表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能力者達の夜明け  作者: ゆーろ
監視者達の午後
24/28

監視者達の午後 起×1 「配属」

監視者達の午後 起×1

0:『配属』



0:登場人物


アルル:アルル・クロフォード。女。特務国際監察課所属。3等監察官


シーカー:シーカー・グレイスマン。男。特務国際監察課所属。準一等監察官


バイオレット:バイオレット・ブランシュ。女。特務国際監察課所属。情報局管理官


バタップ:バタップ・ドレッドパーカー。男。特務国際監察課所属。執行官。異常体。ステージ5


カーズ:カーズ・ジョーン。男。異常体。南エリアヘッド「バンカー」の副リーダー。※「男」を兼役


ジャッカル:ジャッカル・ダウンポッド。男。南エリアヘッド「バンカー」傘下構成員。


マオ:マオ・ダウンポッド。女。ジャッカルの妹。※「女」を兼役



0:本編



カーズ:(M)1991年。11月28日。


アルル:「おお…」


カーズ:(M)ロシア最西端。


アルル:「おおお…!」


カーズ:(M)なんでもそこは、憲法の一切が通用せず、大陸地図からも消された、世界から見捨てられた街。


アルル:「ここが、バグテリア法外特区…っ。」


カーズ:(M)異常体と呼ばれる超常の存在が跋扈するそこは、法の下では生きられない彼らの為のディストピア


アルル:「私の、新しい職場…っ。」


カーズ:(M)世界中で最も。あの世に近い街である。


0:場面転換

0:バグテリア

0:ブルストリート「特務国際監察課」バグテリア支部所


シーカー:「…あぁ〜…くそ…頭いてぇ…」


0:シーカーはケツをかき酒を飲んでいる


バイオレット:「…」


0:バイオレットは黙って書類に目を通している


バタップ:「…ほぉ〜。いい足してんな、バックラック。いい馬だ。次ぁこいつに賭けるかね」


0:バタップは競馬中継を見てほくそ笑んでいる

0:支部所外


アルル:「…ここ、かな。バグテリア支部所…。うん、間違いない。ここだ」


0:アルルは緊張している


アルル:「すー、はー。大丈夫。大丈夫大丈夫。きっと快く迎え入れてくれる…っ。」


0:アルルは扉を開けた


アルル:「し、しし失礼します!!」


シーカー:「…あぁ?」


バタップ:「…」


バイオレット:「…」


アルル:「あ、えっと。本日より、中央政府本庁から、ここ。特務国際監察課へ配属になりました、アルル・クロフォードと言いますっ。ふつつか者ですが、何卒よろしくお願いしますっ!」


シーカー:「…ひっく。なんだぁ。誰だこいつ」


バイオレット:「今名乗ったろう。」


バタップ:「…お。差した」


0:バタップは興味無さげに競馬中継を見続けている


アルル:(M)あ、あれ〜。めちゃくちゃに感じ悪いぞ…っ。私の挨拶に不備があったのかな…。何回も練習したのに…っ。いや、そんな事ない…っ。きっと警戒してるだけだ!


シーカー:「おい、てめぇ。」


アルル:「はいっ。」


シーカー:「どこの誰だか知らねぇが。ここはお前みてぇなクソガキが来る場所じゃねえよ。俺らァオマワリだぞ。分かってんのか?しょっぴくぞコラ」


アルル:「え、ええ…いや、ですから…」


シーカー:「第一ィ、なんだその格好は。中央の真似事か?なんなんだよお前は。ああ??」


アルル:「え、えっと…」


シーカー:「しっかり喋りやがれてめぇ…っ。」


アルル:(M)ええ〜っ。めちゃくちゃ絡んでくる…!しかも、酒臭い…!なんだ、業務中じゃないのか…!?っていうか…


バイオレット:「…」


バタップ:「お。いいぞいいぞ、そのまま逃げ切れ〜。」


アルル:(M)なんで誰も助けてくれないんだ〜〜??無視…??この状況、無視…??あそこの黒髪の人はずっと競馬中継見てるし…あれ、私入る場所間違えた…?中央政府バグテリア支部所だよな?どこかのギャングのアジトに…


シーカー:「でぇ。俺ら中央政府の端くれになんの用なんだよ。コラ。」


アルル:(M)あってるぅ〜。


シーカー:「冷やかしにしたって舐め過ぎだろうが。どっかのヘッドから嫌がらせしろって命令でもされてんのか??」


アルル:「ヘッド…?」


バイオレット:「…。お前が」


0:バイオレットは書類を片付けるとアルルに近づいた


バイオレット:「今日から所属のアルル・クロフォードだな。」


アルル:「あ、はい、そうです。」


バイオレット:「身分証を出せ。常識だろう。」


アルル:「あ、すみません…っ。失礼しました、えっと。えっと」


バイオレット:「早くしろ」


シーカー:「なんだぁ?知ってんのかよバイオレットてめぇ〜」


バイオレット:「黙れ酒乱。」


シーカー:「あぁぁあ、あぁああっ。そういうこと言っちゃう?はぁい傷つきましたぁ〜。エリートさんにそういうこと言われるってのは、傷つくねえ〜」


0:バイオレットは舌打ちをした


バイオレット:「で。さっさと身分証を出せ。」


アルル:「は、はいっ。すみません、こちらです…っ。」


0:アルルは身分証をさしだした


バイオレット:「…。確認した」


0:バイオレットは乱暴に身分証を返した


バイオレット:「お前の部屋はモーテルの2階だ。着替えは自分で調達しろ。以上」


アルル:「は、はい…」


バイオレット:「…」


0:バイオレットはその足でデスクへ戻った


アルル:「…え。あの…」


バイオレット:「…」


アルル:「すみません…」


バイオレット:「なんだ」


アルル:「え、えっと、それだけ、ですか?」


バイオレット:「それだけ。とは?」


アルル:「ああ、いえ…もっとこう…何時始業で、ミーティングがあってぇ…とかぁ…」


バイオレット:「無い。仕事は自分で探せ。」


アルル:「えぇぇ〜…」


シーカー:「なぁんだお前、新人だったのか。そうならそうとさっさと言えよ」


アルル:(M)言ったんだけどな…相当酔ってるなこの人…


シーカー:「仕事がなくて暇だろ。な?」


アルル:「ま、まあ…」


シーカー:「じゃあ俺の酒を買ってこい。」


アルル:「えぇ…」


シーカー:「なんだ?不満か?新人」


アルル:「…わ、かりました…。あの」


シーカー:「なんだ」


アルル:「改めまして、私はアルル・クロフォード3等監察官です。」


シーカー:「そうか」


アルル:「その、えっと、名前を聞いても…?」


シーカー:「断る」


アルル:(M)ええぇぇ…


シーカー:「俺が誰か知りたきゃあ、酒を出せ」


アルル:(M)えぇぇぇぇぇ…


シーカー:「分かったら。酒を出せ。」


0:場面転換

0:バグテリア法外特区 ブルーストリート


アルル:(M)こうして配属から僅か5分。私は先輩の酒買いに駆り出された。


0:買い物袋を下げ歩く


アルル:「…はぁ…」


0:とぼとぼ


アルル:「…なんか…」


0:とぼとぼ


アルル:「思ってたのと違う!!!」


0:アルルは歩く足を止めた


カーズ:(M)説明しよう!中央政府とは!異常体と呼ばれる、いわゆる超能力者達の圧倒的暴力から人類を守る為の、大陸唯一、絶対核心の法的中立機関である!


アルル:「そもそもビール一本が45ドルってなんだ…!?高過ぎるでしょーが…!」


カーズ:(M)彼らは国家の垣根を越えた絶対政権の下、公務を全うする中央政府職員なのだ!彼らに逆らおうものならすぐ様逮捕!警察よりも遥かに強い権力を振りかざしその人生を棒に振ることになる…


アルル:「成分表も書いてないし…!アルコールの年齢制限も無い…!いくらなんでもザルが過ぎる…!あの車も、どの車も、人を轢く勢いで街を走り回ってるし…!」


カーズ:(M)そして、現在地。ロシア最西端に位置する、バグテリア法外特区。ここは唯一、国家からも、そして中央からも法の手が伸びない場所。その理由は至って単純


アルル:「噂には聞いてたけど、バグテリアには本当に法律が存在しないのか…っ。」


カーズ:(M)危険すぎるからであるっ。強い権力下では、より強い反発勢力が産まれるもの。そういう荒くれ、あぶれる者たちが拠り所として集ったスーパーダウンタウン。それが、バグテリア法外特区なのだ!


アルル:「…あ〜…ダメだ。せっかく中央に入ったってのに…何やってんだ、私は…」


カーズ:(M)聞こえましたン!バグテリアに中央政府の職員が今!ここに!いるじゃないっ!という声が。法律の存在しない街に、法律の権化とも言える組織の人間がいる。これは大変、バグテリアにとっても、中央政府にとっても。双方に大きな意味を持つ。法律VS法外なのだからっ。


アルル:「…」


0:アルルは顔を叩いた


アルル:「…よし…っ。」


カーズ:(M)ところがどっこい。


0:場面転換

0:再び特務国際監察課へ


カーズ:(M)折角世直しの機会を与えられたここ。中央政府バグテリア支部所。通称「特務国際監察課」は


アルル:「…」


シーカー:「おぉおぉ、おっせぇよぉ!いつまでかかってんだお使い程度でぇ!」


カーズ:(M)腐っていた。


アルル:「…あの。」


シーカー:「ああ!?」


アルル:「さっきの黒髪の人。競馬中継を見ていた人。制服から見るに執行官。異常体、ですよね。」


カーズ:(M)そして、中央政府が世界最高権力に至ったその理由。


シーカー:「ああ?そうだが?」


カーズ:(M)全世界における異常体の数。観測可能な物に限り、凡そ1億8920万体。その約6割を中央政府が保有。管理している点にある。


アルル:「…あの黒髪の執行官は、どこへ。」


シーカー:「知るかよ。散歩じゃねえの?」


カーズ:(M)中央政府の管轄下に置かれた異常体は、「執行官」と呼ばれ、異常体による犯罪を、異常体の手により抑止、摘発している。


アルル:「…今は業務中ですよね」


カーズ:(M)勿論、中央政府に管理される異常体。即ち執行官も、いつ気が触れ、民間人に危害を加えるかは分からない。その為、執行官には必ず同行、監察を行う人間が着いて回る。


シーカー:「ああそうだよ。業務中だ。見りゃわかんだろ。」


アルル:「そうですか。」


カーズ:(M)それが、今喧嘩勃発一歩手前の彼ら。「監察官」である。


バイオレット:「はあ…喧嘩なら外でやれ。うるさくてかなわん。」


シーカー:「黙ってろやバイオレット。こいつ、反抗的な目だ。先輩に対してその顔つきゃあ一体なんなんだこら」


バイオレット:「業務を怠るだけに飽きずその素行か。報告はするぞ」


シーカー:「あーそうかよ!そうかよそうかよ!勝手にしろや真面目ぶりやがってクソアマァ!お前のせいだぞチビっ。」


アルル:「業務中に飲酒ですか。」


シーカー:「だからなんだよ。なんなんだよ。ああ?もしかしてなに?口答えすんの?なんなん??」


アルル:「異常体を人前に出しては民間人に被害が出る可能性があります」


シーカー:「おぉいここはバグテリアだぞぉ?ここの連中がそんなヤワなもんかよ。どいつもこいつも異常体だ。」


アルル:「でも。異常性を持っていないただの民間人も居るはずです」


シーカー:「そいつらだってこの法外の地で生きていくくらいの地力はあんだろぉ。知ったことか。ああでもバタップなら対抗できる野郎はそうはいねぇなぁ?」


アルル:「だったら尚更、何故放置するんですか。私たち中央政府職員は、異常体の危険から民間人を保護する為に同行、監察をする義務があるはずです。」


シーカー:「知っっってるに決まってんだろ。舐めてんのか。俺ァ先輩だぞぅ」


アルル:「…っ。分かってるならどうして飲酒なんかしてるんですか。今すぐ後を追って勝手な行動は罰則するべきです。」


シーカー:「だ、か、らぁ。ここは法律の外にある街なんだわあ。なぁんでここに居るバグテリア住民が法律守ってねえのに、俺らも中央が定めた規定を守らにゃならん」


アルル:「…。業務放棄、ですか。」


シーカー:「はぁぁぁ?聞こえねえよ。もっっと大きな声で言いやがれピーナッツ野郎がぁ!」


0:アルルはシーカーのネクタイを引っ張った


アルル:「業務放棄。ですか。」


シーカー:「……」


バイオレット:「…ほお。」


シーカー:「てめぇ。今のうちに離しとけ。」


アルル:「断ります。これに先輩後輩は関係ない筈です。」


シーカー:「最後だ新人。この、手を、離せ。」


アルル:「断ります。」


シーカー:「……」


バイオレット:「シーカー。」


シーカー:「…なんだよ。」


バイオレット:「まさかとは思うが。私の目の届くところで同僚に手を挙げるほど、頭が悪いわけじゃないだろう。」


シーカー:「…」


バイオレット:「困るんだ。私の目に入ってしまう場所でそういう面倒事を起こされるのは。だから外でやれと言ったんだぞ。減給じゃ済まない。」


シーカー:「…情報局の愚図が。」


バイオレット:「何か言ったか」


シーカー:「いいやあ、なにもぉ。」


0:シーカーはアルルの手を跳ね除けた


アルル:「…。」


シーカー:「てめえ、クソ新人。あんま調子乗んなよ」


アルル:「貴方こそ。本庁の目が届かない場所だからと言って、好き放題しないようお願いします」


シーカー:「…くそが。」


0:シーカーは頭をかきながら2階へ上がった


バイオレット:「…」


アルル:「…は…」


0:アルルは腰を地べたに下ろした


アルル:「はぁ〜〜〜…!怖かった…っ。」


バイオレット:「…」


アルル:「あの、すみません、ありがとうございます…」


バイオレット:「誰がお前の為にと言った。さっき言った通り、私の目の前で面倒事を起こすなというだけだ。」


アルル:「それでもです…っ。ありがとうございます…っ。」


バイオレット:「ふん。」


アルル:(M)良かった、この人はまだ話が通じる…。ちゃんと仕事してるし…


バイオレット:「クロフォード。ガウディさんの子息か。」


アルル:「あ、はい…!父をご存知なんですね…っ。」


バイオレット:「…ガウディさんも、バカ真面目な人だった。なるほど、よく似てる」


アルル:「あ、はは。私なんか、ほんと。父と比べたらまだまだで…」


バイオレット:「よく分かってるじゃないか」


0:バイオレットはアルルに目もくれず話す


バイオレット:「ガウディさんには実績があった。その無理難題、馬鹿真面目を貫くだけの胆力があった。お前は威勢だけ。シーカーに少し脅された程度で腰を抜かす間抜けっぷり。」


アルル:(M)あ、あれ…


バイオレット:「何もかもは遺伝しないものだな。」


アルル:(M)あれれれ…


バイオレット:「お前の仕事は同僚に喧嘩を売ることでも買うことでもない。愚図なら愚図らしく働け。面倒事を起こすな。私の邪魔をするな。分かったな」


アルル:(M)もしかしてこの人、いちばん怖い…?


