝撃」を蓄積し、その蓄積量に応じて対象物の質量を擬似的に上乗せ、衝撃指数を掛け算する。まあ、有り体に言えば


東郷:「準備運動にも物足りねえ。」


リットン:(M)鍛冶師が鉄を叩き、より強い鉄にするように。東郷が指定した対象物は。攻撃する度にその攻撃力を上乗せしていく。


東郷:「さっきの百足と。お前らの仲間ぶっ飛ばして。合計。何回だ。分かんねぇけどよ」


リットン:(M)68回分の攻撃倍率の乗った対象物。東郷の場合、その対象物は必ず「右拳」と決めている。


東郷:「もうちょっと付き合えよ、ヨハン」


ヨハン:「この変態が」


リットン:(M)東郷嘉車は右拳しか使わない。それは彼の拘りであり、ロマンであり、正道。


東郷:「どぉぉおおおらっ!」


0:殴った


ヨハン:「ごぶッ!」


東郷:「はは!いい調子だ!」


ヨハン:(M)くそ…!肩温ってんじゃねえよ、虫で守らないと顔面潰れるっての…!


東郷:「そぉれもういっちょぉ!」


ヨハン:「定義転換、昆装ッ!」


東郷:「ぉおおおら!」(殴る)


ヨハン:「百足ムカデッ!」(受け止める)


東郷:「またそれかよ!芸がねえな!」


ヨハン:「お前にだけは言われたくない!」(蹴る)


東郷:「むんっ」(受け止める)


ヨハン:「噛み付け…ッ!」


0:ムカデが東郷の肩を噛む


東郷:「痛ッてぇ!」


牧野:「あの虫!東郷さんに噛み付きやがった!許せねえ!」


東郷:「問題、ねえッ!」(虫を叩き殺す)


ヨハン:(M)もう一撃でムカデを殺すか。このアホに長期戦は不利。異様なタフネスは折り紙付きだ。だったら…!


東郷:「またなんかする気か。」


0:ヨハンは手を出す


ヨハン:「spiderスパイダーHOUSEハウス


東郷:「…蜘蛛ォ?またか。もういいっつーの!」


リットン:(M)いや。これは危ない。ハイイロコケグモだ。そうか。虫の細かな種類まで生み出せるようになり始めてるのか。これは下手したら国家崩壊規模で危ないんじゃないか?


ヨハン:「定義転換…っ!」


東郷:「ぉぉおおおらッッ!」


ヨハン:「昆装、百足ッッ!」


0:虫を砕き腹を殴り抜いた


ヨハン:「ぶごォッッ…!」


東郷:「よぉし一発ゥ!」


ヨハン:「こん、の!」(蹴る)


0:ビクともしない


東郷:「ふん。そりゃダメだ、身が入ってねえよ。」


ヨハン:(M)ちっ。体勢悪けりゃまるで通らん。硬すぎんだよお前


東郷:「どけよヨハン」


ヨハン:「断るね」


東郷:「じゃあ死ぬか」


ヨハン:「ああ。死ぬさ。お前が、ここでな」


東郷:「そうか。」


0:東郷は腕を振り上げようとした


東郷:「…ぁあ…?」


0:東郷の腕は上がらない


東郷:(M)…なんだこりゃ。腕が上がらねえし、クソいてぇ。


リットン:(M)って思ってんだろ。多くの場合ムカデは毒を持つ。咬まれた場所は痛みを伴い大きく晴れる。あのサイズに噛まれて腕上がらない程度で済むのも大概化け物だ


牧野:「東郷さん!?どうしたんすか!」


東郷:「はは。ヨハンてめぇ」


ヨハン:「ただじゃ死なないさ。もうひとうの毒もそうだ。」


東郷:「…!」


0:東郷は膝を着く


東郷:「……。」


牧野:「と、東郷さん!!大丈夫っすか!」(駆け寄る)


東郷:「こっち来んな牧野!」


牧野:「え!」


リットン:(M)賢い。と言うより鋭い。ハイイロコケグモは神経毒を持つ。死に至るほどでは無いが。立つのも困難だろう


東郷:「やってくれるぜ」


ヨハン:「はは。言ったろ、お前はここで死ぬって」


リットン:(M)しかし、東郷嘉車という男はひと味違う


東郷:「牧野ォオ!ドス持ってこい!!」


牧野:「はいッ!」


ヨハン:「…おいおい…」


リットン:(M)バグテリアで彼は、気合と根性の男と呼ばれる。その所以


東郷:「肩。足。左腕だ。」


牧野:「分かりました。失礼します。」


リットン:(M)彼女は手持ちのドスで東郷を斬る。勿論、血が溢れる。わんさか溢れる。


ヨハン:「は。本当にキモイよ、お前ら…!」


東郷:「ンんん…ッッ!」


リットン:(M)東郷が体中を強ばらせるとまた血が溢れた。その最後の流血を機に、出血は止まる


東郷:「…ふぅ。」


牧野:「失礼しました!」


東郷:「おう。」


0:立ち上がる


ヨハン:「…」


東郷:「沸き立つぜ。」


ヨハン:「立つなよ」


東郷:「立たない男は使い物にならねえだろうが」


ヨハン:「まったくだな、イカレポンチが…っ!」


東郷:「おぉおおらッッ!」


ヨハン:「ぶごッッ!」


ヨハン:(M)折れた、確実に…!いいや違う、早く体勢を整え…


0:吐血


ヨハン:(M)喀血。折れた骨が内臓に刺さってる。ここまでか。


東郷:「もっかい聞くぞ。退かねぇんだな」


ヨハン:「ああ。退かないね」


東郷:「OK。」


0:東郷はリーゼントをかきあげる


東郷:「お前の生き様、バッチリだ」


リットン:(M)勝負あり。東郷の右拳は既に岩をも砕く程の攻撃倍率が乗っている。その拳はヨハンの顔面の肉を、骨を、脳髄まで砕き切る


アルル:「ちょっっと待ってください!!」


リットン:(M)筈だった


東郷:「お?」


ヨハン:「あ?」


牧野:「あ!遅かったじゃねえか!」


アルル:「殺さないでください、東郷さん」


リットン:(M)中央政府バグテリア支部所。特務国際監察課のイカれた信じん。アルル・クロフォード。遅れて登場。いやはや重役出勤


アルル:「見たところ、もう勝負は着いたでしょう。」


マオ:「はあ、はあ…っ。アルル、待てよっ。早い…って何この状況」


ヨハン:「誰だお前は」


アルル:「中央政府監察局。特務国際監察課所属、アルル・クロフォードです。」


ヨハン:「…!そうか。お前がカーズさんの言ってた…。」


アルル:「…。東郷さん。無闇に殺さないでください。膝も着いている、血も吐いている、彼女はもう戦えない。」


牧野:「おいおい、横から割行って指図してんじゃあねえぞっ。これは東郷さんとヨハンの戦いだ!」


東郷:「そうだな。で、勝ったのは俺だ。お前の言う通り勝負はついた。だがコイツは退かねえと言った」


アルル:「…。はい。決めるのは東郷さん、貴方です。なのでこれはお願いです。どうかその人を殺さないでください」


東郷:「そう来たか。」


ヨハン:「なんの真似だ。ごぼっ…。余計、だ。これはガキの喧嘩じゃない。お前が知る外の抗争とも違う。れっきとした殺し合いだ。」


アルル:「…」


ヨハン:「私達は、私達の目的の為に各々が命を賭けている。ここで、死ぬ事になんの悔いも無い。憂いも無い。」


アルル:「…はは。」


マオ:「…アルル…?」


ヨハン:「横から入ってきて、甘ったれた考えで口も首も挟むな。」


アルル:(M)ああ。またこれだ。


ヨハン:「私が死んでも、バンカーは負けない。ドルムンクさんがいる。カーズさんがいる」


アルル:(M)私が馬鹿で世間知らずのガキだって。そう言うんだ。そうだとしても、例えこの街でそうだとしても。


0:ヨハンの吐血は止まらない


ヨハン:「情はいらん。余計な口を挟むな。」


アルル:「…死にたいんですか?」


ヨハン:「…は?」


アルル:「死にたいなら勝手に死ねばいいじゃないですか。何故誰かに殺されようとするんですか。私には貴方たちの事情は分からない。でも、命を賭けてもいいと思えるほど大切な何かの為に、生きてるんじゃないんですか。」


ヨハン:「…」


アルル:「勝負は着いている。今の貴方は、きっと私すら殺せない」


マオ:(M)アルルがその片鱗を初めて見せたのは、デラやべーグランプリが終わった後。南エリアのショーケースが破壊されたすぐあと。


アルル:「分かったんです。貴方には、いいや貴方だけじゃない。誰にも死んで欲しくない。けれどそれ以上に、誰も殺して欲しくない。人が人を殺すのは悲しい事だ。こんな街で過ごしてるから忘れてるだけで、本来は一生追うべき罪なんだ。」


マオ:(M)きっと、アルルは。この抗争の引き金を引いた事に怒っていて、それを甘く見ていたことに怒ってる


アルル:「私は間接的にこの抗争を引き起こした最低最悪のクズ野郎です。死んでしまいたいほどに、罪の意識に呑まれています」


マオ:(M)3日前。私達はラジオ放送で第2南北抗争の報道を聞いていた


アルル:「なので。東郷さんに。貴方を殺したと言う罪を背負わせないでください。」


マオ:(M)その報道を聞いた時のアルルの目は


アルル:「これは。人が背負うには余りにも重すぎる」


マオ:(M)"そっち側"の目だった。


アルル:「…どうなんですか。東郷さんは、この人を殺したいんですか」


東郷:「別に?退かねえから殺すってだけだ」


アルル:「じゃあ殺す必要は無いですね。もう彼女は動くことすら困難だ」


ヨハン:「舐める、なよ…っ。」


アルル:「そうですか。立つなら、後は私が相手をします。行ってください、東郷さん」


ヨハン:「は…?」


牧野:「おいお前!それは東郷さんの…」


アルル:「東郷さんはカーズ・ジョーンとの決着をつける為にここに居るんですよね。」


牧野:「くっ。正論っ。」


アルル:「行ってください。東郷さん。」


東郷:「…。分かった。行くぞ、牧野」


牧野:「ええっ。いや、でも…!」


東郷:「構いやしねえ。こいつの言う通りだ。俺はカーズをぶちのめしたいだけだからよ。わざわざ虎の尾を踏むことはねえ」


ヨハン:「くっそ…っ。待て、東郷…っ。」


東郷:「おい、アルル・クロフォード」


アルル:「はい。」


東郷:「お前。今最高にこの街に向いてる目してるぜ。」


アルル:「…。そうですか。」


東郷:「行くぞ牧野」


牧野:「はいっ。」


0:2人はバイクに乗った


東郷:「ぶるるるるんっ。」


牧野:「ぶるるるんっ。」


ヨハン:「Insectインセクト…ッ!」


アルル:「…ッ!」


0:アルルはヨハンの手を踏んだ


ヨハン:「がッ…!」


アルル:「動かないでください。もう戦わないでください。死んでしまいます」


ヨハン:「は、はは。人の手ぇ踏んどいて出る言葉かよ、イカれてんなお前。」


0:ヨハンは少しずつ立ち上がる


ヨハン:(M)すみません。カーズさん。敵を通してしまいました。番犬失格ですね。でも、この命はまだ生きている。


アルル:「本当に立つんですね」


ヨハン:「ああ。私がバンカーにいる理由だ。」


0:アルルはトンファーを構えた


アルル:「…。中央政府、特務国際監察課。アルル・クロフォード。只今より執行任務へ取り掛かります」


ヨハン:「南エリアヘッド。バンカー幹部。ヨハン・シャオロン。向かう敵は、全員殺す。」


マオ:(M)その戦いは。泥仕合という言葉が良く似合うものだった


ヨハン:「定義転換ン…!」


アルル:「ぉおおおッ!」(殴る)


