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異能力者達の夜明け  作者: ゆーろ
監視者達の午後
25/28

監視者達の午後 起×Ⅱ 「オーシャンズ・ハイ前編」

監視者達の午後 起×Ⅱ-前編-

0:<オーシャンズ・ハイ-前編->



0:登場人物


アルル:アルル・クロフォード。女。特務国際監察課所属。3等監察官


シーカー:シーカー・グレイスマン。男。特務国際監察課所属。準一等監察官。※「ガロ」を兼役


バイオレット:バイオレット・ブランシュ。女。特務国際監察課所属。情報局管理官※「アーモンド」を兼役


バタップ:バタップ・ドレッドパーカー。男。特務国際監察課所属。執行官。異常体。ステージ5


マオ:マオ・ダウンポッド。女。ジャッカルの妹。


セノ:セノ・アキラ。男。中央政府監査部。特務監査官。


リットン:リットン・アンクス。女。考察屋


ルーベン:ルーベン・スペンサー。男。




セノ:(M)西暦1991年。12月。ロシア最西端


シーカー:「…お前。マジで言ってんのか」


バイオレット:「…」


バタップ:「はは」


セノ:(M)ここは、法律の一切が通用せず、大陸地図からも消された街


アルル:「はい。「カーズ・ジョーン」を逮捕します」


セノ:(M)そこは正しく。自由と、無秩序の街。


シーカー:「んー。んん〜。んーー。」


アルル:「シーカーさん。何を言われても、私はもう決めましたよ」


セノ:(M)世界から見放されたこの街を人は


アルル:「マオさんに。ジャッカルさんに誓ったんです。」


セノ:(M)バグテリア法外特区と呼ぶ。


アルル:「私が手を差し伸べた事を。後悔させはしない。」


セノ:(M)尚、住み心地と治安は保証しません。


0:場面転換

0:バグテリアブルーストリート

0:特務国際監察課


バタップ:「はははは!聞いたかおい!こいつ!カーズを捕まえるってよ!はははは!」


シーカー:「笑い草にもならねえよ。」


バタップ:「だって!だって!あっははは!」


バイオレット:「うるさい」


アルル:「むす〜っ。何がそんなおかしいんですかっ。私は本気です!!」


リットン:(M)ここは無法の地、バグテリアに置かれた一つの駒。中央政府バグテリア支部所。通称、特務国際監察課


シーカー:「はあ…。なあ、新人。」


アルル:「なんですか」


シーカー:「いいか。口答えせず「はい」か「YES」だけで返事をしろよ。カーズにだけは手を出すな。いいな」


アルル:「嫌です」


リットン:(M)彼らの任務は、近年騒がれるバグテリアとドイツの侵攻問題の監視役。即ち、見張り番という訳であーる


シーカー:「もっかい言うぞどさんぴん。カーズには手を出すな」


アルル:「…。なんでですか」


シーカー:「お前が死ぬからだ。」


アルル:「…。私が弱いからですか」


シーカー:「そうだ。お前がクソ弱いからだ。敵が何かもわかってねえからだ」


アルル:「それでも。私は命を賭けると言ったんです。」


シーカー:「死にに行くのか?わざわざ?」


アルル:「そうです」


バタップ:「何言っても無駄だって!決まっちまってんだから!ははは!」


バイオレット:「マジでうるさいぞバタップ」


シーカー:「はあ…。もういい、好きにしろ。だが俺達は巻き込むな。約束しろ。絶対に巻き込むな」


アルル:「…。」


シーカー:「そんな目で見てもダメなもんはダメだ。力は貸さんし、俺らが助力した所でどうこうなる相手でもねえのよ」


アルル:「…。はい。分かってます。一人でもやります。ので、これはこういう任務に当たるという事前報告です」


バタップ:「死亡宣告の間違いだろーっ。くくっ」


アルル:「…っ。とにかく、私はやると決めました、のでっ。やります…っ。失礼します!」


0:アルルはモーテルの2階へ上がった


バタップ:「あーあ。シーカーが新人いじめたー。」


シーカー:「今のはお前だろどう考えても」


バイオレット:「もうなんでもいいから、頼む。うるさい。静かにしてくれ」


0:場面転換

0:モーテル2階


マオ:「…」


0:ドアの外から声が聞こえる


アルル:「アルル・クロフォードです。マオさん、入ってもいいですか」


マオ:「…。」


アルル:「マオさん、いますか。」


0:ドアを開ける


マオ:「…。なんだよ。」


アルル:「あ、おはようございますっ。」


マオ:「…おはよ。」


アルル:「あの、えっと」


マオ:「…。突っ立ってないで入りなよ」


アルル:「あ、はいっ。お邪魔します」


マオ:「…あのさ。私、居候の身だし。クロフォードは年上なんだから、もっとこう、ズカズカ来るもんじゃないの」


アルル:「いや、でもその。マオさんは女の子なので、プライベートは大事かなって」


マオ:「はあ。とりあえず入って」


アルル:「はい。」


0:入室


リットン:(M)この虚ろげな目をしている少女はマオ・ダウンポッド。2日前にアルル・クロフォードが保護した、元違法薬物売りの少女。


アルル:「…。」(部屋を見渡す)


マオ:「なに。ジロジロ見て」


アルル:「あ、いや。何も私物置いてないんだなと」


マオ:「置くような私物なんて持ってないしね」


アルル:「あ、そうですか。」


リットン:(M)なんやかんやあり、マオ・ダウンポッドの実兄であるジャッカル・ダウンポッドは、わる〜いお兄さんに連れていかれてしまいました。多分死ぬ。死ぬ死ぬ。だからアルル・クロフォードがジャッカルくんの捜索を引き受けているそうだが、進展なし。


マオ:「…それで。兄さんのことは…」


アルル:「…」


マオ:「…って。聞くまでもないか。その顔を見る限り」


アルル:「すみません。皆さんの協力は得られませんでした。」


マオ:「…」


アルル:「でも、私一人でも動きます。ので、ごめんなさい。もう少し待ってて貰えますか。必ず、ジャッカルさんは助けてみせますので」


マオ:「待つって。あと何日」


アルル:「あ…」


マオ:「兄さんがカーズさんに連れてかれたのは一昨日だ。一昨日だよ。」


アルル:「…」


マオ:「…兄さんはさ。」


アルル:「…はい。」


マオ:「一回何かを決めたら、もう動かない人なんだ。だから、私の身代わりにカーズさんに首を出したって話が本当なら、もう…」


アルル:「そんな顔しないでくださいっ。約束しました、貴方のお兄さんは必ず助ける。私が、貴方達に手を差し伸べた事を、後悔させはしません。」


マオ:「…。」


アルル:「で、でも、マオさんの言う通り一刻も惜しいのは、はい。その通りです…っ。なのでとりあえず、聞き込みに行ってきます…っ。」


マオ:「…うん。」


0:場面転換

0:ブルーストリート


リットン:(N)バグテリアは危険!危険!危険だらけ!