バイオレット:「以上。命令を遵守しろ」


アルル:「…」


0:アルルは埃を払い立った


アルル:(M)でも。言ってることは間違いじゃない…っ。私に出来ることを精一杯しないと…っ。


バイオレット:「…。」


アルル:「ありがとうございます…っ。ここがどういう場所か、ちょっと分かったような気がします…っ。」


バイオレット:「…」


アルル:(M)無視…。


0:アルルは顔を振った


アルル:「バタップ…って言ってましたよね、さっきの執行官。探してきます…っ。」


バイオレット:「…」


アルル:「でもあの、その!なにかあったらーーー」


バイオレット:「うるさい。勝手にしろと言ってるだろ。」


アルル:「あ、はい…っ。すみません、失礼します…!」


0:アルルはその場を後にした

0:場面転換

0:モーテル3階


シーカー:「…」


0:シーカーは酒を飲み、タバコを吸っている


シーカー:「……はぁ…」


0:ベッドに項垂れた


シーカー:(M)びびった〜〜…ちょっと酔い冷めたわ…。なんなんアイツ。新人なのに。ちょっとほら。あれじゃん。酒の勢いがあったとはいえさ。先輩の怖さというかさ。この街でやってくっていうのを教えてやろ〜とか、そういうアレじゃん。先輩風吹かねえ〜…。


0:酒缶を投げ捨てた


シーカー:(M)ああいうのが一番苦手なんだ…勘弁してくれよなぁ…


0:場面転換

0:ブルーストリート 賭場


アルル:(M)目撃情報を辿ると…この辺りに居ると思うんだけどな…。


男:「ああ!?なんだぁてめぇ!まじでぶっ飛ばすぞコラ!」


アルル:(M)何だ…喧嘩…?多いな、この街は本当に…!


男:「さっきからピーチクパーチクぅ、んだコラァ!あんこらあんこらあぁーん!?」


アルル:「ちょっと…!喧嘩はやめましょうよ…!」


男:「なんだぁーこのチビっ。すっこんでろっ。俺ァこいつにしてやられたんだ…!」


アルル:「な、なにをですか…!」


男:「イカサマだよ、イ、カ、サ、マァ!」


アルル:(M)イカサマ…?ああそうか、ここ賭場か…。もう、本当に…。違法が過ぎるだろ…!


バタップ:「おいおいおい。俺がいつイカサマしたってんだよ。ああ?」


アルル:「え」


男:「てめぇのカード!明らかに普通のじゃねえな!」


バタップ:「普通のじゃねえさ。仕込みだよ、仕込みぃ」


0:バタップはカードを広げた


男:「こんの、堂々とォ…!」


バタップ:「なんだよ。ここは違法の街だろう?違法の街で違法をして何がわりぃんだ。イカサマだってそうだろうが。お国のルールも守らねえ奴が、たかだかポーカーのルール守られなかったからってキレてんじゃねえよ。」


アルル:(M)逆だった黒髪。赤い目。そして何より


バタップ:「それともなんだァ。天下の中央政府サマに盾つこうってか?」


アルル:(M)執行官の制服…!


男:「こ、こんのやろー。ああ言えばこう言うっ」


アルル:「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!何やってるんですか…!」


バタップ:「ああ?なんだよお前。誰だか知らねえが、茶々入れんじゃねえ。」


アルル:「なんだよって、挨拶したでしょお…!?」


バタップ:「ああ??」


0:バタップはアルルの顔を見た


アルル:「う。近い…」


バタップ:「…いや。お前みたいなガキは知らん」


アルル:「なんでですか!!ガキじゃないですし!つい今朝方挨拶しましたって!」


バタップ:「今朝ァ?ああ、ヤケに外野がうるさかったが。あれがお前さんだったのか」


アルル:(M)本当に興味無いんだなこの人…!


バタップ:「ああ、つまり新人か。なんだなんだ、何しに来たんだよ。お前も賭けポーカーか?話が分かるねえ」


アルル:「いいえ違います!執行官の単独行動に飽き足らず賭博行為まで…!罰則じゃ済みませんよ…!」


バタップ:「はは、そっち系か。罰則じゃ済まねえならどうすんだ?しょっぴくか?どうやって?本庁に報告して誰ぞを派遣するか?それともお前だけで俺を捉えるってか?異常体を、人間がァ??」


アルル:「…っ。そ、そうです…っ。」


バタップ:「ははは!こりゃ傑作、とんだ馬鹿が入って来やがったもんだぁ!まだ居るんだなぁお前みたいな馬鹿が!ははは!」


アルル:「笑わないでください…!こっちは真剣なんですよ…!」


バタップ:「ああそう?俺も真剣だがね。俺は俺の人生を謳歌してる。異常体ってだけでお前らはすぐあーだのこーだの騒ぎ立てやがるが、俺たち異常体だって人間だ。楽しみたい気持ちはある」


アルル:「人間だろうが異常体だろうが、賭けポーカーは禁止です…っ。」


バタップ:「そうかなぁ〜?少なくともこの街の連中はそうじゃねえみてぇだが。俺を取り締まるならコイツらみんな取り締まれよ!なあ!お前ら!今からこのチビが取り締まるってよォ〜!」


アルル:「この…っ。どこまで人を馬鹿にするんですか…っ。」


バタップ:「馬鹿にしてんのはどっちだよ。異常体の単独行動が認められてないだァ?お前ら人間サマはどうなんだよ。」


アルル:「あなた達異常体は人に危害を加える恐れがあるから、私達監察官が同行する規定なんです…!」


バタップ:「俺が、いつ、誰に危害を加えたんだよ?」


アルル:「少なくとも賭けポーカーでイカサマしたなら十分危害ですよ…!」


バタップ:「それはそうだ。お前が正しい」


アルル:「分かったら早く監察課に戻りましょうよ…。お願いします、中央政府がこんな所で内輪揉めしてるのを見られるのだって心象が良くない」


バタップ:「やりたかったら力づくでやるこった」


アルル:「む。いいんですね」


バタップ:「ああ、構わねえよ」


アルル:「わかりました。では…」


0:アルルはバタップの服を引っ張った


アルル:「帰りますよーーーーっ。」


バタップ:「おぉおぉ、踏ん張りが足りねぇな。もっと頑張れ頑張れ。」


0:バタップは座ったままピクリともしない


アルル:「ぐぎぎぎぎぎぎっ!」


バタップ:「あ、姉ちゃん!ビールおかわり!」


女:「はいよ〜」


アルル:「ぐぎぎぎぎぎっ!」


バタップ:「はあ〜。よくやるねぇ。真面目だ」


アルル:「それしか取り柄がないので…!」


バタップ:「諦めろよ。今朝挨拶したってんならシーカーにも絡まれたろ。ここにいるヤツらはみんな腐ってる。いや、腐ったからここに居るんだ」


アルル:「関係ないです…!誰にでも腐る時期はある、でも、腐り続けていい理由なんて存在しないんだ…!」


バタップ:「正論だねえ〜。お前友達少ないだろ」


アルル:「居ますよ友達くらい…!」


バタップ:「そうかそうか。」


アルル:「ぐぎぎぎぎぎっ!」


女:「はい、ビールね。」


バタップ:「おう。」


0:バタップは届いたばかりのビールを飲む


バタップ:「ごくごくごく」


女:「そーれいっき、いっき」


アルル:「ぐぎぎぎぎぎっ!」


バタップ:「ごくごくごく」


女:「いっき、いっき」


アルル:「ぐぎぎぎぎぎっ!」


バタップ:「…ふう。ご馳走様」


女:「いい飲みっぷりっ。」


アルル:「んぐぐぐぐっ。」


バタップ:「まだ諦めねえの?」


アルル:「諦め、ません…!」


バタップ:「なんで?」


アルル:「私は私の正しいと思った事を貫くだけだからです…!」


バタップ:「押し付けじゃねえか」


アルル:「押しつけでもです…!貴方がその制服に袖を通してる間は、私がここで貴方を黙認するのを、私が許さない…!」


バタップ:「…あ、そう。」


アルル:「そうです…!」


バタップ:「…わかったよ。」


0:バタップは立ち上がり、アルルは転んだ


アルル:「ぶごごっ!」


バタップ:「シラケちまった。お前このままじゃ力んで血管切れそうだし。帰ってやるよ」


アルル:「は、はは、案外、優しいんですね」


バタップ:「まあな〜。」


0:バタップは店を出ようとした


バタップ:「あ、店主〜。しょば代と負けた分は、そのチビに付けといてくれ」


女:「はいよ〜」


アルル:「は?」


バタップ:「また来るよ。そんじゃな〜」


女:「毎度〜」


アルル:「ちょっと!ちょっと!?待ってくださいよ!ちょっとぉ!!」


女:「そんじゃあお嬢さん。会計これね」


アルル:「…」


0:アルルは額面を見て固まる


アルル:「あの…これ…ツケでも…?」


0:場面転換

0:特務国際監察課 バグテリア支部所


バイオレット:「…以上で、アルル・クロフォードの着任と、初日の業務経過を報告します。」


0:バイオレットは誰かと通信している


バイオレット:「はい。…ええ、特に問題はありません。はい。少しだけ、はい、少しだけシーカーと揉めはしましたが、性格上の問題、どうも衝突が多い傾向にあるかも知れませんが、業務に支障は出ない程度かと。」


0:バイオレットは報告書を改竄している


バイオレット:「はい。それでは、以上の内容を改めて送付します。はい。はい。お疲れ様です。失礼します。」


0:通信を終わる


バイオレット:「…はぁ〜…」


0:寝起きのシーカーが降りてくる


シーカー:「ふぁ〜。おお…?なんだなんだ、今日の報告ももう終わりかぁ〜?」


バイオレット:「…」


シーカー:「無視ですか。そーですか。そりゃそーですよね。朝っぱらから飲んだくれて後輩に当たり散らして夜まで寝こけた俺なんか無視して当然ですよね…。はあ〜俺はァどこまで行っても…だめだ、ダメダメだァ。」


