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八歩目 「懐かしい?(IV)」

入っていたのは、箱とは対照的に禍々しい靴だった。




「な、なんて酷い靴なの!!!」


【貴方の思いを靴に込めたらこうなった】


「それは、わたくしが父を思っていないと言っているのではなくて?!」


【そうかもしれない】


「ふざけないでください!!わたくしは誰よりも早く走れる靴を作ってもらわないと……作ってもらわないといけないんですわ!!!」




ザッハトルテのその目は、先程より恐怖の色が目立っている。




【それは本当に君の意思か?

 僕には義務のように聞こえてしまう】


「な、なんてことを言いますの?!」


【質問に答えてくれ】


「わ、わたくしの意思です!」




ザッハトルテは魔法で靴をリメイクし始めた。

土台はそのままに、次々と装飾を足していく。

なんと禍々しい靴が、あっという間に美しい革靴に。




「凄い魔法ッスね………」


「こ、これを履けばお父様は…………!まだ装飾が足りませんわ!!もっと…もっと………」




彼女が夢中になって靴をリメイクしている間に、メイはエピンに質問をした。

気になっていることがあったのである。




「というか………俺、全然状況分かってないんスけど。エピンさん、これどういう状況?」


「えっ?!…………あ、その……………え…………」


「あ、今…………目合いましたよね?!」


【急に話しかけるな

 振り向いてしまったじゃないか】


「やっぱ靴屋さんイケメンだこれ………」


【やめてくれ、容姿には触れてほしくない】


「す、すみません………でも、前の殺人鬼のお面的なやつより、今の仮面の方が格好いいッス。」


【それはありがとう

 それより、状況が知りたいのでは?】


「そ、そうッスよ!もうわけわかんなくて………」


【彼女の父への思いは、歪んでいるのだろう】


「…………はい?なんでそんなこと分かるんスか?」


【僕は相手の思いを靴に込めることで願いを叶えている

 だから本当に思っていないことを言うと、効果が全然変わってしまうんだ】


「そういや、ナンシーさんに作った靴は凄く良い靴でしたね!」


【それは思いが籠っているから】


「ってことは…………あの禍々しい靴って…………」


【そういうことだ

 最初から少し勘づいてはいたのだが

 令嬢の思いを何度も込めたのに、上手くいかない

 ここまでくると不自然だ】


「単に調子が悪いんじゃないスか?」


【エリーゼが手伝えないとはいえ、仕事には慣れている

 流石にここまでの失敗はしない】




ザッハトルテはリメイクを終え、靴を箱にいれると立ち上がった。




「お金は効果を確かめてからにします。詐欺かもしれませんもの。万が一のことがあったら…………」


【なら契約書を書いてくれ

 こちらにも靴を持ち逃げされるリスクがあるからな】


「……………分かりましたわ。」




エピンは契約書にサインをさせる。

そして、彼女を見送った。




「黙ってましたけど、貴族もあんなに古いドレス……着るんスね。」


【王政崩壊の影響だろうな

 お金が足りなくなってドレスを売ったと考えられる】


「あ、財政難なのか。」


【そう、だから不自然で】


「何がッスか?あれはお父さんと不仲なだけでしょ。仲直りしたいけど……みたいな。まぁ不自然に感じるのも無理ないか。とりあえず、うちのメロンパン回収しにいくッスよー」


【待ってた】


「エピンさんって、いつか甘いものの摂りすぎで死ぬんじゃ…………」


【面白い、メイは冗談が上手いな】


「冗談じゃないッスよ!!」






二人はパン屋に移動した。

そして、一緒にメロンパンを食べ始める。




「いらっしゃい、いつもうちの息子と仲良くしてくれてありがとうな!オレの名前はケイ。うちの息子はちと怠け癖があるが、悪いやつじゃねぇんだ。これからもうちのメロンパンを食べてってくれよ!」


「ちょっ、親父!」


【ケイ、丁寧にありがとう】




メイは気まずくなり、メロンパンを口に詰め始めた。

エピンも珈琲と一緒に楽しんでいる。




「なんで俺も食べてるんだろう?エピンさんが全部払ってるのに………というかこれ俺が作ったやつだし。」


【いつものお礼だ、改めて本当にありがとう

 今日も美味しい(*´∇`*)】


「それはどうも…………ってなんで文章の横に絶妙な絵文字?!」


【なんか可愛いだろう?なんか和むだろう?】


「そっぽ向かれて見せられても反応に困るッス。」


【そうだ

 メイ、その辺に咲いてる向日葵ひまわりをくれないか?】


「良いけど、何に使うんスか?」


【エリーゼに向日葵の種をあげたい

 花はヴィオローネにプレゼントする

 金なら払うが】


「これからもメロンパン食べてくれるならタダであげます。」


【でもチップは払っておく

 受け取ってくれ】


「チップいらないんで、もう一回だけ目を合わせてください。!見たくて仕方ないんスよ~」


【そのお願いは無理だ】


「やっぱりダメかぁ。」




二人は仲良くなって、少ししか経っていない。

なのに、このあたたかな感覚に覚えがあった。

二人は互いにそう思っていたが、自分だけなのではないかと思い、何も言わないでいる。

言葉に出来ない感覚は、気づくのがとっても難しい。

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