シーカー:(N)どこを歩いていても常に死が付きまとう!これは大変!


バタップ:(N)しかし、このブルーストリートだけは少し違う。


アルル:「とほほ」


セノ:(N)その最たる理由は、「どこの縄張りにも属さない」からである。


リットン:(N)たったそれだけの理由で治安が良くなる。


シーカー:(M)力が無ければ生きていけない彼らにとって、自分の縄張りはある種財産なのである。


アルル:「うーーーーん……」


バタップ:(N)だからこそ、各地域への確執は数十年、数百年と渡り受け継がれた中、ブルーストリートだけは中立であり続けた。


リットン:(N)だからこそ、この地域だけはバグテリアの中でも平和なのであーる!


アルル:「参った…!!!」


シーカー:(N)こんなか弱いクソガキが上の空で歩いていても、ギリギリ。ほんとーーにギリギリ殺されないくらいには平和な地域。それがブルーストリートなのである。


0:アルルは歩いている


アルル:「くそ〜…。どうするかな…」


バタップ:(N)アルル・クロフォードは悩んでいる。


アルル:(思考)マオさんにあぁ言ったものの…。どうしよう、本当に手詰まりだ。シーカーさんもバイオレットさんも手伝ってくれる気配無いし、バタップさんは論外だし。


0:歩いている


アルル:(思考)ジャッカルさんがカーズ・ジョーンに連れて行かれてから二日。そもそも何処に連れてかれたんだって話だし…。バグテリアを虱潰しに探そうにも広過ぎるし、何よりこんな街練り歩いてたら命がいくつあっても足りない。


0:歩いている


アルル:(思考)うぅ〜ん…。どうする。どうする。どうする…。


セノ:(N)足りない頭を回し、回し、回して回して回して回して。


リットン:(N)そしていずれ、彼女の足が先に止まる


アルル:(思考)あ"あ〜〜。考え過ぎて頭痛くなってきた。バグテリアに転属になってから半月、全然寝れてないし…。糖分、脳に糖分が足りていない…


シーカー:(N)それはそうだ。彼女はバグテリアに来てからまだ半月と少しだが、既に46回死にかけている。


バタップ:(N)単純計算一日2〜3回は死にかけていることになる。体力自慢を自称する彼女の脳と体も、流石に疲労困憊を極めていた


アルル:「…くんくん。」


セノ:(M)そんな中!香る!香る!香る香る!


リットン:(M)香る香る香る!甘い香り!


アルル:「( ゜д゜)!」


シーカー:(N)クンカ!クンカ!クンカクンカ!


バタップ:(N)一度鼻をくすぐり脳髄をかき乱すその匂いを無視する事は否!人には不可能!


アルル:「あわあわあわ…!」


セノ:(M)彼女は困惑した!血と鉄の匂いしかしないバグテリアにおいて「お菓子屋さんの香り」が鼻をくすぐった違和感!


アルル:「…!…!?…??」


リットン:(M)そして疲れに疲れた脳と体は糖分の香りを本能的に接触しようとしている!


アルル:「わ…!わ…!」


0:アルルは必死に自分の足を掴んでいる


シーカー:(N)それ即ち!糖分の誘惑!


バタップ:(N)体が疲れた日には安い板チョコレートを無性にかぶりつきたくなるように!


シーカー:(N)頭が疲れた日にアホ面こいて天井を見つめながらアイスを頬張りたくなるように!


バタップ:(N)疲れを殺す手段は!糖分!!


アルル:「うわわわ…!わあああ!」


シーカー:(N)流れ込む!流れ込む流れ込む!


バタップ:(N)流れ込むのはイメージ!


アルル:「〜〜〜!」


セノ:(N)チョコレート!クッキー!生クリーム!アイス!それら全てを統合するパフェ!


リットン:(N)獲物を前にした野生獣と同様!


シーカー:(N)人の遺伝子に、生物の理にそう刻まれている通り!


バタップ:(N)人の体に産まれた以上、一切の忖度を無視し、生理現象を全うする!


アルル:「じゅるる」(ヨダレの音)


セノ:(N)そしてその足は匂いの元へ向かう


アルル:「ア…ア…」


リットン:(N)その時。ぶどう糖液糖で満たされた彼女の脳に、一抹の予感がよぎる!それは妄想だが、現実で起こり得る範囲の妄想!


マオ:(アルルのイメージ)ふぅーん。私との約束無視して、パフェ食べてたんだ。行ってくるって。パフェ食べに行ってくるってことだったんだ


アルル:「マ°ッッ!」


マオ:(アルルのイメージ)ふーん。別にいいけど。人だしね。女だしね。食べたくもなるよね。別に。怒ってないよ


シーカー:(N)怒っている!!!


マオ:(N)口だけなんだね。悲しい。


アルル:「…ぁあッ!」


マオ:(N)やっぱりそんなもんなんだ。もういいよ。兄さんは私ひとりで探すから


アルル:「待って…!待ってください!!」


バタップ:(M)そう!アルル・クロフォードは分かっている!理解している!


セノ:(N)今はマオちゃんとの約束を果たさねばならない!それが最優先!甘い匂いに現を抜かしている場合ではない!分かっているのだ!


アルル:「待って、ください…」


リットン:(N)左脳では理解している!


シーカー:(N)しかし!


バタップ:(N)右脳と身体全体がそれを拒否!!


アルル:「うわ、うわあああ…!」


セノ:(N)彼女の体は匂いの元へと吸い込まれるように這い寄るッ!


アルル:「うわああああ!」


リットン:(N)それは即ち!理性の敗北!!!


アルル:「だめだ…!」


シーカー:(N)負けるな!理性!


バタップ:(N)頑張れ左脳!


セノ:(N)干し柿のように縮こまった左脳であれど頑張れ!


リットン:(N)人に産まれたのだから!


アルル:「わ、たし、は…!」


シーカー:(N)負けるな!!敗北するな!!


バタップ:(N)人に生まれたのだから!


アルル:「わたし、は…っ。」


セノ:(N)ったく。頑張れよ、アルル・クロフォード。


リットン:(N)べ、別にあんたの為に応援してるんじゃないからっ。でも…頑張ってね、アルル・クロフォードっ。


シーカー:(N)オムニ


バタップ:(N)頑張ったら…眉間にキスしてやるよ、アルル・クロフォード


アルル:「だめだああああああ!!」


0:場面転換

0:同時刻 特務国際監察課モーテルにて


マオ:「…。」


0:3角座り


マオ:「あいつ。あれからずっと寝てないし。今日も傷だらけだったし。」


0:手を握った


マオ:「……ご飯くらい。ちゃんと食べてるといいな。」


0:場面転換

0:ブルーストリート


ルーベン:「いらっしゃい」


アルル:「…。はっ!気付いたら店に入ってた!」


セノ:(M)そう。店に入っていた。敗北である。理性!敗北!