バイオレット:「…」


シーカー:「見ろよ。この期に及んで無視だぜ。」


0:扉が開く


アルル:「ただいま戻りましたっ。」


バタップ:「晩飯はぁ」


バイオレット:「無い。」


シーカー:「うげ。新人」


アルル:「…。」


シーカー:「…あ〜。その…。なんだ。」


0:シーカーはバツが悪そうに頭をかいている


シーカー:「今朝はあの、あれだ。酒の勢いでだな…」


アルル:「さっきは、すみませんでした…っ。」


0:アルルは頭を下げた


シーカー:「…」


アルル:「先輩に対する態度ではなかったと反省してます…っ。私も、ちょっとその、初日で気合いを入れすぎていたというか…。その、ムキになりました…。すみません。」


シーカー:「…あ〜。ああ、やめてくれ。そういう真っ直ぐな感じを真っ直ぐぶつけて来るのは。真っ直ぐ心が折れる」


アルル:「はい…?」


シーカー:「ああもう。いいよもう、なんでも。クソ、バイオレット、酒はァ」


バイオレット:「…」


シーカー:「はいはい、無視無視。死にマース」


アルル:「…。あの二人は仲が悪いんですか?」


バタップ:「さあな。あいつらの事どころか、互いに互いの事をろくに知らねえさ。バイオレットは情報局出身だから色々調べは着いてんだろうがな。」


アルル:「そうですか…」


バタップ:「さあ〜俺も寝るぞ。晩飯もねえしな。」


アルル:「バイオレットさん」


バイオレット:「…なんだ」


アルル:「その、全然業務らしい業務は出来ませんでしたが…。一応、その。報告書です」


バイオレット:「…」


アルル:「えっと…一応、私に出来ることを、したつもりで…。まだ全然ですけど…明日からもっと頑張るので、その…」


バイオレット:「…。置いておけ。あとで読む」


アルル:「…!はい…っ。よろしくお願いします…っ。」


0:アルルは書類を机の隅に置いた


アルル:「そ、それでは、私も今日は休ませて頂きます…っ。皆さん、お疲れ様でした…!」


0:誰からも返答は無く、アルルはモーテルの階段を上がる


アルル:(M)特務国際監察課。バグテリアのブルーストリートに拠点を構える一軒のモーテル。その2階、202号室が私の部屋。


0:アルルは部屋を開けた


アルル:(M)当然だけど、まだ何も無い。転属して一日目、想像よりもずっと、ずっとずっと、ここは険しい環境だ。…正直、心が折れそうだ。


0:アルルは制服を脱ぎ、ベッドに倒れ込んだ


アルル:「ここでやってくのかぁ…私。」


0:アルルは天井を眺めている


アルル:(M)駄目だ。折れるな。私に出来る事をやるんだ。


0:アルルはジャケットを眺めている


アルル:(M)それが、私があの制服に袖を通している意味なんだから。


0:アルルはそのまま眠りに落ちた



0:場面転換

0:バグテリア -南エリア-



マオ:(M)私の世界は。酷く暗い。


ジャッカル:「おぉいおいおいおいおいおい」


マオ:(M)安いモーテルの一室。床からも壁からも隙間風がよく通る。


ジャッカル:「テメェ〜〜〜がブルーストリートに出稼ぎに出てから何日だ?」


マオ:(M)私の兄は、変わってしまった。


ジャッカル:「マオ。喋れやてめぇ。口着いてんのか?ああ?着いてんな、おい。」


マオ:「…っ…」


ジャッカル:「何日、だぁ〜〜〜〜?」


マオ:「…3日。」


ジャッカル:「そうだなぁ、三日だ。三日だよ。三日ァ!?三日さぁ。三日ねえ。三日三日三日ァ。」


0:ジャッカルは袋を投げ捨てた


ジャッカル:「三日間なーーーにしてたんだァよォ…テメェはよォ!?12ドル!12ドルだ12ドル12ドル12ドル!!」


マオ:「ごめんなさい。」


ジャッカル:「ごめんなさいとかすみませんとか申し訳ないとかお詫び申し上げる開き申しも無いとかそんなチャチな事聞いてる訳じゃあねえんだよなぁ俺はなぁ。」


0:ジャッカルはマオの髪を掴んだ


ジャッカル:「な、ん、で?12ドル?三日で12ドル??なんで???」


マオ:「兄さん。」


ジャッカル:「ああ!?…はいはい。急に声を荒らげるのは良くない。ビビらしちまうからな。なんだよ!?」


マオ:「…また、やってるよね。ドラッグ」


ジャッカル:「…」


マオ:「もう、やめようよ。兄さん、ここ数日ずっとその調子じゃんか」


ジャッカル:「…」


マオ:「私ならもう大丈夫だから、兄さん1人で生きてよ。私が、足引っ張ってるんでしょ」


ジャッカル:「マオ。」


マオ:「…なに」


ジャッカル:「テメェはいつかは俺に指図できる立場になったんだよ。ああ?舐めてんのか」


マオ:「…っ。だって兄さん、目の充血がひどい…!体も掻きむしった跡だらけで、見てられないよ…!」


ジャッカル:「見てんじゃねえよ!!俺は至って普通だっ。」


マオ:「普通じゃないよっ。前までなら、こんなに怒鳴ったりしなかった…!」


ジャッカル:「うるせえうるせえっ。てめぇもか!?お前も俺を否定すんのか、マオ!」


マオ:「違う…っ。私はただ、ドラッグをやめて欲しいだけ…!壊れちゃうよっ。」


ジャッカル:「壊れて、ねえだろうが!!」


0:ジャッカルはマオを殴った


マオ:「っ…!」


ジャッカル:「はぁ…はぁ…っ。いいから、さっさと稼いで来い…!今月分の上納金、耳揃えてキッチリ払える額だ!それまで帰ってくんな…っ。」


マオ:「……。分かったよ。兄さん」


0:マオは立ち上がりモーテルを出た


マオ:(M)兄さんは、変わった。…いや。変わって当然だ。


0:一人歩いている


マオ:(M)始まりは、父さんが借金抱えて蒸発した事。首の回らない私たちを見て母さんは娼婦になった。3年で4回も堕胎した。正直限界なんてとうの昔に超えてたんだと思う。あんなに長かった髪の毛は殆ど抜け落ちて、痩せた身体と酷いクマに、極めつけはドラッグの乱用。そのうち娼婦としても働けなくなって、兄さんや私に当たり散らした。泥の中で息をするように、肺が重く、何かが詰まった様な日常だった。一刻も早くその日常が終わって欲しいと、切に願った。


0:足は止まる


マオ:(M)……でも、終わりは呆気なかったし、私が思い描いたものじゃなかった。兄さんが、母さんを刺し殺した。私が数分外に出ている間に、兄さんは血だらけになってて、母さんだったものはもう、それが誰か分からない程に切り刻まれていた。


マオ:(M)それからの生活の方が地獄だった。盗み、殺し、やれる事はなんでもやった。でも、こんな街でいくら人を殺しても一銭にもならない。この街では人の命は30ドルしかない。なんでかって。皆やってるから


0:マオは麻袋を握りしめた


マオ:(M)最後は。南エリアヘッドのバンカーに泣き付く事になった。寝床は与えられた。ヘッドの下にいる事で、毎晩誰かに襲われる心配もなくなった。けど、上納金も払えず、毎日兄さんはバンカーの人間に頭を下げては殴られる毎日。


マオ:(M)…私達は、何か悪いことをしたのかな。この街に産まれて来たこと自体が、そういう事なのかな。


カーズ:「…。おい、そこどけガキ。邪魔だ」


マオ:「…え?」


カーズ:「突っ立ってんじゃねえよ。」


0:カーズはマオを手で退けた


マオ:「…っ。」


カーズ:「ったく。ジャッカルの野郎。」


0:カーズはそのままモーテルの方へ消えた


マオ:(M)今の…。暗くてよく見えなかったけど、カーズさん…だよね?バンカー副リーダーのカーズさんが、なんでわざわざこんな下町に…


0:マオは未納金の事を思い出す


マオ:「…!そりゃそうだ…っ。くそ、兄さん…っ。」


0:マオはモーテルへ走った

0:場面転換

0:バンカー管轄モーテル


ジャッカル:「…ああ〜…」


0:ジャッカルは頭を掻きながら部屋の隅へ行く


ジャッカル:「あああ〜〜〜ッッ…!くそ…ッ!」


0:乱暴に引き出しを開けた


ジャッカル:「なんなんだよ!どいつもこいつも!!俺が悪いのかよ、俺が、俺が俺が俺が俺が…!」


0:何かの薬を手に取る


カーズ:「おい。ジャッカル」


ジャッカル:「…!」


カーズ:「夜遅くにうるせえよ。ウチの管理してるモーテルで騒いでんじゃねえ」


ジャッカル:「カーズさん…!」


カーズ:「よお。」


ジャッカル:「な、なんでアンタ、ここに居るんだよっ。」


カーズ:「なんでって。未納分だよ、未納分。分かるよな」


ジャッカル:「それでアンタみてぇな大物がわざわざ来たってのか、ああ、そうかそうか、そりゃ丁度いいや、さぁさ、座ってくれ。」


0:ジャッカルは椅子を差し出した


カーズ:「…」


ジャッカル:「茶も出せねえけどよ、いやあ〜、そうだな、まずは、ああそうそう。今月分の…」


カーズ:「ここに座れてっか?」


ジャッカル:「え?」


カーズ:「こんな小汚い椅子に。座れって言ってんのか。お前」


ジャッカル:「あ、いやいや…」


カーズ:「お前さ。」


0:カーズはジャッカルの髪を掴んだ


カーズ:「立場分かってんのか。」


ジャッカル:「あ、ああ…分かってる、分かってるよ。南エリアのヘッドだ、逆らおうなんて気はサラサラない、本当だ…っ。」


カーズ:「じゃあさっさと先月、先々月。未納分全部出せよ。」


ジャッカル:「す、すんません…。」


カーズ:「あ?」


ジャッカル:「すんません。用意できてないです」


カーズ:「…」


0:カーズはジャッカルを地面に押し倒した


ジャッカル:「ぶごっ…!」


カーズ:「…。あ?」


ジャッカル:「いや、だ、だから…」


カーズ:「…」


ジャッカル:「用意できて、ないです…」


0:カーズはジャッカルの頭を地面にうちつけた


ジャッカル:「がぁッ…!」


カーズ:「…」


0:顔をのぞき込む


カーズ:「あ??」


ジャッカル:「用意が…っ。」


0:カーズはジャッカルの腹を殴る


ジャッカル:「ごぶっっ…!」


カーズ:「…」


0:マオが戻ってくる


マオ:「…!や、やめてください…!」


カーズ:「は?ああ、なんだ。誰だ。妹の方か?随分暇そうだなおい」


マオ:「カーズさん、なんで兄さんを殴るんですか…っ。」


カーズ:「払うもん払えてねえからだろうが」


マオ:「そんな、今月分だってまだですよ…!」


カーズ:「はぁ?先月分も、先々月分もまだ払えてねえだろうが。女だからって手ぇ挙げないと思ってんのかおい」


マオ:「え…?」


ジャッカル:「わ、わかった…!分かったから…!もう乱暴な真似はやめてくれ…っ。」


カーズ:「何が分かったんだよ。」


ジャッカル:「先々月分、先月分、今月分、全部揃えて払うからよ…!」


カーズ:「いつまでにだよ。」


ジャッカル:「い、1ヶ月後…」


カーズ:「ッ…!」


0:蹴った


ジャッカル:「ごぼっ…!」


マオ:「兄さん…!」


ジャッカル:「あ、ああ!わかった!一週間後、一週間後までに払う!!」


カーズ:「言ったな?」


0:胸倉を掴んだ


カーズ:「一週間後までって言ったな?」


ジャッカル:「ああ、言った…!言ったよ…っ。だから、妹にだけは手ぇあげんな…っ。」


カーズ:「誰に口きいてんだお前」


ジャッカル:「あ…。み、未納分は。しっかり耳揃えて払います。なんで、妹を殴んのは勘弁してください。」


カーズ:「…男なら自分の言葉に責任持てよ。お兄ちゃん」


ジャッカル:「…っ…」


0:手を離した


カーズ:「…。また来るわ。そんじゃな。」


0:カーズはモーテルを跡にした


ジャッカル:「はあ…はあ…っ。…くそ…」


0:ジャッカルは腹を抑え引き出しに向かい歩く


ジャッカル:「畜生…言っちまった…っ。」


マオ:「兄さんっ。大丈夫…!?」


ジャッカル:「大丈夫なわけねえだろうが…!!ふざっっけんなよ…!こんな、こんな無茶な約束しちまって…!」


マオ:「先々月から払えてないなんて聞いてないよ…っ。」


ジャッカル:「言ってねえからなぁ!言えるかよ…っ。ああ〜くそ、くそくそ…!カーズの野郎…!」


マオ:「…一週間後まで、だよね」


ジャッカル:「あ?」


マオ:「私、頑張るから。」


ジャッカル:「…」


マオ:「分かってる。バグテリアでヘッドに逆らったらもう生きていけない。だからさ、明日までに全部、全部きっちりお金払ってさ、もうそれで終わりにしようよ。」


ジャッカル:「…何言ってんだお前」


マオ:「ヘッドの傘下になんか入らなくても、私と兄さんなら生きていけるよ…っ。絶対に…!」


ジャッカル:「…」


マオ:「だから、お願い。もうドラッグだけはやめて。今後の人生が心配だよ」


ジャッカル:「…さっさと行けよ。」


マオ:「…分かった。」


0:マオはモーテルから出た


ジャッカル:「…っ…くそ…っ。」


0:場面転換

0:翌日

0:ブルーストリート「特務国際監察課」


アルル:(M)拝啓。お父さん。私は今、バグテリアに居ます。ここは噂通り、法律も何も無い、完全なる無法地帯です。一筋縄ではいかない。


シーカー:「ふぁぁ…」


アルル:「おはよーーございます!!」


シーカー:「…」


バタップ:「おーおー、差せ差せ。いけいけ」


バイオレット:「…」


アルル:(M)そして、天下の中央政府の人間も、どうやら一筋縄いかないみたいです(´・_・`)


シーカー:「酒酒。」


0:シーカーは冷蔵庫を開けようとする


アルル:「シーカーさん…!お酒はやめましょう!業務中ですよっ。」


シーカー:「ああ〜もううるせぇなぁ…。くそ、居ずらくてしょうがねえ。」


アルル:「あ!ちょっと、どこ行くんですか!」


シーカー:「内緒だよ。言ったらお前地獄の果てまで着いてくんだろ」


アルル:「そうですけど、待ってくださいよ、シーカーさんっ。」


0:シーカーは監察課を後にした


アルル:「もぉ…っ。」


バタップ:「おぉ〜。マジか。お前が勝つか。なるほどなるほど、先月はボロボロだったが。結構調子によって変わる馬だ。」


アルル:(M)またこの人は競馬見てるし…


バイオレット:「…」


アルル:(M)バイオレットさんは怖いし…。でも!今のわたしにできることは、まず皆からの信頼を勝ち取ること…!私に出来ることを精一杯やっていれば、いずれ皆も心を入れ替えてくれる…!はず…!まずは人にあーだこーだ言う前に自分が!


0:アルルはスーツを着直した


アルル:「パトロール!行ってきます!」


バイオレット:「…」


バタップ:「ふぁ〜。」


アルル:(M)無視。いーーや!めげるな!めげるなめげるな!頑張れ、アルル・クロフォードっ。


0:場面転換

0:ブルーストリート


バイオレット:(M)アルル・クロフォード。監察報告書より。11月29日。ブルーストリートにて


アルル:「こらこらーっ。違法賭博をやめなさい!やめなさいったらやめなさい!」


バイオレット:(M)違法賭場を摘発。しようとしたが、現場の人間にボコボコにされ全治2日の怪我を負う。


0:監察課付近


シーカー:「くそ…。あの新人のせいで酒が飲みにくくなった。バタップにも注意しろよ。不平等だ不平等。」


バイオレット:(M)11月30日。南エリア近郊にて


アルル:「こらこらーっ。そこ!速度違反だ!止まりなさい!止まれ!ちょ、止まって!やばいから!止まって!!」


バイオレット:(M)時速100kmを超える走行車を確認。検問を試みるが轢かれる。幸いにも辺りところは良く、骨折には至らないが、全治一週間の打撲。


バタップ:「おいおい、また来たのかよ。」


アルル:「はい…っ。どうして貴方は目を離すとすぐに賭場に来るんですか…!」


バタップ:「賭場が俺を呼んでるからだ。」


アルル:「意味分かりません。帰りますよっ。」


バタップ:「分かった。じゃあ今日は、腕相撲だ。」


アルル:「へ?」


バタップ:「腕相撲で俺に勝ったら帰ってやる」


アルル:「は、ははぁ〜ん。いいですよ、やったろーじゃないですかっ。」


バイオレット:(M)12月1日。無許可にて単独行動をしていたバタップの支部強制送還を試みる


バタップ:「そおれっ。」


0:アルルは宙を飛んでいる


アルル:「おんぎゃああああ!?」


バイオレット:(M)腕相撲をけしかけられ、肘を作用点に180度回転。頭部を強打。また、施設内の備品を計6点損壊し、賠償額1090ドルを請求される。


アルル:「おはようございます。」


シーカー:「おお…」


0:アルルは至る所を怪我している


アルル:「なんでずか。」


シーカー:「いやあ…なんつーかお前。死に急ぐなよ…?」


0:シーカーは憐れみの目を向けている


アルル:(M)初めて声掛けてもらった!


