五十二歩目 「大人って…………何?(I)」
「…………おこって。」
「………………?」
「おこってよ!!きょうそさまみたいにおこっておこって、なぐってなぐってエワルのことをひていしてよ!!!」
「……………!」
「かめんのおにいさんは、ぜったいエワルのこと………きらいになってくれるとおもってた。」
エワルの目には、時雨に見せた涙より大粒の涙が浮かんでいた。
優しくされたくない!!
優しくされたら、期待してしまう。
愛してもらうことは諦めたのに。
諦めたのに……?!
エワルは…………私は親に捨てられた。
お母さんは私よりも、あの男の人が大事だったんだろう。
昔は悲しかった気がするが、もう何も思い出せない。
私は、教祖様の所に売られた。
教祖様は何もわかっていない子供達に、ぼかして言ったが………私は全て内容を理解している。
そして…………ひたすら考えた。
私には、何ができる?
他の人との差別化を図らなければ………
ここでも見限られたら、今度こそ本当に死ぬ。
きっと臓器売買されるんだ。
だが、私に何ができるんだろうか?
顔も声も普通、とびきり可愛いわけではないのに。
私たちの値段は他の同じことをする女性たちと変わらないことを、最初のお仕事で教えてもらった。
それなのに少女を買う理由………
そこにニーズがあるのは何故だ?
…………背徳感、幼女趣味、面倒ごとにならなそう、といったところか。
どうすれば証拠を集められるのか。
どうすればこれ以上殴られないのか。
どうすればみんなが死なずに済むのか。
私は、無邪気に振る舞った。
そっちの方が都合が良かったからだ。
証拠を集めまくって、集めまくった。
そして、その一部をみんなに渡した。
こうすれば証拠を集められなかった人も、教祖様に殴られなくて済む。
買われるのを待つだけじゃ証拠なんて足りないんだ!!
その気のない大人だろうが関係ない。
少女を一晩止めれば大人なんて簡単に手を出してくる。
無害な子供だと思って、簡単に……
例え善人だろうと、私が調合したあの薬には抗えない。
みんなが………病気にかかった姉妹たちが協力してくれたんだ。
諦めるものか!!
私は所々でもらった小銭をずっと貯めている。
いつかみんなに、暖かくて美味しいご飯を食べさせてあげるんだ。
教祖様?くだらないそんなもの!!
いつか姉妹みんなで逃げ出してやるんだから。
親はもう諦めている。
でも、姉妹たちは諦めない!絶対に!!
私が道端にある薬草を発見するまで、何人の姉妹が死んだと思ってるの?!
体がまだらになったり、呼吸がおかしくなったり、中には失明した姉妹までいた。
なんで私たちがこんな思いをしなければいけないのか。
そんなことを考えている暇なんてないのである。
ただひたすらに証拠を集めるしかない。
誰かに、言えば良かったの?
『助けて』って、言えば良かったの?
大人なんて信じたくない!!
私から奪い続けた大人なんて信じたくない!!
そんなに単純なことだったの?
私を抱こうとしなかった善人に、助けを求めれば助けてくれた?
信じられるわけないでしょ!!
大人なんて、大人なんて、大人なんて!!
「あなたがたすけて…………貴方が助けて……くれるなら、さ。」
「…………………」
「今まで私たちがやってきたことは何だったの?!奪われて、失って、頑張って…………私たちが、いや私が!!姉妹たちに教えてしまったことは……!」
「……………………?!」
「ねぇ大人って…………何?迷惑にならないようにしても捨てる、何も知らない子供を悪用する、それが大人でしょ?!なんで酷いことされたのに助けるの?!ねぇ?!」
体だけではなく心も売った彼女は、彼に問う。
エワルの心の叫びが、エピンの奥深くに突き刺さった。
例えエピンは喋ることができたとしても、きっと今………同じように黙ってしまっていただろう。