リットン:(N)あんな幻覚見えてるのだから普通に飯は食った方がいい。当然のことである。


アルル:「くそぉ…!!ごめんなさい!ごめんなさいマオさん!!」


セノ:(M)悔しがる彼女へ冷えた体を温めるおしぼりを渡す一人の男。


ルーベン:「おひとりかい?」


セノ:(M)バグテリアでは珍しい、中性的な顔立ちをした人間。


アルル:「あ、えっと……」


ルーベン:「?」


アルル:「はい。ひとりです」


セノ:(N)アルル・クロフォードはハッとした!またもや甘い匂いに誘われ理性が敗北した事に!


アルル:「すみません…違うんです…私今仕事中で…っ。全然その、食べるつもりできたわけでは。お金も無いので、お腹も全然減ってないし…!!」


マオ:(腹の音)ぐーーーぎゅるるるるる!ぎゅるるん!ぎゅるるん!?ごゅぎゅばばば!


ルーベン:「…」


アルル:「〜〜〜…」


ルーベン:「あはは、とりあえず座りなよ。もうお昼だからね。甘いものは好き?」


アルル:「あ、はい。いやでも初任給もまだなので全然お金…なくて…」


ルーベン:「じゃあご馳走させてよ。」


アルル:「Σ(゜д゜;)!」


ルーベン:「ああ、後で高額請求するとかじゃないから安心してよ。僕、今ここでカフェ経営の見習いをさせて貰っててさ。」


アルル:「は、はあ」


ルーベン:「料理の腕も店主に比べたら全然で。だから練習台になってよ。材料費は僕持ちでいいから」


アルル:「…う。」


ルーベン:「…う?」


アルル:「ううう( ; ; )こんなに( ; ; )こんなに優しい人がバグテリアにも居るだなんて( ; ; )うううう( ; ; )」


ルーベン:「あーあーあー。もう、ほら」


0:ルーベンはハンカチを渡した


アルル:「ハンカチまでええええ( ; ; )」


ルーベン:「ははは…。君、バグテリアには最近来たのかい?見ない顔だけど」


アルル:「はい( ; ; )つい先月異動になったばっかりで( ; ; )ずびばぜん( ; ; )ハンカチ洗って返しますから( ; ; )」


ルーベン:「いいよいいよ、コーヒーは飲める?」


アルル:「苦手です( ; ; )」


ルーベン:「じゃあカフェラテにしよう。まだ修行中の身だから、味は期待しないでね」


アルル:「あ゛あ゛あ゛りがとうございますぅぅ( ; ; )」


0:ルーベンは慣れない手つきで用意を始めた


アルル:(M)あ〜〜。人生捨てたもんじゃないなあ…。こんな良い人が居るだなんて。もっと早く来てれば良かった。


0:アルルは窓から店の看板を覗き見た


アルル:(M)喫茶コクリコ…。はぁ〜〜。可愛い名前のお店。素敵。内装も綺麗だし。落ち着く〜〜…


ルーベン:「はい。お待たせ。」


アルル:「うわっ。ありがとうございます〜!」


ルーベン:「ごゆっくり」


0:アルルはコーヒーカップを手に取った


アルル:「はぁ〜暖かい…。ズズズ…。」


0:飲む


アルル:「…( ゜д゜)!」


0:アルルは立ち上がった


アルル:「美味い!!美味いです!!」


ルーベン:「あ、ほんと?よかったあ」


アルル:「なんと言うか、昔父さんがが入れてくれたミルクティーを思い出します…。優しい味!です!」


ルーベン:「あはは、お父さんと比べられちゃあ弱いなあ」


アルル:「はあ…。落ち着く」


ルーベン:「その制服さ、すぐそこの、監察課の人?」


アルル:「あ、はい!そうです!申し遅れました!」


0:アルルは深くお辞儀する


アルル:「中央政府監察局、3等監察官、アルル・クロフォードです!お情けを頂きありがとうございます!!」


ルーベン:「お情けって。元気いいね、アルルちゃん」


0:お皿をテーブルに置く


ルーベン:「はい。ミニパフェ」


アルル:「〜〜〜!!ありがとうございます!頂きます!」


0:食べる


アルル:「美味いッッ」


ルーベン:「よかったあ」


アルル:「見習いって言ってましたけど、全然!すっごく美味しいですよこれっ」


ルーベン:「まあ、店主のレシピがしっかりしてるからね」


アルル:「謙遜ですよ!あ、あの、えっと…」


ルーベン:「あ、僕はルーベン。ルーベン・スペンサーだ、よろしく」


アルル:「ルーベンさんはその、いつからここで働いてるんですか?」


ルーベン:「まだ一週間だよ、だから修行中」


アルル:「一週間でこんなに…。それに比べて私は…もう、半月も…ここにいるのに…」


ルーベン:「まあまあ、カフェ店員と中央政府じゃ比べ物にならないでしょう、君に何があったかは知らないけど、そう落ち込まないで」


アルル:「優しいですねえええルーベンさんはあああ」


ルーベン:「あーもう、泣かない泣かない」


アルル:「ぐす。なんか、本当にお父さんみたいですね」


ルーベン:「え?」


アルル:「その、まだ一週間の勤務の筈なのに、エプロンが凄く似合ってますし、その、会っていきなり泣き出す私みたいな面倒臭い人間にこんな親切に…面倒見がいいと言うか。自分で言ってて恥ずかしくなってきました」


ルーベン:「あーまあ、うん。慣れてる、と言えば慣れてるよ。僕には沢山の家族がいるからね」


アルル:「御家族が…!いいなあ、ルーベンさんみたいな優しい人が居たらきっと幸せな家庭なんだろうなあ〜」


ルーベン:「うん、そうだと、いいな」


アルル:「くそぉ〜。私も負けてらんないぃ〜」


ルーベン:「勝負じゃないでしょ、それに思い詰めすぎるのも良くない。全身生傷だらけで、折角綺麗な顔に産んでもらったんだから。大切にしないと。女の子なんだから」


アルル:「いや、でも…私は。本当に、全然ダメで。この間も私が弱いせいで、守りたい人が大切にしている人を、守れなかった。バグテリアに来てからこんなのばっかりなんです。」


