六十四歩目 「縛られているのか?(I)」
「あ、エピン喋った。私エピンの声ちゃんと聞いたの初めてかも。結構澄んだ声なんだね。」
【思わず喋ってしまったじゃないか
というか、そもそも殴るなんてそんなの無理に決まっているだろう】
「これって喋ったこととしてカウントされるんですね………まぁそれは置いておいて、とりあえず吾輩を殴ってください。」
「ドMかっ!!」
【今はそれどころじゃないぞ】
「……冗談ですよ、冗談。」
「ほんとにー?」
【時雨の場合、冗談に聞こえないんだが】
そんな話をしながら、森を進んでいくと、大きな屋敷が視界に入った。
その屋敷に近づくにつれ、エイトの足取りは重くなっている。
【エイト、大丈夫か?】
「うん、大丈夫。」
「それより、この洋館すごく大きいですけど………人いるんですか?ほとんど音しませんけど………めっちゃ植物に塗れてますよ、まさか廃墟じゃありませんよね?!幽霊は専門外なんですが……」
「ちゃんといるよ!一番奥の、防音になってる部屋に40人は隔離されてるはず……………ユーレーって何だろ。」
【というか、わざわざ正面から突撃しなくても、客と偽って侵入すればよかったんじゃないか?】
「客として入るのはダメだよ、相当常連じゃないと教祖様自ら相手しないもん。それに………最初は私とかみたいに、がんじがらめとか相手の動きを制限する魔法を使えて、かつ確実に相手を満足させられる子供を選ぶはずだろうしね。」
【40人もいたのか
そんなにたくさんの子供を、いったいどこからつれてくるんだ?】
「……………王政が崩壊して、孤児が増えたからでしょうね。」
「………………!!」
「すみません、若様に嘘を着くわけにはいかなかったもので。」
時雨がそう言い切ったあたりで、ようやく屋敷の入り口にたどり着いた。
近くにあるように見えるのに、なかなかたどりつかないタイプの建物である。
エピンは二人の顔を見たが、大丈夫そうだと感じ、安心した。
エイトが錯乱してしまう可能性も低いし、時雨も先程のようなことになるリスクもそこまでではないだろう。
「大人は、教祖様を含めて三人しかいないよ。」
「魔法は使えますかね?」
「属性魔法くらいは使えるんじゃないかな。でも制御はできないと思う…………」
「それなら問題はありません、属性魔法はほとんど “観賞用” ですから。」
「時雨みたいに、水を操る!!!みたいな感じの特殊な能力がない限りそうなるよね………」
「とりあえず、入りましょう。」
エイトによれば、扉は厳重に施錠されているらしい。
彼女は教祖様とやらに気に入られたそうで、何度も出稼ぎに行かされていたそうだが、毎回ここの扉は厳重に閉めていたそうだ。
問題は、時雨がこの扉を壊すのにどれくらい秘術を使う必要があるか。
何発か殴るなり、刀を抜くなりすれば開くだろうが、開けるのに時間がかかった場合、時雨が秘術で体力を消耗してしまう上に、音がしてから時間が経ってしまうと、何かしらの対応をされてしまう可能性が出てくる。
「刀の方が早そうだな…………仕方ない。」
スッスッスッスッスッ
時雨は刀を軽やかに動かした。
「な、何も変わってないけど。」
彼女がそう口にした瞬間…………
ガラガラガッシャン!!
扉の一部が崩れ、穴があいた。
時雨は、猛スピードで中に入っていく。
エピンもそれを見て、全ての人形に自分を持たせ、人形に乗りながら後を追い始めた。
エイトは二人のスピードに追いつけそうになかったが、エイトが困っているのを見たエピンが、エイトの体を勝手にマリオネットで操り始める。
操る条件としては人型であればいいので、二、三人の人間相手なら使えないことはない。
エピンの体力的に十人以上は厳しいが、人形の数がそこまで多くなければ、エイト一人くらい操るのは余裕だ。
ただ、人を操るのに慣れていないと、骨や関節などをあり得ない方向に曲げてしまったりするので注意が必要である。
「ねぇ!!体が勝手に動くんだけど!!」
「若様の秘術です、それより静かにしてください!エイトの場合見られたら認識されるんですよ?!」
「というかさ、時雨……さっき遊び半分で扉斬ったでしょ?!」
「吾輩はいつだって真面目で誠実ですが。」
「穴の形星形にする意味あった?」
「………………」
「それより、これどうにかしてくれない?!体が勝手に動くの怖いよ!!」




