葉っぱの思い
大きな木に、あざやかな色の葉っぱがたくさんついていました。
しかし、葉っぱたちは、寒くなる前に散りゆく運命でした。
寒さが和らいで、また暖かくなったら、この木には新しい葉っぱが生えてきます。
その前に自分たちが散ることで、新しい葉っぱのために場所をゆずらなくてはならないのです。
「ねえ、ぼくたちは散った後にどうなるのかな?」
一枚の葉っぱが、近くにいる他の葉っぱにたずねました。
「さあ、そんなことは考えたことも無いね」
そっけなく言われて、葉っぱはだまってしまいました。
「ねえ、ぼくたちは散った後にどうなるのかな?」
また別の葉っぱにも聞いてみました。
「それはだれにも分からないよ。散ってみないとわからない」
結局、さっきと同じような答えが返ってくるだけでした。
「お前さん、散った後にどうなるのかが気になるのかね?」
だまりこんでいた葉っぱに、少しはなれた所にある葉っぱが話しかけてきました。
「うん。ぼくは散った後にどうなるのかを知っておきたいんだ」
「そんな事を知ってどうするのかい?」
そうたずねられて、葉っぱはためらいながら答えました。
「ぼくは……散るのが怖いんだ。散った後、土に還って、そのまま自分が消えてなくなってしまうのかなと思うと、とても怖い」
そう言って、葉っぱは小さくふるえます。
「もし散らずに済むのならそれがいいんだけれど、そんな事はできない。だったらせめて、散った後にどうなるのかを知っていれば、散ることも怖くなくなると思うんだ」
葉っぱがそう答えたのを聞いて、はなれた所の葉っぱはだまってしまいました。
まるで何かを思い出そうとしているかのようです。
ひとしきり考えこんでから、不安そうな様子の葉っぱにこう答えました。
「聞いたことがある。ずっと昔もこの木に生えていて、またもどってきたという葉っぱの事を」
「もどってきた? それはどういうことなの?」
葉っぱが再びたずねます。
「そいつは昔も、この木に生えていたらしい。ところが寒くなる前に散ってしまい、土に還った」
「やっぱりぼくたちは散ったら土に還るんだね。じゃあ、土に還ったらどうなるの?」
「この大きな木には、大きな根っこがあるだろう?」
葉っぱはとまどいました。
なんで自分たちがどうなるのかの話をしているのに、木の事や根っこの事を話すのかが分からなかったからです。
「この木の根っこはな、土からいろんなものを吸い上げるんだ。木が生き続けるために必要な水や栄養はもちろん、土に還った葉っぱも吸い上げられる」
「吸い上げられて、その後はどうなるの?」
「暖かくなると、また新しい葉っぱとしてもどってくるんだよ」
その答えに、葉っぱは大変おどろきました。
「そうなの!? ……でもぼくはそんな事を全然覚えていないよ?」
「そりゃそうだろう。自分だって覚えていない。覚えていないのが普通なのさ」
二枚の葉っぱの話を、ほかの葉っぱたちも静かに聞いています。
「自分は運がいいことに、散る前の事を忘れていないめずらしい葉っぱの話を聞くことができた。だから知っていると言うだけだ」
そこで一呼吸おいて、周りの葉っぱにも語りかけるように言いました。
「ただ間違いないのは、知っている知っていないにかかわらず、自分たちは散ってもまたこの木の葉っぱとしてもどってくるだろうということだ。だから怖がることは何もない」
散ることを怖がる必要は何もない。
その言葉は、葉っぱにとって大変心強いものでした。
「散ってもまた、ぼくたちはこの木にもどってくるんだね。じゃあ、この木はぼくたちにとって、神様みたいなものなんだね」
「神様がどんなものかは分からないが、そうなのかもしれんな」
葉っぱは、大きな木をじっと見上げました。
「この木がここにあり続ける限り、ぼくはまたここにもどってこれる。そう思うと、散るのも怖くないね」
大きな木は、風を受けてざわざわと音を立てていました。
そこにいた葉っぱたちも、静かに風を感じていました。
それからしばらくして、大きな洪水がありました。
洪水はとても激しいもので、その大きな木もたちまち流されてしまいました。
木と葉っぱには、洪水によって運ばれてきたおびただしい量の泥がおおいかぶさり、土の中深くに押しこめられてしまいました。
あの葉っぱも、その周りにいた葉っぱたちも、土の中に閉じこめられてしまったのです。
それから長い時間が経ちました。
数える事がばかばかしくなるほど、長い長い時間が経ちました。
ふと気が付くと、葉っぱは明るい場所にいました。
周りには、二本足で歩く変わった生き物がいて、自分の事をじっと見ています。
「ぼくは、いったいどうなっているんだろう……?」
葉っぱはそこで、自分が固い石に変わっていることに気づきました。
とても長い年月を土の中で過ごしたことによって、葉っぱは化石になってしまっていたのです。
それでも葉っぱは、何とかして周りの様子を感じ取ろうとしました。
自分の周りに、あの時の葉っぱたちは見当たりませんでした。
しかし、何かなつかしいものが近くにあるような気がしたので、そちらに意識を向けました。
そこで葉っぱは気付いたのです。
近くにあったのは自分が生えていたあの大きな木の一部で、自分と同じように石になってしまっているという事に。
「この木の化石と葉っぱの化石は、どちらも大変めずらしい物だ。厳重に保管しておかなくては」
二本足の生き物たちが、おたがいにそんなことを話し合っていました。
自分はもう石になってしまっています。
あの木も石になってしまいました。
石になった自分は、散ることも、土に還ることもありません。
だから、怖がることなど何もないはずです。
ですが、自分はこれからずっと石のままです。
今までよりもずっと長い時間、石のままで過ごさなくてはいけないかもしれません。
もう一度、あの大きな木の葉っぱとして生まれ変わる事はできません。
そう考えると、葉っぱは心細い気持ちでいっぱいになりました。




