五十七歩目 「名前決めよ?(II)」
【エワルは、遠い南国の言葉で数字の8
エイトも数字の8を意味するメジャーな言葉だ
響きも頭文字も文字数も同じだし、何より覚えやすくて書きやすい
子供たちを救ったとされる神の名前を知っているか?
その神の名前は ”オクトー”
大昔の言語で8と言う意味だ
お前は皆を救おうとしていたと、時雨から聞いている
そんな優しいお前の名前に、ぴったりだと思った
8という数字は縁起が良い
この世界全体では、7がラッキーナンバーとされているが、聡明なお前に時雨のような賭け事はして欲しくなくてな
東の国から発祥した漢字は知っているか?
ちなみに、漢字で8をかくと、〔八〕
これが東の国で縁起のいいとされる、末広がりにあたると言われている
お祝いの場などで使われる、素敵な言葉だ
それに、8を横にすると、無限(∞)になる
お前に限界なんて言葉は似合わない
8という数字が、少ないか多いか決めるのは自分自身
たった一つの数字も、見る方向を変えれば可能性は無限大だから
沢山の可能性を秘めた、いい名前だとは思わないか?】
エワルは、感動する。
字は読めない、何が書いてあるのかは本当にさっぱり分からない。
なのに何故か思いだけは伝わってきた。
エイトという名前に思いが込められていることは、絶対にわかる。
沢山の字が敷き詰められたその手帳から、エワルは目が離せなくなった。
「いいの?…………私、数え切れないほど酷いことしてきたのに。そんなに思いがこもった名前で、良いの?」
【7回酷いことをしたなら、8回良いことをすればいい】
「7回酷いことをしたなら、8回良いことをすればいい……………若様はそう仰っていますよ。」
「7回酷いことをしたなら、8回良いことをすればいい…………か。」
「そういえば、東の国の言葉にも似た言葉がありますね。」
「そ、それなんて言葉?!」
「”七転び八起き”という言葉です。何回失敗しても起き上がる、または人生は上がったり下がったりが多いことも表しますよ。最初をひと起きと仮定し、7回倒れたら8回起き上がるという意味を指します。」
「良い言葉、だね。」
エワルは、エワルをやめた。
「仮面のお兄さんと、お兄さん………ありがとう。」
「…………その呼び方なんですけど、吾輩も似ているデザインの仮面を持っているので、名前で読んでもらえませんか?是非、時雨とエピンで。」
「えっと……あ、うん………」
「どうしたんですか、そんな顔をして。笑っていた方が可愛いですよ。」
「でも……………………私、二人に酷いことを!!!」
エワルは…………エイトになった。
だが、中身が急に変わることはない。
今はまだ、涙をぼろぼろとこぼす哀れな少女である。
【お互いにどうしようもないことをいうのはやめにしよう】
「若様は お互いにどうしようもないことをいうのはやめにしよう と仰っています。それに、失敗は誰にだってあるんですから。……………誰にだって、ね。」
「ありがとう………ほんとに、嬉しい。」
【時雨、さっきのがメイの受け売りってことはエイトには内緒で】
「かしこまりました。」
「……え?時雨何か言った?」
「いいえ、なんでも。」
これから……………沢山の少女を救いに行く。
しかし、お金で解決していては、根本的な解決にはならない。
また同じ境遇の少女たちを捕まえて、同じことをするだけだろう。
王政が崩壊した今、平和なのはここと隣町くらいになった。
それら全てが自分たちのせいだとは思わないが、二人は確実に王政崩壊に関わっている。
エティノアンヌが…………家族の為とはいえ感情のない植物のように人を殺して失踪、エピンが人を殺めた末に家から出て行き、それら全てを黙認していた時雨がもうボロボロの父親………王を痛ぶり、その上皆殺しにして王政を崩壊させた。
そしてその後王位も継がずに、死体を全て整理すると雨を降らせて証拠を隠滅して、主を探しに言ったのである。
改めて考えると、いや………改めて考えなくても、これはとんでもないことだ。