ヨハン:「ごぶ…っ。昆装、百足…ッ!」(殴る)


アルル:「がはっ!」


マオ:(M)アルルは弱い。バグテリアでこんな弱い人間、そうそう居ない。そのレベルで弱い。でも、こいつは倒れない。それだけはもう。痛いほどわかってる。


ヨハン:「噛み切れ、百足…ッ!」


アルル:「がぁっ…!」


ヨハン:(M)なんだ。相手は東郷じゃない。ただの監察官、しかも女だぞ。なのに百足で噛み切れない。異様な程頑丈。毒の耐性も並の監察官規模じゃない。どういう訓練を受けてるんだ。


アルル:「対・異常体執行術」


ヨハン:(M)だが、弱い。不自然なほど弱い。


アルル:「仁・発勁ッッ!」


ヨハン:(M)あらゆる攻撃が稚拙だ。まるで身体の動かし方を知らない赤子のような。いくら今の状態の私でもこの攻撃を避けられない筈もない


アルル:「ぉぉおおおッ!」(蹴る)


ヨハン:「っと…!」(避ける)


0:すぐ様反撃


ヨハン:「はぁぁああっ!」(殴る)


アルル:「ぶごッッ…!」


マオ:(M)その戦いは。5分くらいだったかな。結構すぐ決着が着いたと思う。


ヨハン:「…はぁ…はぁ…。」


アルル:「…ごほっ。けほっ…。」


ヨハン:(M)百足が8回。蜂が6回。蜘蛛が14回刺した。東郷より筋肉層も薄い、毒針が血管を破った可能性すらある。その場合致死量の毒だ。なのに私の前に立ち続けている。一重に言うなら


アルル:「…ああ。…くそ。」


ヨハン:(M)不気味な奴だ。


アルル:「…はぁ。はぁ…」


ヨハン:「…すみ…ません。…カーズさん…」


アルル:(M)弱い。弱過ぎる。なんなんだ私は。こんなボロボロの人ひとり殺せないどころか、私が押されてる。負けて、ばっかりだ。


マオ:「アルル…!もうやめろ…っ。」


アルル:(M)でも。正しさの押しつけあいは、淘汰だから。だから、勝ちたい。私の手で勝ち取ったものが欲しい。


ヨハン:「…」


アルル:「対・異常体…執行術…。」


マオ:「アルルっ。やめろって…!」


アルル:「なんで止めるんですか。まだ勝負が…」


マオ:「もう勝負ついてるって…っ。よく見ろよ!」


アルル:「…え…?」


ヨハン:「…」


リットン:(M)…まあ。そりゃそうでしょ。骨折れて内臓も傷付いて出血も酷いんだ。アルルちゃんと戦おうが戦わなかろうが、あと数分で気を失うに決まってたんだ。


アルル:「…。そう…ですか…。もう。終わってましたか。」


マオ:「らしくないぞ…っ。そんなつもりで頑張れって言ったわけじゃない…っ。」


アルル:「そう、ですよね。すみません。」


リットン:(M)ヨハンの強さは知っているから置いておいて。うぅーん。これ。思ってたより興味深いぞ。


アルル:「…多分あの人は。出血で気を失っただけですよね」


マオ:「…多分」


アルル:「…弱過ぎじゃないですか。私」


リットン:(M)あれほど毒を浴びせられて動ける身体。骨を砕かれて、血反吐を吐いても足を止めない身体。はっきり言ってどうかしてる。


アルル:「…悔しいなぁ。」


マオ:「…」


リットン:(M)大穴、アルル・クロフォード。これは要チェックだな


マオ:「アルル」


アルル:「…はい」


マオ:「焦ってんの」


アルル:「…焦ってます。こんなに人が死んでるんです。私のせいです。これじゃあ、皆を不幸にしてるだけだ。」


0:少しの沈黙


マオ:「ひとつ。ひとつだけ。聞け」


アルル:「…。はい。」


マオ:「やっちゃった事は、もう取り返しがつかない。きっと私が何を言っても。アルルは自分を責め続けるでしょ」


アルル:「…」


マオ:「だから、この景色も、後々笑い話にできるようにするしか無いって」


アルル:「この光景を…笑い話に…?」


マオ:「そうだよ。1年後、5年後に。笑ってあの時はしんどかったって笑えるように」


アルル:「人が死んでるんですよ…?」


マオ:「人が死んでてもだ」


アルル:「そうなのできるわけーーー」


マオ:「するしかないだろ!!!」


アルル:「…」


マオ:「ずっと思ってたけど、お前は神様か何かなのかっ。人は生き返らない!やっちゃった事も無かったことにはならない!お前はいっつも背負う必要も無いものまでわざわざ背負って!弱いくせに!馬鹿のくせに!人ひとりが出来ることなんか限られてるだろっ。自分に背負いきれないものまで背負う必要なんかどこにあるんだよっ。」


アルル:「いや…でも…」


マオ:「背伸びするのは勝手だけどなっ。はっきり言ってお前は頼りない!心配になる!お前が助けようとしてくれるほど心配になるっ。アルル自身が壊れそうで心配になるっ。」


アルル:「…っ…」


マオ:「だから、さ。1年後さ。私が一緒に笑ってあげるから。笑えるように頑張ろって。あの冒険家とも約束したんでしょ、頑張るって。自分を責める気持ちは、分かる。それでもアルルは悪くない。これは、この街の。バグテリアのせいだ。」


アルル:「…マオさん……」


マオ:「誰がお前を責めても、私は全力で、お前の味方だ。約束だ」


アルル:「……」


マオ:「…っ。手ぇ出せっ。ほらっ。」


アルル:「ぁ…」


0:強制的に指を結ぶ


マオ:「約束っ。少なくとも今は!自分を責めるな!反省会ならいくらでも付き合ってやる!愚痴も聞いてやる!だから思い詰めるなっ。私に吐き出せっ。」


アルル:「ぅ…」


マオ:「約束、しろ!」


アルル:「…はい…っ。約束します…っ。」


マオ:「…よし。ほら、立って」


アルル:「はい。すみません。ありがとうございます」


マオ:「ほんとだよ。手のかかる」


アルル:「…私。しんどいけど頑張ります。マオさんが味方してくれても私は私が悪いと思ってしまう。ので、自分が自分を許せるように。頑張ります。」


マオ:「うん。頑張ろ」


アルル:「なので必ず、ジャッカルさんを連れ戻して。あなた達2人は。私の手の届く範囲にいるあなた達だけは。笑顔で終わらせてみせます」


マオ:「うん。頼んだ」


アルル:「はい。」


0:アルルは手袋を嵌め直す


アルル:「気合い、入れ直します…っ。」


0:場面転換

0:南エリア第4コロニー


リットン:(M)時間は少し遡り。第4コロニー。


ガラートラム:「ぉおおきくなれぇえ!」


ドルムンク:「ぉぉおおラッ!」(タックル)


ガラートラム:「ぶごぉ!?」


ジャッカル:「今だ!攻めろ攻めろ!アルデンヌぶっ殺せ!」


ガラートラム:(M)くそぉーーー!鬱陶しいなぁ、黒壁ぇ!!なんなんだよコイツ!


ドルムンク:「ジャッカル!戦況は!」


ジャッカル:「押してます!これなら第5コロニーまで前線を押し戻せますっ。ヨハンさんと合流もできる!」


ドルムンク:「よし。東郷が相手じゃそう長くも持たねえだろう、今の内に叩くぞ。」


ジャッカル:「了解ですっっ。」


ガラートラム:「うぜぇんだよなぁ〜、もう…っ!」


東郷:「ぶるるるるん!ぶるるるん!」


牧野:「ぶるるるる!ぶるるん!」


ガラートラム:「おー?」


ドルムンク:「…!」


ジャッカル:「バイク…!?ありゃあまさか…っ。」


ドルムンク:「どうなってやがる。異様に早いじゃねえか。ヨハンなら死んでももうちょい粘るかと思ったが。」


ガラートラム:「おいおいまじか!怒愚羅魔愚等のアホ共じゃん!」


東郷:「カーズ出しやがれオラァ!」


牧野:「おらおらおらおら!」


ドルムンク:「最悪だな…!」


ジャッカル:「東郷…っ。なんでもう来てんだよ…!あぁあぁもうクソ…!イライラする…!」


ガラートラム:「おーーーい!リーゼントくーん!」


東郷:「あ?アルデンヌのシャバ僧じゃねえか。」


牧野:「東郷さん!黒壁も居ます!」


東郷:「OK。第2ラウンドだな。」


ガラートラム:「よく来たにゃ〜。あれでしょ。カーズ取りに来たんショ」


東郷:「あぁそうだ」


ガラートラム:「じゃあここはひとつ協力しようよ、僕もコイツら相手すんの手こずってたところなんだ、特に黒壁と、あそこの眉なし」


東郷:「眉なしぃ?」


ジャッカル:「あ?」


東郷:「あー。見ねぇ顔だな」


ガラートラム:「リーゼントくんもカーズのところ行きたいなら邪魔でしょ、あいつら。だから、ね?」


東郷:「嫌だね。俺は俺の手でカーズを執る。手は組まん。」


牧野:「そーだそーだっ。こっちはこっちで好きにやらせてもらうぜっ。」


ガラートラム:「あはーは。振らちゃった。でもアレでしょ。結局利害は一致してるってことでしょ。」


ドルムンク:「…。」


ジャッカル:「ドルムンクさん。ありゃ流石に…」


ドルムンク:「ああ。ちょうどカーズさんからだ。」


カーズ:『ドルムンク、聞こえるか』


ドルムンク:「聞こえます。アルデンヌのアバズレ共に東郷とその金魚のフンが前線に来ました」


カーズ:『ああ。ヨハンとの連絡も途絶えた。流石に俺も出る。第2コロニーまで前線を引き上げろ』


ドルムンク:「第2コロニーで合流ですか」


カーズ:『ああ。指示はお前とジャッカルで回せ。』


ドルムンク:「了解。ジャッカル」


ジャッカル:「はい」


ドルムンク:「第2コロニーまで徹底する。カーズさんと合流だ。」


ジャッカル:「第2まで…。くそ…っ。分かりました…!」


ガラートラム:「おー?なになに。バタバタしだした」


ドルムンク:「全員!第2コロニーまで戻れ!」


ジャッカル:「カーズさんと合流する!なるべく死ぬんじゃねえぞ!!死ぬなら誰か殺してから死ね!」


東郷:「カーズ。今カーズって言ったな?」


牧野:「はい。確かに言いました」


東郷:「追うぜ牧野」


牧野:「了解ですっ。」


ガラートラム:「ぷぷ、蜂の巣でしょ。みんな〜!追って追って〜!殺して良し!背中からひとつきでよろしく〜!」


リットン:(M)南エリア第2コロニー。バンカー通りに差し掛かる手前の通り。ビルが入り込み、正真正銘。バンカー本陣に最も近い。さてさて。凌ぐかぁ、バンカー。


0:場面転換

0:南エリア第1コロニー


カーズ:「…。」


0:カーズは歩いている


カーズ:(M)何人死んだ。200か、300か。結構死んだろうな。


0:歩く


カーズ:(M)あの冒険家がショーケースさえ壊さなきゃあこうはならなかったんだが。過ぎた事を言ってもまあしょうがねえ。どの道アルデンヌとはいずれ衝突した。


0:歩く


カーズ:(M)なあ。リーダー。俺は上手く出来てるだろうか。アンタから引き継いだバンカーを、俺は守れてんのかな。


0:歩く


カーズ:(M)守れてたら。こんな死んでねえか


0:歩く


カーズ:(M)やっぱり俺には、ヘルフォードさんみてぇには出来ねえな。敵わねえよ、本当に。敵わねえ。


0:歩く


カーズ:(M)それでも、戦いを放棄する理由にはならねえよな。強くなれないなら死ね。命乞いすらするな。守りたいモノの為に死ねないなら、息もするな。そうだ。そうだそうだ。