ルーベン:「…。」


アルル:「私は、私がやるべきことが出来てない」


ルーベン:「…正しい人だね、アルルちゃんは。バグテリアにはちょっと向かなさそうだ」


アルル:「それ、誰かにも言われました」


ルーベン:「でもね。凄いことだと思うよ。」


0:ルーベンはアルルの前に座った


ルーベン:「君から見たら、この街の連中は皆どうかしてるんだろうね。金、金、金、あとは暴力。こんなに生きづらい街なのに、こんな街で生きていくしかないんだ」


アルル:「…異常体だから、ですか。」


ルーベン:「うん。勿論ここには一般人も住んでるけどね。一度日の元を歩く後ろめたさを知った人間は、ここからは出れないんだ」


アルル:「…日の元を…」


ルーベン:「想像がつかないかい。それもこれも、バグテリアの外。全世界で異常体を強く弾圧している中央政府。君たちのせいなんだけどね」


アルル:「あ…」


ルーベン:「勿論アルルちゃんを責めてるわけじゃない。悪いのはもっと大きい何かだ。僕らみたいなちっぽけな人間一人には何も変えられないからさ」


アルル:「…。私は、それが嫌で。ここに来たんです」


ルーベン:「……へえ」


アルル:「確かに私は弱いですけど、でも。だからって、何も選べないだなんて事あるはずないんです。あっていいはずがない」


ルーベン:「…」


アルル:「それは、ここに住んでる皆さんだって同じです。」


ルーベン:「本当に、珍しい程正しい人だね。眩しくなる」


アルル:「…言うのは簡単なんですけどね。それを実行する力が無いっていうのは結局、はい。心が折れそうにもなります」


ルーベン:「…。アルルちゃん」


0:ルーベンは肘を着いた


ルーベン:「君、中央やめなよ」


アルル:「…へ?」


ルーベン:「先に断っとくけど、向いてないとかじゃないよ。でも、大きい組織の中では、大きい声ほど先に潰されるものさ。」


アルル:「…はい。」


ルーベン:「自覚があるんだね」


アルル:「あります」


ルーベン:「なのに、どうして中央に居続けるの?」


アルル:「…。私の、父が。中央政府の人間だったんです。」


ルーベン:「…」


アルル:「何も無かった私に。父は人が生きていい意味と意義を教えてくれました。私は、あの背中に全部を貰ったんです。」


ルーベン:(M)ああ。思えばこの時。この子を止めていれば。こうはなっていなかったのかもしれない。


アルル:「人は殺してはいけないと、こんな単純な事を教えてくれたのが父なんです」


ルーベン:(M)だって君の目は


アルル:「だから。私はこの制服に袖を通しているんです。」


ルーベン:(M)こっち側の目だったから


アルル:「……。あれ、何言ってるんだろう。私。なんかごめんなさい」


ルーベン:「いいよいいよ。立派なことじゃないか。憧れる背中があるって言うのはかっこいい事だよ」


アルル:「…そう、ですかね」


ルーベン:「大丈夫。アルルちゃん。君の行いで救われる人間はいる。必ず、どこかに、君のその手を取りたがる人間は居る。」


アルル:「…」


ルーベン:「君は、正しいよ。」


アルル:「……。」


0:ぶわっと号泣


アルル:(´;ω;`)


ルーベン:「あーあー、また泣く」


アルル:「ずび。でも、ありがとうございますっ。」


0:深いお辞儀


アルル:「凄く。なんと言うか。勇気つけてもらっちゃいました。美味しいパフェもご馳走になっちゃって。この恩は!必ず!」


ルーベン:「いいってば、練習だって言ったでしょ。」


アルル:「いいえ!!それでは私が!!腑に落ちません!」


ルーベン:「分かった分かった、じゃあまた会った時に」


アルル:「はいっ!」


アーモンド:「ただ今帰りました〜」


ルーベン:「あ、おかえりなさい、アーモンドさん」


アルル:「ずび。あ、この方が例の店主さんですか」


ルーベン:「そう、ここのオーナー。アーモンド・コクリコさんだ」


アーモンド:「あ、お客さんですか?食べ方綺麗でいいですね〜。」


ルーベン:「はい。珈琲をいれるのと、パフェ作りの練習に付き合って貰ってました」


アーモンド:「いいですね。どうですか、美味しいですか?」


アルル:「はい!とっても!」


アーモンド:「よかったあ、これならもう来週には卒業できそうですね」


ルーベン:「はい、お陰様で」


アルル:「え。ルーベンさん、もう辞めちゃうんですか」


アーモンド:「ああ、彼は本業が別にあるんですよ、その勉強になれば、という事で、ここで短期間バイトして貰ってるんです。ところがルーベンくん、とっても要領良くて、思ってたよりずっと早く卒業出来そうなんです」


アルル:「本業が…」


ルーベン:「まあ、料理上手くなれば皆にも振る舞えるしね」


アルル:「皆って言うと、さっき言ってた御家族の…?」


ルーベン:「うん。喜んでくれるといいな」


アルル:「きっと、喜んでくれますよ!絶対!」


ルーベン:「はは、ありがとう」


アーモンド:「あ、ルーベンくん、荷物運ぶのだけ手伝ってくれますか?」


ルーベン:「はい、勿論」


アーモンド:「それじゃあ、ゆっくりしていってくださいね」


アルル:「はい!!ありがとうございます!!」


アルル:(M)店主さんも優しいなあ〜。うわあ〜良いお店見つけた〜。ああ〜。美味しい。甘くて、萎んだ脳みそが潤っていく感覚だあ。ずっとここに居たいなあ〜〜………


0:ハッとする


アルル:「はっ!こんなことしてる場合じゃない!!」


アーモンド:「うわあ!」


ルーベン:「びっっくりしたあ」


アルル:「あの!あのあのあの!あの!」


アーモンド:「ちょっと!叫ばないでください!飛沫が!飛沫が凄い!」


アルル:「カーズ・ジョーンって知ってますか!!」


ルーベン:「…!」


アーモンド:「飛沫が!!」


ルーベン:「…。カーズに、何か用?」


アルル:「あ…。えっと、その。二日前に、色々ありまして…」


0:アーモンドは床を拭いている


アーモンド:「カーズくんって言えば、南エリアのあの子ですよね?」


アルル:「南エリア…ああ、確かに。初めてあったのも南エリアのすぐ近くでした」


ルーベン:「…。悪いことは言わない。カーズには関わるな」


アルル:「…そんなに、危ない人なんですか」


ルーベン:「アルルちゃん。君も会ったことがあるなら分かるだろう。彼は危険過ぎる。目的の為なら、あいつは何だってする」


アルル:「…」


アーモンド:「でも、何やら因縁があるようですし。色々探りたいなら私達よりもずっと適任が居ますよ」


アルル:「適任?」


ルーベン:「ちょっと、アーモンドさん」


アーモンド:「いいじゃないですか。アルルさん、と言いましたか。」


アルル:「はいっ」


アーモンド:「この住所を尋ねて見てください。きっと、あなたの力になってくれる」


0:アーモンドはメモ書きを渡した


アルル:「…考察屋…?リットン…」


アーモンド:「はい。バグテリアでの困り事であれば、大体その人を頼れば解決します。凄腕の情報屋みたいな人です」


アルル:「情報屋…!」


ルーベン:「アルルちゃん、リットンに絡むのはやめておいた方がいい。彼女は守銭奴で有名だ。君は一文無しなんだろう」


アルル:「…そう。ですけど。でもっ。行くだけ行ってみますっ。」


ルーベン:「…」


アルル:「ありがとうございます、ルーベンさん。心配して言ってくれてるのは、その、凄く分かります。とっても嬉しいです。ありがとうございます。でも、約束があるんです。なのでどれだけ危険があっても、行きます」


