六十五歩目 「縛られているのか?(II)」
【もう少しで奥につく、それまで待ってくれ
そこに教祖様とやらがいるんだろう?】
「そ、そうだけど!!」
奥の部屋の前に着いた。
そしてそれと同時に、そのドアの前に立っていた人間二人を、とんでもない速度で時雨が気絶させる。
「これでよし、さて………教祖様にお目にかかりましょうか。」
【待て時雨、話し声がしないか?】
「そりゃあ、あんな扉が崩れる大きな音がしたら誰だって焦って………」
【そうじゃない、よく聞け】
「………別の人物の声?確かに、誰かと会話しているように聞こえますね。」
「そ、そんな!あの二人の他に人が?!」
【少し耳を澄ませよう】
三人は、一応周囲を警戒しつつ、ドアに耳を当てて見る。
罠かもしれないが、もう一人仲間がいた場合はエピンがたくさんの人形を使う必要があるかもしれない。
教祖様とやらは、様々な魔法を使うとエイトが言っていた。
商品であるはずの子供にすら容赦がないらしく、一度怒ったら手が付けられないという。
話し声は、ドアの外からでもよく聞こえる。
「なんですか先程の物音は?!」
「し、知らないよ……………とりあえず、見に行かせてくれないかね?」
「交渉の途中です、席は外さないでください!こちらだって商売なんですよ。別にあなたを切っても……………」
「待っておくれ!わたしゃ、あれがないとやっていけんよ!!」
「こちらはあなたにいろいろなものを提供していますし、その上あなたを全力で守っています。さっさと例のものを用意してください。商売相手なんて他にいますし、他を当たっても良いのですが…………」
「そんな……」
「貴方…………何かよからぬことをしているのでは?」
「どうしてそれを?!」
「私の伴侶がそう申しておりました、誰かがこの周囲で涙を流している可能性があると。ですが、ここにはそうそう人は立ち入りません。」
「く、くぅ…………」
「私はあなたが犯罪者であるかなんて、正直どうでもいい。まぁこちらも似たようなものですから……………ですが、お約束の品をご用意できないのであれば、あなたと組む理由がなくなります。」
「違うんだよ!その力を持った少女の出稼………いや、おでかけが長引いて………」
「……………………本当にその少女が使う ”キャンドラー” とやらは、人の感情を操ることができるんでしょうね?」
「本当さ、相手に向かって一度炎を使うと、その子の意思が常にその相手に反映され続ける。これは半永久的なものでね。その子が相手に好かれたいと思えば、相手もその子を好きになって、その子が相手を嫌えば、相手も嫌いになっちまう。恐ろしい生誕魔法だよ、全く。」
「あなたの生誕魔法、『鑑定』の効果を疑ったりはしません。しかし、私はその少女とやらを一度も見ていないのです……疑うくらい許してくださいよ。」
「と、というか………そんな子を何に使うんだい?」
「………………」
ところどころ聞こえない部分はあったが、三人はおおよその内容を理解した。
キャンドラー?紫の炎?
まさか………!!
【キャンドラーはエイトの生誕魔法じゃないか】
「……………私の、生誕魔法?」
「どういう、ことですか………」
【わからないが、エイトが何かの取引材料になっているんじゃないか?】
「わけわけんない…………なんで教祖様が脅されてるの?」
「エワルの情報を知っている人が教祖様ですよね?声が低い方の………」
「うん。」
【教祖様とやらは、人身売買もしているのか?】
エピンがそういうと、エイトが震え出す。
小さな体をカタカタと震わせ、今にも泣きそうだ。
「この魔法……ただ相手に向かって攻撃するだけだよ?役に立ったことなんて一度もない!時雨の前で使った時も、雨でかき消されちゃったでしょ。なのに…………」
震えるエイトを、時雨が抱きしめる。
エピンは、また違和感を覚えた。
……………時雨が本来、こんなことをするだろうか。
根拠は少しもないのだが、あまりらしくはない。
先程、キャンドラーの効果について詳しく説明していたような気がしたが、正直周囲に警戒していたのもあって、三人とも内容まではよく理解できていなかった。
エイトも怖がっているため、エピンは、彼女に魔法の詳細について聞くのはやめておくべきだと感じ、文字を書くのをやめる。