0:第2コロニーに足を踏み入れる


カーズ:(M)ヘルフォードさん。今日もバグテリアは残酷だ。変わらず誰もが血で血を洗ってやがる。だから、俺もそうする。


0:カーズは手袋を嵌めている


カーズ:「敵は殺す。全員殺す。一人残らず、噛み殺す。」


東郷:「ぶるるるるん!一番乗りィ!!」


牧野:「まさかアイツら追い越すとは!」


東郷:「そりゃそうだっ。足が単車に勝てるわけがねえっ。」


牧野:「たしかにっ。確かに確かにっ。」


東郷:「…さァて。居やがるなぁ…!」


0:東郷はバイクを降りた


東郷:「会いたかったぜェ!カーズゥ」


カーズ:「よお。好き放題暴れやがって。調子乗んなよ、嘉車。」


リットン:(M)因縁対決ッ!東対南のヘッド代表格の一騎打ちここに始まる!この一戦はまじ大きい意味を持つぞ〜。どっちが勝つかで実質片方のヘッドは落とされたもの同然だ。儲かる儲かる〜。


東郷:「はぁぁぁ。」


0:東郷は右拳に息をし


東郷:「ちゅ」


0:キスをした


東郷:「お前に決めた」


リットン:(M)東郷嘉車の異常性効果持続時間は凡そ20分。20分経過すれば蓄積した攻撃倍率はリセットされる。そう、彼はいつも通り。いつも通り右拳に接吻する。


カーズ:「Accessアクセス


リットン:(M)対するカーズ・ジョーンの異常性。その効果は「自己制限」


カーズ:「ROCKロック


リットン:(M)自身に何らかの制限を掛け、その制限の大小に応じて身体能力を底上げする異常性。彼の性格を考えれば、その制限は


東郷:「今日はなにを縛ったんだ」


カーズ:「いつも通り、脚以外の攻撃全部だよ」


東郷:「ああ。やっぱり大好きだ」


カーズ:「きめぇよ。」


リットン:(M)東郷嘉車が拳に全てを賭けるように、カーズは脚に全てを賭ける。性質の似た異常性だからこそ、彼らは互いに互いを好敵手としたのさ


東郷:「見てろよ牧野ォ!今日こそ番犬に遠吠えさせてやっからよォ!!」


牧野:「負け犬の遠吠え!楽しみにしてます!」


カーズ:「舐めんな、イカレジャップが。」


リットン:(M)日本人である東郷は猿と呼ばれる。第一世代の頃からバンカー通りを守り通すカーズ達は番犬と呼ばれる。文字通り、犬猿の仲だね


カーズ:「ぉぉおおおおッ!」


東郷:「どぉぉぉおおおりゃ!」


0:互いの拳と足がぶつかる


カーズ:「ッ…!」


東郷:「ッぁあ!いってぇ〜!」


カーズ:「スロースターターが、すぐ泣かしてやるッ!」(蹴る)


東郷:「ぶごッッ!」


0:蹴りの連打


カーズ:「ヨハンとも!戦ったんだろ!殺したのか!」


東郷:「げほ…!知らねえよ、仕上げは監察官に持ってかれたから、なァッ!」(殴る)


カーズ:「っとぉ…!」(足で止める)


0:その足をそのまま顔へ蹴り抜ける


カーズ:「あぁそうかよ!」


東郷:「ごごゴッ!」(顔を蹴られる)


0:引き続き蹴り連打


カーズ:「監察官って言うとまさかあれか!名前!アルル・クロフォードだったりしねぇか!」


東郷:「がは…!ああ、言う通り…っ。」


カーズ:「そぉおら!」(蹴る)


東郷:「その名前だぜ!」(殴る)


0:再び互いの拳と足がぶつかる


東郷:「がァ…ッ!」


カーズ:「手ぇ止めんなよ、肩温まる前に終わっちまう、ぞ!」(蹴る)


東郷:「ぶごッッ…!」


カーズ:(M)骨が折れる音。クッキーを砕いたような感触。


東郷:「がはっ…!おえ…!」


0:膝を着く


カーズ:(M)そうだ。それが正しい反応だ。骨が折れりゃあ人は膝を着く。あの監察官がどうかしてる


東郷:「ッッふぅ〜〜…効くぜ」


カーズ:(M)まあ。それでもお前だって相当どうかしてるけどな。


東郷:「そぉら次ィ!」


リットン:(M)東郷嘉車は馬鹿さ


東郷:「おぉおおらッ!」(殴る)


カーズ:「っと。」(足で止める)


リットン:(M)東郷嘉車が持つ倍率の異常性はもっと最大限に活用出来る。現在の右拳のみで戦うという方法はあまりにも非効率、無駄が多いからね


東郷:「ふんヌッ!」(殴る)


カーズ:「そぉら」(蹴る)


リットン:(M)攻撃倍率は名の通り掛け算だ。一度の衝撃指数によって変動する為、拳よりも武器を用いた方がより効率的に倍率を高められるし、拳を使うにしてもメリケンサックでも付けた方が絶対にいい。普通に考えればわかる事だ。


東郷:「がは…!」


カーズ:「料理ばっかしててちょっと鈍ったんじゃねえかぁ、嘉車!」


0:蹴り、受け止める


東郷:「言ってろ…ッ!俺の豚汁食ってみろまじ飛ぶぞ!」


カーズ:「てめぇの首が飛ぶのが先だよボケ!」(蹴る)


東郷:「ぶっ飛ばす!!」(殴る)


リットン:(M)さらには。対象物に与えられた衝撃指数で言えば、適当に壁でも殴り攻撃倍率を稼いだ後、敵と相対する方が効率よく戦える。これも普通に考えれば分かる事だ


カーズ:「そぉぉおおらッッ!」(蹴る)


東郷:「ぶごぉあッッ…!」


リットン:(M)普通に考えれば、東郷は今より更に強くなれる。普通に考えれば分かる事。そう、普通に考えれば分かるのだから、東郷嘉車だって理解している。


東郷:「はぁ…はぁ…ごほっ…」


カーズ:「ヨハンは強くなった。アイツと戦った後に俺まで執るほど欲張りか。なんて言ったっけか。そうそう、二兎追うものは一兎も得ずだ。」


東郷:「…」


カーズ:「そろそろ武器でも使ったらどうだ?拳に拘らずによ。じゃなきゃあ死ぬぞお前。ここで。」


リットン:(M)自分の異常性を最大限活用していない事を、自分自身が一番よく分かっている。


東郷:「断る」


リットン:(M)しかししない。攻撃倍率を重ねるのは「敵と相対した時」と決めている。戦うのは「拳」と決めている。それが東郷という男なのさ。


東郷:「俺はこの拳を。」


0:東郷は拳にキスした


東郷:「愛している」


リットン:(M)その理由はただ一つ。


カーズ:「そうか。死ぬか」


東郷:「冗談じゃない。やっと温まってきたところだぜ…ッ!」(走る)


リットン:(M)ロマン。


東郷:「ぉぉおおおおおラッッ!」(殴る)


カーズ:「ごぼぉあ…ッ!」


東郷:「俺の拳はァ、百万馬力」


カーズ:「は、はは。そうでねぇと殺し甲斐もねえわ」


東郷:「そういうところが大好きだ。」


0:二人は走った


カーズ:「そぉぉぉぉおおらッッ!」


東郷:「ぉぉぉおおおおおおラッ!!」


0:拳と足が衝突する


ジャッカル:「はぁ、はぁっ!見えました!第2コロニーですっ!…!カーズさん!!お待たせしました!」


カーズ:「よく戻った!!アルデンヌ迎撃!」


東郷:「余所見すんなッッ!」


ジャッカル:「お前ら!!アルデンヌ迎撃に切り替えろ!」


ガラートラム:「待てよ番犬!」


ジャッカル:「…!クソ速いじゃねぇかアバズレぇ…!」


ガラートラム:「おっきくなれ…!」


0:剣を振り上げた


ジャッカル:「まっず…!カーズさん!あぶねえ!」


ガラートラム:「クラウ・ソラス…ッ!」


カーズ:「あ?」


東郷:「あ?」


ガラートラム:「猿も犬もまとめてぇ…ッ!」


0:剣を振り下ろした


ガラートラム:「ブッッ潰れましょッッ!!」


カーズ:「ぉぉおおおらッ!」


東郷:「だぁああありゃあ!」


0:二人は剣を蹴ったり殴ったりする


ガラートラム:「…ッはは!馬鹿かお前ら!何トンあると思ってんだぁよい!」


カーズ:「ぉぉおおぉおお…ッ!」


東郷:「ぎぎぎぎぎぎッ…!」


0:剣は徐々に起動がズレる


ガラートラム:「…は…?」


カーズ:「邪魔すんじゃねえ!!」


東郷:「邪魔ァすんなァ!!」


0:二人は剣を弾いた


ガラートラム:「おぉおお!?」


0:剣の重さによろつく


ガラートラム:(M)おいおいマジすかぁ〜!何トンあると思ってんだぁ…!怪物共が!


カーズ:「ジャッカル!こっちは混み合ってる!死ぬ気で殺せ!」


ジャッカル:「はいッ…!」


ガラートラム:「…!てめぇ…!」


ジャッカル:「ぉおおおおらっ!」(殴る)


ガラートラム:「ぶごッッ!?」


ジャッカル:「もう一発ゥッ!」(殴る)


ガラートラム:「がは…っ!く、そぉ!くそくそ人間が!くそムカついた!ぶっ壊してやるからなぁ〜っ。」


ドルムンク:「へえ、壊すって?」


ガラートラム:「しまっ…!」


0:ドルムンクはガラートラムの顔を掴んだ


ドルムンク:「乱戦は得意でも、追撃戦は苦手みたいだな。その異常器の特性上臨機応変な戦い方にゃあむかねぇみてぇだが」


ガラートラム:「ぐがががっ!はな、せ…っ!」


ドルムンク:「断る」


ガラートラム:(M)痛い痛い痛い痛い!なんつぅ〜握力してんだこんにゃろ〜!僕の顔、あと5秒耐えれるゥ!?


ドルムンク:「此奴さえ殺せばアルデンヌの残党はそこまで手こずる相手でも無い。ここで終わらせるぞ、ジャッカル」


ジャッカル:「はい!お前ら!今の内に叩け叩け!」


ガラートラム:「ぁぁああああッ!」


0:剣を投げる


ドルムンク:「なにしてんだ。すっぽ抜けてんぞ。剣も握れないくらい弱ったか」


ガラートラム:「みたいだぁ…もうやめてぇ…助けてぇ…死にたくない…」


ドルムンク:「こんだけ殺しといてよく言うな」(殴る)


ガラートラム:「ごぶぉ!!?ごろんごろんっ!どぎゃすっ!」(ぶっ飛ぶ)


ドルムンク:「2000HVツーサウザンドビッカーズ


ガラートラム:「ごほっ…おえっ。おえぇえっ。くそ、やめろ、やめやがれ…!やめてくれぇぇっ。」


ドルムンク:「ぉぉおおおッ!」


0:タックル、走り出す


ガラートラム:「なんちゃって」


ジャッカル:「…!違う!ドルムンクさん!!上だ!」


ドルムンク:「ほぉ。」


ガラートラム:「大きくなれ!クラウ・ソラス!」


ドルムンク:(M)そうか。空中で巨大化。そりゃそういう使い方もあるか


ガラートラム:「潰れろ黒壁ぇえ!」


ジャッカル:「ドルムンクさん…っ!」


0:クラウソラス着地、激しく地面が揺れる


ガラートラム:「ごほっ…おえっ。はっはぁ〜。まぁまぁまぁ…」


0:砂煙の中からドルムンクが出てくる


ドルムンク:「お前はさっきの出来事忘れるのか。ニワトリ」


ガラートラム:「知ってたよ。だからやってらんねえんだ。頑丈すぎんだよお前」


ジャッカル:「は、はは。そりゃまあ、あの人だしな。気にかけることもねえや」


ガラートラム:「だから…」


0:ガラートラムは剣を手に取った


ガラートラム:「これはあくまで陽動…ッ!」(走る)


ジャッカル:「…!?」


ドルムンク:(M)なんだ。次は何をしやがる


東郷:「ぉぉおおらッ!」(殴る)


カーズ:「ごぶッ…!」


ドルムンク:(M)…っ!そういう事か…!