シーカー:「おいバイオレット。あいつどうかしてるぞ。このままバグテリアで任務させてたら死ぬ。間違いなく」


バイオレット:「だろうな。別に構わんだろう。」


シーカー:「いや構わねえがよ。ああやって人が死ぬまでの経過をアハ体験させられるこっちの身になれよ。結構なんかおもろいぞ」


バイオレット:「面白いならいいじゃないか」


0:バイオレットは書類整理の片手間に話を進める


バイオレット:「クロフォードはクロフォードで置いておいて、だ。お前もいい加減何かしら報告書出さないと本庁からクビを切られるぞ」


シーカー:「うるせえな…。バグテリアに左遷させられてる時点でもうクビ切られてるようなもんだろうが」


アルル:「あ!でしたらシーカーさん、一緒にパトロールしませんかっ。」


シーカー:「ヤダよ。話しかけてくんな芋臭い」


アルル:「酷い!」


バイオレット:「私の口から大っぴらには言えないが。形だけでも報告書は提出しておけ、シーカー。お前今評価点相当低いぞ。」


シーカー:「え?まじで?」


バイオレット:「準一等から二等への降級打診にかけられる程度には」


シーカー:「はぁぁぁ。またかよ。もういいって。なんなの?本庁は俺の事嫌いなの?」


バイオレット:「知るか。」


シーカー:「まあ…別に。今更何等級に落ちようがどうでもいいが。」


バイオレット:「…」


アルル:「シーカーさん!一緒に行きましょうよ!ね!ね!」


シーカー:「嫌だって言ってんだろ。俺は働かん。」


0:アルルはシーカーの首を掴んだ


アルル:「行きましょー!」


シーカー:「ちょっと待てやお前!俺の事だけ舐めてんだろ!?なあ!?舐めてもいい先輩だって認識してんだろおい!?」


アルル:「行ってきます!」


0:二人は監察課を後にした


バイオレット:「…」


バタップ:「なあ、バイオレットよお。」


バイオレット:「なんだ。」


バタップ:「あいつあのままほっといたら。本当に死ぬんじゃねえか?ここ数日、「バンカー」の末端が妙に活発と噂らしいじゃねえの。」


バイオレット:「…私の知った事じゃない。」


バタップ:「情報局のお前が知らねえと?」


バイオレット:「アルル・クロフォードがどこでどう死のうが、全てあいつの落ち度だ。身の丈に合わない死などない」


バタップ:「冷たいねえ。誰かに死ねと命令する立場らしいよ。流石」


0:バタップはケツをかきながらテレビを見る


バタップ:「情報局長さまの妹だ。」


バイオレット:「…。バタップ。次姉さんの話をしたら、本気で潰すぞ」


バタップ:「はいはい。こぇーこぇー。」


0:場面転換

0:南エリア近辺


アルル:「いやあ〜、今日も天気だけはいいですね。」


シーカー:「あーあーあー。何も喋るな。お前の声を聞いただけで酔いが覚めちまう」


アルル:「いい事じゃないですか。…あ」


0:アルルは高くそびえる壁を見つめた


シーカー:「あ?なんだ。ショーケース見んのは初めてか」


アルル:「いえ、二回目なんですけど。バグテリアの周りを囲む外壁と同じくらい高いなあ…と。やっぱりほら、高い建物ってどうしても目に入っちゃうじゃないですか」


シーカー:「田舎っぺが。」


アルル:「はは、そうですね、産まれは都会とは言えない場所だったので」


シーカー:「誰も聞いてねえよお前の話なんざ。」


マオ:「あの。」


シーカー:「…あ?」


アルル:「どうしましたか?」


マオ:「ドラッグ、要りませんか?」


アルル:「………は?」


シーカー:「無視しろ新人。」


マオ:「あの、えっと…!凄く安いんです…っ。本当です…!定期購入なら、もっと安くなるんですよ…!」


アルル:「…」


シーカー:「おい、新人」


マオ:「あ、お姉さん興味ありますか?ドラッグの購入は初めてですかね」


シーカー:「新人!無視しろっつってんだろ!」


アルル:「…」


マオ:「…あ、あの…?」


アルル:「君。」


0:アルルはマオの手を掴んだ


アルル:「何歳ですか。」


マオ:「えっ…」


シーカー:「だぁ〜〜っ。もう…」


アルル:「何歳ですか」


マオ:「わ、分かりません。」


アルル:「凡そで大丈夫です。」


マオ:「16くらい、だと、思います」


アルル:「…」


シーカー:「新人てめぇ、耳付いてんのか。無視しろって言ってんだよ」


アルル:「シーカーさん。」


シーカー:「あ?」


アルル:「覚醒剤。ドラッグの売買は違法、御法度もいい所ですよね。」


シーカー:「…。そうだが…」


アルル:「黙認してるんですか」


シーカー:「…。」


アルル:「シーカーさん…!」


マオ:「あの…」


0:マオは少し脅えている


マオ:「痛いです…離してください」


アルル:「…あ、ごめんなさい。強く握り過ぎました…」


マオ:「不要でしたら結構です、押し売りしてる暇は無いので、失礼します」


アルル:「待ってください。」


マオ:「まだなにか…?」


0:アルルは身分証を出した


アルル:「中央政府監察局。アルル・クロフォードと言います。」


マオ:(M)中央…!?なんで中央がこんなところに…っ。いや、居るって言う噂は聞いてたけど仕事してるところなんて見たことないのに…っ。


アルル:「覚醒剤、ドラッグの売買は中央法でも禁止されています。今すぐ取引をやめてください」


マオ:(M)しくじった…!?


シーカー:「おい新人。お前にいい言葉を教えてやる」


アルル:「犯罪を見て見ぬふりをする先輩から頂く言葉はありません。」


シーカー:「…。郷に入っては郷に従え、だ。」


アルル:「…はい?」


シーカー:「日本出身の馬鹿みてぇに強い大先輩から教わった言葉だ。その土地にはその土地の習わし、習慣、風習がある。バグテリアはいい例だ。」


アルル:「それは常識を踏まえた上での話でしょう。法律は人を守る為にある。それ以上に優先すべき事があるんですか」


シーカー:「その土地にある暗黙のルールだってそうだ。自分を守る為にある。」


アルル:「それが犯罪でも、ですか」


0:シーカーはアルルの胸倉を掴んだ


シーカー:「犯罪でも、だ。」


アルル:「…」


シーカー:「お前みてぇな馬鹿真っ直ぐな奴らを知ってる。どいつもこいつも、すぐ死んだよ。自分を曲げられないのは時に弱さになる。」


アルル:「自分への言い訳にしか聞こえません。」


シーカー:「てめぇ、いい加減にしろよ。」


アルル:「貴方こそ、いい加減にしてください。」


マオ:(M)仲間割れ…?なんにしても、チャンスだ…っ。


0:マオは逃げ出した


アルル:「あ…!待ちなさい…!」


シーカー:「追うな。」


アルル:「…。シーカーさんは、来ないんですね」


シーカー:「…。警告はしたぞ。」


アルル:「結構です。」


0:アルルは走り出した


シーカー:「…。クソバカ野郎が」


0:路地裏


マオ:「はあ…っ、はぁ…!」


アルル:「待ってください。」


マオ:「あ…っ。」


アルル:「違法行為をやめてください。」


マオ:「なん、なんだよ…っ。普段守ってくれない癖に、こんな時だけ警察面して…!」


アルル:「それは…すみません。私達の目が届かない所で様々な悪行が横行しているのは分かっています。私達の力不足です」


マオ:「だったら干渉して来んな…っ。私達は生きるので精一杯なんだ…!アンタらとはちがうっ。」


アルル:「…。ごめんなさい。でも、それはダメです。君はまだ子供です」


マオ:「子供じゃない…っ。アンタが今までどんな生ぬるい場所で生きてきたかは知らないけどな、子供だから、女だからって住む場所も食べる物も与えられるわけじゃないんだ…!」


アルル:「…。どうして、こんな危険な真似を?」


マオ:「生きる為だって言ってるだろ…っ。」


アルル:「そうまでしないと、この街では生きていけないんですか」


マオ:「そうだよっ。なんだ、あんたバグテリアには来たばっかりか。じゃあ教えてやるよ…!アンタらが下手に動けば動くほど私達は不幸になるんだ…!」


アルル:「…」


マオ:「こんな、法律も無い、何も守ってくれるものも無い場所で、私達みたいな力も無い、ツテもない奴が生き残る為には、これは何もおかしい事ない。普通の仕事なんだ。だからもう構わないでよ」


アルル:「……ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに。」


マオ:「なんだよそれ。調子乗んなよ、アンタ一人がどうこうして、この世は良くならない。図々しいんだよ…!善人面しやがって…っ。」


アルル:「聞かせてください。」


マオ:「何をだよっ」


アルル:「貴方は、自分の為だけに違法行為…。すみません、この言い方は一度辞めます。貴方は自分の為だけに、それを売り歩いているわけではありませんね?」


マオ:「…」


アルル:「自分以外の何かの為に、こんな事をしている。私には見えます」


マオ:「…兄が、いるんだよ。私が稼がないと、殺される」


アルル:「…!」


マオ:「アンタが金払ってくれる訳でもないなら、干将しないでくれ。同情ならいらない。」


アルル:「…っ。」


ジャッカル:「ぉおい、マオ。なにやってんだこんな所で。」


マオ:「…!兄さん…っ。」


アルル:「…。貴方が、この子のお兄さんですか」


ジャッカル:「ああ?誰だこいつ。誰だこいつ?」


アルル:(M)注射痕。目の充血。血色も悪い。間違いない、ドラッグ中毒者だ。


マオ:「兄さん、この人は…」


ジャッカル:「客か?」


マオ:「…」


アルル:「私は中央政ーーー」


マオ:(被せて)「お客さんだよっ。この人はお客さん」


アルル:「ちょっと!」


ジャッカル:「そうか。そーかそーか!そりゃいい。」


0:ジャッカルはアルルの肩を叩いた


ジャッカル:「コイツぁいい薬だ。買っといて損はねえよ。なあ?物分り良さそうな姉ちゃんだアンタは。買うんだろ?」


アルル:「いえ…その…」


ジャッカル:「なんだよ。買わねえのか。おい。買わねえのか?」


マオ:「兄さん…!やめてよ、お客さん逃げちゃうから…!」


ジャッカル:「ああ?なんだよ、買うって言ってねえじゃねえか。金出さねえ奴は客じゃねえだろうが。ああ?それともなんだ?お前、俺に嘘つきやがったのか?」


アルル:「いや、違うくて…!」


ジャッカル:「なあそうだろマオ。稼げてねえからって、その場しのぎの嘘つこうとしやがったんだろうテメェ!」


0:ジャッカルはマオを殴る


マオ:「っ…!」


アルル:「ちょっと、なにやってるんですか!」


ジャッカル:「ああ!?うるせえな。金も出しやがらねえ。そうだ、金置いてけやお前。」


0:ジャッカルはナイフを取り出した


アルル:「…。ナイフですか。それを人に向けたら、刺したら、人は簡単に死ぬんですよ。」


ジャッカル:「はぁああ?警察ごっこかてめぇええ」


マオ:「兄さん…っっ。」


ジャッカル:「…」


マオ:「お願いだから、やめて…」


ジャッカル:「…。クソが。さっさと消えろ、クソアマ」


マオ:「…もう、私達に関わらないで」


アルル:「…。」


0:二人は路地裏に消えた


アルル:「…そうか。ここ。そういう街か。」


0:場面転換

0:南エリア モーテル


マオ:「兄さん。ちょっと横になろう。」


ジャッカル:「…ああ。」


マオ:「…」


ジャッカル:「…ごめんなあ、殴って。」


マオ:「…いいよ。」


ジャッカル:「…ごめんなあ。」


マオ:「いいってば。」


0:場面転換

0:ブルーストリート「特務国際監察課」


バイオレット:「…なんだ。この報告書は」


シーカー:「あった事をそのまま書いた」


バイオレット:「ふざけてるのか。こんなもの、本庁に提出できるわけが無いだろ。違法ドラッグの部分は丸々消せ。パトロールとして違和感なく書き直せ」


シーカー:「…。分かった。」


バイオレット:「…。」


0:シーカーはソファに座った


バタップ:「はは、ヤケに素直じゃねえか。シーカーさんよお」


シーカー:「ほっとけよ。」


バタップ:「ほっときまーす。」


シーカー:「…」


0:シーカーは報告書を書き直している


シーカー:「…ちっ。」


アルル:「ただ今帰りました。」


バタップ:「ほお。今日は怪我無し。」


アルル:「…。バイオレットさん。今日の報告書です。」


シーカー:「…」


バタップ:「アチラさんも元気ないねえ。なんだいなんだい。お二人さん気まずそうじゃねえの。一発やっちまったか?」


シーカー:「死ねよお前」


アルル:(M)甘かったかもしれない。


マオ:「こんな、法律も無い、何も守ってくれるものも無い場所で、私達みたいな力も無い、ツテもない奴が生き残る為には、これは何もおかしい事ない。普通の仕事なんだ。だからもう構わないでよ」


アルル:(M)バグテリア法外特区という街の、「意味のある法外」である部分。


マオ:「…兄が、いるんだよ。私が稼がないと、殺される」


アルル:(M)そりゃそうだ。人の行動には、絶対に理由があるんだから。


マオ:「アンタが金払ってくれる訳でもないなら、干将しないでくれ。同情ならいらない。」


アルル:(M)ここの人達だって、馬鹿じゃないのに。


マオ:「アンタのせいじゃない、アンタ一人がどうこうして、この世は良くならない。図々しいんだよ…!善人面しやがって…っ。」


アルル:(M)私。あの子に凄く失礼なことしたんだろうなあ。


バイオレット:「おい。」


アルル:「あ、はい。」


バイオレット:「なんだこの報告書は。」


アルル:「何、と言いますと。」


0:バイオレットは報告書を指さした


バイオレット:「ここだ。違法ドラッグの売買を確認した上で取り締まらかった、こんな文章をわざわざ書くな。」


アルル:「いや、でも実際に…」


バイオレット:「いいから書き直せ。面倒な報告は避けろ。」


アルル:「報告書の無断改竄ですか…?」


バイオレット:「改竄しなきゃならんような内容の巡回をしたお前が、私になんの文句をつける気だ。」


アルル:「…。すみません、分かりました。報告書を訂正します。」


バイオレット:「さっさとしろ。」


0:アルルは書類を手に取りソファに座った


アルル:「…隣。失礼します」


シーカー:「…おう」


アルル:「…」


シーカー:「…」


バタップ:「…?」


シーカー:「…」


アルル:「…」


バタップ:(M)なんだコイツら。新婚別れ際みてぇな雰囲気出しやがって


シーカー:「…。結局ダメだったんじゃねえか」


アルル:「…はい。駄目でした。」


バタップ:「…。」


シーカー:「…だから言ったろ。郷に入っては郷に従え、だ。」


アルル:「…はい。すみませんでした。」


シーカー:「…。」


アルル:「…悔しいです。」


シーカー:「…」


アルル:「ううう。シーカーさん。私、悔しいです(;;)」


シーカー:「…」


バタップ:「泣かした」


シーカー:「死ねってお前」


アルル:「…私は、私に出来ること精一杯やろうって思ったのに…。あの子にとって私の行動は、全部余計なお世話らしいんです。」


バタップ:「ははは、そんな事してたのかよ。そりゃそーだろバッカでぇ〜。」


アルル:「…何も、力になれないんでしょうか。」


シーカー:「…」


アルル:「シーカーさん…っ。」


シーカー:「…あ〜……」(バイオレットを見る)


