七十六歩目 「やめられない」
嫌な予感を感じるあまり手が震える。
…………………演唱しないと、魔法は使えなさそうだ。
アリアのあの力もないし、さっさと終わらせるべきだというのに。
エティノアンヌに心の迷いが生じていた、その瞬間…………彼の体に電撃が走る。
「ぐっ……?!」
かなり強い電撃が走ったからか、彼のノイズキャンセラーは壊れた。
そんな彼の前には、一人の少女が立っている。
エイトが、一番最初に声をかけた少女だ。
「あの人とお姉ちゃん………死んだんでしょ。戻ってこないもん。」
「…………あれ……音が聞こえる。なんで?」
「お姉ちゃんも、あの人も、もう一人の人は生きてたけど………こっちにこない。」
「…………………そうか、アリアは………私が子供に情を持つと思ったのか。」
「怖い、怖いけど……みんなが死ぬほうがもっと怖いの!!!!」
ビリビリビリビリ!!!!
「くっ!!子供の魔法か?あたりが見えない……だが、流石にこれを外すわけには…………」
「絶対に許さない!!許さないんだから!!!」
属性魔法から、威力をこんなに引き出せるものなんていないだろう。
よって使っているのは、おそらく………扱い慣れている生誕魔法。
電気が通らない植物で防ぎ、毒で殺してしまえばいい。
しかし、エティノアンヌは植物を栽培できる状況になかった。
植物自体は栽培できるのだが、毒薬を栽培できないのである。
環境に適した植物ならすぐ栽培できるが………ここは水分がほとんどなくキノコや毒草の栽培には向かない上、教祖の吸っていたタバコの香りが残っていた。
花自体に毒があっても意味がない!有害な成分を含む、胞子や花粉をばら撒いて、毒を吸わざるを得ない状況を作らなければ意味が…………
北の国にしかない、あのキノコを栽培するのが一番いい。
しかし、ここは温度が高すぎる。
環境的にも時間がかかる上、キノコを育てることに関しては能力の進化で習得したので、はっきり言って不得意なのだ。
属性魔法は何も使えないため、湿度を下げることもできない。
植物で防御はできるが、向こうの魔法がわからない以上、体力差を考慮してもこちらが不利だ。
魔法の種類がほとんどないことに気づかれたり、他の子供にも来られたら勝ち目がなくなる。
相手の魔法の仕組みを理解していないと、デュフォースの使用も不可能、相手の魔法を当てずっぽうで当てられるような運はあいにく持っていない。
電撃を浴びながら植物を育てるなんて、かの伝説の勇者にも無理な話だ。
アリアの ”あの魔法” があれば、そんなことは関係なくなるのだが………
シュバッ!シュバッ!!
今度は、それぞれ別の方向から衝撃波が二回飛んできた。
威力はそこそこだが、あまりにも早すぎる。
「がんばったものが、なくなっちゃうなんてやだ!」
「………………………このまねっこする魔法、役にたった?」
植物を育てられないのに、視界を覆ったまま動けるわけがない。
エティノアンヌは、あることに気付く。
アリアは、私が子供に情を持ってしまうと思ったんだ。
情を持たなければ、単に顔を見られなければいいという話だろう?
なら、なら布だけを外せば………
バサッ
エティノアンヌは布をとると、仮面を少し抑える。
布の内側にまとめていた長い髪が綺麗に靡いた。
しかし、それを見ていた大勢の少女のうちの一人が、叫んでしまう。
「その仮面!!!さっきの人と色が違うけど、模様が…………」
記憶力の良かったその少女は、咄嗟にエピンが走って行った方を見た。
少女の声に、思わずエティノアンヌも反応してしまう。
その蔦まみれになった場所を見て、エティノアンヌは驚愕した。
エティノアンヌは……………一瞬懐かしい香りがしたことを、再び思い出す。
「あの蔦…………威厳の茨か?!そんなはずがない!!そんなはずが………」
明らかに、自分で思い描いた栽培した植物ではない。
だが、この蔦からは、生気がまるで感じられないのである
エティノアンヌは、震え出す。
まさか………まさか…………………
「……………私が、殺したのか?」