カーズ:(M)一撃が重くなってきた…!ここからだなおい…!


ドルムンク:「カーズさん!!」


カーズ:「あ?」


牧野:「…!東郷さん!危ない!」


東郷:「ぉお!?なにしやがる牧野!」


ガラートラム:「そぉれッッ!」


0:剣が腹を貫く


カーズ:「…ごぷっ…」


東郷:「は…?」


ガラートラム:「ははは!大将首とったりぃ〜!そのまま内臓ずた抜けろぉお!」


東郷:「てめぇ…!」


ジャッカル:「てめぇぇええ!」(殴る)


ガラートラム:「がはッ!」


ジャッカル:「カーズさんにッ!」(殴る)


ガラートラム:「ぶごっ!」


ジャッカル:「なにしやがる!!」(殴る)


ガラートラム:「がはっ…!」


東郷:「おいこら。」(頭を掴む)


ガラートラム:「うっ…」


東郷:「ふざけんなよお前」


ガラートラム:「はははは。こちとらバンカー落とせりゃあ何でもアリぃ〜。」


東郷:「ッッ!」(殴る)


ガラートラム:「ごげばぁ…っ!」


カーズ:「くそが…っ。」


ジャッカル:「カーズさんっ。大丈夫ですか!」


カーズ:「気ぃ使ってんじゃねえ。お前は命をかけてバンカーを守るって約束で生かしてんだ。俺を守れとは言ってねえ」


ジャッカル:「アンタが居なきゃバンカーじゃねえだろうが…!とりあえずすぐ傷口をぉ…!」


東郷:「おい。どこ連れてくんだ。そいつは俺のだ」


ジャッカル:「知ったことかよ。お前の事情はこっちに関係ねえ。おい!そこの!カーズさんを頼む!」


東郷:「どこ連れてくんだ。待ちやがれ。まだ勝負着いてねえぞ」


ジャッカル:「だーかーーらぁ!そりゃてめぇの事情だろうが。あぁ?」


東郷:「勝負に割り込むか。命賭けろよ」


ジャッカル:「こりゃ戦争だ。命はとうの昔に賭け終わってる」


0:場面転換

0:第3コロニー

0:2人は走っている


アルル:「はぁ…っ。はぁ…!やっっと、追い付いた…!」


マオ:「酷い乱戦だ…っ。」


アルル:「マオさん…!ここから先は危険すぎます…!やっぱり私だけで…」


マオ:「嫌だっ。さっき約束したろ…!一緒に頑張るって…!」


アルル:「…!」


マオ:「足でまといでも、なんでもっ。私だって、命かけて兄さん助けようとしてんだ…っ。これだけは、他の誰にも譲らない…!それを止めるのか、アルルは…!」


アルル:「…止めたいです…っ。マオさんには死んで欲しくありません…っ。」


マオ:「誰にだってそうでしょーがっ。」


アルル:「マオさんはとくにです!!!」


マオ:「うるさい!約束は!一緒に果たすもんだろ!」


アルル:「っ…。そう、です…っ。くそぉおっ。絶対に死なないでくださいよ…!」


マオ:「頑張るよ…!頑張れよ!」


アルル:「はい…っ。」


ドルムンク:「ぉぉおおおッ!」


ガラートラム:「ぶが…っ。この…!」


アルル:「はぁ、はぁ…っ!やっと着いた…!」


マオ:「…っ。ドルムンクさん…っ。」


アルル:「…一応聞きますけど、強いですか、あの人」


マオ:「アルルが100人束になっても敵わない」


アルル:「ですよね」


東郷:「ぉぉおおラッ!」


牧野:「こここ!こっち来んなぁ!」


アルル:(M)人が沢山死んでる。沢山、沢山死んでる。嫌だ。凄く嫌だ。これは戦争だ、と。マジマジと実感させられる。


マオ:「兄さんは…っ。」


アルル:(M)これも全部。私のせいか。


ガラートラム:「くそ!くそくそ!くそがぁ!」


アルル:(M)マオさんは違うって言ってくれたけど。私のせいだよ。これは。だから…。だからこそ、止めなきゃ行けない…っ。


マオ:「兄さん…!!」


アルル:(M)人が。これ以上死んでしまう前に…っ。


ジャッカル:「ぉおおおおおッ!」(殴る)


東郷:「ふんっ。」(受け止める)


マオ:「…!兄さん…!居た、居た…っ。アルル、兄さん居るよ…!」


アルル:「…。マオさん。先に謝っておきます」


マオ:「…なにを?」


アルル:「…っ。」


0:アルルは走った


マオ:「え。アルル…?」


アルル:(M)弱い。私は、私の正しさを押し付けるには、余りにも弱すぎる。だから…っ。


ドルムンク:「ぉぉおおおッッ!」


ガラートラム:「らぁぁあああ!」


牧野:「東郷さん!行けー!」


ジャッカル:「くそ、がぁ…!」(蹴る)


東郷:「っとぉ。中々良い拳してんじゃねえか!」(殴る)


ジャッカル:「ごぶがぁっ!」


アルル:「中央政府!!特務国際監察課!!アルル・クロフォードです!!皆さん!!戦うのを!!!やめてください!!!」


ジャッカル:「…!」


ドルムンク:「…っ」


東郷:「お。」


牧野:「あ!」


ガラートラム:「…はい?」


アルル:「戦うのを。やめてください。」


カーズ:「…。」


アルル:「お願いします」


ジャッカル:「あんた。なんでここにいるんだ」


アルル:「ご無沙汰してます。ジャッカルさん」


ジャッカル:「おい、なんでこんな所にいるんだって。」


アルル:「貴方を、連れ戻しに来ました」


ジャッカル:「…は?」


アルル:「…。南エリアヘッド、「バンカー」副リーダー。カーズ・ジョーン。」


カーズ:「…。よお。アルル・クロフォード。」


アルル:「貴方も。ご無沙汰してます。」


カーズ:「そうだな。で。何をしに来やがった。ここは戦場だぞ。」


アルル:「はい。割って入り申し訳ありません。」


カーズ:「多少マシな顔つきになったじゃねえの?」


アルル:「…まずは。この度、間接的にとは言え、私のせいで、貴方達を守るショーケースを壊してしまい、本当にすみません。」


カーズ:「…」


ガラートラム:「なになに。何が始まったの。」


アルル:「私のせいで。沢山の人が亡くなりました。私のせいで、貴方の仲間が、何人も死んでしまった。何人も殺すことになってしまった。本当に。本当にすみません。」


カーズ:「てめぇの頭ひとつでアイツらの命が帰るわけじゃねぇよな。」


アルル:「はい。」


カーズ:「それで頭下げてどうなる。」


アルル:「…どうにもなりません」


カーズ:「お前がスッキリするだけだろうが」


アルル:「…。仰る、通りです」


カーズ:「俺達は今まで沢山の人間を殺してきた。だから、いつ自分達が殺されようと何の文句もねえ。文句を垂れちゃいけねえし、謝罪すら失礼になる。それは自分だけを楽にするための言葉だからだ。殺し、殺されるのが暗黙の了解だ。それが筋ってもんだからだ。それを」


0:カーズはアルルの頭を掴んだ


カーズ:「てめぇのこの頭ひとつで何をどうするって?」


アルル:「…。なにも。できません。」


カーズ:「じゃあなんだ?首捧げに来たってか?」


アルル:「違います。」


カーズ:「じゃあなんだ。俺がいちばん最初に聞いたのは。何をしに来たかだ。」


アルル:「…。ジャッカルさんを。ジャッカル・ダウンポッドを。引き渡して頂きたい」


カーズ:「…」


アルル:「私から貴方に何かを返すことは出来ません。なので、奪いに来ました」


カーズ:「ジャッカルをか?」


アルル:「そうです。」


カーズ:「誰から?」


アルル:「カーズ・ジョーン。貴方から」


カーズ:「何を賭ける」


アルル:「命を。」


カーズ:「状況分かってんのか?今お前に構ってる暇ねぇんだ」


アルル:「いえ。ですので、これは逃亡劇です。」


カーズ:「…」


アルル:「ジャッカルさん」


ジャッカル:「…」


アルル:「私の手を取ってください。」


ジャッカル:「…。あんたぁ本当にお人好しだなあ」


アルル:「逃げましょう。この戦場から。」


ジャッカル:「無理だ。俺だってもう何人も殺した。今更ここから自分だけ逃げ出すなんてこと出来ねえ」


アルル:「何故ですか。そんなに人を殺したいんですか」


ジャッカル:「俺はもう。カーズさんに一生着いてくって決めたんだ」


アルル:「その先に何があるって言うんですか。マオさんとは。もう過ごしたくないってことですか」


ジャッカル:「そういうのじゃねえんだ。俺はもうこの首を、カーズさんに預けたんだ。だからそれをどう使おうったって、カーズさんの自由だ。だから俺は、死ぬまで。死ぬ気で。死んでもバンカーを守る。そう決めてる」


マオ:「兄さん…。」


ジャッカル:「………」


マオ:「…兄さん…っ。」


ジャッカル:「…マオ…?」


アルル:「…。すみません。貴方の大切な妹を。こんな危ない場所に連れてきてしまいました。」


マオ:「連れてこられたんじゃない。一緒に来たんだ…っ。兄さんに会いに。」


ジャッカル:「……」


マオ:「兄さんはさ。ここに居たいの」


ジャッカル:「…」


マオ:「じゃあ私も一緒にバンカーに残るよ」


ジャッカル:「…。誰だお前は」


マオ:「…え…?」


リットン:(M)ジャッカル・ダウンポッドは、自分が払えなかった上納金のツケで今バンカーの番犬の一員となった。


カーズ:「…。そうだ。それが筋ってもんだ。ジャッカル」


ドルムンク:「カーズさん。どうする」


カーズ:「…5分待ってやれ。5分だ」


ドルムンク:「了解。」


マオ:「…なんで…まだそんなこと言うの」


ジャッカル:「お前みたいなクソガキは知らねえ。邪魔だ。死ぬ前にとっとと消えろ」


リットン:(M)勿論、ジャッカルに家族が居ると知れば、その家族から未納分を回収する事になる。だからこそ、ジャッカルは、カーズの前でマオを妹と呼んでは行けない。


マオ:「…ああ…そういうこと…」


リットン:(M)嘘はついてもいい。けれど、嘘をつくなら貫き通せ。それがこの街の掟。


マオ:「…また。そうやって一人で、最後の最後まで抱えて死んでいく気だ。」


ジャッカル:(M)もうやめてくれ。


マオ:「…私。兄さんが居ない部屋で寝るの、初めてだったんだ」


ジャッカル:(M)甘ったれた希望は捨てたんだ。


マオ:「シングルベッドって、結構広いんだね。寝返りもうてる。快適なんだけどさ。…やっぱり寂しいよ」


ジャッカル:(M)お前がどこかで生きてる。それだけで、もう十分なんだ。マオ、お前はまだ若い。どこかで気楽に適当にやってるうちに兄貴の事なんかどうでもよくなる。


マオ:「夜中に目が覚めても、いつもいつも。兄さんは起きてた。それがなんか、不思議と安心して。またゆっくり寝れる。でもそれって、兄さんは来る日も来る日も不安で、明日が不安で寝れなかっただけなんだなって。気付いても何も言わなかったし。何も出来なかった」