バイオレット:(M)こっちを見るな。


シーカー:(M)という視線。バタップなんざ頼りになるわけねえし。


アルル:「…」


シーカー:「バラエティって、知ってっか」


アルル:「…はい。バグテリアを仕切る、大ボス的なマフィアグループですよね…」


シーカー:「あーまあ、ざっくり言うとそうだ。違法薬物関連になってくると、まあ大体アイツらが絡んでる。」


アルル:「…敵に回すなって、言うんですよね」


シーカー:「ああ。そうだ。関わらねえのが身のためだ。」


アルル:「…」


シーカー:「第一、こんな所で頑張って何になるんだよ。俺らぁなんの仕事もしてなくてもお役御免にならねえんだぞ。そんくらい本庁は俺らに期待もしてねえ。どうせ報告書だって角が立たなきゃハリボテでいいんだ。ここじゃ監査部だって足運べねえんだ。俺達は出世街道からは外れてんの。わかるぅ?」


アルル:「…出世がしたくて中央に入ったわけじゃありません…。」


シーカー:「はぁ。もういいわ。」


アルル:「……。」


バタップ:「ふぁ〜。今日は天気が良いな。ちょっくら散歩行ってくらぁ〜」


アルル:「バタップさん」


バタップ:「なあ、アルル・クロフォードよ。」


アルル:「…なんですか。」


バタップ:「この街じゃあ力が全部だ。その力は何でもいい。暴力でも、権力でも、財力でもいい。その使い道は須らく人の上に立つ為。そんで、その力が無きゃ生きてけないってことを、バグテリアの住民は全員知ってる。生まれたその時から分からされる。肉食動物の巣窟みてぇな場所に、アンタは人の法律を持ち込んでんだ。ライオンが兎を食うのを一体誰が咎める?」


アルル:「そんなのは、屁理屈です。あの人達は間違いなく人間です。…非人道的な行いを正当化していい理由なんか無いはずですよ」


バタップ:「そうだ。そーーだよアルル・クロフォード。正しい。殺しはダメだ。人を殴っちゃダメだ。騙しちゃダメだ。当たり前だ。でもやっちまうんだよ、ここの住民は。そうしないと生きていけないから、それが正しくなっちまうんだよ。」


アルル:「…貴方は、何が言いたいんですか」


バタップ:「吠えるのは犬でも出来る。お前も、ここの住民も人間だっつーなら、人に出来る全部を使って、お前の正しさを押し付けるしかねえ。そうやって人類は正しさを得たんだ。誰かが一番最初に、「人を殺してはいけない」という正しさを吠えた日から。だが正しさの押し付け合いは淘汰さ。反対意見をぶち壊して、少数派を袋叩きにする。今ある倫理に、また別の倫理を押し付けるってのはそういう事だ。」


0:バタップはアルルに近付いた


バタップ:「だから俺が言いたいのは、正しさを押し付けるなら、誰かの倫理を否定するなら、それだけの覚悟を持つべきだってことだよ」


0:ガチ恋距離


バタップ:「お前は、誰かに殺しをさせない為に。誰かを殺せんのか。その力があんのか」


アルル:「…!」


バタップ:「どうなんだよ。」


アルル:「……」


0:少しの沈黙


バタップ:「……黙ったな?即答出来ねえうちは向かねえよ。泣きみる前に帰りな」


0:バタップは監察課を出る


アルル:「……っ…。」


シーカー:(M)あいつたまーーに正論言うんだよな。残酷です


アルル:「…。」


0:アルルは立ち上がった


バイオレット:「どこに行く。報告書の提出はどうした」


アルル:「…。書きたくありません」


バイオレット:「は…?」


アルル:「自分の行いにだけは。嘘は、つけません。」


0:アルルは監察課を出た


シーカー:「…はぁ〜〜〜…」


0:シーカーは深くソファに項垂れた


シーカー:(M)ありゃ近いうちに辞めるな。それでいいんだよ。世の中働き口なんざいくらでもある。…そう。いくらでもあんだよ。


0:場面転換

0:南エリア モーテル


ジャッカル:「…はは。」


マオ:「…」


ジャッカル:「はははは。そりゃそうだ、9万ドルが、たった一週間で集められるわけがねえ。そりゃそうだよ、そうだよなぁ…!」


マオ:「…ごめん。兄さん」


ジャッカル:「なあマオ!!」


0:ジャッカルはマオの首を絞めた


マオ:「…っ。」


ジャッカル:「てめぇ言ったよな!?私が稼ぐってよぉ!!騙しやがったな、騙しやがったな…!騙しやがったな…ッッ!」


マオ:「兄、さん…!」


ジャッカル:「なんなんなんなんなんだよォ!!ふざけんなよォ〜!お前も俺を騙すのか!お前も!お前もお前も!」


マオ:「ご、めん…」


ジャッカル:「…」


マオ:「ごめんね、兄さん。」


ジャッカル:「なん、なんだよ。謝んなよ。」


0:ジャッカルは手を離した


マオ:「けほっ。けほっ。」


ジャッカル:「じゃあ、俺ァ一体どうすりゃ良かったんだよ。なあ…おい…」


マオ:「……」


ジャッカル:「親父が蒸発した時も。ババアがハゲのブスになっちまった時も。ずっと、ずっとずっと。どうすりゃあ…良かったんだよ。」


マオ:「逃げよう。兄さん」


ジャッカル:「…は…?無理に決まってんだろ。バンカーから逃げられるわけがねえ。」


マオ:「違う。バグテリアから出よう」


ジャッカル:「…正気かよ、お前。」


マオ:「…こんな狂った街に住むには、私は。弱過ぎる。何も出来ない。……でも私は、兄さんがいればもう、それ以外に何もいらない。何も望まない。だからさ、生きてようよ。一緒に」


ジャッカル:「……」


マオ:「お願い。私の手を取ってよ。兄さん」


ジャッカル:「…外に出たって。捕まるだけだ。バグテリア出身ってだけで、終わってんだよ。俺らは」


マオ:「じゃあ刑務所でいいよ。兄さんと一緒に居られるならどこでもいい。例え処刑台の上だって、私は構わない。」


ジャッカル:「…どうかしてるぞ、お前」


マオ:「どうかしてないと、やってられないよ。」


ジャッカル:「…」


マオ:「だから、ね。兄さん」


0:マオはジャッカルに手を差し出した


ジャッカル:「俺は……」


0:ジャッカルは手を出す


ジャッカル:「…俺は…ぁ…っ。」


0:ジャッカルの手をカーズが掴む


カーズ:「よお。」


ジャッカル:「…!」


カーズ:「集まったか。金は」


ジャッカル:「お、おいおい、まだ早いだろ。昼だぜ…?」


カーズ:「誰が締切は夜中だっつったんだよ。なんか不味い事でもあんのか」


マオ:「…っ。兄さん、逃げよう。」


カーズ:「は?逃げる?どこに?」


ジャッカル:「…いや…」


マオ:「…っ…兄さん…!」


カーズ:「ジャッカル。どういう事だ。」


ジャッカル:「……あ、ああ…」


0:ジャッカルの足は震えている


マオ:「兄さん!!!」


ジャッカル:「…無理だあ。無理だよ、マオ。よぉく知ってる。俺ァ、知ってんだ。バンカーからは、逃げられねえ」


マオ:「…っ。」


0:カーズは頭をかいた


カーズ:「あ〜。まあ、そりゃ集まるわけねえよな。てめぇらみてぇなボンクラがどう頭使ったって無理なもんは無理だ」


ジャッカル:「…」


カーズ:「なあ、ジャッカル」


ジャッカル:「…」


カーズ:「商品ってのは、男女問わず買うやつと買わねえ奴がいる。分かるな?」


ジャッカル:「…ああ。分かる」


カーズ:「でもよお。男なら誰でも買う商品がある」


ジャッカル:「…おい。」


0:カーズはマオを持ち上げた


マオ:「…っ…」


カーズ:「女だ。」


ジャッカル:「おい、まさか…!」


カーズ:「まさか???お前今まさかって言ったのか。馬鹿みてぇな文言使いやがる。家族を身売りするくらいてんで珍しい話じゃないだろうが。」


ジャッカル:「待てよ、待ってくれよ、そりゃあいくら何でもよお…!」


カーズ:「おいおい。人様にドラッグ売り付けたんだぞ?少なくとも他人の人生踏みにじる行為だ。それを自分がやられて「話が違う」ってのは、筋が通らねえよ。違うか、ジャッカル」


ジャッカル:「おい、カーズ…!頼む、頼むからやめてくれ、妹だけは…!」


カーズ:「てめぇに、よォ…!」


0:蹴った


ジャッカル:「ぶごッ…!」


マオ:「兄さん…!」


カーズ:「物を頼む権利なんかねえんだよ、愚図」


マオ:「カーズさん、お願いします、やめてください…っ。兄はずっと栄養も取れてない、骨が折れてしまいます…っ。」


カーズ:「だからなんだ」


マオ:「ちょっとした傷からバイ菌が入るかもしれません、骨が折れたらしばらく塞がりません、治療するお金も勿論ありません、お願いします。やめてください」


カーズ:「言葉が足りねえな」


マオ:「…私に出来ることなら、なんでもします。」


カーズ:「…っつーわけだ。ジャッカル、お前はこのモーテルからも出ていけ。」


ジャッカル:「…おい。」


カーズ:「…。はあ。」


マオ:「兄さん…!やめて…!」


ジャッカル:「妹から、手を離せよクズ野郎…ッ!」


マオ:「兄さん!!」


カーズ:「ほんと馬鹿だなお前ら」


ジャッカル:「ぉぉああああああッ!」


0:殴り掛かる


カーズ:「兄妹揃って」


0:蹴る


ジャッカル:「ごぶッッ!」


カーズ:「愚図なんだから」


ジャッカル:「がはっ」


マオ:「兄さん!!」


カーズ:「隅っこで縮こまってろよ」


ジャッカル:「ぶブッ……かは…っ」


マオ:「やめ、やめろよ…!!やめろよ!!」


カーズ:「おめェもうるせえよ」


0:カーズはマオの頭を壁にたたきつけた


マオ:「あがッ…」


カーズ:「不幸だなあ。力がないってのは」


マオ:「…兄…さん…」


0:場面転換

0:ブルーストリート


アルル:「…」


0:とぼとぼ


アルル:(M)孤独だ。一人ぼっちだ。誰も味方が居ない。なんでだろう。そんなおかしな事を言ってるのかな、私は。


0:とぼとぼ


アルル:(M)誰にも不幸な目にあって欲しくないって、ただそれだけなのに。なんでこんなに説教されなきゃいけないんだ。ムカつく。


0:とぼとぼ


アルル:(M)目の前どころか、見渡す限りの壁。バグテリアを囲むあの高い外壁が、また私の無力感を圧迫してくる。…ああ。ここに来てから、こんな事ばっかりだ


0:足が止まった


アルル:(M)…こんな時。父さんなら、どうしたんだろう。


カーズ:「…。おい。」


アルル:(M)ふと顔を上げると、長身の男性が居た。黒髪、口元に傷があり、黒基調のスーツの下から大量の刺青が透けて見える。


カーズ:「邪魔だ。どいつもこいつも、道の真ん中で突っ立ってんじゃねえよ」


アルル:「…。あ。すみません。」


カーズ:「…」


0:二人はすれ違った


アルル:(M)…待て。あの人。今、誰か抱えてなかったか。


カーズ:「…もしもし。聞こえるか、ドルムンク」


0:電話で誰かと話すカーズは少女を担いでいる


アルル:(M)やっぱりそうだ。女の子。…どこかで見たことがある気がする


カーズ:「ああ、駄目だったみたいだ。適当な娼館手配しとけ」


アルル:(M)…あの子…


0:マオは呟いた


マオ:「…兄…さん」


アルル:「____…!」


カーズ:「ああ。すぐ戻る。そんじゃあまた後でな。」


アルル:「ちょっと。」


カーズ:「…あ?」


アルル:「待ってください」


カーズ:「なんだ。なんか用か」


アルル:「その子。どうするつもりですか」


カーズ:「…。…?お前になんの関係があるんだよ」


アルル:「…っ。…娼館、と聞こえました。」


カーズ:「…」


アルル:「拉致ですか」


カーズ:「お前、その制服。あれだな。負け犬共だ」


アルル:「…負け犬…?」


カーズ:「中央政府特務国際監察課。俺らを取り締まるでもない、いつまでも安いモーテルで縮こまってるバグテリアの負け犬。見ねえ顔って事は、新人か?」


アルル:「…」


カーズ:「なんだよ、その顔は。取り締まろうってか。俺を」


アルル:「…その子を、どうするつもりですか。」


カーズ:「お前らには関係ねえよ。」


アルル:「答えてください」


0:アルルの目は強ばっている


カーズ:「…気に食わねえ目だな。」


アルル:「答えて、ください。」


カーズ:「誰に指図してんだよ、負け犬…ッ!」


0:ローキック


アルル:「がッ…!」


0:アルルは膝を着いた


カーズ:「お前、立場分かってんのか。」


0:カーズはアルルの髪を掴んだ


カーズ:「負け犬が。俺らヘッドに。何を、どうするって?」


アルル:「…」


カーズ:「もっかい聞くぞ。俺に、なんの用だ。」


バタップ:(回想)「肉食動物の巣窟みてぇな場所に、アンタは人の法律を持ち込んでんだ。ライオンが兎を食うのを一体誰が咎める?」


アルル:「…はは。」


カーズ:「…あ?」


バタップ:(回想)「吠えるのは犬でも出来る。お前も、ここの住民も人間だっつーなら、人に出来る全部を使って、お前の正しさを押し付けるしかねえ。」


アルル:「____豚だ。」


カーズ:「…」


バタップ:(回想)「そうやって人類は正しさを得たんだ。誰かが一番最初に、「人を殺してはいけない」という正しさを吠えた日から。」


アルル:「お願いします。その子を解放してください。まだ成人もしてない子に、暴虐を振り翳すのは、辞めてください。」


カーズ:「…指図すんなって言ったよな?俺は」


アルル:「お願いします。」


バタップ:(回想)「だが正しさの押し付け合いは淘汰さ。反対意見をぶち壊して、少数派を袋叩きにする。今ある倫理に、また別の倫理を押し付けるってのはそういう事だ。」


アルル:「このままじゃあ、貴方達は。豚だ。人でしょう、私達は」


バタップ:(回想)「正しさを押し付けるなら、誰かの倫理を否定するなら、それだけの覚悟を持つべきだってことだよ」


カーズ:「何を言ってるのかまるで理解出来ねえが、お前が喧嘩売ってるってことはよく理解した。」


アルル:「その子を、解放しないんですね」


カーズ:「だから、誰に指図してんだって。お前は」


アルル:「…そうですか。」


バタップ:(回想)「お前は、誰かに殺しをさせない為に。誰かを殺せんのか。」


アルル:「今。助けるからね」


バタップ:(回想)「その力があんのか」


アルル:「____アルル・クロフォード。只今より、執行任務へ取り掛かります。」


カーズ:「よし。死ぬか。お前」


0:場面転換

0:南エリア モーテル付近


ジャッカル:(M)クソみたいな。クソみたいな人生だった。親もクソ、生まれ育った街も、何もかもがクソ、クソクソクソ…っ。


0:ジャッカルは足を引き摺っている


ジャッカル:(M)薬がキレてきやがった。痛みが思い出したように全身を伝いやがる。あああ、畜生…畜生が…っ。


0:吐血


ジャッカル:「ごぼっ…。くそ、くそ…っ。俺が、俺達が何したってんだよ…!なんなんだよ…!」


0:掌を見た


ジャッカル:(M)…それでも。妹だけは。アイツだけは、俺を裏切らなかった。妹、だけは。俺がどれだけヤケになろうが、暴力を振るおうが、妹は俺を裏切らなかったんだ…っ。俺はあいつの兄貴なんだ…兄貴らしい事、なんかしたか。してやれたのか。マオまで、母親クソババアと同じ道を歩むことぁねえ。そうだろ。なあ、そうだろうが…っ。じゃあさっさと動けよ、このクソ、クソ体…!