ルーベン:「…約束、かぁ。」


アルル:「はい。」


ルーベン:「…そっか。まあ、そこまで言うなら止める理由も差して無いよ。うん。頑張って」


アルル:「はいっ。ありがとうございましたっ。あ、あのあの、またここに来たら会えますか?」


ルーベン:「うぅん。どうだろ、暫くはブルーストリートには近寄らないつもりだし。まあ、バグテリアなんか言うほど広くないんだ、またばったり会えるよ」


アルル:「そうですか…。分かりましたっ。ではその時にっ。」


ルーベン:「うん。またね」


アルル:「はいっ。それでは!お邪魔しました!美味しかったですっ。」


アーモンド:「ありがとうございました〜!またのお越しをお待ちしておりますっ。」


0:場面転換

0:ブルーストリート ヘルデン通り


セノ:(N)場所は喫茶コクリコから歩くこと20分。ここはブルーストリートの外れに位置するヘルデン通り。


アルル:「えっと…。よし。ここか。…ここか?」


セノ:(N)アルル・クロフォードの前に聳え立つ雑居ビル。それは所々に空いた大穴に木の板を張り付け修復してあり、ボロボロの看板が引っさげてある。ここがバグテリア名物、考察屋の根城なのだ。


0:恐る恐る入る


アルル:「あ、あのー。お邪魔しますー。すみませーん。リットンさんはいらっしゃいますかー。」


セノ:(N)その声に返答は無く、虚しくビルの中でその声が反響するだけだった


アルル:「…んん。誰も居ないのかな。今日はおやすみ…?」


0:アルルは地図を開いた


アルル:「うーーん。場所はここであってるはずだし…」


セノ:(N)すると、2階からドアの開く音が聞こえ、話し声も聞こえ始める。


0:誰かが電話で話しながら階段を降りてくる


リットン:「だーかーらっ。一銭も無いなら頼ってくるなっ。何度も言ってるだろ、金の無いやつの依頼は受けないぞ私は!」


セノ:(N)茶髪。黒いスウェットにゴーグルが目立つ女性。バグテリアで守銭奴と呼ばれる理由がよく分かるその文句の一つ一つを惜しげも無く吐き出す


リットン:「じゃあな!二度とかけてくるなよ1文無し!」


セノ:(N)彼女こそが。


リットン:「ったく。これから見込み客が来るって時に…。あ、居る。」


セノ:(N)バグテリアの耳。


リットン:「やあ。遅かったね。」


セノ:(N)考察屋リットンその人である


アルル:「え…?わ、私が来るって分かってたんですか?アーモンドさんから聞いて…?」


リットン:「いやいやいや、私は考察屋だぞ。バグテリア内外で起こった全ての情報を精査して客になりそうな奴は目星つけてるのサ」


アルル:「え、えぇ〜〜…凄いというか…こわ…」


リットン:「さてもさても。これまた、珍客。」


アルル:「…?」


リットン:「改めて。金さえ払えば地獄の底まで一緒に悩もう、考察屋リットンへようこそ。特務国際監察課の新入りちゃん。」


アルル:「噂通り、本当に情報通なんですね…。中央の情報も握ってるとは思いませんでした。お察しの通り、先月より特務国際監察課に配属されました、アルル・クロフォードです。」


リットン:「はぁい、よろぴく。私は考察屋リットン。リットン・アンクスだ。」


0:リットンは椅子に座ったまま話し続ける


リットン:「それで。何の用だい?」


アルル:「…。一昨日。16歳の少女が違法薬物の売買をしているのを目撃しました。」


リットン:「へえへえ、そいで?」


アルル:「…。」


リットン:「あ。今、「え?そんだけ?」って思ったね?そういう顔だ。でもね、残念だけど、この街じゃあそれは普通の事なんだ。君たちで言う…マッチ売りの少女のような、そんな代表的な物売りなんだよ。」


アルル:「…みたいですね。ここに来てからそんな光景ばかり見てきました。」


0:アルルは写真を見せた


アルル:「ですが。マッチと薬物じゃあ、そもそもの入手経路が違いますよね。僅か16歳の少女が、薬物を仕入れるルートをどうやって確保しているのか。そういう「当たり前」から、まずは知るべきだと思いました。」


リットン:「なんで?」


アルル:「…なんで?」


リットン:「知って何になるのさ。君たち監察課は、ドイツ政府と、バグテリアの国家情勢を監視する為の組織だろ?どうしてそんな事に首を突っ込もうと思うのさ。あっぶないよ〜。私ならやだね。面倒そうだ」


アルル:「なんで…ですか」


0:アルルは真剣に悩んだ


アルル:「薬物は危険だから、ですかね?」


リットン:「なーーにをそんな当たり前のことを」


アルル:「はい。当たり前なんです。でも、その当たり前を知らないから、こんな危ない橋を渡ってる。こんなに若い子が、です」


リットン:「…」


アルル:「それをに「なんで」と言われちゃったら、ちょっと困ります」


リットン:「ぷっ。はは!」


アルル:「笑いところじゃないです」


リットン:「いや、笑いどころだよ、君ぃ。結構バカだろ?いいなぁー、そういうの。嫌いだァー。」


アルル:「…」


リットン:「ああ、ごめんね。からかってる訳じゃないんだ。いやまじで。」


0:リットンは椅子をくるくると回転させる


リットン:「ただほら。紛争地域に工場を作っても、生産が上手くいかないように、先進国に凄腕の兵士が居たって暇なように。他所の常識を持ち込むのは、非常に困難なことだ。」


アルル:「分かってます。私一人じゃあ、何も出来ないなんて、わかってるんです。だからここに来たんですよ」


リットン:「うぅん。懸命だ。いくら出せる?」


アルル:(M)来た…っ。


リットン:「ブルーストリートから来たってことは、私のことはアーモンド辺りから聞いたんだろう?勿論、私が何より金のやり取りを大切にしているのは分かってるよな」


アルル:「…はい。」


リットン:「よし。そんじゃあ、いくら出せるの?」


アルル:「体で」


リットン:「…ん?」


アルル:「体でお願いします!!」


リットン:「体でお願いするの!?」


アルル:「はい!体でお願いします!!」


リットン:「お金は!?」


アルル:「あれば体は売りません!」


リットン:「どひゃーーっ。」


0:撃沈


リットン:「まさか…そんな馬鹿な…時は90年代だぞ…。こんなご時世に…こんなバカが…そんな馬鹿な…っつって…」


アルル:「…」


リットン:「しかもめちゃくちゃ真っ直ぐ見つめてくる〜。困る〜。そういうのいちばん困る〜。」


0:リットンは座った


リットン:「帰ってくれ。金が無いなら客じゃない」


アルル:「タイプじゃなかったですか!?」


リットン:「タイプとかの話ではないんだけどね!?」


アルル:「…お願いします…っ。なんの実績も無い監察課じゃあ、予算も十分に降りない状況なんです。必ず、その情報を元に、実績を立てます。そうしたら、予算だって融通が効くと思うんです…!」


リットン:「つまり、ツケって事かい?」


アルル:「…はい。必ず返します…っ。なので、お願いしますっ…。」


リットン:「…はぁ…。見知らぬ少女によく頭下げれるなぁ。」


0:リットンは手を出した


リットン:「ん。」


アルル:「え…?」


リットン:「12ドル。初回サービス99%引きだぞ。」


アルル:「……」


リットン:「なんだよ、気の変わらない内にさっさとしろ」


アルル:「いや、さすがに悪いと言うか…」


リットン:「なんなんだよ!!カッコつけたんだから汲めよ!!野暮だなぁきみ!」


アルル:「あ、確かに。えっと、それじゃあ、その。お言葉に甘えて…ありがとうございます…!」


リットン:「まったく。今回だけだぞ」


0:リットンは12ドルを乱暴に受け取った


アルル:(M)今月のパフェ代が…。いや、我慢だ…!我慢しろ私…!必要経費だ…!