ジャッカル:(M)だからもうやめてくれ。


マオ:「でも。今の私なら、もう大丈夫。絶対に、何があっても。兄さんにだけツラい目には遭わせない。約束する。」


ジャッカル:(M)頼むから、夢見させないでくれ


マオ:「一緒に寝て、一緒に笑って、一緒に同じご飯食べて、一緒に苦しも」


ジャッカル:「…っ…」


マオ:「だから、お願い。今度こそ。」


0:マオは手を出した


マオ:「私の手を取って。」


カーズ:「…」


ジャッカル:「カーズさん。俺を殴ってくれ」


カーズ:「ダメだ」


ジャッカル:「…」


カーズ:「お前が。自分で。拒絶しろ。」


ジャッカル:「…」


カーズ:「ここまで黙ってやってんだ。それくらい自分でやれ。」


ジャッカル:「…は、は。優しいのか厳しいのか…。ぁあぁ〜。くそ。くそ。くそ。くそ。…くそ…っ。」


マオ:「…」


東郷:「…。」


牧野:「東郷さん、なんなんすか。これ」


東郷:「さあ。だが、ジャッカルっつったな。」


牧野:「はい。確かそう言ってました」


東郷:「…。あいつ。漢だぜ。」


ジャッカル:「___なあ。あんた」


マオ:「…。はい。」


ジャッカル:「ここは。アンタみたいな奴が来る場所じゃない」


マオ:「……っ…」


ジャッカル:「そこの監察官と一緒に帰りな」


マオ:「……」


ジャッカル:「最後だ。帰ってくれ。」


マオ:(M)……私じゃあ、だめかぁ…。弱いから。兄さんの傍にいると、邪魔か…


ジャッカル:「…。アルル・クロフォード」


アルル:「…はい。」


ジャッカル:「この嬢ちゃん。連れてってやってくれ」


アルル:「…それでいいんですか。ジャッカルさん」


ジャッカル:「…俺は。強く在らなきゃいけないんだ。」


アルル:「……」


ジャッカル:「これ以上顔見られてると。俺ァだめだ」


アルル:「…そんなの。悲しい生き方ですよ…っ」


ジャッカル:「それは俺が決めることだ」


アルル:「悲しんでるじゃないですか。貴方は今」


ジャッカル:「…。」


アルル:「マオさんは。貴方を心配して、心配して心配して、大好きで。ここまで来たんです。貴方が大切だから。ジャッカルさん。貴方が、大好きだから。マオさんはここに居るんです。貴方がしている事は、ただ逃げていーーー」


0:言葉を遮る


ジャッカル:「アルル・クロフォード」


アルル:「…はい」


ジャッカル:「それ以上喋んな。喋ったら、俺はあんたを殺しちまう。」


アルル:「っ…。」


ガラートラム:「____じゃあ殺すよ。」


マオ:「……え」


ジャッカル:「……ごぷっ…。」


0:ジャッカルの腹は剣で貫かれている


ガラートラム:「はは、まず一人ィー!」


0:刺した剣を抉り抜いた


ジャッカル:「ごぼぉ…ッ!」


カーズ:「…!」


ドルムンク:「な…っ。」


東郷:「…ッ!」


牧野:「えっ、えっ、いつの間にっ。」


アルル:「………は?」


カーズ:「ジャッカル…!!」


ドルムンク:「ぉぉおおおおおッ!」


東郷:「ぉぉおおおおあッ!」


0:2人は殴った


ガラートラム:「ぶごッッォッは!!げほっ。おえっ。おえええっ。ああ、くそ!死ぬ!死ぬわこれ…!」


東郷:「…」


ドルムンク:「お前。一番やっちゃ行けねぇことしたぞ。」


ガラートラム:「かははは!すんげぇ〜殺気!怒ってんだ!怒ってんだ〜!ばっかでー!何がやっちゃ行けねぇ事だよっ。クソくだらねぇ…!」


0:ガラートラムは剣を常に何とか立ち上がる


ガラートラム:「お前らさぁ!!揃いも揃ってバッカじゃねえの!?筋だとか兄妹愛だとか漢だなんだ!!きしょッッッく悪ぃだよ!!反吐が出る!!この街に生きてる分際でよォ…!そんなもん夢見てんじゃねえよカス共!!カスカスカス!カス!!」


マオ:「兄さん…?」


ジャッカル:(M)今まで体験した事がない。けど。どこかで見たことがある。血が、滝のように溢れ出てる。生命力?っつーの?そういうのも同時に出ていく感覚だ


マオ:「兄さん…」


ジャッカル:(M)ああ。これあれだ。母親クソババア殺した時と同じ…


マオ:「兄さん…!!」


ジャッカル:「…がはっ…おい、おいおい、まじか…」


カーズ:「ジャッカル…!」


ジャッカル:「すんません。カーズさん。しょうもねえ死に方しますわ、これ。」


カーズ:「…」


ジャッカル:「ってまあ、カーズさんなら。傷口見りゃあ分かりますよね。」


マオ:「兄さん…っ。兄さん…!血が、止めないと…っ。兄さん…っ。」


0:マオは上着を脱いでジャッカルの傷口に当てた


マオ:「うぅっ、くそっ。止まれよっ。止まれよっっ。」


ジャッカル:(M)ああ。痛い。痛いって言うより熱い。こんな感じだったのか。


マオ:「兄さん…っ。しっかりして…っ。」


ジャッカル:「……ごめん…なぁ…」


マオ:「なにがっ。なんで謝るの、やだよっ。」


ガラートラム:「よっっとぉ…!」


0:ガラートラムはマオを担いだ


マオ:「っ…!離せよ…!なんなんだよお前ぇえっ!」


ガラートラム:「はーーーい今決めた!僕に近寄ったらこのガキ殺すー!ぶっころーース!誰も僕ちんに近付かないでくだしゃーーい!」


カーズ:「…っ。ドルムンク!!」


ドルムンク:「はい。」


カーズ:「そいつ。殺すぞ」


ドルムンク:「勿論。」


ガラートラム:「ははっ。殺すか!殺すんかい!ははははっ。そうだよそうだよっ。ハナっからそういうもんでしょってこの街は!僕にも居たよ!家族が!?だぁ〜いすきな姉貴も!かーちゃんも!弟も!とーちゃんも!死んだけどね!一言も交わさず死んだよ!ぽっくり逝ったんだわぁ!殺されたーっ。たはーっ、しょうがない!だってそういう街だし!」


アルル:(M)心の中が。ぐちゃぐちゃだ。


ガラートラム:「それをテメェらは、何一丁前に人間ぶってんだよ!!僕らは!バグテリアは!!人じゃ生きて行けねぇんだっつーの!俺も、お前らも!みぃーーんな獣だ!野生獣だ!!馬鹿が!馬鹿が馬鹿が!」


牧野:「…まじすかあいつ…」


東郷:「…」


アルル:(M)殺してはいけない。当然だ。それよりも、それよりもずっと、今まで体験したことが無いほど


ガラートラム:「全員死ね!まとめて死ね!死ぬ為に生きてんのにっ。何カッコつけてんだよ気色悪ぃーなぁー!」


アルル:(M)怒っている。


0:アルルは立ち上がった


アルル:「…。貴方は。」


ガラートラム:「…あぁ?」


アルル:「どうしてそんな事をするんですか」


ガラートラム:「僕がやられたから。皆そうだよ。皆が誰かに何か、自分の人生の根幹に関わる嫌なことをされても、恨んで、誰かにやり返して、またやり返して、その繰り返しでこの街が出来上がったんだ」


アルル:「なぜ人にされて嫌だったことを。他人にするんですか」


ガラートラム:「なんでお前らだけ幸福に生きようとしてんだよ。調子乗んなよ。おい。近寄んなよブス」


マオ:「離せ…っ!」


ガラートラム:「僕は簡単に人を殺すぞ」


アルル:「…。その子の代わりに。私を人質にしてくださいよ。」


マオ:「は…?」


ガラートラム:「はぃい?」


アルル:「…」


0:アルルは武装を解除した


アルル:「もうそれ以上。マオさんを傷付けないでください。」


ガラートラム:「…」


マオ:「何言ってんだよ…っ。やめろって、やだよ、やめろアルル…!」


アルル:「その子は。沢山。沢山沢山傷付いてきました。もう、やめてあげてください。今すぐ私を人質にしてください」


ガラートラム:「…。」


アルル:「そうでないと。私はあなたを殺してしまう」


マオ:「…っ…」


ガラートラム:「ぷ。弱そうなのに。」


アルル:「…」


ガラートラム:「いいよ。こっち来いよ」


アルル:「ありがとうございます。」


0:アルルは近寄った


アルル:「約束してください。マオさんは解放すると」


ガラートラム:「ああ。約束するよ。僕にだって誰かを愛する気持ちは分かる。」


アルル:「よかった。」


マオ:「おいっ。やめろ、来んな…!アルル…っ!」


アルル:「すみません。マオさん。」


ガラートラム:「よし。後ろ向け」


アルル:「はい。」


ガラートラム:「…ほいっ。」


0:剣が突き刺さる


アルル:(M)腹が、破れる感覚


マオ:「…は…???」


アルル:(M)血が、流れる。


ガラートラム:「ぷ。ぷぷぷ」


アルル:「…貴方は…」


ガラートラム:「ぷっははははは!いやいやいや!冗談きっちーー!今の見てて僕が本当にそんな約束守るタイプに見えたのかよ!まじでとんだお人好しの馬鹿だなチミィ!はははは!お前向いてないよこの街!」


アルル:「約束、は」


ガラートラム:「守るわけないだろ、ばぁーーーーっっっか!!」


アルル:(M)人は。心のどこかに。必ず良いものを持っていると信じてきた


ガラートラム:「このガキも殺す!!僕が死んでもアルデンヌの進行は止まらない!バンカーは潰れる!!そんでお前は今から死ぬゥ〜!」


アルル:(M)薄れ行く意識の中で。初めて、初めて心から思った


ガラートラム:「あの世でやってろ。お人好し」


アルル:(M)こいつは。死んだ方がいい。


0:アルル、気を失う


マオ:「アルル!!」


ガラートラム:「はぁーーい2匹目!!」


カーズ:「ぉぉおおおおッッ!」


0:蹴る


ガラートラム:「ぶごぉ!!」


ドルムンク:「おおおあああああッ!」


0:殴る


ガラートラム:「がっっはぁ!」


東郷:「んんんラァアアアッ!」


0:殴る


ガラートラム:「ごぶげぼぉ!」


0:吹っ飛んだ


ガラートラム:「げほっ…がはっ…は、ははっ…ほら見ろ!この腕ぇ見ろよぉ!折れた!折れたよ骨!もうズタボロだ!結局ゥ、僕も!お前らも!怒れば暴力振ることしか脳の無いバカばっか!!けほっ、は、ははは!」


カーズ:「もう喋んな。」


ガラートラム:「かはは、そーだそーだ、殺せよ。その手で、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!殺せよ!ばーか!」