バタップ:「ふんふんふーん。」


ジャッカル:「…あ…」


バタップ:「お。芋虫発見。腹ぺこか?」


ジャッカル:「…てめぇ…その制服、中央の…」


バタップ:「…」


ジャッカル:「…っ。なあ、助けてくれ。」


バタップ:「…何を?」


ジャッカル:「妹をだ…!連れてかれたんだ、ヘッドに…!バンカーにだ…っ。」


バタップ:「…」


0:バタップはしゃがんでジャッカルを見た


バタップ:「さしずめ上納金で首回らなくなった口だろう。アンタ。」


ジャッカル:「…ああ。そうだ。そうだよ。お前の言う通りだ、そんで予想の通りだ。頼む。助けてくれ」


バタップ:「そうか。いくら出せる?」


ジャッカル:「……は?」


バタップ:「金はよ」


ジャッカル:「…マジで言ってんのか、お前」


バタップ:「何が悲しくて見ず知らずの他人を助けなきゃならん。しかもタダで」


ジャッカル:「お前…っ。お前、中央政府だろぉ…!?」


バタップ:「ああ。そうだ」


ジャッカル:「金とんのかよ…!」


バタップ:「ほお。つまりお前は今こう言ってんだな。天下の法人中央政府が悪人を捕まえんのは普通だ、と。金をとるだなんて公人のする事じゃねえと。」


0:バタップはジャッカルの胸ぐらを掴んだ


バタップ:「じゃあ仕事をしようか。覚醒剤を売ったな?買ったな?使ったな??中央統治法違反だ。お前をしょっぴくぞ」


ジャッカル:「〜〜っ…!」


バタップ:「冗談だ。俺も違法賭博してるしな。だってここは法外の街だ。今更外の法律を持ち込もうだなんて思わねえよ。お前もそうだったろ。だからお前が俺に頼めるのは「助け」じゃなくて「依頼」の筈だ。」


ジャッカル:「…なんだ。正論ごっこか。」


バタップ:「お前もこの街で育ったなら分かるだろ。情なんざなんの意味も持たない。」


ジャッカル:「ああ…。分かってる。」


0:ジャッカルは震える手を止めている


ジャッカル:「分かってるよ。」


バタップ:「その腕。結構クスリやってんだろ。唇が震えっぱなしだ。」


ジャッカル:「…」


バタップ:「よく正気保ってられるよ。ああ、すげえな?妹のためか。」


ジャッカル:「限界だよ、限界ちけぇよ。頭がどうにかなりそうだ。でも、今だけはダメだ。甘えてる場合じゃねえんだ。」


バタップ:「悪くねぇ目だ。俺にとっちゃどうでもいいが。金は払えるのか」


ジャッカル:「払えねえ。払える保証は出来ねえ。」


バタップ:「だっははは、だけど助けて欲しいってか。助けを、乞うのか。俺に。とんだ負け犬じゃねえかおい」


ジャッカル:「…わかってる…わぁってる…!」


バタップ:「いいや、分かってねえよ。薬でトンチンカンしちまった頭で理解出来るはずがねえ。」


ジャッカル:「ああ…?」


バタップ:「その目は「埋まっちまった奴」の目だ。走り続ける事に疲れ果てて、何かに依存してないと引きこもる事もできねえ様な、生きていく上で必要な甲斐性を自ら埋没させた残念人間。この街で生きていくなら尚の事残念無念」


ジャッカル:「…」


バタップ:「もっかい聞くぞ。お前は妹の為に、何を賭けれんだ?」


ジャッカル:「命を賭ける」


バタップ:「…」


ジャッカル:「妹の為なら、100万回でも死ねる」


バタップ:「良い言葉だ。うぅん、いい言葉だねえ。」


0:バタップは立ち上がった


バタップ:「一銭にもならねえよ。そんじゃあな。」


ジャッカル:「…」


バタップ:「なんだよその目は。なんだ?案外情で動くタイプに見えたか?残念だったな、俺ァヒーローじゃねえのよ。」


ジャッカル:「はっ。分かってる。分かってるさ。初めから、他人に頼ろうだなんて期待する方がどうかしてる。」


0:ジャッカルは足を引きずりながら歩き始めた


ジャッカル:「変な事口走って悪かったな、ああ。悪かった。悪かったよ。」


バタップ:「おう。まあ頑張れよ〜」


0:バタップは歩き去った


ジャッカル:(M)そりゃそうだ。昔からそうだったはずだ。今更、なんで誰かに頼ろうだなんか思いやがった。甘ったれんな。ここは、そういう街じゃねえ。一人で生きて行けねぇならそれまで。他人は利用する為にしか無い。それ出来ないなら死ね。死ねよ。クソ人間、死んじまえ。


0:ジャッカルは吐血する


ジャッカル:(M)思い出してきた。俺が、母さんを殺した日の事を。


0:回想

0:4年前


マオ:「お兄ちゃん…?」


ジャッカル:(M)四年前。1987年。7月の朝。


マオ:「お兄ちゃん…!」


0:ジャッカルの息は荒れている


ジャッカル:「…」


ジャッカル:(M)その日。ジャッカル・ダウンポッドは、母親を殺した。


マオ:「殺したの、お母さんを」


ジャッカル:「…ああ。殺しちまった」


マオ:「……お兄ちゃん一人で…?」


ジャッカル:「…ああ。」


0:ジャッカルは自分の手を見た


ジャッカル:「この手で、やっちまったよ。」


マオ:「〜〜〜っ…」


ジャッカル:(M)初めて知った。やっちまった後悔の味。苦くて、重い。


マオ:「…お兄ちゃん。」


ジャッカル:(M)あの日、俺が生きていようと思ったのは…


マオ:「お兄ちゃん、なんで…っ。なんで…」


0:マオはジャッカルに抱き着いた


マオ:「なんで。一人でやったのさ…っ。」


ジャッカル:「…マオ…」


マオ:「そんな辛い事、一人でやるだなんて、ズルいよ。またそうやって一人だけ不幸になって、私。いつまでもお兄ちゃんに守られてばっかりじゃんか」


ジャッカル:「…俺は兄貴だからな。お前に降り掛かる不幸は、全部俺が持ってかなくちゃ行けないんだ。」


マオ:「そんなの嫌だよ…っ。お母さんを殺したんだよ…っ。なんでそんな大事な事、相談もしてくれなかったのさ…っ。そんなの優しさじゃないよ…!」


ジャッカル:「…わかってる」


マオ:「分かってないよ…っ。お兄ちゃんだってしんどかったに決まってる…っ。お母さんは、こんな、こんな状態になるまで私達を、育ててくれたんだよ…っ。その人を殺したんだ…っ。辛くないわけないっ。」


ジャッカル:「ああ、とんだ親不孝もんだなあ。俺は。」


マオ:「…違うよ…」


ジャッカル:「謝らねえからな。謝ったら、俺は俺を許せなくなる。」


0:ジャッカルも抱き返した


ジャッカル:「だから。俺の事、死ぬまで恨んでくれよ。」


マオ:「…ぅ…。」


ジャッカル:「お前の母ちゃんを殺したのは俺だ。」


マオ:「…うん。」


ジャッカル:「あのクソババアはもう、思い出にしなきゃいけなかったんだ。」


マオ:「うん。」


ジャッカル:「これからだ。俺達がしんどいのは。人を殺す。人の物を盗む、奪う。騙す。でもよ。」


0:ジャッカルは顔を上げた


ジャッカル:「これよりしんどい殺しは、もうねえからよ。安心だなあ」


マオ:「…うん…っ。」


0:マオも顔を上げた


マオ:「どんなに不幸でも、生きてようね、お兄ちゃん」


ジャッカル:「ああ。」


マオ:「約束」


0:二人は指を交わした


ジャッカル:「ああ。約束だ」


0:回想終了


バタップ:「さぁて。次はどの馬に賭けようかねえ。」


ジャッカル:「なあ、あんた。」


バタップ:「…まだ何か?」


ジャッカル:「ありがとな。もう、戦えるよ」


バタップ:「…」


0:バタップはジャッカルの目を見た


バタップ:「ははは。こりゃ高ぇぞ」


ジャッカル:「言うと思ったよ。有り金全部だ。持ってってけ」


0:ジャッカルは財布を投げ渡した


バタップ:「…」


ジャッカル:「大した額じゃねぇけどよ。妹に渡してやってくれや。だがまあ、一度人に預けたんだ、どう使われようと文句は言わねえ。」


バタップ:「…」


ジャッカル:「あの世に金は持ってけねえからな」


バタップ:「はっ。ご立派ァ」


0:ジャッカルは路地裏に消えた


バタップ:「…」


0:バタップは財布を開いた


バタップ:「かっははっ。馬券も買えやしねえっての。」


0:場面転換

0:南エリア近郊


カーズ:「ACCESS・ROCKアクセス・ロック


0:何かが止まる音がする


アルル:(M)やっぱり異常体か…!能力はなんだ、監察しろ、監察、目を離すな絶対にーーー


カーズ:「ほぉら」


0:蹴った


アルル:「ーーーッッごほぉお!」


カーズ:「はぁ?弱」


アルル:(M)なんっっだこれ…!痛い…!重い…!ただの、蹴りだった筈だ…っ。なのに、異様な程、重たい…っ。


0:アルルは膝を着いた


アルル:「…ごほっ…かは…!」


カーズ:「お前、そんなんでよく取り締まるとか言ったもん…だなっ。」


0:カーズはアルルを踏みつけた


アルル:「ぁああッ…!」


カーズ:「調子乗んなよ。中央政府」


アルル:(M)なん、だ…!なんなんだ…っ。これ、人の体重か…!?


カーズ:「弱いってのは罪だなあおい」


アルル:(M)まずい、頭、潰れる…っ。


0:アルルはカーズの足を掴む


カーズ:「…」


アルル:「ぁあっ…かはっ…っ。はな、せ…!」


カーズ:「…」


0:カーズは強く踏み付けた


アルル:「がぁっ…!」


カーズ:「お前が離せよ。」


アルル:「…っ…いや、だ…!」


カーズ:「お前あと10秒で死ぬぞ。状況分かってんのか」


アルル:「…私は、死んでもいい、から…!その子を、解放しろ…!」


カーズ:「割にあってねえよなあ。」


0:顔を蹴った


アルル:「ぶッ…!」


カーズ:「お前は俺を取り締まるっつって喧嘩売った。まぁつまり命賭けたんだよな?勝負に。」


アルル:「けほっ。けほ…っ」


カーズ:「じゃあ勝負の中で起こった結果を受け入れろよ」


0:蹴った


アルル:「ぶごッッ…!」


カーズ:「てめぇはてめぇの命っていうチップ引っ提げて俺との喧嘩に、つまり賭場に来たわけだ。だっていうのに今更「自分の命と引き換えに」って言うのは通ってねえよな。筋が」


0:また踏みつけた


アルル:「ッ…」


カーズ:「口だけ達者。見栄だけ。やらない善よりやる偽善とは言うが、中途半端な救済は見捨てる事と同じさ」


0:アルルはカーズを睨みつけた


アルル:「〜〜っ…!」


カーズ:「気に食わねえなあ、その目が。」


0:踏みつける足に力が篭もる


アルル:「がぁああっ…!」


カーズ:「この街に向かねえな。お前」


アルル:「ぁぁぁあああッ…!」


0:アルルは顔を地面に引き摺り足を退けた


カーズ:「お。」


アルル:「対・異常体執行術…ッッ!」


カーズ:「そうだ。暴力で始まった事だ。暴力でケリ付けろ」


アルル:「仁・発勁ッッ!」


0:殴る


カーズ:「…」


アルル:「…はい…?」


0:カーズはびくともしない


カーズ:「…なんだそりゃ。身が入ってねえよ。監察官。」


アルル:(M)喧嘩慣れとか、そういう次元の話じゃない…っ。なんだ、それ…!