リットン:「じゃあ、ここからが考察屋の仕事だ。一緒に考えよう。」


アルル:「お願いします…っ。」


リットン:「まず、薬物売買についてだけどね」


アルル:「あ、はい。」


リットン:「目撃したのが確か、バグテリアの…。南エリアだっけ?」


アルル:「そうですね、あの、ゾウの像がある、結構開けてる場所の、あれです。」


リットン:「ほほぉ〜。これまた堂々と。なら、個人や家族ぐるみのルートじゃあないな。バグテリアにも一応、それぞれの島ってもんがある」


アルル:「島…って言うと。縄張りのようなものですか」


リットン:「そ。どれだけ地域に愛されるコカイン屋さんだって、そんな大通りで商売してちゃあ、個人だと30分で潰されちゃうね。だから、しっかりとした組織が裏にいる、そう踏むよ」


アルル:「と言うと…やはりバラエティですか…!」


リットン:「いやあ、直接的な関与はしてないかもねえ。彼らだって結構忙しそうだし。小遣い稼ぎに少女は使わない。で、あれば。出てくる容疑者は。南エリアの「ヘッド」だ。」


アルル:「……ヘッド?」


リットン:「まあ、そりゃ知らないか。ヘッドってのはね。バグテリアの東西南北、計4エリアを代表する、所謂「半グレ組織」の事を指すんだ。と言っても、外の半グレと比べていいほど可愛くもないけどね。」


アルル:「東西南北だと、4つの半グレグループが台頭してるって事ですか。あ、それでナワバリ…」


リットン:「そゆこと。で、ヘッドの彼らはそれぞれ、そのエリアにて一番売上を作れたチームの勝ち、という、まあちょっとしたシノギゲームをしてるんだなあ。」


アルル:「シノギ…。上納金って事ですよね。じゃあやっぱりバラエティの関与が…!」


リットン:「関与も何も、その上納金を徴収してるのが、バラエティだ。これはまあ、バグテリアの一般常識だから。覚えておくといいよ。」


アルル:「…。つまり、南エリアの「ヘッド」と呼ばれるチームが、上納金回収の為、薬物売買を強いていると…?」


リットン:「その線、濃厚〜。というか、ほぼ確定。無秩序にだって、それ相応の秩序があるって話だ。最後に言えるのは、君が見たコカイン売りの少女の裏には、南エリアのヘッドが関与してる。関わらない方が身のため。以上だ」


アルル:「…ありがとうございます…!」


リットン:「まあ、そんな聞き入れ良いわけないだろうね」


アルル:「はいっ。まずは南エリアのヘッドさんとやらに会ってきます!」


リットン:「あーストップストップ。今「バンカー」には接触出来ないと思っていた方がいい」


アルル:「バンカー…?」


リットン:「南エリアのヘッドチームの名前だよ。」


アルル:(M)…!どこかで聞いたと思ったら。なるほど、カーズ・ジョーンはここのヘッドだったのか…!


リットン:「それぞれがチームだから、みんなそうやって名前決めてんだって。可愛いね」


アルル:「確かに。可愛い。ってのはどうでもよくて。接触できないというのは何故ですか?しない方がいい、とかなら分かりますけど…」


リットン:「バンカーの本拠地は、高い壁で囲われてるんだ。君も見た事あるだろ。ショーケースと呼ばれる壁だ。」


アルル:「え、あの壁、それだったんですか」


リットン:「そーだよ。接触できないだろ?入る為には、これまた金を取られる。通行料、だね」


アルル:「…」


リットン:「強行突破、なんて馬鹿なことは言わないだろう。いくら半グレと言えど、このバグテリアでヘッドを名乗るほどの。れっきとした怪物たちだ。」


アルル:「ちなみに…通行料…おいくらで…?」


リットン:「32万ドルだ。」


アルル:「高すぎです奥様!」


リットン:「ね。12ドル渋るくらいだ。手も届かない。そこで、これまた都合のいいタイミングで、面白い催しがあるんだ。そのイベントこそ。「デラやべーグランプリ」っ。」