カーズ:「ただで死ねると思うな。産まれてきたこと後悔させてやるからな」


東郷:「牧野!!そいつら安全なところに運べ!!」


牧野:「はい…っ!」


0:牧野はアルルを担いだ


アルル:「…」


牧野:「よかった、まだ息はある…。本当に馬鹿だなお前は…っ!くっっそ、結構重い…っ。」


アルル:「……豚だ」


牧野:「…え…?」


アルル:「豚だ。」


牧野:「ぶ、豚…?いや、そんな重いとは言ってないけど…」


アルル?:「離せよ」


牧野:「…え?」


アルル?:「離せって言ってんだよ。豚」


牧野:「え。俺に言ってんのか?ふざけんなよお前、私はーーー」


0:アルルは牧野を殴った


牧野:「ぶごッッ!!」


アルル?:「…臭いな」


東郷:「牧野…!?何やってんだお前…!」


アルル?:「…。」


東郷:(M)なんだ。アイツ、さっきまでと雰囲気が


0:アルルは東郷の目の前にいる


アルル?:「どけよ。」


東郷:「…!?」


アルル:「…」


カーズ:「…おい…?」


ドルムンク:「カーズさん!下がってくれ、アイツ。」


アルル?:「…臭うと思ったら。あぁそう。」


ドルムンク:「ちぃとヤバいわ。」


ガラートラム:「は…?なんだお前。誰だ」


アルル?:「通りでら臭うわけだ」


ガラートラム:「…ッ…!」


0:ガラートラムはすぐ立ち上がった


ガラートラム:「大きくーーーー」


アルル?:「…。」


ガラートラム:「な…れ…」


0:アルルはガラートラムの喉仏を抉りとった


アルル?:「お前だな。臭いのは」


ガラートラム:「ごぷっ…!…!?…っ!?」


カーズ:「…は…?」


ガラートラム:(M)なんだ?息が出来ない。いつ攻撃された。なんだそりゃ。意味わかんないんだけど。


アルル?:「豚が一匹」


ガラートラム:(M)ああ。なんだよ。喉やられちゃあ、遺言も残せねえじゃんか。結局、親元離れずかい。


0:ガラートラムは死んだ


マオ:「…アルル…?」


カーズ:(M)直感。


アルル?:「…まじかよ。臭すぎるだろ、おい。」


ドルムンク:「ぉおおおおおおッ!」


アルル?:「っ…。」


0:蹴った


ドルムンク:「ぶごッッ…!」


カーズ:(M)直感があった。


アルル?:「豚が二匹。」


カーズ:(M)殺される。


東郷:「カーズッッ!!」


カーズ:「ああ。こりゃあ、それどころじゃねえ。」


アルル?:「…。」


カーズ:「AccessアクセスROCKロック…ッ!」


東郷:「お前に決めた。」


0:二人はアルルへ攻撃を開始する


カーズ:「うぉぉおおッ!」


アルル?:「対・異常体執行術」


東郷:「どぉおおおラッ!」


アルル?:「嘉槌カヅチ


0:二人に衝撃が走る


東郷:「ぶごぉッッ!」


カーズ:「がはッッ…!」


マオ:「ア、アルル…?」


アルル?:「…。」


0:アルルは2人に歩み寄る


カーズ:(M)なんだこりゃあ…!全然違ぇじゃねえか…!滅茶苦茶に強いぞ…!実力を隠してたとか、そういうチャチなもんじゃあねえ…!


アルル?:「対・異常体執行術」


カーズ:(M)誰だこいつ…!


東郷:「ぉぉんンッ!」(アルルを羽交い締めする)


アルル?:「触るな。」


東郷:「カァーズッッ!」


カーズ:「指図、すんな…ッ!!」(アルルを蹴る)


アルル?:「ッ…。」


0:アルルは顔を起こした


アルル?:「痛い」


カーズ:(M)痛いで済んで溜まるか、マジかよコイツ…!


東郷:「ったく…こンのへにゃチンがァッ!」(背負い投げの体勢)


アルル?:「対・異常体執行術」


東郷:「ぉぉおおおおッ!脳天カチ割れろォ!」


アルル?:「つばめ」(蹴る)


東郷:「ごぶごォッ!!」


カーズ:「ッ…!」(蹴る)


アルル?:「なあ。」(交わして殴った)


カーズ:「ぶごッ…!」


アルル?:「お前達はなんで生きてるんだ」(手を伸ばす)


カーズ:「っそ…!離しやがれ…っ。」


アルル?:「なんの為に」(足を掴んで投げた)


カーズ:「ぉおおッ…っの野郎…!」


アルル?:「息してんだよ。」(接近)


カーズ:(M)速い…っ!


アルル?:「豚なのに」(殴る)


カーズ:「ごぼォ…ッ…!」


アルル?:「息すんなよ」(追撃)


東郷:「ッッとぉ…!」(受け止める)


アルル?:「触んなって言ったよな。おい、豚」


東郷:「どうしたどうした。誰だお前は」


アルル?:「人語で話せよ」


東郷:「話してんだろうが…ッ!」(殴る)


アルル?:「…。」


東郷:(M)…なんだ?逆さま??


0:東郷は180度回転し宙を舞っている


東郷:(M)違う。投げられた。いつ?


アルル?:「対・異常体執行術」


牧野:「や、やめろぉおお!」


アルル?:「…」


牧野:「お前がどうなってんのかは知らねえが!東郷さんに手ぇ上げんな…!クソバカ虫!」


東郷:「牧野…っ。」


カーズ:「起きろドルムンクッッ!いつまで寝てんだっ。」


ドルムンク:「押忍…ッ!」(タックル)


アルル?:「おぉっ…?」


ドルムンク:「カーズさんッッ…!!」


カーズ:「ぉおぉおおおッ!」


0:蹴った


アルル?:「ッ…」


カーズ:(M)ズッポリ入った。のに致命打じゃない。異様な程固い。


ヨハン:「spiderスパイダーhouseハウスッ…!」


ドルムンク:「ヨハン…!」


カーズ:「やっと来やがったか」


ヨハン:「すみません。遅れました…っ。」


カーズ:「いい。状況説明してる暇はねえ。分かるな?」


ヨハン:「はい。殺します」


牧野:「だぁああありゃあああっ!」(ドスを振り上げた)


アルル?:「うるさい。」(片手で刃を止めた)


牧野:(M)白刃取り…!?指だけで!??暴君坊かよコイツ…!


マオ:「アルル…!!どうしたんだよ!!なにやってんだよ!!」


アルル?:「対・異常体執行術」


ヨハン:「定義転換…ッ!」


アルル?:「甚・発勁」


0:攻撃を受ける


ドルムンク:「2000HVツーサウザンドビッカーズッ…!」


アルル?:「は?」


ドルムンク:「ヨハンンン…!」


ヨハン:「昆装ッ。百足…ッ!」


0:百足がアルルの足を噛む


アルル?:(M)なんだ。


東郷:「どぉぉおおおおおおおラァッ!」


カーズ:「ぉぉおおおおおおッ!」


0:二人はアルルに攻撃した


アルル?:「ごふっ…。」


東郷:「そぉらもう一丁…ッ!」(アルルを投げる)


カーズ:「んンンッッ!」(飛んできたアルルを蹴る)


アルル?:(M)身体が重い


ドルムンク:「動きが鈍ったぞ…!叩け!」


ヨハン:「やっと毒が回ったか…っ!」


ドルムンク:「ぉぉぉおおおおッッ!」(タックル)


アルル?:「ッッこの…!」


ヨハン:「噛み付け、百足ッ!」


0:百足がアルルに噛み付く


アルル?:「がッ…!」


東郷:「そのまま走ってこい!黒壁ぇ!」


ドルムンク:「言われなくともッッ!」


0:ドルムンクはアルルを引きずりながら走る


アルル?:(M)止まらない。力が入らない。


ドルムンク:「東郷ォォオオッ!」


東郷:「おぉぉぉおおラッ!」(アルルを殴る)


アルル?:「がはぁ…っ!」


カーズ:「そぉおらッッ!」(蹴る)


アルル?:「ぶはっ。」


東郷:「ラストォォオッ!」


0:二人はアルルを殴ったり蹴ったりした


カーズ:「ぉぉおおおおおッ!」


東郷:「ふんがぁああああッ!」


アルル?:「がッっはぁ…ッ…!」


0:アルルは膝を着いた


牧野:「ひーっ。やっっと膝つきやがった…!」


アルル?:(M)クソ。こんな状態で呼びつけやがって。


0:東郷とカーズは息絶えだえ


カーズ:「まだ動けるかぁ…東郷…っ。」


東郷:「当たり、前だろうが…っ。」


牧野:「いやいや!もう限界でしょ…っ。骨何本折れてるんすか東郷さんっ。」


東郷:「あと70本くらい残ってんだろ」


牧野:「そういう問題じゃねえっす!かっけえっす!」


アルル?:(M)ああ。もう寝ちまう。誰だ。後は誰が臭いんだ。


カーズ:「…ったく…。何がどうなってんだこいつは…。」


アルル?:(M)アイツだな。アイツが臭いんだな。


カーズ:「ドルムンク、ジャッカルはどうなった」


マオ:「アルル!!」


0:マオはアルルに駆け寄った


マオ:「アルル!!アルルっ…!」


アルル?:「…対・異常体…執行術」


マオ:「…ねえ、話聞いてよ。」


0:アルルは立ち上がった


マオ:「アルル…っっ。」


ヨハン:「…!カーズさん!!」


カーズ:「あ?」


ドルムンク:「後ろだ!!」


東郷:「カーズッ!!」


アルル?:「____」


カーズ:(M)おい。まじか。やば。


アルル?:「かんざしッッ…!」


0:アルルの手が胸を貫いた


マオ:「……え…」


アルル?:「…」


ジャッカル:「……ごほっ……」


カーズ:「……ジャッカル。」


0:ジャッカルはカーズを庇っていた


ジャッカル:「げほっ…。おえっ…ああ…こりゃあ…次こそ…駄目か…」


マオ:「え…?え…。」


ジャッカル:「どおしたぁ、らしくねえじゃねえか、アルル・クロフォード。」


アルル?:「退けよ」


ジャッカル:「駄目だ。俺は、カーズさんを。バンカーを死んでも守るんだ。そういう約束なんだ」


アルル?:「そうか。」


0:アルルは手を抜いた


ジャッカル:「ごぽぉっ…っ。」


アルル?:「じゃあ死ね」


リットン:「バン。」


0:リットン、発砲


アルル?:(M)…あ。終わった。ここまでだ。


ドルムンク:「…考察屋…っ」


東郷:「リットン…!」


リットン:「やあ。大健闘ご苦労さま」


アルル?:「して…やられた…な…」


0:アルルは再び気を失った


牧野:「…やっと倒れたやがったか。」


リットン:「9mm弾で顔面壊れないかぁ。こりゃ決まりかな」


0:リットンは腰を抜かした


リットン:「ひゃぁあああっ…よかったあ。これで気絶しなかったら死んでたの私だったろぉぉおっ。やっぱ信頼できるのは私の考察だなぁぁー…」


マオ:「………」


リットン:(M)まあ。現場はそれどころじゃないかい。


カーズ:「ジャッカル。」


ジャッカル:「いやあ、よかった。これなら。ちゃんと、らしい死に方出来そうだなあ。」


カーズ:「…」


ジャッカル:「カーズさん。色々、世話になった。迷惑も、かけた。すんません。」


カーズ:「…ああ。」


マオ:(M)私にでも分かる。


ジャッカル:「…。」


マオ:(M)兄さんは。死ぬ。


ジャッカル:「なあ、マオ…。」


マオ:(M)嫌だ。


ジャッカル:「ごめんなぁ。今まで、本当にごめん。」


マオ:(M)嫌だ。


ジャッカル:「クソみたいな兄貴だった。ごめん。」


マオ:(M)嫌だ…っ。


ヨハン:「…」


ドルムンク:「…カーズさん。」


カーズ:「何も。何も聞こえねえ。」


ドルムンク:「…。押忍。」


ヨハン:「優しい人だ。本当に」


東郷:「…。行くぞ牧野」


牧野:「はい。」


東郷:「カーズ。」


カーズ:「…」


東郷:「シラケた。今日はナシだ。」


カーズ:「ああ。」


東郷:「今日は凌げても、アルデンヌの進撃は止まらない。俺が殺すまで死ぬなよ」


カーズ:「余計な世話だ。消えろ」


牧野:「東郷さん、肩を」


東郷:「いいや。大丈夫だ。」


牧野:「…押忍。」


0:二人は立ち去った


カーズ:「…。ジャッカル…。」


0:回想

0:3日前


ジャッカル:(M)あの日。マオと離れてからそのたった2日後。ショーケースが壊れてからすぐ。


ヨハン:「カーズさん。」


カーズ:「分かってる。」


ジャッカル:(M)バンカーを守る壁。ショーケースが壊され、アルデンヌが攻めてきた。


ヨハン:「ジャッカルはまだ万全とは言えません。今前線に投入しても足でまといになるだけです」


ドルムンク:「ヨハン。口が過ぎる。カーズさんがそう決めたなら俺達が反対する理由もねえだろ」


ヨハン:「私は、バンカー通りの安全を第1に考えて発言しています。」


カーズ:「それは本心か」


ヨハン:「…」


カーズ:「なあヨハン。俺に建前を使うのか。」


ヨハン:「…。」


カーズ:「あ?」


ヨハン:「…。」


ドルムンク:「…そんな事だろうと思ったよ」


0:部屋の外


ジャッカル:(M)ヨハンさんは、元々俺の直属の先輩だった。上納金はあの人に一度渡すことになってた。…別に盗み聞きするつもりだった訳じゃねえ。ただ、話し声が聞こえちまった。その話が出たなら、この足は止めるしか無かった