カーズ:「ッ!」


0:蹴った


アルル:「ごぽぉオッ…!おえっ。おええっ。」


0:悶絶


カーズ:(M)感触がある。骨が碎ける音。砕いた感触。クッキーが粉々になるみたいな。


アルル:「…ごほっ…」


カーズ:「…おいおい。」


アルル:「…その子を、解放しろ…っ。」


0:アルルは立ち上がった


カーズ:「本気でおかしいんじゃねえのか。お前」


アルル:「言ったぞ…っ。私は、死んでもいいって。」


カーズ:「ああ、そう、かよっ。」(蹴った)


アルル:「ぉおおおおおりゃあッ!」(足を掴む)


カーズ:「ほお。」


アルル:「折れろ、足ィ!」


0:アルルはカーズの足に肘を打ったがビクともしない


アルル:「硬ッッた…!」


カーズ:「馬鹿が」


0:足を振りアルルを壁に叩きつけた


アルル:「がァっ…!」


カーズ:「離したな、足。」


アルル:「く、そっ…!」


カーズ:「頭蓋割って終いだ。」


マオ:「やめろ…っ。」


カーズ:「…あ?」


マオ:「やめてください…!カーズさん…っ。」


アルル:「目、覚めたんだ…、よかった…」


マオ:「あんたも、なんでここに居るんだよっ。言ったよな、もう私達に関わらないでって…!」


アルル:「言われました。」


マオ:「じゃあなんで干渉してくるんだよっ。」


アルル:「目の前で行われる悪行に、目を瞑ることが出来ません…っ。」


マオ:「〜〜っ。このバカが…っ。」


カーズ:「おい、喋り過ぎだ。」


マオ:「カーズさん。私は逆らいません。もうやめてください、お願いします。」


カーズ:「なぁ〜んか勘違いしてんな。喧嘩を売ってきたのはコイツだ」


アルル:「助けてって。言ってくださいよ」


マオ:「は…?」


アルル:「嫌な事をされたら、嫌な気分になります。当然です。我慢する必要なんかないんです…!嫌なことは嫌って言ってください…!助けてって言ってください!!」


マオ:(M)もう、やめて欲しい。誰かが私の前で不幸になるのを見たくない。それを止められない事に、私の力不足を痛感することになるから。


カーズ:「もういいって。そういうの」


マオ:(M)不幸になるなら、私の関係ないところでなってくれ。私の目に入らないところで死んでくれよ。どれだけこの街が狂ってても、人が死ぬのは辛いよ。


アルル:「私は貴方の名前も知りませんが、確かに貴方は、私の視界に入った…!私の手の届くところにいる…っ。」


マオ:(M)馬鹿ばっかりだ。私だけが不幸になるのが、一番誰も傷つかないんだって。その手を取れるわけないじゃんか。


アルル:「だから手を取ってください…!」


マオ:(M)何も選びたくないよ。誰かが傷つくってわかってる選択なんかしたくないよ。助けてよ。


アルル:「私は!!全力で貴方の味方だ!!」


カーズ:「くどい。」


マオ:「助けて、お兄ちゃん…っ。」


カーズ:「AccessアクセスROCKロック


0:何かが止まる音がする


ジャッカル:「カーズさん。」


カーズ:「…ジャッカル」


マオ:「ぁ…」


ジャッカル:「良かった。数分間に合わなかった、みたいな事にならなくて」


アルル:「貴方は…」


ジャッカル:「その制服…。はは、中央の。…悪ぃな、最近どっかで会いはしたんだろうが覚えてねえ。けど、この状況見りゃわかる。アンタは、妹を助けてくれた」


アルル:「…」


ジャッカル:「一銭にもならねえ俺らを助けるなんざ、この街で生きていくには余りにも馬鹿みてぇな行為だ。けどな、アンタの行動は確かに。」


0:ジャッカルは髪をかきあげた


ジャッカル:「俺を救ったぜ」


マオ:「兄さん…なんで…」


カーズ:「おいジャッカル。意気揚々と出てきやがるが、一応。そう、一応聞くぞ。わざわざ何しに来た?」


ジャッカル:「…」


マオ:(M)あの日。私達のお母さんが殺された日。


ジャッカル:「うーん。何しに来たんだろうな」


マオ:(M)あの時見た背中。


カーズ:「懐かしい顔してやがるじゃねえか。ええ?」


ジャッカル:「そうですかね」


カーズ:「ああ。この街で生きていくに相応しい顔だった頃のお前だ。つまり、なんだ。」


0:カーズは手袋に深く手を入れた


カーズ:「死にに来たか」


ジャッカル:「……。ああ、そう。それだ。そうそう、それですよ。」


0:ジャッカルは袖を捲った


ジャッカル:「死にに来ました。」


マオ:「は…?」


アルル:「どういう意味ですか。」


ジャッカル:「中央の。アンタには感謝してもしきれねえ。けどよ、感謝なんかこの街じゃなんの価値も付かねえ。裏切られる。捨てられる。」


アルル:「…」


ジャッカル:「それでも。俺はアンタに感謝してる。」


マオ:「兄さん、今の、どういう…」


ジャッカル:「南エリアヘッド。副リーダー、カーズ・ジョーン。」


カーズ:「…。」


ジャッカル:「3年間。世話になりました。ここ数ヶ月じゃ未納も重なり、アンタの。引いてはバンカーの。南エリアの顔に泥を塗っちまった。下げる頭もねえ。」


カーズ:「…。まあ、座れよ。」


ジャッカル:「…。ありがとうございます」


0:カーズは座った


アルル:「何をしてるんですか。早くその子をーーー」


カーズ:「黙ってろクソアマ。」


アルル:「な…!」


カーズ:「この賭場には。ジャッカルの命が乗ってる。お前の席はねえ。」


マオ:「兄さん!!」


ジャッカル:「マオ。あの日言った約束。覚えてっか」


マオ:「……覚えてるよ…っ。覚えてるから、私は兄さんと一緒に生きたかったんだ…!」


ジャッカル:「約束ってのは。果たし終える日が来るもんで。それが今日さ。」


マオ:「…どういうこと」


ジャッカル:「…失礼します、カーズさん。」


カーズ:「ああ。」


0:ジャッカルも座った


マオ:「兄さん!!なんで、なんでそうなるんだよ…!また、また一人で勝手にやるの…?…ねえ、言ったじゃん!不幸でも一緒に生きてくれるって、言ったじゃん!!兄さーーー」


カーズ:「黙れ」


0:カーズは地面を殴った


カーズ:「うるせえっつってんだよクソガキ。俺と、ジャッカル以外喋んな。」


マオ:「…っ…」


ジャッカル:「…躾がなってなくて。すみません。」


カーズ:「…躾?躾って言ったか?」


ジャッカル:「…」


カーズ:「躾って言やあ、まるでお前とあのガキが肉親みてぇな言い方じゃねえか」


ジャッカル:「…っ…」


0:ジャッカルは頭を下げた


ジャッカル:「…ありがとうございます…ッ」


カーズ:「なんの礼だよ。」


ジャッカル:「…。俺と、あの女はまっったくの無関係です…!」


マオ:「は…??」


ジャッカル:「今回滞納でヘマしたのは俺、ジャッカル・ダウンポッドただ一人だ…!」


マオ:「…なに…言ってんの…」


カーズ:「そうか。じゃあどうする。このツケ、どう払う。」


ジャッカル:「バンカーの名前に傷を付けた以上、無理矢理にでも金を収めるしかねえ。でも、すんません。今からじゃあどうしたって間に合わねえ。」


カーズ:「そうだな。お前みたいなカスには到底集められる額じゃねえわな。延長に延長、結局テメェから言い出した期限も守れなかったんだ」


0:カーズはジャッカルを睨み付けた


カーズ:「払えねえならお前の親族、知り合いを地獄の果まで追いかける。吐けよ。」


ジャッカル:「…はは。」


0:ジャッカルは再び深く頭を下げる


ジャッカル:「申し訳ねえ。それも、居ません。」


マオ:「…!」


ジャッカル:「父親はガキん頃蒸発、顔も覚えてない。母親は俺が殺しました。俺が腐っちまってダチも居ません。」


カーズ:「そうか。じゃあ、兄弟は」


ジャッカル:「____いません。」


アルル:(M)言葉が、出なかった。


カーズ:「…。」


ジャッカル:「…。本当に。申し訳ねえ。」


アルル:(M)たかが金だぞ。紙切れだぞ。それが払えなかったくらいで、何がそんなにいけないんだ。命なんか天秤にも乗らないはずだ。納得できない。


カーズ:「そんな生ぬるい話があるか?ジャッカル」


ジャッカル:「いいや。あるはずがありません。」


アルル:(M)それなのに。それなのに…!


カーズ:「じゃあ。どうする。」


ジャッカル:「…。」


アルル:「____…」


ジャッカル:「俺の首ひとつで。手切りして頂きたい。」


アルル:(M)今目の前の二人の話が。「筋が通っている」と納得している自分に、一番納得できない…っ。


マオ:「兄さん!!!」


ジャッカル:「…」


マオ:「なに口走ってんだよ!!」


カーズ:「おいジャッカル。あのチビ、お前を兄貴と。そう読んだか?」


ジャッカル:「…いいえ。」


カーズ:「いいや。今言ったぞ。確かに」


マオ:「兄妹が居ないだなんて、嘘でもそんなこと言わないでよ…」


カーズ:「ジャッカル。体裁保てねえ賭場ならお前の負けだぞ。」


ジャッカル:「…っ。」


マオ:「また一人で、辛い方に行かないでよ…っ。兄さん…!」


カーズ:「ジャッカル!あのガキを黙らせろ!!」


ジャッカル:「〜〜く、そッ…!」


0:ジャッカルはマオの前に立った


マオ:「…兄さん…」


ジャッカル:「……」


マオ:「兄さん…っ。」


ジャッカル:「〜〜っ…」


0:ジャッカルは手を振り上げた


マオ:「ぁ…」


アルル:「…!ちょっと、何をする気ですか…!」


ジャッカル:「黙ってろ!!頼むよ、俺の命を賭けた最期の不幸なんだ…!止めないでくれ、止まりたくなっちまう…!」


マオ:「兄、さん…」


ジャッカル:「ぁぁああああ!!」


0:殴ろうとした手をバタップが止める


バタップ:「ちょっとタンマ。」


アルル:「…!」


ジャッカル:「…アンタは…」


カーズ:「はあ…次から次へと。なんだお前は」


バタップ:「…。中央政府特務監察課のしがない執行官ですー。落し物のお届けですわ」


アルル:「バタップさん…?」


バタップ:「マオっていう子宛に財布のお届け物だ。」


マオ:「は…?」


バタップ:「それと8時間前。違法薬物の取引現場をウチの監察官が発見した。惜しくも「逃げられた」そうだが、それはお前だな?」


マオ:「ちょっと、何を…!」


バタップ:「中央統治法違反の容疑もある。お前は監察課まで連行する。」


0:バタップはマオを担いだ


マオ:「やめろ…!離せ…!」


バタップ:「おぉ、なにやら混み合ってるところ邪魔したな」


アルル:「バタップさん…!」


バタップ:「…アルル・クロフォードよぉ。これが、この街で生きるってことなんだわ。覚えとけよ」


アルル:「…!」


バタップ:「ひとつ貸しだからな」


マオ:「離せ、離せよ…!おい!!」


バタップ:「はいはい、連行するぞ〜クソガキ」


ジャッカル:「…っ。」


バタップ:「上手くやれよぉ〜。お兄ちゃん」


ジャッカル:「…ああ。ありがとよ。本当に、ありがとう」


0:二人はその場を去った


マオ:「離せ…!離してくれ…!」


バタップ:「断る」


マオ:「〜〜っ、お願いだから、離してくれ…っ。」


バタップ:「断る」


マオ:「余計なお世話なんだよ…っ。私に構うなよ…!お願い、だから…っ。たった一人の。兄妹なんだよ…っ。あのままじゃあ、本当にお兄ちゃん、死んじゃうからぁ…っ。」


バタップ:「お前さ。兄貴の今世最高のかっこつけを無碍してまで、一緒の墓に入りたいの?」


マオ:「……っ」


バタップ:「そりゃまぁ〜兄貴不幸な妹だ事。可哀想だねえ、こんな妹をもった兄貴はさぞかし苦労しただろうよ。いずれ腐ってもおかしくねえな?」


マオ:「……そう、だよ…っ。私が弱いから、兄さんは、あんなになるまで頑張って、張り詰めて張り詰めて、壊れちゃったんだ…っ。わかってる。私が悪いんだ、だから、私は兄さんより先に死にたかったんだ…っ。」


バタップ:「…」


マオ:「いいよ。兄さんの意志を無視してもいい、あの世で恨まれてもいい、だから。私は兄さんと一緒に死にたい…っ。」


バタップ:「それじゃあ、せめて兄貴の見てないところで勝手に死ぬ事だな」


マオ:「……」


バタップ:「この街で、男が一度命賭けるって言っちまったんだ。甘い希望持つほどバグテリアを知らねえわけじゃないよなぁ??」


マオ:「……」


バタップ:「じゃあ黙って着いてこい。愚痴なら墓場で言えばいい」


マオ:「……」


バタップ:「ったく。クソガキが」


0:場面転換

0:南エリア近郊


ジャッカル:「………。ああ。」


0:ジャッカルは遠のく二人を見ている


ジャッカル:「ぁぁあ…っ。ぁあぁ、くそぉ…っ。」


アルル:「…」


ジャッカル:「あああぁあ…っ。行っちまった…。やっちまった。最後の最後に、何も、何も言ってやれなかったあ…っ。」


カーズ:「…」


ジャッカル:「これから先、長いこと、長いこと生きてると、いいなあ…」


カーズ:「はあ。体裁もクソもねえな」


0:カーズはジャッカルを蹴った


ジャッカル:「ごぼッ…!」


カーズ:「しっかりしやがれ。男だろうが」


ジャッカル:「……。ぁあ。…ああ。そうだな。」


0:ジャッカルは再び深く腰据える


ジャッカル:「ああ。降りるつもりはねえ。」


カーズ:「よし。お涙頂戴は無しだ。」


アルル:「やめてください」


カーズ:「…おい。中央。いい加減立場弁えろよ。」


アルル:「どんな事情があって、貴方にどんな権利があって、その人の命を奪えるって言うんですか」


カーズ:「…」


アルル:「たかがお金ですよ。なんで、こんな事にならなくちゃ行けないんですか。」


ジャッカル:「ありがとよお、監察官の。でもな、時に金は命より重いんだ。とくに、俺みたいな奴なら尚のこと」


アルル:「そんな筈がありません…!どんな理由があっても、他人に人生を踏みにじられて良いはずがない…!」


ジャッカル:「メンツがあるんだ。カーズさんの。バンカーの。」


アルル:「メンツがなんだって言うんですか…っ。意味が、分かりません…っ。命より重いはずが、無いんです…っ。」


ジャッカル:「…」


アルル:「こんな事、納得していい筈がない…!」


ジャッカル:「…アンタぁ真面目そうな人だ。俺とは大違いだな」


0:アルルは強く拳を握っている


ジャッカル:「…だからこそよ。ルールってのがある。無法の地でも、自由でも、無秩序でも、価値基準は存在する。俺らに命がある限りだ。」


カーズ:「…」


ジャッカル:「その口ぶりから察するに、あんたバグテリアには来たばっかだな。…見ろよ、クソみたいにクソで、クソいい街だろう?先入観もへったくれも無くてよ、目の前で起こった現実が全てでさ。時にはパンの切れ端が、人の命より重くなるんだ。巨万の富が、屁ほどの価値も無くなるん瞬間だってある。こんなに、自分の行いがすぐ返ってくる街はねえよ」


0:ジャッカルは両手を広げた


ジャッカル:「自分のやったツケは、自分で払う!当然の事だ!それにイチャモン付けようって言うなら、殴って、脅して、蹴って、納得させるしかねえよ!」


アルル:「…っ。」


ジャッカル:「けど、アンタは正しい人だ。そんな事をする気にもならねえんだろうな。けどよ、この街でそれをするのは、並大抵じゃない力が必要さ。まずは、心が折れねえ事だな。俺は折れちまったからなあ」


