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八十七歩目 「やっぱり妬ましいんだ?(I)」

『 ”美しい” 、という言葉は、あたしと、あなたと、お人形さんのためにあるのよ。』




母が言っているその言葉に、当時のエピンは全く疑問は持たなくなった。





父に似た頭の良さと圧倒的カリスマ性、母に似た女神のような顔。

王族の模様と一族の模様を、両方受け継ぎ………しかもその模様は、一番強い血の力を宿すと言われる、顔に出ていた。

透き通ったその透明感のある声は、聞くだけで幸せを感じるほどである。



隣には、水色の髪を持つ、王子と同じ歳くらいの少年もいたらしい。

その少年もそれはまた美しく、皆を魅了したそうだ。

……………その王子とその少年は、どこか似ていたと言われている。


饒舌で無邪気な、少女のようなその王子は、皆の心を引きつけた。

その姿は、まるで精巧に作られた人形かと思えるほどに美しかったという。
















「目の前で土下座とかしたら、その人………許してくれるのでは?」


【絶対無理】


「ですよねー!!」


「ちょっと、ふざけている場合ではありませんわよ!」




エピンたちは、どうやって復讐を避けるか考えている。

先程、二人から相談を受けたトルテも一緒だ。




「というか、直接の本人ではない人に復讐で足を切られるって……エピンさんは一体何をしましたの?」


「あ、それオレも聞いたんスけど、言えないって言われました。」


【とにかく、酷いことをしたとしか言えないんだ】




書いた字を見せながらも、エピンは極力二人と目を合わせないようにしている。

心はある程度開いたが、長年人間と目を合わせなかったせいで、目を逸らしてしまうのだ。

動物達とは目を合わせ、話すことができるが…………


トルテは、そんな彼を見ると、屈んでしっかりと目を合わせにいく。

……………しかし、エピンは困惑し、再び目を逸らした。




「トル……テ?な、何………あ、あのっ…そっ………の?」


「甘ったれてる場合ではありませんわ!!」


「ひっ?!」


「なんでそんなことになっているのか、相手はどんな人間なのか、自分がどう思っているのか、ここまで来たら全部言ってください!!」


【手厳しい……】


「言ってください!!」


【口頭では不可能だからダメ】


「屁理屈を………じゃあ、言わなくて良いので、書いてください。」


【手首が痛くなってきたような気がする】


「…………今、文字書けてますわよね?」




もう引き下がれない。

エピンはそう悟り、乱雑に文字を書いた。




【腕と脚を切り落として目をくり抜いた

 相手は狂ってて、何をしてくるかわからない

 僕自身がどう思っているのか、それは僕にもよくわかっていないんだ

 その当人には申し訳ないと思っているが、復讐してきた人間に関してはどういう関係か知らないから】


「えっ……」


「そ、それってどういうことですの?」


【だって僕、昔は殺し屋だったし】


「はぁぁぁ?!え、え?!…………き、聞いてないッス!!流石に嘘ですよね?」


「人を………エピンさん、冗談はやめてほしくてよ。」


【本当だ】


「でも、とてもエピンさんがそんなことをするなんて思えませんわ!」


「もう隠し事はなしッスよ。」




二人のその反応を見たエピンは、少しだけ口角をあげた。

それを見ると、トルテとエピンは本能的に、得体のしれない恐怖を感じる。


彼は、黙ってにこやかに笑っているだけだというのに。

二人は、生き物として、彼から何かの恐怖を感じ取ってしまうのだ。

エピンのその笑顔からは恐怖だけでなく、美しさ、儚さ、優しさ…………どこか、妖艶さすら感じる。




【正々堂々、近距離で戦っていたわけではないんだ

 そんな素晴らしい人間じゃない】




何故、彼が笑ったのかはわからなかったが、二人は少し、彼が背負ってきた罪の重さをなんとなく想像することができた。




「信じますけど、なんでそんなことを?理由もなくエピンさんが、そんなことをなさるなんて、やはりわたくしには…………」


【母上から逃げ出したくて】


「お母様……ですか。」


【そうだ、殺し屋になれば、嫌いになってくれると思ったから】




その一言に、メイとトルテは驚いている。

母親に嫌いになって欲しかったという彼の言葉が、二人には理解できない。









エピンは、普通に母が好きだった。

……………だがしばらくして、母が自分のことを玩具として愛していることに気づく。


自分の中で葛藤が生まれ、苦しくなるくらいなら、愛されたくない。

どんなにひどいことをされても、そこに愛があるなら信じてしまう、許せてしまう、もっと愛されたいと願ってしまう。

彼女は、悪いことをしようと思って奇行に走っているのではなく、それが良かれと思って行動していた。

決して、息子を愛していなかったのわけではなく、物として、そして最後の希望として愛してしまっていたのである。




『まぁ、なんて美しいのかしら。』




彼女は、常にエピンのことを美しいと言った。

はたから見ても、この母と息子は女神の生き写しかと錯覚するほどに美しい。

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