0:会議室


ヨハン:「…。私にも。弟がいます。」


カーズ:「知ってるよ。だからなんだ。」


ヨハン:「居るからこそ、分かるんです。アイツはきっと、妹の為に死ぬ。」


ドルムンク:「知ってる。元はお前がジャッカルとあの妹の担当だった。そんでお前が」


0:ドルムンクはヨハンの髪の毛を掴んだ


ドルムンク:「余計な温情かけるから、カーズさんが出る羽目になった。アイツらは今こうなってんだ。ちげぇか?」


ヨハン:「…違いません」


ジャッカル:「…」


ドルムンク:「アイツはバンカー通り出身じゃねえ。何をそんな仲間意識持ってやがる。」


ヨハン:「同じ、姉弟を持つ身として。」


ドルムンク:「ここがどういう街か分かってんのか」


ヨハン:「分かってます」


ドルムンク:「わかってねえからこうなってんじゃねえのか!!」


カーズ:「ドルムンク。」


ドルムンク:「…。すんません。出過ぎた真似を」


カーズ:「…。ジャッカルは前線に立たせる」


ヨハン:「カーズさん。お願いします。せめて、せめて万全に戦えるようになってから死なせてやってください。これじゃあ犬死だ」


カーズ:「今までも沢山の仲間が死んだ。それを一々止めるアホがどこにいた?」


ヨハン:「…。嫌ですよ、私は。私が死ぬのはいい。でも、仲間が無駄死にするのは、いつも嫌ですよ。」


カーズ:「…。」


ヨハン:「アイツは、出来るやつだ。ちゃんとすりゃあ、分隊長を張れる器の人間なんです。だから、お願いします」


0:ヨハンは土下座した


ヨハン:「…。ジャッカルを。無駄死にさせないでやってください。」


カーズ:「…。アイツが無駄死にするかは、あいつ次第だ。」


ヨハン:「…」


カーズ:「全員、死にたくてここにいるわけじゃない。死にたくねえからこうやって徒党組んでんだ。死にたくねえから、戦うんだ。意味のある死ってのは、自分でもぎ取るもんだ。」


ヨハン:「…」


カーズ:「同じ兄弟を持つ身なら分かるんだろ。泣かせたくないんだろう。じゃあ泣かせなきゃいい。その力が、アイツにはあると思ってる。だからアイツをここに置いた。お前はどうだ、ヨハン」


ヨハン:「…。はい。」


カーズ:「じゃあ、下手に温情かけるのは。今まで死んでった奴らに対する侮辱だ。アイツがどういう経緯でバンカーに身を投げ打ったにしろ、ジャッカルは自分のケツは自分で拭く男だろ」


ヨハン:「…ですが…」


カーズ:「俺も。ドルムンクも。お前も。バンカー通りを守る為に、必死こいて。命賭けて戦ってる。じゃあなんだ?俺らと、ジャッカルはちげぇのか?」


ヨハン:「…!」


ドルムンク:「…」


カーズ:「という訳だ。ジャッカル。」


ジャッカル:「…!」


ドルムンク:「マヌケが」


ジャッカル:「す、すんませんっ。盗み聞きすふつもりは…」


ヨハン:「聞いてたのかお前…」


ジャッカル:「すんません…」


ヨハン:「…。お前はいいのか。今の状態で、本当に前線で戦えるのか」


ジャッカル:「…。戦い、ますよ。死んでも、無駄死にでも、既にその覚悟はあります」


ヨハン:「…。」


ドルムンク:「ジャッカル。」


ジャッカル:「…。はい。」


ドルムンク:「お前の命はカーズさんに賭けた。あとは出来ることを死に物狂いでしろ。折角カーズさんが拾ってくれた命を、無駄にすんなよ」


ジャッカル:(M)俺は別に、バンカー通りの生まれじゃない。バンカーに対する思い入れも深く無い


カーズ:「…。そういうわけだ。俺達は死ぬ。いつかは絶対に死ぬ。だから、自分の死に報いる為に。報いるその時まで。生き続けろ。噛みつき続けろ。」


ジャッカル:(M)なのに。こんな、ああ。クソ、クソ…っ。


カーズ:「弱音は死んだ後にいくらでも吐け」


ジャッカル:(M)クソかっけえよ、この人達


カーズ:「俺達もそうする。だから、お前もそうしろ。」


ジャッカル:(M)この人達が守ろうとしてるもんを。俺も、守りてえと思っちまう。


カーズ:「ジャッカル。」


ジャッカル:「はい。」


カーズ:「俺達は皆等しく。洛南の番犬だ。」


ジャッカル:「…」


0:ジャッカルの目に迷いは無い


ジャッカル:「押忍。」


0:回想終了

0:現在

0:バグテリア南エリア 第2コロニー


マオ:(M)頭が、ぐちゃぐちゃだ。アルルが、兄さんを殺した。


ジャッカル:「…」


マオ:(M)どうしよう。死んじゃう。今から兄さんが、死ぬ。


ジャッカル:「…マオ。」


マオ:(M)どうしよう。どうしよう。どうしよう。


ジャッカル:「マオ…っ。」


0:ジャッカルはマオを抱き締めた


マオ:「…兄さん…」


ジャッカル:「アルル・クロフォードを、責めないでやってくれよ。どの道俺ァ、死んでたんだ。逆によ、カーズさん守る為に死ぬって言う名目貰ったんだ。感謝しなきゃな」


マオ:「…」


ジャッカル:「俺はクソみたいな兄貴だった。クソで、クソで、クソみたいな人間だ。」


マオ:「…そんなこと、あるはずないよ…」


ジャッカル:「そんな事、あるんだよ。」


マオ:「そんな事ないよ…っ。」


ジャッカル:「……ありがとなあ、マオ。お前は優しい奴だ。本当に、優しい。」


マオ:「…」


ジャッカル:「こんな俺を、兄さんって言ってくれて、ありがとなあ。」


マオ:「…っ…」


ジャッカル:「今まで。本当に沢山。嫌な思いさせたよなあ、ごめんなあ」


マオ:「…嫌だ…。死なないでよ、兄さん…っ」


ジャッカル:「マオ。聞いてくれ。」


マオ:「嫌だよお…っ」


ジャッカル:「マオ…っ。」


マオ:「…っ。」


ジャッカル:「俺の人生、ずっとクソだった。でもな、でもなあ。お前の兄貴に産まれた事がさ、俺の人生で一番の幸せだった事なんだあ。あの世があるなら、神とやらにも胸張って言える」


マオ:「〜〜〜っ…」


ジャッカル:「こんな街に生まれたのに、世話んなった人の為に死ねて、最後にお前と話す機会まで貰えた。恵まれ過ぎてる。幸せもんだあ、俺は」


マオ:「……っ。私、も。幸せだったよ。ずっと。ずっと幸せだった…っ。そりゃあ嫌な事もいっぱいあったけどっ。兄さんと二人だったから、兄さんの妹になれて、私も幸せだよお…っ。」