アルル:「…なんですか、皆して。私がガキみたいに…」


ジャッカル:「違うさ。アンタがガキなんじゃない。ただただ、アンタの価値基準が、俺らと違うだけだ。外国で自国の紙幣を使ってるようもんだからな」


アルル:「…」


ジャッカル:「でも、確かにアンタの価値基準で、救われる奴もいる。さっきも言った。」


0:ジャッカルは笑った


ジャッカル:「俺はアンタに救われたぜ」


アルル:「…っ…」


ジャッカル:「すまねえ、カーズさん。長々と時間貰っちまった」


カーズ:「…よく喋りやがる」


ジャッカル:「こんなに喋らせて貰えるだなんて、ホント。優しい人だよ、アンタは。お陰様で言い残したい事の1割くらい吐けたよ」


カーズ:「クソ残ってんじゃねえか」


アルル:(M)この人が優しいはずが無い。搾取して、暴力を振るった。優しいはずがないんだ…っ。


ジャッカル:「でも。感謝せずにはいられねえ」


カーズ:「本当に、いきなり昔みてぇに戻りやがる。」


ジャッカル:「少し、遅すぎましたね。迷惑かけました」


カーズ:「いいよ。今から精算するんだからな」


アルル:(M)止めなきゃ。無理にでも、止めなきゃ。


0:二人は立ち上がった


カーズ:「覚悟出来てんだろうな」


ジャッカル:「勿論だ。」


アルル:(M)今から人が死ぬ。止めなきゃ行けない。そこに理由なんか要らないはずなのに。


カーズ:「潔いいな。ショーケースに戻るぞ。さすがにこんな公衆の面前でお前の無様は晒さねえよ」


ジャッカル:「ありがとうございます。」


ジャッカル:(M)ああ。本当に、クソッタレな人生だった。いい所なんか何もねえ。きっと地獄行きだ。…けどよお


0:ジャッカルは空を見た


ジャッカル:(M)妹の為の死に場所がある。これ以上ねえや。


カーズ:「はやくこい、ジャッカル」


ジャッカル:「はい。」


アルル:「待ってください…!!」


カーズ:「…まだなんかあんのかよ。」


アルル:「…なん。なんですか…」


0:アルルの手は震えている


アルル:「貴方は!!人の命を、なんだと思ってるんですか!!」


カーズ:「命も賭けられねえ奴が、何をどうやって救うよ。」


アルル:「死ななければならない程の何をこの人がしたって言うんだ!」


カーズ:「金が払えなかった」


アルル:「たったそれだけの理由で…!」


カーズ:「たったそれだけの事も出来ねえ奴がこの街で生きるとこうなる。お前も、俺とジャッカルを止めることが出来なかった。」


アルル:「〜〜っ…」


カーズ:「八つ当たりか。クソガキ。」


アルル:「……正しいです。貴方たちは、貴方達の戒律の元生きている。私にでも、それがある種正しいように理解出来てしまった。」


カーズ:「…」


アルル:「ほんの一瞬。この頭が、人が虐殺される事を、その正当化を許した…!それが、悔しい…ッ!」


カーズ:「…はあ。」


アルル:「だから。私は、私の思う正しさを押し付けます。」


0:アルルとカーズは睨み合った


アルル:「…それが。私がこの制服に袖を通す意味だ。」


カーズ:「そうか。」


アルル:「カーズ・ジョーンと言いましたね。」


カーズ:「ああそうだ。」


アルル:「…必ず、貴方を逮捕します…っ。」


カーズ:「はは、命賭けるか?」


アルル:「私の命くらいなら幾らでも」


カーズ:「そりゃいい。そんじゃな。行くぞ、ジャッカル」


ジャッカル:「はい。」


アルル:「…っ。」


ジャッカル:「監察官の」


アルル:「…はい」


ジャッカル:「ありがとよ。妹を、頼むわ」


0:二人はその場を去った


アルル:「…。」


0:アルルはカーズの背中を見ている


アルル:「…」


0:やがて背中は見えなくなる


アルル:「…ぁあぁあ…っ。くそ…っ。く、そぉ…!」


0:地面を殴った


アルル:「くそ!!くそ、くそ!クソ!クソ!…くそぉぉおっ…!!何、やってんだよ、何やってんだよ!!アルル・クロフォード…!!」


0:その場に踞る


アルル:「…。約束します。貴方の妹は。あの子は。私が必ず、生かして見せます。」



0:場面転換

0:特務国際監察課


シーカー:「はあ…」


バタップ:「と、まあ。こういう訳だ。」


バイオレット:「単独行動じゃないか。報告出来るか、こんなもの。」


バタップ:「じゃあ適当にシーカー同行とでも書いとけよ。別に俺はたまたま通りかかったついでにこいつ持って帰ってきただけなんだからよ」


マオ:「…」


シーカー:(M)めんっっっどくせえ。なんでこのクソガキ連れて帰ってきてんだよ。らしくもねえ事しやがる。なんだ?新人から金でも握らされてんのか??


マオ:「…お願いします。兄さんの捜索と救助を、お願いします。」


バイオレット:「はあ…。面倒臭い。バタップ、お前がコイツさえ連れて帰らなければ余計な手間が増えることは無かったんだぞ。はっきり言うぞ。お荷物だ」


シーカー:(M)はっきり言うね。そうだね、貴方ってそういう女


マオ:「お願いします…!」


シーカー:「…」


バタップ:「とりあえず、俺はもう退勤の時間だから寝るぞ〜」


シーカー:(M)丸投げかよ


バイオレット:「待て、丸投げかバタップ」


シーカー:「よく言った」


バイオレット:「はあ、シーカー。仕事だ」


シーカー:「俺に振んの???」


0:二人は小声で話した


バイオレット:「大事したくない。事情聴取やらなんやらで適当に時間稼げ。どうせヘッドが絡んでるならこいつの兄貴も数日以内に死ぬ。」


シーカー:「えっぐいなあお前…」


バイオレット:「知った事か。とんだ災難だ」


シーカー:「そりゃそうだが…」


0:扉が開く


アルル:「…。ただ今戻りました」


マオ:「…!あんた…!」


シーカー:「新人!!お前どこ行ってんだよ!!ちょうど良かった、お前に任せたい仕事…が……」


アルル:「…」


シーカー:「…何かあったか?」


アルル:「…。いえ。」


マオ:「兄さんは!!」


アルル:「…っ」


マオ:「兄さんはどうなったんだ…!なんでアンタ一人なんだ…!」


アルル:「……」


マオ:「……は…?なんで黙ってんだよ…」


アルル:「…」


マオ:「…ねえ…!!」


アルル:「マオさん。」


マオ:「…」


アルル:「ジャッカルさんは。カーズ・ジョーンと共に姿を消しました」


マオ:「…!じゃ、じゃあ…っ」


アルル:「…。生きては、います。」


マオ:「〜〜〜…!」


0:マオはその場に座り込んだ


アルル:(M)ああ


マオ:「…よか、った………っ」


アルル:(M)強い子だなあ、この子は。私が手を伸ばした事を、後悔するのかな


マオ:「本当に…よかったぁ…っ」


アルル:(M)違う。後悔しないように。させないように。精一杯を尽くすしかない。


0:アルルは目線を合わせた


アルル:「改めて。私はアルル・クロフォードと言います。貴方の名前も、しっかり聞かせてください」


マオ:「…マオ。マオ・ダウンポッド」


アルル:「…。マオさん。私の力不足ながら、あの場でジャッカルさんを連れ戻すことは出来ませんでしたが。必ず、生きていれば好機が来ます。なので今は。生きてくれませんか」


マオ:「…言っとくけど。私はアンタの事が嫌いだ。アルル・クロフォード。」


アルル:「はい」


マオ:「私は兄さんと一緒に生きるって、そう約束したんだ。」


アルル:「はい」


マオ:「だからその為に。力は貸して欲しい」


アルル:「…」


マオ:「都合いいって思うでしょ。でも、私を助けたアンタの責任だ。私は言ったんだ、干渉するなって」


アルル:「…はい。」


マオ:「責任、取ってください」


アルル:「……。はい。」


マオ:「…。約束。して。アルル・クロフォード」


アルル:「…。」


0:二人は指を交わした


アルル:「はい。約束です。マオさん。」


シーカー:「…」


バイオレット:「面倒続きだな、あいつが来てから」


シーカー:「…。ああ。その通りだねえ、嫌になる。」


0:シーカーは遠くを見ている


シーカー:「本当に、嫌になる。」


0:場面転換

0:夜

0:モーテル三階


バタップ:「ふんふふーん。」


0:ノックする音


バタップ:「はいはーい。入ってどうぞ」


アルル:「…。失礼します。アルル・クロフォードです。」


バタップ:「おう。お疲れ様。顛末は聞いたよ。残酷な嘘つくもんだな」


アルル:「…嘘ではありません。」


バタップ:「殺されるんだろう。あいつは」


アルル:「……はい。ですがその前に。必ず助けます。」


バタップ:「ははは。甘ちゃんが。」


0:バタップはベッドに寝転がりながら話す


バタップ:「まあ、ねえ〜。これに関しちゃ特に言うこともねえよぉ〜」


アルル:「…バタップさん。」


バタップ:「はい?」


アルル:「ありがとうございます。」


バタップ:「…」


アルル:「あの場でマオさんを連れ出してくれなかったら。きっと今よりも状況は悪かった」


バタップ:「おお。お前もそのまま連れてこりゃ良かったな」


アルル:「…分かってます。出さなくてもいい荒事に手を突っ込んだ。その自覚があります。」


バタップ:「ああ。そういう顔だ。だから別に言うこともねえんだ」


アルル:「でも。殴らせてください」


バタップ:「…。ん?」


アルル:「殴らせてください」


バタップ:「…。」


0:アルルの手は震えている


バタップ:「いいよ」


0:バタップは起き上がる


アルル:「ありがとう、ございますッ!!」


0:殴った


バタップ:「…」


アルル:「…ビクともしないんですね」


バタップ:「ああ。弱いからな、お前」


アルル:「弱いですね、私」


バタップ:「満足したか?」


アルル:「…。」


バタップ:「はは、しょーも無い顔」


アルル:「…それでも。私は、諦められません。弱くても、ダメダメでも、私は、私にやれる事を精一杯やるんです…っ。」


バタップ:「おう。好きにしろ」


アルル:「なので。頼ってもいいですか」


バタップ:「嫌だ」


0:アルルは困ったように笑う


アルル:「バタップさんって感じですね」


バタップ:「そうかい。用が済んだなら出ていけ、勤務時間は終わってんだ」


アルル:「はい。失礼します」


0:アルルは部屋を去った


バタップ:「…あ。やべ、忘れてた。」


0:場面転換

0:モーテル 廊下


アルル:(M)私に。何が出来たんだろう。いや、何も出来たかった。ただただそれに尽きる。


アルル:(M)でも、あの人が言うように。折れちゃダメだ。諦めるな。諦めるな。


アルル:(M)私は弱い。お金も無い。力も無い。知恵も無い。まずは実績を立てないと、バグテリアの治安を良くする為の予算すら本庁からは降りない。そりゃそうだ、私は今やらなくてもいい仕事をしてるんだから。


アルル:(M)実績だ。カーズ・ジョーンを逮捕する為に必要なのは、実績だ。足がかりが必要だ。折れるな、折れるな、頑張れアルル・クロフォード。


0:アルルは自分の顔を叩いた


アルル:(M)諦めの悪さが、私の取り柄だろ…!


0:場面転換

0:マオの自室


マオ:「…。」


0:マオはベッドに寝転んでいる


マオ:(M)一人で寝るのは、いつぶりだろう。綺麗なモーテルだ。隙間風も入ってこないし、喧嘩する声とか、事故の音とか、騒音が無い。虫は居ないし、快適だ。


0:天井を見つめている


マオ:(M)快適なのに。横に兄さんが居ない。それだけで、違和感だらけだ。


バタップ:「よお。」


マオ:「うわあ!?」


バタップ:「お届けもんだ」


マオ:「な、なんですか…!どこから入ってきた!?」


バタップ:「細かい事気にすんなよ。ほい、これ」


0:バタップはボロボロの財布を渡した


マオ:「…これ…兄さんの財布…」


バタップ:「お前を引っ下げるちょいと前にな、お前の兄貴から預かってたんだわ。」


マオ:「…。すっからからん。です。」


バタップ:「ああ。泣け無しの12ドルは俺が頂いたからな」


マオ:「最低ですね。」


バタップ:「相応の対価だ。まあそのボロきれみてぇな財布は要らねえからお前にやるよ。形見だと思いな」


マオ:「…っ。兄さんは死んでません…っ。やめてください、そんな言い方…!」


バタップ:「あ〜ん。そうか。そうだったそうだった。じゃあまあ、思い出の品として」


マオ:「…はい。」


バタップ:「そんじゃあ、邪魔したな〜」


0:窓から飛び降りた


マオ:「…」


0:マオは財布を触っている


マオ:(M)…兄さんの財布。お母さんが使ってた財布のお下がり。買い換える余裕もなかったし、乱暴に扱ってたからボロボロで、血とか、酒とか、色んな染みがある。


0:財布の中身を見た


マオ:「……あれ。まだなんか残ってる」


0:ちり紙を手に取る


マオ:(M)なんだこれ。グチャグチャのボロボロだ。紙の切れ端?


0:凝視


マオ:(M)あ、誰かの写真だ。…うん…?…お母さん…?と、兄さん…と。…私……。



マオ:(M)あ。これ家族写真だ。


0:沈黙


マオ:「……」


0:沈黙


マオ:「……」


0:沈黙


マオ:「……ぁぁ……」


0:少しずつ涙が出る


マオ:「…ああ…っ」



マオ:「〜〜っ…ぁぁああっ。うっ、ぁあっ。」


0:マオはその切れ端を両手で握った


マオ:「…ごめんね…っ。兄さん…っ。何にも力になれなくて、ごめん…っ。しんどかったよね、ずっと、ずっとずっと、ごめん、ごめんっ。ぁあぁ…っ」


0:モーテル1階


バイオレット:「…。うるさくて叶わんな」


シーカー:「…まあ。そういうもんだろう。ガキだしな」


バイオレット:「優しい振りか、ロリコン」


シーカー:「ちげえし。」


0:シーカーは深くソファに項垂れている


シーカー:「……はあ〜。酒が飲みてえ。」


0:場面転換

0:アルルの自室


カーズ:(M)1991年。12月2日。


アルル:「…」


カーズ:(M)ロシア最西端。


アルル:「…ぁあ…なんだか。凄く疲れた。」


カーズ:(M)なんでもそこは、憲法の一切が通用せず、大陸地図からも消された、世界から見捨てられた街。


アルル:「ここが、バグテリア法外特区。」


カーズ:(M)異常体と呼ばれる超常の存在が跋扈するそこは、法の下では生きられない彼らの為のディストピア


アルル:「私の、新しい職場か。」


カーズ:(M)世界中で最も。あの世に近い街である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