零歩目 「夢でも覚めないで(III)」
「……………もう少しワインを作る、この程度では酔えない。」
「えぇ?!最近どこか体調が悪そうでしたけど、大丈夫なんですか?!」
「確か………私の母が、酒は最高の薬だと言っていた。だからきっと酒を飲めば治る。」
「ちょ、ちょっと………酒乱みたいなこと言わないでください!」
「葡萄を大量に栽培しなければ。」
「というか、エティノアンヌ様ってたくさんお酒を飲んでも全然酔わないじゃないですか!!酔っても顔に出ない酔い方をするし、体に悪いから飲んじゃダメです!!」
「…………嫌だ。」
「えっ。」
「今日はそう言う気分だから、嫌だ。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!」
エティノアンヌは、再びワインを作り始めた。
彼は、葡萄を自然発酵させなくても、一瞬で腐らせ、皮も省き、おおよそアルコールと二酸化炭素に分けることができる。
植物を操れる能力の応用のようなものだ。
エティノアンヌは再びワインを作り終えると、それを鍋に移し替え、そこからグラスに注ぐ。
彼は片方の指先を、植物に変化させた。
…………その根のような部分にゆっくりワインをかけている。
「いけません!植物の部分にアルコールはあまり………」
「良い………こちらも悪くないね。」
彼は久々の酒に上機嫌なようだ。
いくつか複製した腕で、大量のグラスを持っている。
根でワインを取り込みながら、口からもワインを一気に飲んでいる彼をみて、アリアもなんとなく酒を一気に飲んだ。
しかし、彼女は忘れていた……………エティノアンヌが、とんでもなく酒に強いことを。
「う、うにゃ………?」
ドサッ
倒れそうになったアリアを、エティノアンヌが間一髪受け止める。
「大丈夫?!」
「また、ですねぇ………また………」
アリアは、泥酔しているようだ。
エティノアンヌは酒に強いため気付かなかったが、この酒は相当強い。
それなのにさっぱりして飲みやすいため、いくらでも飲めそうな気がしてくるタイプの酒である。
「アリア、すまない………大丈夫か?」
「エティノアンヌ様ぁ………いつもそーやってぇ………やさし、くする………くせにぃ…………」
「…………………どうかした、かな?」
「なのにぃ、全っ然!!乙女心にはぁ!!どんかん?ですよねぇ!!そうですよねぇ!!」
「確かに、私は乙女心の定義を知らないけど。」
「そういう、とこ、ですよっ!!ほんとにぃ………」
「どういう所だろう、少し気になる…………まぁ!お酒が少し強すぎた、かな?仕方ない、もう洋服のまま寝かせよう……………アリア、おいで。」
「リアはぁ……エティノアンヌ様を……お慕……い………」
グラ……
アリアはよろめき、エティノアンヌに抱きついた。
「っ………?!」
「…………………」
「は、離してくれ!……こういうことは、家族や本当に好きな人間すべきだと………思う。」
「…………………」
「あれ………ね、寝てる?」
彼女は、そのまま眠りについたようだ。
着替えさせるわけにもいかないので、エティノアンヌは、そのままアリアを抱えようとする。
…………………彼は、ふとあることに気づいた。
無意識に、植物の部分で彼女を抱きしめていたことに。
しかも、血が通っていない……植物の部分で。
植物の部分も、酔っ払っているのか?
そんな馬鹿みたいな話………
あの日から毎晩、私は悪夢を見ている。
大事なものが、全て、消える悪夢を。
近頃は特に酷い悪夢を見る。
その夢を見ると、アリアもいなくなってしまうような気がして怖かった。
だって、だって…………………
あの日、あの日、あの日、あの日。
全部私のせいだ、ノアのせいだ、君がなんと言っても私のせいだ、私のせいなのだから。
アリアの髪が、床一面に広がった時、君に酷いことを言わせた。
『リアは…………いらない子、だから。』
いらない子なんかじゃない。
……………そう、言えれば良かったのに。