ジャッカル:「…ああ。本当に。贅沢もんだなあ…」


マオ:「私もだよ…っ。」


ジャッカル:「大好きだよ、マオ」


マオ:「…私も。私も大好き」


ジャッカル:「愛してる」


マオ:「私もっ。愛してるっ。だから、死なないでよおっ…兄さん…っっ。」


ジャッカル:「…」


0:ジャッカルはマオの腕からずり落ちる


マオ:「……。」


ジャッカル:「……」


マオ:「……兄さん……」


0:返事は無い


マオ:「……兄、さん」


0:身体を揺すった


マオ:「兄さん…。兄さん…っ。」


0:反応は無い


マオ:「…ぁぁ…」


0:涙が零れる


マオ:「…ぁぁあああぁああああっ…。」


カーズ:「…。」


マオ:「あぁああぁああっ…うわあぁああんっ。うぅあぁあ…っ。」


ヨハン:「結局泣かせやがって。あの馬鹿野郎が。」


ドルムンク:「…。」


カーズ:「…まあ。皆そうして死んだからな。お前だけが特別じゃねえよ。俺達もそうだ。向こうに行ったら、また酒飲んで話そう。ジャッカル」


リットン:「…うぅーん。場違い感」


ドルムンク:「で。アンタは何をしに来たんだ。考察屋。臆病なアンタがこんな抗争地にいる。ろくな事はなさそうだが」


リットン:「臆病って。うぅん、まあね。思わぬ収穫がありそうでさ。」


マオ:「うぅうぅ…っ。」


アルル:(M)泣いている声が、聞こえる。


マオ:「…ぁあぁ…っ」


アルル:(M)マオさんが、泣いてる。


マオ:「〜〜っ…ぁぁ…っ。」


アルル:(M)起きなきゃ。マオさんを、助けなきゃ。起きろ。起きろ、アルル・クロフォード。起きろ。


ドルムンク:「つまり。アイツか。」


リットン:「まあね。」


ドルムンク:「ありゃなんだ。カーズさんから聞いた話とはまるで別人だった」


リットン:「…さあ?教えて欲しけりゃ金を出しな」


ドルムンク:「その逃げ足が無かったら殺してたんだがな」


リットン:「さてさて。アルルちゃん」


アルル:「…」


リットン:「おーい、アルルちゃん。」


アルル:「…リットン…さん…?なんで、ここに」


リットン:(M)記憶がすっぽり抜け落ちてる。うん。そりゃあそうだろうね。


マオ:「………」


アルル:「…っ。マオさん…!」


0:アルルはボロボロの体でマオに駆け寄った


アルル:「どうしたんですかっ。大丈夫ですかっ…」


マオ:「…アルル…?」


アルル:「はいっ。アルルです。……どうしたんですか、マオさん…?」


マオ:「……」


アルル:「…マオ、さん?」


0:アルルはジャッカルの死体を見つけた


アルル:「……あ……。」


ドルムンク:「さっきまでとは違ぇみたいだな」


ヨハン:「流石にこっちもボロボロだ。もう応戦できなません」


ドルムンク:「ああ。命拾いしたのはこっちか。」


カーズ:「…。」


リットン:「カーズ、余計なことすんなよ。」


カーズ:「…。分かってる」


リットン:「珍しく物分りのいい」


アルル:「…ジャッカルさん…」


マオ:「…覚えてないのか…?」


アルル:「…すみません、気を失ってからの事は、何も…っ。」


0:アルルは拳を握っている


アルル:「ジャッカルさんは。死んでしまったんですか」


マオ:(M)なんで。なんで何も覚えてないんだよ。


アルル:「…そう、ですか。」


マオ:(M)なんでそんな、怖いくらいいつも通りなんだよ。


アルル:「…また。救えなかったんですか。私は」


マオ:(M)殺したんだよ。お前が、お前が、兄さんを殺したんだ。


アルル:「…すみません…っ。マオさん…っ。」


マオ:(M)なのに。何も覚えてないとか、都合良すぎじゃんか。


アルル:「……ジャッカルさん。すみません。貴方を、救えませんでした」


マオ:(M)じゃあ。私は一体、誰に怒ればいいんだよ…っ。


アルル:「…マオさん?」


マオ:「…。」


リットン:「あー。横からごめん。マオちゃんもきっと気が動転してるだろうし。あまり深くは聞かない方がいいよ。」


アルル:「…そう、ですよね。すみません。」


リットン:「それに。彼らも今は、君を執る気は無いらしい。」


ヨハン:「ジャッカルの遺体はこっちで預かる」


アルル:「え…」


ヨハン:「なんの文句があるんだ。」


マオ:「…。」


ドルムンク:「さっさと消えろ。ここは俺らの庭だ。二度とツラ見せんな。」


アルル:「…」


カーズ:「…。アルル・クロフォード。」


0:カーズはアルルの胸倉を掴んだ


カーズ:「次俺達の邪魔したら、その時は本気で殺す」


アルル:「邪魔をしたつもりは…」


カーズ:「…。もういい。消えろ。行くぞ、お前ら」


ドルムンク:「はい。」


ヨハン:「はい。」


0:三人は拠点へと戻った


アルル:「…リットンさん、あの。一体何が…」


リットン:「まあまあ、それも一旦置いておこう。」


アルル:「…でも、マオさんが。」


マオ:「…。アルル」


アルル:「…はい?」


マオ:「私。お前のこと。嫌いだよ」


アルル:「…はい。」


マオ:「でも。ありがとう。」


アルル:「…っ…。いいえ。ジャッカルさんも連れ戻せず、マオさんを戦場で一人にしました。本当にごめんなさい」


リットン:(M)ショーケースの破壊から3日。アルデンヌの進行は一時的にその勢いを落とし、第二次南北抗争は終戦となった。


マオ:「…。」


アルル:「帰りましょうか、マオさん。」


マオ:「…どこに。」


アルル:「…。監察課です。」


リットン:(M)アルデンヌからは149名の死傷者。バンカーからは246名の死傷者が確認され、南エリアの6割を落とされたバンカーの生活圏は、著しく狭まる事になり、勢力は減衰。これによりバンカーは半壊滅的打撃を受けた。


アルル:「…」


マオ:「ねえ。アルル」


アルル:「…はい。」


マオ:「………なんでもない。」


アルル:「……はい。」


リットン:(M)そしてそれは、更なるヘッド達の抗争を激化させる合図となった。


0:時間経過

0:場面転換

0:ブルーストリート 考察屋リットン


リットン:「と、まあ。そういう訳だよ。どうだい?私の考察は」


0:誰かと話している


リットン:「うん。うん。あぁ〜。やっぱり?そんなことだろうと思った。いいや、それは言えない。」


0:椅子を回転させた


リットン:「教えて欲しけりゃ金を出しな、デザートの旦那。うん。あ、直接手渡しでね。はい。はいはい、そんじゃ。」


0:通信終了


リットン:「……」


0:\( ‘ω’)/


リットン:「ィよっシャーーーーッ!大儲け案件確定ッッ!シャ!シャ!シャ!思わぬ大収穫!ははははは!やっぱり私ってば持ってるなあ〜!!違うよねえ運が!運が違う!にゃははは!…ふぅ。」


0:リットンは窓の外を見た


リットン:(M)これにて無事リベール事変も解決。舞台はどこぞへと完全に移ったって事かな。


0:ゴーグルを付ける


リットン:(M)やっぱり恩売っといて損はなかったねえ。次はどうなる、アルル・クロフォードちゃん。


0:場面転換

0:ブルーストリート 特務国際監察課

0:アルルの部屋


アルル:(M)あれから一日。寝てもスッキリするわけが無い。ジャッカルさんを助けられなかった。あろう事か、死んでしまうその瞬間に立ち会うことさえ出来なかった。


0:アルルは立ち尽くしている


アルル:(M)中央の速報でも、新聞にも大々的に載っていた。フランス、リベールを発端に起こった大事件。通称リベール事変が無事終息したと言う知らせ。


アルル:(M)リベール事変解決。その立役者は。ガロンドール・ウォンバット。


アルル:(M)ガロは、凄いなあ。あれからたった数日なのに。強くて、優しくて、明るくて。仲間も助けて、敵も倒して。凄いなあ。本当に。凄いなあ。


0:アルルは拳を握り締めた。


アルル:(M)私。ここに来て、何も出来てない。なんにも、何一つ出来てない。適当に手を差し出して、希望を見させては諦めさせて、余計なことに首ばっかり突っ込んで。沢山の人が死んで。それで…。


0:アルルは泣いている


アルル:「…本当に。何、やってんだよ。アルル・クロフォード…っ。」


アルル:(M)マオさんとの約束。守れなくなっちゃったな。


バイオレット:「おい。居るか」


アルル:「…はい。」


バイオレット:「いい加減に報告書を出せ。昨日出さずに寝たろ」


アルル:「…。分かりました、すみません。」


バイオレット:「さっさとしろ。」


0:バイオレットは1階へ戻った


アルル:(M)ショーケースを破壊した事。南エリアに喧嘩を売った事。このふたつはすぐに本庁へ情報が渡り、監察課は多少なりの期待を得た。


0:アルルも1階へ戻る


アルル:(M)報告書を急かされているのはそのせいだ。こんなにも。こんなにもペンを持つ手が重い報告書は、初めてだ。


0:時間経過


バイオレット:「…。」


アルル:「以上が。報告になります。」


バイオレット:「そうか。分かった。内容に少し偏りがあるが、まあいいだろう。」


アルル:「ありがとうございます。失礼します」


バタップ:「あぁーはーん?昨日から元気ねえじゃんアイツ」


シーカー:「知るかよ。どうせまた誰ぞが救えなかっただのーって凹んでんだろ。めんどくせえ。だから首突っ込むなっつったんだぜー俺はー」(嫌味のように)


アルル:「…すみません」


バタップ:「…。アルル・クロフォード」


アルル:「…はい。」


バタップ:「お前。誰だ?」


シーカー:「…はい?」


アルル:「…何を言ってるんですか」


バタップ:「いやあ、昨日帰ってきた時から思ってたんだが。ちぃと違う匂いがする。」


シーカー:「何言ってんのお前?」


バタップ:「分かるんだよ。一線超えたところにしかない匂いがある」


アルル:「…。私はアルル・クロフォードですよ。」


バタップ:「…。そうか。まあいいわ。変なこと言って悪かったな」


シーカー:「ああそうだ、新人。あのガキいるだろ。名前なんつったっけ」


アルル:「マオさんですか?」


シーカー:「そうそう、それそれ。アイツ昨日からずっと部屋に篭もりっぱなしだ。」


アルル:「そうですね。疲れてるんですよ、きっと」


シーカー:「ちげぇって。あのー。ほら、分かるだろ?」


バイオレット:「マオ・ダウンポットの保護は兄であるジャッカル・ダウンポットと再び生活できるようになるまで、という話だ。その兄が死んだならアイツをこれ以上ここに置く理由はない。さっさと出て行かせろ」


シーカー:「よく言ったっ。」


アルル:「…いや…そういう話でしたけど…。もうちょっと待ってくださいよ。」


バイオレット:「無理だ。曲がりなりにも違法薬物を売った犯罪者だ。匿ってこっちの益になる事なんか何一つ無い。さっさと追い出せ。命令だ」


アルル:「…ですか。」


バイオレット:「…なんだ。」


アルル:「なんなんですか。貴方達は。そうやって人をーーーー」


0:アルルは口を閉じる


アルル:「…いえ。すみません、なんでもないです。」


バイオレット:「なんでもいいが、さっさと部屋から出せよ。」


アルル:「…まずは。話をしてきます。」


シーカー:「心無いねえ、あいつ」


バタップ:「人任せが言うんじゃねえよ」


シーカー:「は?お前には言われたくないんですけど」


0:場面転換

0:モーテル2階


アルル:「…。」


0:マオの部屋の前


アルル:「マオさん。起きてますか」


0:ノックをするが、返事がない


アルル:「…マオさん?」


0:返事は無い


アルル:「…。すみません、入りますね」


0:ドアを開けた


アルル:「………」



0:マオは首を吊って死んでいる



アルル:「……」


0:マオの顔は鬱血している


アルル:「……え…?」


0:マオの瞳孔が開いている


アルル:「……………は………?」


0:マオの足元には家族写真が落ちている


アルル:「マオ、さん…?」


0:マオは首を吊って死んでいる


アルル:「………なんで…。なんで…マオさん…」


0:記憶


アルル:(M)人が死んだ顔。


アルル:(M)人が、死んだ顔。


アルル:(M)人が、死んだ時の顔


アルル:(M)夢の中の様な、他人事のような、凄惨な風景が頭を過ぎる


アルル:(M)人が死ぬ顔。


アルル:(M)私はそれを、昨日見た。


アルル:(M)誰よりも。間近で


0:アルルは昨日自分がガラートラムを殺したことを思い出す


アルル:「ッ……。」


0:アルルは昨日自分が東郷やカーズ達と戦った事を思い出す


アルル:「…ぁ…」


0:アルルは昨日自分がジャッカルを殺した事を思い出す


アルル:「ぁあぁ…っ。」


0:アルル絶叫


アルル:「ぁああああああああああああああぁああッ!」


0:絶叫と同時に記憶が一気に溢れ出す


東郷:「お前に決めた」


牧野:「や、やめろぉおお!」


カーズ:「起きろドルムンクッッ!いつまで寝てんだっ。」


アルル:『あぁああああぁああッ…!』


牧野:「お前がどうなってんのかは知らねえが!東郷さんに手ぇ上げんな…!クソバカ虫!」


ドルムンク:「カーズさんッッ…!!」


ヨハン:「はい。殺します」


東郷:「そぉらもう一丁…ッ!」


アルル:『ぁああぁああああぁああッッ…!』


ドルムンク:「動きが鈍ったぞ…!叩け!」


ヨハン:「噛み付け、百足ッ!」


カーズ:「まだ動けるかぁ…東郷…っ。」


東郷:「当たり、前だろうが…っ。」


アルル:『ぁああぁッ…!あぁぁああぁあッ…!!』


カーズ:「ドルムンク、ジャッカルはどうなった」


ヨハン:「カーズさん!!」


ドルムンク:「後ろだ!!」


東郷:「カーズッ!!」


アルル:『死ね…っ。死ね…!死ね死ね死ね!!』


ジャッカル:「どおしたぁ、らしくねえじゃねえか、アルル・クロフォード。」


カーズ:「ジャッカル!!」


ジャッカル:「駄目だ。俺は、カーズさんを。バンカーを死んでも守るんだ。そういう約束なんだ」


アルル:『死ね…!!死ね!!死ね!!死ねよ!死ねよ!!』


リットン:「バン。」


0:記憶が完全に戻る


アルル:「ぁぁああぁあああああぁあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁッッッ…!!」


0:アルルは蹲った


アルル:「なに。何してんだ。何してんだ。何してんだ、何してんだ…っ。何してんだ…!何してんだ何してんだ何してんだ…!!何やってんだよ…!!アルル・クロフォードォォぉおおぉッ……!!」


0:扉が開く


シーカー:「おいおいおいおい…!どうした!?」


バイオレット:「うるさいぞ…!」


0:二人はマオを見る


シーカー:「…!」


バイオレット:「…。あぁもう…っ。」


シーカー:「まじすか…」


バイオレット:「また…面倒事を…」


アルル:(M)私が。殺した。



アルル:(M)私が。ジャッカルさんを殺した。



アルル:(M)私が。マオさんを殺した。



アルル:(M)私が…っ。私が…!私が…っ…!!



アルル:(M)ああ、そうか。



アルル:(M)私は。人殺しだ。

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