0:リットンはポスターを渡した


アルル:「…でらやべー…?」


リットン:「まあ、ネーミングセンスは当然終わってるんだけども。このイベントはね、バグテリアから腕自慢が集まる、超実力主義トーナメントだ。」


アルル:「マジであるんですね…こういうの…」


0:アルルはポスターを見た


アルル:「…リットンさん。」


リットン:「はいな」


アルル:「優勝賞金…これ…」


リットン:「うん。」


アルル:「私の目が悪くなったとかではなく…?」


リットン:「うん。間違いなく。100万ドルだ。」


アルル:「ほ、ほげぇ〜〜〜っ!」


セノ:(M)この一連の流れこそが、いずれバグテリアの混沌に、拍車をかけるきっかけを作った発端になる。この街の表面張力を破壊する激動。その台風の目は、今ここにある


0:場面転換

0:バグテリア 北エリア外壁


ガロ:「……やっと着いたか。まさか途中から歩きになるとはなあ。」


セノ:(M)そしてここにも。また一人激動の若人が


ガロ:「ここが。バグテリア法外特区。」


0:街を一望した


ガロ:「いいな。皆にも、見せてやりたかったな。」


0:時間経過

0:場面転換

0:特務国際監察課

0:モーテル2階


マオ:「…でらやべー…」


アルル:「ですです!これさえ優勝すれば!一攫千金っ。ショーケースも抜けて、カーズ・ジョーンに直接接触、引いてはジャッカルさんを救助できます!」


マオ:「…」


アルル:「なんですかその顔!本当です!嘘じゃないです!ほら、ほらほら!これ!見てくださいポスター!」


マオ:「…ホントじゃん。」


アルル:「嘘なんかつきませんよ!一筋の光が見えましたね!」


マオ:「それはいいけど、その…デラやべーグランプリってのに優勝しない事にはそもそも始まらないんでしょ。」


アルル:「はい。そうですけど」


マオ:「優勝出来るの?クロフォード、弱いじゃん」


アルル:「そこは…気合いです」


マオ:「はあ〜〜…アンタのそういう所が嫌いだ…向こう見ずに首ばっかり突っ込んで」


アルル:「ででですので!監察課の皆さんを頼ります!」


マオ:「頼るって…誰を?」


アルル:「それは……シーカーさんとか」


マオ:「クロフォードってさ、シーカーだけちょっと舐めてるよね」


アルル:「舐めてないです!尊敬する先輩です!」


マオ:「あ、そ」


アルル:「とにかく、これでまた一歩前進ですよっ。マオさんっ。」


マオ:「…うん。」


0:マオはアルルの顔を見た


マオ:(M)アルル・クロフォード。こいつの事は、正直嫌いだ。平気で人の触れられたくない部分に介入しては、余計なお世話を焼いてくる。お人好しを超えてはた迷惑なやつ


アルル:「…?マオさん?」


マオ:(M)…でも。私達のために頑張ってくれてるのは、事実だ。


アルル:「な、なんですか、そんなにマジマジ見て…」


マオ:「…ありがと。」


アルル:「…え?」


マオ:「〜〜っ。ありがとう!!!」


アルル:「……ッッ!!?」


バタップ:(M)あいつはマオに嫌われている自覚があるらしい。だから後々、あいつはこの時の事をこう語ってやがる。


アルル:(思考)なんかやっちゃった…!?!?


バタップ:(M)逆に怖かったと


アルル:「…はっ!」


マオ:「…あ?」


バタップ:(M)なぜなら、思い当たる節があったから


アルル:「すみませんッ。マオさんッ。」


0:綺麗な土下座


マオ:「は?なに?」


アルル:「すみませんすみませんすみません。手がかりを探しに行くと言いながら私はパフェを食べました」


マオ:「…?なに?どういう事?デラやべーなんとかってのは嘘ってこと?」


アルル:「いえ。その情報を手に入れる前にパフェを食べました。反省してますすみませんすみません。お腹が減ってつい。出来心でした本当に本当に」


マオ:「…」


0:マオは呆れたように見ている


アルル:「いけないことだってわかってたんですけど。優先するべきこともありますし。なのですみません私の左脳が敗北しましたすみませんすみません」(早口)


マオ:「クロフォード」


アルル:「はいッッ!すみませんッ!」


マオ:「美味しかった?」


アルル:「( ゜д゜)…。あ、はい。美味しかったです。」


マオ:「じゃあ今度。そこ連れてけ。」


アルル:「( ゜Д゜)」


マオ:「何その顔。嫌なの」


アルル:「いえっ。いえいえっ。全然っ。てっきりその、怒られるものかと…」


マオ:「なんで怒るのさ、人間なんだからお腹くらい減るでしょ。」


アルル:「…あ。そ、そうです、よね。そりゃそうだ」


マオ:「それはそれで置いといて、まずはそのデラやべーなんとかで優勝する」


アルル:「はいっ。」


マオ:「それでそのままショーケース突破して、バンカーの本拠地に乗り込む」


アルル:「はいっ。」


マオ:「兄さん連れ戻して、3人でパフェ食べに行く。」


アルル:「はいっっ。」


マオ:「約束」


アルル:「はい、約束です」


マオ:「破ったら殺すから」


アルル:「勿論です。私は約束は破りませんよ。」


マオ:「私は破るけどね」


アルル:「なんでぇ!そんな理不尽な話がありますかぁ!」


0:場面転換

0:二人の会話がダダ漏れの1階


シーカー:「…。うるせぇなぁ〜。昼寝もできやしねえ。」


バイオレット:「寝るな」


シーカー:「怒られた。それもこらもあのクソガキどもが随分、仲良くなったせいだ。」


バイオレット:「…アルル・クロフォードは損な性分だな。本当に」


シーカー:「あぁ、そりゃそうだが。なにその含みのある言い方」


バイオレット:「別に。お前には関係ない。死ね」


シーカー:「はァァァ!?お前から話振ってきたんだろうが!!」


バイオレット:「独り言だ。自意識過剰」


シーカー:「はいプッチ〜ン。酒買ってくる。っつーかバタップはどこ行ったんだよ!!あぁ!?くそ!全部にムカつく!」


バイオレット:「…」


0:同時刻

0:場面転換 アメリカ

0:中央政府本庁。


セノ:「あー。もしもし?ああ、うん。僕だよ。久しぶりだね、バタップ。元気してるかい」


バタップ:『ああ。声も聞きたくなかったが。今度は何用だよ?』


セノ:「いやあー。リベールに行った僕の同僚から面白い話を聞いてね、フランスで面白い事が起こっている最中らしい。」


バタップ:『ギルド関連か』


セノ:「うん。中央と最近仲の悪いギルドさ。今回は中央と揉めたって言うよりも内輪揉めみたいだけどね」


バタップ:『それがなんだよ』


セノ:「その台風の目が、バグテリアに潜入しているかもしれない。」


バタップ:『……。物好きな事で。』


セノ:「僕も今本庁でイザコザの最中なんだ。悔しいながら全ての鑑賞には参加出来ないけれど、一度あっておきたい。」


バタップ:『さいですか。って事はまたバグテリアに来んのかよ』


セノ:「うん。そっちに行くのも久しいからね。噂のアルル・クロフォードちゃんにも会っておきたい」


バタップ:『…。それで、なんでわざわざ俺に連絡して来たんだって。来るなら勝手に来りゃあいいだろうが』


セノ:「いやねえ、それがまた…っとっと。ごめん、ちょっと急用だ。あくまで今のはリットンの考察らしいから確定じゃないけど、彼女の考察は歴史書よりも信頼できるからね。詳しくはまたバグテリアに着いた後で話すよ。」


バタップ:『そうか。二度とかけてくんな』


セノ:「そう言うなよ。なんせ今リベールを騒がせる台風の目は。君と、君の弟に縁のある人物なんだから。君も会っておきたいだろ」


バタップ:『…!まさか…!』


セノ:「ああ。ノーザンブリア絡みだね」


バタップ:『…。そうか。そうか。分かった。また連絡しろ。しなかったら殺す』


セノ:「ははは!兄弟揃って物騒〜。あぁそれと、僕がバグテリア入りしたらきっとバニーも暴れ回るだろうから、暫くは引きこもってた方がいいよ。まだ、会いたくないんだろ?」


バタップ:『黙れ。そろそろ切るぞ。お前の声聞いて大動脈爆発するくらい気分悪ぃんだ。』


セノ:「はいはい、それじゃあまたね。バタップ」


バタップ:『ああ。じゃあな、クソ野郎。』


0:通信終了


セノ:「…。ふぅ〜。ああ、ああ。」


0:セノスキップ


セノ:「素敵だ。素敵だ〜。世の中にはまだこんなに面白い事が溢れている。体ひとつ、人生ひとつじゃまるで足りない。足りないからこそ良い!」


0:セノステップ


セノ:「君たちの様に今を生きる人間が、今日の晩飯をチキンにするかビーフにするか迷うように。夜中目が覚めて映画でも見ながらオールをするか、二度寝を決め込むか選ぶように。そうして皆が取捨選択をするように。僕も、何を見て、何を楽しむか選べる」


