八十二歩目 「後悔は良いものか?(II)」
「あ………えっと………………」
「あぁ、軟体族と人間のハーフなのかい?」
「…………え?」
「軟体族は目が複数あるから、ハーフの人なんかは隠したがる。体に軟体の部分があって怖がられるから、人間と話したがらないとも聞くよ。」
「ちょっと、それは違……」
「別にそんなの、あたしゃ気にせんさ。生まれてくる場所は選べないんだからね。」
「………………!」
「生き方は選べるという人間はいるが、そんなのは幻想だ。そういう言葉は、恵まれていて………余裕がある人間がいうのさ。」
「ですが……あなたは!!」
「子供を売って、あんたらの麻薬に浸ってるじゃないか。でも余裕なんてありゃしない。昔されたことを、自分がしているだけだしね。」
アリアは、はっとした。
最初出会った時には、気づかなかったことに気づいたのである。
この人間はなんで少女を売っているんだろう。
ずっとそう思っていたが、やっとわかった。
この少女達が、少女じゃなくなったら、きっと大人になっても同じ生き方をする。
だが………お客様だけは違ったんだ。
「つかぬことをお聞きしますが、お客様は…………孤児でしたか?」
「そうだよ、あたしもここの少女だったんだ。皆が死んでいく中、生きるために前の教祖に取り行ったのさ。そして後を継いだ。」
「そ、そ………そんな!!!」
「…………旦那さんへのお礼、氷菓にするよ。今度渡すね。それと、見目は気にしないから………………会えるなら一度だけでも会わせてくれないかい?」
「……………聞いておきます。」
なんだかんだ、お客様は寛容な方だ。
もしかしたら…………ノアのことも受け入れてくれるかもしれない。
「ただいま、ノア。」
「アリア!」
アリアに、エティノアンヌが駆け寄ってくる。
目隠しもノイズキャンセラーもつけていない、これがエティノアンヌの本当の姿なのだ。
「ノア…………一人でチェスをしていて楽しいのですか?」
「いいや、正確には、一人でやっているわけではないよ。」
「…………え?」
目の前には、ただクッションが一つ置かれているだけである。
…………もしかして、クッションとチェスをやっていたと言い張る気なのだろうか?
アリアが不思議そうな顔をしているのを見たエティノアンヌは、説明を始める。
「嗚呼、これは実験でね。人間の手足や声帯、目だけではなく、脳も作れるようになってきたんだ。試しに作った脳とチェスをしていたんだよ。だが手足や目のようにすぐ完璧とはいかないな。」
アリアは、驚いた。
彼は、再び魔法を成長させている。
彼の生誕魔法は、他の人間に比べて進化がとても激しい。
ただ覚えた植物を育てるだけだったその魔法は、植物を取り込んで体力の回復が可能になり、植物を操れることもできるようになった。
そして、植物と感覚を共有できるようにもなり、自分の体にある、人間の部分と植物の部分の割合を変えることも可能、取り込んだ植物で人間の体の部位を作れるようにもなり、今となっては致命傷ですら直せる。
今となっては、植物だけではなく、菌類や簡単なウイルスの生成も可能なのだ。
もはや、この能力には欠陥がない。
進化すればするほど、不便がなくなっていく。
不便があるとすれば、植物を体の一部にし、咄嗟に感覚を共有したままそのままガードして痛みを感じてしまうことくらいだ。
それでも、戦闘面以外は完璧と言っていいだろう。
成人しても、未だに魔法が進化し続けることに、本人も驚いていた。
……………彼の使える魔法が、王族魔法と生誕魔法、デュフォースしかないからか?
しかし、魔法の種類が少なくても、この破格の生誕魔法が何にだって使えるので、不便はさほどない。
気候の影響は受けるが、相当育ちにくい植物でなければ、時間がかかっても五分ほどで育てられる。
そして同じ植物を育てれば育てるほど、その植物を育てる速度が上がっていき、一瞬で育てられるようになるのだ。
植物の知識がなければ役に立たない魔法だが、彼の記憶力と組み合わさった結果、破格の生誕魔法になってしまったのである。
「脳の仕組みについて本で調べてはいるのだけれど、完璧に理解できていなくて………」
「そういえば、お客様の売っている子供が病気で亡くなられたそうです。…………解剖なさっては?」
「…………脳はともかく、臓器の開発は移植に役立つかもしれない。解剖しようか。」
「手配いたします。」
「ありがとう。」
「そうだ……………アリア、辛くはないか?うまく動けているか?」
「大丈夫ですよ、もう体は万全です!」
「……………よかった。」
エティノアンヌは、少し険しい顔をした。
そして、アリアに言いたかったことを伝える。
「えっと…………この前の話、してもいい……かな?」
「……………」
「謝りたいんだ。エピンと時雨のことを…………」
「ノア!それは………」
「感情を出すことは無意味であり、感情を出すことは大変嘆かわしく、感情を出すことは恐怖に等しき……………分かっている。」
エティノアンヌが目と耳を遮っているのは、彼女以外の人間に感情を抱かないようにするためだ。
こうすることで、彼女以外の人間を愛さないようにしている。
姿を隠すという意味も多少あるが、王が消えた今…………二人は誰からも逃げる必要がない。
強いて言うならエピンの母親から逃げるべきかもしれないが、エピンの母親は、力の弱い王族魔法しか使えないエティノアンヌに興味がないのだ。
「私の魔法………〔愛の導〕をもっと、かけておくべきでした。」
「できるだけ控えてくれ……………使い過ぎると、君の体に負担がかかるんだろう?」
「ですが、私は……」
「…………お菓子でも食べよう、アリアの好きな柘榴を育てておいたから、収穫してくる。」
「……………はい。」
二人は、互いに申し訳ない気持ちを隠しながら、逃げるように茶会を始めた。
次回は外伝です!
エティノアンヌとアリアの関係を深掘りした外伝なので、色々なキャラの背景が知れるかもしれません……
お楽しみに(・▽・)