0:セノジャンプ


セノ:「ああ、本当に」


0:\(^o^)/


セノ:「生きてるって!素晴らしい!」


0:翌日

0:場面転換

0:バグテリア 西エリア


ルーベン:「…ああ。今日はお休みを貰ったよ。ブルーストリートは荒れそうだったからね」


0:誰かと話している


ルーベン:「…アイツならこういうのに出てきてもおかしくない。し、今アイツが何してるかも知らないし。…え?嫌だよ、会いたくない。いや、会いたいよ。会って今すぐ殺したい。だからこそ、今日行くのは辞めた。」


0:ルーベンは空を見た


ルーベン:「今外郭がいかくに会うのは。約束が違うからさ。」


0:場面転換

0:喫茶コクリコ。


シーカー:「だーーかーーらぁ。」


アーモンド:(M)あ〜〜飛沫。


シーカー:「俺は言ったんだぁ!」


アーモンド:(M)今日ルーベンくん休みなんだよなあ。早く帰ってくれないかなあ。


シーカー:「無駄だから辞めとけってよ。無駄無駄、この街で何したって無駄なんだよ。なあ、そう思うだろ?アーモンドさん」


アーモンド:「あはは、そうかもしれないですねえ。」


シーカー:「ああ、悲しいよ俺は。なんでこんな人生なんだ。なんでこんな所に居るんだ。終わってる。」


0:シーカーは酒を飲んだ


シーカー:「かぁ〜」


アーモンド:「大変なのは分かりますけど、お昼からお酒ばかり飲んでいては、身体に支障をきたしますよ。シーカーさん。」


シーカー:「飲まないでどうしろと…!?上司はウザい、執行官はもっとウザイ、新人はもっっっっとウザい、こんな環境で今日を生きれるのは…そう」


0:酒を飲み干した


シーカー:「この一杯だけが俺を救ってくれるのからだっ。」


0:強くグラスをテーブルに叩き付けた。


アーモンド:「____」


0:スローモーション


シーカー:「____」


0:宙を舞う一滴の雫が、床に落ちた。


アーモンド:「…」


シーカー:「…あ。」


アーモンド:「シーカーさん。」


0:アーモンドはシーカーの手を掴んだ


シーカー:「あ、あの。いや、えっと。」


アーモンド:「飲酒は、他人に迷惑をかけない範疇で楽しみましょうよ…。じゃなきゃあ、ほら。ほら。ほらほら。落ちちゃったじゃないですか。貴方の口に入ったともしれない酒が」


0:腕を掴む


シーカー:「いやいやいや、たった一雫だろ…!?いくら何でも潔癖症がすぎるってーーー」


アーモンド:「んん?」


シーカー:「ギャーーーッ!ギャギャッ!折れちゃう!そのキャップに!心の方が先に!」


アーモンド:「そうですね…たった一人の命です…」


シーカー:「ごめなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


アーモンド:「以後気を付けますか?」


シーカー:「以後気をつけます!」


アーモンド:「もうっ。次から気を付けてくださいね(*^^*)」


シーカー:「…えぇ…。」


アーモンド:「でも本当、こんなに昼間から飲んでていいんですか?中央政府の人が」


シーカー:「うっわ…。そういうこと言うんだ…いきなり…なんか…酔い冷めてきた…。」


0:アーモンドは床を拭いている


シーカー:「…ああ…昼間っから酒飲んで…年下の女の子に怒られて…どうせ何やったって駄目なんだ俺は…。はは、そうだよー。駄目ですよー。産業廃棄物にもなれない非生産性の象徴のような男ですわ。」


0:アーモンドは床を拭いている


シーカー:「ほらな…。俺よりも床の方が大事らしい…。床以下の人間なんていねえよ…はは…」


0:扉が開いた


アルル:「…。」


アーモンド:「いらっしゃいませ〜っ。あ、アルルさん!」


シーカー:「げっ。新人…!」


アルル:「…。」


シーカー:「いや、いやいやいや。サボってないんだ。心が。そう、心がメンテナンスを必要としてた…。って、なんだその傷」


アーモンド:「わわ、本当だ。誰にそんなズタボロにされちゃったんですか」


アルル:「うわぁぁぁんっ。」


シーカー:「Σ(゜д゜;)」


アルル:「びええええええええッッ」


シーカー:(M)うっっっわ…。ガチ泣きやんけ…面ッ倒くさ…ッ。


アーモンド:「どうしたんですかアルルさん!泣かないでください!床に涙が落ちてます!やめてください!」


シーカー:(M)うっっっわ…。心無…ッ。


アーモンド:「とりあえず座って、泣くのも叫ぶのもやめてください、飛沫が、ね。ほら。座ってください」


アルル:「ぐす。あい。」


シーカー:(M)座るんかい


アーモンド:「取り敢えず、何にします?」


シーカー:(M)食わせるんかい


アルル:「チョコレートパフェで。」


シーカー:(M)食べるんかい。


0:時間経過


アルル:「ーーふう。ご馳走様でしたっ。美味しかったです!」


シーカー:(M)機嫌治るんかい。


アーモンド:「いえいえ、お粗末様でした。綺麗に食べてくれてありがとうございます。」


アルル:「そりゃもう、ここのパフェ絶品ですから、少したりとも残しませんっ。」


シーカー:「あーあーあー、ツマミを3分の1残す俺への当てつけだ…」


アルル:「甘いもの食べたら元気出ましたっ。行きましょう、シーカーさんっ。」


シーカー:「え…まじで行くのかよ…まじで…?」


アーモンド:「ああ、そうですね。私も準備しないとっ。」


アルル:「えっ、アーモンドさんも来るんですか、デラやべーグランプリ!」


セノ:(M)ここから始まる。もうひとつの激動。


アーモンド:「はい、出店でもしようかと思ってまして。」


アルル:「もしや会場でもパフェ食べれます!?」


アーモンド:「はは、アルルさんの為に用意しますね」


アルル:「ありがとうございますっ!」


セノ:(M)街を越え、山を超え、国境を越え。海を超え、今日、ヘッドの均衡は完全崩壊する日になる。


シーカー:「さっきまで泣きじゃくってたのはどこ行ったんだっておい」


アルル:「さあっ。まずは監察課に帰りましょー!」


シーカー:「おい、離せ…!」


セノ:(M)人と人とが織り成す激動に、海ですら。太平洋ですら。薬物を摂取した時の様に高揚する。バグテリアはこの今日起こる事件を


アルル:「ご馳走様です、これお代です!」


シーカー:「離せ!」


アーモンド:「はい、丁度。ありがとうございましたっ。またのお越しをお待ちしておりますっ。」


アルル:「ご馳走様でした〜っ。」


シーカー:「離せ!!!」


セノ:(M)オーシャンズ・ハイと。そう名付けた。

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